「これはゲームか何かのドッキリなのか?」
「だとしたら、それは国を挙げての盛大なものになるだろう」
溜息。冷めかけたスパゲッティに向いた目は曇天のように暗い。どこまでも四月の陽気に相応しくない雰囲気を醸し出すこの席は、俺や葛城が声をかけたAクラスの生徒が集まっていた。
"リスト:主催者――津田沼紳也、葛城康平"
"リスト:参加者――戸塚弥彦、町田浩二、司城黎人"
"リスト:参加者――赤坂椿、坂柳有栖、西川亮子、Oktavia Von Audrnrieth"
"状況整理:放課後に任意で集合をかけた会議。報酬は夕食の代金。昨日葛城に説明した事項と新たに判明したcl(クラスポイント)については通達済"
「昨日彼女らに確認してもらったように、全クラスの生徒が昨日10万prを貰っている。これが何を意味するのかは、クラスポイントとの関連性を見れば見えてくると思われる」
視線を引き付ける。彼ら、彼女らには昨日の間に構築した仮説を理解し、それが示す危険性をどうしても理解してもらいたい。
「周知の事実だが、クラスポイントについて分かっているのはその存在のみだ。それが一体何なのかは教えられていない。だからこれから俺が話すものは全て憶測の域を出ない」
「クラスポイント。略称がclのため、間違いなくClass pointだろう。クラスという言葉から組ごとに独立したものであることは明白だ。疑問なのは独立したものであるにも関わらず平等に10万ポイントが与えられている点だが。自然なのは、最初は全クラス平等に与えられ、高校生活によって、性格にはその中での何らかが原因となって変化するというものだ」
一旦話を中断し、全員が理解し追従してきていることを確認してから再開する。
「じゃあその原因は何か? 真っ先に思い浮かんだのは定期考査の得点や順位による計算だが、それだと毎月行う必要が出てくるから矛盾する。小テストを併用するなら実現可能であり、恐らくあると推測される」
「だが、それだけで10万prという大金が動くのか? 十分にありえる条件だが、『それが全てなのか?』 こんな巨大な閉鎖空間を徹底管理するこの学校が? 『学力だけで判断するのか?』」
「………つまり、授業態度や礼節、体調管理といったものも影響する?」
思わず、思考が口からもれ出た赤坂の言葉に、俺は深く頷いた。
「そうだ。人間、学力が全てというわけじゃない。それを土台とし、その上に何を積み上げたか、それらを使って何が出来るのかが求められている。話は飛躍するが、国際競争が激化する世界で、日本は先天的に抱えている資源不足という問題による不利を補う為に人材の育成に力をいれている。その最たるものであるこの学校が、そのことについて考えないのも話がおかしい」
「学校も、お前も、一体どれだけ考えているんだ? そう何人も、気付いているわけじゃないだろう」
隣で話を聞いていた葛城が呆れたように首を振った。それに対し俺は確信をもって断言する。
「俺も奴等も、自分が生き残るための最適解を見つけようとしている。それがこのような世界を生み出したのなら、それは『見えざる手』が導いた一つの答えなんだ」
"仮定:人々は合理主義者かつ利己主義者である"
もう外は色彩を失ったかのように暗くなっていた。あの後かなり話し込んでしまったようだな。
"成果:学校側の意図をある程度理解し、本官へ協力してくれる可能性のある生徒6名"
"課題:学校のシステムを把握するための情報の不足、クラスポイント変動の条件未確定、クラスの統率、ポイントシステムとその経済状況の把握、学校保有施設、監視カメラの位置情報・その他センサ類の存在の確認"
問題は山積み、か。しかもまだ「知らないことを知らない」状態だろうから、今後増えることは容易に考えられる。
処理し終えるころには鬱にでもなっているかもしれない。
施設を探索するときは、先ず最初に生活に必要なものから探していこうと決定し(特に医薬品)、寮の方向に足を向けた。
"参照:マーフィーの法則"
"説明:作業の手順が複数個あって、その内破局に至るものがあるなら、誰かがそれを実行する"
"ログ:四月[校閲]日、放課後、第三多目的ホール廊下"
「おい、誰だお前」
「………」
"検知:男性。要警戒対象に昇格"
「こんな人気のない所をうろついて何の用だ?目障りだから帰りな」
「お前と同じ用があってここに来ている」
「………ほう。面白ぇじゃねえか」
"推奨:人間像の把握"
"推測:戦闘の可能性"
"推奨:退避"
「お前に取引を申し出る」
「はぁ? 取引だぁ?」
言動が一致していないな。『その目つきは生まれつきか?』
「俺が提示するのはこれまで調査した監視カメラの位置。そしてお前に求めるのは、お前が調べた監視カメラの位置だ」
「馬鹿を言うな。何で俺が取引をしなければならない?」
「お前も俺と同じ、システムを理解しようとする人間の一人だからだ」
"特筆事項:僅かな動揺、驚愕"
「おいおい、その人をまるでただの道具のように見る言葉はなんだ? Aクラスのイキッてるガキか?」
「くどいな。お前は今事実を、お前にとって不都合な事実を隠蔽しようと俺に圧力をかけている。どれだけ否定しようと、お前が監視カメラの場所を地図にプロットしていたことは俺の中に記憶として残る。警戒すべき脅威として」
「はッ。それが、どうだって――」
「『絶対なんて不確実なものは存在しない』ことは良く知っているだろう? 防げる穴を見過ごすのか? やがて窒息死することになる穴を?」
"特筆事項:苛立ち"
殴りかかってこないか。どうやら、そんなにコイツは馬鹿じゃないらしい。そうであってほしくはなかったが。
「………」
「利害が一致したんだ。お前は秘匿したい事実がある。俺は知りたい事がある。そして幸運なことに、どちらも協力することが最善手だということを理解している」
「ないな。俺はお前の力を必要としていない。取引は不成立だ」
「そうか」
奴は俺をこれまでに見たことがない憎悪を込めて睨んでいた。
「いいか、お前は潰しておくべき雑草の芽だ。俺が歩く道に、そんなものを好き勝手蔓延らせる気はない」
会話は終わった。足音だけが残った。
後でアイツの名前は龍園翔と判明した。Cクラスのリーダーとしての存在を確立しつつあるらしい。どうやらその手法は他とは毛色が異なるようだが。
"推奨:龍園翔についての調査"
俺の名前も彼に割れているだろう。あの目は本気で俺を潰すつもりだ。あのアプローチは失敗だったか?
"反省点:確証を得ないままの行動"
対策を練る必要がある。リストに追加だ。
さて。
"推奨:学校保有施設の調査"
コイツは誰かを連れていくべきなのか? 単独行動は存外に目立つことがここ数日の生活で判明し、不用意に目立たないために同伴者が必要と見た。
問題は、その同伴者が誰かだ。
デートになるのか、遊びになるのか、調査になるのか、はたまた予想外の事態になるのか。
この問いに対する最適解とそのアプローチ方法を、俺は知らない。
"推奨:目的の達成の優先"