ポケットモンスターS   作:O江原K

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第97話 考察

『火災が起きた古い工場の跡地ですが、どうやら解散したと思われていたマフィア、

 ロケット団が拠点として用いていた模様です!その団員たちが救急車や警察を呼び

 助けを求めたとのことです。取り調べに素直に応じているようで、真相の究明は・・・』

 

実験用のポケモンはただの一体も残さずに逃がされてしまった。アジトの全焼は確実で、

活動資金は全て奪われたか、そうでなくても燃えてしまうだろう。アポロは呆然と

その映像を見続けていたが、サカキは電源を切り、小型テレビを収納した。

 

「もういいだろう。お前たちもこれ以上見たところでどうしようもあるまい。これで

 ロケット団はほんとうに終わりのようだ・・・やはりやつがやってくれたか」

 

すでに組織との繋がりを断ったサカキは、侵略者であるナツメの大暴れぶりを

愉快なことのように語っていた。かつての部下たちの手前、表情は崩さなかったが

内心は笑いが止まらなかった。そして彼らのもとを去り街の中心へ帰ろうとする。

 

「だからわたしは事実上の解散を宣言したあの日に言ったのだ。未来を見ろと。

 そして実現しない妄想ではなくいま手にしているものの価値を見直すようにと

 付け加えておこう。そうすれば進むべき道がお前たちにもわかるはずだ」

 

 

サカキが去っていきだんだんと姿が小さくなっても四人の幹部は何も言えずにいた。

完全にサカキが遠く離れ去って見えなくなってからようやくアポロが小声で口にした。

 

「・・・何もかもがうまくいかない。見なさい、誰もがあやつの言葉に従ってしまった」

 

ポケモンを第一に考えるようになったサカキの変化をナツメのせいだと考えている

アポロは彼女への憎しみが一層強まった。ナツメとアカネの仲間になった下っ端の女の

裏切りまでは知らないが、誰かしらそんな者がいることは推察できた。内部の構造を

よく知る人間の協力があるからアジトは非常に短い時間で壊滅したのだ。サカキ、

裏切った者、これなら刑務所にいたほうがましだと警察を呼んだ腑抜けの団員たち・・・。

誰もがナツメの思い通りになってしまったと嘆いた。

 

「まったくだ。だが俺たちが手にしているものって何だ?もう何も持ってなんか・・・」

 

サカキの言葉の意味を考える。すると四人ともそれぞれ一つだけ腰にモンスターボールを

着けていることに気がついた。幹部は複数のポケモンを持ち歩いていたが維持費すら

厳しい現状、一体しか残っていなかった。しかしそのポケモンたちは驚くべきことに、

逃亡する機会があったのに彼らのもとに自らの意思で留まったポケモンだった。

 

アポロのヘルガー。己の強さを誇り、強き者は凡庸な者を支配し自由に利用する

権利があると信じて疑わない、まさに主人と同じ考えを持つ悪ポケモンだった。

人間だろうがポケモンだろうが、自分より弱い存在は道具であり食料だと。

 

アテナのラフレシア。エリカのラフレシアと異なりもともとの毒花としての性質を

明確にしている。誘惑しては餌食にし、巧みに招いては害をもたらす危険な花。

ずる賢く、どうすればうまく欺けるかを知っているため警戒していても騙される。

 

ラムダのマタドガス。ラムダは大量のドガースを所持し次々と自爆させるという

乱暴で雑な戦いをしたためドガースたちは逃げていった。しかしこのマタドガスは

爆発するのが生きがいという異常なポケモンであり、ラムダから離れなかった。

 

ランスのヤドキング。ヤドンの尻尾を切り落として売るという外道な金儲けに

携わっていたランスだが、当時はまだヤドンだったこのポケモンからすれば

救世主だった。群れの中で迫害されていたからであり、自分を虐げる者たちに

罰を与えているように見えたからだ。それ以来ずっとランスについてきている。

 

 

「・・・おそらく勘違いしているだけのはず・・・それがヤドキングにまで

 なってしまったのだからこうなっては間違っていたとは切り出せませんね」

 

「俺のは違うぜ?俺が命令しなくても激しくぶっ飛ぶイカレたヤローだ。

 こいつは結構気が合うぜ。ドガース軍団の古株だったし今や相棒だな・・・」

 

心が揺れかけたところで彼らは正気に戻った。危うく自分もやられるところだったと。

 

「はっ!いけないいけない。ロケット団はまだ完全に終わってはいないというのに!」

 

