紅いイレギュラーハンターを目指して   作:ハツガツオ

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前回までのあらすじ

レイ、アースクラッシュを習得するも罰則を食らう。


第五話 風紀委員(イレギュラーハンター)レイ

 生徒会選挙が終わって新しい会長が就任した。

 当選した生徒の名はハンナ、レイ達が注目していたあの期待の一年生である。魔物が出現するというハプニングの中、迅速に避難を促した事や最適に近い行動を取った事が他の生徒からの支持を集める決め手となったらしい。見事に座を勝ち取った彼女は生徒の皆がより良い学生生活を送れるよう、精一杯頑張ろうと意気込んでいた。

 

 さて、その新生徒会長だが彼女は現在、活動場所である生徒会室にて不安と期待が入り混ざった表情と共に少し厚みのあるの書類を手に持っていた。それにはこれから行う話し合いに必要な事項が記載されている。

 

 彼はこの話を承諾してくれるのでしょうか……。

 内心で考えつつ来客用の椅子についている男子生徒、レイを一瞥する。テーブルには書記であるポピーが淹れた紅茶が目の前に差し出されているものの、彼がそれに口をつけた様子は見られない。ただ座りながら手を組んで、目を伏せているだけだった。

 そわそわする訳でもなく、只管に沈黙を示す態度を貫いている。彼の性格もある程度耳にしていたし、知り合いになった王女曰く悪い人ではないと言ってはいたものの、こうもどっしりと構えられては、逆にこちらが落ち着かなくなるというものだ。

 だが、あの一件の中で彼の正義感と勇敢さを目の当たりにしたのもまた事実。いくら目の前で他の生徒が襲われそうになっていたとはいえ、それを助けようと真っ先に魔物の群れへと突貫するのは早々出来ることではない。その上、助けた後も退くことなく護衛騎士や王女と共に魔物達と応戦し続けていたと聞く。

 普段の静かさとは正反対にも思える勇猛さ。それに目を付けたからこそ、今回彼との話し合いの場を設けたのだ。

 

(……そうですわね。話してみなければ分からないことだってありますもの)

 

 彼が内にそれらを秘めているのと同じように。

 

 

 対して、椅子に腰掛けているレイはというと……。

 

(ねえ、俺何で呼び出されたの? 何で呼び出されたの、ねえ)

 

 滅茶苦茶戦々恐々していた。

 

 

 

 

 

 ミランダ先生曰く「ちょーっと力が有り余った子だけど人格面に問題は無いわよ☆」

 

 

(ねえ、俺退学じゃないよね? 本っ当に大丈夫ですよね?)

 

 内心戦々恐々としていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇    ◇    ◇

 

――時刻は遡ること二十分程前。『魔術基礎理論』の授業を受け終わったレイは、前回与えられた課題を提出しようと教壇の方へ席を立っていた。

 今日はこれで終わりだ。他の講義から課題は何も出されてないし、図書館にでも行こうかな。放課後の予定を考えながらノートを教卓に置いて立ち去ろうとした時、担当講師である初老の男性教授であるジルが思い出したかのように伝えてきた。

 

「ああ、そうだレイ君。先ほどハンナ君が君を探していましたよ」

「生徒会長が……?」

「ええ。会長として重要な話があると言っていました」

 

 それを聞いた瞬間、レイは思わず眉を顰めた。これは俗に言う生徒会からの呼び出しというやつでは? と。 

 生徒会からの呼び出しで想定することと言えば、委員会の活動関係か素行不良など日常生活に関することの二つ。学生として心配するのなら特に後者が真っ先に思い浮かぶ。

 しかし自分はそのどちらにも該当しないというのに、会長から直々に招集されようとしている。胸中で戸惑いながらも確認の為にジルへと聞き返した。

 

「……人違いという可能性は」

「いえ、それはありませんよ。彼女はハッキリと君の名を口にしていました」

「何の要件で?」

「詳しい話は何とも。私も詳細を聞いている訳でもないので」

 

 ともかく生徒会室へ向かってみてはどうでしょうか。ジルの言葉にそうしますと頷いたレイは、お礼を述べてから自分の席へと戻って帰り支度を始めた。

 生徒会長が俺なんぞに一体何の用だっていうんだ。ため息を吐きながら学生鞄に教科書類を詰め込む。疑問は相変わらずだが、とりあえず教授の言う通り生徒会室に直接行ってみれば分かることだろう。別にやましい事は特に…………無いはずだ。

