ナツメがミュウツーと呼ぶそのポケモンは一層険しい顔つきで威圧してくる。
その名前を口にされたことで、完全にナツメとアカネを敵とみなしたようだ。
「お前たち・・・その様子では私が何者かを完全に把握しているようだな」
「い、いやいやいや!うちは何も知らんで!ナツメ、こいつは・・・」
慌てて説明を求めるアカネに対し、ナツメは小さく笑いながらそれに応じる。
今にも攻撃されそうな状況だというのに余裕たっぷりだった。
「ミュウツーがなぜこれまであなたが見たどのポケモンとも違うかを教えよう。
そいつは遺伝子操作を施された人工ポケモン!勝利と破壊のみを追い求めて
生み出された闘いのためのポケモンだ。しかし感情を持つ生物ではあるが」
「・・・そ、そんなバケモン・・・誰が造ったんや?」
「アカネ、あなたがカツラと戦っていたときグレンタウンのポケモン研究所でかつて
やつらが行っていた大罪の暴露が途中で終わっていたことを覚えているか?愚かで
おぞましい実験を繰り返していたあの連中が目指していたものこそこのミュウツーだ!」
ミュウツーは目を閉じたまま静かに聞いていた。ナツメの話す内容は全て正しかった。
「なぜそんなポケモンを生み出したか・・・やつらは次の戦争に備えようとしたのだ!
先の大戦で連中はポケモンたちを戦地に使い捨ての道具として投入した。それでも
惨めな敗戦という結果を喫し、戦争で活躍できるポケモンを造ろうと計画を進めた。
ミュウツーが実戦で使えると証明されたならその後次々と量産されていただろう」
軍隊を持たないこの国が他国と対等に戦えるための切り札、それがミュウツーだった。
殺傷力に優れ余計な情を持たない、完璧なる破壊の遺伝子により形成されたポケモンだ。
しかしいまその存在は隠され、なかったことにされている。研究も打ち切られた。
「・・・なぜ第二第三の私が生まれなかったのか・・・それも理解しているのか?」
「もちろん。あなたは『失敗作』だったからだ。成功していたらとうの昔にあなたを
更に改良したミュウスリーやミュウフォーをやつらは大々的に発表していただろう。
現実はあなたのことすら世から抹消しなければならなかった、大失敗に他ならない」
「・・・・・・大失敗作・・・だと?私が落ちこぼれだったと・・・そう言いたいのか」
落ち着きかけていたミュウツーが再び怒りを見せる。余計な煽りでハラハラさせるのは
やめてくれ、とアカネは心のなかで哀願していた。サカキやゴールドを挑発するのとは
わけが違う。それがわからないナツメではないはずなのに。
「そういう意味ではない。失敗とは当時の研究者たちにとってのことだ。あなたが予想を
遥かに超えた力を持ち制御できなくなったため連中は恥をかき失敗を認めたのだ。
そのような理由であなたは失敗作であり、わたしはそのことに感謝している。あなたが
あの愚か者どもの都合のよいポケモンであったならポケモン界だけでなく世界が大きく
変わっていた。もちろん暗い方向に・・・だ。あなたのおかげで秩序は守られた」
この人工ポケモンが研究を繰り返し安価で大量に生産できるようになったらポケモンの
生態も育成も、バトルも崩壊していたかもしれない。クローンポケモンや不自然な
遺伝子を組み込んだポケモンたちが溢れ、ほんとうに武器として扱われるようにすら
なっていた可能性を考えると、ナツメは感謝の言葉を述べずにはいられなかった。
持ち上げられたことでミュウツーは態度を急変させ、見るからに笑顔になった。
「フフフ・・・人間という生物の愚かさと弱小ぶりをわきまえていればそれでいい。
お前と違い自らを誇大させすぎた人間が間違いを犯したのだ。頼んでもいないのに
勝手に誕生させ、無理矢理自分たちの望む理想の生命体に育て上げようとした・・・。
そろそろ私のほうから人間どもに思い知らせてやろうと考えていたところだ。
研究所を抜け出しこの洞窟で時を待ち・・・ついにこの日を迎えたのだ!」
かつては無謀なトレーナーたちが勝手に洞窟に侵入し、彼らをミュウツーは屠り続けたが
近頃は警備が厳重になり人が来ることはなくなっていた。野生のポケモンたちもすでに
