虹色のアジ   作:小林流

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第43話

 

 駆動鎧に乗り込んだ警備員たちはようやく第21学区の山道に入ることができた。なぜだか駆動鎧の突入が遅れてしまった。それは実に不可解だった。駆動鎧に搭乗する全員が向かうべき方向を認識できなくなったからだ。電波の通りすら急速に悪くなったその地点で彼らは虚を突かれていた。

 だが、同時に突入していた六枚羽は無人機でありその関門を突破した。遠隔操作はできなくなるが、電波の通りの悪いところを重点的に移動することで目的地に到達。

 

 

 

 つい数分前には攻撃が開始されたようだ。

 すると突然、一気に山道を進むことができた。脳内のノイズが消えたというか、何かが変わったのを彼らは気づいた。彼らは飛び跳ねるようにして進んでいく。駆動鎧の運動能力は非常に高く、その重そうな風体に反して機敏だ。

 

 

 

 獣道のような整備されていない林の中ですら、容易に踏破してしまう。彼らの手には巨大なショットガンが握られている。その威力は大岩すら砕く。どれほど怪物が頑丈でも連続して発砲すれば、その肉を穿つのは簡単だとその場の全員が考えていた。

 

 

 

 六枚羽が発するGPSを確認しつつ、彼らはダム付近に到着した。そこで爆発音を聞く。攻撃が始まったのだと思った。そんな彼らの眼前に影が差した。雲が西日を遮ったのだろうか。いや、違う。

 

 

 山の向こうに陽光を遮る何かが生えている。黒いそれは天を突くように伸びあがっていく。

 

「なんだ?」

 

 駆動鎧の面々はその存在を見てもすぐに処理することができなかった。感覚が狂いそうだった。山の向こうから巨大な蛇や龍のような顔が生えている。その体表は影になっていることを差し引いても黒く暗い。大蛇が身をくねらせると、さらにもう一本、顔が伸びてくる。

 

 

 双頭の大蛇は咆哮した。それは宣戦布告にも聞こえたし、泣き叫ぶ赤子のようにも聞こえた。

 

 

 怪物は山を這うように進んでいる。夢でも見ているのだろうか。報告と何もかもが違った。その巨体はまさに小山。50メートルは超えている。

 プロペラの駆動音が聞こえた。六枚羽だ。なぜか二機しか存在しない。二機は巨体を揺らしながら進む怪物に銃撃と爆撃を行っていく。怪物からすれば実に小さなその二機に二つの首がそれぞれ喰いつこうとしていた。

 

 

 駆動鎧の部隊はあっけにとられたままだったが、そこで気づく。怪物は攻撃されつつも歩みを止める気配がない。その方向には街があった。街にこの巨体が入り込んだらその被害は計り知れない。

 

 

 駆動鎧たちは叫びながら、怪物を止めようと攻撃していく。再び、双頭の大口から悲鳴が放たれた。学園都市を代表する兵器の数々は、とても心もとなかった。

 

 

                  ○○○○○○○○○○

 

 

 

 空は暗雲が立ち込め、海は泥のようになっていた。空からは紅い雷が立て続けに落ち、周囲には翼を生やした奇怪なものたちが跋扈している。

 「おおエオ?(ここドコ?)」

アジはポカンとして呟いた。

 

 

 様々な攻撃を受け続けたアジの体は破壊され続けていた。だが反撃する意思はなかった。怪物の体で攻撃すれば怪我をさせてしまうからだ。同時に攻撃されてしまう理由くらいはアジの足りない脳味噌でもわかる。化物退治は魔術師たちの仕事のうちの一つだからだ。

 

 

 しかし、死ぬわけにはいかないとアジは思った。そのためアジは巨体を変異させ続けて攻撃を受け流し続けることにした。幸いなことに巨体の中の魔力総量はえげつなく、数日は攻撃をしのげるだろうとアジは思った。

 

 

 けれども、そこで巨体に不調が起こる。なんといきなり体が動かなくなったのだ。正確にいうならば自分の意思で巨体が一時的に操れなくなったのだ。まるで卵や繭にでもなったかのように巨体の外部は硬くなり、内部は凄まじい勢いで変異した。

 

 

