ポケットモンスターS   作:O江原K

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第87話 再生

 

夕方になるまでナツメの屋敷のバトル用スタジアムでは多くのバトルが行われた。

次々と対戦相手を変え訓練と呼ぶには激しい戦いが展開され、出番を終えた

ポケモンたちは疲れを癒すために横になったり食べたり飲んだりしてリラックスした。

 

「・・・うちの特訓とあんたの調整が目的のはずやろ?なんで全然関係ない連中同士で

 楽しそうに戦っとんねん。休憩時間が長いのは助かったけど・・・」

 

「くくく・・・だがあのカンナの顔・・・引退撤回もありそうだな。さっきあなたに

 負けたときもとても悔しそうだった。まさか負けるだなんて考えてもいなかったようだ。

 しかし初日からなかなかいい勝率だったな。今日はこんなものにしておいたらどうだ」

 

「そろそろラジオの時間やしそうするわ。あんたのテレポートならラジオ塔まで一瞬や。

 連中も夕飯は自分らでなんとかするやろ・・・そろそろ準備せな」

 

いろいろなバトルを試すため同じ相手と戦っても出してくるポケモンの種類も順番も

戦術も違う。アカネはエリカと数回戦ったが、はなびらのまいやはっぱカッターで

ひたすら攻めてくるときもあればやどりぎのタネやどくどくによるじわじわと削る

スタイルも見せ、どんな相手にもその場ですぐに対処しなくてはならないと教えられた。

対戦相手について何もわかっていないアカネにとってはいい練習だった。

 

(・・・現状では力押しで勝てる相手でないと安定しないか・・・)

 

ナツメはアカネのバトルの記録を事細かにメモしていた。互いに攻撃技だけを繰り出す

単純な戦いなら火力の高いミルタンクとカビゴンが活躍し勝利を奪える。この二体

だけでなく多くのポケモンが耐久性に優れているため本来なら長期戦でも有利なはずで、

むしろその戦い方こそアカネに向いているとナツメは思っているのだが、今日その展開の

バトルではアカネの成績は悪かった。その原因もナツメから見たらはっきりしていた。

 

(内面に大きな問題あり・・・だな。辛抱の限界に達して負けるパターンが多すぎる)

 

アカネと彼女のポケモンの目指すところは一致している。楽しく笑顔でバトルに勝つ。

よいことではあるのだが弱点でもある。すぐに倒せないから楽しくない、疲れてしまって

面白くない、結果面倒になって確実性のない大技に頼る。人もポケモンも精神的に未熟だ。

もしサカキの連れてくるトレーナーが相手の弱点をすぐに見抜きしかも長丁場の戦いを

好む彼の友人キョウであれば、彼ほどのトレーナーではなくてもアカネの問題点を突いた

戦いができる実力者が相手であれば厳しい。このままでは負けが見えた戦いだ。

 

「まあ・・・あと六日もある。とりあえず今日の一番の反省点は・・・」

 

このメモはアカネに渡すつもりで書いていた。その最後にナツメが大きな字で強調した

言葉は、相手を不必要に煽ったり恨みを買うような言動をしないといったものだった。

恵まれた胸を見せつけるような薄着の服でレッドを誘惑したことの代償は大きく、怒りに

満たされたエリカにこの日は全敗だったからだ。対戦相手の力を普通以上に引き出し、

まして覚醒させるなどというのは自殺行為だ。心理戦を仕掛けるのは墓穴を掘ることに

直結するだろう。勝ち負けを問わず強化されたトレーナーと最高のバトルを楽しみたいと

いうのなら話は別だが、今日の様子を見る限りそんな余裕はないだろう。

 

 

「さて、もう行くとしよう。前回とは違いラジオ塔のすぐそばまで飛ぶが何が起きるか

 わからない。あまり疲れていない六体を選んで連れていくように」

 

