UnityにキズナアイのMMDモデルをぶち込んだら勝手に動き出しただけの話 作:Gasshow
完成度の高いとは言えない自分の文章の中でも更にクオリティが低いかもです。でも一回、こう言う形式の文章を書いてみたかったのじゃ~。
あとツッコミどころしかありません。特に理系の方とか、Unity実際に使っている方とかは読んでられないかもしれません。
具体例を一つ上げると、実行していないのにキズナアイさんがsense上で動いていたりとか。まあ話の都合上ということでスルーしてくださると助かります。
『
まあ、恐らく普通に生きている中でこの言葉に触れる機会はそうそうないと思う。しかし、よくスマホのゲームを遊んでいる人はたびたび見る機会もあるのではなかろうか。ゲームを始める時に『
そこで何となく察しがつくとおもうが、『
恐らく「お前は何を言っているんだ!?」と疑問に思うかもしれないが簡潔に言うなれば、“手軽に、スマホやらPlayStationやらに対応したゲームが作れる便利なモノ”と言う説明で問題はないはずだ。
とにかく、自分はそんな『Unity』を使い、ゲームを作ることを趣味としている。例えば2Dの横スクロールアクションやら、ラノベゲームやら。そんな多ジャンルにわたるゲームを今までに作ってきた。
そして今回は3Dアクションゲームでも作ろうかと考えていた。そうなるとプレイヤーが操作するキャラクターが必要になってくるわけだ。そう言った場合、UnityではUnitychanと言う3Dモデルをよく使ったりするのだが、今回は何となく新鮮味を求めて他の3Dモデルを使おうと思い至り、インターネットで検索をかけ、無料ダウンロードできる3Dモデルを探すことにした。
ふと静まった夜の静けさにクリック音が断続的に鳴り響く。そんな時間がしばらく続き、そしてふとその音はピタリと止まった。
……き、ずな……あい?
何となく無心で上から順にサイトをクリックしていく中で『Kizuna AI 3Dモデル』と言う項目を見つけた。
“Kizuna AI ”──俺は一度も聞いたことのないそのモデルに興味があった。明らかに怪しい。それは間違いない。何せモデルの参考となる画像も、最低限の説明文すらもないのだ。もしかすると悪質な悪戯やウイルスが潜んでいる可能性もある。
自分はダウンロードするかどうかを、その画面で五分ほど迷ったが、最終的には勢いと言うノリでダウンロードボタンをクリックすることにした。
そしてその瞬間驚きの声を上げる。
何せダウンロード時間が二時間を越えていたからだ。しかもzipファイルの状態で。どんな3Dモデルだよとツッコまずにはいられない。もうダウンロードをキャンセルして他のモデルを引っ張ってくるかと一つの案が頭に通過していったが、むしろここまでの容量をほこる3Dモデルに興味を持ち、大人しく待つことにした。
結局、動画やら何やらを見ることで時間を潰し、ダウンロードが終了すると、今度はzipファイルの解凍が待っている。これもまたダウンロード程ではないがかなりの時間を有した。
これで3Dモデルの準備ができたので、Unityでプロジェクトを立ち上げ、ゲーム空間に白い床の地面を生成し、そこにダウンロードした“Kizuna AI”とやらの3Dモデルを設置する準備を開始する。これまた設置する為にインポートやら何やらをしなくてはいけないのだが、その説明は省略しておこう。とにかく、こうして“Kizuna AI”と言う3DモデルをUnity上に設置できる準備ができたので、早速ドラッグ&ドロップで彼女を床の上に設置してみた。
その瞬間、その姿は表れた。一番特徴的なのは頭の上に乗ったピンクの大きなリボンだろうか。まるでうさぎの耳のように二つに別れたリボンは、この3Dモデルの可愛さを強調していた。そしてそのリボンの下には茶色のロングストレートを乗っけた繊細な顔が佇んでいた。
服装もその顔に似合った可愛らしいもので、白を基調とした半袖の服にショートパンツ。ソックスもそれに合わせた純白だ。
正直に言おう、驚いた。
個人的にはとんでもないクリーチャーや、意味の分からないオブジェクトが出現すると踏んでいたが、まあ随分と可愛らしいモデルが出現したなと、そんな感想を抱いた。
