海辺にある廃工場を利用したロケット団最後のアジト。その最深部のフロアを
たった一人で警備していた下っ端の女団員のもとに早くも侵略者がやって来た。
ナツメとアカネはすでにこの施設と団員たちに壊滅的な危害を加えていた。
容赦のない二人を前にここで死んでもいいかと考えていた無気力な女もさすがに
身がすくんだ。だが連れているウパーを動揺させないためそれをどうにか隠した。
「うぱ————・・・・・・ううっ」
「大丈夫、大丈夫だから怖がらないで。よしよし、そこで待っててね」
そしてウパーを守るようにして前に出て、ナツメとアカネに向かって語りかけた。
「まさかこんなところまで入りこまれるなんて・・・あなたたちたった二人で?」
「ああ。わたしたち、それにわたしたちのポケモンがあなたの仲間の役立たずどもを
粉砕した。ゴミがいくら集まってもそれ以上のものにはならないのだから当然だ」
「みんな頑張ってくれたで。最後はうちらもいっしょに戦ったけどな!」
ポケモンたちだけでなく、ナツメとアカネも敵を打ち倒していた。ナツメは超能力で
目には見えない刃を作り出して相手を切り裂き、大の男たちを沈めていった。
『うりゃあ!そりゃあ!こいつもくらえ—————っ!』
アカネはパンチで敵を倒し、机や備品を投げつけたりしてとどめをさしていた。
『・・・あまり危険な真似はするな。それはわたしやあなたのポケモンに任せて・・・』
『何を言うとる。うちだけ安全なとこからボケーっと見とるなんてありえんわ!』
ポケモンへの愛情と友情に満ちている。勢いに任せた前のめりすぎる激しい気性は
心配の種だが、何よりも大事なものを溢れんばかりに持っていることを行動で
証明したアカネにナツメは口にはしなかったものの合格点を与えた。これならば
次回、自分が去った後もこのような戦いで勝利を収めることができるはずだと。
「途中で毒ガス攻撃に襲われずに来られたってことは・・・先にそっちに?」
「あんたらのやり方なんぞナツメはとっくにお見通しやった!」
最終手段として、一部の下っ端を道連れにすることになるが侵入者のいるフロアに
毒ガスを放ち危険な進攻を終わらせるシステムがあった。その装置はこの最深部とは
別の部屋で発動できるようになっていたが、機能せずに終わっていた。
『こうなったらアレを使うしかない!俺たちはあなぬけのヒモで逃げるから今すぐやれ!』
カメラの先の仲間に呼びかけて毒ガスを撒くように要請する。しかしそれに対する
返事の放送は団員たちに絶望を与えるものとなった。陽気でへらへらとした声が響く。
『ハーイ!残念ですが何も起きませ———ん!いつまで待っても無駄で———す!』
『・・・だ、誰だきさまは!?何をしやがった!?』
『私はエーフィ、ナツメちゃんのポケモンだよ!私がこの部屋の人間たちをみ~んな
汚いボロ雑巾にしちゃったから安心してナツメちゃんたちに殺されちゃってね!』
ナツメはエーフィを先に送り込み、フロア全体に有毒なガスや爆弾を放つような
システムの元を断つように指示していた。これまでの戦いでエーフィだけ一度も
出てこなかったことにアカネは疑問を抱いていたがここでその答えが出た。
『いかに力の差があっても敵の陣地に入るのだから警戒を怠ってはならないということだ』
『ほ——っ・・・勉強になったで。ちゃんと準備せんとなぁ・・・』
勇気や正義感、閃きや熱心さだけでは勝てない。勝つための備えをして初めてそれらが
生きる展開になってくる。通常のポケモンバトルでもそれは同じだった。
「ははは・・・ちょうど幹部たちがいないときに来たというのも運まであなたたちの
味方だったってわけね。ま、正しいことをしようとしている人にツキが向くのは
当たり前か。そうじゃなかったらいよいよこんな世の中どうしようもなくなっちゃう」
「運があるとかないとかわたしたちのしていることが真に正義の行いなのかとか、
そんな話はどうでもいい。あとはあなたの出方次第だ。武器を持っているのなら
使えばいい。そこのウパーでポケモンバトルを挑んできてもいい。いずれにしても
あなたに勝機はないのだからせめて悔いのないように戦えばいい」
ロケット団復活の秘策である薬に必要な原料と組織の活動資金の全てが管理されている
部屋だ。それらを守るために命と引き換え、つまり自爆もあり得るという場面だった。
大量のマルマインやビリリダマが出てくるか、この下っ端がダイナマイトでも