ナツメは五体、アカネは六体のポケモンをボールに入れてから二人はテレポートした。

自分を逮捕しようとしている者たちがいるというのをナツメは知っていたのでコガネの

街を歩くのも危険だと判断しラジオ塔の入口まで一気に瞬間移動した。ところが世間の

注目を集める二人を待ち構えた報道陣がすでに待ち伏せしており、質問攻めが始まった。

 

 

「アカネさーん!今日は生放送で何を語られるんですか!?チャンピオンとの因縁は!?」

 

「いつもと変わらんわ。言いたいことを好き勝手言わせてもらうだけや。もちろんあの

 クソガキ、ゴールドへも言わなきゃならんことが山ほどあるからなぁ!」

 

「ナツメさん、あなたの思想に近い外国のいくつかの団体が対談を希望しています!

 ポケモンを人間から解放することを目的に活動する団体や世界の浄化を目指し、

 地を汚す悪人たちを除き去るという集団の代表もあなたに興味があると発言を・・・」

 

「対談の予定はない。わたしのほうは彼らに何の興味もないからだ」

 

ラジオ塔の職員たちによって二人は室内へと連れられる。しかし大勢のカメラマンや

レポーターの中から一人の男が人混みを割って先頭に立ち、ナツメにマイクを向けた。

 

「最後に一つ!ナツメさん、ご存知でしょうか!あなたを捕らえようという動きを!」

 

「・・・・・・」

 

ナツメは何も答えなかった。その瞬間だった。男はポケットの中に入れていた左手を

手慣れた素早い動きで出してナツメに迫った。その手には手錠があった。

 

「それはまさにいま!お前の命運が尽きたということを知っていたか————っ!?」

 

男は国際警察だった。サカキの友人が口にしていた、狙った獲物は逃さない正義感溢れる

熱意に満ちた男が報道関係者に変装していた。ナツメの右手にあと一秒足らずで手錠が

かかる、もうほんのわずかなところだった。その手が掴まれると同時に骨が砕かれた。

 

「ぐうぅおおっ!?こ、これはポケモン・・・!スリーパーではないか!うぐぐ・・・」

 

「ふう・・・危ない危ない。な、ポケモンを持ってきてよかっただろう?こいつが

 ポケモンバトルで自分が勝ったら大人しく逮捕されろと言うのなら応じたが・・・

 ポケモンを持っているにも関わらず手錠と拳銃によって目的を果たす気ならわたしは

 相手にしない。スリーパー、そのままその男の粉砕された手を掴んでいるように!」

 

「何をするつもりだ!そ、その目で私を見るな————っ!!」

 

ナツメの髪の毛が逆立ち、その両目も不気味に光った。すると男は突然いなくなった。

まるで最初からいなかったかのように、一切の痕跡が消えてなくなった。

 

「・・・き、消えよった!ナツメ、それにスリーパー!さっきのオッサンは・・・」

 

「ご安心ください。殺してはいませんよ。ですが一週間は戻ってこられない場所に彼を

 飛ばしました。その間に何らかの事故で死ぬことはあるかもしれませんが・・・」

 

「決戦の日まではあんな連中に邪魔はさせない。おそらくあの男・・・サカキもそれを

 望んでいる。これでわたしたちに手を出そうとする者はいなくなるだろう」

 

ナツメたちはラジオ塔の中に入っていったが、この出来事を目撃した者たちは皆、

これはショーであり、さっきの男もナツメの仲間で仕込みの人間だったのだろうと

結論した。一時的に姿を消しただけできっとそばにいるに違いないと言い合った。

 

 

予定の時間となり、生放送は無事始まった。ナツメが逮捕されずにアカネと共に声を

出していることにサカキは安堵しつつ耳を傾けた。シルバーもその隣にいる。

 

『そうそう、そんでコンビニが潰れた思ったらその跡地にコンビニが・・・』

 

『コガネもヤマブキも都心部はどこもそうか。わたしのジムの周りでは・・・』

 

世間話、くだらない話・・・ポケモンとは一切関係のないただのお喋りにシルバーは

溜め息をつく。興味のある話題が一向に始まらず、わざとらしくあくびをした。

 

「なあ親父、こんなモンを聞いて何になるんだ?時間の無駄だぜ」

 

「フフ・・・お前の対戦相手が語っているんだ。もう少しでヒントがこぼれるぞ」

 

ヒントとはどういう意味か、シルバーが尋ねる前にラジオの先のアカネがそれを明かした。

 

『じゃあ質問コーナー始めよか!最初は・・・アカネちゃんのファン?ありがとな!

