ポケットモンスターS   作:O江原K

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第85話 アカネの勉強会

 

ナツメは目覚めた。アカネたちを怒鳴りつけて自分の部屋に戻って数時間、再び

大部屋に向かうとアカネ、それにレッドとエリカは彼女を迎えるように座っていた。

 

「あなたたち・・・まさかずっと待っていたのか?一睡もせずに」

 

「いえいえ、さすがに少し休ませていただきました。先ほどは失礼を・・・」

 

「いや、悪いのはわたしのほうだ。突然怒りだしてすまなかったな。片づけまで

 してもらったようで・・・ところでまだ何か用はあるのか?」

 

今後の予定の報告も感謝の言葉も言い終え、ナツメには届かなかったがこれ以上の

暴走はやめるようにという忠告も伝えた。レッドとエリカは何がしたいというのか。

 

「・・・あなたの決意が固いことはよくわかりました。止めるだけ無駄だと

 はっきりわかりましたから・・・こうなったらあなたたちが勝てるように

 少しでもお手伝いできたらと思ったのです。もっと言うならば、いまアカネから

 聞いたリニア団・・・わたくしたちもその仲間になってもいいということです」

 

「大したことはできないけれど・・・この一週間トレーニングに付き合いたい」

 

ナツメたちに協力してくれるというのだ。とはいえそんな余計な気遣いは無用と

退けるのがナツメという人間なのだろうと三人とも薄々予想はしていた。

 

「・・・そうか、それはありがたい!こちらから頼みたいと思っていたところだ!」

 

だからナツメが思わぬ返答をしたことに三人はしばらくびっくりしたままだった。

 

「・・・・・・これは驚いたわ。あんたはてっきり断ると・・・」

 

「わたし一人だったら帰らせていた。しかしいまはあなたがいる。この二人には

 あなたに今から教師として一週間後の決戦に備えさせる役目をしてもらう!

 ただバトルをするだけではない、勝つための極意を二人に講義してもらえ!」

 

サカキがシルバーにしたように、ナツメもまたアカネに座学の時間が必要だと

感じていた。本番までの一週間、その早い段階でそうすべきだと考えていた。

 

「今さらうちが教わることなんかあるかぁ?まああんたの言う通りにしたるわ」

 

レッドとエリカが果たして自分相手に何を教えようとするのか、アカネにも多少の

興味はあった。まさか誰もいない山でのサバイバルや花の活け方などを教えるために

二人も協力を申し出たわけではないだろう。無口で静かなことで有名なレッドと

レッド以外の他者にほとんど興味を持たないエリカの授業がだんだん楽しみに

なってきた。つまらなければさっさと中断してもらえばいいだけだ。

 

 

「では最初に・・・あなたがポケモンとの強い絆で結ばれていることは昨日すでに

 証明されました。自分のためだけに戦う人間ではないとわかったところで

 改めてお聞きします。あなたはこの戦いに勝利して何を得たいのですか?

 お金ですか?それとも名声、もしくはポケモンたちと大きなことを成し遂げた

 達成感や満足感・・・純粋に勝負から得られる興奮を味わいたいだけ、それでも

 構いません。あなたが欲しいものは何ですか?」

 

「何じゃそりゃ。それが授業に関係あるんか?」

 

「ええ。所詮一週間では劇的な成長は見込めません。あなたのいま持つ力を引き出す

 訓練をするべきです。あなたが何を求めているかでその内容は大きく変わります。

 さらに言うなら、一週間後の戦いに勝つことに全身全霊で挑むのか、そこで

 負けることになっても将来に生かせる経験と考え無理はしないのか・・・」

 

アカネはポケモンたちを怪我させるほどのハードトレーニングを課したことはない。

しかし絶対に敗北が許されない一週間後のバトルに極限の状態で仕上げるには

どうしてもリスクが伴う。ポケモンを物のように扱い壊すことも厭わないという

風潮を忌み嫌うアカネがその信念を曲げてでも勝ちに行くのか、その覚悟が

あるかどうかを尋ねられていた。激しすぎる訓練を繰り返すとポケモンは

薬やポケモンセンターの治療でも治せない故障をする可能性が高まるうえ、

バトル用のポケモンとしてはもちろん、実際の寿命すら短くなってしまう。

 

「バトルへの闘争心とキレのピークを大一番に合わせるためにはどうしても

 ポケモンたちが嫌がることもしなくてはいけない。何かを失う覚悟が

 なくては大きな成功など得られないのだからな・・・」

 

