戦姫絶唱シンフォギア〜指輪物語〜   作:温野菜生活

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間違えて2話よりさきに3話を書くという謎の行動により、今回は投稿早めです。

サブタイは……まぁ気づいてくれたらいいなくらいの勢いで書きました。



旋律が響きあった日

これは私と彼女の出会いの話。

 

私、立花響は昔イジメを受けていた。

 学校へ行き下駄箱を開けば上履きに何かが詰められていたり、教室に向かえば机に落書きなんて当たり前。トイレに行けば上からバケツで水を被せられたりもしたし、ひどい時にはお母さんの作ってくれたお弁当がぐちゃぐちゃにされていたこともあった。

 イジメは家に帰ってからも続き、自宅の壁には『人殺し』とペンキで書かれいくつもの誹謗中傷が書かれた張り紙が貼られていた。時には窓ガラスを破って石を投げ入れる人もいて、私もお母さんもお婆ちゃんも不安に押し潰されそうな日々を送っていた。

 

 私がイジメにあう切っ掛けとなったのが、”ツヴァイウィング”という人気アーティスのコンサートで起きたノイズの襲撃だ。コンサートには10万人もの人が居合わせており死者、行方不明者の数は1万2874人にものぼる大惨事となった。

 しかしそのうちノイズの被害にあったのは3分の1程度であり、残りは逃走中の将棋倒しによる圧死や逃走ルート確保の争いのよるものがほとんどだった。そのことが週刊誌に掲載されたことで、世間の人々の私を含めた事件の線損者たちに向ける目が変わり──私の生活はそこから一変、前述したイジメが始まった。

 

 正直に言うと辛く苦しい日々の連続だった。ついこの間まで友達だったはずの人も私へ侮蔑の視線を向け、一緒にいて欲しかったお父さんも家を出て行き姿をくらませた。エスカレートしていくイジメに対して先生たちは見て見ぬ振りをし、ついには私という存在は”いないもの”として扱われるようになっていった。

 家でも学校でも降りかかる理不尽。そんな凄惨な日常にさらされながらも、それでもこうして生きてこられたのは私の中にある二つの言葉の存在があったから。

 

 ──生きるのを諦めるな

 ──へいき、へっちゃら

 

 この二つの言葉があったから、私は理不尽に押しつぶされることなく生きてこれたんだと思う。

 そして何よりも、そんな私のそばに居続けてくれた”幼馴染(ひだまり)”が、未来の存在が私の心を支えてくれていた。

 

 そんな言葉や親友の支えを得て、日々をなんとか送っていた私だったけど──ある同級生との出会いが私の生活に変化をもたらした。

 

 

 

 それはいつものように、校舎の裏で一人昼食を食べていた時のことだった。

 人の手で乱暴に破かれたお弁当の包みを解き蓋を開ける。中はひっくり返されたかのようにぐちゃぐちゃになっており、卵焼きに至ってはスクランブルエッグと見間違うほどに形が崩れてしまっていた。

 せっかく作ってくれたお母さんに申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら手を合わせ、そして元卵焼きへと箸を伸ばそうとした時

 

「うぉあああああ⁉︎」

「わぁっ⁉︎」

 

 突如、私の目の前に立っていた木から一人の女生徒が落ちてきた。一人だとたかを括っていた私は、予想もしない出来事に思わず大声をあげてしまう。

 いったいなんで木の上に、という私の疑問は声に出ることはないが、しかしすぐにその疑問は解決する。

 

「いって〜……くそ、助けてやったのに暴れんじゃねぇよ」

「フシャーッ!」

「いでででっ! わかったから引っ掻くなって!」

 

 彼女の腕の中には一匹の猫が抱かれており、木の上にいたのはその猫を助けるためなのかと納得する。

 

「おら、どこにでも好きなとこに行きな」

 

 そう言い彼女が猫を地面に降ろしてあげると、猫は一瞥すらすることなくすぐに茂みの中へと姿を消してしまった。

 

「ったく、頭ぐらい下げろっての……つっても猫には無理か」

 

 ボリボリと頭を掻きながら一人呟く女の子。後ろ姿しか見えないが腰あたりまで伸びた髪は綺麗な茶色で、背も多分170くらいあるんじゃないかというほど大きい。

 

「さて、アタシもそろそろ飯に……ん?」

「あっ……」

 

