虹色のアジ   作:小林流

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感想を始めていただきました。
嬉しすぎて部屋で踊っています。


第11話

「都市伝説?」

「そうそう、最近流行ってるみたいですよ?」

 

 

 ここは学園都市のとあるビル、警備員(アンチスキル)第七三支部の詰所だった。警備員とは学園都市の治安部隊の一つで、学園の教員の志願者で構成されていた。詰所で話していたのは二人の女性だ。ちょっとした空き時間にお茶を飲む程度には、本日は平和なのだ。

 

 

「どんな都市伝説じゃんよ?」

髪を後ろでとめ、化粧っけのない顔。黄泉川愛穂は適当に聞き返した。脱力した体をソファに預けている。彼女に話しかけているのは眼鏡の同僚、鉄装綴里だ。鉄装はゴシップ記事を手に黄泉川に書いてあることを言う。

 

 

「なんでもここ数年のうちに謎の巨大生物の目撃情報が何件もあったとか。実際にニュースにもなったみたいですよ?」

「巨大生物って、クジラとかじゃん?」

「いえいえ、謎のですってば。ここに書いてあるのだと、南極で目撃された黒い怪物、中国に上陸した龍、太平洋に現れたいくつもの触手を生やしたクラーケン、みたいな感じですね。怪獣映画みたいで面白くないですか?学校でも生徒たちが盛り上がってましたよ」

 

 

「怪獣映画って.........流石にそんなヤツいないだろ。いたら誰かが動画でもとってニュースになってるじゃんよ」

「だから都市伝説なんですってば、まぁここにはさらに「学園都市から逃げ出した生物兵器の成れの果てでは!?」なんて書かれてますけどね」

「そんなの作ってたら世界中の動物愛好家が殴り込みにくるじゃんよ。ただでさえ、どの部位を食べてもカルビ味の牛とか作ろうとして、生命の冒涜とか言われて科学者が何人か怒られてたじゃんか」

「まぁ、実際いたら巨体を維持するエネルギーとか大変そうですよね、いっつもお腹空いてて、一日の大半を食事に使わないと体がもたなそうですもんね」

 

 

 鉄装はむにゃむにゃと適当に考えを言った。そしてまたパラパラとページをめくる。黄泉川は大きく伸びをしてあくびをした。伸びによって豊満な胸がさらに強調されるが、意識してやっているわけではなかった。いいことだけど、暇じゃんねー。黄泉川は思った。

鉄装は、また黄泉川に話しかける。今度は別の都市伝説らしく、ここ学園都市に直接関係あるものらしい。「ごみ処理場の怪物」の見出しがデカデカと書かれたページを見せてきた。黄泉川が興味なさげに斜め読みすると、要するにごみ処理施設で夜な夜な徘徊する怪物がいる、ということらしかった。

 

 

「怪物ねぇ。いたとしてもゴミ捨て場じゃちょっとかわいそうじゃん」

 黄泉川がそう言うと、詰所に連絡が入った。

 どこぞの馬鹿(不良)が喧嘩を始め、ヒートアップしてカーチェイスにまで発展しているとのことだった。二人はすぐさま仕事モードに意識を切り替えると、装備を着て駆けだした。向かうは第十九学区。学園都市の中でも廃れ始めた場所だった。

 

               ○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 第一九学区の街並みは暗い。再開発事業に失敗した影響か、住人もほとんどいない。いくつかの研究所も存在するが、何世代も前の火力発電や蒸気機関等の古臭いモノをメインとしたものばかりだった。その他では、廃工場やゴミ処理施設が適度にあるのみである。そんな半ばゴーストタウンと化した高速道路を猛スピードで走る車が数台。

 一台は学園都市製の中古の電気自動車、その他は警備員御用達の強化型トラックだった。

 

 

 

「やべぇ!?なんだあの女!!?」

 電気自動車を運転しながら、一人の不良は涙目で叫んだ。

 喧嘩は日常茶飯事だったが、ここまでヒートアップしたのは初めてのこと。売り言葉に買い言葉で、どんどん引っ込みがつかなくなり、近くにあった車を強引に盗み出してレースで勝負を決めるなんて珍妙なことになってしまった。それがいけなかった。学園都市には警備員と呼ばれるクソ面倒な警察みたいなことをするセンコーの集まりがあることは知っていた。しかし、しょせんはセンコー。こっちが暴れれば、なんとかなると数十分前までは、この不良は本気で信じていた。

 

 しかし、現実はそうではなかった。

 

 

「ほらほら車の運転に自信あるんだろ!?ちゃんと気合いれて逃げてみるじゃん!?」

 真横にべったりと警備員のトラックが疾走し、なおかつ時折ガンガンぶつけてくる。そして恐ろしいのは助手席から顔を出すこの女だ。速度は百キロを超えている中、自身のヘルメットや楯をすごい勢いで投げてきやがったのだ。その衝撃によって車がスピンしそうになり、窓ガラスは粉砕した。本気で命の危険を感じる逃走劇になってしまった。

