紅いイレギュラーハンターを目指して   作:ハツガツオ

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前回までのあらすじ

レイ、闇魔法の講義を受講する。その後オーウェンと共に魔物の処理をして、アンの真の実力を目撃する。


第四話 一生懸命になるのはいいが、ある程度自制も必要である

 闇魔法によって召喚されたデュラハン達との戦闘から数日が経って訪れた休日。朝の鍛錬を終わらせたレイは、男子寮から遠く離れた場所に位置する第三演習場へと向かうべく、鬱蒼と茂っている木々の間を一人突き進んでいた。理由は言うまでもなくラーニング技の特訓である。

 一般的に休日とは何処かへ出かけたり身体を休めたりするものだが、彼の場合そうでははない。むしろ積極的に特訓が積める、絶好の機会として捉えている。

 普段も演習所に通ってはいるのだが、講義の関係で基礎能力を落とさない為のトレーニングしか出来なかったり、自分と同じく利用している生徒もいることから余り派手な技は使えない等の制約があるので、中々自由に行えない。

 しかし休みの日は生徒達も各々の時間を過ごしていたり、探求心を満たす為の実験などを行っていたりする場合が多いので、利用者は平日に比べて割と少ない。その為、週末は急ぎの用でも無い限りは練習に当てようと考えているのだ。

 

 と、ここまでなら普段と何ら変わりがないと言えたのだが……今日の彼は様子がおかしかった。別に彼の体調が優れていないとか、精神衛生上不備があるとかではない。却って

その辺の心配は無いと断言できる。

 では何がおかしいのか? それは……。

 

(頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって! やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めんな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る! ゼロだって頑張ってるんだから!! だからこそ……もっと、熱くなれよおおおおおおおおおおおお!!)

 

 燃えていた。心が物凄く燃えていた。具体的にはどこぞの熱血競技者の如く。それにも関わらず顔は相変わらずの仏頂面であるから、かなりシュールである。

 

 レイがこの様に燃えたぎっている原因としては、先日の魔物との戦闘の件である。地と空両方の魔物を処理出来ずに追い詰められ、結果で見るとアンが助けに入らなければ負けていたという事実は彼にとってかなり考えさせられるものだったのだ。

 確かに状況は不利だった。数も相当だったし空中の魔物による妨害もあった。デュラハンの頑丈さは目を見張るものがあったから、あのまま戦っていたとしてもそれなりに苦戦していた可能性も見受けられる。

 しかしだからといってそのまま流してしまうのは違う筈だ。あの時上手くいかなかったのなら、その経験を次に活かさなければならない。何もせずに二の舞を踏んだなど、それこそ何の意味も無いからだ。

 あとは彼女が使った魔法。高ランクの光魔法に英霊召喚、これらを目の前で見せられて何も感じない魔法使いがいるだろうか? ――いや、いない。現に自分がそうだ。あれだけのものを目にした以上、自分も負けてられないという思いがふつふつと湧き上がってきている。

 それらの事情からこうしてやる気に満ちあふれているのだ。

 

◇    ◇    ◇ 

 

 演習場に到着したレイは中のフィールドへと歩を進める。そして辺りを見回し、自分の他に人がいないことを確認すると、刀と一緒に背負っていたバッグを地面へ置いてから一冊のノートを取り出す。題名は『ゼロの技研究ノート』と、自分以外の者からは分かりにくい様に記されている。

 

「さて、あの技は何ページだったか……」

 

 彼がノートを開くと、そこには髪の長い人間らしき人物が一本の棒切れを持って様々なポーズを取っていた。各ポーズ一つ一つに体勢や腕の向きといった事細かな補足や説明文が、余白を埋め尽すとばかりにびっしりと付け足されている。彼の持つこのノート、これには彼の記憶に残っているゼロの技に関する情報の全てが詰まっているのだ。

 

 いくら前世の記憶を思い出したとはいえ、それのみを頼りに習得していくのは難しいと言える。記憶だけではなく、紙に起こすことで足がかりを得られる場合もあるからだ。

 それに記憶とは少なからず劣化していくもの。

 余程強く印象付いたものは除くとしても、時間の経過と共に薄れていってしまうのは避けられない。実際、滅多に使わない知識はかなりぼやけていたりする。

 普段の生活や何かしらで触れるのならばその限りではないが、コレに関しては話は別だ。日常ではまず使わないものであるし、触れようにもゲーム媒体や原作そのものが存在しない。

 

