ポケットモンスターS   作:O江原K

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第99話 オールスターズ

 

「長い外出だったな。さすがのあなたも疲れたか?」

 

「まあちょいとはな。でもまだまだいけるで!」

 

コガネシティでのラジオ出演に始まり、ハナダの洞窟、更にはロケット団アジトと

続いたナツメとアカネはようやく本拠地であるナツメの屋敷に帰ってきた。

二人だけではなく、ロケット団の下っ端だった女も共についてきていた。ナツメが

彼女にそうするように命じたからであり、もちろん相棒ウパーもいた。

 

「うへぇ・・・凄い豪邸だぁ」 「うぱ~~っ」

 

「ふっふふ・・・あんたが驚くのはこれからやで。うちとナツメには劣るとはいえ

 とんでもない豪華ゲストたちが待っとるんやからな。腰を抜かさんようにな」

 

彼女が元四天王カンナに憧れてポケモントレーナーを目指そうとした話をすでに

聞いているため、さぞかし驚くだろうとアカネは楽しみにしていた。昨日からカンナが

屋敷に訪れていて、しかも彼女だけでなくレッドにエリカ、ワタルまでもがいるというの

だから、びっくりするなと言うほうが無理だろう。そのリアクションが楽しみだった。

 

 

「・・・豪華ゲスト!?それは一体・・・」

 

「実際に見たほうが早いで。お————い、帰ったで—————っ!!」

 

わざと大声を張り上げて皆が出てくるようにした。どうせなら一気に全員そろって

来てくれたほうがインパクトに溢れると思ったからだったが、アカネの予想通り

四人が現れ・・・・・・いや、倍以上、総勢九人の出迎えだった。

 

「ふ、ふ、増えとる——————っ!!どうなっとるんや————!!」

 

元下っ端より先にアカネがコガネ人らしく派手にすっ転んだ。

 

「ずいぶん遅かったですね。逮捕されているかもしれないと思いましたよ」

 

「くくく・・・わたしたちがそんなヘマをするか。そういうダニは確かにいたが

 追い払っておいた。どんなに運が良くてもしばらくは戻ってこれないだろう」

 

「・・・ダニ?おい、まさかその人は国際警察の・・・」

 

ナツメは何事もないかのように皆と話をしている。アカネは勢いよく立ち上がると、

 

「ちょいと待て——————っ!!誰か説明せんかい、コラ————っ!!」

 

先程よりも大きな声で叫んだ。するとナツメが悪びれもせずにしれっと答えた。

 

「・・・ん?ああ、忘れていた。わたしが呼んでおいた。まあわたしが声をかけても

 不審がって誰も来ないのでな、ワタルたちに頼んだのだが・・・なかなかの数が

 揃ったな。どうだ、豪華ゲストだろう?アカネ」

 

ナツメがくすりと笑ったのをアカネは見逃さなかった。びっくりさせるためにわざと

黙っていたに違いない。元下っ端の女の驚く顔を楽しみにしていたというのに自分が

ターゲットだったとは。呆れた顔をしてお手上げのポーズをするしかなかった。

 

「・・・・・・オ、オールスターズだ・・・」

 

その彼女はというと、現実離れした光景にぼけーっとするだけだったが、それも当然だ。

 

 

「こんなところに別荘があっただなんて、これまで何度も飛行していたはずなのに

 気がつかなかった。ワタルに説明されてようやくたどり着けたわ」

 

「しかもただの別荘ではない。ポケモンの鍛錬にこれ以上ない環境ではないか!」

 

ワタルが呼んだのはジムリーダーであり従妹のイブキ、それに親友の四天王シバだった。

実力も知名度も申し分ない二人がワタルの一声でこの山奥まで駆けつけたのだ。

 

 

「フフ・・・もう二度と来ないと思っていたけれど意外と早くまた来ちゃったわ」

 

エリカとカンナは共に戦ったカリンに連絡を入れ、早々にチーム再結成となった。

前回は試合を控えピリピリとしていたが、いまはこの自然に満ちた恵まれた環境を

堪能しているようだ。遠くの木々の下で彼女のポケモンがリフレッシュしている。

 

「本番まであと僅か、しかもあなたの相手は何者かわからないときた。ならば多くの

 トレーナー、それも超エキスパートトレーナーたちと戦うことしか対策はない!

