今回長くなったので二話に分けて投稿します。
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夜の闇を塗り潰さんとする業火。その中心に立つのはアタシこと沢渡旋で、目の前の光景に自分でもわかるほどに目を見開いている。
「アタシが、やったのか……?」
そう、この燃え盛る炎を生み出したのは他でもないこのアタシ自身。言わせてもらうが、断じてガソリンなどをまいて放火したわけではない。アタシがしたのは
「熱……っ⁉︎」
闇夜を照らす業火に目を奪われていると、不意に右手に走る熱に顔をしかめる。すぐに視線を右手へと落とすと、そこにはいつの間に握っていたのか金の装飾が施された一振りの短刀があり、業火の明かりを照り返していた。
《おめでとう、沢渡旋! 今この瞬間、貴女は次なる王となった!》
半ば放心状態のアタシの頭にゴエティアの歓喜の声が響き渡った。
時は、少し前に遡る。
それはいつも通り学校へ行き、いつも通り退屈な授業を受け、いつも通りな学院生活を送ったその帰り道のことだった。
アタシがこのソロモン王の指輪を手にしてから早二日が経過したが、いまだにゴエティアというやつからの連絡はない。そして当然のごとく指輪は今もアタシの右手の中指にしっかりと嵌められており、一昨日はその件で教師からお叱りの言葉をいただいた。
だがあちらも指輪が外れないと知ると納得……いや納得のいかない表情をしていたが、外れないうちは黙認するということで落ち着いた。
てか、なんだってアタシが怒られなきゃいけねぇのか……。アタシだって外せるんだったら今からでもはずしたいぐらいだってのに、この呪いの指輪め。
心の内でそんなことを思いながら一人、校門を潜り抜けると
「少し待ってもらってもいいだろうか」
「……ん?」
背後から誰かに呼び止められ振り返る。するとそこにはサイドポニーが特徴的な長い青髪の女生徒が立っていた。
「アンタ確か3年の
「あぁ」
アタシの言葉に短く返事をする風鳴先輩。彼女はこの学院で最も有名な人物といってもいい生徒で、その正体は日本を代表するアーティストだ。ちなみに立花も彼女のファンらしく、何度かCDを貸してもらったこともある。
そんな学院どころか日本中でも有名な彼女が、アタシみたいなどこにでもいる一般人に何の用があるのだろうか。
「それで、アタシになんか用ですか? できるなら手短に終わらせてくれると嬉しいんですけど」
「えぇ心配しないでもそのつもりよ。一つ、貴女に聞きたいことがあるの」
そう言うと風鳴先輩はアタシを、というよりも私の右腕を指差す。
「先日、職員室で見かけて話を聞いたの。なんでもその指輪外れないそうね?」
「ん……あぁこれっすか。まぁそうですね、ぴったりはまっちゃって……やっぱ目立ちますかね」
指輪のことを聞いてきたのは少し驚いたけれど、やはり学院を代表する身からしたらこうした校則違反は許せないんだろう。でもごめんなさい、これ外せないんですよ。
「いいえ、すごく綺麗な指輪だから気になっただけよ。……一応聞くけど、それはどこで手に入れたのかしら?」
……なんだろう、先輩から向けられる視線がどこか鋭いんだが。
「あーこれっすか……デパートの小物売り場で買ったやつですよ。だからサイズも合わなくてこんなざまになりましたけど」
ノイズの襲撃現場で拾いました、なんてこと馬鹿正直に言えるはずがない。取り合えずはこの場をしのぐために適当に嘘をつく。まぁ嘘も方便ってやつだ。
「そう、デパートで……」
先輩は訝しむような声音でそう呟き、さらにはどこか怪しむような視線を向けてくる。なぜ彼女がそんな反応をするのかわからないが、アタシの第六感が危険を告げすぐにこの場を離れろと警鐘を鳴らす。
「その、そろそろいいですか?」
「……ええ。悪かったわね、急に呼びとめたりして」
先輩は案外すんなりと話を終わらせてくれたので、アタシは不自然にならないよう足取りは早めずにその場を離れる。
遠ざかっていく沢渡の背中を見つめる私、風鳴
沢渡は誤魔化してはいたが、資料に記載された情報とぴったり一致しているので間違いはないだろう。取り合えず
しかし話には聞いていた通り、あの指輪は本当に外れないらしい……が、それはそれでおかしな話だ。あの完全聖遺物は起動もしていないはず……なのに持ち主を定めたかのように彼女の指から離れないのはどうしてなのか。
謎は深まるばかりだが、まずは報告の方が先だろう。私は懐から通信機器を取り出し弦十郎叔父様へと連絡を入れる。