 これではゼロの技を習得する以前の問題だ。一種の危機感を抱いた彼は、記憶があやふやになる前にと幼少期より『ロックマンゼロとロックマンXの全て』『ゼロのラーニング技+α』『ゼロの武器ネタ』『前世の知識で役に立ちそうなものと覚えていても損はないであろう数々のネタ』等々を何冊かのノートに詳しく書き記しておいた。絵心がないという難点はあったものの、この行動が功を成して今に至るのである。

 

 レイがノートをパラパラと捲っていくと、目的のページへと辿り着く。そこには他と同じ様に長髪の人間が描かれていたものの、先ほどと違って棒らしきものは持っていなかった。

 変わりに自らの手を地面へ打ち付ける姿勢を取っており、すぐ右には地面が揺れていると思わしき様相や破片らしき物体が宙に浮いている場面が描かれていた。その下には『使った直後は動けない』『衝撃波も出るかも?』といった説明や使用する魔法、魔導書から得た知識や参考となりうるものも。

 絵からして刀や魔法弾を一切使わない、己が拳で成す技。その名前は――

 

「アースクラッシュ……これだ」

 

 地面を拳で殴りつけ、その衝撃で地面を断ち割って瓦礫を上空へと打ち上げる対空攻撃。これこそが彼が今日練習する技であり――先日の戦闘で放つのを躊躇っていた技でもある。

 正直な話、レイとしてはコレの習得はもう少し後にする予定だった。が、あの様な状況を経験してしまった以上はそうも言ってられない。魔法刀と魔法弾の『点』による攻撃方法しか持たない、『面』での攻撃方法を持ち合わせないという弱点。つまり『広範囲を攻撃出来るかつ空中の敵を打ち落とせる技』が今の自分には必要なのだと改めて悟ったからだ。

 

 弱点が分かっているのなら何故習得していないのだ、という疑問がここで生じるだろうが……勿論これには真っ当な理由が存在する。

 彼は学院に来るまでの七年間、鍛錬や勉学に時間をつぎ込んでいた。その合間にはラーニング技の練習もある程度挟んでいた。が、大体練習の場となっているのは自宅近くの原っぱや駐屯所の裏、もしくは近くのチョポタ山の一部の場所だ。

 アースクラッシュは地面を破砕する技。しかも威力や範囲がハッキリとしていない上に、瓦礫を撒き散らすという不安要素までついている。そんな技を故郷の地で練習した時には、地面はヒビ割れ村人は巻き込むこと必死。山なら土砂崩れを引き起こす可能性も有りうる。そんな状況を引き起こさない為にも練習は控えるしかなかった。精々が正拳突きぐらいである。

 

 なら、他の技は? と言いたいかもしれないがそれにも難がある。

 レイは現段階では友達である王女ほど高度な魔法は扱えない。彼の使う魔法刀には相当な魔力コントロールが求められるものの、使っているのは低ランクの風魔法。それ以上のものはまだ無理だ。加えて属性。彼は風属性を主に使用しているが、それ以外の属性の行使は不可能だ。

 それらの条件から絞っていき、最終的に何とかなるかもしれないと残ったのがこの技なのである。

 

 村では場所に困っていたが、学院なら演習場がある。しかも今日は休日、利用者も普段より少ない。さらに彼が今居る第一演習場は寮や教室棟、図書館から離れた所に位置している。

 その結果、平日でも人があまり居ないここは、現在ほぼ貸し切りに似た状態となっていた。正に練習にはうってつけの場所であると言えよう。

 

 ノートを左手に携えつつ、腰を落としながら右手を下にやる。それの動作を何回か繰り返す。

 姿勢や体勢がある程度把握出来たら、次は魔力を拳に集中させる動作へと移行した。

 全神経を研ぎ澄ませ、自身が持つ魔力を体内で一気に練り上げる。最大まで高まったところで、拳一点に送り込んで集中。少しの乱れも無いよう十分に気を配ることも忘れない。

 魔力を留めた拳が薄い光を帯びる。そして天へとゆっくりと掲げ、渾身の力で垂直に振り下ろす。

 

「――アースクラッシュ!!」

 

 拳が大地へと接触した瞬間、衝撃が走った。地面は揺れ、足下には拳の二回り程度の小さな円が刻まれ、周囲には亀裂が走る。

――それだけで終わった。演習場のみという局地的ではあったが、地盤は揺れた。地表にもヒビが入った。拳に目をやっても痛めていないのは分かる。動かしても問題無い。

 だが、他には何も起こっていなかった。割れた地面から瓦礫は飛んでいないし、衝撃波らしきものが発生した形跡も見当たらない。

 

