戦姫絶唱シンフォギア〜指輪物語〜   作:温野菜生活

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だいぶ間が開きましたね。お久しぶりです。
とりあえずぼちぼち投稿していこうと思います。

長らくあけており、大変申し訳ありませんでした。



自由のための決意

 “ソロモンの指輪”に宿された魔人アイムの力で、アタシはノイズの危機から何とか乗り越えることができた。

 だがそれも束の間のことで、その後現れた風鳴先輩と謎の黒スーツ軍団に連れられ、アタシはリディアンの地下に連れられ、そこで『特異災害対策起動部二課』なる組織の歓迎を受けることになった。

 

 色々質問されたり、服を脱がされ精密検査みたいなものも受けさせられ、へとへとになりながら解放されたのは、あとわずかで日付が変わるといった時間だった。

 部屋についてからは、ようやく落ち着くことができたからか、それまでに溜まっていた疲労がどっと押し寄せ、死んだように眠りについた。

 ノイズから全力で逃げ回り、さらには魔人の力を行使したからだろう、今までにないくらい深い眠りについたと自負している。

 

 まぁだからだろうな。窓から覗く、眩しく照り輝く太陽を見て、アタシは冷静に状況を察した。

 

「……寝坊した」

 

 朝にいつも目にする太陽と比べて、明らかに高い位置にあるそれから目を逸らし、スマホの画面を確認する。

 時刻は午前10時25分。今日は休日でもなければ、都合よく創立記念日であるということもない。単純に大幅な遅刻だ。

 

 しかしあれだ、ここまで盛大に寝坊すると開き直って慌てることすらしないな。

 

「教師には適当に謝るとして……問題はこれか」

 

 画面に羅列された不在着信の文字。

 かけてきた相手はもちろん立花なのだが、それと同じくらいの数かけてきているのは、以外にも小日向だった。

 どうやら無事にあの場をやり過ごすことができたみたいだな。ちょっと安心した。

 

 とはいえ、どんだけかけてきてんだよあいつら。

 二人合わせてひーふーみー……25件って。いってもまだ午前10時過ぎだぞ? 

 

「今かけなおしても授業中だろうし……まぁ、学校で会えばいいだろ」

 

 というわけで、リディアンの制服に着替え、遅めの朝食である食パンを1枚袋から取り出し、学校を目指して家を後にした。

 

 ちなみに風呂は検査を受ける前に体を奇麗にしたので問題はない。そう追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 午前11時、堂々と遅刻をしながらリディアンの校門を通り過ぎ、教室へと向かう中。

 

「おはよう。随分と遅い登校ね」

 

 開口一発目にそんな挑発じみた発言をぶつけてきたのは、昨日アタシを連行し、遅刻の原因の殆どを作った風鳴先輩だった。

 

「はよっす。先輩があんなとこに連れてかなければ、いつも通り登校できたんすけどね」

「冗談よ。だからそんな殺し屋みたいな目はやめなさい。周りの生徒たちが怖がっているわ」

「あ? 別にアタシはこれがデフォルトだっての」

 

 朝からよろしくしてくれんじゃん、この先輩。

 てか、さっさと教室に行きたいんだけど。何しに来たんだこの人。

 話しだったら昨日したし……あれか、学校だと一人ボッチなのか? 暇だからこうして話しかけてきてんのか? 

 

「何か失礼なことを考えているようだけど、まぁいいわ。沢渡 旋さん、貴女にこれからのことについて話に来たの」

「は? これからのこと?」

「ええ。今日から貴女は特異災害対策機動部二課の保護下に入ることになったわ。よって、今日から放課後は二課の本部にて、貴女の身柄を預からせてもらいます」

「……あ?」

 

 なんて言った? 保護下? んでもって、放課後は二課(あそこ)で身柄を保護? 

 おいおい、冗談じゃねぇぞ。

 

 突然言い渡された保護宣言に動揺するアタシを無視し、風鳴先輩は事務作業のように説明を続ける。

 ただ今のアタシの耳には先輩の言葉は入ってこず、胸の奥に確かな苛立ちが募っていった。

 

「ふざけんな、んなもん“はいそうですか”って、納得できるわけねぇだろ」

「……残念だけど、これは決定事項よ。その指輪を身に着けている貴女を、一人にさせることはできないわ」

「だったら、監視かなんかつければいいだろ。なんだってわざわざ、んなとこで拘束されなきゃなんねぇんだ」

 

 こちとら自由に生きるって決めてんだ。

 人気アイドルだか、政府の秘密組織だか知んねーけど、そんながんじがらめごめんだ。

 

 アタシの反論に風鳴先輩は小さく溜息を吐く。

 さらには呆れたような目を向けてくる始末で、さらにイライラ度数が高まる。

 何でこの先輩、こんな上から目線決めてくれんだ? たかが年齢が一個上なだけだろ。

 