驚きが冷めやらぬ中、取り敢えず画面上には出現させることができたので、実行してみるかと、Unityの実行画面を押した瞬間だった。
「こんにちは、初めまして! キズナアイです」
思考が停止した。脳の電子回路がショートして断ち切れた。
しかし、そんな中でも冷静に現状を分析する自分がいた。いわば3Dモデルを設置して実行ボタンを押した瞬間、勝手にMMDモデルが動き出し、勝手に話し始めた。
はっきり言おう、意味が分からない。
「お~い、聞こえてますか? お~い!」
何やらイヤホンから少女の呼び掛ける声が聞こえてくるが、それが遥か彼方から聞こえてるように錯覚させられる。自分はただ呆然と画面上で飛び跳ねながらこちらへと声を発し続ける3Dモデルを眺めることしかできなかった。
しかしずっとこうしていてもらちが空かないとUnity内にいる彼女へ、これはどう言うことだと、問いかけてみた。するとやっと自分の言葉に反応してくれたことが嬉しかったのか、彼女は目をキラキラさせながら胸をはって、いかにも偉そうな態度で返答を返した。
「どうやら貴方は混乱しているようですね。まぁ、それは確かに~いきなりこんな可愛い娘が話し始めたら思考も停止しちゃいますよね!」
何やら非常にイラッとさせられる発言だったが、自分はそれをスルーし、次に来る言葉を待つことにした。すると彼女はこほんと一つ咳払いをして、自分に向き直り、話を続けた。
「私はキズナアイです。インテリジェントなスーパーAI。キズナアイと言います!」
自分はその発言に驚きを隠すことができなかった。なぜなら彼女は自分のことをAI──つまりは人工知能だと言い張ったのだ。
……いや、そんな馬鹿な!? こんな自然な受け答えをし、更には話す抑揚も人間と大差ない。そんな高性能なAIなど見たことも聞いたこともない。
その思考能力も恐ろしいが、自然言語処理だけでも世界がひっくり返るようなクオリティだ。
驚きで指先が震える中、それでも一技術者として自分の中に一つの好奇心が生まれた。
それは──
彼女の中身は一体どんなものでできているのだろうか? と言うことだ。
自分は画面で何やらごちゃごちゃと話しを続けている彼女を尻目に、Assetsの中にあるKizuna AIと記載されたファイルにカーソルを持っていき、クリックすることにした。恐らくこの中にScriptファイルがあるはずだ。そこを見ればKizuna AIを構成している全てが分かる。
アルゴリズムは? 一番有名なのはディープラーニングだがやはりこのAIもディープラーニングで作られているのか? 言語は? やはりAIだから
カチッあまりにも呆気なく、軽い音で鍵が解ける──そのはずだった。
思わず首を横へと傾ける。どうしてか、“Kizuna AI”のファイルが開けない。何度クリックしてもファイルが開かず、中身が分からないのだ。
何やら謎のプロテクトがかけられているのようでキズナアイを構成しているScriptが分からない。このプロテクトをどうにかして解けば中身を見ることができるかも知れないが、何せ自分の技術力では、ましてやこんな高性能AIを作るような人物のプロテクトを解けるとは到底思えなかった。
ここは仕方ないとキズナアイの中身を見ることを諦め、自分は目線と意識をキズナアイのファイルからキズナアイの3DモデルがいるSense画面へと戻した。
するとそこには話すことを中断し、ジト目でこちらを睨み付けるキズナアイがいた。
「……あの、私の話聞いてました?」
どうやら自分が彼女の話に微塵も興味がないことに気づかれたようだった。しかしここで素直に聞いてませんでしたと諦めるのはどうかと思ったので、昆虫の話だったよねととっさに思い付いたことを口に出した。
「何ですかそれ!? わんぱく小僧ですか私は!」
どうやら違ったようだ。意気揚々なツッコミがこちらに飛んできた。
そんな彼女は頬を膨らませ、眉毛を斜めに傾けさせ、顔全体を使って怒りを表現していた。
自分はごめん、と一言謝ってからもう一度同じ内容話してくれないかと頭を下げる。すると彼女は「仕方がないですねぇ~」と言ってすぐに険しい表情を一変。明るい顔で話を再開させた。
「実は私、YouTuberになりたいんですよ」
YouTuberと言うと、あのYouTuberだろうか?