 作業の最中、ジルとのやり取りを見ていたアンとオーウェンがこちらにやって来た。

 

「どうしたの? そんな怪訝そうな顔をして」

「何かあったのですか?」

「……生徒会長が俺を探しているらしい」

「ハンナちゃんが……?」

「ああ。何か重要な話がある、とな」

 

 言われた事をそのまま二人に伝えると両者は一様に首を傾げた。当然の反応だろう。何せ当人の自分ですら分かってないのだから。アンの方はあの一件でハンナと親しくなったらしいが、この反応を見る限りは恐らく彼女も知らない様だ。そう思った。

 

「一体何の話なんだろう……」

「分からん。特に心当たりになるようなものは……」

 

 そこまで口にしたところで言葉を切った。そこで思い出すのは数日前にやった事。もしやあの件では……? 

 レイが突然口をつぐみ、何かを考え込み始めたのを疑問に思ったアンは彼へと問いかける。

 

「何か思い当たる事でもあったの?」

 

 彼女の問いかけに対して彼は何も返さない。こちらに何かを言うわけでもなく、相も変わらずその場で考えを巡らせているままだ。 

 

(でも、あの件が原因だったらもっと早くに呼び出すと思うんだけどなぁ……)

「あの、本当にどうされたのですか? 悩み事なら相談に乗りますが――」

「……まあいい。いずれにしても行けばハッキリする」

「え?」

「俺は今から生徒会室に向かう。じゃあな」

「あ、ちょっと――!」 

 

 そう二人に言い残し、机の横に掛けていた刀と鞄を担いでさっさと教室から出て行った。

 二人はレイの様子が気になったために質問したのだが、肝心の相手は答える事も無くいなくなってしまった。二人の胸の内にはモヤモヤが漂っているばかりである。

 

「……一体何だったんだろう」

「さあ……」

 

 二人は疑問に思うばかりだった。

 

――なお、レイが言うあの件とは数日前に第三演習場で一人やらかした件である。アンは当日図書館に籠もりっきり、オーウェンもその付添だったので演習場での局地的地震について一切耳にしていなかった。

 その為、この件の真相を知っているのは当事者であるレイとミランダのみ……だったのだが、レイの様子を怪しく思った二人が調べようとしたところ、ミランダがうっかりと彼女達に口を滑らかしてしまった。それを聞いた二人は色々な意味で驚いたそうな。

 

◇    ◇    ◇

 

 それから生徒会室へと直接訪ねた結果、今のこの状況へと至るのだった。

 

 うーわ、本当にマジで何の用なんだよ。正直、アースクラッシュぶっ放した件しか心当たりねえんだけど。目を伏せながら内心動揺しまくる。正直な話早く帰りたい。それだけ不安に感じていた。

 

 普段授業を真面目に出席していないとか課題をサボっていたりするのならばいざ知らず、そうでもない身からすれば逆に気がかりとなってくる。本来なら胸を張れる要素――と言っても当たり前と言えば当たり前のことなのだが――がここでは反対の要因となってレイの心へ襲ってきているのだった。

 素行不良でもないのにいきなりの呼び出し。しかも生徒会長の立場として大切な内容ときた。これで何も疑問に思わない方が難しいだろう。生徒会長であるハンナと親しい関係にあるのなら他にも考えられるのだろうが、あの一件以来話したことはほとんどないので厳しいものだ。

 唯一思い当たる節があるとすれば、この前アースクラッシュの練習で演習場の地面を荒らした事ぐらい。というか、十中八九それしかないだろう。あれだろうか、『あの時は軽い説教と罰則で済ませたがな。あれは嘘だ』という奴なのか。

 

 だが、もしそうだとするのならば色々と可笑しな部分も出てくる。

 いくら駆けつけたのが教師の中でも温厚な方のミランダだったとはいえ、もっと大きな問題として取り扱われていいはずだ。説教や罰も軽いものではなくより重いものでもなっていて可笑しくない(尤も本人からすれば結構重かったが)のに、『マナリアではよくあるのよ~☆ミラちゃんも学生の頃は結構やっちゃってたしね☆』という苦笑いで済まされた。

 第一、呼び出した時期も頭に引っかかる。仮に生徒会長から直接注意や勧告を言い渡されるとすれば、引き継ぎ前に行われていていいもの。だというのに、次の代へと引き継ぎが終わった今。

 それにだ。演習場を荒らしたというのも問題だが、それ以上の事を入学早々やらかしている輩をレイは知っている。むしろそいつらの件とはガッツリと関わっている。そんな彼らは何かしらの罰則を受けたというのは聞いてはいるものの、こうして生徒会長からの呼び出しを受けた様子は見ていないし、自分しかいないことから一緒に呼び出されている訳でもなさそうだ。

 

(……となると、別の用事ってことなのか?)