所持しているか・・・ナツメは少しでも不審な動きがないか彼女を注視していた。
ところが、全くの拍子抜けな展開が待っていた。あっさりと道を譲られたのだ。
「いやいや、勝てないんだから戦うわけないでしょ。どうぞ、好きなようにするといい。
お金が欲しいならぜんぶ持って行って構わないしポケモンに害を与える薬の研究を
やめさせたいのなら部屋の奥にあるあの大きな機械を壊しちゃってちょうだい」
「やけに素直やなぁ。何か企んどるとちゃうか?」
「奇襲攻撃なんかしたってすぐに反撃されるだけだし、自爆なんかもっと無駄。
あなたたちに殺されるのなら仕方ないけれど自分から死ぬのは馬鹿らしすぎる。
死ぬんだったらもっと早く、夢が叶わなかったときに死んでた。さあ、どうぞ」
「・・・嘘は言っていないようだな。組織への忠誠心がないこんなやつが最後の砦とは
予想外だったが無意味に命を散らすよりずっと賢明な判断だ」
彼女が無抵抗の降伏を選んだのは自分の命が惜しかったからではない。戦闘になって
ウパーが倒されて死ぬことだけが怖かった。このウパーだけが彼女のポケモンであり
真の意味での友だったからだ。チョウジタウンで出会った日からずっとボールにも
入れずに共に過ごし、ますます他の団員たちから浮いてしまい孤立するようになったが
構わなかった。きちんと世話をして食事を与えていたので何もしていない同僚たちの
ポケモンに勝つ自信はあったが、ナツメとアカネのポケモン、合わせて十一体を
敵にすることはできない。一対一でも話にならないような強豪トレーナーが相手では。
「あれを壊せばエエんやな!ウマいところはうちらが決めたるで!ラジオ塔が
ロケット団にやられたときうちがコガネにおらんかったせいでゴールドのクソガキに
手柄を取られてもうたからな・・・今回はそうはいかんで!」
「ああ。こいつを潰せばロケット団はほんとうにおしまいだろう。あのレッドやグリーン、
ワタルやゴールドはロケット団と戦いながら完全に息の根を止めることはできなかった。
それをいま成し遂げることであなたはこの点において彼らを超えることになる!」
アカネはミルタンクを出すと、共に標的へと近づいていく。ちょうどいい地点から
はかいこうせんを放ち、ポケモンに大きな害をもたらすドーピングアイテムを製造する
機械を粉々にしてしまうためだ。ナツメの言葉によれば近年の歴代チャンピオンたちは
皆ロケット団と激しい戦いを演じ、勝利を収めている。それでも滅ぼし尽くすには
至らなかった悪党たちへの最後の一撃を自分の手で、ということに心が躍った。
「あはは・・・!あんたの言う通りやナツメ!世界一のトレーナーになるためには
ゴールドもレッドも軽々超えにゃならん相手や!その第一歩をいまここで・・・!」
我を失うほどではなかったが、息が荒くなり顔は紅潮していた。ミルタンクからすれば
いつものことなので気にしなかったが、それを見て危ないと思ったのはウパーだった。
こいつらは自分の主人の敵なのは確かであり、戦う意思がないのに今にも危害を加えようとしている。アカネの異常な発汗や興奮を殺意だと勘違いしてしまったのだ。
「よーし!ここが一番のポイントや、うちの直感がそう言っとる!ミルちゃん、一発で
決めたれ!まあ失敗しても何回でもやりゃあエエだけの話やけど・・・でも手加減は
いらん、全力のはかいこうせんを食らわせたれ—————っ!!」
「ミルッ!モ———・・・モガァ———————ッ!!」
ミルタンクが破壊光線を放とうとした瞬間だった。小さい何かが猛突進してきている。
「うっぱ————————っ!!」
「何やこいつ!?ミ、ミルちゃん!」
「・・・ウ、ウパっち!」
ミルタンクと自分の力の差くらいウパーもわかっている。しかし決死のダイブを敢行した。
最初のトレーナーに捨てられ、拾ってくれたロケット団も期待はずれだったと再び自分を
捨てた。だがこの下っ端は愛情を注ぎ育ててくれた。他に誰もいない寂しい場所での
地味で出世に関係ない仕事を選び、自分との時間をたくさんとってくれた。命を
賭けた攻撃に躊躇いはなく、ミルタンクの足元を襲った。
「・・・モガガ・・・!?ガァ—————ッ!」
もちろんミルタンクにとってウパーの攻撃は脅威ではない。この突進のせいで狙いが
定まらなくなってしまうのが問題だった。十分に成長していないウパーに光線が
