はい、持って帰った指輪のその後のお話です。
話を進めるために少し無理矢理感があるとは思います。
あれから元の道を引き返し別の道から寮へと引き返した。時間は30分ほどかかってしまったが、まぁ面倒ごとに巻き込まれるよりかはマシだろう。
自室へと戻り、歩き疲れた体を癒すためにベッドへと横たわる。
「はぁ疲れた……」
まさかノイズの襲撃後の現場に出くわすとは思ってもみなかった。まだ襲撃中じゃなかっただけ運がいい……とは思うが、嫌なもんを見ちまったな。
「つい持って帰って来ちまったけど、この指輪いったいなんなんだ?」
制服のポケットから取り出したのは、あの現場で見つけた金の指輪。ぱっと見では普通の指輪なんだが……どっかの遺跡から発掘された貴重品なんだろうか。
光に当てると指輪はそれを反射しキラリと輝く。にしても、見れば見るほど綺麗な指輪だな。
やっぱどっかの国宝……だったりするんだろうか。だとしたらアタシ、結構やばいことしてる?
「いやいやいや、大丈夫だよな……うん大丈夫、問題はない」
まぁ持ち帰っちまったもんはしょうがない。もしも本当にお宝だったとしたら……よしっ記念に指に嵌めてみるか。
指輪を右手の中指に嵌めると、意外にサイズはアタシの指にぴったりだった。
「……まぁ指輪だしな。嵌めた所で何かあるわけでもねぇよな」
さて、そろそろ外すか……ん?
指輪を持ち、指先の方へと動かすが一向に前に進もうとしない。
「おいおいおい……冗談だろ」
指輪、完全に指にはまっちまった……。
それから何度も指輪を外そうと試みるが、やはり定位置からピクリとも動こうとしない。数分後、アタシは指輪を外すのを諦め、ベッドに体を預けるように横たわる。
おかしい、嵌めた感じでは全くキツくはなかったなに……。なんでこうぴったり嵌まって抜けないんだ……?
「はぁ……まぁ今はあれこれ考えても仕方ないか……とりあえず寝よう」
今いくら考えたところでどうせ解決できるわけでもない。アタシは思考を放棄し、瞼を下ろすと眠りにつく。
どうか目が覚めたら外れるようになっててほしいもんだ。
「
「……そうか。それで
「申し訳ありません、例のものは見つかりませんでした」
ノイズの襲撃跡地にて二人の男が会話をしていた。一人は胸ポケットにネクタイの先端を入れた筋骨隆々な男、そしてもう一人はスーツ姿の優男風な男性。
風鳴と呼ばれた男は緒川という男の報告を聞き表情を険しくさせる。
「完全聖遺物……まさかそれを輸送している車がノイズに襲撃されるとは」
「ああ……何にしても早急に行方を探し出さなくてはな……」
二人はことの深刻さに顔をしかめ、その後調査へと戻る。
だが彼らは知らない。その完全聖遺物を手にしたのが、一人の女子高生であるということを。
──そしてその少女を、いや少女が持つ指輪を狙う者がいることを。
その日、アタシは夢を見た。
夢の中では、この世のどこでもない景色が広がっており。その中に二人、肩を並べて空を見上げる男の姿があった。
一人は白い魔導師のようなローブを身に纏った青年で、もう一人は対照的に黒で染め上げた服を纏った男性。
『王よ、あなたは我々を使役しいったい何を得ようとしているのですか?』
ポツリ、黒い男が問う。
『何を、とはなんだい?』
白い青年は微笑み、そう問い返す。
『貴方は富も地位も叡智も……この世の全てを手にした。これ以上に何を求めるというのです?』
男の声からはどこか不安が感じ取れた。
青年はそんな男を安心させるように、笑みを絶やさず
『◼️◼️◼️◼️◼️、僕は全てを手にしたわけじゃないよ。どれだけ叡智を得ようともわからないことがある……でも同時に、それが僕が求めるものでもあったんだ』
おそらく男の名前であろう言葉はノイズでかき消されてよくは聞こえない。
『では王よ、貴方の叡智を持ってしてもわからぬものとはなんなのですか? 貴方が求めるものとは……いったいなんなのですか?』
そんな男の問いに、青年は視線を頭上に広がる蒼穹へと送り
『◼️◼️◼️◼️◼️、僕はね──』
「……なんだ、今の夢……」
本当に夢なのか。夢にしてはどこかリアルすぎるし、何よりもはっきりと内容を覚えている。
「……てか、長い事寝ていたんだな。もう外真っ暗じゃねえか」
時計を見れば午後7時を回っており、外がこれだけ暗くなっているのにも納得がいく。
とりあえず喉が渇いていたので冷蔵庫へと向かい、ペットボトルのお茶を飲み干し渇きを潤す。その時、偶然視界に例の金の指輪が入り込む。
この指輪まだ外れねぇのかな……あ、ダメだ。寝るまえと同じでびくりともしない指輪。
「もしかしてこの指輪、呪いのアイテムとかなにかか……?」
