『・・・サカキ様・・・今、何と仰ったのですか・・・?』
『聞こえなかったのか?ならばもう一度言おう、本日を持ってロケット団は解散だ』
トキワジムリーダーとして全力の勝負を挑み、そして敗れた。タマムシの地下、それに
シルフカンパニーでの敗戦はまだ言い訳ができたが今回はそうではない。カントーの
帝王として四天王よりも強いかもしれないと言われていたサカキが同じ相手に三度も、
最後は真剣勝負で完敗した。少年レッド、彼の力は完全にサカキを上回っていた。
『解散・・・とは言ったがわたしが組織を去るだけだ。お前たちがロケット団を
この先どうしようが構わん。ただ、わたしはもう関わりを持たないということだ』
『そんな・・・!サカキ様がいなければ私たちはどの道終わりです!逆に言うなら
サカキ様さえいてくださればどんなどん底からでも復活が可能です!』
『ええ!あんなガキに負けたぐらいで解散だなんて・・・考えられませんぜ!
何なら今からあのガキ捕まえてぶっ殺せば俺たちの勝ち・・・・・・』
その瞬間、サカキが恐ろしい目つきでラムダを睨みつけたので彼は黙らざるをえなかった。
ロケット団のやり方であればそれでも勝利だ。しかしすでにその道を捨てることを決めた
サカキからすれば許し難い外道な行為だ。もしレッドに何かがあれば幹部たちはただでは
すまないだろう。サカキがいなくなるだけでなく、組織は完全に消滅する。
『わたしは誰にも知らせていない隠れ家で一からポケモンの修行をやり直す。それが
必要だと教えてくれたレッドに手出しをすることは許さん。これは最後の命令だ。
まだほんの少年に過ぎないレッドがわたしを・・・』
話はもう終わり、その雰囲気を感じ取ったアポロがサカキの言葉に異議を唱えた。
『違う!あなたを変えたのはあの少年ではない!あなたがポケモントレーナーに
戻ろうとしたのはまだ我々が絶頂にいたとき、そう・・・あの日です!
ヤマブキシティジムリーダー・・・ナツメがあなたを狂わせてしまった!』
『・・・・・・・・・』
『あやつが誰よりも最初にあなたに言ったのを私は聞いています。ポケモンたちと
向き合いよく考えろと!偉大なるロケット団を腐った偽りの帝国と罵ったことも!
もしあやつが現れなければあなたはレッドと彼に味方した謎の草ポケモン使いも
バトルの結果に関わらず、いや・・・バトルすらせずに息の根を止めていたはず。
すでにあなたは冷酷非道なるロケット団の首領ではなくなって・・・』
『・・・とうの昔に終わった事柄について詮索するのは無駄なこと、論じ合うのは
それ以上に無意味だ。ではさらばだ。お前たちも過去ではなく未来を見ることだ』
その日以降、サカキはほんとうに戻ってこなかった。幹部たちが大きな賭けに一度は
成功したコガネシティのラジオ塔乗っ取り、そのときも彼は来ずにゴールドという
新たな時代の若き英雄によって野望は砕かれた。それでも諦めない四人が組織の復活を
託したのがかつて莫大な収入をもたらした戦闘中のドーピングアイテムだった。
寿命を大幅に縮める代わりにポケモン離れした能力を得られる薬で資金をかき集めて
悪しき流れを変えようと思っていたところだったのだが・・・・・・。
「ぐ・・・ぐうううぅぅ—————っ!またか!またしてもこの女が————っ!!」
彼らの最後の希望である秘密のアジトが燃えていた。憎き敵ナツメによって。
薬の研究と開発もそこで行われており、このまま全焼すれば全てを失うことになる。
「こんなことが・・・!アジトの連中は何をやっていたというの!」
「無駄だ。あいつらはただの半端者の寄せ集め、都合のいい使い捨ての道具に過ぎないのは
俺たちが一番わかっているじゃねえか。サカキ様が去ってから団員たちのレベルは
低下していく一方だった。役立たずどもにできることなんか一つもねぇよ」
「それに加えあのナツメは悪のエリート、悪魔の擬人化と呼ぶべきでしょう。
下っ端たちはおろか、私たちよりも破壊や暴力、策略を行う点で勝っています」