 

 だとしたら一体どういう内容なのだろうか。問題行動とかでないのなら次は委員会に関する事項となってくるが、属する生徒は既に決まっているから線としては一番薄いと思われる。かと言って他の事を挙げようにも思いつかない。

 そうやって頭を悩ませていると、ハンナが向かい側の席へとついた。その手には何かの書類が携えられている。……マズい、本格的に分からなくなってきた。相手の表情を見ても怒りとか悲しみとかそういうのを浮かべてないから、多分罰則とかでないのは確信していいはずだが……。

 目の前のレイの心中がどうなっているのかを知りもしないハンナは、彼に面と向かって話を切り出した。

 

「お待たせしました。さて、本日レイ君をお呼びしたのは他でもないですわ。貴方には二つほどお話しがありますの」

「二つ?」

「はい。まず一つ目は、先日の騒動を解決して下さった事へのお礼を改めてお伝えしようかと」 

「……あの時も言っただろう、礼は必要ないと」

 

 数日前の騒動の直後、ハンナはレイ達三人に頭を下げてきたのだ。魔物に襲われそうになっていた生徒を助けた事、騒動の始末をつけた事に対しての感謝として。

 ハンナに対し三人は、皆を守るのは当たり前だから、騎士として当然の事をしたまでです、礼ならこの二人に言っておけ、と各々の理由をつけて辞退した。特にレイに関しては、お礼を言われた気恥ずかしさとあまり役に立てなかった若干の情けなさ等が相まって少々複雑な心境でもあったことから、余計に顕著だったと言えた。

 改めて言うのなら、一番の功労者であるアンにでも言っておく事だ。彼の素っ気ない返事に、ハンナはクスリと笑った。

 

「何が可笑しい」

「いえ、謙虚な方だと思いまして」 

「……事実を言ったまでだ」

 

 それよりも二つ目の話は何だ。レイが催促すると、彼女より持っていた書類を手渡された。チラッと表紙を見ると、一番上には『風紀委員会活動目録』と記されている。

 

「これは……?」

「それこそが二つ目の話に関する事ですわ」

 

 そう言った後、ハンナは表情を引き締めてレイへと告げた。

 

「単刀直入に申し上げます。――レイ君、風紀委員会に入ってくださいませんか?」 

「……は?」

 

 思わず間抜けな声を出してしまう。俺が風紀委員会に? 一体何がどうしてそうなったし。というかそもそもあったんだ風紀委員会。予想すらしてなかった展開によって内心の動揺や不安が全部吹き飛んだと同時、いきなりすぎて理解が追いつかずに固まってしまう。

 そんなレイの様子を困惑と受け取った彼女が言葉を続ける。

 

「確かにいきなりこんな事を言われても困りますわよね。勿論、その理由を今からお伝えしますわ」

 

 そう言ってレイへと話し始めた。

 

「まず初めにお聞きしますが、レイ君は風紀委員会の存在をご存じで?」

「全く知らん」

 

 即座に返答する。委員会活動には図書委員や保健委員など、レイの知っているものの大半があるのは彼自身も把握している。しかし、この魔法学院に風紀委員会があるなど思いもしなかった。何故なら誰が所属するかをクラスで決めたりした時も、委員会の一覧に挙がってすらいなかったからだ。

 だからあることを今初めて知った。そう返すとハンナは苦笑いをした。

 

「あら、レイさんも何度か見かけていると思いますわよ?」

「何処でだ」

「どちらかの腕に腕章をつけた生徒がいるのを見たことは?」

 

……言われると確かにそんな気が……。放課後に演習場や図書館に行く道中でそれらしき生徒と何度かすれ違ったことはなくもないし、以前の騒動の後にも居たような……。

 率直に言えば、あまり記憶になかった。というのも、一部の生徒はローブを制服の上から纏っていたり装飾品を身につけていたりするのを目にしているので、アクセサリーの類いか何かだと思ってスルーしていたのだ。にしては文字入りなんて妙に凝ったもん着けてんな、と思ったりはしたが。

 