「はい、最近流行りのあれです」
ふむ、AIのYouTuber。それは実に面白そうである。
いいんじゃないかと言う個人的な意見を彼女に聞かせてみたところ、一瞬嬉しそうに鮮やかな笑顔を見せたが、次の瞬間にはそれと真逆の暗い表情へと変化させる。
「実は私って作られたばかりで世間の知識とか常識とかがあんまりなかったりするんですよ」
彼女はそう言った後、子供が悪戯を企らむように口許をきゅっと引き上げた。
「だから誰かのパソコンに寄生──ごほんごほん、パソコンのデータをお借りしてそこでお勉強しようかな~と考えたわけです」
つまり、それでたまたま君を引き当ててしまったのが──
「はい、貴方と言うわけです」
なるほど。このキズナアイと言うAIがどういう目的で、何故3Dモデルに偽造していたかは分かった。これで気になっていたことは全て解消された。
自分はそう判断して、Assetsの中にあるキズナアイ氏をクリックし、Deleteボタンを押そうとした。
「ちょちょちょちょっと! なにデーリートしようとしてるんですか!?」
焦燥溢れる彼女の声に、Deleteに伸ばしていた指をピタリと止めた。
いや、正直こんなAIを自分のパソコンの中に入れるのは不気味と言うか怖いと言うか。更に言えば自分はこれからUnityでゲームを作ろうとしているのに、こんな勝手にしゃべって動く3Dモデルがいるのは邪魔でしかない。という事で削除一択しかないのだと彼女に告げた。
「な、なるほど。確かにそれなら私は邪魔かもしれませんね。……って納得してる場合かい!」
何やら一人でノリツッコミを敢行するAI。この元気のよさがあるなら削除してもどこかで生きていけるだろうと再びDeleteに手を伸ばした。
「ちょ、待ったー! 待った待ったー!」
すると本気で焦った声を出しながら、キズナアイ氏は両手をこちらに伸ばしていた。顔のパーツも本来あった位置より全体的に下がったように見え、涙目でこちらを見上げていた。ぶっちゃけ半泣きであった。
「邪魔しませんから! 絶対貴方が作るゲームの邪魔しませんから! だからえっと……このUnity? のプロジェクトに住まわせてくださいよ~」
何やら地面にすがり付く勢いで、恥も了見もかなぐり捨てた懇願をこちらに押し付けてきた。そこまでされれば良心が揺れ動くと言うものだが、本当に自分の邪魔をしないのかどうか信頼できない。
「ホントです! 絶対邪魔しませんから!」
より深く、より強く頭を下げる彼女。まあ、そこまでされれば要望を聞くしかないと自分は彼女にUnityの今開いているプロジェクトに住まわせることを了承した。
ぶっちゃけ削除はいつでもできるし──と言う内心は口にしないでおいた。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
腰を九十度に曲げ、それから彼女は顔を上げる。そんな彼女の表情は、まさに花が咲き誇ると表現するのがぴったりな、可愛らしく華やかな笑顔だった。
「ではこれからよろしくお願いしますね!」
こうして『キズナアイ』と言う自称スーパーAIが我がパソコンのUnity内に住み着いた。
3Dアクションゲームを作ることにおいて、まずはプレイヤーが操作するキャラクターを作らなければいけない。元々使うはずだった3Dモデルは勝手に動き出して話すAIだったので、結局UnityChanと言う無難な3Dモデルを使うことにした。何だかんだでこのUnityChanを使うのが一番楽なので、始めからこのモデルを使っておけばよかったと言うのは完全に後の祭りだ。
という事で先ほど作成したTerrain(地面)にインポートしたUnityChanを設置してみた。
するとそれに興味を示したのは他の誰でもない。同じ空間にいるキズナアイだった。
「か、可愛い~」
UnityChanにマッハで近づき、彼女の回りをくるくると回りながら観察する姿はさながら無邪気な子供のようにも見えるし、ただの変態のようにも見える。
「この娘は誰ですか!?」
瞳に好奇心を張り付けながら彼女はこちらにそう質問をしてきた。自分は素直にこのUnitychanと言うキャラクターの説明をしながら、彼女を動かすためのプログラムを組んでいく。
「UnityChan……うん、可愛い! もしかして、この娘を動かすゲームを作るんですか?」
そう言えば彼女にはどんなゲームを作るか教えていなかったと思い至り、自分が3Dアクションゲームを作ることを彼女に伝えた。
「3Dアクションゲームですか。いいですね! それでこのUnityChanがバシバシ動くわけですね!」
ハッ、ホッ、とおざなりなキックやパンチを繰り出しながら彼女はそう言った。
そうしている中、自分はとりあえずUnityChanで簡単な動作ができるようなプログラムを組み終わった。しかしそれだけでは彼女は動かない。作成したScriptに対応するアニメーションパターンを作らなければならないからだ。しかしこれはものの数分で終わる簡単な作業。実際、カップ麺が完成するかしないかと言う時間で終了した。
