ポケットモンスターS   作:O江原K

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第91話 青い瞳

 

アカネとブルーのバトルは終盤を迎えた。互いに最後のポケモンとして繰り出したのは

ピクシーだった。ケンタロスが戦闘不能となり、もしピクシーも倒された場合は再び

無力なピィへの変身を強いられるであろうメタモンしか控えがいないブルーは追い詰め

られていると言えるが、このピクシー対決を制することができれば逆転も十分可能だ。

アカネもミルタンクはすでに限界が近く、残るのは攻撃技のないピィだけだからだ。

 

「私たちはどんな状況でも絶望せずに生き延びてきた。こんなバトル・・・苦しいうちに

 入らないわ!ダイちゃん、あいつらに目に物見せてやろう!」

 

ブルーがダイちゃんと呼ぶピクシーの瞳は青かった。その青い瞳を持つピクシーこそが

彼女にとっての切り札であり、これで負けたら仕方ないというよりは負けることなど

考えていないと言えるほどのポケモンだった。

 

「フン・・・その子も今日からうちらの仲間になるんや。今のうちに別れを済ませとけや」

 

ミュウツーを手に入れるチャンスを得た代わりに、敗れたら所持金と持ち物を全てに加え、

ポケモンたちをもナツメに差し出すという条件をのんでバトルを始めたブルー。しかし

アカネの脅しを鼻で笑って受け流し、精神的に余裕があることをアピールした。

 

「あなたなんかのポケモンになったら不幸すぎるわ。ピィが進化していないのが

 いい証拠。懐いていないからいつまでもピッピになれない・・・」

 

「アホ言うな!あの子は自分の意志でこのままなんや!ジムリーダーであるうちのため、

 バトルに専念した生き方をしなきゃならん二人の姉さんのため・・・ずっとあの子は

 自分を犠牲にして変わらずの石を抱え生きとるんや!泣かせる話やで・・・」

 

ジムバッジを一個も持っていないトレーナーと対戦することもある。その際はこのピィを

出す以外になかった。他のジムリーダーよりもずっと少ない数のポケモンしかいない

アカネのことを考え、またピッピとピクシーのぶんまでマスコットとしての役割を

果たすため、ピィはピィのままでいることを選んだ。アカネはそう信じていた。

 

 

「・・・・・・確かに間違いではないが・・・私には読めたぞ、進化しないほうが

 みんなからちやほやされて気分がいいから、それが一番の理由だとあいつは心の内で

 考えていた。あの外見でかなり計算高いポケモンであるようだが・・・」

 

「・・・くくく、アカネには黙っていてやれ。知る必要のない余計な情報をわざわざ

 与えることもあるまい。媚びるような仕草が多いとは思ったがなるほどな・・・。

 ただ、アカネのため、姉たちのためというのも嘘ではない。黙るのが賢明だ」

 

ピィの姉ピクシー、またの名を『みよこ』というアカネがミルタンクと同じほど信頼を

寄せる実績十分のポケモンは同じ種族が戦う相手であっても戸惑いは一切ない。

 

「・・・いい感じや。平常心でいけば勝てる戦いやで」

 

「ピ————ッ・・・」

 

相手が自分より強いか弱いかは、ポケモンが一番よく知っている。ピクシーは冷静に

青い瞳を持つブルーのピクシーを観察した。自分は長い間表舞台で上級者たちと

戦ってきた経験があり、特に問題はないと感じていた。ただ一つ気になった点は、

ブルーたちのほうが恐らく共に生きてきた期間が長いということだった。

 

 

「フフフ・・・アカネ、あなたはジムリーダーになると決まってから大急ぎで

 ペットショップとかを巡ってポケモンを手に入れたらしいわね。そのピクシーも

 そのうちの一体だと・・・だから私たちには負ける!私がまだ十歳になる前から

 ダイちゃんとはいっしょだった!築き上げてきた絆はこっちのほうが上!」

 

「・・・アホか。あんたらの薄っぺらい人生とうちらの熱くて痺れる日々を

 いっしょにすんなや。格の違いを見せつけたるわ」

 

時間は短くとも内容の濃さでは完勝しているとアカネは断言した。セキエイ高原での

バトルで二戦二勝、ハヤトとカツラに勝利し快進撃は止まらない。金や権力の

ためだけにポケモンを利用しミュウツーを手にしようというブルーとは違うと

言いたくなるのも当然だったかもしれない。しかしこれがブルーたちの怒りを買った。

 