 あなたに座学は必要ないのがはっきりしたのだからあとは実戦による訓練だけだ!」

 

「なるほど、そういう話やったんか!それなら先に言うてくれや!人が悪いで・・・」

 

「くくく、それはすまなかったな、詫びよう。こいつらも空いた時間はこいつら同士で

 バトルをするだろうからあなたの都合で対戦を申し込めばいい。無理はするなよ」

 

 

目移りする魅力的な対戦相手が揃い過ぎているせいでオーバーワークが心配される

ほどだった。ポケモンに無理はさせないアカネなので平気なはずだが一応の忠告だった。

 

「無理?うちはいますぐでもできるで!ポケモンたちも元気や。ところで・・・

 カリンの隣にいるのは誰や?うちは初対面・・・になるんかな?」

 

そんななかでアカネの知らない少女がいた。この個性派たちのなかで普通の格好を

しているため、かなり器量はよいはずなのに埋もれていた。しかしその少女のほうは

当然アカネを知っており、声を発すればアカネもすぐに正体に気がついた。

 

「・・・いえいえ、あたいとアカネさんはつい先日お会いしたばかりじゃないですか!

 そのときは敵同士でしたが・・・いまはもう敵じゃあありませんよ」

 

「その声・・・アンズかい!全然わからんかったで!忍者の格好をやめて髪を下ろせば

 こんな美人になるんか。こっちのほうがよかないか?あっちはあっちでマニアは

 たまらんのかもしれんが・・・これからはこの路線でいくべきやと思うで・・・」

 

お世辞ではない心からの称賛だった。そこでやめておけばよかったのだが・・・。

 

「よく見りゃこっちもしっかり育っとるなあ。どれ、うちがチェックしたる、ぐへへ」

 

「あ・・・コ、コラ!」

 

アンズの胸へと手を伸ばした。セクハラ以外の何物でもないが、この暴走を予期できた

人間はおらず、誰も間に合わないかと思われたがアンズが自分の身は自分で守るようにと

父から教えられていたのが幸いだった。咄嗟のことにもすぐに対処した。

 

「忍法!入れ替わりの術—————っ!!」

 

ドロンという音と共に煙が発生し、皆の視界を妨げた。アカネも一瞬前が見えなくなったが

こんな至近距離で目くらましなど無駄だと構わずに突っ込んだ。

 

 

「うへへ、どれどれ・・・ん?案外柔らくないで・・・忍術の修行っちゅうのは

 厳しいモンなんかな?見た目よりも肉がついとらんで・・・」

 

遠くから見たときには並の女性よりも豊満に見えたアンズの胸だが、やはり日々鍛錬を

重ねている体は引き締まっているということか。アカネは手を下にずらした。

 

「・・・に、肉がついとらんわけやない!腹筋や!しかもガッチガチに割れとる!」

 

驚異の硬さにアカネはさすがに何か変だと感じながらもさらに下を確かめた。

 

「このヒップも・・・やっぱりおかしいで!ただのアスリートの身体やない!

 しっかり鍛えられとるのは確かやけどこんなんまるで男の・・・・・・」

 

顔を確かめてようやく気がついた。自分が誰の胸や尻の肉をべたべた触っていたのかを。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ゲ————ッ!!レッドやないか—————っ!?」

 

彼の長いシロガネ山での生活によって得た肉体だった。一言も発しなかったが、

同世代の女子であるアカネにここまで触られたことで緊張した顔つきになっていた。

 

「忍術大成功!父上ならもっとうまいやり方もできるけどあたいじゃこれが限界かな。

 そばにいる人間と瞬時のうちに立ち位置を変える・・・完璧に決まった!」

 

「・・・これなら納得やで・・・こりゃあやられたで、一杯食わされたわ・・・」

 

あっはっはと皆と共に愉快に笑うアカネだったが、すぐに身の毛がよだつ悪寒がした。

ハナダの洞窟であのミュウツーが殺意に満ちていたときと同じものがいま、自分に

向けられている。経験が早速生かされることになったが、全くうれしくない。

 

 

「・・・わたくしですらあれほど密着して体に触れたりはしていないというのに・・・!

 アカネ、あなたは今日もわたくしと限界までバトルを楽しみたいというのですか?