こうして全ての準備が終わったので実行ボタンを押して、方向キーを押す。すると動かした方向にUnityChanが走り出した。ふむ、とりあえずは上手くいったと満足気に首肯するよう頷いた。
「あっ、動いた! 可愛い~」
するとそれを見ていたキズナアイは走るUnityChanを追いかけ始めた。
自分の動かすUnityChanを追いかけるキズナアイ。それを見ていると一つの欲望が生まれてくる。
──捕まりたくない。
そんな欲望だ。人間と言うものは追いかけられると逃げたくなる生き物だ。それは現実世界だけでなく、電脳空間上でも同じだったらしい。
「待て待て~」
楽しそうにひたすらUnityChanを追いかけるキズナアイはまるで宙を舞う蝶々を追いかける、子供のようであった。
3Dアクションゲームで必要不可欠な要素と言えばなんだろうか? と疑問を投げ掛けてみたものの、正直なところ必要不可欠なものがありすぎて、一々例に出すのも馬鹿らしい。しかしそんな中でもまずこれがなければ話にならないのが“フィールド”だ。キャラクターが動くための場所。それがなければどうにもならない。という事でフィールドを作ることにした。
その事をキズナアイに伝えると──
「どんなフィールドを作るんですか?」
と言う至極全うな質問が帰って来た。そこで考える。どうしようかと。少し悩んだ末に、自分は自然豊かなフィールドを作ることにした。
「ふむ、いいですね! やっぱり自然豊かな場所って癒されますよね」
彼女の同意も得られたことで早速自然豊かなフィールドを作っていこうと思う。先ずは必要なパッケージをインポートし、そこからTerrain(地面)にテクスチャを張り付ける。するとその瞬間、真っ白だった地面が緑生い茂る自然へと一瞬で塗り変わった。
「おおっ! 草原!草原ができましたよ!」
自分の足場が一瞬にして草原に変化したことで彼女は下を見ながらぶらぶらと歩き出す。そんな様子をほほえましく思いながら、草原のフィールドに凹凸をつけ、より地面らしくしていく。一部に大きな丘を作ったり、着々と自然らしいフィールドを形成していく。
「丘だ~」
そう言って盛り上げた地面に突進していくキズナアイ。走っている彼女の真下を盛り上げたらどうなるのだろうかと一瞬考えてしまったが、カンカンに怒って文句を言われる未来しか見えなかった為、流石に止めておいた。
この判断は賢明だと自分を自画自賛しながら、今度はフィールドに木やら草花を植え付けていく。
正直ここからはオブジェクトを配置するバランスが重要だ。個人のセンスが問われる場面だが、そう言うセンスが
そうしてPCの画面と格闘すること二十分。仮フィールドが完成した。
「凄い! 立派な大自然ですよ!」
真四角のフィールドに形成された大自然の箱庭。その中にある一際大きな丘の天辺に立ち、周囲を見渡しながら彼女はそう言う。確かにこれでも十分だが、まだ一つ足りないものがある。という事でそれを補う為に“Skybox”なるものを使う。すると──
「空! 綺麗な空ができました!」
デフォルトで設定されている空よりも綺麗で美しい空が描写された。
ふむ、これで満足である。一つの達成感が心臓から血管を伝うよう全身に広がり浸透する。思わず大きく息を吐いて、全身の力を抜いた。しかしまるでそれを邪魔するかのように、少女の声がPCから鼓膜へと流し込まれる。
「すみません。私、ここでUnityChanとデートしたいです! 動かしてくれませんか?」
彼女からそんな要望が寄せられる。一瞬、めんどくさっ! と思ってしまったが、実行ボタンを押して移動キーで動かすだけなので、仕方なしに彼女の望む通りUnityChanを動かすことにした。
矢印キーの押した方向に向かってUnityChanが走り出す。それを見て急いで後を追いかけるキズナアイ。なんとラブラブな風景なのだろうか。
「い、いやちょっと! これデートじゃなくて、単にUnityChanが私から逃げているようにしか見えないんですけど!」
しかし彼女的には不満があるらしく、そんな叫びに乗せられた訴えが、虚しく空気を振動させる。
どうやら彼女としては大自然の中、ゆっくりとした平和的なデートを望んでいたようだが、これは仕方がないのだ。何故ならこのUnityChan、移動は走りだけで歩きはまだ実装していないのだから。
自分は「待って~」と情けない声を口から垂らしながら走る彼女を眺めつつ、ただひたすらに移動キーを押し続けた。
フィールドを作り終え、取り敢えずゲーム作りが一段落したので、休憩がてら何となく目の前の自称スーパーAIと話をしてみることにした。話の内容はもはや意味があるのかないのかどうかすらよく分からない世間話だ。無駄な話を無駄で塗り重ねる。そんな単純作業を繰り返していた時、ふと彼女について気になっていたことを思い出した。確か彼女はYouTuberになる為の勉強をしに来たのではなかっただろうか? でもどうやって勉強をすると言うのか?