「・・・・・・呑気に何不自由なく生きてきたあなたなんかに・・・・・・

 あなたなんかに私たちの何がわかる・・・」

 

「・・・あ~~~?」

 

「私とダイちゃんの何がわかるものか——————っ!!」

 

敵を意味もなく怒らせないように、というのはつい昨日エリカを相手に学んだ

教訓だったはずだ。アカネもそれを忘れてはおらず、今回は運が悪かった。

しかし結果だけ見ればブルーに火をつけてしまったのは明らかだった。

 

 

 

 

 

ブルーはオーキド研究所で有名なマサラタウンの生まれで、後にチャンピオンとして

全国に名を知られることになるレッドやグリーンと同い年だったが、彼らとの交友は

なかった。あんな子もいる、と互いに存在だけは知っている程度の関係だった。

彼らよりも一回り大きな家に住み、何不自由なく暮らしていると思われていた。

 

しかしブルーが七歳になり、母親が突然出ていった。若い男でも作ったのだろうかと

マサラの人々は噂した。幸せそうな家庭だっただけに、刺激が欲しくなったのかと

あれこれと不毛な話を続けた。ところが事実は大きく異なっていた。理想的な夫だと

羨ましがられていたブルーの父は、毎日のように妻に暴力をふるい続けていた。

 

ブルーを残して母はいなくなったが、子どものことなどどうでもいいと思って一人で

逃げたわけではない。外では誰からも愛される穏やかな男、家でも子どもには優しく

接するのだから悪いのは自分であり、自分さえいなくなれば家庭には幸福が戻ると

考え、むしろブルーのために一人で姿を消したのだ。しかし母は見誤っていた。

自分がいなくなってもその標的が別の人間に移るだけだったということを。

 

『フ————ッ・・・この瞬間だけが生きがいだぜ。これがあるから馬鹿共に

 頭を下げるのも耐えられるってモンだ。スカッとするぜ—————っ』

 

母がいなくなって数週間後、ブルーの祖母が、父にとっては実の母が死んだ。妻に

逃げられ母に旅立たれるという不幸が続いた彼は街で悲劇のヒーローになったが、

実のところは激しい虐待の末にブルーの祖母は死んだのだ。たまに庭に来ていたので

餌やりをしていたポッポが翼と足をもがれているのを祖母の死より前に目にしていた

ブルーは確信した。あの男に良心や情はなく、次は自分の番だ。そしてその通りになる。

 

『俺は自分より弱い者を虐めるのが何よりも大好きでな————っ!!泣け、喚け、

 血反吐を吐けっ!お前の苦痛が俺を絶頂させてくれるんだからよ————っ!!』

 

幼いブルーにはわかっていた。誰に訴えても信じてはくれないだろうと。父はどうやら

他人に知られず弱者を虐げる才能がある。うまく外傷が残らないように、それでも

どうやれば痛みを与えて心を折り自分に逆らえないようにできるかを熟知している。

世間からのよい評判も、全てはこのために築いているものだ。死角がない。まだ一人で

生きていくことができず、逃げ場のないブルーは諦めるしか道はなかった。

 

 

『・・・この子・・・こんなに小さいのにどこにも親がいない・・・』

 

『ウム・・・野生のポケモンには時々あるんじゃよ、育児放棄が。こうなった

 ポケモンは他のポケモンに襲われるか飢えて死ぬしかない・・・どれ、わしが

 保護するとしよう。えーと、モンスターボールを取りに戻らねば・・・・・・』

 

その日がブルーにとっての転機だった。オーキドやマサラタウンの他の子どもたちと

お月見山に一泊二日の旅行に来ていた。仕事でその日は家に帰れなかった父はブルーが

その旅行に行くことを許可した。すでにブルーは自分に逆らえないようになっているから

大人たちに助けを求めることもしないだろうし、仮にそうしても誰一人耳を傾けない。

全く問題ないとブルーを送り出したのだが、それが彼の犯した一つ目の大きな過ちだった。

 

『・・・・・・ピ~~~~っ』

 

『私にはわかる。・・・あなたは・・・私と同じだ。目に見える傷はないけれど

 とても傷ついている。ねえ、そうでしょう?かわいそうなピッピちゃん』

 

ピッピの青い瞳からすみれ色の涙が零れ落ちた。それを見たブルーもまた涙した。

どれだけ父に暴力をふるわれ汚い罵声を浴びせられても流さなかった涙だった。

 

『あなたは私、私はあなた・・・一人ぼっち同士、いっしょに生きていこうよ』

 