 なになに、アカネちゃんのポケモンたちも大好きだから一週間後の戦いで登場する

 六体のポケモンを教えてください・・・なるほど、応援グッズを用意すると!』

 

『まだ先の話だろう。当日のコンディションもあるし相手が誰かも・・・』

 

『へへへ、そんでも最初に使う子だけは決めとるんや。うちがここまで来れたのは

 間違いなくあんたのおかげ・・・せやからうちとあんたの絆を体現したポケモン、

 その子がトップバッターと予告しとくわ。ちょっとわかりづらいけど堪忍な!』

 

『フム・・・口を滑らせて敵に塩を送ることにならないかと心配したがその程度なら

 平気だろう。わたしもすぐにはどのポケモンかわからなかったくらいだ、問題ない』

 

当日使うポケモンをかなり曖昧な表現ではあるが自ら明かした。サカキが狙っていたのは

これだった。アカネが何かを話せば話すだけシルバーの勝利する確率が上がっていく。

 

「・・・やつのポケモンのデータから・・・どいつのことか特定できたか?」

 

「ああ。おそらくこのポケモンだろう。馬鹿話を辛抱して聞き続けたかいがあったぜ」

 

自分の首を絞めていることなど全く考えていないアカネは上機嫌で番組を続ける。

前回あれだけ暴走したというのに放送中止にもならず、メインのクルミが去っても

アカネをその代わりにしてしかもナツメまで今回は最初から隣にいるのだ。余程の

ファンでなければサカキのように特別な狙いがない限りそもそも聞いていないだろう。

よって好意的な応援メッセージが多く、笑顔で次々とそれらを読み上げた。

 

 

『リニア団に入りたいけどどうすればいいですか・・・その質問の答えは簡単や。

 うちらの味方になりゃあええ。ポケモンを大事にして、親友や家族のように

 いっしょに夢を叶えようとするならもう合格や。ポケモン協会のように難しい

 試験もアホみたいに高い入会金も必要あらへん。誰でも大歓迎や!』

 

『アカネが命名したこのリニア団・・・新しい力で古き体制の悪しきものを徹底的に

 排除するための組織だ。無益で腐臭すら漂わせていたかつての伝統と習慣は

 いよいよ除き去られる。ポケモン界はわたしたちの手により生まれ変わるのだ!』

 

戦う理由や新たに立ち上げる予定のリニア団に関しての真面目な話もあれば、趣味や

流行の話に逆戻りし、シルバーのような人間からすればうんざりさせられる時間もあった。

 

『なに?好きな男のタイプ?わたしは特にないが・・・世間の好みはすっかり変わったな。

 昔はシバみたいな男が人気だったのに最近は近くで見ないと男なのか女なのかわからん

 中性的なやつが女たちの好意を集めている。その流行りもいつまで続くか知らないがな』

 

『・・・うちは・・・口だけは立派なゴールドへの愛想は完全に尽きた。そう、口では

 厳しい言葉を吐いて極悪人のように見せかけとるけれど、実はめっちゃ優しくてうちを

 自分のことのように大切に思ってくれる・・・そんな人がエエなぁ。無駄に多くは語らん、

 行動で大切なことを教えてくれる人が・・・』

 

アカネはナツメに熱い視線を向けたが、ナツメは気づかないふりをした。そして次は

互いのポケモンが主人について語るという前代未聞のコーナーが始まった。

 