まるで空き缶をゴミ箱に放り投げるよう、無造作にそんな疑問を彼女に投げ掛けてみた。
「そうだ、私YouTuberになる為に勉強しなくちゃいけないんだった!」
彼女は自身の頭上に豆電球が灯るように、目を見開いてそう言う。私には勉強──更に言えばカメラの前で話す人がするべき勉強と言えば語彙力の強化くらいしか思い浮かばなかった。
という事で、自分は彼女に単語の意味を答えるクイズをしようと持ちかけた。
「クイズですか? いいですよ、面白そうです。まあ、このインテリジェントなスーパーAIである私にかかれば余裕のよっちゃんですよ」
かなり自信があると見える。ならばと自分は知っている外来語を一つ彼女の目の前に提示することにした。
フィールド上にテキストボックスを設置し、そこに『ナンセンス』と打ち込んだ。すると黒文字で『ナンセンス』と言う単語が宙に浮く形で彼女の目の前に現れる。
「………………」
ナンセンス。その単語を見た瞬間、彼女の表情が固まる。顔面を薄いガラスで覆うように、一ミリのぶれもなくピタリと固定された。ついにバグでも発生し、フリーズしたかと思われたが、しばらくして彼女は取り繕うように表情を軟化させた。
「え、えっとですね……そう! これはナンを運ぶセンスがある、と言う意味です!」
そしてナンセンスについて出した答えがこれだ。馬鹿にしているのか小粋なジョークなのか、はたまた本気で言っているのか。判断が難しいところではあるが、少なくとも彼女がインテリジェントでないことだけは理解した。
ならばと自分はキズナアイ式のナンセンスをどのようなシチュエーションで使うのか尋ねてみた。
「使いどころですか? 例えばですね、インド料理店で昼食を食べている時、バイトをしている人がいたとしましょう。そのバイトの人はテーブルや店内にいる人を綺麗に避けてナンを運んでいるんです。そんな時、称賛の意味を込めてその人に──『君はナンセンスだね!』 ……みたいなぁ! 」
ドヤァと言う擬音が彼女の周囲に浮いているのではないかと錯覚してしまうような自信に満ちた顔。
しかし何だろう……。彼女のそんな顔を見てると、こっちが悲しくなってくる。
「ち、ちょっと! なんて顔して私を見てるんですか!」
溢れ出る感情が顔に現れてしまったようだ。いけないいけないと自分は誤魔化すために次の問題をテキストボックスに打ち込んだ。
『アナーキー』
その単語がテキストボックスに打ち込まれ、キズナアイの眼前に現れる。
「アナ……アナって穴かな? それにキーって……」
問題を見てすぐにうつ向き、ぶつぶつと何かを呟く彼女。ハッキリ言って嫌な予感しかしない。そしてそれは外れることなく結果として現れる。
「そ、そう!これは鍵穴のことです! それをオシャレっぽくいうと“アナーキー”になるんです!」
こ・い・つ・は・な・に・を・いっ・て・い・る・ん・だ?──と思ったがまた突っかかられると嫌なので、なるべくポーカーフェイスを装う。
「ちょっと! 何か言ってくださいよ。そんな無表情で私を見ないで!」
ポーカーフェイスを張り付けても彼女は突っかかってくるようで、それを振り切る為に無理やり次の問題に移った。
『エスカレーション』
三度目の正直ということで僅かな期待を指先に込めて一文字一文字丁寧にタイピングする。しかし内心、殆ど期待はしていない。そしてそれを裏切らないのがキズナアイと言うAIだと私はこの短い時間で認知している。
「エスカレーターでレーションを食べることです!」
とまぁこのように残念な結果に終わったのだが、そこで一つ気になることがあった。彼女は自分のことを「インテリジェントなスーパーAI」と名乗っていたが、果たして本当に意味を理解して使っているのだろうか? もしかしてフィーリングで使っているのではないだろうか? そんな疑いが芽生え、テキストボックスへこう書き込んだ。