『ピッ!ピ———ッ!』

 

オーキドが捕獲用のモンスターボールを何個も抱えて戻ってきたとき、すでに

ピッピはいなかった。うんざりするほど飛び出してくるズバットとイシツブテたち、

それに自分と共に来た子どもやその保護者たちしかその場にはいない。

 

『・・・ムムム!さっきのピッピはどこへ?足は速くないはずじゃが・・・』

 

『さあ・・・目を離したらどこかへいなくなってしまいました』

 

『なんと・・・それでは無事に大人になるのを祈ってやるしかできんな』

 

ブルーは平然とオーキドを騙した。落ちていた空のモンスターボールにピッピを

入れて隠した。そして彼らから隠し通して家に連れて帰った。父に黙って密かに

飼い続けようと考えたが、すぐに見つかってしまい激しい怒りを買った。

 

『このクズがァ—————ッ!!金目の物でも拾って帰ってくるかと思ったらこんな

 丸々と太った豚を連れてきやがって!親である俺への感謝はどこにもないのか!?

 今すぐに売って金にしてこい!お前がしないなら俺がやってやる、蛆虫め!』

 

テーブルに背中から叩きつけられ、ブルーはしばらく呼吸ができず動けなかった。

父はブルーに唾を吐き捨てると怯えるピッピを見て、涎を垂らしてにたりと笑った。

 

『・・・よく見りゃあ・・・いい玩具になりそうだ。強いものの言いなりになる

 負け犬の面構え・・・俺が一番好みの顔だ。予定変更だ、今日からたっぷりと

 可愛がってやる!死ぬまで手厚く世話してやるからなァ————ッ!!』

 

これが父の犯した二つ目の大きな過ちだ。ブルーは自分が虐げられるぶんには

何もしようとはしなかった。しかし『自分と同じ』ピッピが酷い目に遭うことを

断じて許すことができず、これからしようとしていることに躊躇いはなかった。

 

『フ————っ・・・今日も酒がうまい。勤勉で善良なサラリーマンへのご褒美だ。

 だが・・・これからもっと美味な食事を楽しめるんだから俺はツイてるぜ・・・』

 

酒に酔う父。これでもう十分だったかもしれないが、ブルー・・・いや、ブルーたちは

確実に事を果たそうとした。ピッピが突然歌いだし、父は眠気に誘われた。

 

『あ———・・・?まだそんなに飲んじゃいねえはず・・・・・・』

 

『・・・・・・・・・』

 

ピッピの歌でますます意識が朦朧としている父の後頭部をブルーは酒瓶で力いっぱい

殴り、その場に倒れさせた。瓶が割れても何度も何度もその頭を叩き続けた。

 

『・・・・・・』

 

流血し動かなくなったのを確認すると、すぐに家にある金になるものを持てる限り

手にしてブルーとピッピは逃走した。父は翌日発見され病院に運ばれたため一命を

取り留めたが、意識が戻らずいまだに植物のようにして生き続けている。これは

金目的の強盗の仕業だと警察は動き、念入りに調べたがすぐには事実にたどり着かず、

幼いブルーが父を殺そうとしたとわかったのはずっと後の話だった。

 

 

『ふふふ・・・ねえダイちゃん、あなたたち一族は月から来たと言う人たちもいる。

 もし月に行けたらこうして逃げ回ることもないのに・・・そう思わない?』

 

『ピピィ~~~~ッ』

 

ブルーという名も親から与えられた名前ではなく自分で決めた偽名だった。父は

言うまでもなく最低の人間であるし、娘を捨てて逃げた責任感のかけらもない親だと

母を憎んでいる彼女にとって本当の名など忌まわしいだけだった。ピッピ、やがて

ピクシーとなるポケモンを相棒に、カントーやジョウトのあらゆる地を転々とした。

さすがに月に行くというのは難しいが、二人はある目標を決め、そのために必要な

あらゆるものを揃えていった。もちろん金は何よりも必要で、家から奪った金を

元手にポケモンバトルで増やしていった。裏の勝負であり、ブルーが勝てばたった

一度のバトルの勝利で数百万円以上を手にし、その代わり負けたらブルーもポケモンも

ただではすまない・・・そんなバトルに彼女たちは勝ち続けてきた。

 

『・・・えーと・・・ちょっとお花を摘みに行ってもいいかしら?』

 

『ああ・・・便所ならそっちの奥だ。お前の出番までに帰ってこいよな』

 