ミュウツーの強さはわかっている。そんな戦いのない静かな日々が続いていたところに
今日ナツメとアカネがやって来たのだ。これは天からの合図だとミュウツーは受け取った。
「私を生んだことに対する逆襲の時はきた!だが私はいま気分がいい。そこの小娘、
残念だがお前たちも私にひれ伏し服従する者となるわけだが・・・ほんの少しだけ
猶予をやろう。お前たちが私に支配されるまでどの程度時間が欲しいか言うといい」
ミュウツーは上機嫌だ。人間への逆襲を果たし、自分を操り、壊れるまで使おうとした
人間たちを自らの奴隷として踏みつける時が来たからだ。話に参加できていなかった
アカネに気を配るほど気分がいいようで、これがアカネを勘違いさせた。話せば
わかる相手であり、案外冗談も通じるかも、そう考えたのがまずかった。
「え~と・・・せやな、うちは150歳まで生きる予定やから・・・あんたの逆襲は
130~140年後くらい・・・それでお願いしますわ!」
逆襲者を侮ったふざけすぎた回答にミュウツーは眉間にしわを寄せて言う。
「・・・なるほど、真っ先にお前から殺してやらなければならないということか」
「うひゃー!そ、そんな待ってくれや!さっきまでニコニコしてたやないか!」
「黙れ!この私をナメるな、小娘が!この期に及んで私を甘く見た罪、償ってもらう!」
ここまでどうにかミュウツーを抑えてきたがついに爆発した。ミュウツーの背中から
複数の黒い球、恐らくはシャドーボールと思われる球体が宙に浮かび上がってくる。
すぐに何かをしなければ殺される、アカネの大ピンチは思わぬ方法で回避された。
「あなたでは無理だ、おやめなさい」
ナツメが割って入り、ミュウツーに対し耳を疑う言葉を吐いた。何を言われているのか
ミュウツーもわからなかったようで、沈黙の間があってからようやく口を開いた。
「・・・・・・私では無理・・・だと?」
「こんな短い言葉、それ以外にどう解釈するというのか。あなたの力では街を襲っても
せいぜい数人を倒したところで終わり、拘束される。全ての人間への逆襲など程遠い」
つい先ほどまではミュウツーの力を認めていたのに突然否定し始めた。だが矛盾は
していなかった。確かに研究所から強引に逃げ出すなどある程度の能力はある。
しかし何でも可能にできるような圧倒的なものはないと言っている。一つの街すら
制圧できないというのはミュウツーにとってはこれ以上ない侮辱の言葉だった。
「・・・・・・どうやらお前のほうが私を愚弄するのがうまいようだ・・・私が
何者であるかを正確に知った上でこれほどの・・・人を腹立たせる天才だな。
その代わり長生きはできないだろう、私を敵に回した以上は・・・」
「くくく、その通りだ。わたしは近いうちに死ぬ。でもそれは今ではない。
こんな洞窟に引き籠ってガキのようなことを宣うアホに殺されるなどというのは
ありえない話だ。誰よりも無知で弱小なのはあなただ、恥を知りなさい」
ミュウツーの何かが切れた音がはっきりと聞こえた。邪悪な念力がみるみる溜まっていく。
「下等で脆弱な人間が~~~~~っ!!跡形もなく消し去ってやるわ—————っ!!」
「バリヤード!」
ミュウツーが攻撃を始めたときにはすでにバリヤードがボールから飛び出していた。
激しいサイコキネシスが両者の間でぶつかり合い、全く互角で動かなかった。
「・・・わ、私の最大の攻撃を!?ありえん!」
一撃で誰をも葬る必殺技をたやすく相殺され、ミュウツーは動揺し攻撃の手を緩めた。
「隙あり!ひかりのかべ————っ!!」
それを見逃さず、ナツメの指示を待つまでもなくバリヤードは光り輝く壁を張った。
これでミュウツーのサイコキネシスの威力は半減できる。ならば物理攻撃で敵を
粉砕しようとする前に、バリヤードは第二の壁を展開した。
「・・・・・・これはバリアー・・・私の使うものと何ら遜色ない・・・」
「ふふっ、あなたも張ればいいわ、バリアーを。それ以外にも好きな技を使えばいい」
こうなってしまったら長期戦、耐久と集中力が物を言う。言われた通りにするのは癪だが
自らも守りを固めてバリヤードに対抗するしかない。重大なミスさえなければ性能で勝る