「どうせ敗れたら破滅なのです。迷うことはないのでは?」

 

ナツメとエリカがアカネに答えを迫る。確かにアカネは迷うことなく即答した。

 

 

「ああ、うちの考えは決まっとる。答えはノーや!みんなを痛めつける真似までして

 手に入れた勝利になんか何の価値もあらへん!うちはうちのやり方を崩さんで!」

 

「・・・・・・それで負けることになってもいいのだな?負けたらあなたは・・・」

 

「そん時はそん時でどうにかなるやろ。いくらでも逃げ隠れできる場所はあるで」

 

目先の勝利のためだけに自分を変えることを断固拒否した。あくまで人もポケモンも

笑顔で楽しく、それがアカネのこの世界に広めようとしているものだ。そのために

戦っているのに本末転倒となるようなことはしたくないという当然の考えだった。

それを聞いた三人は揃って笑顔になると立ち上がり、机や筆記用具を片づけ始めた。

 

「・・・なるほどなぁ、こんな甘ちゃんはトレーナー失格、指導する価値もない、

 そう言いたいんやな?別に構わんわ、あんたらなんか頼らんでも・・・」

 

「いいえ、確かに何も教える必要はありません。ですがそれはあなたがここで

 正しい答えを述べたからです。それだけわかれば座学など不要でしょう」

 

「・・・・・・へ?」

 

「僕もエリカも、そしてきっとナツメさんもポケモンを酷く苦しめるほどの厳しい

 トレーニングはしていない。チャンピオン防衛戦のような大事な一戦の前も僕は

 普段通りにしていた。アカネちゃんが間違ったときだけ授業をするつもりだった」

 

ここでレッドが視線をナツメに向ける。しかし引き続きアカネに語りかけていた。

 

「必要なことは・・・僕とエリカが教えるまでもない。きみはすでにナツメさんから

 たくさん大事なものを得ているはずだ。カツラさんも言ったけれど、きみには

 最高の師匠がいるのだから僕たちが言うことはない、そういうわけだよ」

 

今後も大切なことはナツメが教えてくれる、レッドはそう言った。するとナツメは、

 

「・・・教師や師匠だのそういった関係は昨日の時点で可能性が消えている。

 わたしとアカネはチームを組んだ相棒だ。そこに上下はなくわたしたちは対等!

 むしろこちらがアカネに教わりたいことがいろいろとあるくらいだ」

 

この言葉を本心から言っているのを感じ取り、アカネたちは驚いた。アカネに自信を

つけさせるため、また喜ばせるために口にしているのではない。ほんとうにアカネから

学びたいと思っているのだ。謙遜であるというよりは意欲があるのだろう。

 

「新しい考えは積極的に取り入れたい。今までの常識ががらりと変わることもある」

 

「ま、あんたがそこまで言うんならうちとしても隠すことはないで。でも一つだけ

 忘れんでくれや。あんたとうちは仲間やけど、サカキのオッサンとゴールドを

 潰したらうちらが決勝戦で戦う・・・つまりうちらはライバルでもある!

 あんたに勝ってチャンピオンになる、それがうちの最終目標なんやからな」

 

「・・・嬉しい言葉だ。この一週間でどれだけあなたが強くなれるか期待している。

 一週間程度では大した成長はないとエリカは言うがあなたに関しては違う。

 こいつらだけじゃない、それを信じるわたしの想定すらも超えてくるだろう。

 さあ、レッドに鍛えてもらえ。伝説の王者の強さを味わうのもいい体験だ!」

 

アカネの練習相手に指名されたレッドが準備を始めようとする。ところが、

 

「お待ちください!」

 

声と手によってエリカがそれを制止した。アカネとレッドのバトルに反対の様子だ。

 

 

「どないしたんやエリカ、別にデートに行くわけやないで・・・」

 

「練習とはいえ・・・いまレッドとのバトルを経験するのはよくありません!