これは勝てない、危険だと判断したらトイレの窓から脱出して逃亡したり、とにかく

あらゆる手段を使って危機を凌ぎ、勝利を積み重ねた。それでもブルーは盗みや

詐欺、暴力を手段とはしなかった。父を殺害しようとしたあの日を最初で最後とし、

同郷のレッドやグリーンのように表舞台で華々しく輝くことはなくても後々になって

誇れるやり方でポケモンたちと誓い合った夢を掴もうと今日まで戦ってきた。

そしてミュウツーを手にすることがブルーの夢の実現にどうしても欠かせない

パズルのピースだった。思わぬ邪魔が入ったが今回も勝ってみせる、能天気に

放言を続けるアカネを打ち倒し屈服させてやると闘志に満ちていたのだが・・・。

 

 

 

 

 

「ダイちゃん、かえんほうしゃ!焼き尽くせ——————っ!」

 

「ハッ、甘ちゃんが!焼き尽くすっちゅうのはこうやるんや—————っ!!」

 

アカネのピクシーが放つだいもんじの炎が威力に勝り、ブルーたちは押し負ける。

 

「く・・・!炎が駄目なら・・・れいとうビーム————っ!!」

 

「まーた貧弱な技を使いよって・・・ピーちゃん!ふぶきや!」

 

今度は氷タイプの技での激突。ここも勝ったのはアカネたちだ。ピクシー対決、

好勝負が予想されたが早々にブルーのピクシーは半分以上体力を削られた。

これまでの流れが影響しているのか、それとも実力差なのか。対策を考えて

いるうちにバトルが終わってしまいそうな一方的な展開になっている。

 

「・・・・・・これは私のミス。ダイちゃんは悪くない!勝負はまだ・・・」

 

「終わっとらんとでも言うつもりか?無理やろ、どう考えても・・・」

 

どんな敵が現れても対処できるようにブルーは多彩な技をピクシーに覚えさせていた。

威力よりも安定を重視し、今日まではそれがうまくいっていた。しかしいま、アカネの

ピクシーが繰り出す大技の前に勢いを殺され、パワーで圧倒されてしまっている。

 

 

(・・・ふぶきにだいもんじ・・・どうしてあいつの攻撃だけ外れずに次々と!

 いや・・・認めたくないけれど、これが私とあいつの持って生まれた天運の差。

 でも逆転の目はまだある!素早さでは・・・違う、全てにおいてダイちゃんのほうが

 あのピクシーよりも能力は高い!次の攻撃を当てさえできればチャンスは・・・!)

 

炎、氷とくればもう一つ、電気の技も用意していた。この流れであれば10まんボルト、

もしくはかみなりパンチを出すと誰もが思う。しかしブルーは博打を仕掛けるつもりだ。

 

(当たる確率は二分の一!でも・・・一回くらい私に運が来てもいいはず!かみなり?

 いいえ、ダイちゃんの必殺技は・・・でんじほう!当たれば必ずあいつはマヒ、

 ダメージだって相当入る!そこから一気に形勢はひっくり返って・・・・・・)

 

 

「・・・・・・いっつもそうや、あんたたちは」

 

ブルーが脳内で一発大逆転への道を描いていたところでアカネのため息交じりの声が

静寂の洞窟に響いた。ブルーは思わずびくっと体を震わせてアカネを見た。

 

「この流れがわからんのか?あんたが何かをやればやるほどあんたのポケモンが傷つく。

 もうバトルは決まっとるのに自分のことしか考えんでポケモンに無理させて痛い目見た

 ジムの挑戦者がどんだけいたことか・・・こんなバトル、むなしくないんか?」

 

最初からもう一回バトルをすれば展開はまた違ったものになるだろう。しかし今回は

アカネの言う通り、ブルーに流れはない。最初から躓き、それでも数回はあった機会を

生かすことができなかった。逆にアカネは自分にツキが向いていると判断したので

それに身を任せた戦法をとれた。もしどこかで失敗したらすぐに持ち前のセンスで

作戦を変え、別の方法でブルーを追い詰めていっただろう。結局のところブルーが

幾度も乗り越えてきたという大勝負は賭ける物のレベルが高かっただけであり、

バトルから得られる経験や成長は表の上級者たちの戦いと比べてあまりにも少なく、

一度崩れてしまうと人もポケモンも立て直せずに沈んでいくだけだった。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「でもなかなか楽しめたで。だからあんたを許してもエエと思うんや」

 

ピクシーに一度後ろに下がるようにアカネは指で合図を送る。バトルが中断された。

 