 

 

「むちゃくちゃしやがる!おい!これ盗品車だぞ!?持ち主がいる車をこんなに傷つけていいのかババア!?」

「必要な犠牲じゃん。それよりほらほら!止まるなら早くした方がいいぞ!まだ、予備のヘルメットあるから」

「おいおいおいおい!もうやめろ、ババア!わ、わかった!わかったから!」

 不良はついに降参して、車を急停止。泣きながら両手を上げて車外へ出てくる不良をみて、黄泉川は笑う。「うんうん、最初からそうすればいいじゃんよ」などと言いながら、ヘルメットを手で遊ばせる。

 

 

「暴走行為で強制連行じゃんよ!」

 黄泉川の言葉に仲間の警備員たちは、不良をトラックへ連れていく。不良は、連行されながらも、なんだんだ、あの女。あんなのありか、ありなのか。と話し、警備員たちに同情されていた。黄泉川は非常に優秀な警備員であったがその解決方法は荒っぽく、捕縛した不良たちは黄泉川の名を聞くと震え上がるのが常だった。どんな危険な事件であろうと、コミカルかつ暴力的に解決してしまう彼女に、不良に心はポッキリと折れてしまうのである。

 

 

 黄泉川は現状を、他の不良たちを捕縛しに向かった同僚へ連絡する。今回の不良たちは車を盗んでレースをしていたために、どうしてもチームを分ける必要があった。黄泉川の言葉に別チームになっていた鉄装が反応する。鉄装は盗品車は確保し、その運転をしていた運転手の不良は黄泉川と同じく捕縛したらしい。

 

 

 しかし、その後部座席に乗っていた仲間は悪あがきをして、逃走。今は、哀れにもゴミ処理施設内に逃げ込んだらしい。そんなところに逃げても、袋のネズミである。

 入り組んだ施設内で不良を探し出すのには人手がいるだろう。加えて時間がかかるほど、焦った不良が施設内の機材などで怪我をする可能性も増える。問題行為をしていようが相手は子供だ。その身は守る必要がある。黄泉川は鉄装といくつか言葉を交わして通信を切った。そしてトラックを運転する同僚に、先ほど捕まえた者を搬送するついでに自分を降ろせと伝える。

 

 

 車通りがほとんどない高速道路を進み出口へ、そのままいくつかの道を進むとすぐに目的地へ。ゴミ処理施設に到着するまで数分ほどだった。黄泉川はすぐに施設の入口付近にいた鉄装と落ち合う。他の同僚はすでに施設内に入ったとのこと。

 

 懐中電灯を片手に持ち、支給品である予備のシールドを背負って黄泉川も中に入っていく。職員は全員退勤済みとのことで施設内は暗かった。彼女は1階から虱潰しに確認していく。すると地下へ進む階段が見え、一瞬チラリと動く影が見えた。同時に、やべっ!?という分かりやすすぎる声まで聞こえてくる。

 

 

 黄泉川は「あんまり、めんどうかけさせるもんじゃないじゃん」と言いながら追いかけた。すぐさま先ほどの声の主とそのツレを発見。髪を金髪に染めた細見の男、もう一人は手にジャラジャラとアクセサリーをつける恰幅の良い男。二人組は黄泉川と目が合うと、脱兎のごとき俊敏さで逃げ回り、黄泉川は走り出す。逃走劇を繰り広げる三人は、知らず知らずのうちに施設の外へ。

 

 側面には縦7メートルほど巨大な扉がいくつか並んでおり、近くには人サイズの小さな出入り口が扉の隣にそれぞれ存在している。焦る不良、二人組はその小さな出入り口のドアを勢いよく開け放ち、中へ駆ける。

 

「あっ!?バカ!!」

黄泉川が思わず叫んだ。自分たちの居場所に見覚えがあったからだ。三人がいたのは、ゴミ収集車がゴミを直接投げ入れるためのプラットホームである。当然、扉の先はゴミ溜だ。人間大の出入り口の先もゴミ溜を確認するための、手すりがついたベランダのようになっている。しかし、暗い中で焦ったまま走るとどうなるか。

 

 

 案の定、不良二人の叫び声が聞こえた。黄泉川は血相を変えて不良たちが飛び込んだドアに走る。暗闇を照らすと巨大な空間があり、下の方へライトを向けるとゴミが溜まっているのがよく見えた。下まではおよそ11メートル。ここを落ち、かつ当たり所が悪ければ命にも関わる事故になる。

 

 