「そうだったぜ、シルバー坊っちゃんがやってくれりゃあ俺たちにまだ目はある!」

 

どうにか蒔いた種が開花するのを信じるしかなかった。シルバーが外道のやり方を

好みロケット団の王となれば復活の可能性は残っていた。

 

「対抗戦とやらまであと数日・・・それまでは身を隠すことにしましょう」

 

四幹部はワカバタウンとは逆のほうへ向かった。サカキやシルバーと再会するのは

当日になるだろう。シルバーがドーピングアイテムを使用することを選べば再び

チャンスが訪れるはずと信じこの場を後にした。

 

 

 

「・・・む、入れ違いだったか。すでに戻っていたか・・・」

 

サカキが訓練場に帰ると、シルバーは先に戻っていただけでなくトレーニングを

始めていた。いまはミカンとの練習試合中だった。互いに四、五体目のポケモンを

繰り出しているので、バトルは中盤から終盤に差し掛かっているのだろう。

 

「どうだね・・・シルバーの調子は?観戦している君たちからはどう見える?」

 

「最後に戦ったときからずっと強くなっています。安定感が増していますよ」

 

「そうね・・・ムキにならずに冷静に戦えていると思う。練習だからかもしれないけど、

 以前よりも大人になった。ポケモンを怒鳴ったりしていたのもすっかり昔ね」

 

最強のトレーナーとして君臨するための手駒に過ぎない、よって弱いやつはクズであり

この世にいらない存在だとポケモンに厳しく当たり散らしていたシルバーはもういない。

明らかな失敗をしてもその場ですぐに罵ったりせずに次の戦術への切り替えを進める。

 

「・・・・・・・・・そうか。ではわたしたちも始めようか」

 

サカキはすぐに立ち上がりゴールドとクリスを連れて隣のフィールドへ向かった。

その際横目でシルバーの戦いをそばで見たが、どちらが優勢とも言えない。ミカンの

強さをよく知っているゴールドたちからすれば十分すぎるのだが、サカキは実のところ

ミカンを圧倒できないようでは数日後の決戦は危ういと感じていた。シルバーなら

アカネには高確率で勝てると口にしたのは嘘ではなかったが、先ほどのニュースを見て

考えが変わった。ナツメの姿しか見えなかったがおそらくアカネも共にいるだろう。

 

(前回のようにどこかに引き籠っているだけだと思ったが今回は違うようだ。やつは

 自分の弟子を鍛えあげて急速に成長させるつもりだ。多少強引で失敗の危険が

 あるのも顧みずにたった一週間でわたしたちと互角に戦えるほどに・・・!

 つまりあの小娘をリーグのチャンピオン級にまで育てる気でいるのだ・・・)

 

サカキはポケモンを育成することなら超一流だが、一人息子の育成には大失敗していた。

ポケモンは道具であり、目的を果たすためなら何をして誰を傷つけようが構わないという考えをシルバーに植えつけたのはサカキだ。直接そう教えたことはなかったが、家に

大金を入れ裕福で不自由のない暮らしがどのようにしてもたらされているか、幼い息子も

わかっていた。いくらサカキとロケット団を忌み嫌っても、どうすれば成功できるか

父のやり方を見て学んでしまった。勝てばいい、自分だけ絶頂にいれば他者はどうでもいい、

他でもないサカキがシルバーにそう教えたのだ。

 

(・・・わたしへの反抗心はあってもその道を歩んでしまっている・・・。これでも

 ましになったとゴールドたちは言うが・・・この失態を取り返すには時間が要る。

 やつのように一週間程度で成し遂げるのは不可能だ。改心したわたしを見て少しは

 心を開いてくれるようになった。とはいえやはり長い期間をかけないことには・・・)

 

シルバーがアカネに劣っているのではない。自分がナツメに劣っているのだと唇を噛む。

しかし彼を慰める過去からの声があった。幼い日にトキワの森で僅かなひと時を共にしただけだというのにいまだにサカキの心に強く残るあの少女の言葉だった。傷ついた人や

ポケモン、誰もが復活はもう無理だと見捨てるようなものであっても救いの手を差し伸べ

再生させることを夢見ていた天使の微笑みを浮かべる初恋の少女はこう言っていた。

 

 

 

『あなたの街も元通りになるにはまだ時間がかかる。それだけわたしたちが生まれる前の

 戦争はひどかった・・・人もポケモンも、死んでしまった命はもう帰ってこない。

 だけど建物のように頑張れば必ず元に戻るものは・・・作り直すことで最初よりも

 ずっと立派なものになって帰ってくる!諦めなければの話だけどね』

 