 突然の出来事の連続に思わず見入ってしまっていた私。そんな私の存在に気づいた彼女は私の方へと顔を向け、綺麗な髪はその軌跡を辿るように宙を舞う。

 移動しなきゃ、そう考えた時にはもう遅い。視線が重なり……そして私は彼女に目を奪われた。

 

 整った顔につり上がった目元。鼻も高く、”可愛い”というよりも”綺麗”と思わせる顔立ち。さらにはスレンダーな体つきが”綺麗”を”かっこいい”へと昇華させ、同性であるとわかっていながらも思わず見惚れてしまった。

 

「……お前、どっかで見たことあるな」

「あっ、いや、その……」

 

 言葉をかけられ我に帰る私。どうしよう、学校の人に話しかけられたのは久しぶりだから、どう返せばいいのかうまく言葉が見つからない。

 それに驚きもあった。ある意味有名人であるという自覚のある私だけど、目の前の女の子は私のことを知らないのか、鋭い目をさらに鋭利にさせながら近づいてくる。

 

 どんどんと埋められる距離に比例して、私の胸に募る不安も増していった。もしもここでバレてしまえば、きっと彼女も私に罵声を浴びせてくる。そんな考えが浮かんだ時には、私はお弁当を放り出してその場を駆け出していた。

 後ろで私を呼ぶ声が聞こえてくるけれど、そんなのお構いなしに走りゴミ収集所の影へ身を潜めようとした時。

 

「うぉ⁉︎」

「きゃっ⁉︎」

 

 建物の影から出てきた男子生徒にぶつかり、勢いよくぶつかったことで互いに尻餅をつく。彼は私を視界に入れると、忌々しそうに舌打ちをする。

 

「おーいどうした?」

「ってあれ? 誰かと思えば人殺しの立花じゃん」

 

 すると彼の友人であろう男子使徒が二人、建物の影から現れる。彼らは私を見るなり”いい獲物”を見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべ

 

「おいおい、人殺しがこんなところで何やってんだよ」

「決まってんだろ、物陰に隠れて誰か襲おうとしたんだよ」

 

 心にもない言葉を吐かれ、ズキリと胸が痛む。

 

「その……ぶつかってごめんなさい」

 

 私はすぐに立ち上がり、ぶつかった男子生徒に謝ると踵を返しその場を後にする。しかし彼らはそんな私の肩を掴み、グイ、と強引に体の向きを変えさせた。

 

「ごめんなさい、じゃねぇだろ。こっちは痛い目見させられてんだよ、ちゃんと責任とれや!」

「でも私……」

「加害者が口ごたえしてんじゃねぇよ!」

「きゃぁっ⁉︎」

 

 怒声とともに今度は肩をど突かれ再び地面に尻餅をつく。そんな私を彼らは即座に囲み、ニヤニヤと笑みを浮かべながら見下ろしてくる。

 

「おい、こいつどうする?」

「人殺しがこれ以上悪さしないよう、俺たちで成敗してやろうぜ」

「よっしゃ、それじゃあせいぎのみかたその1いきまーす!」

 

 そして三人のうち一人が足を引き、私は次に来る衝撃を耐えるため必死に目を閉じる。

 

 なんでこうなってるんだろう……。あの事故で大怪我を負って、一生懸命リハビリをして……そうすればみんなは笑って迎えてくれると思ったのに……。

 なんで、なんで……!

 

 

 

「そこまでにしとけ、馬鹿野郎共」

「ギャッ⁉︎」

「ゲブッ⁉︎」

「ギゥ⁉︎」

 

 すると女の人の声が聞こえたかと思うと、すぐ後に私を囲んでいた男子生徒の悲鳴にも似た声があがる。すると私の二の腕をその誰かが掴み、グイ、と引っ張りあげられる。

 目を瞑っていた私は突然のことに対応しきれず、その誰かの胸に倒れこむような形で抱きついてしまう。するとその誰かは抱きとめるように私の背中に片腕を回し

 

「ほら、もう目開けていいぞ」

 

 柔らかい、安心させるような声で囁いた。そして恐る恐る、私がそっと目を開き顔を上げると

 

「あ……」

「よう、さっきぶりだな」

 

 私の視界いっぱいに、口元を釣り上げるだけの笑みを浮かべる猫を助けた女子生徒の顔が映る。

 