《いいえ、この指輪は呪いの指輪ではなく”神の指輪”です》
「──おわっ⁉︎ だ、誰だ⁉︎」
いきなり聞こえてきた声に驚き部屋中を見回す。だがどこにも人の姿は見えず、とりあえず警戒をマックスにし視線を動かしながら周りを見ていると
《周りを見ても意味などありませんよ。今私はあなたの頭に直接語りかけているのですから》
「直接って……どこのファンタジーだよ」
《まずは自己紹介を……我が名は”ゴエティア”。この”ソロモンの指輪”に宿り、72の魔人を管理する者です》
ゴエティア、声の主は自らをそう名乗る。
だがこちらからしてみればその自己紹介はさらに謎を深めるだけで、事の解決には一歩たりとも近づいてなどいなかった。
「まてまて、いきなり自己紹介されてもわけわかんねえって!……もしかしてまだ夢の中か?」
そうだ、冷静に考えればこんなのありえるはずがない。確か夢の中で起きることがあるっていう話を聞いた事がある、おそらくこれもそういう類のやつだろう。
《残念ながら夢ではありませんよ。正真正銘、現実です》
「おいおい、今それを言うなよ……。てか、もしかして心の中読んでやがるのか?」
《送れるという事は受信もできるという事です》
送受信可ってわけね。まぁいい、別に読まれて困る事なんてなにもねぇしな。それよりも早く話の続きを聞かせてもらおうか。
「まずはこの指輪について聞きたいんだが、もちろん説明できるよな?」
《えぇ……その指輪はかつてソロモン王が神より賜った指輪。その力は72の魔人を使役し、持ち主に世を統べる力を与えます》
「魔人って……やっぱ呪いの指輪じゃねぇか」
《それはあなたの意思次第です。呪いの指輪にするのか祝福の指輪にするのか……使い道一つでどちらにでも変貌します》
つまり勇者になるか魔王になるかはアタシ次第って事か。まぁ面倒くさいからどっちも嫌だけど。
「それで、72の魔人ってのは?」
《かつてソロモン王に忠誠を誓った魔人達のことです。彼らの存在一つ一つが強力な力を有しており、ソロモン王の
「はぁー……すげえなそのソロモンってやつ」
《はい……とても素晴らしき王でした》
まぁこの指輪が何なのかとか、その魔人ってのがどういうのなのかは理解できた。それにこの指輪の元々の持ち主のことも。
そしてごくごく普通の高校生活を送っているアタシにはすぎた力だってことも……。
「まぁこの指輪がどういうものかってのはわかったよ……夢じゃないってことも。つまりアタシが願えばその魔人とやらの力を扱えるってわけだろ?」
《その通りでございます》
「でもよ……その魔人がアタシの命令に従うって確証はあるのか?」
話の中で浮かび上がった疑問。この指輪の魔人達はその”ソロモン王”とやらに忠誠を誓ったと言っていた。だからその王様には力を貸すということはわかる。
しかしそれはソロモン王だからという話で、もしアタシが指輪を使い命令したとして……本当に魔人達は命令を聞いてくれるのだろうか。こんな一般人の言うことなんかを。
《確かに確証はありません……しかし方法ならばあります》
「方法だと……?」
《えぇ、簡単な話あなたに力を貸していいと思わせれば良いのです》
さも当然と言わんばかりの口調で語るゴエティア。
しかしこの話がすべて本当のことだとしたら、相手は魔人と呼ばれる存在だ。そう簡単にことが運ぶわけなどあり得ない。
《その辺りは安心を、私が比較的友好な魔人に声をかけますので》
「おいちょっと待てっ、なに勝手に話進めてんだ! 第一アタシは一言もそんな力が欲しいなんて──」
《それでは、こちらで話がついた後にまた声をおかけします》
「──テメェまだ話は……おいっ!」
…………ダメだ、完全に途切れやがった。あの野郎、自分の言いたいことだけ言いやがって……。
うんともすんとも反応しない、というかこちらからどうやって連絡を取ればいいのかもわからず打つ手なしの状況。
あいつは話がついたらとか言ってた以上、また現れるのは確実。その時にアタシはその72の魔人とやらの内の一体と話をしなくちゃいけないのか……。
「……まぁいい、どうせ上手くいくわけねぇし、適当に流してこの指輪外してもらうよう説得するか」
兎にも角にも、次にあいつと話をするまでは指輪はこのまま嵌めておかなければならない。教師になんて言われるか分かったもんじゃないが……まぁ説教くらいで済むだろ。
状況は確実に悪い方へと向かってはいるが、なんとかなるかとアタシは再びベッドへ横たわり眠りについた。いろいろわけのわからないことがあって精神的に疲れたからか、アタシは予想以上に早く眠りにつくことができた。
……本当に、夢でありますように……。