ようこそ実力至上主義の世界へ    作:Stay_8039

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理解しろ。無知だけが己を殺しうる脅威だ。

『64』

「ファーザー」

『現刻を以って作戦開始とする。こちらから連絡があるまで無線封鎖を保ち、全ての行動は貴官が独立して責任を負う。任務の失敗は考慮されていない』

「了解」

『武運を祈る』

 

 "通信の終了を確認。アポトーシスプログラムを実行"

 "情報統制状態を構築"

 "任務を開始する"

 

 

 "機会目標に到達"

 "行動指針を更新。ニックネーム「郷に入ったら郷に従え」を開始"

 

 ………さて、どこだここ。

 

 "情報公開要求を検知"

 "参照:東京都高度育成高等学校。政府主導の日本の未来を担う人材を育成することを目的とした高等学校。進学率、就職率共に100%という驚異的な実績を誇るが、その実態の殆どが機密とされている。本官の任務は、当学校のシステムの全容を把握し、秘密裏にファーザーに報告する諜報任務と規定されている"

 

 ふむ。どうもキナ臭いな。100%なんて数字が出る辺り、ただの進学校じゃなさそうだ。

 

 "考察:進学率、就職率100%は不可能と推測"

 

 嘘をついている?バカな、機密ばっかりで国民から不満が出ない筈がない。結果を出しているからこの学校の存在が長らく認められてきたんだ。

 

 "考察を更新:学校に十分な実績が存在すると仮定した場合、幾つかの仮説が浮上"

 "仮説(i):世界最高峰の教育による成果"

 "仮説(ii):政府、又は学校が保有する権力による斡旋"

 "仮説(iii):何らかの提示されていない条件下でのみ達成"

 "仮説(iiii):上記以外の理由による結果"

 

 iはあり得ない。どうあがいても頭の良さが改善しない人間は存在する。iiは可能性こそあるが限りなく低い。国でもなんでも限界は存在するだろう。

 iiiはどうだ?正直反則ワザだが、これだと条件次第ではいくらでも達成可能だ。例えば、第四、第五希望に就職させることを就職率100%とするならば。

 ……それも厳しいか。本当に条件次第だな。

 まあ、今手持ちのインテルじゃ断定は出来ない。とりあえず教室に移動しておこう。

 

"参照:津田沼紳也。Aクラス配属。出席番号21"

 

 ブラックジャックか。ツいてるとでも言いたいのか?

 …そんな筈はないか。未成年でギャンブルに詳しいなんてことはバレたら大事だ。

 

 "移動を開始"

 

 

 

 教室の扉は空いていた。つまりトラップの仕掛けようがないということだ。

 ………アホらし。

 中に入り、周囲を一瞥しながら自らの席に向かう。

 

 "推奨:周囲の観察、情報の収集"

 

 本を読みながら、ね。当たり障りのないものをチョイスすべきだろう。

 

 "参照:『虎よ、虎よ!』・『虐殺器官』・『地球の長い午後』・『1984年』"

 

 地球の長い午後だな。虎よは表紙がアレだし、虐殺器官はタイトルでもうアウト、1984は有名どころでイメージダウンを起こしては不味い。

 

 "検知:本官に注目する対象1名"

 

 やや前方からか?確認しよう。

 

 "警告:対象が行動を開始。本官に接近"

 

 十中八九話しかけてくるだろう。待機、待機だ。

 

「『地球の長い午後』ですか」

「ああ」

「本を読むのはお好きですか?」

「SFに限って、な」

「では『夏への扉』も?」

「良いチョイスだ。そんなあなたは日本人タイプ」

「外国人は?」

「『月は無慈悲な夜の女王』だろう。……さてはあなたも」

「坂柳有栖です」

「そうか。私は津田沼紳也だ。よろしく。今時コアなSFファンは少なくてな」

「こちらこそ。その道の専門家がいるとより深く楽しめますからね」

 

 "通知:坂柳有栖を要警戒対象に昇格"

 "推奨:関係の維持、交流"

 "考察:坂柳と同性の人物の存在"

 "推奨:本人への質問、あるいはそれ以外のアプローチによる確認"

 

「待てよ。坂柳という苗字はどこかで………?」

 

 首を傾げる仕草をしながらさりげなく彼女の方を見ると、

 

「珍しい苗字ですから、恐らく勘違いかと」

 

 不敵な笑みを浮かべる彼女が、教室の中で異様な存在感を放っていた。

 

 

 

 始業式を終え、教室に戻った俺たちは先生からこの学校についての説明と学生証端末を受け取った。

 それと同時にこの学校の敷地内のみで通用する通貨(単位はp)を十万ポイント分を受け取ることになり、一時教室は騒然となった。

 現在、説明を終え、質問すら受け付けず即座に教室を出た先生を気にしながらも、スキンヘッドの学生を中心とした自己紹介が行われていた。

 

 "参照:葛城康平。男性。口調から地方出身と推測。統率能力があり、また高い学力と知性を持つ"

 "参照:橋本正義。男性。要警戒対象。一般男子高校生といった風体だが、着席する直前に見せた鋭い視線が見ていたのは坂柳だった。会話もなしに彼女の能力を見抜いたらしい観察眼は、鷹のような印象を受ける"

 "参照:坂柳有栖。女性。要警戒対象。先天性疾患を患っており、常に杖の使用を余儀なくしている。本官との会話から推測できるように突出した能力を保持し、現在時点で最優先警戒目標となっている"

 

「次だ。君、頼む」

 

 俺か。

 

「津田沼紳也だ。中学時代は無所属。趣味が非常に多い。SFを主に読む。よろしく」

 

 非常に、という点で何人かが首を傾げたな。仕方ないだろ、本当に多いんだから。

 

「よろしく。次は―――」

 

 さて。とりあえずはこれで外を意識する必要はなくなった筈だ。しばらくは思索に耽るとしようか。

 

 "参照:学生証端末に記された10万ポイント"

 "疑問:学校敷地内でのみ通用する通貨。これを使う学校側の理由は何か?"