『・・・・・・諦めなければ・・・何でもできるのかな?』

 

『・・・残念だけど失敗することはあると思う。でも一回失敗してもチャンスがまだ

 あるのなら・・・どれだけ時間がかかっても諦めちゃいけない。傷ついたり壊れたり

 した体や心はすぐには治らない。でもわたしは信じ続けたいの、もう一度舞い上がる

 再生のときを!人もポケモンも・・・前よりも強く美しくなれるはずだから』

 

 

 

この時のサカキは少女の言葉が難しいせいで内容をあまり理解していなかった。

自分と同じか少し上くらいの歳なのに賢くて凄いな、くらいにしか思わずにいたが、

聞いた言葉はいまでも覚えていた。言葉の意味はわからなくとも彼女の優しい心は

伝わってきた。四十年以上が過ぎたこの日に、サカキの胸に訴えるものとなった。

 

(・・・そうだな・・・自分の罪深さも、過ぎ去った取り返せない日々も・・・

 諦める理由にはならない。こうしてシルバーと再会し同じ目的を持ち共に行動

 しているこの恵まれた機会を喜ばなくてはならない。気落ちしている暇はない!

 数日後の決戦で全てが終わってしまうのであれば間に合わないと絶望するところで

 あったが・・・これからじっくりと築き上げていけばよいではないか)

 

命を賭けた勝負になるとフーディンは言い、サカキたちもそれを了承した。しかし

必ずしもどちらかが死ぬまで戦うなどという展開にはならないだろう。生きてさえいれば

たとえ敗れて敗北の屈辱と挫折の底に沈んでもまた舞い上がることは可能だ。そこで

諦めさえしなければ。遠い記憶にサカキは心が穏やかになっていくのを感じた。

 

(いざとなればわたしが試合を止めればよいだけのこと。たとえそのことでシルバーに

 恨まれたとしても命があるのなら問題はない。またわかり合えるはずだ。ふふふ、

 昨日のわたしはどうにかしていた。あの娘が悪魔の母親などとは・・・)

 

ほんの僅かでも自分の初恋の少女がもしかしたらナツメの母となったのでは、などと

考えたことをサカキは反省し自らを戒めた。あの少女は破壊されたものを再生しようと

その手を癒しに用いることを願ったが、ナツメは正反対の破壊者だ。自分とは違い、

あの少女が育児に失敗するはずがないと言い切れるからだ。長年セキエイから支配を

続けていた協会上層部やポケモン関連の商品を製造し販売する大企業に壊滅的な被害を

与え、ロケット団員はいいとして自らに逆らう善良なトレーナーたちまでも負傷させた。

 

多くの罪を犯してきた自分を殺そうとするのは納得できるが何の落ち度も見いだせない

ゴールドや彼についてくる者、今視界に入るところだとクリスやミカンという若者たち、

その者たちをも粛清し除き去ろうというのだからやはり昨日の自分はおかしかった、

サカキはそう結論する寸前までいった。しかし、余計な時間ができたことで歯車が狂った。

 

「・・・さっきも言ったじゃない、あんたがミカンちゃんとどこかに行ってる間、

 私はずっとサカキさんの相手をしてたの。さっさと準備しなさい!」

 

「そ、そうだった・・・忘れてたよ、てっきりはじめはお前が戦ってくれるものだと

 気が緩んでた。サカキさん、すいませんが少し待ってください。ポケモンたちを

 連れてきますから・・・五分もかかりません、すぐ戻ります」

 

ゴールドがポケモンを外の庭に放したままで、急いで回収するために出ていった。

自分の番だとは思っていなかったようだがクリスに怒られ大慌てで走っている。

 

「時間はたっぷりあるのだから焦らなくてもいいぞ、転んだりしたら大変だ」

 

余裕を持ってサカキは送り出した。そこでクリスと会話でもするかシルバーのバトルを

しっかりと観戦していればまた違ったが、椅子に深く腰掛けて目を閉じてしまったことで、

一度は終わりかけた話の続きが始まってしまった。

 

 

(・・・・・・やつが破壊者?ほんとうに・・・そうか?いや、やつは・・・!)

 

イツキやグリーンに重傷を負わせたのはナツメではなくフーディンだ。ナツメは

殺されそうになった彼らを自然な流れに見せかけて助けていたではないか。

 

(やつがあの日の試合でもたらしたものは・・・一体何だった?)