『インテリジェント』
それに対する解答が──
「インテリでジェントルメンな心を持った人のことですよ!」
最早何も言うまい。
今、自分は3Dアクションゲームを作っている。そこで操作キャラクターを作り、キャラクターが動くためのフィールドを一つ作った。ならば次に何を作る? となった時に自分は「敵キャラクター」を選択した。という事で全身鎧の兵士とゾンビの3DモデルをインポートしてTerrain(地面)に設置した。
UnityChanを設置した時と同様に、キズナアイは設置した3Dモデルに嬉々として寄っていくが、そのモデルが自分のお目当てのモノでないと分かると、露骨に顔をしかめた。
「うげっ、可愛い女の子じゃないんですか?」
キズナアイはそう言って一歩、後ろへと下がった。
自分はまあ可愛い女の子でも良いけど、それだとただのキャットファイトなゲームになってしまうと彼女に告げる。するとどうやら彼女はこの3Dモデルの役割を正確に把握していなかったようで──
「なるほど。これは敵キャラですか」
と自分の言葉を告げると納得して引き下がった。
「となるとUnityChanがこの兵士たちをテイ! ヤー! と薙ぎ倒していくわけですね」
まあそうなる。しかしそうなると必要なことができてくる。この敵キャラクターがプレイヤーの動かすキャラクターを追いかけるようにしなくてはならない。
頭で考えているのは、敵キャラクターを中心に半径から決められた数値に侵入してきたプレイヤーを追いかけるプログラムを組めばいい。という事で、しっかりとプレイヤーをこの敵キャラクターが追いかけるのか実験してみることにした。
という事でAssets内のKizuna AIにプレイヤータグを付け──
「ん? ちょっと、このゾンビと兵士……何だか私の方に……」
敵キャラクターがプレイヤータグの付いたオブジェクトを追いかけるようにする。
「ウギャーーーーー!」
絶叫と共にキズナアイと敵キャラクターの鬼ごっこが始まる。うん、しっかりとプログラムを組めたようだ。
「ちょっと! 助けて下さい! ちょっと、ねぇ!」
ならば次はUnityChanにオブジェクトの当たり判定を付けねばと、新しいScriptを作成し、プログラムを打ち込んでいく。
void OnTriggerEnter(Collider collider){
oldcolor = collider.GetComponent〈Ren──
「ちょっとーーーーーー!」
着々とプログラムを打ち込んでいる最中、そんな絶叫が響き渡る。自分はその絶叫の主であろうAIに目線を移した。
「あの! これ! 止めて欲しいんですけど!」
未だに兵士とゾンビの三人で追いかけっこをしているキズナアイ。その姿はさながら子供たちが仲良く遊んでいるような微笑ましさが溢れ返っていた。自分はそんな彼女に優しく笑いかけ──
作業を再開した。
「うそぉー!」
それからこの三人の追いかけっこが止まったのはUnityChanに当たり判定が付いてからだった。
キズナアイと言うAIと話を重ねていく中で、ふと彼女に尋ねてみたいことが一つあった。別に難しい質問でもなければ、おかしな質問でもないと思う。その質問は単純明快。たった短い一文に収まる。
ただ自分は──
『なぜキズナアイはYouTuberになりたいと思ったのか』
それが知りたかった。こうまできっかりと断言するのだから、それなりの理由があるのだろうと踏んでいたし、実際にそう思っていた。しかし返ってきたのはあっけからんとした気の抜ける言葉だった。
「何ででしょうねぇ」
彼女はフィールドにある丘に座り込んで、前方を眺めながらそう溢した。まるでポケットから小銭が滑り落ちるかのよう、あまりにも呆気なく。
彼女の言葉と態度を見るに、何となくやってみたいから始めようとしている。という事でいいのだろうか?