「失敗か……」

 

 そう呟きつつ再び構えを取った。

 技が一発で成功するなど最初から思っていない。何度も何度も行うことで、少しずつ自身の身体へと定着させていく。繰り返しの回数がものを言うのだ。

 

 その後も幾度となく拳を地面へと打ち付けた。魔力を練り上げ、拳に一点集中、足下に振り下ろす。それを行う度に地面へ窪みとひび割れを作り出す。飽き足らずに何度も何度も繰り返す。

 回数を重ねていく内に威力の調整もある程度は分かってきた。徐々にではあるが、地面に作り出す穴や罅の大きさもでかくなってきた。

 けれども、大地へ与える影響は変化しなかった。生み出されるのは孔と割れ目のみ。破片が宙を舞う素振りや大気が波を打つ様子すらない。

 

 大した収穫も得られないまま時間はあっという間に過ぎ去ってしまい、魔力の回復を兼ねたしばしの休憩へと移る羽目になったのだった。

 

◇    ◇    ◇

 

(うーん……やっぱり、原理としてはあっちの方が正しいのかねぇ……)

 

 頭を唸りつつ、ノートと睨み合う。そのついでに購買で買ったおにぎりを頬張っている。

 彼が考えていたアースクラッシュの原理は二つ。

 

 まず一つ目は『魔力の集中で強化した拳を振り下ろし、その衝撃で大地を割って飛ばす』というもの。これは彼が先ほどまで行っていた方法だ。

 技の性質上、拳の威力がそのまま技の破壊力へ反映されることに加えて、振り下ろした勢いと地面からの反発を含めた分がそのまま腕へとダイレクトに返ってくる。その二つへの対抗策として魔力による特定部位の強化――『魔力の一点集中』を取り入れているのだ。

 これは強化魔法の応用であり、あちらが全身を対象とするのに対してこちらは特定の部位のみに限定している。対象箇所以外は恩恵を受けられないものの、その分身体機能の活性効果は何倍にも及ぶ。発動には微細な魔力コントロールが求められるという壁はあったが、魔法刀を得物としている彼からすれば其程苦労はしない。むしろ相性が良いと言えた。

 しかし結果としては芳しくなかった。地面にヒビを入れはしたものの、それ以上は見込めなかったのだ。

 

 二つ目としては『拳の全エネルギーを大地へと送り込み、衝撃波を発生させて地面諸共吹き飛ばす』といったもの。彼曰く『漫画版に近い原理』だとか。

 地面へと打ち付けた拳を基点に魔力を流し込み、エネルギーの爆発を地中で引き起こすことによって、地面を割りながら破片を撒き上げる。自分を中心に衝撃波を発生させることで、破片の無い自分の周辺もカバー可能と隙を無くせる。技自体の完成度から見ればこちらが上だろう。

 

(でも、こっちはなぁ……)

 

 思わず眉を顰めてしまう。二つ目の原理には難点があったからだ。使用者の耐久力という難点が。

 本来の使い手は機械から生み出された身体であった都合上、問題無く使うことが出来た。拳を地面に強く放ったとしても、生身以上の頑丈さを持つボディーなら跳ね返ってくる衝撃を容易く受け止めるだろう。

 だが、自身の身体はそうでない。鍛錬である程度鍛えられているとはいえ、地面にヒビを入れるほどの衝撃を生身の腕一本だけで耐えられるかと問われたら、答えはノーだ。何の対策も無しに実践すれば、間違いなく腕は使い物とならなくなるのが見えている。

 一つ目の様な魔力での強化も視野に入れたりしたが、それではダメだ。一点に留めているからこそ並以上の効果を発揮するのであり、地面に流し込んだ瞬間に魔力の均衡が崩れてしまう。効果が切れてしまえば、技の威力を諸に受けることとなる。

 

 要するに、一つ目の方は安全重視だが威力に難あり、二つ目は威力や完成度は高いが使用者に負担を強いる、と言ったところだ。

 使っても威力が不足しているのならば意味が無い。かと言って使う度に腕を壊していては、それこそ本末転倒だ。 

 それぞれのメリットとデメリットを見比べて解決策を導き出そうとしたものの、結局いい案は思い浮かばなかった。

 

「はぁ……」

 

 ため息を溢してノートを閉じる。そして片手に持っていたおにぎりの残りを口へと放り込んだ。考えても埒が明かないのであれば、今はせめて休憩に徹するとしよう。そう考えたのだ。

