虹色のアジ   作:小林流

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遅くなりました、33話です。
アジの精神年齢ですが、たしかに急に幼い感じになりすぎているので、完結後に本文を調整していこうと思います。(最初からIQ低めに?)
よろしくお願いいたします。

後、木原くんの独自設定がちょっと出ますので、それもお願いします。



第33話

 木原数多はここ数年で最もハイな気分だった。最高の実験動物(おもちゃ)だと目の前の怪物の成れの果てを見て思う。いや、成れの果てなどという表現は適切ではないだろう。そんな代物ではない。もっと歪な、それでいて進化した肉塊の変異後の姿だ。

「すげぇすげぇ!!ほんとなんなんだこりゃ!!調べれば調べるほど、ぶっ壊せばぶっ壊すほど訳がわからねぇぞ!!」

 

 

 第二一学区の地下道から車で数十分、ダムの中央に沈んだ場所に木原数多の個人的研究所はある。その内部は水底ゆえに窓はなく、多様な機材が雑多に並び、様々な巨大ガラスケースがあった。設備は全てが最新式であり空調設備も万全だ。良質な酸素が一定時間ごとに送り込まれておりまるで山荘にでもいるかのような一種の爽やかさすらあった。

 

 

 だからこそ、ガラスケースの向こう側の悲劇がより鮮烈になる。

 それは蠢くいつかの影。内臓が混ざったようなスライムの如きモノ、ウツボや甲殻類などの海洋生物の混合生命体、背から触腕を伸ばしながら蠢く少年。そうした明らかな異質なものがガラスケースの向こうにいる。液体に漬かるモノ、拘束されるモノ、今も刃で寸断され続けているモノなどの多種多様な実験体たちだった。

 

 

 強化特殊素材でできたガラスケースの向こうと、研究施設はまさに違う世界だった。支配と隷属、命と死といったものが、そのガラス一枚で隔たっている。 

 隊員の一人は思わず震えてしまう。自分の上司の一言で、自分たちも立場もカンタンに反転してしまうことが再び実感できたからだ。自分たちも十分に悪人だろう。だが彼はもっと質が悪い。好奇心と探求を至上とする狂人は、その価値観がズレすぎている。

あれほど残虐な実験をし続ける木原数多と言う男は、今も笑っているのだから。

 

 

 

 

 実験の数時間前、幾度となく爆炎で焼かれた怪物は、一矢を報いるように木原へ噛みつこうとした。けれどもそれは悪手だった。木原はそれをいとも簡単に避けて、手榴弾を代わりとばかりに口へ放り込んだ。さしもの怪物も体内からの衝撃に対して耐性はなく、ハラワタをまき散らしながら悶え動かなくなった。それでも木原は楽しそうだった。死体ならば死体で、弄りまわす術がたくさんあるのだ。

 

 

 木原は怪物の重量を考え、移送用の機材をいくつか用意していた。しかし、それでも怪物が一度に運べないと知ると、隊員たちに指示を出した。

「お前の班は内臓を運べ、お前の班は頭を切り落とせ、お前のところは腕な」

 木原は怪物の解体と輸送を部隊に命令した。肉の焼ける臭いと、死体をいじる行為に嘔吐感を覚えた隊員たちもいたが、逆らうものはいない。彼らは迅速に命令を達成。木原が乗る車を先頭に、複数の車両がトンネルを進んだ。

 

 

 そこで異変が起きる。なんと怪物の死体が、動き出したのだ。それも一つではない。寸断した腕や内臓まで、すべての部位が蠢いたのだ。それらは形を成したり、あるいはそのままの肉塊のまま近くの隊員に襲い掛かる。咀嚼する口や牙もないままに、その肉塊たちは表面を隊員たちに擦り付ける。阿鼻叫喚の事態だが、木原の怒号により一時収束。

 

 

 襲われる隊員をそのまま犠牲にしつつ、車は研究所に到着した。

 犠牲となった彼らは死んでおらず気絶か、はたまた虚脱状態になっていた。まるで体中の活力か生命力と呼ばれるものが吸い取られたようだった。

 木原はそんな怪物をさらに気に入り、強力な電流が流れる棒や火炎放射器などを嬉々として扱いながら一体、また一体とガラスケースに入れていった。

 

 

「これなら一気にいろんなコトができるな?」

 そんなことを呟きながら、彼は準備に取り掛かった。数分で実験準備が完了した。すぐさまガラスケースの中の壁面から複数の機能を持つアームが飛び出した。そこからの行為は悪逆非道に尽きる。

 

 

 動くものを焼いてみたり、切り刻んでみたり、放射線を当ててみたり、動くものを同じケースに入れて様子をみたり、動くものと動くものをミキサーで混ぜてみたり、とにかく人間が思いつくことを可能な限り行った木原。彼は実験中も、そしてその結果のデータを確認するときも本当に楽しそうだった。わかったこと、わからなかったことをメモしていく様子は、まるで小学生がカブトムシの観察記録をつけるかのように目を輝かせていた。