「おーい!無事じゃんか!?」

 黄泉川は叫びながら、懐中電灯を下へ向ける。すると斜面にカエルのようにへばりつく不良の姿。ズリズリと下に落ちている。どうやら落下の瞬間、うまいこと側面に足から接触し勢いを殺せたようだ。不良たちの無事を確認し、安堵する黄泉川。同じように、ゴミの上まで降りきった不良たちもホッとしたような顔をした。

 

 

 黄泉川は不良たちに怪我の有無を聞きつつ、もう一度バカと叫び、そこでおとなしくしてろ!と言った。そしてすぐに彼女は同僚たちへ連絡。バカ野郎どもはゴミの上にいると伝え、はしごを持ってくるようお願いする。不良たちも観念したようで、諦めたように斜面に腰を下ろしている。

 

 

 此度のバカ騒ぎもようやく終わり、そう黄泉川が思った時、異変が起きる。

 座り込む不良がいきなり、叫びだしたのだ。黄泉川はそこで目撃する。

 不良の一人の脚に何か、タコかイカのような足が絡みつき、そのまま宙づりにしているのを。不良は叫び続ける。黄泉川はすぐに手すりを超えて、斜面に背中に背負っていたシールドを置く。そしてまるでボードのようにして下まで一気に滑り落ちると、宙づりの不良の元へ駆けつけた。

 

 

「なんだ!?これは!?」

黄泉川はそう言いながら、懐中電灯でその触手を殴りつける。触手は驚いたように震えると不良の脚から離れゴミの中へ潜った。黄泉川は警戒を解かず、不良二人を自身の後ろへ誘導。先ほどのシールドを回収して、守りの形をとった。

 

「なんなんだくそ!?ありえねぇぞ!」

 不良が喚く。ぼこりとゴミの一部が盛り上がった。見えたのは先ほどの触手だ。しかし、一つではない。全部で四つの触手が這い出て蠢いている。衝撃的な光景に、黄泉川と不良たちは冷や汗をかく。

 

 

「怪物だ」

 恰幅の良い不良が口を開いた。

「あれだよ、あれ!都市伝説の、ゴミ処理場にいる化物!こいつがそうだ、きっとそうだ!」

「馬鹿野郎!そんなもんがいるわけねぇだろ!ふざけんな!」

「でもよ!」

「二人ともうるさい!黙るじゃん!!!」

 

 興奮する不良を、黄泉川は怒声でおさえる。暗い中、パニックになるのは危険だ。正常な判断が下せなくなる。黄泉川の声に不良たちは押し黙った。四本の触手は未だに蠢いているものの、三人のそばには来なかった。触手は先端をゴミの上に乗せると、まるで蜘蛛の脚のようになった。すると、触手の中心から這い出てくる影が見えた。黄泉川が目を凝らすと、それは小さな人影だった。

 

 

 それは子供だった。

 背中から触手を生やす子供だ。見てみるとほとんど裸だった。首から汚い布をかけているだけで、他には何も身に着けていなかった。子供は素足でゴミの上に立つと、三人の方を見た。そして両手で顔を隠す。黄泉川の持つ懐中電灯を眩しがっているようだった。

 

 

 尋常ではない事態に黄泉川の表情が鋭くなる。そして意を決して、その子供の元へ近づいていく。様々な憶測が黄泉川の脳内を駆け巡るが、それ以上にまず行わなければならないことは、子供の保護だった。こんな不潔な場所に裸でいていいわけがない。

黄泉川が近づくと子供は一歩下がった。その様子を見て、彼女はできるだけ優しく話しかける。

 

 

「こんにちは」

 その言葉に子供は、ピクリと体を震わせて反応した。そして、また一歩下がった。

「ごめんごめん、びっくりさせちゃったじゃん?よいしょっと」

 黄泉川はしゃがんで子供の方を向く。懐中電灯はできるだけ子供の脚元へ向けた。これならば眩しくないはずだ。彼女は微笑んで、子供をみる。歳はおそらく12歳前後。目は大きく、手足はほっそりしていた。近くで見てわかったことだが、男の子のようだった。

 

 

「私の名前は黄泉川愛穂。君の名前は?」

 彼女がそう話しかけたところで、いくつものライトの光が注がれた。強烈な光が闇を照らし出す。驚いたようで少年は、聞き取れない言葉を言いながら飛びのいた。そして触手を使ってゴミをかき出してその体を潜り込ませた。黄泉川は、「あっ」と声に出し駆け出すがもう遅い。手探りで辺りを捜索してみても、少年がいた痕跡も発見できなかった。

 

 

 上からは同僚の心配する声が響き、ロープが投げられる。警備員に連れられて二人の不良は登っていく。暗いゴミの山を見て、黄泉川は息を吐いた。黄泉川の本職は教員だ。子供を導き、守る職業だ。そんな彼女にとってあの少年は放っておけなかった。

黄泉川が仲間たちに顛末を話し、明日また少年を捜索するように進めていく。辺りが暗闇ではとても少年を探し出せそうになかった。

 

 

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