「理由は単純、貴女が弱いからよ。外を自由に歩かれて、いつまたノイズに襲われるかわからないわ。いえ、ノイズ以外にも、その指輪を狙う者たちから、貴女は身を守れる? 偶然その力を手にしただけで、貴女は所詮ただの一般人。危険な荒野で放し飼いよりも、安全な檻の中で過ごす方が平和だと思わない?」

 

 ──はい、プッツンしました。

 こいつ、好き勝手に言ってくれんじゃねぇか。弱いだなんだ言った挙句、ペット扱いかよ。

 

 ふるふると、握りしめた拳が、いや体全身が怒りで震える。

 ああ、ここまでコケにされたのは、生まれて初めての経験だ。

 

「ははっ、言ってくれんじゃねぇか。アタシが弱いから保護してやる、ってか」

「ええ、それが貴女にとっても、私たちにとっても最善の選択よ。何を反論しようが、変わることのない事実」

「いいや、一つだけあるぜ。アタシがあんたらに強いって思わせれば、保護はしなくていいってことだろ?」

 

 アタシの言葉に、風鳴先輩の視線が刃物のように鋭くなる。

 普段はこっちから喧嘩売ることはねぇが、ここまでボロカスに言われちゃな。

 

「そう……なら、今日の放課後に二課へ来てちょうだい。そこで貴女の実力を試させてもらうわ」

「いいぜ、目にもの見せてやるよ」

 

 そうして、アタシは先輩の横を通り過ぎ、そのまま教室へと向かう。

 

《いいですね、なかなかに良いですよ。我が王よ》

(おい、学校では話しかけてくんなっていっただろ)

 

 なぜか嬉しそうにしているゴエティアは、ふんふ~んと鼻歌交じりに話しかけてきた。

 正直まじでうざったい。

 

《成長には挫折がつきものです。王が今よりも遥か高みへ上るためにはね》

(まるでアタシが、これから挫折を味わうみたいじゃねぇか。お前、仮にも従者ってんなら、信じてるの一言ぐらい言えねぇのか?)

《ええ、信じていますとも。我が王は必ず、大成する御方であると! ですから、王にはぜひ、今の己を見つめていただきたい》

 

 芝居がかったような大げさな表現をしてくるゴエティアだったが、最後の言葉はどこか、いつもの飄々としたものは感じられなかった。

 こいつの目的は何なのか、まったくもって、一ミリたりとも理解はできないが、とにかく今は目の前の勝負に集中するだけだ。

 

 大人相手にだって、一度も負けたことはねぇんだ。何が来たって叩き潰してやる。

 アタシは、自由なんだから……。

 

 

 

 

 

「めぐりちゃーん! もうっ、起きてるなら電話かけてよー! 朝からいないから心配してたのにー!」

 

 休み時間ということもあり、教室に入るや否や、元気溌剌(はつらつ)猪突猛進な立花が胸に飛び込んでくる。

 そのままアタシの体をがっちりとホールドすると、胸に顔をうずめクンカクンカと匂いを嗅ぎだした。

 おいこら、抱きつくまではいいが匂いを嗅ぐな。

 

 肩を掴み引きはがそうとするが、立花はいやいやと左右に頭を振って抵抗してくる。

 てかこいつ力強いな。全然離れないんだが。

 

 しかし、立花の反応を見るに、昨日の事は全く知らないらしい。もし仮に知っていたとしたなら、泣き出すくらいのことはあるはずだし。

 アタシは立花から視線を外し、少し離れたところに立っている小日向を見る。

 どうやら襲われずに無事逃げ切れたらしい。無事だという確証がなかったため、こうして無事を確認出来てようやく安心できた。

 

「……響、ちょっと沢渡さん借りてもいい?」

「え? どうしたの未来?」

「ちょっと二人で話をしたいの。ごめんね?」

 

 小日向しては珍しく、立花に対して静かなトーンで話しかけ、アタシから引きはがす。

 そのままアタシの手を取り、教室の外へと引っ張っていった。

 小日向が何を思ってこうしているのか理解しているアタシは、特に何も抵抗せず連れられるがままその小さな背中の後を追う。

 

 アタシたちが向かったのは学校の屋上だった。

 その真ん中付近まで移動をしたところで、小日向は手を離し、数歩程度距離を取る。

 だがそこから小日向は何も話すことはなく、しばらく沈黙が続いた。

 

 何かを言わなければならないが、言葉の整理がついていない、そんな感じだろうか。

 とはいえ、このままずっと互いに黙ったままっていうのも居づらいものがあるので、アタシの方から先に口を開く。

 

「あー……小日向、無事でよかった。どっか怪我とかないか?」

 

 無言。

 

