虹色のアジ   作:小林流

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シリアスになってしまいました。


第23話

 アジはその日、検査目的でそのまま入院することになった。警備員やカエル顔の医師は、アジのより精密な肉体の検査を考えていた。その理由が彼の体内にある異物。地球上の金属でありながら、カエル顔の医師にも首を傾げる部分のある異物だ。現状、アジ自身の不調もなく、肉体は平常に活動できているが、油断はできない。

 

 

 学園都市にはまことしやかに、ナノサイズの反射合金によって人間の細胞をむしり取る技術や、人間の脳を分割して生き永らえさせる機材の存在が語られている。

もし、アジの体内にある異物が彼の思考を操作するものだったら。

そればかりか、彼をいつでも始末できる毒や爆弾だったら。

カエル顔の医師たちは、今度こそ自分たちを許せなくなるだろう。

 

 

 そのための精密検査だ。これまで一度たりとも、アジに対する真相にたどり着いたことはない。だが危険かもしれないものを放置するなど。彼らが許すわけがなかった。

そのためアジは今もまだ、液体の中にいる。目を閉じ、眠る彼の体を切り開くことは流石にしない。学園都市の未来的技術には、ナノマシンを用いて体を切らずに体内を探し回ることを可能にした。

 

 

 医師は慎重に彼の異物を、再び確認していく。いくつかある異物の中で、彼が特に注意を注いだのはアジの心臓付近にある精巧な造りの物質だ。金属を削ったようにも見えるが、ナノマシンの調査では金属だけでなく、植物や動物の骨などが混ざっているようだった。

 ありえないものだと医師は思った。

 

 

 彼は人体の専門家であり、化学に秀でているわけでない。しかし、全く異なる物質をこれほどまで結合させることは可能なのだろうか。何度調べても接着剤のようなものは出てこなかった。不気味だと、医師は思った。形状も、意味不明だった。それは、茨の輪のようなもの、翼のようなもの、小さな仏像のようなものが絡まった形状であり、先には穴が開いており紐が通してあった。

 

 

 紐は、物質に比べると平凡だ。単なる植物性、絹でできた紐だった。まるで首飾りのようだ。

 

 カエル顔の医師はその後も調査を続けたが、成果は芳しくなかった。しかし、一点だけわかることがある。異物の用途は不明だが、これらが毒物である可能性は低いこと。またこれらが爆破やその他の殺傷する性質を持っている可能性も低いことがわかった。断言はできないが、カエル顔の医師のこれまでの経験から、そうした用途に変換するのは無駄が多すぎると判断したのだ。

 

 

 カエル顔の医師は額の汗をぬぐった。長丁場になったことで、流石の彼も疲弊した。警備員たちは、黄泉川を残して全員が帰宅した。黄泉川にも、この病院の防衛システムの強固さは説明したが、彼女は帰ろうとはしなかった。カエル医師は、黄泉川にわかったことを伝えつつ、いくつかの話しをしながら廊下を歩く。

 

 

 

 

 彼らがいなくなった病室。カプセルの中で、アジの口から泡が漏れた。彼は夢を見ている。懐かしい夢だ。彼は天草式と共にあった過去の映像の中にいた。アジの目は少し輝いた。

「あんアイ.........」

(神裂.........)

 誰も彼のつぶやきを聞いてはいなかった。

 

 

 

             ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 学園都市は総人口230万人。その八割が学生だが、その他は勤務している大人である。だからそれなりに夜遊びする者も多い。真面目な学生であろうと、夜中にコンビニに出かけることだってあるだろう。だから、上条は違和感にすぐに気づいた。

 

 

 時間はまだ午後8時だった。それなのに自分の周りに誰もいない、という違和感。周囲は街頭やデパートなどがある。そうした店内にも人影は皆無である。世界に取り残されたかのような状況。上条は息をのんだ。こういう異質なことを仕組む相手を、最近知ったのだ。

 

 

「ステイルが人払いの刻印を刻んでいるだけですよ」

 上条の耳に声が届いた。見てみるとそこには女が立っている。キリリとした意志の強そうな瞳が上条を射抜く。彼女は、ヘンテコな恰好をしていた。長い髪をポニーテールに括り、Tシャツに片方の裾を根元までぶった切ったジーンズ、 腰のウエスタンベルトには2メートル以上もありそうな日本刀がぶら下がっている。

 

 

 奇抜な女だった。彼女は口を開いた。

「神裂火織と申します」

 上条は、人生で二回目の魔術師との邂逅を果たした。

 

 

 自身が不幸であることを自認する上条当麻。右手は触ればどんな異能も打ち消す幻想殺しが宿っているが、普通の高校生である。彼は、夏休みに入りとある純白のシスターと出会い、彼女の危機を知り、助けようと足掻き、火を操る魔術師と交戦後に撃破。シスターの傷をいろいろやり癒して、今現在に至っているのだ。

 

 

 そのため上条は少しだけ楽観視していた。魔術師といえども無敵ではなく、攻略する隙があるものだと考えた。その希望的観測が霧散するのは早かった。

 

 

 神裂の動きによって、風力発電用のプロペラは両断された。街路樹がすべて短く切り揃えられた。見えざる七つの刃が彼の周りを破壊していく。それでも上条は折れなかった。それがよくなかった。

 

 

 虎の子の右手は血まみれ、全身打撲の重傷になるまで数分とかからなかった。

 しかし、それでも。

 上条当麻は折れない。自身の信念を貫き通そうと吠える。神裂もそれに応える。応えてしまう。彼女も本質は彼と似通っているのだから。呼応して当然と言えた。

 

 

 

 

 純白のシスターは、上条にとって守りたい存在だったが、それは神裂も同じことだった。むしろ神裂にとって、シスター、「インデックス」は親友だった。

 