 ナツメ、あなたは少々アカネの力を過大評価しているように見えます。いきなり

 レッドを相手にするのは厳しいと思うのですが・・・」

 

「・・・・・・ほう、まさか寝ぼけているわけではあるまい、理由を聞かせろ」

 

アカネよりもナツメのほうがエリカの言葉に苛立っている。自分のために感情を

隠さず立ち上がってくれるナツメへの思いが強く、アカネは怒りの気持ちなどなかった。

 

 

「たった一度の勝利や訓練、それがトレーナーを飛躍的に成長させることもあります。

 あの一戦がきっかけでポケモンリーグの頂点に立てた、と語る方も大勢います」

 

レッドもそれに頷いた。彼にとってはエリカとの出会いが覚醒のスイッチだったからだ。

 

「逆も然り、一回の敗北のせいで調子を崩しそれまで軌道に乗っていたはずの

 トレーナー人生が狂いポケモンたちにも負け癖がつくこともあるのです。そう、

 あの日レッドに完敗し王座を追われたグリーンさんのように」

 

「なるほど、その例えは的確だな。それには同意できる。しかしやつごときとアカネを

 いっしょにされては困る。あなたはアカネを守ろうとしているように見せかけて実は

 レッドが負けるのを見たくないだけだ。どうだ、図星だろう」

 

 

代理戦争が過熱して喧嘩になるのではないかと外野の二人のほうが気が気ではなかった。

しかしエリカは怒るどころか突然笑い始め、変な方向へと話は進んでいった。

 

「・・・うふふふ・・・あはははは!全くの見当違い、大外れですよ!ナツメ。

 わたくしの愛するレッドがアカネに負ける?真剣勝負ではない練習であっても

 ありえない話ですよ!あなたはもっと賢いと思っていましたが残念です。

 ポケモントレーナーとして本格化したレッドは史上最強のトレーナーです。

 この国にはもはや敵なし、おそらく海外のチャンピオンたち相手にもその影すら

 踏ませない異次元のバトルを展開してくれた・・・いえ、これから実現します。

 あなたやアカネにレッドほどの圧倒的な戦い方が、強豪相手に完全勝利ができますか?」

 

「史上最強・・・か。近年で最強、そう言ったほうがいいと思うがな。残念だが

 わたしはレッドよりも史上最強という称号にふさわしいトレーナーを知っている。

 そのトレーナーの名を言ってもあなたたちは知らないだろうが数十年前・・・」

 

「結構ですよ、そんな話は!ナツメ、あなたは盲目です!このレッドは・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

昨日を思い出させるようなエリカの熱弁だ。こうなっては誰にも止められない。

レッドが止めるべきなのだろうがエリカの自分への誉め言葉がひたすら続き、

すっかり照れてしまって使い物にならない。結局ナツメが諦めて負けを認め

彼女の言い分がすべて正しいと認めるまでは解放されなかった。

 

 

「・・・てっきりレッドを失った悲しみから狂ったものと思っていたが・・・

 大して変わらないではないか。周りも見ないで盲目なのはどっちだ、まったく」

 

「まあしゃーないやん。三年くらい会ってなかったうえに新婚ホヤホヤときたら

 あんなもんやろ。これまで以上に自分たちの世界に入ってまうのも・・・」

 

口では匙を投げている二人。しかしすでに何かを仕掛けてやろうという意思疎通が

できていた。結成したばかりの一見正反対な性格の二人のタッグは相性抜群だった。

やや離れた位置にいるレッドとエリカにも聞こえるようにナツメは言った。

 

「ところでアカネ!さっきから気になっていたのだが、その上にもう一枚何か

 羽織ったほうがいい。ずいぶんと薄着ではないか」

 

「え~?別に寒くないしエエやんか。人前やないんやしリラックスさせてくれや」

 

アカネは胸元が開いたシャツを着ていた。部屋着であるし構わないだろうと言う。

 

「いやいや、今ここには男もいる。女しかいなかったこれまでとは違うのだぞ?」

 

「男・・・?ああ、レッドか。それなら心配いらんやろ。レッドはエリカに

 夢中なんやからうちの体を見たってぜんぜん何とも思わんやろ。世の中の

 他の男どもはともかくレッドは・・・」

 

レッドとエリカ、特にエリカがこちらを気にしている。もう一押しだ。

 

「そのレッドだ。この屋敷に来た時からずっとあなたの胸をちらちらと見ているぞ。

 やつは口数が少なく表情に出さない人間だから気がつかなかったのも無理はないが

 無意味に挑発するのもよくない。男は自然に反応してしまうのだから・・・」

 

「そっかぁ?う~ん・・・言われてみりゃあ確かに視線を感じたような・・・」

 

ここまでの全ては打ち合わせなし、即興の会話だ。だがその効果は抜群だった。

 

 

「・・・・・・レッド?」

 