 二つ目を食すべくバッグの中に手を突っ込む。底の方に転がっていた二個目のおにぎりを掴み出し、外の包装を取り去った。茶色の包みの下から現れたのは、白い米粒の集合した三角形。一つ目を食べたから分かるが、塩加減と炊き具合が非常に程良い仕上がりとなっている。

 学院の購買マジでレベル高えわ。顔を僅かに綻ばせながら、二つ目に齧りついた。

 

「うっ……!?」 

 

 突然口内を襲った強烈な酸味に顔を顰める。急いで鞄から水筒を取り出し、口に流し込んで酸っぱさを和らげようと試みる。

 一口二口と飲み込んでから、ふうっと一息ついた。そうだった。他の味が無かったからウメボシ入りを買ったんだった。頭を搔いて内心ごちった。

 レイはここに来る前、購買に立ち寄っていた。そこで昼食を購入しようとしたのだが、休日は基本的に品物が幾分少ない。その為、買おうと決めていたおにぎりも塩とウメボシの二種だけ残っており、他は売り切れとなっていた。

 

(無かった代わりに買ったのをすっかり忘れてたわ……)

 

 自身の忘れっぽさに苦笑しつつも二個目を食べ進める――。直前で手を止めた。待てよ、無かったから()()()に……? 

 おにぎりをバッグの上に置き、閉じていたノートを開いた。

 

(一つ目の原理の方は威力が不足している……二つ目は使用者に危険が伴う……。二つ目の方に強化をやろうとしたけどダメ。一つ目の方に爆破を入れようとしても無理……)

 

――なら、その()()()になるものを拳の先に付与して殴りつけたら……?

 

 考えたついたことを実戦すべく、少し離れた場所に移動してアースクラッシュの構えを再び取る。

 精神を集中させ、自身の身体に宿る魔力を一瞬で練り上げる。限界まで膨れ上がったと同時に拳へと凝集させる。

 魔力の集まった拳が、先ほどと同じように淡い光を纏う。腕を頭上に振り上げ、()()()()()()()()()()()()()()。そして全力で真下に振り下ろす――――。

 

「アースクラッシュ!!」

 

 正拳が風を押しつぶした瞬間――大地が爆ぜた。地面は揺さぶられ、周囲には亀裂が刻み込まれ、突風と見紛う風の衝撃波が鼓膜を貫くような破裂音と共に大気へと放たれる。

 衝撃波は罅割れた地表を削りながら撒き上げ、上空へと打ち上げる。想像もつかない速度で飛ばされた破片達は急上昇。あっという間に最高点まで達し、雨あられの如く垂直に降り注いで地面と衝突する。

 突然発生した轟音に驚いた場外の鳥達が一斉に飛び去る中、彼はめり込んだ手をゆっくりと持ち上げて足下に目をやる。

 まるで火薬が爆発した有様。足回りの地面は円形状に丸ごと抉られており、技の使用前よりも些か位置が低くなっていた。

 周囲に目をやると、フィールドには降ってきた破片が突き刺さっていたり、ぶつかって粉々に砕かれたのであろう小さな欠片が散乱していた。地に走った罅の規模も、先ほどまで何度も行っていたものよりも遙かに大きい。

 一言で表すのなら、『その一カ所のみで災害が起こった』という言葉が相応しい。

 それらを確認した彼は口元をつり上げた。 

 

「よし……!!」 

 

 嬉しさから拳を握り込む。成功だ。本気でやったせいか、周りがえらいこっちゃなことになってるけど。

 彼が行ったのは『魔力の爆発の代用』である。

 休憩前までにやっていた一つ目の方法、そちらは使用者への反動がほぼ皆無だったがその分威力に乏しかった。二つ目においては強化効果の都合上、魔力の爆発を起こせなかった。

 そこで思いついたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。魔力強化とは別に行使することからバランスも崩れないし、一つ目の方法と組み合わせれば威力不足も補えるのでは? と。

 結果はご覧の通り、限りなく本家に近いであろう再現度となった。……まあ当の本人は、想像を遙かに超えた威力に若干引いている訳だが。発動に一手間加える必要があったとはいえこんなものをあの戦闘で成功させていれば、間違いなく二次被害の方が大きくなっていたのは確かだ。その事から背筋が少し寒くなった。

 