 12歳で単身ロンドンに渡り、紆余曲折を経てできた親友だった。彼女は10万3千冊という膨大な魔導書を記憶によって保管している彼女は、代償として1年間で記憶を失う。どれほど仲良く過ごしても、一年で終わり。リセットされ記憶の持ち越しはされない。アルバムや約束で、希望を紡いでも、必ず別れが来てしまう。

 

 

 神裂にとって、それは地獄だった。

 爛漫で純粋で、聖人である自分を本気で心配してくれる彼女。

 

「かおり!強いからってムリはダメなんだよ」

(神裂、危ないから無理はダメだよ)

 そう話しかけるインデックスは、彼に似ている。見た目はまるで似つかないが、性質だけみればどうしようもなく、彼を幻視してしまう彼女が、一年経てば他人のように振舞う。耐えられるわけがなかった。

 

 

 上条は、それでもと唸った。

「てめぇらが嘘をつき通せるほど強かったら!次の一年にもっと幸せな記憶を与えてやれば!記憶を失うことが怖くなくなるくらいの幸せが待ってるんだとわかっていれば!もう誰も逃げ出さずにすんだことだろうが!」

 上条が怒る。これほどの強さがありながら、なぜ逃げるのか。自分などよりも神裂は何倍も、何十倍も強いくせに、逃げるなと喚いた。上条は満身創痍の身で、激昂する神裂の額をなぐりつけた。

「テメェは何のために力をつけたんだよ!テメェは何を守りたかったんだよ!」

 

 

 上条はその後も、いくつか叫んで地に伏せた。

 神裂は額を触る。痛みなどない。むしろ叩いた上条の右手が裂けている。しかし神裂の心は衝撃を受けた。私は、何のために力をつけたのか。誰を守りたかったのか。

魔法名を名乗らせないで下さい、などと神裂は言った。しかし、その言い回しは正確ではない。名乗らせないで下さい、ではない。今、自分にあの魔法名を名乗る資格などなかっただけだ。

 苦しんでいる友の、救われぬ者に手を伸ばせない自分には、名乗ってはいけない。

 

 

 神裂はこれまでの数年の、そして今の自分を鑑みる。一体自分は何をしてきたのだろうか。目の前の少年に良いように言われても、反論もまともにできないのだから。

 これが建宮だったら、不敵に笑いながら少年に噛みついただろう。

 これが野母崎だったら、へらへらしながら返しただろう。

 これが諫早なら余裕綽々で、これが対馬なら舌打ちも入れて反論しただろう。

 

 これが、これが彼だったら、なんと言うのだろうか。

 神裂は首飾りを握る。強く強く、壊れないように大切に、握りしめる。

「貴方がいなくなってから、辛いことばかりです.........」

 神裂がそういうと、ふと声が聞こえた。

 

 

 か............ザキ.........

 

 

 神裂は息をのんだ。

 目は見開かれ、頬には冷や汗が垂れる。

 周囲を捜索する。聖人の五感を総動員して、声の主を探そうとする。まさか、ありえない。神裂は自分の心臓が高鳴っているのを感じた。息は上がり、背はゾクゾクした。

 しかし再び、その声が聞こえることはなかった。

 

 

 神裂はもう一度、首飾りを握った。そして震える声を出した。

「.........アジ?」

 それは友の名だ。自分のせいで、もう二度と出会えない最愛の友の名だ。神裂は頭を数度振って自身を落ち着かせた。血みどろの彼をそのままにして、闇夜を駆けた。同僚と落ち合うことはすぐにできたが、神裂はしなかった。

今日は考えることが多すぎる。

とあるビルの屋上に飛び乗ると、神裂は月を悲しげに見上げながらもの思いにふけった。

私はどうすれば。

 その問いに答えてくれる仲間は、いまここにはいない。

 

              ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

「見てみるのよアジ!神裂の創った霊装!!いくらなんでも長すぎなのよな。ほれ、俺よりも大きのよ。たぶん2メートルはあるぞ!こんな長い得物を振り回すなんて、流石の聖人にも、それも9歳の誕生日を迎えたばかりの女の子には無理なのよ!?まさに背伸びのしすぎッボッダ!!!?」

「やめて神裂!建宮の頭がへこんじゃう!」

「うるせぇ!いっぺんへこんじまえばいいんだよ!せっかく最初にアジと建宮に見せたのにコイツなんだ!?ええ!?」

「神裂、怖いよ。最近の怒ったときの口調が怖すぎるよ?」

「怖くてもいいですよ!怒ってるのですから。それよりも建宮、何か言うことはないのですか!?ええ!?こらッ!?」

「ダメだよ神裂。建宮はあまりの痛さにゴロゴロ転がってるから、神裂の声が聞こえてないッて神裂、鞘の先で建宮の腰をつつくのはやめなよ。ゴスゴス言ってるから!?息できなくなっちゃうよ!」

 

 今から9年以上前のとある日の記憶を、アジは夢として見ていた。あれは、あぶなかったなぁとアジはしみじみ思った。アジと神裂の交友をみて、建宮も彼女の思想や能力を尊敬しつつ深い関りをするようになった。しかし、建宮は仲良くなった相手をおちょくることも少なくなく。それは神裂とあまり噛み合うことはなかった。

 

 

 彼女のツッコミは、マジで洒落にならないからである。

 アジは昔の、騒々しい日々の夢を見ながらむにゃむにゃと寝言を発する。カプセルの中にまた泡が出た。近くの大通りで神裂が、めちゃくちゃ悩んでいることなど、知る由もないまま。アジは、口から涎を出してぐぅぐぅと寝た。首飾りを通して、術式を微妙に発動させながら。

 




アジがいたので、神裂と天草式のみんなは中々仲良しです。
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