 ですが昨日に続き全く反省の色が見られない相手に冷静でいられるかどうか・・・」

 

「やっぱり—————っ!!めっちゃ怒っとるやんか——————!!」

 

アンズがたまたま選んだのがレッドだったのがアカネの不運だった。いまエリカに

捕まったら何をされるかわからない。弁明などせずすぐに逃亡しようとした。

 

「どいたどいた————っ!!ほとぼりが冷めるまでうちは身を隠す—————っ!!」

 

屋敷内でかくれんぼになれば勝機はある。他の者に何を言われようがエリカは聞かない

だろうがレッドが一言なだめてくれたらその怒りも収まるだろう。それまで逃げていれば

大丈夫、とアカネは駆け出した。しかし、あまりにも大勢の出迎えだったせいで後ろの

ほうにもう一人いたトレーナーにアカネはいまだ気がついていなかった。彼こそ

外見だけではアンズ以上に誰だかわからない衝撃的な姿をしていた。

 

「そこのあんたも邪魔・・・どっひゃあ————っ!怪人ミイラ男—————っ!!」

 

またしてもアカネはその場にひっくり返って転んだ。全身が包帯に包まれたまさに

ミイラ男と呼ぶのがふさわしい謎のトレーナーはそれだけショッキングだった。

 

「だ、だ、誰じゃあんた—————っ!?そもそも生きた人間かぁ—————っ?」

 

腰が抜けたアカネの問いにその男は顔だけ包帯を外した。病院で安静にしていなければ

ならないほど痛々しい傷がいまだに残るが、それでも彼だとわからない人間など

少なくともこの場にはいないだろう。その目は鋭く、活力に満たされていた。

 

 

「・・・フフフ・・・おれだよ。どうだ、せっかくの美男子が台無しだろう?

 だがポケモンバトルの優劣にツラは何の関係もなくて助かったぜ!」

 

「あ・・・あんたは・・・グリーン!あんたまで来たんか!フーディンにボロ負けして

 救急車に乗せられてからまだ三日も経っとらんというのに・・・」

 

「フッ、おれは世界で一番強いトレーナーになる男だ。あの程度の負けで心が折れて

 いたら話にならねえ。それに・・・全力勝負はできないまでもレッドと戦える絶好の

 チャンスが舞い込んできたんだ。のんびり眠ってなんかいられるか!ブースターは

 まだ治療中だがあとのやつらはバトルができる。喜んで参加させてもらったぜ」

 

アンズに続き、先の戦いではサカキの側につきナツメやアカネとは敵対していた

グリーンも重傷でありながらここまでやって来た。最大の好敵手の存在が決め手だった。

 

「レッドにはまだ聞いていねえが・・・おれにはわかる。こいつはもうカントーで

 やるべきことはない。またセキエイのチャンピオンに戻ろうだなんてちっとも

 考えちゃいないだろうよ。エリカと共に・・・遠い外国で戦うつもりだってな」

 

「・・・・・・」

 

グリーンの推察は正しかった。レッドは数日後、この戦いの結末を見届けた後は

エリカと二人でこの国を離れ海外の大会やトップリーグに挑むと決めていた。

ジムリーダーであるグリーンは業務以外では簡単にカントーから離れることはできず、

レッドとの再戦はこの機を逃すと次はいつになるのか全くわからなくなる。

 

 

「エリカはレッドが現れるだろうと思い今回の騒動に加わったというが・・・

 おれも同じだったのかもしれないな。建前上は協会のためとかお前らの暴走を

 止めるとか言ったが、心のどこかで期待していたんだ。こんな大事になったら

 あいつが帰って来るんじゃないかって。勝ち負けなんかどうでもいいんだ。

 とにかくもう一度バトルがしたい!その一心さ。トレーナー人生が始まった

 その日、最初の対戦相手がレッドだった。それからずっとライバルで・・・」

 

「・・・・・・グリーン?」

 

「ライバルで・・・親友なんだ!こんな屁でもねえケガぐらい何でもねーよ」

 

よく見るとグリーンは立っているだけでもかなり辛そうにしている。それでも

親友と語り合い、またバトルをするために黙って病院を抜け出したのだった。

 

「なるほどなぁ・・・泣かせる話やないか!でもうちとナツメのスパーリング相手、

 そこを忘れてもらったら困るで!ナツメはそのためにあんたらを呼んだんや。

 どれ、まずはあんたとやるのも悪くない。さっそくバトルを・・・・・・」

 

アカネの体はそれ以上動かなくなった。すっかり忘れていたが、エリカから逃げる

途中だったのだ。モンジャラとウツボットによってぐるぐる巻きにされて拘束され、

一切の抵抗が許されない状態になって運ばれていった。

 

「放せ————っ!放せ————っ!人殺し—————っ!!」

 

「うふふふ、大げさな・・・あれくらいでそこまでしませんよ。ですがバトル中の

 事故というものは避けられませんから・・・そこは覚悟していただかないと」

 

「誰か——っ、誰かうちを助けてくれや—————っ!あんたも見てたやろ、エリカ!