自分がやがて優勢に立ち戦いを押し切ることができる、ミュウツーは負ける心配など
していなかった。時間はかかるが焦って自滅しなければ勝利は必ず・・・・・・。
「・・・・・・・・・はっ!!」
「もうわかったか?あなたはたった一体のポケモンを相手に苦戦している。数分では
決着はつかないと認めてしまっている・・・これが何を意味するかだ。言っておくが
わたしは世界どころかカントーでも最強のトレーナーではないしこのバリヤードも
最強のポケモンなんかではない・・・なのにあなたはこれほどまでに手間取っている」
ミュウツーが街で暴れたら大勢のポケモントレーナーたちが一斉にポケモンを放って
鎮圧しようとするだろう。バリヤード一体を相手にかなりの時間をかけないと勝利が
得られないという現状、果たして大勢の人間とポケモンを敵に回したらどうなるか。
「あ・・・・・・ああ・・・・・・」
「あなたが洞窟に潜ってから世の中のポケモンのレベルは格段に上がっている。
技や相性、能力を伸ばすコツや戦術の研究が進み、わたしの使うポケモンたちや
あなたのようなエスパータイプも絶対的王者とは言えなくなっているほどだ。
それだけあなたがここで無駄にした時間は長かった・・・すでにあなたは最強の
ポケモンなどではなくなっている、それをよく理解できたのではないか?」
ポケモン研究所での恥辱と苦痛に満ちた日々から逃れたミュウツーの悲願であった
人間たちへの逆襲。長い年月それだけを待ち焦がれて生きていたが、その希望は
脆くも崩れ去った。しかもこれまで信じていた自身の能力とそれに伴うプライドを
否定されて現実を叩きつけられた。両の拳を握り締めわなわなと震えている。
「ヤバイでナツメ!あいつ・・・やけっぱちになって暴走するかもしれん!」
「そうだな・・・やつの心の支え、生きる目的を奪い取ったのはやりすぎたか。
ポケモンを全員出そう。壁はあるから皆で一斉に攻撃すれば・・・・・・」
「う・・・う・・・ううううう・・・・・・」
どう出てきても対処できるよう備えていた。だが、ミュウツーの次なる行動は
ナツメにも予想できていなかった。ミュウツーは全身を震わせたまま両膝をつくと、
滝のような涙を零し、二人の前で泣き始めた。そしてついには、
「うわああああ・・・うわああああああああああ————————」
激しく泣き叫び、しばらく収まらなかった。ミュウツーの慟哭は続いた。
「・・・・・・こいつ・・・まるで赤ん坊やないか」
「確かにガキだと言ったがこれほどとは・・・精神的に未熟すぎる。少し褒めたら
すぐに調子に乗りちょっとでも気に入らないことを言われたら我を忘れ激怒する。
そして敗北の瞬間手がつけられないほど泣き喚いて迷惑をかける・・・アカネ、
『人の振り見て我が振り直せ』だ。あなたもミュウツーほどではないが・・・」
「はぁ?うちはこいつとは違うやろ。変なこと言うなや!」
ミュウツーがすっかり戦意を喪失したのでナツメは洞窟の先に目をやった。すると
行き止まりに天然の温泉があるのを見つけ、手を入れてみるとちょうどいい湯加減で
あった。ナツメはポケモンたちを呼ぶと、自身は上着から脱ぎ始めた。
「・・・ちょいと待った!あんた・・・こんなところに入るんか?」
「人がいないぶん街の温泉よりキレイだろう。あなたも入るといい。昨日からずっと
風呂に入らずに洞窟探検までしたのだから汚れを落とそう。そして・・・そこで
うずくまっているのも湯に浸かって気分転換といったらどうだ?」
「・・・・・・・・・」
アカネだけではなくミュウツーにも温泉に入るように勧めた。最初は反応がなかったが、
他にすることもなかったのでのそのそと動きナツメのもとに来た。
「こいつも入るんか?素っ裸になるのは気が引けるで・・・」
「安心しろ。ミュウツーに生殖機能はない。しかもどちらかと言えばわたしたちと同じ、
つまりはメスのように見える。心配せずに服を脱いで入ってくるといい」
そんなことをアカネは訴えていたのではない。ミュウツーの前で無防備な姿になるのは
危険すぎると言いたかったのだ。いまは元気がないがしばらくしてまた怒りだしたら