「ナツメはあんたが負けたらあんたのポケモンたちも没収・・・そう言うた。

 でもいま降参すりゃあそれだけは勘弁したる。ミュウツーを諦めて大人しく

 ここから消えりゃあ・・・そんなむごいことはせん。なあ、ナツメ!」

 

「うむ・・・あなたがそう言うならいいだろう。ここから見ているわたしたちでも

 大勢は決したとわかるのだから戦っているトレーナーとポケモンはもっとわかって

 いるはずだ。自分のポケモンが大事なら敗北を認め野心を捨てるべきだ」

 

これ以上ピクシーが無駄に傷つかないためにも、またそれ以外のポケモンを

奪われないためにもここでギブアップするようにと勧められた。ところがブルーは

答えに時間をかけることもなく、ナツメたちの譲歩に背中を向けた。

 

「ふざけないで!せっかくミュウツーがそこにいるというのに途中であきらめる!?

 できるわけがない!私たちが自分から降りることはない—————っ!!」

 

「ほう・・・そうか。では仕方ないな。バトルを再開・・・・・・」

 

ナツメは何かに気がついて言葉を止めた。ナツメだけではなく、ブルー、それに

ミュウツーも一目でわかった。アカネが大きな怒りに満たされている。その表情

だけではない、確かに怒りが体から溢れ出ていたのだ。

 

 

「・・・この・・・大バカがぁ——————っ!!」

 

叫びと共にアカネの全身が黄金の輝きに包まれた。覚醒した証である不思議で特別な力。

これによってトレーナーとポケモンは限界を超えたパワーを発揮する。

 

「な・・・な・・・」

 

「・・・お前にはがっかりした。自分の欲望のためならポケモンがどうなろうが

 構わない、わたしが一番嫌いでうんざりする人間だ。こんなトレーナー、ポケモン

 たちにとってはもはやいないほうがましだろう。お前のポケモンたちは我々が

 残らず引き取っていく。ポケモンたちの幸せのためにはそれが一番だ」

 

話し方も変わり、ブルーを睨みつける眼光には迫力がある。これだけですでに

ブルーは怯んでしまっているがアカネの力の真骨頂はこれからだ。

 

「ピャピピャピピ———————!!!」

 

「・・・!ピャピピャピ!ピ—————!!」

 

ポケモンの言葉を使って会話ができるようになる。しかも初めて力を発動させた

カツラ戦よりもレベルアップしている。そのときはどんなポケモンとも話せるいわば

共通語だったが、いまアカネが使っているのはピクシーやピッピ、ピィが仲間の間で

用いる言葉だった。以前よりもますます身近で親近感を覚えるものとなっていた。

 

「な、何と言っているのかわからない!私だってこの子との付き合いは長いのに!」

 

「・・・お前には一生わからないだろう。さあ、ナツメに代わってわたしが裁く!

 伝説のポケモンなど追い求めずに自分のそばにいるポケモンをもっと大切に

 していればよかったものを。だが安心するといい!お前のポケモンはわたしが

 愛情をこめて育てるしミュウツーはナツメがこれからじっくりと教育する。

 我々に歯向かったことではなくポケモンへの愛が足りないことがお前の罪だ!」

 

アカネが人差し指をブルーのピクシーに向けた。標的にとどめをさせという合図だ。

 

「ピャ———————!!」

 

最後の一撃は強烈なメガトンパンチだ。攻撃を外す要素はない。これで決着、

バトルを見ていたミュウツーがそう思い立ち上がったそのときだった。

 

 

「・・・愛が足りない?馬鹿言ってんじゃないわ・・・私たちは一つの身体も同然。

 友情や絆なんてものじゃない・・・それ以上の存在なのよ!」

 

初めてピッピと出会ったあのとき互いに抱いた思い、『私はあなた、あなたは私』。

境遇が同じ二人は種族の壁を越えてシンクロし、今日まで支え合って生きてきた。

 

「そしてミュウツーは・・・ミュウツーは絶対に私が連れて帰る!これ以上人間の

 欲望に巻き込まれないために・・・絶対に私たちといっしょに———————っ!!」

 

「・・・・・・・・・!!」

 

黄金の光をかき消すかのような勢いで、青白い炎が燃え盛った。

 

 

「こ、この青い光は—————っ!?」

 

「ふふふ・・・ここまでわたしの求めていた通りの展開になるとは・・・!

 もう一度座るといい、ミュウツー。バトルはここからが本番だ」

 

アカネと同じように、ブルーの全身が青白い光に覆われて満たされていた。


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