「翼です……はい、例の女生徒が身につけていた指輪で間違いありません。それで今後の指示を仰ぎたいのですが……はい……はい、わかりました。また後日コンタクトを取ります」
叔父様からの指示は「今日のところは待機だ」とのこと。私は通話を終えた通信機を再び懐にしまい、踵を返し学院の方へと向かって足を進めた。
しかしこの出会いからわずか数時間後、再び彼女と顔をあわせることになるとは、この時の私は思ってもいなかった。
風鳴先輩から逃げるように学院を離れた後、アタシは夕食の食材がないのを思い出し買い出しのためにスーパーを訪れている。アタシ自身、料理自体は得意な方ではない……が、かといって漫画やアニメの登場人物のごとく
買い物カゴを引っさげ、野菜コーナーや肉コーナーなどを
「沢渡さん……?」
不意に背後から声をかけられ振り返ると、そこにはアタシと同じく手に買い物カゴを引っ提げた小日向が立っていた。
しかしなんだろう、どこか違和感が……あぁ、そういうことか。
「よお小日向、見たとこお前も買い出しみたいだが……立花はどうした?」
「響なら小テストの補習で今頃ひーひー言ってる最中だと思うよ」
「あーそういうことか……納得した」
いつも小日向とセットでいる立花の姿がないのが違和感の原因だった。しかしながら立花、ついこの間も居眠りで反省文を書かされたと思うんだが……あいつに反省の二文字はないのか?
「毎度毎度、お前も大変だな」
「まあね……でも、あれが響だから」
そう言い微笑む小日向の姿はまさに保護者そのもの。
「本当にお前らは仲がいいな。さすがは幼馴染ってとこか」
「……仲がいいのは沢渡さんも一緒でしょ」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん、なんでもない」
なんだか小日向はアタシに対して冷たいっていうか、少し壁を作っている印象がある。まぁ無理して距離を縮めようとは思ってないので、小日向にとってこれがアタシとの適切な距離感だというならそれでいい。
と、このままここで話し込んでいたら周りの客にも迷惑がかかるな。
「取り合えず買い物終わらせるか。このままじゃ邪魔になるだろうし」
「うん、そうだね」
「じゃあアタシはこっちに行くから……じゃあな」
そう言い、アタシは小日向に背を向けて歩き出す。
「待って……一緒に見て回らない?」
「……え?」
すると意外にも、小日向の方からアタシを買い物に誘ってきたではないか。これにはさすがのアタシも驚きを隠しきれず、思わず振り返り「マジか」といった表情を浮かべてしまう。そんなアタシの反応に小日向はジト目を向け「失礼な」と口ではなく雰囲気で告げてくる。
申し訳ないとは思うが、それでもアタシからしてみれば予想外すぎる発言だったのだから仕方がないだろう。
「嫌なら、嫌って言っていいよ……」
そう言葉を口にする小日向の顔は、どこか陰っているようにも見える。
「そうだな、一緒に回るか」
「……うん!」
アタシがそう返すと、どこか安心したような表情を浮かべる小日向。
……ったく、んな顔されたら断るにも断れねぇだろって。まぁ元から断るつもりは毛頭なかったんだけど。
そうして小日向と買い物をすること約20分。アタシたちは買い物袋を手にしスーパーの自動ドアを潜り家路へとつく。
「その……ごめんね、袋持ってもらって」
「気にすんな。小日向よりアタシの方が力があんだ、要は適材適所ってやつさ」
アタシの両手のうち片方を占領する買い物袋に視線を落とし、申し訳なさそうな声で礼を述べる小日向。一人で部屋を使っているアタシと違い、小日向は立花も含めた二人分の量を買わなければならない。必然、買うものはアタシよりも増える。
さすがにこの量を持たせるのは酷なので、男顔負けの力を持つと自負しているアタシが一部を受け持ったというわけだ。言ってて自分で悲しくなるが日頃の行いの所為だ、仕方がない。
そうしてアタシたちが二人並んで帰り道を歩いていると、不意に小日向が口を開く。
「私ね、沢渡さんに感謝してるんだ」
「なんだよ藪から棒に……それに感謝って、アタシ小日向に何かしたか?」
「してくれたよ……だって沢渡さん、あの頃の響を守ってくれたじゃない」
そう語る小日向の視線はどこか悲しげで、遠い場所を見つめているようで……。
小日向の言うあの頃というのは、間違いなくイジメを受けていた中学時代のことだろう。
「私は側で支えることしかできなかった……響を守ってあげることができなかった」
「んなことねえだろ。アタシは立花じゃねぇからわからないが、支えがいるっていうのは大きかったと思うぜ?」