当たったら死んでしまう。悪い体勢からどうにかウパーを避けて機械目がけて
はかいこうせんを放つしかなかったのだが、ただでさえ大技の発動中であるのに
器用なタイプとは呼べないミルタンクには難しいことだった。技は中断できず、
はかいこうせんはターゲットを貫いたが狙いと違う箇所に着弾した。
「・・・ミルちゃん!で、でも攻撃は成功や!威力十分!」
「いや・・・待て!これは・・・・・・」
忌まわしい機械は破壊できた。だが、その残骸の崩れ方が想定とは大きく変わってしまった。
「アカン!こっちに崩れてきそうや!戻れ、ミルちゃん!」
アカネはすぐにモンスターボールにミルタンクを戻して安全なところまで逃げた。
だがウパーは恐怖のあまり動けないのかもしくは初動が遅れたのか、このままでは
鋼鉄の雪崩に飲み込まれてしまう位置にいた。アカネのようにモンスターボールの力を
使えばウパーを回収できたのだが、いつもボールに入れずにいたのが仇となった。
「うぱ・・・・・・」
「・・・もう間に合わん!下敷きや————っ!」
そのときだった。下っ端の女はウパーのもとにまっすぐ走っていた。つい先ほど
ウパーが見せたような、迷いのない駆け方だった。そしてウパーに覆いかぶさる。
「うぱっ!?」
「けっこう・・・余裕で間に合うじゃない。諦めなくて正解だった・・・」
50センチにも満たないウパーならこうすれば完璧に守ることができる。彼女も
自分のポケモンと同じく、友のためなら死を恐れずに自分の身を差し出した。
短い生涯の最期があと数秒に迫っても自然と穏やかな気持ちでいられた。
(今ならわかる。もしかしたら私の全てはこのときのために・・・)
ポケモントレーナーになりたかった夢が叶わずに故郷の街を離れ、ロケット団に入り
ウパーと出会ったのも、その命を守るため。そう考えれば、何のために生きているのかも
わからずにいた日々も無駄ではなかったと救われた気がした。
「うぱっ!うぱぱ————っ!」
(・・・初めはあなたのこと・・・水ポケモンだけど私の好みじゃないって思って
ごめんね。でも短い間だったけれどここまでの友だちになれたのは嬉しかった。
ちょっとだけ鍛えてあげられたしこれからはどこかの湖か水辺で静かに暮らして
いけるだろうから・・・あまり危ない海には近づかずに・・・・・・)
もうそろそろだ、と目を閉じた。野生に帰ればそのうちウパーも自分との思い出を
忘れてポケモン本来の幸せを得られると信じていた彼女は、最後まで未練や後悔
ではなく、ウパーのことを気にかけていた。幼いころからポケモンが好きだった
彼女にとって、これは理想の死に方だったのかもしれない。
「う、うぱ——————っ!?」
「・・・・・・・・・」
ウパーの声が聞こえる。親や古くからの友人にも見放されたのだからこのウパーに
看取ってもらえるのなら出来過ぎだ。いい加減崩壊した鉄屑の山が襲ってくるはず、
そう思ってはいるがなかなかやってこない。死の間際は時間が遅く感じるようになると
聞いたことがある。しかしこれはどう考えても違う。閉じていた目を再度開いた。
「あ・・・ああ!これは——————っ!?」
巨大な機械は確かに寸前まで迫っていた。ところが驚くべきことに、全てが空中で
止まっている。あと一秒か二秒で到達したであろうそれらが、時間が静止したかの
ようにピタリと動かずに宙に留まり続けていた。これは夢ではない。その現象を
起こしたポケモンたちが彼女とウパーを守るようにして囲んで立っていたからだ。
「ふ————っ・・・間一髪だった。ボールから出たタイミングが最高だった」
「ここしかないというところで私たちを同時に繰り出した。大したものだわ」
ナツメの五体のポケモンが一斉に念力を使い崩れ落ちる金属の塊を制していた。
ポケモンたちに遅れてナツメがその輪に入ってくると、下っ端の女はすぐに尋ねた。
「どうして私たちを助けたの?私たちは敵だというのに」
「ふふ・・・簡単な話だ。救出に失敗したら今回の活動は全て無駄、それどころか
わたしたちの敗北という結果に終わっていた!ここが勝負所だった」
下っ端の女だけでなくアカネもナツメの言葉に耳を傾けていた。次にナツメが
何を語るか、ぜひ聞きもらしたくないと思っていた。
「あなたたちが見せた人とポケモンの真の友情の証!ロケット団のアジトでこれを
目にすることができるとは嬉しい誤算だった。わたしたちが除き去ろうとしている