服すら着ていない状態では何もできない。情緒不安定なミュウツーの気分は読めず、
余計なことをせずにモンスターボールでナツメのポケモンにしてほしいと思っていた。
「そこでこれだ。買っておいた酒にいかりまんじゅう、その他土産物の出番だ」
使い捨ての皿やコップまで用意していたナツメは三人分の酒を注ぎ、菓子も
三等分した。自分たちのポケモンのためにも残った酒と菓子を渡していた。
「・・・うまい!これは・・・うむ、こんなものが・・・!」
ミュウツーは酒は当然のこと、菓子を食べるのも初めてだった。あっという間に
いかりまんじゅうを食べ終えたので、ナツメは自分のぶんを差し出した。
「へへへ・・・まさかうちにもお酒を飲ますなんて・・・怒られるで?」
「すでに警察に追われているんだ、今さらだ。その顔、どうやら気に入ったようだな。
そっちのあなたは酒よりも菓子のほうがうまいと感じているようだが・・・」
「ああ。こんな食物があるとは知らなかった。誰がこれを・・・」
ミュウツーは尋ねる。ナツメはコップの中の酒を一口飲んでから答えた。
「人間だ。あなたの忌み嫌っている・・・」
「・・・!」
「何度も試作を重ねた末にその饅頭を生み出した。確かにあなたに関する実験のように
間違った研究に走る者もいる。しかしあなたの人間に対する考えはこれでだいぶ
変わったのではないか?もしあなたが逆襲を成し遂げていたら味わえなかった品だ」
いかりまんじゅうを手に取ってじっくりと眺め、そしてまた口にする。それ以外の
名産品もミュウツーは平らげ、悲しみもすでにどこかへ行ってしまったようだ。
ナツメとアカネのポケモンも温泉で英気を養い五日後の決戦へ向けて状態は上向きだ。
「ミュウツー、誰が生んでくれと頼んだ、などと言って復讐の鬼になろうとしていた
あなただが・・・新しい生き方を始めてもいいころだ。戦う兵器でも逆襲者でもない、
たとえば各地のうまいものを味わうとか・・・そんなことで構わない」
「考えを完全に改めろということか。フフ・・・私の力ではお前のバリヤード
一体すら倒せないとわかった今・・・選択肢は二つしかない。お前の声を聞くか、
命を投げてかつて研究に関わっていた者たちだけでも道連れにするか・・・!」
ミュウツーにはまだほんの僅かな迷いがある。しかしもう一押しだった。
「全てを投げ捨てるのだったらそんなことよりも世界で一番のケーキを探すほうが
よほどいいに決まっている!わたしたちと食べに行こうではないか!」
「せやせや。あんたを造った連中もほとんどとっくに死んどるわ。それか
ほっといてもそのうちくたばるようなジジイばっかや。カツラのジイさんは
まだまだ生き残りそうやけど・・・すでに改心しとる。うちが保証するで」
二人の最後の言葉を聞くと、ミュウツーが立ち上がった。温泉から出て、こう言った。
「・・・わかった。私は今日、この洞窟を出る!そしてお前たちと共に行こう!」
「おおおお!!よっしゃあ!ナツメ、あんたの六体目のポケモンが決まったで!」
ミュウツーが仲間となった。それが決まった瞬間ナツメは残った酒を飲みほして、
「くくくく、そうかそうか、いや~~よかった!これも念入りな下準備の成果だ!」
アカネはその『下準備』を持参した土産の数々だと考えた。ナツメはミュウツーに
会う前に、こんなものではいい大人は転ばないと言った。しかしミュウツーは
幼さが残っていた。つまり食べ物で釣ることができる相手だったというわけだ。
説得にもいかりまんじゅうを用いていたため、アカネがそう結論するのも当然だ。
ところがナツメはここでとんでもないタネ明かしを始めた。
「実はバリヤードはバトルの前に密かに全ての能力を一時的に最大まで高めていた。
市販のスペシャルアップやスピーダーを体に害がないように改良したものを
与えていた。ミュウツーを相手にするのだからそれくらいはしなければ・・・」
「・・・そ、そっちかい!互角の戦いは実はインチキやったなんて!バラすにしても
もっと後にすりゃあエエもんをあんたときたら・・・!!」
普通のポケモンにも力が通じないと見せかけ、ミュウツーを騙したのだ。