「でも私は響の親友で……なのにあの子に掛かる理不尽から守ってあげられなかった……! 動けなかった……私はっ、そんな自分が許せなかった……っ」
親友だからこそ、イジメから守るべきだった。けど実際に立花をイジメから守ったのは、親友でもなんでもない、赤の他人だったアタシという存在。
マジョリティとなったイジメは捻じ曲がった正義を掲げ対象を苦しめる。それが間違いだとしても奴らは止まらない、なぜならそいつらには”他の奴らもやっている”という大きな後ろ盾があるからだ。
そしてそれを正そうとする存在が現れれば、当然そいつらの矛先はその存在へも向けられる。それを恐れるのは人としては当然のことだ。小日向は何も悪いことはしていない……悪いのはそんな間違った正義を振るう奴らだ。
それでも小日向の心には自責の念が募り、彼女を内側から圧迫していた。立花にその思いを悟らせなかったのは、偏にあいつに悲しい思いをして欲しくなかったからだろう。
そして親友に隠してきたその思いをアタシに吐露したのは……きっと抱えることに限界がきたから。
「なぁ小日向、なんでアタシが立花を守ったと思う? 今まで全く関係のなかった、赤の他人同然の立花をよ」
「え……なんで……?」
だとするなら、アタシに出来るのは少しでもその後悔を取り除いてやることだろう。
「答えは単純、”アタシが嫌だった”から。捻じ曲がった正義を抱えて寄ってたかって一人をいじめる……それがムカついたからだ」
確かにあの事件で大切な人を失ったものもいるだろう。現にサッカー部のキャプテンと付き合っていた女生徒は、その事件で彼を失った。その悲しみはアタシに推し量れるものでは到底ない……が、だからと言って立花を責めるのはお門違いもいいとこだ。
それに聞けば、立花も生死の境を彷徨ったって話じゃねぇか。だというのになぜ、そんなあいつを”人殺し”だと言えるのか。
「別にアタシは立花のためだとか思っちゃいねぇよ。全部アタシの気分が悪くなるからやったんだ」
そう語るアタシを見つめる小日向の瞳は、いつになく真剣なもので
「アタシの行動は小日向みたいに優しさからくるものじゃねぇ。要はアタシが嫌だからやめさせた……ただのわがまま、自己中心ってやつだ」
全部が全部そうだってわけじゃないが……まぁこのまま話を続けよう。それを言うとせっかくのセリフが台無しになるしな。
「それによ、立花を庇って小日向にまで火の粉が飛んだら、それこそあいつが悲しむだろ?」
なんで立花が一人で飯を食ってたのか今ならわかる……きっと小日向を巻き込まないためだ。まったく皮肉なもんだよな、互いが互いを思ってそれが自分を傷つけるなんてよ。
「お前は立花にとって大切な居場所だ。それが傷ついてちゃ立花だって安らげねぇだろ。要は適材適所、アタシが守って小日向が支える……どっちが重要だとか、
「……本当に、それでいいのかな? 私はただ待ってるだけで、良かったのかな……」
「それが正しいかどうかなんて、今の立花を見ればわかるだろ」
今、あいつは笑っている。それだけでも小日向が支えた意味はあるだろう。
「お前はちゃんと守ってたんだよ。だからんな暗い顔すんな、あいつが心配するぞ?」
「うん、ありがとう……なんだか少し心が軽くなった気がする」
「礼なんて言うな。小日向が暗い顔してあいつがいつもと違くなったら、それはそれで面倒くさいだけだ」
「それも自分のため?」
そう聞いてくる小日向の顔にはさっきまでの後悔の痕はなく、いつも立花に向けている微笑みがあった。
「まぁそういうことだ。わかったならもう礼なんて言うなよ」
「ふふっ、わかった」
はぁ柄にもないことを口にしたせいかどっと疲れたぜ……。あー帰って飯作るのめんどくせー。
「……あなたに響が惹かれるのも、なんとなくわかるな」
「惹かれるっていうか、あいつから抱きつきに来てるんだけどな。あれ小日向から言ってやめさせてくんね?」
「響がやりたいことを止めたくはないけど、善処してあげる」
互いに距離が縮まったからか、そんな軽口を言い合っていると──突如、警戒を告げるアラートがアタシ達の会話を阻む。
このアラートが告げるものは一つ。アタシと小日向は意図せずして言葉を合わせ、アラートが知らせる災害の名を呼ぶ。
──認定特異災害”ノイズ”の名を。
今回は未来とのお話でした。
いろいろ勝手書きましたが、まぁ書きたいこと書けたので後悔はないです。
そして次話はついに主人公のノイズとの遭遇です。
どうなるのか過度な期待はせずにお待ちください。