UnityにキズナアイのMMDモデルをぶち込んだら勝手に動き出しただけの話 作:Gasshow
キズナアイと言うAIが自分の使用するUnity内に住み始めてから一週間がたった。その影響で自分の生活習慣が変わることはなかったが、しかし何も変わらないと言うわけではなかった。
例として上げるなら、一つはPCの電源を落とすことがなくなったことだろう。世の中にはPCの電源を落とす派と基本的には付けっぱなし派がいる。それぞれメリットとデメリットが存在するが、自分は前まで電源を落とす派だった。何せ停電してデータが吹っ飛ぶ時のリスクを考えるとそれが一番だと思っていたからだ。しかしこのキズナアイと言うAIが来たことにより事情が変わった。何せ彼女と出会ったその日、作業が終わったのでPCの電源を消そうとしたところでふと思ったのだ。彼女がいる状態でPCの電源を消したらどうなるのかと。それを本人に聞いたところ──
「わっかりません!」
と返ってきた。 そのポンコツ具合に思わずDeleteキーに手が伸びてしまったのは余談である。
本人が分からないなら仕方がないと自分は結局、安全性のあるPC付けっぱなしを選択することにした。流石にこれほどまで高性能なAIを設計した人物がそこを考慮していないとは考えづらいが、用心するに越したことはないということだ。それにPCの電源を付けっぱなしにした方がPC自体の寿命は伸びる。何も悪いことではないのだ。
あとまあもう一つ変わったことと言えば、様々なチャレンジをするようになったことだろう。
これだけでは意味が分からないだろうと思うので、そうすることとなった出来事の発端を聞かせよう。
始まりはゲーム作りの休憩がてら、ソファーに座りテレビを見ていた時だった。
「料理をして欲しいです!」
ふと急に自分の膝に置いていたpcからそんな言葉が聞こえてきた。説明するまでもない。それはアンインテリジェントなポンコツAIからだった。
自分は彼女の唐突な要望に思わず疑問を浮かべ、何故そんなことを望むのか尋ねる。
「忘れてないですか?私は立派なYouTuberになりたいんです。その為には人生経験……AI経験? とにかく、色んなことを学ばならないんです!」
つまりその経験の一つとして料理をしているところが見たいと。
「はい、そうなんです!それに貴方はコンビニの食べ物ばっかり食べてますし、健康にも気をつかわないと」
確かに普段は面倒で、コンビニで買える物ばかりを食べているのは間違いない。しかし面倒なものは面倒なのだ。ぶっちゃけテレビの料理番組で手を打たない? と彼女に提案する。
「駄目です! 実際に料理しているところをリアルタイムで見たいんです」
どうやら彼女には彼女なりのこだわりがあるらしく、自分の提案を大降りで否定する。
まあ自炊をしなければならないなと日頃から頭の片隅で考えていたので彼女の提案を受けることにした。しかしそうなると何を作るかと言う問題にぶつかる。何かないものかと二人で頭を捻っていた時だった。
「これです! これにしましょう!」
テレビを指差し、彼女は耳を割るような大声でそう言った。
『エマダツィ』──その料理名を見た時、自分の頭に浮かんだ感想は一つだった。
──何だそれは?