連中とは正反対の素晴らしい姿だ。もしあなたたちを死なせてしまったならわたしの
罪は許されないものとなっていた。ほんとうに紙一重の差で間に合ってよかった」
「・・・それでも私は短い間ではあるけれどロケット団として・・・」
「社会で尊敬されているトップリーグのトレーナーの中にもポケモンを冷酷に扱う
人間はいる。大切なのは肩書きや所属している団体ではない。あなたがそのウパーを
心から愛し育てたからこそあなたのためにウパーはミルタンクに挑んだ。ポケモンは
わたしたちが思っている以上に善人と悪人を見分けることができるものだ」
まだ記憶に新しい、ナツメがエリカを試すために偽の殺意を持って彼女に近づいたときの
出来事をアカネは思い出した。バトルで瀕死状態になるほど傷ついていたポケモンたちも
身体を動かしてエリカの盾となって守ろうとした。命令などなくても愛する人間のため
ならポケモンは命を差し出す。トレーナーもまたポケモンのために死を恐れない。
この建物で次々と襲ってきたロケット団員たちはポケモンを盾にして逃げようとしたが、
彼らのポケモンは少し攻撃を食らうとすぐに倒れた。トレーニングが足りないせいで力が
ないというよりは、あんな人間のためにこれ以上やってやれるか、といった様子だった。
殺されてしまう前に戦闘不能をアピールしてくる。あとは好きにやってくれと。
「・・・うちにもわかったで。あんたは他のロケット団とは違うみたいやな。
そこまでそのウパーと絆を深められた理由・・・よかったら教えてくれんか?」
「わ・・・私もこの子も・・・誰からも必要とされていない落ちこぼれだった。
ロケット団に入って幹部の人たちからどんな優しい言葉をかけられても結局は
使い捨てなんだってすぐにわかった。ウパっちも最初のトレーナーにゲットされて
とてもうれしかったはずなのにいらないからって捨てられて・・・夢が破れた
弱くて寂しい者同士、一目見たときから他人には思えなくて今日までずっと・・・」
「うぱぱ~~~っ・・・・・・」
四天王カンナのようなポケモントレーナーになりたかったという彼女の夢も、才能ある
トレーナーと共に勝利を重ね喜びを分かち合うというウパーの夢もすでに絶たれた。
だからこそ二人は出会い、親しい友となったのだ。そのことも彼女は全て話した。
「ウパっちのためならここで死んでもいいって思えたしそのつもりだったのになぁ。
私はそのために生まれてきたのかも、なんてバカな気持ちになれたのも・・・」
「・・・あなたの言うことは正しくない。そのウパーと出会い友となるために生まれた、
それは認めよう。だが死んでもいいなどというのは間違いだ!それにすでに夢が
終わったかのような諦めた口調・・・その誤りもわたしたちが正してやろう」
救いの手を差し伸べようとするナツメ。それを下っ端の女は嬉しく思ったが
首を横に振って拒んだ。今からではもう遅い、間に合わなかったと。
「いいえ・・・ロケット団に入ってしまった以上自分から抜けることはできない。
幹部たちがどこまでも追いかけてきて死の制裁が下されるだけ。それにここから
出てもトレーナー資格のない、しかも元マフィアの構成員という私は・・・」
「フン、死の制裁だと?くだらんな。絶頂期であればあり得る話だがこの現状で
去っていった者を追うような余裕があるとは思えん。脅しにしても質が低い」
事実はナツメの言う通りだった。ゴールドたちに野望を阻まれて完全に後がない
彼らはこのアジトでポケモンを異常に強化する薬の開発に成功しなければ終わりだった。
「しかし・・・どうやらあなたはつい最近ロケット団に加わったようだな。
三年以上前・・・まだあの男がボスであったときであればこんな陽の当たらない
雑用ではなくポケモンの管理や育成といった本来あなたの望む仕事を与え、
待遇もずっとよかっただろう。あの時代は失態を犯した団員への制裁が確かに
行われていたがポケモンを愛する者をあの男は手厚く扱っていた」
「・・・・・・?」
「道を踏み外してはいても・・・ふふっ、何年たってもやっぱり変わらなかった。
純粋な瞳で最強になると誓ったあの日から・・・これならわたしが何もしなくても
遅かれ早かれ復活を遂げていたんだろうな。彼ならきっと・・・・・・」
急に穏やかな口調になって微笑むナツメ。それも自分に言い聞かせるように話して
いたのでアカネと下っ端からしたらまるで意味がわからなかった。