「そういや、膝擦り剥いてんな。悪かった、乱暴に投げちまってよ」

 

 無言。いや、わずかに体が震えている。

 

「……なんで」

 

 震えは握りしめた拳から全身へと移っていき、振り絞るかのようにか細い声が漏れる。

 

「なんで、沢渡さんが謝るの……」

 

 怒り、悲しみ、安堵、後悔。

 そんな様々な感情が入り混じった表情を浮かべる小日向。その頬には、一筋の雫が流れていた。

 

「なんで、あんなことしたの……っ! もしかしたら、沢渡さんが死んでたかもしれないんだよ!?」

 

 今度はか細い声ではない。悲痛に濡れた表情での、あらん限りの叫び。

 頬をなぞる一筋の道は、溢れ出した雫に吞まれ、滝のように流れる。

 

 なんで……まぁ、そう思うだろう。

 本来なら死んでてもおかしくはなく、アタシは偶然、ノイズを払いのける力があったから助かっただけだ。

 事情を知らない小日向からしてみれば、アタシが死ぬつもりで囮になったと思うだろう。優しいこいつのことだ、アタシの勝手な判断を自責の念に苛まれたに違いない。

 

「……私、怖かったの。沢渡さんが、もう戻ってこないんじゃないかって」

「……ああ」

「もし、死んじゃってたらどうしようって、沢渡さんを見るまでずっと考えてた」

 

 小日向が一歩、また一歩と近づいてくる。

 そして目の前に来ると、アタシの背中へ両手を回してきた。先ほどの立花とは違い、ガラス細工に触れるかのような優しい抱擁。

 

「本当に……生きててくれて、よかった……」

 

 震えている。声も、体も。

 ああそうか、こんなアタシにもいたんだな……悲しんでくれるヤツってのが。

 

「悪かったな、心配かけて」

「ううん、戻ってきてくれたから、もう大丈夫」

 

 抱きしめる手を離し、顔を上げた小日向の目元には確かな涙の跡があった。

 だが先ほどのような陰りはなく、満開の笑顔だけがそこにある。

 

「それとこの話、立花に内緒にしてくれただろ? サンキューな」

「響が聞いたら、無茶してでも探そうとするから。だから、もうこんなこと、絶対にしないでね」

「ああ、そうだな……善処するよ」

「むっ……そこは『わかった』って言ってよ」

 

 頬を膨らませ、上目づかいで睨んでくる小日向。

 本人は怒っているつもりだろうが、ただただ可愛らしいだけだ。アタシはその小さな頭に手を伸ばし、子供をあやすように優しく撫でる。

 

 絶対にしないって約束は、はっきり言ってできない。

 もし仮に、また同じ場面に出くわしたなら、きっと……いや、絶対にアタシは同じことをするだろう。

 今のアタシなら、そうした方が生き残る確率は高いから。

 

「また同じ目にあった時は、そん時はアタシが守ってやるよ」

「もう、だからそれをやめてって言ってるのに……」

 

 アタシの返答に、小日向は不満そうな表情を浮かべる。

 そんな視線を遮るように、今度は強めにわしゃわしゃと撫でる。

 

『──理由は単純、貴女が弱いからよ』

 

 思い出すのは、風鳴先輩の言葉。

 ……あの時は煽りに煽ってくれたおかげで冷静さを欠いていたが、今考えるとあの言葉はもっともだ。

 力を手にしてまだ一日。満足に使いこなすこともできないで、同じ状況になった時、アタシはともかく、立花や小日向を守り切れることができるのか。

 

 ……ああ、そうだな。認めるのは癪だが、絶対に守り切れるとは言えない。あの理不尽なノイズ(天災)たちから、アタシが大切だと思えるこいつらを。

 あーあ、こんな気持ち何時ぶりだ? やっぱ気分いいもんじゃねぇな、自分が弱いって認めるのは。

 

 まぁ、()()()()()()()いい薬だろう。

 一般人レベルで胡坐かいてた、御山の大将だったアタシには。

 

「……ありがとな、小日向」

「ん? ありがとうって、なにが……?」

 

 唐突な感謝の言葉に目を丸くする小日向。

 だが、こいつのおかげで見つめなおすことができた。

 んでもって決めた。アタシが自由に生きるため、そしていざという時こいつらを守るため。

 

「ねぇ、なにがありがとうなの? 沢渡さん?」

「いーや、なんでもない、気にすんな。さってと、教室に戻るぞ。まだ先生に会ってないから、アタシの遅刻は更新されっぱなしだ」

「えっ、ちょっと待ってよ、沢渡さん!」

 

 納得のいかない小日向が後をついてくるが、これ以上は話すつもりはないので適当にはぐらかす。

 さてさて、放課後に会う先輩たちがどんな表情するのか……今日の楽しみが増えたな。

 

 

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