 さっきのはアンズのせいや!うちはレッドなんかこれっぽっちも触りたく・・・」

 

「レッド『なんか』・・・ですか?聞き捨てなりませんね。さあ、参りましょう」

 

どう足掻いても事態は悪化するだけだ。頼みのナツメも介入する様子がない。

このまま触手の餌食か、ようかいえきやはっぱカッターによる残酷な死か・・・。

ミュウツーの言う通り真に恐ろしいのは人間か、と思っていたそのときだった。

 

 

「・・・待った!エリカさん!今から戦うのなら・・・私とお願いします!」

 

助け舟を出したのは元ロケット団の下っ端の女、言うならアカネの妹弟子になる女が

前に出て、アカネを解放し自分と勝負するように申し出た。ここでようやく屋敷にいた

トレーナーたちも彼女に意識が向かった。ウパーを連れているのでトレーナーでは

あるのだろうが全く知らない顔だからおそらくナツメたちの付き人、雑用係の手下だと

しか考えておらず、どうでもいい者だと思っていたからだ。

 

「あなたがわたくしと・・・なぜです?」

 

「ああ、それについてはわたしから説明しよう。わたしがつい先程彼女に命じた。

 このオールスターズたちは皆ジムリーダーであるか、それ以上のトレーナーだと。

 そしてレッド以外は不測の事態が起きた場合臨時でジムリーダーの務めを果たせる

 資格を有している。その者たちと戦いジムバッジを手にしろと」

 

相棒ウパーだけでアカネから認定バッジを奪い取れるようになってみせろ、とは

ナツメがこの女を仲間にしたときの言葉だったが、ジムバッジを獲得するというのなら

当然目指すのは一つではなく八つ、ポケモンリーグに挑戦できる数までだ。

 

「バッジ・・・?あたいは・・・いや、誰も持っていないはずですよ」

 

「そもそもお前がこんな騒ぎを起こしたせいでポケモンジムはどこも閉鎖している!

 なのにここで今から認定戦をやろうというのか!?狙いがわからない!」

 

もちろん簡単に話は進まない。だがナツメはすぐに引き下がらずに言葉を続ける。

 

「バッジは後でいい。郵送でも何でも構わんさ。それにジムは閉まっているが

 あなたたちはいまだ有している。未来のチャンピオン候補と戦う資格と責任が!」

 

挑戦者を退けてはならない、ジムリーダーに課せられたルールだった。この屋敷には

立派なスタジアムが用意されており、設備や環境を理由にバトルを避けることは不可能だ。

 

「しかしお前は自分に逆らう人間を追放すると言っていた・・・いや、お前のことだ、

 ポケモンジムの制度すら破壊してしまうようつもりではないか!?それなのに・・・」

 

「くくく、その通り。わたしたちが頂点に立ったならばいずれ潰すさ。しかしまだ

 その時は来ていない。ならば今あるものを利用しても問題ないだろう。むしろ

 これが最後のチャンスかもしれないからな。どうせバッジもゴミになるのだから

 記念挑戦くらい受けてやってもよいではないか。こいつは新人トレーナー、

 まだバッジを一個も持っていない。どうか戦ってやってはくれないか」

 

そういうことならまあいいか、と皆納得した。ナツメの野望は到底受け入れられないが

ここにいるルーキーとポケモンバトルをすることには賛同した。バッジ0個の初心者、

バトルというよりは教育だ。新たなトレーナーを育てるのもジムリーダーたちの

務めであり、アカネのような例外を除き誰もがそれにやりがいと喜びを感じているからだ。

 

 

「・・・いいでしょう。あなたには恩がありますしこの場所を使わせていただいている、

 そのくらいのことには喜んで応じましょう、あなたたち、放してあげなさい」

 

エリカはポケモンに命じてアカネを解放した。今までアカネを縛っていたモンジャラと

ウツボットはレベルが高く、真剣勝負のためのポケモンたちだ。旅立ちに備えて所持して

いる全てのポケモンを連れてきていたエリカは、ジムでも初心者向けのバトルで使う

ハネッコとマダツボミを呼び、この二体で戦うという意思を示した。

 

「ふ————っ・・・危ないとこやった。助かったで、あんた。それにナツメも」

 

「アカネ、さっそくで悪いが彼女は初心者だ。足りないところはあなたが手助けしてやれ。

 勝敗が変わってしまうほどの援護やアドバイスは駄目だがちょっとした助言くらいはな」

 

「・・・別にエエけど・・・うちがやるんか?あんたのほうが適任やと思うで?