「なんで……」

「なんでって……お前、弁当忘れていってたぞ?」

 

 呆れたような顔を浮かべもう片方の腕をあげる彼女の手には弁当の包みが。わざわざこれを届けるために追いかけてくれたのだろう、彼女の頬にはわずかに汗が滲み、胸から伝わる動悸はやや速くなっている。

 彼女の体から離れ、お礼を言い弁当の包みを受け取る。

 

「親が作ってくれた弁当だろ……もう忘れんじゃねえぞ」

「は、はい……」

 

 そしてぽんぽん、と軽く頭を叩かれる。そんな彼女の行為に胸が温かくなり、その熱が顔まで伝わるのがわかった。

 すると気絶をしていたらしい三人のうち一人が目を覚ます。

 

「ぅう……」

「……なんだ、やっと起きたのか。女相手に三人がかりだし、いろいろとダラしねー奴らだな」

「くそ、邪魔しやが……て……」

 

 最初は怒りで語気が強かったその男子生徒だったが、私の隣に立つ彼女の姿を視界に入れるなり急速に顔を青ざめさせる。見れば体も震えており、彼は震える右腕で彼女を指差すと、同じく震えた声でその名を口にする。

 

「さ、沢渡旋……何でお前がここに……」

「なんでって、アタシが学校のどこにいようと勝手だろ。それとも何だ、いちいちお前の許可取らねーといけねえのか?」

「ひぃっ!」

 

 彼女の一言にさらに縮み上がる男子生徒。そして私も隣の少女へ驚愕の瞳を向ける。

 沢渡旋、その名前は私でも聞いたことがある巷で有名になっている不良の名前だ。なんでも今まで返り討ちにしてきた不良の数は計り知れず、女の身でありながら常勝不敗の実力を持つという伝説のスケ番。

 私の学校にいるとは知っていたけれど、まさか彼女がその沢渡旋だとは思いもしなかった。

 

 彼女──沢渡さんは面倒くさそうに頭を掻き、未だのびている男子生徒を見下ろすと

 

「このままお前らと話してても時間の無駄だ。さっさとそいつら連れて教室帰れ」

「は、はいぃっ!」

 

 沢渡さんの言葉に彼はのびた二人を抱え、信じられない速度で校舎内へと姿を消した。

 

「さて、用事も済んだし昼飯でも食べるか」

 

 弁当箱を渡すという用事を終えた彼女は近くの木まで移動し腰を下ろす。そしてビニール袋からパンを取り出すと、包装を開けむしゃむしゃと食べ始める。

 ただ木陰に座って食べているだけだというのに、なぜかその姿に見惚れてしまう。そんな私の視線に気づいた沢渡さんと視線が合い、思わずそらしてしまう。

 

 なぜだろうか、上手く視線を合わせることができない。ここ最近、まともに人と話していない影響なのだろうか?

 

「……一緒に食うか?」

「え……」

「まぁアタシと一緒にいたら色々変な誤解受けるだろうから、別に無理してとは言わないけど」

 

 そう言うと、沢渡さんは再び食事を続ける。

 一緒に食べよう、もう長い間言われてこなかった言葉だ。きっと沢渡さんは私のことを知らないから言ってくれたんだろうけど、それでも……

 

「……ぅえ……うぁあああ……」

「っておい、なに泣いてんだよ⁉︎……そんなに嫌だったのか」

「うぅ……ちがっ……ひぐっ、うれしっ……えぐっ……くて……」

 

 その日、私は初めて涙を流した。

 しかしそれは悲しみからくるものではなく、ただ純粋な喜びからくるものだった。

 

 

 

 これが私、立花響と沢渡旋との出会いの話。生涯忘れられないであろう、私の大切な思い出。

 

 

 

 

 

 

 そして時間は現在。

 

「うわわわっ、遅行しちゃうー! 未来、なんで起こしてくれなかったのー!」

「響があと5分を5回も続けるからでしょ!」

「お布団が気持ちいいのが悪い! あれは眠りに誘う魔性の道具だよ!」

 

 私は未来と寮から学校へ続く道をひたすらに走っている。二度寝ならぬ五度寝をしてしまった私だが後悔はない! だってすっごく気持ちよかったんだもん!