「・・・そ、そんなじっくりとは見ていない!でもどうしても目が・・・いだだだ!」

 

エリカがレッドの肩を砕きかねないほどの力で掴んでいる。ナツメとアカネは隠れて笑う。

 

(ありゃりゃ、ホンマに見られてたんか。こいつはちょいと予想外やったで)

 

(・・・くくく・・・善人過ぎるのも考え物だな。わたしたちがでたらめを言っていると

 主張してごまかせばよかったものを。まさか馬鹿正直に告白するとは)

 

ここで終わりにしておけばよかったのだが、アカネは調子に乗ってエリカに言った。

 

「エリカ~、そのへんで許してやらんと。しゃーないやん、魅力的なうちのボディに

 メロメロになってまうのは男なら当然の結果や。ま、あんたとうちのどっちが

 レッドの心を捕らえたか・・・すまんのぉ!うちが完勝してもうて、ナハハハ!」

 

「・・・・・・」

 

 

その笑い声が響いているうちにエリカはレッドを解放した。そしてアカネに近づく。

 

「・・・・・・ところでアカネ、練習試合の件ですが・・・わたくしとやりましょう」

 

「おっ!もちろん受けたるで。でもあんたのポケモンは草ポケモンオンリーやから

 れいとうビームとだいもんじを仕込んだうちの子たちの楽勝かもしれんが・・・」

 

まだ話している最中だったが、突然空気が変わったことを察したアカネの顔から

余裕と笑顔が消えた。エリカの迫力の前に気がつくと一歩後退していた。

 

「楽勝・・・なるほど。そう考える方は多いようです。公認バッジを七つ集め最後に

 タマムシジムを選ぶトレーナーが多いのはわたくしのポケモンが相手であれば

 炎タイプや氷タイプを揃えることで難なく勝てると思っていたからですが・・・」

 

「・・・エ、エリカ?何か雰囲気が・・・」

 

「わたくしが先ほど語った一度の敗北で歯車が狂った者たち・・・七つのバッジを

 手に入れながら安易な発想で戦いに臨んだトレーナーたちは結局リーグへの挑戦を

 断念しどこかへと去っていきました。あなたは果たしてどうなるでしょうね?」

 

表情だけはいつもの穏やかなエリカだ。だが声の調子やその背から放たれるオーラは

明らかにアカネを除き去るべき敵としてロックオンしたことを明らかにしている。

 

「や、やめーや!逆恨みはやめるんや!その怒りはレッドに・・・」

 

「お忘れでしょうがわたくしはカントー最強の草ポケモンの使い手なのですよ!

 さあアカネ!レッドを誘惑しようとした罪を懺悔する時間が・・・・・・!」

 

アカネを連れて訓練場へ向かうべく立ち上がったエリカ。自分が怒っているというのは

彼女自身も自覚があり、普段そこまで感情を表に出さないためアカネも過度に恐怖して

いるのだろうと思っていた。しかし、レッドまでもがエリカを見てとても動揺している。

しかもただ困惑したり怯えているのではなく、何か別のものを目にして驚いているようだ。

 

 

「・・・レッド・・・わたくしはあなたを困らせるつもりは・・・」

 

「いや・・・違う!エリカ!その力は・・・・・・!」

 

「自分でも気がついていないようだが・・・身に着けることができていたのか!」

 

皆があまりにも騒ぐのでエリカは鏡で自分の姿を確認してみた。すると、

 

「・・・・・・!!わ、わたくしの身体が・・・緑色の輝きを!」

 

レッドは三年以上前に、遅れてアカネも昨日発現させた謎の力だった。この力は

トレーナーとしてポケモンの力をこれまで以上に引き出すのが証明されている。

ただ有能であるだけではなくポケモンへの深い愛情と互いに信頼し合う絆がなければ

この力に目覚めることはなく、ごく限られた人間しか到達できない領域だ。

 

 

「くく・・・昨日のバトルの途中でこうなっていればよかったが少々遅かったな。

 わたしは今回仲間を集めた際、この素晴らしい力を出せるかもしれない者たちを

 選んだ。もしかしたら伝染するものなのかもしれないな、これは」

 

「なんでこんな時に発動したんやろなぁ?まさかエリカの引き金はレッドに近づく

 女への『嫉妬』や『排除』だったり・・・う~~ん・・・まあエエわ。

 上に着る服を探しにちょいと席を外すで」

 