ラムダとランスは覇気なく負けを認める言葉を述べてからその場に座り込んだが、
残る二人はどうしてこうなったのかを知ろうとサカキの持つ小型テレビを見続ける。
かつてサカキが彼らに言い残したようにすでに終わったことの理由や過程を求めるのは
ここでは無意味な行為だった。苦い経験や結果を反省し対策を練るのなら全く無駄では
ないのかもしれないが、彼らにもう教訓を生かせる次はないからだ。
サカキとシルバーがゴールドたちと合流ししばらく会話を楽しんでいたころだった。
ハナダの洞窟から出たナツメは、アカネがずっと寝ていないというのにいまだに
元気でいることに気がついた。ブルーとのバトルは打ち切りに終わったが、彼女との
バトル、それにミュウツーとの出会いがもたらした興奮と高揚が続いているようだ。
「アカネ、帰る前にこれからもう一つ行きたい場所があるのだが大丈夫か?」
「ん?構わんで。あんたがわざわざ行くところ・・・楽しいに決まっとるがな」
「そうだな、その期待は裏切られないだろう。軽い打ち合わせをしたら向かおう」
ロケット団がすでに死に体であり、最後の悪あがきをしているにすぎないため今すぐに
アジトを潰す必要がないのをナツメは知っていたが、早いうちにアカネに教えておく、
それはやらなくてはいけないことだった。ポケモンを利用し道具のように扱う者たちを
潰すと口で言うだけでなく、実際に行動によって皆に明らかにする方法を伝承することは。
「やつらのポケモンは弱いしトレーナーとしての腕前もないがルールのないバトルだ。
油断していると不意を突かれる。お利口さんでいると命取りになる。常に気を緩めず
判断を間違わない必要がある・・・こう説明すると難しく感じるか?今回あなたは
初めてなのだからわたしたちの後ろにいるだけでも構わないが・・・」
「ふふふ・・・ヘボ扱いすんなや。あんたに守られんでもへっちゃらや」
「わかった。では自分の身は自分で守ってもらおう!さあ、宴の始まりだ!」
ロケット団が廃工場をこっそりと利用していたカントーの海沿いの土地は、警察はおろか
一般人すら寄りつかないような悪事に最適の場所だった。誰も来ないとはいえ警備は
二十四時間厳重にと幹部たちは命じていた。こんな時に備えてのものだったのだが・・・。
「・・・な、な、何者かが近づいてきます!堂々と正面から!」
「二人いるのか・・・!あ、あいつらは確か—————っ!」
ナツメとアカネはこっそりと潜入するのではなく、団員たちの大勢いる正門から
攻略を開始した。二人に気がついた団員たちが十人ほどやって来たが問題なかった。
「ヌゥゥ~~~~~ン・・・ハ—————!!」
「ギャア——————!!」
圧倒的な力を誇るあのフーディンに比べたら劣るが、それでも並のポケモンでは
運に恵まれた勝ちすら望めない、ナツメのポケモンのなかでもベテランであるオスの
フーディンのサイケこうせん。屈強な男たちが紙袋のように宙を舞った。
「ハッピャア——————!」
「侵入者発見!今すぐ排除・・・・・・ぐばァ—————・・・」
それに続いてアカネのハピナスがタマゴばくだんを投げつけた。これまた面白いように
団員たちを次から次へと吹き飛ばす。あっという間に広い入口ができた。
「クソアマどもがロケット団をナメてんじゃね————っ!」 「死ね————っ!!」
死角から刃物を手にした団員が二人飛びかかってきた。しかしすでに備えがあった。
「こう来るのは予測済み・・・逆にやりやすいくらいです!」 「ピャ———!!」
「うげっ・・・!」 「ゴガッ!ゴボボボ・・・・・・」
スリーパーとピクシーのダブルメガトンキックが炸裂した。この二体が本気の蹴りを
人間に食らわせたら内臓が破裂するどころか全身が粉々になって即死するだろう。
死なない程度に痛めつけておいてナツメたちは先を急いだ。
「これが今までわたしに限らずレッドやゴールドが経験してきた戦い、凌いできた
戦場だ!なかなか適性があるようだな、あなたは!」
「せやろ~?これからあんたといっしょにガンガン悪党どもを懲らしめなアカン!