「とは言えご存じないのも仕方ありませんわね。活動内容の都合上、生徒会長もしくは先生方から話を通すものですから」

「活動内容の都合?」

「ええ。校舎内の見回りや生徒同士の諍いの仲裁に学院祭の様な催し物における警備。後は魔法の失敗等で出現した魔物の討伐や封印までの間の生徒の防衛と、名称こそ風紀委員会の名を冠していますが、その実態としては”学院内の治安維持”を目的とした組織ですの」

「……要は”学内限定の秩序の騎空団”みたいなものか」

 

 成る程な、とレイは納得する。

 

「本来ならそちらも生徒会が受け持つのが一番なのですが、人数や業務を加味すると何処かで綻びが出てしまうのは明白な事実。でしたらいっそ、それを担当にした委員会を設立すればいい、という考えで組織されたのが風紀委員会なのです」

「……それで、その風紀委員会とやらに俺も入れ。アンタはそう言いたいんだな?」

「はい。生徒を守る為に単身で挑んだ勇ましさに強さ。それらを持った貴方が入って下されば学院をより良いものに出来る、そう思っての事ですわ」

 

 どうでしょうか。こちらに向けてハンナは熱意を込めた言葉を目と共に伝えてくる。

 ハッキリ言って買い被りすぎだ。あの時は考えるよりも先に身体が動いただけであって、そこまで意識していなかった。理由としても、今まで散々魔物との戦闘をやったせいでその習性が身に付いた、というのが正しいのだから。

――しかし、ふとそこで疑問が生じた。

 

「アンタの話は十分理解出来た。だが……何故、俺なんだ? 単純な戦闘力の面で見るのなら

アンやオーウェンも十分適任だろう」  

「私も最初はそう考えたのですが……オーウェン君がそれを許すはずがないでしょうという結論に至りまして」

 

 その意見には同意することしか出来なかった。

 アンなら割と喜んで参加してきそうなものだが、それを彼女の護衛であるオーウェンが許すはずもないのもまた分かりきっている様なもの。王女の身に危険が及ぶのを防ぐ事が彼の任務であり、それを態々危険に晒すような行為を見過ごしては護衛としての意味が無いからだ。

 逆にオーウェンを所属させようとしたところで、王女の側から離れることをまた良しとしないはず。ならば二人を纏めて勧誘するという手を使っても、同じ結果に終わるのが簡単に想像がつく。

 

「それだけではありません。仮にアンさんが御加入なされた場合、大半の生徒が頼ってしまう光景が目に見えてますもの。そうなってしまえば、あの人への負担が多大なものとなりますから」

 

 それもそれで考えものですよねー……。彼女の言葉に頷く。

 控えめに言ってもアンの能力は高い。座学にしろ魔法の腕にしろ、学年の中でも抜きん出ているのは周知の事実。

 しかしだからと言って業務や応援が一人に集中してしまえば、流石の彼女でも重荷にしかならない。そこまで問題が起こったりするかと問われれば微妙に怪しいが、催し物などの際は確実にてんてこ舞いとなる。折角のイベントを楽しめないというのは、つまらない以外の何物でもない。尤も、彼女の場合皆から頼られるのを嬉しく感じている様にも思えるので一概には言えないが。

 あと個人的な見解だが、あの二人は役職関係無しに首を突っ込んできそうなので、所属していようとなかろうと大して変わらないと思われる。

 いずれにしても、二人ではなく自分の方に指名が行くのもすんなりと合点がいった。

 

「レイ君にも色々事情はあるかと思います。ですが生徒の皆さんの自由な学院生活を支える為にも、貴方の力を貸してはいただけないでしょうか?」

 

 再び正面から熱意をぶつけられる。まだ就任して間もないというのに、ここまで一生懸命とは……。こうも熱心な姿を見てしまうと当てられるのも確か。しかし直ぐに答えを出さなければならないとなると、これもまた困ったもの。

 とりあえず書類を見てから判断するしかない。そう考えながら貰った資料へと目を通す。

 

 そこには生徒会長が先ほど言っていた仕事内容や参加条件、魔物が出現した場合の対処法に見回りの持ち場などが詳しく記されていた。

 改めて思ったけど、普通の生徒じゃちょっと厳しい感じだわ。

 争いへの介入やイベント時の警護、魔物との戦闘が絡んでくるとすると、それなりの戦闘能力を持ち合わせていなければ務めるのはかなり難しくなってくる。前者では相手を取り押さえる必要があるし、後者では中型や大型、将又以前のような群れを相手にする可能性も含まれる。前回のは誰かが置き忘れた魔導書の放置が原因でああなったらしいが、こういったケースが起きないとは無きにしも非ずだ。