『ピッピィ———!ピッピッピ!』 

 

『アカネには姉妹揃って世話になっている。ぜひ勝たせたいとみんな張り切っているわ』

 

ピクシーの言葉をスリーパーが訳す。ナツメのポケモンたちは全員器用に通訳ができる。

 

『ピャ————ッ、ピッピピッピピ!』

 

『アカネがチャンピオンになれば私たちのように幸せなポケモンが世界中で増えるはず。

 新しい時代のトップに立つ点でアカネ以上にふさわしいトレーナーはいない、みんな

 そう信じているわ。だから一週間後、全力で戦うために調整を続けていきたいわ』

 

ポケモンとの絆が夢物語でも自分だけの都合のよいように解釈した偽物でもなかった、

そのことをアカネは再確認し喜んだ。普段の様子からポケモンたちが自分を愛して

くれているのはわかっていたが、こうして思っていることを言葉で伝えてもらうことで

改めて喜びに満たされた。この友情の力があれば自分たちは無敵だと勇気と力が湧いた。

 

『ありがとな、ピーちゃん。さて、次はスリーパーや。ナツメへの思いを全国に向けて

 語ってもらおうか。愚痴でも何でもエエ、できれば笑えるエピソードがあれば・・・』

 

ナツメのポケモンたちの中では一番人間と喋る機会も普段の口数も多いスリーパーだ。

このような場に慣れているようなので、軽快な面白いトークを展開してくれるとアカネは

期待していた。ところが、スリーパーはしばらく黙ったまま話し始めようとしなかった。

 

『・・・ちょ、ちょっと!これじゃ放送事故や!何か言えや・・・・・・』

 

『・・・・・・・・・はい、私は本来・・・』

 

肘で突きながらアカネが小声で言うとスリーパーはようやく口を開いた。全身が震え、

うつむきながら話を始めようとしている。つい先ほどまでは何事もなくピクシーの通訳をこなしたのだから単なる緊張とはまた違う原因がありそうだ。

 

 

『・・・・・・本来なら・・・私はこの場にはいなかったでしょう。いや、今でも

 ナツメさんのポケモンを代表して何かを話すなどという立場には・・・私は

 決してふさわしくないのにこの役を引き受けた厚顔極まりないポケモンなのです』

 

『・・・ピ~~~?』 『す、スリーパー?あんた変な物でも食ったか?変やで・・・』

 

『私は死ぬべき存在でした。どれだけ悪いとわかっていても恥ずべき欲望を抑えきれず

 殺処分しろと何度も言われた・・・汚れと罪に満ちたどうしようもない者です』

 

アカネとピクシーはスリーパーが何のことを言っているのかすぐにわかった。幼ければ

人だろうがポケモンだろうが、性別すら問わないという重度の小児性愛。カントーと

ジョウトのジムリーダー対抗戦でミカンやツクシに襲いかかろうとしていたり、ピィや

ピッピを見る目が怪しいのはアカネたちも実際に確認していることなのでスリーパーを

常に警戒し注意して見張っていた。幸い取り返しのつかない行為に及ぶことはなかったが

いつスリーパーの我慢が利かなくなり暴挙に至るか周囲はハラハラしていた。

 

『私自身・・・生まれてくるべきではなかったと何度も自分を責め死ぬことばかりを

 考えていました。ですが・・・そのたびにこの方・・・ナツメさんは私を厳しく

 叱責するのではなく、優しく教え諭し、励ましてくれました。私が失敗するたびに

 共に反省し、次はどうすればいいかと学び合い・・・決して見捨てられませんでした』

 

あのスリーパーが涙声になっているかと思えば、すでに涙が次々とテーブルの上に

落ちていた。抑えようとしていたものが堪えきれなくなった。

 

『・・・そして・・・私がほんの僅かでもこの病を克服する点で前進できたとき・・・

 心から喜んでくれました。たとえ逆戻りすることがあっても私がいつか完全に病を

 乗り越えると諦めずに信じて・・・固い親友としていつも私を支え・・・』

 