 

 

 そんな木原研究所に、一人の男がやってきた。

 場に不釣り合いなアロハシャツにサングラス姿の金髪の少年だ。けれども隊員たちは体を固くする。暗部に年齢は関係ない。むしろ若い子供のほうが危険だ。能力者であった場合、自分たちは一瞬で殺されてしまうからだ。

 

 

 「なぜ連絡をしなかった」

 金髪の少年、土御門は不機嫌そうに言う。それだけで彼の力量がわかるというものだ。木原数多にそんな口を利けるものは限られている。

「あん?細かいこと言ってんじゃねーよ。お前が対応できねぇから、俺が代わりに動いたんじゃねーか、ああ?」

 木原は一度、土御門を睨むがすぐに笑う。それよりも聞けよと言いながら話し出す。

 

 

「おいお前、プラナリアって知ってるか?」

「.........なんの話だ?」

「プラナリアってのはおもしれぇ生き物でよぉ。千切った部分から再生するんだよ、頭をぶった切ればその下から体が再生する。でもそれだけで終わりじゃない。残った体も再生を始めて頭ができちまうんだな。つまり、二匹のプラナリアになるってわけだ。アレイスターがぶち殺せつったこのバケモンはそれを超えておもしれぇ」

 

 

 木原は、ガラスケースの中を土御門に示した。彼の表情がどんどん歪んでくが、話に夢中な木原は気づかない。いやもしかしたら気づいていて無視しているのかもしれない。

 

 

「このバケモンも千切れば千切るほど増える!そんだけでもイカレてるが、コイツのすげぇところは千切った個体同士が再融合することだ。再融合の時にゃ、嫌がるそぶりも見せねぇ。だからコイツは現状は群体に見えちゃいるが、実は個体の特性を持ったまま分裂できる能力をもってるんだろうと思うね、俺は!」

 

 

 木原は自分の発見を思わず話してしまっているようだ。その発見までの過程で、どれほどのことが起きていたのか、目前の惨状以上のことがあったのだろうと土御門は想像する。科学的、そして魔術的な視点をもつ彼は怪物と呼ばれた少年の現状を考える。木原の講釈はまだ終わらない。

 

 

「だ、が!不思議なことに全部の肉を集めてもあの気色悪いライオンにゃ、ならなかった。もっと蛇みてぇな形態に変異して、ガラスケースへぶち当たりやがった。それがこのヒビだが、まぁ、もっかいバラシて処理したから問題ねぇ。肝要なのは、変異の差じゃなくて行動の差だった。あれほど猟犬部隊や俺に対して攻撃してきたコイツの意思がすっかり消えていたんだよ。今もそうだ、千切った肉片はバラバラに変異しやがったが、向かう方向はガラスケース。だが、個体ごとに微妙に右の方へズレていやがる。なんでそんなことが起きるのか!?調べるしかねぇよなぁ!!んで、考えられることは全てやった!!」

 

 

 土御門はもう木原の話を聞いていなかった。神妙な面持ちで、ガラスケースの中の少年を見ている。彼はうつろな瞳で、強化ガラスにぶつかっている。体を変異させ何度も何度も体をぶつけ続けていた。

 

 

「そんでわかったんだよ。多分こいつの中の意思みたいなもんは、脳を破壊したせいで消失しちまった。だから俺たちを敵とは認識していない。じゃあ、こいつらが無意識化に同じ方向へ移動している理由は何だ?それは再融合時の行動で説明できる」

 木原は一呼吸して話す。存外、彼はお喋りなのかもしれない。もしくは科学者にありがちな、自分の研究に対しては饒舌というやつなのだろうか。

 

 

「分裂した個体は、再融合しようと近づく特性があるのはもうわかってた。だが、それなら壁に向けてぶつかるはずだ。ガラスケース側じゃあ真っすぐ進んでも他の分裂個体とは接触できない。それなら簡単な推理でよ、こいつらの進行したい方向に再融合したい肉があるってことだよな?じゃあ、なんだそりゃあってことで考えたり、調べたりしたんだけどよ一向にこれってヤツが出てこねぇ。本当、弄れば弄るほど新しい問題が出てくる!最高の実験動物だぜ、コイツ。科学じゃわからなぇことも、ゴロゴロ出てきやがる。調べ続ければ、科学じゃ推し量れない新たな理論、オカルト的なナニカにもたどり着けるかもしれねぇな!」

 

 

 木原はそう言うと、手持ちの携帯電話にものすごい勢いで何かを打ち込んだ。おそらくは、血みどろの実験データに違いない。近くの機器の一つが、彼の携帯電話と連動するように光り、音を上げた。

 