 

ナツメが選んだ仲間たちは、アカネ以外は敗れるか両者戦闘不能の引き分けによって

去っていった。期待外れだったと語り、利用価値のなくなった彼女たちを厳しい

言葉と態度で追い出した。しかし、彼女たちは不幸になったのだろうか?悪魔に

唆され恵まれた地位を失ったかわいそうなトレーナーとしてスタジアムを後にしたのか?

 

(・・・笑顔だ・・・しかも全員心からの爽やかな笑顔だ!)

 

カンナ、それにカリンとエリカ・・・三人とも喜びに満たされていた。長い間ずっと

探し求めていたものが手に入り、またはそれに気がついたことで彼女たちの目には

希望があった。この戦いのせいで人生が台無し、終わってしまったというのではなく、

むしろこれから楽しみな日々が新たに始まっていく転換点となっていた。

 

 

(やつの仲間だけではない!わたしが連れてきた者たちも・・・・・・)

 

キョウの代わりにメンバー入りしたアンズは自分と似た境遇のカリンという友を

手に入れた。引退を決めていたカツラはアカネとの熱戦の末敗れはしたが、

眠っていた魂が再び燃え上がり生涯現役であることを誓っていた。その展開を

演出したのはナツメであり、間接的に関与していると言ってよかった。

 

(シロガネに籠っていたレッドが山を下りたのも、エリカ嬢との空白の三年を埋め

 ついに結ばれたのも全てはやつが・・・そして・・・)

 

サカキが呼んだわけではなかったが、ナツメと戦ったキクコ。昨日のニュースで

彼女が無事に病院で治療を受けていることが知らされ、そのコメントもサカキは

しっかりと聞いていた。戦いの傷とかつてからの持病のせいで悲惨な状況にあると

いうのに、彼女は愉快そうに語っていたのだ。

 

『はっはっは!アタシが死にそうに見えるかい。逆だよ。どんどん生き返っている

 感触さ。病気のせいで引退してからは老化が早くなっていよいよ死んでいくだけだと

 思っていたけどね・・・いまは逆に若返っている気分だよ。寝ている時間が勿体ない、

 すぐにでもポケモンたちと特訓がしたいよ。現役復帰?当たり前じゃないか。あいつ、

 ナツメと再戦の約束をしたんだからすぐにでも応えてやらないといけないじゃないか』

 

トレーニングを再開するために一日でも早く回復し退院しなくてはいけないのだから

さっさと出て行け、と記者を乱暴に追い返す姿は人々を安堵させるものとなっていた。

キクコはいまだ全快の目処は立っていないが、すでに『再生』していた。

 

(・・・すでに終わったとされているもの、もうどうしようもないと誰もが匙を投げて

 見捨てるもの、困っているのはわかるが見て見ぬふりをしているもの・・・それを

 再生することがあの娘の夢だというのなら・・・・・・)

 

ならばサカキはどうなのか。ロケット団の首領としてこの国の裏で頂点に立ち、

その反面ポケモントレーナーとしては『終わっていた』。救いようのない悪人が

立ち返ることなど不可能だと誰もが諦める。サカキが己の歩みを振り返り、

このままでいいのかと悩んでも助ける者はいない。彼ほどの男が自分の生き方に

疑問を抱いているとは誰も疑わないし、助けなど必要としないだろうと決めつけて

いたからだ。闇の中に一人立つ彼の扉を開けたのは他でもないナツメだった。

 

 

『あなたを変えてしまったのはあやつ、ナツメです!あやつがあなたにロケット団の

 ボスの歩みをやめさせてしまったのではありませんか!』

 

アポロの言葉を受け入れるしかなかった。もしナツメがトキワの森で出会った少女の

娘であるのなら、親の教えを固く守っていることになる。実の子であるというのは

無理があっても、どこかで出会いその信念を受け継いでいるという可能性もある。

 

(しかしそれをやつ本人に確認するのは不自然であり厳しいだろう。これから

 ポケモン界の未来を決める戦いが始まる、そんなときにこんな話はできないな)

 

『・・・ところでナツメ、お前には親がいるのか?もしくはお前の人生に大きな

 影響を与えた師と呼べる存在が・・・いるのだとすれば・・・』

 

『・・・・・・あぁ?なぜいまそんな問いを?わけがわからないのだが?』

 

『いや・・・彼らが今のお前を見たらどれだけ悲しむかと思ってな・・・』

 

『おいおい、ここはポケモンバトルで全てを決するセキエイ高原のスタジアムだぞ?