 "考察:このシステムを採用する事により、閉鎖空間を作りあげ外界とのコンタクトを完全に遮断している"

 "参照:経済モデル"

 "考察を更新:仮想通貨にも似たこのシステムは実験的な要素が強いように思われる"

 "参照:仮想通貨"

 "考察を更新:実験できる環境が必要だから構築したのか?"

 "反論:学校が創設してからすでに時間が十分経過。データの採取は終わっている"

 "考察を更新:既に実践的なクラスまでブラッシュアップが終わっていると推定"

 "疑問:何故継続しているのか"

 "考察を更新:長期的なデータを採取する必要性があると推定。他の通貨と異なり、利用人数はそれほど多くなく、供給が増え続けるという特殊な状況によるものか"

 "反論:長期的なデータを採取する必要があると仮定したとしても、既にこれまでの経済の流れから未来を予測できるほどのデータは取れている。それ以上のタイムスパンのデータの必要性はその経済システムが不安定で変化が激しい場合程度"

 

 待て。安定しない経済だと?この閉鎖空間で?供給が止まらないインフレは「安定」しているぞ?

 

 "疑問:供給が継続するという仮定"

 "反論:(参照より)毎月1日に10万ポイントが支給される"

 

 「―――――ッッッッッ!!???」

 

 "参照:毎月1日に「ポイントが」支給される"

 

 何故だ。何故あの先生は10万ポイントがと言わなかった。最初に渡されたのにも関わらず。

 

 "参照:給料システム"

 

 クソ。パンドラの箱を開けてしまった。

 

 

 

「葛城」

「なんだ、津田沼」

「話がある」

 

 自己紹介を終えたあと、解散となり生徒の数も少なくなった教室を去ろうとしていた葛城に声をかける。振り向いた葛城は、俺の顔を見て何を思ったのか表情を堅くした。

 

「お前が発案した事項紹介をし合うというのは何を目的にしたものだった?」

「………中学に同じ事をやった友人がいたのを覚えていて、この学校ではこれをやっておくべきだろうと判断してやった」

「何故だ?」

「……その口ぶりだと分かっているようだが、この学校は何もかもがイレギュラーだ。流通貨幣がポイントというのも理解しかねる。それで、この学校で生活していく上で個人の力だけでは足りないと感じ、全員の素性を把握する必要があった」

「全て覚えているのか」

「ああ」

「そうか。俺がお前に言いたいのは、その流通貨幣についてだ」

「何か気づいたことがあるのか?」

 

 改めて気づいたが、葛城は恐ろしく頭が切れる。見ず知らずの俺の話を無下にせず、その裏に存在する何かを見抜き、こうして話を聞いてくれている。

 

「毎月1日にポイントが支給される。そう先生は言っていた」

「………10万ポイントの件か?」

「そう。もう一度それを考えてみろ、いいか、『毎月1日にポイントが支給される』んだ」

「………」

 

 葛城は腕を組んで目を瞑り考え始めた。適当な時間を置き、葛城の顔が一瞬変化したのを見計らって再度質問する。

 

「何か気づいたことは?」

「………10万ポイントとは、言っていない?」

 

 俺が頷くと、葛城の顔が驚愕に染まった。

 

 

 

「津田沼紳也、葛城康平。どうやらお前たちは、これまでに類を見ないほど『未知』に敏感なようだな」

 

 "参照:真嶋智也。Aクラス担任。男性"

 

 職員室の1年生の区画。一番右端のデスクに座っていた男は、そう言って俺たちを見つめた。

 

「初めてだ。入学式の放課後にこうして質問にこられたのは」

 

 "検知:後ろから何人かの足音"

 

「さて、この事態には、『どうやって対応するべきだったかな』、星之宮先生」

「『そうですね、何分前例がありませんから』………、」

 

 "検知:星之宮知恵。Bクラス担任。女性"

 

 俺と葛城は半自動的に新たに表れた先生に対して一礼をし、顔を上げた瞬間に先生の質問を受けた。

 

「そうだな、一つ質問がある。お前たちのどっちが、先にそれに気づいた?」

「津田沼です。私は彼にヒントを提示され、気づきました」

「成程。津田沼が、か。何が欲しい?」

 

 驚愕をあえて隠さず、顔に出す。

 正直、願ってもないチャンスだ。ミスったらそれを逃す可能性も高いが。

 まず間違いなく俺の指摘したポイントシステムに関連した話しかしてくれないだろう。他をした瞬間にうまくはぐらかされる可能性が高い。

 

 "リストアップされた疑問(フィルタ有):prとは何か。pとの違いは・何故10万ポイントが支給されると言わなかったのか・pで何が出来るのか"

 

 頭の中で整理された疑問の優先度を決定し、その情報の取得難易度を付け、演算する。

 その結果残された解は。

 

「prとは何か、です」

「よろしい」

 

 正解だ、と真嶋は笑った。

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