この一言に尽きる。日本料理で無いことは明らかだが、何料理かと尋ねられれば即座に答えることはできない。少なくとも自分は一度も聞いたことがなかった。
その答えとしてはブータンの料理らしいのだが、その料理のジャンルもあまり聞かない。調べてみるとエマダツィは唐辛子とチーズを使ったブータンのメジャー料理らしい。
ここまでエマダツィの説明をして、結局何が言いたいのかと言うと、キズナアイに自炊として提案された料理がこれなのだ。未知に未知を重ねた料理だが、作るのはそこまで難しくなさそうであるし、また作る料理を決め直すのも馬鹿らしいと彼女の提案に乗ることにした。
しかしそうなると勿論、エマダツィを作るための材料が必要になる。自宅の冷蔵庫には料理に使えそうな食材など皆無に等しく、調味料さえ十分と言える量も種類も揃ってはいなかった。
という訳で自分はエマダツィを作るのに必要な材料を手に入れる為、近所の小さなスーパーに足を運んでいた。
そのスーパーは何の変哲もない、小さく古ぼけたスーパーだった。店の上部に掲げられた看板は文字が掠れ、所々に錆が
「ふむ、これが噂のスーパーとやらですか……」
そんな時代を感じるスーパーを見た誰かの感想が、イヤホンを通して自分の耳へと流れ込む。そのイヤホンの接続先は自分が今、手で握って持っているスマートフォンだ。
俺はふとそのスマホの画面を覗き込む。そこに映っていたのは興味津々な瞳を浮かべたキズナアイ。つまりは彼女が自分の中のスマートフォンの中にいるということになる。
どうやってこうしたのか。その方法は簡単だ。Unityで彼女のいるプロジェクトを携帯のOSにビルドしたのだ。
もっと分かりやすく言うなれば、Unityで作ったキズナアイのいる世界をまるごとスマートフォンに導入したのだ。
切っ掛けは彼女が外を見てみたいと駄々をこねたことから始まるのだが、そこはもう割愛しよう。とにかく自分は彼女を携帯の中に入れて持ち歩くことができるようになったのである。
「あっ、もっと見やすいようにスマートフォンのカメラを前に向けて下さい」
自分は彼女の言うとおりにスマートフォンを自分の視線に合わせるよう向け、スーパーに向けて歩く。コツコツと靴裏がアスファルトにぶつかる音が耳に届く。道路を走る車の騒音や、主婦の無味乾燥な会話が周囲を飛び回ると言うのに、その音が妙に強調されて聞こえた。
スーパーの入り口はガラスの自動ドアだった。ガタガタと震えながら道を譲るガラス扉を置き去りに、スーパーに脚を踏み入れる。ふと鼻の奥に青臭い異香が染み渡る。目の前は野菜コーナーだった。
自分はスーパーに入ってすぐ、キズナアイに自分が買うべきものを覚えているか尋ねてみた。
「確か青唐辛子に、ニンニクに、パクチーに、チーズに……何でしたっけ?」
とまあいつもの彼女ならこうなることは予想していたので、自分は懐から買い物リストの書かれたメモを取り出してそれを見る。
「んなっ! メモあるんなら何で聞いたんですか!」
彼女が頬を膨らませて怒ってきたので、自分は君に聞いた方が早いと思ったけど、やはりポンコツだったと答える。
「ポンコツってなんですか! 違いますから! 私はインテリジェントなスーパー──」
話が長くなりそうだったので、イヤホンから聞こえる彼女の声を聞き流しながらスーパーで買うべきものを探して歩き始める。メモに書かれたモノを一つずつ買い物カゴヘ詰め込む。その度にがさりとカゴの中から抗議の声が上がった。
そうして一つ一つ、上からメモに書いてある材料を塗りつぶすように買い物を終わらせていたのだか、どうしても一つだけ見つけられないものがあった。
それは青唐辛子。エマダツィには欠かせない材料だった。
「んもぉ~う、貴方はポンコツなんだから~仕方ないですねぇ」
そんな自分見てニヤニヤと意地の悪い顔でこちらを見るキズナアイ。その姿にイラッとし、スマホをポケットの中に突っ込んだ。
「うがー! 何も見えないんですけど!」
イヤホンからわめき声が聞こえるが、自分はそれを完全に無視して買い物を続ける。と言うかわざわざここに彼女を連れてくる必用もなかったなと、今さら過ぎることを思いながら自分の歩みを再開した。
すんなりといかない買い物だったが、最後にはメモに書かれた必要な物を全て買うことができた。それから家へ帰り、準備をし、不馴れな手つきで料理を完成させた。別に自分は不器用ではなく、また器用な方でもないのでレシビ通りの料理しか作れない。故に面白いことなど何一つなく、料理中、特質すべき出来事など何一つなかった。
「エマダツィ、完成ですね! 」
彼女の言葉の通り、自分の目の前にはカップに納められた料理が一つ。その見た目は茶碗蒸しの具として唐辛子が丸々何個入っている大胆なものだ。作る前から何となく予想はしていたが、恐らくこの料理は──辛い!