 しかし習得出来たのは素直に喜べるものだ。流石にはしゃぎ回ったりはしないものの、内心では小躍りしてる。

 風魔法の発動という行程が加わった分、加減の仕方を今一度覚えなければならないという課題が生まれはしたが、全然苦とはならない。むしろ技に関することなら楽しみながらやるだろう。

 さて、じゃあ早速取りかかるとするか。胸を高鳴らせながら拳を構えたのだが……。

 

 

 

(……やべえ。これどうすりゃいいんだ)

 

 前方にあった外壁は見事に瓦礫の山となっている。

 

 

 

 

 

「あらあら? 何かすっごい事になってるわね~☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に耳に飛び込んできた気の抜ける一声。魔力を込めて殴りかかろうとしていただけに勢い余ってズルッと転けそうになる。

 それをどうにか堪えて声の方向に目を向けると、そこに立っていたのは眼鏡を掛けた茶髪の女性で、光魔法の講師を務めているミランダだった。

 

「……何故ミランダ先生がここに?」

「え? あら~、レイ君じゃない☆もしかしてここはずっと君が一人で使っていたのかしら?」

「そうですが……」

「もう~ダメよ、こんな事しちゃ☆他の生徒がびっくりしちゃってるんだから☆」

「は、はぁ……ん?」

 

 この人の話し方はどうも調子が狂うな……。何とも言えない気持ちで内心呟く。生徒達の間では、少々天然でフレンドリーかつお茶目な教師として好かれているらしいのだが、レイとしてはこの独特な話し方に未だ慣れていない。

 しかし、他の生徒がびっくり……? 一体何の事を言っているのだろうか。さっぱり分からないレイは、逆に聞き返す。するとミランダが説明し始めた。

 

「この近くで薬草を採取していた他の生徒が連絡してきたのよ~、演習場からおっきな音が聞こえてくるって☆しかもしかも、その他の生徒からは遠目で見ても揺れてるって言ってきたし☆魔物の仕業かと思って急いでこっちに来てみたら、パンって音の後に空から岩が降ってたし、中に入ってみたら地面はこんなことになってるしで~もう、ミラちゃん先生驚いちゃった☆」

 

……語尾のせいで微妙に内容が分かりづらい。

 つまりはこうか。この付近に薬草を採りに来た生徒がいたのだが、演習場から響いてくる大きな音を耳にしたので職員室か何処かにいたミランダ先生に連絡した。そこへさらに遠くから演習場が揺れているのが見えたという他の生徒からの報告もあったために、魔物の暴走を疑った。それで先生が向かったところ、何かが破裂する様な音が聞こえた後に空中から岩が降ってきた、しかも中に突入すれば地面がこんな有様になっていたので驚いた、と。 

 そういうことですか? レイが確認の意味を込めて返答すると、ミランダは頷いた。

 

「そうよ☆……もしかして気づいてなかったのかしら?」

「はい……」

 

 しまった。思わず額を押さえてしまう。

 失敗とはいえ演習場は地面ごと揺らしているし発生する音の大きさも相当なもの。習得に躍起になっていた自分は気にも留めていなかったが、それ故に場外への影響を失念していた。これでは何の事情も知らない生徒や教師からは魔物が暴れているなどと間違われても仕方がない話だ。

 ラーニング技のことで頭が一杯になっていたからな……。せめてやる前に教員へと通達しておくべきだったか。そう思ったものの、時既に遅しというものである。

 

「元気があるのはいいことだけど、やりすぎはダ・メ・よ☆」

「……はい」

 

 素直に頷くしかなかった。

 

 結局この後、レイはミランダからの多少の説教と演習場の地面を手作業で元通りに直す

罰を食らってしまう。身から出た錆びとはいえ作業に時間がかかってしまい、練習時間が消えたレイは項垂れながら寮へと戻ることとなった。

 ちなみに今回の件で、未習得のラーニング技の練習をする際には教師に必ず

連絡するという暗黙のルールが彼の中で生まれたそうな。

 

 

オマケ

 

「見事に地面が凸凹だけど、一体どんな魔法を使ったのかしら?」

「……拳と風魔法です」

「……え?」

「拳と風魔法です。後は魔力による腕力強化を」 

「そ、そうなんだ~☆(やだ、この子魔法(物理)を使うのね~……)」

(何か失礼な事を思われている気がする)




レイは あたらしく アースクラッシュを おぼえた!