 何を言うかと思えば・・・勝ち目がないと思い苦肉の策で説得か?やめてくれ。

 ガキどもはともかくわたしたちが今さら親や教師の言いなりになる年齢か?

 くくく、これから最高のバトルが始まるというのにあまりがっかりさせるな』

 

質問の答えなど当然得られず嘲笑されるだけだろう。笑われるならまだいい。

哀れみの目を向けられるかもしれない。あの場でこんな質問をするのはどう考えても

間違っている。かといって仮にナツメの行う『再生』について聞くと、彼女が

もしかすると善人なのかもしれないと公の前で認めることでゴールドたちの戦意を弱め、

大観衆をナツメたちの仲間にする恐れもあるのだから厳禁だ。

 

 

(・・・邪念を払わなくては。そのためには・・・)

 

他の全ての余計なものを捨てて選んだポケモンバトルしかない。ちょうどいいところで

ゴールドが戻ってきた。対戦相手に合わせて相性を重視した最適のメンバーを選べるのが

彼の強みだ。彼自身に弱点はなく、まさに覇王と呼ぶにふさわしいチャンピオンだった。

 

「お待たせしましたサカキさん!それで・・・どうしますか?スパーリングの方針は。

 クリスとは特に何もなしでやっていたって聞きましたが、ぼくならどんなのでも

 いけますよ。待たせちゃいましたしサカキさんのやり方でいきましょう」

 

第一線で戦えるポケモンを百体以上持つゴールドならではの贅沢な提案だった。

サカキが望むどのような形式の模擬戦も可能だと言っている。サカキが標的を

ナツメに絞っているのならエスパーポケモンたちを中心としたメンバーを揃え、

弱点を対策したいのならサカキのポケモンたちの苦手とするタイプのポケモン、

逆に勝ち癖をつけたいなら得意にしているタイプのポケモンたちを出せる。

 

「サカキさんはナツメ以外とは戦う気がないようですからやはりエスパーで

 統一しましょうか。持ち物の有無などの条件はいろいろ試したほうがいいかと

 思いますが、そこらへんも含めて何でも言ってください」

 

「・・・そうだな、ならば頼もうかゴールドくん、わたしを全力で倒しに来る

 メンバーを六体集めてくれ。実力や相性、コンディション・・・全てを考慮し

 これならば最もわたしに勝てる可能性が高いというポケモンたちをお願いしたい」

 

それに対してサカキはガチンコ勝負を申し出た。まだ合同トレーニングは始まったばかり、

本番まで間があるというのに早くも真剣勝負に近い形でのバトルを希望した。

 

「そ、それって・・・全力でやろうってことですよね。どうして?」

 

「フム・・・考えてみたらわたしとゴールドくんは決戦の日、どうやっても戦わないと

 思ってな。機会はここしかない。現チャンピオンと真っ向勝負がしたいのだ」

 

 

サカキはアカネとのバトルにはシルバーを代打として送り込む。ここで彼が勝てば

最終戦へと進むが、ナツメがゴールドを倒して勝ち上がってきた場合のみサカキは

自ら戦うと決めた。もしゴールドが勝利した場合、引き続きシルバーに権利を譲り

彼にライバルとの決着をつけさせてやりたいという親心があった。

 

もう一つ最悪のシナリオとして、シルバーがアカネに負けるケースがある。こうなると

サカキの参加資格も失われるため、ナツメが来ようがゴールドが来ようが何もできない。

ナツメのフーディンとサカキのスピアーによる特別マッチはそれまでの結果に関わらず

行われるかもしれないが、敗北していてはどんな理不尽も受け入れざるをえない可能性が

出てくる。どうあれサカキとゴールドの対戦はない。

 

「ならばここで・・・どうかな?本番に向けての調整は大事だがたまには激しい

 戦いがなければ退屈してしまうだろう、若者であれば特にな」

 

「・・・いいでしょう、それならやりましょう。ぼくはナツメに勝ちますしシルバーも

 アカネを殺してくれると信じています。あなたとの戦いを・・・今ここで!」

 

ジョウトが生んだ若きチャンピオンとカントーの帝王の真剣勝負が実現する。

セキエイのポケモンリーグが管轄する地域内で最高のトレーナーが顔を合わせ、

これこそ『決勝戦』だ。シルバーとミカンもバトルを中断して観戦するために

集ってきた。観客は僅か三人、しかし最高の勝負となるだろう。

 


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