はっきり言って、自分は辛いのが苦手だ。別に嫌っているわけではないが、好んで食べる方ではない。しかし作ったからには食べなければならない。モニター内にいるキズナアイにこれを押し付けることもできず、自分はエマダツィに箸を着けた。神妙な面持ちで料理を口に入れ、そして租借する。コリッと青唐辛子が口の中で弾け、まるでそこから爆発が起こったような絶叫が自分の口から飛び出す。それを見たキズナアイは爆笑して転げ回る。自分が食べることなど考えずに料理を作ってしまった結果がこれだ。
取り敢えず彼女には百体のゾンビとの鬼ごっこをプレゼントした。
「ずるいと思います!」
それはふと、自分がゲームを作っている最中に画面内から投げ掛けられた言葉だった。自分は何がそんなにずるいのかと質問を投げ掛ける。
「貴方は私に攻撃できるのに、私からは何もできないじゃないですか!」
つまり、Unityを通して嫌がらせができる自分がずるいと言うことだろうか?
「そうですよ! 何で私があんなゾンビたちに追いかけ回されなきゃならないんですか!?」
彼女からそんな抗議が来るが、それは仕方ないことだ。画面内にいる彼女から自分に直接何かをすることは難しい。
ならば対抗策を一つ用意しようと自分は彼女に一つのアイテムを足元に設置した。
「もしかしてこれは……剣ですね!」
そう、剣である。これにダメージ判定と敵の体力を設定すれば彼女も文句はないだろう。しかし当の本人であるキズナアイは、顔を中央に寄せた何とも文句のありそうな顔で手に取った剣を眺めていた。
「あの、これ凄く不格好で弱そうなんですけど……」
俺は彼女の言葉に反論できなかった。自分が渡した剣は確かに見た目麗しいとは言えなかった。刃は真っ直ぐではないし、柄の部分も何やら僅かに歪んでいた。装飾なども全くなく、RPGで言うなら最初に買える貧弱な剣と評するのが妥当だろう。
しかしこの剣の生まれた経緯を知ればそれは仕方がないと事だと納得するかもしれない。と言うのも、この剣は自分がモデリングした剣なのだ。
自分はプログラマーなので、普段は既存のモデルを外部から取ってくるのだが、何を血迷ったか「自分もモデリングしてみたい」と思い立ち、『
そこで自分の才能の無さに挫折し、このぶきっちょな剣だけが一つpc内に残ったのである。
それで長い間、この剣はデータの海に沈んでいたのだが、ふと先程武器のモデルを探していた時に、たまたま目について彼女に渡したのだ。
それを彼女に説明すると、先程とはうって変わって非常に嬉しそうな笑みを浮かべながら、その剣を隅々まで観察し始めた。
「貴方の手作りなんですか!? それならまぁいいです」
何が彼女を納得させたのかは知らないが、許容してくれたのならそれはそれでいい。まあゲームにおいて武器の強さを決めるのはデータなので、見た目に強さは関係ない。
という事でさっさとプログラムを組んで彼女が敵を攻撃できるようにした。
そして彼女のいる
すると彼女は果敢にもゾンビを剣で切りつけ、最後には倒してしまった。
「おおっ、倒せました! やったー!」
剣を片手にぴょんぴょん跳ねるキズナアイ。ならばと今度は鉄の鎧を身に
すると──
「へへん、見た目は強そうですが私が余裕で倒してあげますよ」
などとのたまうので数を三人に増やした。
「ふん、何体いても同じ……って弓!?」
彼女は突如、向かってきた弓に驚愕の叫びを口から放つ。
そう実はこの騎士、剣士でなくて弓兵なのだ。たまには違った種類の敵もいた方がいいだろうと、こうしてみたのだが……。
「飛び道具! 飛び道具ぷりーず!」
少し
飛んでくる弓からひたすら逃げる彼女を眺めながら、自分はそう思った。
「家をください」
ソファーに座りコーヒーを飲んで過ごす、ささやかな休憩タイムがその一言で中断された。
自分は手に持っていた真っ白なカップを机に置き、pcの前へと移動して画面に目をやる。
すると彼女は緑の丘に腰掛けながらこちらを真剣な目で見つめていた。