さぞ怒るだろうと思われたが、アカネの懸念に反しミュウツーは笑っていた。
「はっはっは、なるほど!それなら納得がいく!これは一杯食わされたな!」
「お・・・怒らんのか?」
「まさか!それも含めて戦いだ。私の負けに変わりはない。むしろこんなに早く
正直に真実を教えるその爽やかさ、ますます気に入った!ポケモンを大事にする
人間だというのもすでにわかっている。私の決定も変わることはない」
ポケモンたちにも温泉を堪能させ美味な食物を与えていたのをミュウツーは見ている。
人間さえ、更に言うなら自分さえよければ他者の命などどうでもいいなどという
ポケモン協会の権力者や研究員たちとナツメは何もかも違う。数十年抱き続けた
恨みを捨てて全く異なる生き方を歩もうという気にさせてくれたトレーナーだ。
「さて・・・来た道を帰るとしよう。酔いを醒ます散歩代わりだ」
「それ賛成や。ちょいと顔が赤いやろ、うち?温泉のせいもあるけど」
ミュウツーはモンスターボールに入らず、ナツメとアカネと三人で並んで歩いている。
寒気をもたらす強烈なプレッシャーから解放され、洞窟は心地よい涼しさだった。
そう、ミュウツーはすでに二人へ悪感情を向けていない。なのに強い憎しみを含む
突き刺すような視線を感じるのはなぜなのか。ナツメはすぐにそれを看破した。
「・・・言いたいことがあるのなら・・・コソコソと後をつけるのではなく早く
わたしたちの前に出てくるべきだ。そしてぜひ用件を教えてもらいたい」
ミュウツーは知らない、アカネはすっかり忘れ去っていたその人間はナツメの
言葉にすぐに応じ、大きな岩の裏から現れた。憤りに満たされた表情だった。
「用件・・・!?決まってるでしょ!卑怯な手を使って横取りしたくせに・・・!
その伝説のポケモンは私が手に入れるはずだった!今すぐ返して!」
ナツメたちより一足早くミュウツーを捕まえるために洞窟にいた少女ブルーだ。
彼女に直接催眠術をかけることでバトルを回避し時間と手間を節約できたが、
真っ当な手段での勝利ではないため当然ブルーは納得できなかった。
「返せ~~?何言うとるんや。もともとあんたのモンやないやろが、早よ消え失せい!」
慣れない酒の酔いが残っていたのも手伝って、アカネは普段よりも大声で威圧的に
ブルーを追い払おうとする。負け犬の遠吠えなど相手にする必要はない。ところが
ナツメは全く別の考えだった。ここで決着をつけるつもりでいた。
「アカネ、ついさっきあなたは言っていた。こいつは後々逆恨みしてわたしたちの
邪魔をするだろうと。だからこいつとの因縁はこの場で断っておくべきだ。
ブルーとやら、先ほどはすまなかった。要求通りバトルで白黒つけようではないか」
「よーしっ!話が早くて助かるわ!初めからそうすればよかったのに!」
「あなたが勝ったらミュウツーはただで渡そう。わたしもただで仲間にしたからだ。
だが・・・それでもあなただけノーリスクというわけにはいかないな。負けたら
あなたの手持ちの金と所持品はすべて没収する。加えてポケモンたちももらい受ける。
本来なかったはずのチャンスを掴むには当然リスクは避けられない・・・」
それでもやるか、とナツメはブルーを鋭い視線で見つめる。もうミュウツーはナツメの
ポケモンとなったのだからブルーが何を言おうがそれが覆ることはない。ミュウツーを
賭けてバトルをする必要がそもそもナツメにはないのだから、相手の弱みにつけ込んで
無茶苦茶な条件を吹っかけて脅しているというのは間違いだ。彼女も何かを賭けなければ
このバトルは始まらない。
「・・・・・・わかった。やってやろうじゃない、そのバトル」
「くくく、そう来なくては。そしてあなたと戦うのはわたしではなくアカネだ!
アカネに勝てばミュウツーはあなたのものだ。さあ、さっそくバトル開始だ!」
「・・・へ?うちがやるんか?相変わらずあんたのやることはようわからんで・・・」
ぽりぽりと頭をかいて困ったようなふりをしながらもアカネはバトルに乗り気だった。
ナツメはここまで未来を見通したうえで自分をこの洞窟に連れてきたのではないか、
ならば期待以上の結果を出してやろうと闘志に満たされていた。