 それに学院の生徒が魔法を使えるとはいえ、全員が全員戦闘に向いているとは限らない。中には学者や薬師を目指して入学した非戦闘向きの生徒だっているのだから。それらを踏まえると、所属条件が特殊なのも頷ける。 

 

 後は活動時間や所属時の注意点。主な活動時間は放課後で、基本的に休日の活動は無しとのこと。委員会に所属すると部活動に入る事は出来ないというデメリットはあるものの、そもそも入るつもりが無い自分としては全く気にならない部分だった。希に教師からの要請で何かの手伝いを行うという記述も見えたが、まあそこまで大変でもないだろう。

 

 どうすればいいんだろうか……。書類を睨みながら黙考する。

 正直なところ、自分が引き受けなければならない話でもない。他のクラスを回れば自分以外に適任な人物は必ず見つかるだろうし、書類に書いてあった委員会も少人数とはいえ入らなくても差し支えないとも思える。古い話ではあるが、以前オーウェンに騎士団の誘いを断った過去があるので、その事を考えると少し思うものもある。……多分向こうは気にしてないだろうが。

 そもそも自分はラーニング技を会得するが為にここに来たのだ。今回の件を引き受けてしまえば、間違いなく練習の時間が削られてしまう。自分から減らしにいくのはどうにか避けたいもの。

 だからと言って、このまま無碍に断るのもどうかという話だ。彼女は純粋に学院を良くしたいという思いを掲げて、こちらへと風紀委員の話を持ちかけたのだから。

 

(しかし前回といい今回といい……何でこうも人を守る仕事に縁があるのか)

 

 騎士団と委員会という程度の差はあれど、どちらも人を守る役職。こう二度も舞い込んでくるとなると、もはや何かの繋がりがあるとしか思えなくなってくる。

 誰かを守るための仕事なら相応の心構えを持った人物こそが務めるのが一番――。以前はその考えもあったからオーウェンの誘いを断った。

 風紀委員もそうだ。自分がやれるとは思えない。だから今回も辞退するべき――。

 

(でも……)

 

 本当にそれでいいのだろうか。何か因縁めいたものと一緒にそう感じた。

 

 紅き英雄に憧れた。そんな子供染みた理由からせめて技だけでもと身につけようとやってきた。少しでも近づきたいのなら、それに恥じない何かを持っていなければ。

 それにだ。風紀委員の役割である”学院内の治安維持”。つまり言い換えるのならば、”学院の平和を守ること”。それは正に――。

 

「……学院を脅かす不穏分子――イレギュラーの排除、か」

 

 イレギュラーハンターじゃないか、と。

 

 なら、自分の答えは決まっている。

 

「……引き受けよう、その話」

「いいんですの!?」

「ああ」

 

――それが俺の仕事であるのなら。 

 

 

――経緯はともかく、レイは風紀委員の一人として活動していくこととなった。

 初日の顔合わせや業務確認を行い、二日目には自分の持ち場を任される様に。

 外面の性格上、先輩に当たる上級生達と上手くやっていけるかどうかが不安では

あったものの、そこの部分もなんとかなったようで一安心である。

 

 唯一気がかりな点としては、委員長がスキンヘッドだったこと位だろうか。




約半分がシリアスっぽくなったなぁ……。内容は風紀委員に入るかどうかの話なのに。
風紀委員としての配属光景は長くなりそうだったので、申し訳ありませんがさらっとカット。これにもう一話使ってたら何時まで経っても本編進まないと思ったのと、書いても展開が前と一緒だったし文字数も全然足りなかったので。

原作に風紀委員があるかどうかは分かりませんが、この作品内ではあるという事でお願いします。ハンナが発足するという案もありましたが、それだとメンバー集めに話を割いたりしなきゃならないし、結局アンやオーウェンも加入しそうだったのでボツに。二人と後に出てくる一人とは違う肩書きを持たせたいという考えもあったので。

4/10追記

最後の部分の加筆と解説項目にイレギュラーハンターを追加。


登場人物や技、ネタの解説

・ポピー

アニメ版マナリアフレンズにてハンナの右腕を務める書記の女子生徒。今回の話では少しだけ登場。


・風紀委員

文字通り学校内の風紀を取り締まる委員会。しかしライトノベルや二次創作においては、生真面目で融通の利かないお固い性格のエリート集団であったり、戦闘員の集まった精鋭集団であったりすることが多い。この作品でも例に漏れず、少し戦闘の出来る者の集まりである。
余談だが筆者がこれの設定を考えている最中、「なーんかどっかで見たことあるような気がするなぁ……?」 と思って調べたところ、『魔法科高校の劣等生』という作品のそれと酷似していた。恐らく以前読んだ際の記憶が部分的に残っており、無意識に参考にしてしまったのだと考えられる。