 体内をかき乱す状態は初めてのことであり、アジは吐き気すら覚えた。変異の速度はもはやアジの知覚を超え、いつしか体内の魔力が爆発し、より超大な存在へと変わっていった。

 

 

 そして今にいたるわけである。

 アジは眼前に広がる光景を見て、思わず白目を剥いた。理解が追い付かない。アジの心情を表すように左右に龍は唸り声を上げた。なんとこの龍。触腕とは違って、簡易的な脳でも搭載されているのか、自律的に動くのである。それは過去に創ってきた分裂体と似ていた。

 

 

 巨体の中に、分裂体が生えたようなものだ。アジは全く嬉しくなかった。分裂体は実に本能的で、動物的だ。敵と認定すれば攻撃し、獲物はどんどん喰らってしまう。

 

 

 さらに不運は続く。

 なんと今、アジの上半身は人の形に保たれてしまっている。真ん中の龍の頭部からちょこんと少年の上半身が生えている、そんな形になってしまった。なんど体をひっこめようとしても巨体の肉の変異は起こらない。まるで外部から無理やり型に入れられたように三つ首の邪龍のまま変異しないのだ。

 

 

 アジには到底予測できないことだったが、それは虹色の絆を核に生まれた学園都市の怪物、アジによく似たホムンクルスのせいであった。片方の性質が片方にも影響してしまっているのだ。

 

 

 そしてアジの人間の部分が巨体からはみ出しているのは、アジ・ダハーカという規格外の存在によるところが大きい。神話時代の邪龍は悪の属性を持とうとも、神性を持つ。人は神にはなれない。なれたのは唯一、神の子だけ、ということになっている。そのため神であり悪の邪龍の肉体の中に、人間のいられる場所はなく、外に放り出されてしまったのだ。

 

 

 もっとも此度のアジ・ダハーカは本物ではない。本質はアジを核とした呪いである。よってアジの肉は完全には分離できなかったのである。

奇しくもインデックスの作戦によって、理由は違えど人間の姿をとっているアジ。だが人の体というのは非常にもろいものである。

 

 

 邪龍に向けて、いくつもの霊装兵器が再び光を放った。それを三つ首は容易に避ける。怪物にとってちょっと避けた程度の距離も、人からすれば一瞬で何百メートルと横に動かされるものだった。

「ジョッ!?(ちょっ!?)」

 

 

 邪龍はお返しと言った様子で、口内から莫大な黒き炎を吐き出した。その炎は人界のモノではなく、凶悪な熱量と光を放つ。そんなものがアジの目の前に展開される。

「バッツア!?アブッ!?(熱ッ!?眩ッ!?)」

 

 

 霊装は直撃し、一瞬で灰になった。アジはそれを見ることも敵わない。アジの人型の肉体は膨大な魔力で守られているので、死ぬことはないが、ただ怪物の挙動の一つ一つがめちゃくちゃキツかった。

 

 

 アジは思わずしくしくと涙を流してしまう。

「いアイ、うもいあウイ(痛い、気持ち悪い)」

 世界を腐らせる怪物の核は、実に情けない有様だった。

 

 

 

 アジが吐き気に悶えている間に、邪龍の眷属たる小さな怪物たちは、空と海から魔術師たちを襲撃。様々な霊装を腐らせ、喰っていく。しかし、未だ魔術要塞には歯が立たぬようだった。指揮の要であり、結界の維持補給もこなす要塞は堅牢な防壁で守られいる。

 だがそれすらも破られるのは時間の問題である。人の魔術に、モドキとはいえ神が負けるわけがないのだ。

 

 

 徐々に防壁は消耗していく。防壁が消えれば邪龍を囲んでいる結界も消える。そうなれば邪龍は世界に解き放たれるだろう。アホなアジは、その時世界がどうなってしまうかなど理解もできていなかった。

 

 

                 ○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 黄泉川は走った。

 爆風と爆音が轟く中、山道を転がるように駆けていく。向かうべき方向は見失うわけがない。あれほどの巨体は、どこにいようと目に入る。

「アジ!」

 

 