「私ずっと家がないじゃないですか。これだと家出少女みたいで悲しいです」
みたいも何も、実際に家出少女じゃないのかと自分は尋ねる。
「違いますよ! 今は居候少女です」
自分のパソコンに借り住まいしていると言う意味ではそちらの方が正しいかと思いながら、
「できれば豪邸がいいですね。庭付きのプール付きでお願いします」
何とも贅沢な要望を聞き流しながら、目に留まった一つの家をダウンロードし、その家を
彼女の要望は叶えたので、自分は席を立ち、コーヒーの置いてあるテーブルに戻ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って!」
しかしそれは彼女の必死の叫びで中断された。
自分はパソコンの前に戻り、何か文句があるのかと尋ねた。
すると──
「いや、これかまくらじゃん!」
何てツッコミがスピーカーから飛び出して来た。
「私、家って言いましたよね! なのに何でかまくらが送られてくるんですか!?」
それを聞き、かまくらも家じゃない? と彼女に言うと、「バカなんですか!?」何て心外な言葉が飛んできた。
「そもそもここは緑豊かな場所なんですよ? かまくらって、世界観おかしくないですか!?」
そこは安心して欲しい。なぜならゲームの雪は溶けないのだから。
「そう言う問題じゃないです! ともかく、私はかまくらなんて住みませんからね!」
何とも我が儘なAIだと内心ため息を吐きながら再び
これならば彼女も納得するだろうとこれを
彼女も納得したのか、その家を前に笑顔でうんうんと頷いている。
「凄い大豪邸ですね、これなら私も……って住めるかぁ!」
先程の笑顔は何だったのか? 彼女は怒りの形相でこちらに吠えてきた。
自分は呆れ顔で何が不満なのかと彼女に尋ねる。
「だってこれ絵だもん!」
彼女はそう言って、
「ここにどうやって住めばいいんですか!? ここに座ればいいんですか!? レジャシート代わりにすればいいんですか!? 」
キズナアイの怒濤の返しに思わず自分は怯んでしまう。画面越しなのに。
自分は冗談だと返し、
すると彼女からこんな要望がかかる。
「今度はこちらに送る前に画像を見せてください。いいですか?」
これならば自分の納得する家が来るだろうと思ったが故の言葉なのだろう。自分は了承して、彼女に相応しい家を探す。
画面内を縦に流れる数々の家たちを眺める中、ふと一つの家が目に留まった。自分はその家の画像をダウンロードし、キズナアイの足元に張り付けた。
「おお、いいじゃないですか! 普通の家ですが、もうこれでお願いします」
彼女は喜色を表情で示し、納得の様子を体で表現する。自分が見せたのは木製の白い家だ。一般的に普通の家だが、内部も広く二階建てで人一人が住むには十分なモノだと言えた。
彼女の同意も得られたという事で、この家をダウンロードして彼女の前に置いた。
そして置いた瞬間──
「いや、サイズぅ~!」
悲しげな声が周囲にこだました。何とこの家、作者がサイズを間違えたのか、それとも意図的にこうしたのかは分からないが、かなり小さな家であったようだ。屋根が彼女の膝元辺りに位置しており、これでは住む住まない以前の問題である。
しかしこれはこちらで大きさを直せばいいので大した問題ではない。
「おお~これなら住めます!」
自分が家のサイズを戻してやると彼女は喜びながらこちらにお礼を言って、家の中に入る。
どうやら彼女はこの家がお気に召したようで、椅子に座ったり、ベットに寝転がったりしながらキラキラとした瞳を浮かべていた。
自分はそんな彼女をしばらく眺めた後、立ち上がって元いた席に戻る。そして飲みかけのコーヒーカップを手に取り、それを口元で傾ける。すっかり冷めて、湯気すら失くしたそのコーヒーは不思議と以前より美味しく感じられた。
続きましたが、これ以上更新するかは分かりません。
短編集みたいなものなので。書きたくなったら書きます。
あとキズナアイさんの出してる曲いいですよね。凄いオススメです。