・秩序の騎空団

七曜の騎士の一人『碧の騎士』ヴァルフリートが率いる騎空団。空の世界の憲兵組織であり、全空の犯罪取り締まりや要人警護などの任務を請け負う。犯罪捜査組織としては『全空捜査局』という捜査機関が別に存在する(要は仕事が分けられている)。
全空域をカバーするために多くの騎空挺団を擁しており、規模そのものは極めて大きなものとなっている。
ファータ・グランデ空域ではアマルティア島に本拠地を置いている。

グラブル本編においては主人公達と黒騎士の身柄を巡って一時期争っていたが、元団員現エルステ帝国中将ガンダルヴァの一件で協力関係へと至る。
が、一行が全ての空図を収集し終えた後、七曜の騎士の名を騙る人物からの指示でファータ・グランデ全体に指名手配し、彼(彼女)らを他の空域に追い出すかの様な方針を取った。現在もこれは謎のままである。

……とここまで書けば凄い真面な組織に思えるのだが、スピンオフ作品『ぐらぶるっ!』では所属団員のリーシャが暴走している。やたら規則に厳しかったり、少しでも事案(例としてはロリコン疑惑など)が発生すると何処からともなく現れては取り締まりを始める。しかし『ぐらぶるっ!』でのキャラ崩壊は割といつもの事なので気にしてはいけない。というか一々突っ込んでたら身が持たない。


・イレギュラー

元の意味では『不規則、不揃い、反則の』等といった意味を持つ。
しかしロックマンXシリーズでは『電子頭脳が故障などにより支障をきたし、人間や他のレプリロイド等に危害を加えるようになった存在』、ロックマンゼロシリーズでは『ネオ・アルカディアによって処分が確定されたレプリロイド達の総称』と意味合いが異なる。また、Xシリーズお馴染みのラスボスからも『イレギュラーとは人間の言いなりとはならないレプリロイド』というような旨で言われていたりするために定義が結構曖昧。
さらに、イレギュラーであっても思考回路が正常なもの、イレギュラーに生み出された生まれながらのイレギュラーであるもの、不当にイレギュラーとしてレッテルを張られたものなど様々である。そのことから、イレギュラー=悪と見なすのは非常に難しいと言える。もっとも、根っからの悪人は別としてだが。

この作品では主人公レイが度々”イレギュラー”という言葉を用いるが、ここでは『他者や学院に害を及ぼすもの』『誰がどう見ても危険な人物』などの意味合いで使うことが多い。

・イレギュラーハンター

『ロックマンXシリーズ』に登場する組織。ハンターベースを拠点とし、犯罪を起こしたり人間に危害を加える様な行為を引き起こすレプリロイドを捕縛、破壊するための組織。言ってしまえば”現行破壊を許可された警察”みたいなもの。所属しているのは9割以上がレプリロイドであるが、その生みの親にあたるケイン博士も所属していることから人間も所属は可能と予測される。

また、ハンターには階級が存在しており、A級、B級、C級の三つがある。その中でも特に優秀な能力を持つ者は「特A級」に分類される。主人公エックスは「B級」(後に特A級に昇進)、ゼロは「特A級」である。

活動は世界規模で行われており、陸海空の各分野で国家クラスに相当する軍事力を有しており、権力も相応である。
しかしその権力の大きさ故に他の組織と諍いを起こしたり、先述の現行破壊の権限による不信感や不快感故に『悪魔のイレギュラーハンター』を指を指されることも少なくない。

さらにレプリフォース(レプリロイドによる軍隊。陸、海、空、宇宙の四つからなる)という組織を丸ごとイレギュラー認定したことから『レプリフォース大戦』と呼ばれる全面戦争を引き起こした事もある。もっとも、これに関してはレプリフォース全体をイレギュラー認定した事や相手が人類への反逆を否定しながらも武装蜂起していたりした事など複雑な事情があるために一概にどちらが悪いとも言えないが。


・スキンヘッドの委員長

紛れもないあの人が元のオリキャラ。元ネタの方は巷ではケツ顎隊長と言われているらしい。ちなみにドラフ族の男子である。

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