本気でレッドの心を奪おうとはしていなかったが、あまり冗談を続けると危険だ。

これ以上刺激するのはやめたほうがいいだろう。大事な決戦の前に身を滅ぼす

原因となりかねず、アカネは存在感のある胸を隠すための服を着ることにした。

 

 

「わたくし自身もちっとも自覚すらしていなかった潜在能力にあなたは最初から

 気がついていたとは・・・。なるほど、これであなたが昨日までわたくしたちを

 利用できる道具に過ぎないなどと言って気分を害させ苛立たせようとしていたわけが

 理解できました。あなたへの憤りによって力を引き出そうとした・・・そうでしょう?」

 

「・・・・・・」

 

「しかしそれは大失敗に終わりました。結局唯一優しく接したアカネが期待に応え

 わたくしが力を手にしたのもあなたがわたくしとレッドを結んでくれたおかげです。

 あのままレッドと別れていたらこの力に満たされることもなかったでしょう。そう、

 あなたがあのとき己の身を傷つけてまでわたくしたちを救ってくれたから・・・」

 

ナツメの手首の傷はくっきりと残ったままだった。超能力でも治しきれなかった。

 

「なぜあなたは悪人のふりをするのですか?誤解を生み、多くの反感を買っているのに。

 あなたがそうしたいというのなら構いません。ですがあなたが悪く言われることを

 悲しんでいるアカネにだけはその真意を説明してあげるべきでは?」

 

「僕もエリカと同じ意見です。初めて戦ったときからナツメさんはジムリーダーの中でも

 ポケモンへの愛情にあふれているとわかりました。僕たちやアカネちゃんのように

 あなたを正しく評価している人はあまりにも少ない。あなたがどんな人か

 皆がわかれば意見に賛同して仲間になってくれる人ももっと増えるはずです」

 

なぜ頑なに人々の敵であるような振る舞いを続けるのか、エリカもレッドもそれが

理解できない。何もいいことはないはずだ。やり方を変えるように勧めたが、

 

「あなたたちがわたしのことをどう評価しようが自由だ。だが世の大多数はわたしを

 忌み嫌いできることなら殺してやりたいと思っている、そして彼らの考えこそが

 正しい。今この時間もわたしを逮捕しようとする者たちが大勢いる、それが事実だ。

 アカネに真意を伝える?これがほんとうのわたしなのだから何も・・・」

 

ナツメはそれを聞き入れず、自分を崩さない。しかし彼女に反論する別の声があった。

 

 

「いや、確かにレッドくんたちの言葉が正解だ!シルフカンパニーでロケット団と

 手を組むどころかやつらを利用さえして多くの技術と金品を盗んでいるように

 見せかけ・・・真の目的は捕らわれた哀れなポケモンたちの救出だった者が

 悪人であるはずがない、そうだろう!ヤマブキジムのリーダー、ナツメ!」

 

「そして強欲な大企業と犯罪集団、それにポケモンリーグの権力者たちを相手にして

 貴重な命を守って未来への希望をも繋いだ・・・いま私の手元にいる二体のラプラスが

 あなたの本質を証明しているわ。あなたが何を言おうがこれ以上の証拠はない」

 

レッドたちよりも一回り年上の男女だった。彼らもナツメの真の顔に迫りつつあった。

いきなり部屋に入ってきたが、誰もが知る有名人であり、特にこの場にいる人間とは

縁の深い、エキスパート中のエキスパートトレーナーの二人だ。

 

「ワタル・・・それにカンナ!なぜこの場所が・・・それにどうやって入ってきた!?」

 

「ここを見つけたのは偶然だ。カンナが昨日まで十日間過ごした場所だと聞いた。

 カイリューから降りようとしたところちょうどアカネちゃんがいたんだ。快く

 中に入れてくれたものだからてっきりお前の許可もあるものだと思ったが・・・」

 

二人の後ろからアカネが遅れてやってきた。レッドとエリカを勝手に招き入れたのも

アカネだ。ワタルたちの後ろに隠れているのは、いま自分には味方が多いからここに

いればナツメに叱られることはないだろうと前の二人を壁にしていたのだ。

 

「へへへ・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

アカネを叱責しようとは考えていないが、ここまで簡単に次から次へと屋敷を見つける

トレーナーが出てきたというのは問題で、この場所はもう潮時だとナツメは感じた。

 

(・・・とはいえあと一週間ならどうにかなるか。どうせその後は不要になるのだから)


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