とうとう語り続けることも出来なくなってしまった。ナツメとの思い出が蘇ったためだ。

 

 

 

『もう限界じゃない?これ以上はナツメ、あなたの名前まで傷がつくわよ?』

 

『殺すのが無理だというのなら地下に閉じ込め縛りつけておくべきです。何回我が主の

 期待を裏切り問題を起こすのか、こいつは・・・』

 

仲間のポケモン、バリヤードとフーディンも彼を見限り処分するように強く言う。

それでもナツメはスリーパーとの関係を解消せずに救う道を探し続けた。

 

『わたしの名誉なんかどうでもいい。どれだけ慰謝料を払うことになろうが些細な話だ。

 そして身動きが取れないようにしたり洗脳したりすることで問題を終わらせるのは

 簡単だ。殺してしまうのはもっと手間がかからない。だが・・・それでは駄目だ。

 こいつが自分の力で悪癖を克服し、これまで以上に強いポケモンとなることこそ

 真の解決であり勝利!諦めてしまったせいで敗北の屈辱を味わいたくはない』

 

顔を伏しながら正座しているスリーパーと同じ目の高さになるためにナツメは座った。

そしてスリーパーの両手を優しく自分の両手で包み込み、穏やかな声で言った。

 

『・・・パトリック。確かにあなたは間違いをした。その罰は受けなくてはいけない。

 でもあなたは罪悪感に満たされ激しく後悔している。あなたからその気持ちが失われず

 自分を変えたいと願い続ける限り・・・わたしはあなたの味方だ。共に戦う仲間だ』

 

『・・・・・・ナ、ナツメさん・・・・・・』

 

パトリックというのはナツメの前にスリーパーを所持していたトレーナーが名付けた

名前だった。スリーパーは当時から優秀なポケモンだったが、美しくない外見のせいで

主力であるにも関わらず不当な扱いを受けていた。そのトレーナーの幼い娘だけが彼を

事あるごとに褒めてくれたが、トレーナーと妻が離婚しスリーパーと娘は別れた。

その頃からスリーパーは問題行動を起こすようになり、ついにエリートトレーナーで

あっても手に負えないと感じ処分しようとしたとき、ナツメがスリーパーを引き取った。

 

『あなたの寂しさを埋められるようにわたしたちも努力したい。ポケモンと人間が

 協力することでどんな試練にも勝てるということを証明するために、あなたも

 戦い続けてほしい。そしてわたしたちが困っているときに助けてくれたらいい。

 こいつらだって失敗するし悩むこともある。皆で成長していこうじゃないか』

 

『ナツメさん・・・』

 

『超能力ではなくもっと素晴らしい力でわたしたちが勝利を得られると希望している』

 

エスパーを超えたさらに上の力、その存在と効果をナツメは信じ続けていた。

 

 

 

『いま・・・あともう少しでこの病に打ち勝てる予感がするまでになりました。もし

 私が他のトレーナーのもとにいたならこうはならなかったでしょう。私は・・・

 繰り返しますが私は本来ここにいるべきポケモンではないからです。ナツメさんの

 愛によって生かされ、この方のポケモンでよかったと思える日々・・・私には

 ほんとうにもったいない、世界で最も優しいトレーナーの愛情を・・・』

 

『よかったなあ・・・ホンマによかったなあ、スリーパー!』

 

アカネはスリーパーの詳しい事情は知らない。それでも感情を動かされ、気がついたら

彼女も涙していた。ピクシーと二人でスリーパーの手をとって感動を共有した。

 

『ラジオを聞いとるみんな!もうこれでわかったやろ!ナツメはただの悪魔やない!