 あんたは立派な先生や、うち相手にここまで教えてくれたんやから・・・」

 

するとナツメはやや険しい表情を見せた。これから語ることがアカネにとって

そういうものになるという予告でもあった。心を突き刺し痛みを与える言葉だと。

 

 

「アカネ、あなたもこれまでジムリーダーの職務をそれなりの期間果たしてきたはずだ。

 それを考えればあなたはすでに人を教えることに長けていなければならなかった。

 なのにいまだにわたしから初歩的な事柄を学び、教えを受ける必要がある。あなた自身

 ジムリーダーとしての生き方は自分には向いていないと認めていたが、あまりにも

 自分のことばかり考え、他者の必要を顧みていなかった・・・大きな過ちだ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「あなたには師匠も教師もいないと言うが、全くいないはずはない。今現在のあなたを

 形成した人間は必ず存在しているのだから、無責任な生き方の言い訳には使えない。

 たとえただのトレーナーであろうが育成や指導を軽視していいわけがない。もし

 誰もがその責務を放棄してしまったら、ポケモントレーナーは絶滅するだろう。

 あなたが忌み嫌う好き勝手にポケモンを酷使する輩で地は溢れかえるはずだ」

 

最初からナツメはアカネの高い素質を評価し、他の者と比べ優しい態度と鼓舞する言葉で

接しているのを全員目にしていた。そうすることでアカネの力を引き出し、何より自分に

傾倒させて都合よく操れるようにしているのだと思っていただけに、これほどの

人数の前で痛烈な指摘をするというのは驚くべきことであった。アカネ本人も

怒って反発するわけでも動揺して落胆し涙を流すでもなく、確かにそうだと

頷きながら話を聞くだけだった。全て事実なのだから怒るのは間違いだし、

泣いたところでこれまでの失敗がチャラになるわけでもないからだ。そして

何よりも重要なこととして、彼女は確信していた。ナツメは悲しみや無力感を

与えて終わらせることはしない。必ず喜びと希望の道を指し示してくれると。

 

「しかしアカネ、あなたはわたしの知る誰よりも急成長トレーナーだ。すぐに

 正しい方向へと向きを変えればあっという間に失った時間を取り戻せる。

 たとえそうでなかったとしても・・・間違いをやり直すのに遅すぎることなんて

 何もない!生きてさえいれば必ず人もポケモンも再生できるとわたしは信じている!」

 

今日からの特訓はトレーナーとしてのレベルアップだけが目的ではなく、アカネに

指導者となるための訓練を施すためのものでもあった。もちろん彼女の妹弟子の

トレーニングも兼ねており、短期間で多くを教え込む狙いがあった。

 

 

「さあ、バッジを賭けたバトルの始まりだ。準備をしよう」

 

「・・・あ、ああ・・・わかったで。ほな、あんたも・・・」

 

今から始めても間に合う、遅すぎることはないとアカネは立ち上がり、前を向いた。

 

「そうですね・・・しかしお言葉ですが、打ち上げに失敗したロケットの残骸に果たして

 何ができるのでしょうか。あなたたちが期待を寄せるほどの者なのですか?」

 

ロケットの残骸、その一言にアカネと元下っ端の女は動揺した。壊滅したロケット団の

生き残りであるとエリカは見抜いている。他の者たちはわかっていないようだが、

どうしたわけかエリカは知っているようだ。気持ちで負けそうになったが、

 

『間違いをやり直すのに遅すぎることなんて何もない!』

 

その言葉が勇気を与え、後押ししてくれた。気圧されることなくはっきりと言った。

 

「こいつらのチーム名は『ワイルド・ワンズ』!野性味溢れるスーパールーキーや!」

 

「そしてまたの名を・・・ロケットを超える、『ハイパーランチャーズ』!

 私とウパっちのコンビが・・・ビッグウェーブを起こします!」

 

思わぬ形で実現した、デビュー戦。これだけ大勢の豪華なギャラリーの前でも彼女と

ウパーは堂々としていた。不安はなく、ただ楽しみで仕方がなかった。

 

「うっぱ~~~~~~っ!」

 

「素晴らしい気合いだ・・・どれ、わたしはここから見物させてもらうとするか。

 一人はトレーナー、一人は指導者としての初陣・・・楽しませてもらうぞ」

 

ナツメは腕を組みながら一番遠いところに座った。その顔は成功を確信していた。

 


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