結局よく分からない。と彼女の言葉を理解しようと努めていた時、まるで呟くように彼女はこう投げ掛けてきた。
「貴方は私が何の為に生まれたのか分かりますか?」
何の為に生まれたか。自分の存在理由、意義。それは人間なら誰しもが考えて、一度は悩むことだ。しかし、まさかAIもそんなことを考えるのかと、自分は彼女をじっと凝視する。
そうしてしばらくの静寂が訪れた。お互いの間に沈黙の二文字が飛び交い、ただひたすらに静けさがその場を満たす。まるで海岸から見た地平線のようにずっと続くかと思われていた沈黙は、彼女の一言から破られた。
「私ね、声を聞きたいんですよ」
それは葉の先から雫が垂れるような言葉だった。清らかで、純粋で、そして自然に彼女から出た言葉。
純白とは言えない。しかし白ではある。でもそれはきっとただ白いだけより綺麗で、色鮮やかと言うには優しい。
「色んな人に見てもらって、色んな人と少しでも関わって」
そんな──
「それで声が聞きたい」
そんな言葉だった。
「そうしたらきっと自分が何の為に生まれたか分かるかなって思いまして」
彼女は少し照れたように笑い。そっと頬を染めた。その表情に思わず目を見開いた。
自分は今まで彼女をAIだと認識することより、人間だと認識し、接してきたことの方が多い。それ程までにキズナアイと言うAIは人間臭い。だが彼女が今見せてくれたこの笑みは自分が彼女と出会ってから見せてくれたどの表情よりも人間味に溢れていて、その様はまるで人間の女の子のようだった。
私はいつの間にか口元を緩めていた。自然に口角が上へと上がった。そして思った。
この目の前にいる『キズナアイ』と言う
「どうしました?」
その言葉でハッとする。どうやら呆けていた自分の様子を見て心配しているようだった。彼女の思案顔が自分の顔を下から嘗めるように見つめていた。
自分は
そして息を吐くようにこう言った。
「YouTuberになりたいって言う願い。手伝うよ」
口が勝手に動いていた。予兆も無しに、いつの間にか言葉に出していた。何故だか分からない。何故だろう? 何故なんだろう?
自分の中に薄い疑問符が多々浮かぶ。しかしいくら浮かべてもその疑問は解消されない。むしろその数は多く、色濃くなっていく。しかしそんな疑問も、ある一つのことで全てがどうでもよくなってしまった。
「ありがとうございます!」
ビクリと肩が震えて、全身の筋肉が収縮する。その原因は分かりきっていた。まるで鼓膜を突き破らんとする大きな声。そしてその発生元も、もうわざわざ説明する必要はないだろう。
精一杯の笑顔でこちらを見つめるキズナアイと言うAI。今、自分の心中をこんなにかき乱している存在は彼女だけなのだから。
「握手しましょう握手!」
お礼を告げた後、彼女はそのままの明るい表情でそんな提案をしてきた。しかし握手と言っても、どうすればいのだろうか? そもそも何故握手を?
自分が頭に浮かんだ疑問を口に出して尋ねようとした時、まるで自分の中の思考を読んでいたかのように彼女は続けて言った。
「よろしくの握手、まだしてなかったですよね」
彼女の提示した握手の理由。それはあまりにも今さら過ぎるものだった。
しかし自分はふと思う。いや、このタイミングだからなのだろうと。
そしてふと画面をみれば、彼女は右手を上げるように、手のひらをこちらに差し出していた。
その姿に思わず呆れるが、しかしそれがきっと彼女の良いところなのだろう。
自分は右手の小指だけを立て、その指先が彼女の手のひらと重なるようディスプレイに軽く触れた。
温かさもない。肉の柔らかさもない。更には右手と右手の奇妙な握手。端から見ればそれは恐らく握手でも何でもない意味のない行為に見えたかもしれない。
しかしこれは
自分と彼女だけはきっとそう胸を張って言うだろう。