3/8 一部不足している部分があったので補足しました。
6/8 岩本版ロックマンX2を確認した際、アースクラッシュの描写が間違っていたので修正しました。

登場人物や技、ネタの解説

・レイのノート

作中の説明通り、ゼロの技が事細かく書かれたノート。他にも『ロックマンXについて』等何冊もバリエーションがある。他人に見られてはマズいものの為保管の際には、五重の木箱に入れた後に魔法による隠蔽を施すなどの対策を講じている。


・ミランダ

マナリア魔法学院にて光魔法(神バハでは聖魔法)を専門に教えている女性教師。少し抜けているところがあるも、生徒達からは慕われている。話し言葉に『ね☆』や『よん☆』、『だぞ☆』といった独特な語尾のついた話し方をする。元OBであり、学生時代は色々やらかしたらしいとのこと。
また、コスプレ好きであり自分で様々な服を作ったりしている。アニメ版では自分の服屋を持っていた(ただしグレアに「うちの学校って副業オッケーだっけ」と突っ込まれた際、目を泳がしていたことから許可云々は取っていないと思われる)。


・漫画版ロックマンX

通称『岩本版』。原作ゲームの『ロックマンX』を漫画家である岩本佳浩氏がコミカライズした作品。掲載誌は『コミックボンボン』。
原作とは設定が異なる部分があり、主人公エックスは「唯一涙を流す事ができるレプリロイド」、三角蹴りは特A級を超える証であるなどの相違点がある。加えて漫画本編の方も、レプリロイドとは思えない喜怒哀楽の変化や性格描写や、戦いの意味についての苦悩や葛藤と、とても子供向けとは思えないシリアスな世界観で描かれていて引き込まれること間違い無し。ファンは必見の作品である。
一方でネタやギャグも挟まれており、特にヴァジュリーラの『メぇぇぇ~~~リぃぃぃぃクリっスマぁぁぁ―――スぅ!!』は有名。作者の岩本氏からもネタにされている。
ちなみに作者である岩本氏はアクションゲームが苦手であったらしく、作品の執筆には
上手な人のプレイを収録したビデオを参考にクリアしていたとのこと。


・アースクラッシュ

『ロックマンX2』のラスボス前に登場するゼロが使用。
その場で地面を殴りつけ、ゼロの左右に破片を三つずつ打ち上げる。ダメージは大きくないものの飛距離が長いので、壁に捕まっていたり空中にジャンプしていたりすると落とされる。そして食らって生じた隙を狙われて次の攻撃が……何ていうコンボ紛いのことも。

一見すると回避不可能に思えるが、実はゼロの真上は瓦礫が飛ばないかつ攻撃判定が存在しないので、わざと真上に移動して誘発→瓦礫の間をくぐり抜けてエアダッシュといった方法で回避可能。それ以外にも早めに壁ジャンプしてからエアダッシュすることで、アースクラッシュが出るよりも先に移動して避けられる。また、回避してしまえば硬直の影響から隙だらけなので、攻撃チャンスでもある。後の作品ではこれを派生させたと思われる"滅閃光""裂光覇""爆炎陣"等が登場。
ちなみに『ロックマンX』をPSP作品にリメイクした『イレギュラーハンターX』では、VAVAルートの敵ゼロが特定の条件下でのみコレの元となったであろう『アースゲイザー』なる技を使用する。

真偽は定かではないが、この技の名称は岩本氏がつけたかもしれないとのこと(かもしれないなので、鵜呑みにはしないこと)。
『岩本版ロックマンX2』ではゼロが使用、空中をダッシュで移動したエックスを撃ち落とした。ゲーム版とは異なり、エネルギーを拳から流し込んで、衝撃波を走らせる技となっている。作中ではこれを直接エックスにぶつけ、『大地を切り裂く「龍」がかけまわる感じはどうだ?』と言い放った。後にコレを無理矢理放ったせいで、バスターが使用不可となってしまう。
余談だがゲーム版と岩本版共に演出がかなり凝っており、ゲーム版では地面がボロボロになって背景のコンピュータが爆発、漫画版ではゼロを中心に衝撃波が発生して地面をも引き裂いた。

『ロックマンゼロシリーズ』では我らがメシアも使用……してほしかったのだが、残念ながらそれは叶わなかった。まあ、セイバーによるチャージ攻撃がそれを兼ねているらしいから仕方無いと言えば仕方無いが。
『ロックマンZX』においては隠し要素であるモデルOXにて、何と主人公が使用可能に。威力は控えめ、硬直もありと元ネタを踏襲したこの完成度にはファンもニッコリである。……そこ、弱いから実戦では使えないとか言わない。
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