 最強のトレーナーの座はうちが貰うとしても、一番優しいトレーナーは・・・』

 

『その通りです!ナツメさんはポケモン界を破壊するのではなくむしろ再生しようと

 しているのです!悪人たちにとっては恐ろしい裁きに思えても、ポケモンを愛する

 善良な人たちは一週間後、大いに喜ぶことでしょう!新たな時代の到来を!』

 

アカネとスリーパーだけではない。次々とモンスターボールからポケモンが飛び出すと、

 

『ハッピィ!ハピハピ!』 『ラッキャー!』 『イェーイ!私エーフィ!よろしく~』

 

それぞれが興奮に身を任せ好き勝手騒ぎ出して収拾がつかなくなった。アカネのポケモン

たちの鳴き声も、ナツメのポケモンたちの人間の言葉もはっきり聞き取れなくなり、

もはや聞くに堪えないとシルバーはその場を離れた。アカネとの対戦に役立ったのは

最初だけだった。残りは時間を無駄にしただけだったと彼は眠そうに両手を伸ばした。

 

「フッ・・・こんな見え見えの芝居までして好感度を上げて仲間を増やしたいのか。

 思っていたより小物なのかもしれないな、オレの敵たちは。親父が警戒するような

 相手には思えないが・・・ん?親父がいないぞ!オレにちゃんと聞いておけと言って

 おきながら自分は飽きてタバコでも吸いに行きやがったか・・・クソ!」

 

 

サカキは屋外に出ていた。夜空を見上げながら静かに一人考えていた。実はサカキこそが

この放送に一番影響を受けていたのかもしれない。顔に手を当て様々な可能性を考察する。

 

(・・・やつらの言葉・・・偶然だとしたら出来過ぎだ。これもやつの策略か?)

 

最も強いのではなく最も優しいトレーナー、サカキが四十年以上も前に名前も知らない

少女と会話したときに出た言葉だ。少女は戦うのが嫌いだと口にしたので、ポケモンに

一番優しい人になるようにと約束していた。そしてもう一つ、サカキのよく覚えている

言葉があった。戦火から守られたトキワの森で彼女はぽつりと言ったのだ。

 

『・・・破壊するのはかんたんだけどそれを元通りにするのは難しい。物も心も。

 わたしは傷つけられたものを治す人になりたい。壊れたからってすぐにあきらめて

 新しいものを作るんじゃない。それを再生して・・・立ち上がらせたい』

 

(破壊ではなく再生だと・・・あのスリーパーは言っていた。わたしですらときどき

 朧になっている記憶を読まれていたというのか?そしてわたしに揺さぶりを・・・。

 こちらはお前の考えていることは何でも知っていると・・・そう脅したいのか)

 

そんな嫌がらせであればサカキには効果がない。しかし・・・。

 

「万が一・・・いや、万が一にもないことだが・・・わたしとの思い出を覚えていて

 結婚し自分の娘が生まれたときにおとぎ話代わりに語り・・・その娘がどうしたことか

 成長してもその話をしっかりと記憶していた・・・全くないとは断言できんな」

 

ナツメの年齢であれば可能性はある。サカキの初恋の少女の実の娘だということも。

 

「・・・しかし彼女からあんな娘が生まれるとは信じたくない話だ。それならば

 ただの偶然だった、そのほうがよほど心が穏やかだ」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

結論から言うならば、アカネやスリーパーの言葉はナツメが指示して言わせたものでも

二人が意識して言ったものでもない、サカキの考えた三番目である『偶然』が答えだった。

しかしサカキと同じくナツメも何かを考えたまま一言も喋らなかった。

 

(・・・ふふふ。面白い奇跡。どこかで彼が聞いているのならなおさら・・・)

 

その後放送終了まではアカネとポケモンたちが大声で歌ったり叫んだりして時間が

流れ、ナツメはほとんど声を発することがなかった。それでも笑顔で手を叩いたり

アカネの言葉に相槌を打ちながらこの場の雰囲気を楽しんでいるように見えた。

だが心のなかではとある計画を実行に移そうとしていた。今日は家に帰らずこのまま

アカネを連れて危険極まりない冒険を始めようと決意を固めていた。

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