 

 全力で走ったおかげで予鈴の五分前には校門にたどり着くことができた。

 

「いやー朝から運動するのは気持ちがいいね」

「もう、調子のいいことばっかり言って! 今度からはちゃんと二度寝ですませてよ」

 

 注意はするけれど、そうやって二度寝までは許してくれる未来ってやっぱり優しいな〜!

 そんな優しい未来と話しながら歩いていると、少し先に見慣れた後ろ姿を見つける。

 

「めっぐりちゃ〜ん! おっはよ〜!」

「ちょっと響、急に走らないでよ!」

 

 学校まで走ってきたけどそんなのお構いなし! 私は旋ちゃんの元までダッシュで駆け寄り、振り返る彼女の胸の中へダイブする。

 

「っと……昨日も言っただろ。勢いつけて抱きつくなって」

 

 そう言いつつも旋ちゃんは毎度毎度受け止めてくれるから大好きだよ〜。毎朝のルーティーンである旋ちゃんへの抱きつきを行っていると、不意に彼女の右手に違和感を覚える。

 見ればその中指には昨日まではなかった金色の指輪がはめられていた。

 

「およ? 旋ちゃん、その綺麗な指輪はなに?」

「ああこれか……まぁ……ファッションだ」

 

 目を逸らしながらそう答える旋ちゃんだけど、私にはわかる。これは絶対にファッションの類じゃない! だとしたらまさか……彼氏⁉︎ 旋ちゃん、もしかして誰かとお付き合いしてる⁉︎

 ……こ、これは真相を問いたださねば。まずは落ち着いて、落ち着いて……。

 

「ま、まままま、まさか旋ちゃん……か、かかかっ……彼氏からのプレゼント……?」

 

 って、あれぇ⁉︎ なんでこんな噛み噛みになってるの⁉︎ 全然落ち着けてな〜い! 旋ちゃんもなんか呆れた顔しちゃってるし!

 

「違うって、本当にファッションだから。それにアタシなんかと付き合う物好きはそうそういねえよ」

「な〜んだよかった!」

「よかったって……お前失礼な奴だな」

 

 うわわわっ、旋ちゃんがなんか誤解してる! なんとかして誤解を解かないと……。

 

「よかったっていうのはそうじゃなくて! 確かに旋ちゃんは目つき鋭いし見た目怖いしで近寄りづらいって思われそうだけど……ちゃんと好きって言ってくれる人はいるから大丈夫! 安心して!」

「……これ怒っていいやつか? 多分怒っていいやつだよな、小日向」

「そうだね、怒ってもいいと思うよ沢渡さん」

 

 って未来、いつのまに後ろに……って、違う違う! また旋ちゃんが誤解してる! そして旋ちゃん、その私に向けて伸ばしている右腕はなに⁉︎

 ゆっくりと迫る旋ちゃんの右手。そしてその手が私の頭へ向かいアイアンクローをお見舞い……するのではなく、軽く触れるだけで終わった。

 見ればその手には一枚の葉っぱが握られており、旋ちゃんはそれをポイと投げ捨てる。そしてキョトンとした表情を浮かべているであろう私へ視線を移し

 

「なんだ、本当に怒ったと思ったのか? 案外、可愛いとこあんだな」

「ふぇ……⁉︎」

 

 そう言うと旋ちゃんはフッと笑みを浮かべ、右手を私の頭の上に置く。

 ……なんでだろう、風邪もひいてないのに顔が熱い。それになんか、心臓がドキドキしてる……おかしいな今日は朝から元気だったのに。

 

「さてそろそろ教室に行かねーと遅れるぞ」

「あ……うん」

 

 離れる右手。頭の上の熱がなくなり、少し寂しい気持ちが湧いてくる。

 先に校舎へと向かう旋ちゃんの背中をぼーっと見つめていると

 

「む〜……私たちも行くよ、響!」

「わわっ⁉︎ 未来、急に引っ張らないでー!」

 

 ちょっと不機嫌そうに頬を膨らませた未来が私の手を取って歩き出す。急に手を引かれバランスを崩すも、その視線だけはずっと、あの背中を追いかけていた。

 

 

 

 

 

 




響の過去についてそこまで詳しくは描かれなかったので、細かなところは私の妄想(D)で補っております。

もしかしたら番外編扱いでちょくちょく書くかも?
まぁ需要はほとんどないとは思いますけど笑。

さて、そろそろ本格的に393との絡みをつけなくては……。
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