その初陣からコケてたまるかい!まだまだいけるで————っ!!」
アカネの威勢のいい返事にナツメは黙って頷くだけだった。アカネは今後末永く
ナツメとのタッグを組んでこんなバトルをやるものだと意気込んでいるが、ナツメは
これが最初で最後だと思っていた。対抗戦がどんな結果に終わろうが自分は消えて
いなくなるのだから今のうちに教えておかなくてはならないと襲撃を強行した。
アカネが他の気の合う者と、もしくはたった一人でも戦えるようになるために。
「くそ———!!いけ!ズバット!デルビル!」 「ゴーリキー、ヤミカラス!」
「うちらにポケモン勝負を挑むとは底なしのアホやなぁ———っ!」
一斉にポケモンが放たれた。アカネは笑いながらモンスターボールを一個だけ手にした。
「シンシア、遠慮はいらんで!全員ぶちかましたれ!」
「ビガ————ッ!!ヌゥゥ—————ン・・・・・・」
シンシアと呼ばれるカビゴンが堂々と登場した。呼吸を整えて力を溜め、準備万端だ。
「ビガッ!ゴ—————ン!!」
得意のずつきを決めると、ロケット団のポケモンたちはもれなく一撃で沈んでいった。
「ギャオ———!!」 「ゴガッ・・・」
実戦経験に浅いはずのこのカビゴンが自信満々に敵たちを粉砕し続けているのは不思議な
ことではなかった。何せデビュー戦でカツラのウインディを相手にしたのだ。あれほどの
強敵に比べたら下っ端たちが支給されたろくに訓練もされていないポケモンなど同時に
何体襲いかかってこようが全く気にせず打ち倒し続けられる。獲物が増える一方だ。
「・・・ふふっ、アカネもカビゴンもまだ若いからってサポートを頼まれたけど・・・
これなら私の出番はなさそう。彼女たちが期待以上だったのかナツメが心配し過ぎたか。
このままいけばその両方ということになるかしら」
バリヤードは何も手出しする必要がなかった。危ないと感じる場面は一度も来なかった。
「くそ!やっぱりランス様たちの言う通りだ!確実に殺したいならポケモンよりも!」
幾人かが銃を構えて今にも発砲しそうだったが、こんなときのためにモルフォンがいた。
「ふ———っ、怖いっすね。私たちにそんな弾は当たらないとはいえアカネどのたちには
危険っす。でもせっかく出したのだから一発くらいは撃たせてあげるっすよ!」
モルフォンの身体からちょうおんぱが放たれた。正気を失った団員たちに敵味方を
区別する思考はなく、とにかく近くにいる人間に対して銃口を向け、躊躇わず撃った。
「あぎゃ——————!!」 「か、肩が!おれの肩が!あ、あいつらの仕業か!?」
同士討ちを始め、味方を撃ってはお返しに撃たれるという地獄絵図だ。
「ピッピィ~」 「ぴぃ~~っ」
「・・・ぐっ・・・こんなときなのに眠気が・・・駄目だ、意識が・・・・・・」
直接の攻撃や怪しい超音波を免れたとしてもピッピとピィの歌声で次々と倒れていく
武器を持った団員たち。すでに半壊というよりは完全なる崩壊に近かった。
「・・・何かうるさいな・・・でも私たちはここの警備だって言われてるし・・・」
「うぱっ!うぱ————っ!」
アジトの最深部、薬の資材と残る軍資金が眠る倉庫を守っているのは実はたった
一人の下っ端団員しかいない。ここまで来れる侵入者などいないので一人で十分ということ
だった。ウパーを連れたこの女団員は事態の重さをわかってはいたが慌てることなく
持ち場に留まり続けていた。肝が据わった大物だというわけではない。ここで終わって
しまうのならそれでも構わないという気力に欠けた不真面目な団員だっただけだ。
「海の近くが最後の場所かぁ・・・何だかんだで海からは離れられなかったな」
「うぱ?」
「ひとり言だよ。ウパっちは海よりも川や湖のほうが好きでしょ?いろんな思い出が
あるけれど・・・わざわざ傷ついてまで行くことはないよ」
ウパーの頭に何回か優しく触れてから彼女は床に座って目を閉じた。
『あははっ!今日も海にポケモンたちがたくさんいる!誰と遊ぼうかな?』
彼女は海のそばの街で生まれ育ち、水生のポケモンや飛んでくる鳥ポケモンは
幼いころからよく知っていた。恐れることなくポケモンたちと触れ合い、そのために
勢いよく海へ飛び込む姿に、少女でありながら街で一番の野生児『ワイルド・ワン』と
呼ばれていた。彼女の夢はただポケモンと暮らすことではなく、トレーナーだった。
『やっぱり格好いいなぁ、カンナさん。こんなトレーナーになりたいな・・・』