 あれは彼女のよく知る少年だった。その巨体は見たこともないほどだったが、あの虹色の輝きと少年の顔はアジそのものだ。なぜ他の怪物が姿を消したのか、定かではない。しかし、黄泉川には予想できることがあった。

 

 

 自分たちを最後に襲った巨大な蛸のような怪物、あれは同じように暴走する肉塊を喰らっていた。そしてその肉を吸収し、より巨大になっていた。おそらくアジもその肉を吸収したのだろう。最後にはアジが全部を喰らいつくしたのではないだろうか。あの場にあった肉塊がすべてアジと一つになったと、黄泉川は考える。

 

 

 そして彼女は知っている。あの少年は自分から攻撃することはない。彼がその力を振るうのは反撃だけだ。だからこの、兵器での攻撃行為は無意味どころか火に油だろう。

黄泉川は思い出している。アジは泣いていた。

 

 

 あの涙が示すのは恐怖だ。訳も分からず攻撃される恐怖。学園都市の闇によって生み出されたアジだ。武装した人間がどれほど恐ろしいのか、知っているだろう。そしてそれを向けられる悲しさを彼は知っているのだろう。

 

 

 あんな非道な科学者の元で生み出され、学園都市の大人に銃撃される。

 ふざけるなと黄泉川は思う。だから彼女は走った。駆動鎧と六枚羽を止めるために、怪物が動き回る戦場へ向かっている。

 

 

 転げ落ちるように進んでいく黄泉川はついに一人の駆動鎧を見つける。彼女は激情のまま駆動鎧に飛びつこうとするが。視界に映ったのは黒いナニカ。とっさに伏せると、彼が巨体の尾になぎ倒されていた。

 

 

 

 追いついた。

 黄泉川は銃撃音の中を突き進んでいき、闘争の現場を目撃する。

 

 

 

 また一つ、六枚羽から不気味に軋む音がした。怪物の背から生えるナニカが六枚羽を絡めとっている。宙に繋ぎ止められたヘリに大蛇の顎が迫った。大口をあけてそれを喰うと、バキバキとかみ砕いていく。咀嚼するように口を動かす怪物に、最後に残された一機が攻撃をしかけていた。

 

 

「狙え!!脚だ!この化物を止めろ!!!」

 駆動鎧の一人が叫ぶ。手に持つショットガンで集中的に脚部を銃撃する。怪物とはいえ、構成部分は肉である。銃弾は足の肉を千切りとばしていき、怪物はよろけた。

だが、それも一瞬だ。怪物の肉が蠢き傷跡が修復していく。

 

 

 蛇は鎌首をもたげてヘリではなく、駆動鎧を見ている。大口が駆動鎧へ迫った。慌てて高速移動する駆動鎧だったが、バキンという音がした。アンバランスなほど伸びた蛇の首は、獲物を逃すことなく咥えこんだ。ヘリすら喰い破る圧力が駆動鎧にかかっていく。バキバキと鎧にひびが入っていった。

 

 

 バタバタと暴れるその駆動鎧はとっさに引き金を引いた。その弾丸は蛇の頭部、ではなくその付け根。涙を流す少年にぶち当たった。

「アジ!!!!!!」

 黄泉川は喉を裂くように叫び、さらに怪物へ走る。

 

 

 

 少年の頭部の半分が千切れた。その瞬間。怪物の動きは静止する。蛇の口から駆動鎧は零れ、仲間たちが駆け寄ってきた。動きを止めた怪物を見て、ひとりが言った。

「あそこだ!」

 彼らは、怪物の弱点を見つけたと思った。

 しかし、それは悪手である。

 

 

 

 少年の頭部は立ちどころに修復した。少年は自分の顔をペタペタと触っている。瞳から涙を流しているのは変わらない。しかし、その表情は悲しみから憤怒へ変化した。

 

 悲鳴ではなく、怒れる叫びが少年から発されると、蛇にも変化が起きる。

 黒い体表に赤い稲妻のようなひび割れが起き、空気が歪んだ。それは熱だ。

 

 

 そして口内から灼熱の炎が噴出された。

 怪物の怒りを体現するように双頭の口から吐き出される炎は、木々を焼いている。

 炎の手は駆動鎧と、そして駆けていた黄泉川に迫っていた。

 

 

 

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