「・・・ナツメ?あんたさっきから一人で何をブツブツ言うとるんや?」
「あ・・・ああ。いや、何でもない。説明するまでもない些細なことだ。
いま重要なのはわたしではない。あなたたちがどうするかを聞いている!」
ナツメは話を自分から下っ端の女と彼女のウパーに移した。わざわざ救出したのだから
このアジトから安全に外へ解放するという保証がある。あとは返答次第だった。
「・・・・・・私はロケット団として自首しようかな。このアジトのことも話す」
「・・・うぱっ!?」 「・・・・・・・・・」
「だから・・・このウパっちのことはあなたたちにお願いする。私なんかより
よっぽど才能のあるトレーナーに育ててもらえばきっと一流のポケモンとして
幸せになれるはずだから。何ならあなたたちがそうしてくれたら安心して・・・」
ウパーのためを思っての言葉なのだろうが、ナツメより先に我慢できずに動いたのは
アカネだった。下っ端の胸元を掴むと激しい炎も同然の熱情は止まらなかった。
「アホが!あんたほどその子をうまく育てられるやつはおらん!あんたはトレーナーの
センスはないかもしれん、でも・・・ウパーというポケモンを育てる、それに関しちゃ
誰にも負けんはずや!他のポケモンに相手にされんでもウパーだけは・・・」
「そ、そんな限定的なスキルがあるわけが・・・」
「ええい、まだるっこい!その弱気・・・こんな服を着ているから悪いんや!
ロケット団の格好なんか今すぐやめてまえ————っ!!」
力任せに上着を破り捨ててしまった。暴走はそれだけに留まらず、そのまま
スカートまでも剥ぎ取り、下っ端の女は下着しか身に着けていない状態になった。
「な、な、な、なな—————っ!?」
「ふっふ~ん、これでエエ。素っ裸になって綺麗に一から出直しと・・・あがっ!!」
「うぱ——————!!」
いいわけあるか、というウパーのキックが炸裂した。突然の暴挙に憤るのは当然だった。
顔を蹴られ思いっきり転がったアカネだったがすぐに起き上がり自分の荷物を漁ると、
「あはは・・・なかなかの蹴りやないか・・・あんたのご主人の代わりの服は
あるから安心せい。このリニア団Tシャツの試作品、誰でも着れるフリーサイズや!
下はまあ適当に・・・あそこのロッカーの中にあるんやろ?」
ナツメと結成したリニア団、その団員の証であるTシャツを取り出して渡した。
まだ未完成であるが、中心にリニアを描いたデザインはほとんど固まっていた。
「これは・・・私が着ても?」
「当然だ。そのままでは困るだろう。しかしアカネもただ服を破った詫びに渡した
わけではない。あなたを仲間として認め、迎えたいという気持ちからだ。
強引な力技になってしまったが・・・わたしたちの思いは伝えた」
「・・・・・・あなたたちと共に行けと・・・」
「ああ。ただこの場をやり過ごすためではない。あなたとウパーの夢をやり直す
ためにもな。そのウパーだけでこいつから認定バッジを奪い取れるくらいの
トレーナーになってみせろ!それだけの素質と正しい心があるのだからな」
こいつ呼ばわりされたアカネは不機嫌そうな表情を見せるが完全に拗ねてしまった
わけではないようで、いまは新たな仲間を迎えるほうが大切だった。
「・・・・・・あなたたちの拠点は・・・海のそばにある?」
ナツメとアカネの仲間となれば、まずはこのアジトにいる捕らわれたポケモンたちの
居場所と、建物全体を破壊するのに都合のいいやり方を教えるよう要求されるだろう。
しかしこの二人はロケット団の幹部たちのようにただ利用するために優しい言葉を
かけることはせず、ウパーとの絆や友情を認めてくれているのを彼女は知った。
そして二人についていくなら確かな希望があると感じたとき、自然と言葉が出た。
生まれてから今に至るまで全ての思い出が海と共にあった彼女ならではの問いだった。
「海?いや・・・ないな。山奥だ。でもウパーが喜びそうな湖は近くにあるが・・・」
「・・・わかった。じゃあまずはあなたたちの目的を果たしてからそこへ向かいましょう」
海と別れることになった。ほんとうに新たな人生の始まりなんだと思った。
それでも永遠の別れではない。いつかまた会おうと心のなかで挨拶していた。
まだ遠い夢の成就に胸を躍らせながら、リニア団の一員としてポケモンを守るため
まずはこのアジトの壊滅から取り掛かるべく立ち上がった。