自分と同じく海の街出身で当時は四天王として人気も実力も絶頂期にあったカンナに
憧れ、水や氷のスペシャリストとして最高峰のリーグの舞台に立ちたいと願っていた。
しかしトレーナー資格が得られる十歳のとき、最初の挫折があった。彼女の田舎街には
ポケモンスクールが存在せず、資格を得るには特筆すべき何らかの才能を見せることが
必要だったが彼女にはそれがなかった。ポケモンと遊ぶことはできてもトレーナーと
しての素質は並以下だった。ポケモンたちがすぐそばにいるぶん、正式なトレーナーに
なれないことが一層辛く感じた。しばらく夢を捨てていた時期があったが数年後、
『・・・私はしばらく街を出る。ポケモントレーナーになるチャンスを掴みたい!』
『そうか、君が決めたのなら応援するよ。ぼくは君が歓喜して帰るのを待っているから』
恋人に誓った、資格を得るための試験合格。街を離れて勉強を重ね、これなら合格は
間違いない、並々ならぬ決意とその甲斐あっての確かな手応え。だが、それでも運命は
彼女に味方しなかった。まさかの不合格、また一年待たなくてはならなくなった。
『そんな・・・確かに自己採点では・・・!どこか見落としていた・・・?でも・・・』
実のところ、彼女は合格していたはずだった。しかしセキエイのポケモン協会本部の
重役たちの息子や娘、更には彼らと付き合いのある企業の者たちを裏口で合格させる
ために彼女は弾かれてしまった。そのときの試験は特にそのような不正を働く人間が
多く、真っ当なやり方で正式なトレーナーになりたいと願う人間にとっては厳しい
試験となった。努力や知識よりも財力とコネが重視される時代になっていた。
『・・・・・・しょうがない。来年また頑張ろう。もう一度・・・』
一年も間が空くので故郷の街に戻った。自宅よりも先にポケモンたちと、そして恋人との
場所である海に行ったが、そこで目にしたのは別の女性と抱き合っていた恋人だった男の
姿だった。ポケモンたちも自分ではなく自分よりもポケモンと心を通わせる資質のある
若い子どもたちのほうに集まり、そのまま都会にUターンするには十分な仕打ちだった。
『・・・・・・・・・』
夢や希望を抱いていたあの日々にはもう帰れない。思い出の渚に一人でいたところで
慰めではなく悲しみが増すだけだ。ここでもし彼女の心が完全に折れていればそれは
それでよかったのかもしれない。ところが彼女は見つけてしまった。トレーナーとして
生きていく手っ取り早い方法を。汚い壁に貼られたとある組織の人員募集のポスター、
彼女はそれに誘われることを選んだ。首領サカキを失い日に日に衰退していく勢いを
どうにかして回復させようというロケット団が仲間を集めようと必死になっていた。
『うん・・・いいね。キミひょっとして正規のトレーナーだった?それともどこかで
勉強していたか・・・腕があるよ。キミなら最初から二匹あげちゃってもよさそうだ』
『ありがとうございます!どんな仕事も頑張ります!』
ズバットとコラッタが支給された。ロケット団に入ればすぐにポケモンが手に入る。
組織そのものと活動内容が非合法であるから資格などなくてもバトルができる。
望めば偽造したトレーナーカードを手に入れることが可能だ。それにより金儲けと
悪事がますます順調になるのなら組織は喜んでその要望に応えていた。
『じゃあキミはチョウジタウンのアジトに行ってね。詳しくはあっちで聞いて』
『チョウジ・・・ジョウト地方ですね、わかりました』
ポケモンが好きなはずの彼女がポケモントレーナーとなるにはポケモンを利用し虐げる
ロケット団に入るしかなかったというのだから皮肉な話だった。周りの団員たちは
金さえ入ればそれでいい、とにかく好き勝手暴れられたら満足、裏社会でのし上がりたい、
そう思っているような連中ばかりだったので彼女は一人でいることが多かったが、
ポケモンを虐待したり殺害するような他の者たちは別に何とも思わない朝飯前、でも
彼女にとっては大きな試練となる任務を与えられる前にそのアジトでの仕事は終わった。
『カイリュー!はかいこうせんだ!やつらも装置も全て破壊しろ!もうすぐ
ゴールドくんもここまで来るだろう!その前に数を減らしておくぞ!』
『ガオオオオォォ—————ン!』
チャンピオンのワタルがトレーナーの少年と共にアジトに乗り込んできて、団員たちを
倒しては先へと進み、あっという間に戦場のような光景になってしまった。
『こうなりゃ時間稼ぎだ!ポケモンどもをまとめてあいつらに襲いかからせろ!