 

 土御門は最後の木原の言葉を聞き、ピクリと体を震わせた。木原数多という男の経歴は、土御門はすでに調べあげていた。けれども、まさかここまで狂気的であり、また優秀な存在だとは知らなかった。

 

 

 この男は、たった数時間のうちに目の前の少年から魔術世界の片鱗を覗きみようとしたのだ。科学だけではないナニカ、魔術の存在を否定せずに追い求め続けることのできる木原という男を、土御門は危険視する。木原は、その探求心だけで世界のバランスを崩しかねない。それは何としても阻止しなければならないことだ。

 

 

 木原は携帯電話の操作を終えると、チラリとあるガラスケースを見る。それを見て彼は楽しそうに近づいた。

「見ろよ!オイ!またわけわからねぇ現象が始まってんぞ!」

 木原が見ていたのは、肉のスライムのようにされた肉片の一つ。液体の中を蠢いていたそれは、いくつかの口のようなもの創り出しその液体を飲み込んでいる。すでに液体はガラスケースの半分もなかった。木原は携帯電話を弄る。するとそのケースの天井に小さな穴がいくつか空き、さらにその液体を流し込んだ。

 

 

「この液体なんだかわかるか?ホルマリンだよ、生き物に有害なホルマリン!漬け込んで観察しようと思ったらこれだよ!すげぇ勢いで呑み込みやがるんだなこれが、すでにプール一杯分は飲んじまったよ!!だがしかしだ、この肉はデカくもならないし、死なねぇ。まるで吸い上げたホルマリンをどっかに送っちまってるみたいだよな!?」

 

 

 木原は楽しそうに笑った。

「酒じゃねーんだから、バカスカ飲むんじゃねーよ」

 時間はもうすぐ日の出。木原数多の実験はもうしばらく続いた。

 

             ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 早朝になり、アジは自身の体に不調を感じた。気づいたのは起床してすぐ。昨晩、帰らなかった黄泉川のために湯舟でも張ろうと布団から這い出た時だった。アジも黄泉川も風呂好きであり、真夏日であっても湯舟につかりたいと思うタイプだ。特に夜通しの仕事の後などは、風呂を浴びた後に冷えたビールを飲むのが黄泉川の日課だ。アジは家主が少しでも過ごしやすくなるために努力を惜しまない。

 

 

 体を伸ばして、リビングに向かおうとしてアジはこてんと転んでしまった。体重故に、部屋が少し揺れる。アジは不思議そうに頭を傾ける。そして手をつき起き上がろうとして、また転ぶ。上手く歩行ができない。

 

 

 けれど同時に、それに対して不快感も少なかった。おかしい、なんだかわからないが上手く動けないのに、なんだか楽しくなってきた。

「うんあ~うあ」

 もはや意味不明な音を吐き出しながら、上機嫌で動き回るアジ。いつものように背から触腕を生やすと、まさにタコのようにグニャグニャと廊下を進む。風呂場にたどり着き、いつもの倍以上の時間をかけて風呂のスイッチを押して、今度向かうのはリビング。

 

 

 テレビのリモコンを数度落としつつ、電源を入れる。ニュース番組を流しながらアジは考える。黄泉川が帰ってこないこと、自分の分裂使い魔が倒されたこと、上条当麻のこと、天草式のことなど様々なことが浮かんでは消えていく。支離滅裂な思考の中で、アジは何を思ったか、ふにゃりと立ち上がりると「あいおうあんいあおう」(上条さんに会おう)などと、誰かに宣言して家を飛び出してしまった。

 

 

 彼の分裂使い魔、その肉片の一つが吸収し続けた液体。ホルマリンではアジの特異な肉体を傷つけることはできない。彼の肉体はその辺は優秀であり、体をすぐさま有害になったり、崩壊させるような物質はシャットアウトするのである。以前に喰らったラーメンやプロテインも一度は構成物質を自身の体で無意識化に分解、後にパスから必要な栄養素などを取り入れるのである。

 

 

 けれどもそれも完璧ではない。ホルマリンを分解していくうちに、少量ずつあるものが彼の体の中に蓄積していった。アルコールの一種、メタノール。通常のアルコール飲料にはエタノールが含まれ、本来ならば体内にメタノールを入れることはない。

けれども密造酒などが横行した時代にはメタノールを含んだ酒が造られた。実際、それによって酔うものの、中毒死も報告されている危険なものであった。

 

 

 つまり、なんというか。アジは酔っ払っているのである。

 木原数多のホルマリン漬け実験によって。

 

 

「あうおあああ~」

 アジは顔を赤く染めながら、ふらふらと進んでいく。ちなみ方向は上条宅へと逆であった。

 




酔っ払いって厄介ですよね。

更新が遅くて、すいません。
来週も週に一度のペースになってしまうかもしれません。
ご了承ください。
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