その隙に幹部たちを逃がして必要な物も持ち出すんだ、早くしろ———っ!!』
『了解!いけっ、肉壁ども!死ぬ気で戦えよ!むしろ死んでこい!』
ワタルのカイリューや少年の優秀なポケモンたちと戦うなら負けるのは当然、命を
落とすかもしれないほどレベル差があったがお構いなしにポケモンを投げつける。
愛情もない、世話もしない、いざとなったらこうして飛び道具代わりに扱う。
そんな団員たちと彼女は違っていた。激しい戦闘のどさくさに紛れて外に行き、
コラッタとズバットをボールから出した。すると二体ともすぐに逃げ去っていった。
『振り返りもしないで一目散かぁ・・・助かったのはよかったけどショックだな。
これじゃあポケモントレーナーの才能がないわけだ。他の人たちと違って
ちゃんと面倒を見たのにちっとも懐いてくれなかった。がっかりだな・・・』
溜め息をつきながらちょうどいいところで皆と合流するために様子をうかがうことにした。
すると、彼女の足に何かがぶつかってきた感触があった。それに気がついたときにはすでに
腰に、そして肩、最後には頭にまで移動していた。そこそこの重さがあったので無視する
ことはできず、頭の上にいた何かを両手で持ち顔の前に移した。それはポケモンだった。
『えっと・・・確か・・・ウパー!こんなにそばで見るのは初めてだ!』
『うぱ!うぱぱっ!』
水ポケモンでありながら彼女の故郷の海では見かけなかったウパーだ。海ではなく
湖が主な生息地であったのも出会いがなかった原因だろう。このウパーは一度は
人間に捕獲されたが、期待に応えられず処分されるところを実験用のポケモンを
集めていたロケット団によって回収された。チョウジタウンのアジトでは怪電波を
放ち異常なポケモンを作り上げていたが、このウパーには強さの変化も体色の変化も
見られず、そのままアジトの外に捨てられてしまっていた。
『二回も人間に捨てられたのに・・・どうしてまた?』
『うぱ————っ!』
『ふふ、それもそうか。人間が好きじゃなくてもこんなところに放たれたら人間に
頼るしか生きる方法はない・・・私といっしょに来たいということだね?』
支給されたポケモンは二体ともいなくなってしまったのでちょうどよかった。
彼女の理想とはかなり離れていたが、念願の水ポケモンが自分の手持ちとなった。
『ならまだまだロケット団で頑張らないと。ウパっちのご飯代も必要だからね。
戦いが落ち着いたら皆のところに戻って新しい仕事をもらおう』
その後彼女はラジオ塔の乗っ取りには駆り出されず、このアジトでの勤務に回っていた。
ポケモンに並外れたパワーを与える薬の開発を間近で目にしていたが、仮にこれが
大量生産できるようになっても使いたいとは感じなかった。
『これは違う。私の憧れていたポケモンバトルとは全然違う。夢や感動がちっともない』
『うぱ~・・・・・・』
それでもウパーのためにとロケット団を去ることはせず、気分の晴れない毎日を
過ごしていたが、望み通りかそうでないかはさておき、それは唐突に終わりを告げた。
「お——いナツメ———っ!ここがゴールのようやで!案外早く終わったなぁ!」
「ああ、まさかここまで敵の侵入を許すとは思っていなかったのだろう。奥へ進めば
進むほど戦いが楽になるとはこいつらの愚かさと人手不足は深刻だな。あとは
そこにいる下っ端を倒してこの施設のメインを破壊してやればいいというわけだ」
彼女が思い出に浸っているうちにこの二人が到着してしまっていたからだ。