紅いイレギュラーハンターを目指して   作:ハツガツオ

5 / 14
やっぱり書き直しました。少なくとも、前のやつよりかはマシになっているはずです……。
一応、大まかな流れは変わりません。

前回までのあらすじ

レイ、ハクランに弟子入りするも魔法剣は一切やらず。変わりにオーウェンに習う。


修行日記その4 初めての友達

 レイが帰宅した後、ハクラン、オーウェン、そして彼の父カーターは、駐屯所の二階のハクランの私室に集まって話をしていた。

 

「――成程。あの少年に魔法剣を教えていたのか」

「はい、父上。……ハクランさんに押し付けられて」

「ハクラン……お前という奴は……」

「いやぁ、悪い悪い。俺の説明より、コイツの方が分かりやすいと思ってよ」

 

 そうカーターに呆れられた目で見られたハクランは肩を竦める。本来カーターの方が地位も年齢も上なのでハクランは言葉を改めなければならない。

 しかし、彼らは十年来の友人同士。何の注意も無いのはその証であるとも言える。まあ、流石に任務が絡んだ時は別であるとお互い理解しているが。

 その事からカーターも彼の性格は良く知っているので、それ以上は何も言わずにため息をつき、自身の息子へと話を投げかけた。

 

「彼と話をしてどう思った、オーウェン?」

「……そうですね。口数が少なく、感情も乏しいというのは父上とハクランさんから聞いたとおりでした。しかし何かを『守りたい』。その言葉に込められた意思の強さはひしひしと感じました」

 

 彼は正直に答えた。レイは感情が分かりづらく、寡黙な人間だ。かと言って、

完全に無いわけではなく、あくまで分かりづらいだけだったとあの時に把握できた。実際、魔法剣を教えた際は嬉しそうだったのが分かった。その事も伝える。

 オーウェンとカーターは山での訓練を名目にこの駐屯所へやって来た。しかしここに来た理由はそれだけでは無い。そう、ハクランの弟子であるレイを見るためでもある。

 以前言った通り、ハクランはこの国でもトップクラスの実力を持つ騎士だ。しかしそれと同じく鍛錬キチガイな事でも有名だった。まだハクランが王都に勤めていた時、騎士団の同僚が恐い物見たさでハクランの鍛錬に参加した結果、グロッキーになって帰ってきた事をカーターはよく覚えている。

 そのハクランが弟子を取り、あまつさえそれに弱音を吐かずについていけているなどと彼から手紙を受けたカーターはにわかに信じられなかった。しかもその弟子は、自身の息子と同年代というのも。気になった彼はその少年がどんな人物かを見る、かつ自身の息子にいい刺激が与えられれば、そう思ってこの村に来たのである。

 息子の言葉に「そうか」と答えた後、ふと思い出した。そういえば彼と気が合っていた様に見えたなと。

 

「オーウェン。彼とは随分気が合っていたようだが……」

「え……あ、はい。彼とは鍛錬の話をしていたのです。剣の振り方や魔法について等を」

 

 彼らは性格が似ている訳では無い。しかし、鍛錬を続けてきたという事から話が合った為に会話が弾んだのだ。 

 それを聞いたカーターは満足そうに頷いた。これは良い流れだと。そして同時に思案する。このまま彼がオーウェンの良き相手になって貰えれば嬉しいのだが……。そう思った時に、ハクランがある話を持ちかけてきた。

 

「カーター。俺に一つ提案があるんだけどよ――」

 

 

「――成程。それはこちらとしても願っても無い話だ。受けよう」

「よし、じゃあ話は決まりだな。忘れない内に木刀とか用意しておくか」

「いや、やるのはまだ先――……ん? 木刀? 剣じゃないのか?」

「ええ。彼は刀を使うので。……まさか魔法剣を刀でやると聞くとは思いもよりませんでしたが」

 

 その問いに対してオーウェンが答える。息子から予想外の言葉を聞いた彼は、額を押さえるしか無かった。

 

「……ハクラン。その子が無茶苦茶なのはお前譲りなのか?」

「何でもかんでも俺のせいにすんの止めてくれねえ?」

「じゃあ否定できると?」

「……無理だな」

「知ってた」

 

 そう言ってはっはっはと笑いあう二人。そしてこの数秒後に殴り合いが起きるのは

いつもの流れだった。

 

◇    ◇    ◇

 

Π月 Ω日

 

 今日はいつもよりも早く目が覚めた。まだ朝日が昇っていない時間だったが、二度寝すると確実にハクランさんの朝練に間に合わないので、着替えてから俺のベストプレイスである原っぱに移動、前日に受けたオーウェン君のパーフェクト魔法剣教室の内容を思い出しながら練習することにした。

 

 魔法剣の原理。それは、『武器の属性魔法を引き出しながら属性魔法を付与する』というものだった。詳しい手順を今から説明しよう。

 

 まず一つ目のステップ、武器の属性を引き出す。……これは以前説明したから、簡単に復習。要は魔力を送り込んで、武器との属性にリンクさせて解放する。

 そして二つ目。引き出した武器の属性に『同じ属性の属性魔法を付け加える』。火の武器なら火属性の魔法、水なら水。要は俺の場合、風属性の魔法を加えろということだ。

 で、三つ目のステップ。これが一番の要と言っても過言では無いだろう。『引き出した属性と加えた属性魔法を混合し、一つに纏める』。オーウェン君も言っていたが、この手順には相当な魔力操作能力が必要とされる為に剣でありながら魔法の腕が問

われる所以らしい。引き出した属性の強さと同程度の強さの配分で混合させなければならない。ここをトチれば次の手順で失敗する。

 そして最後。纏めた属性の形を変え、己の扱いやすい状態へと変化させる。ここで三つ目のステップの結果が直に反映される。その為、配分をミスればミスっただけ形成が上手くいかなくなる。彼が実演してくれた結果、

キチンとやった場合とそうでない場合の差は一目瞭然だった。

 前者は同比率で混合されたためか、水が刀身を覆うかのような形に形成されていた(しかし本人曰く、まだ荒い部分が多いとの事)。対して後者は、刀身を覆いはしていたものの水の形が定まらず、あくまで覆うだけの形だった。

この事から、如何にステップ三の完成度を高めるかが鍵だと分かった。

 

 以上が魔法剣のやり方だ。つまるところ、俺は二番目と三番目のステップを飛ばして、いきなり最後に向かっていた訳だ。理論は理解できた、後はマスターするのみ。――そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 またまた問題発生。

 

――刀は魔法剣に不向きである。

 

 だからさぁ……何なの。俺は不幸の星の下にでも生まれてるの? それとも厄病神か何かに憑りつかれてるの? ……と愚痴を吐いていると思っただろうか? ――逆だ。俺は今物凄く燃えている。まあとりあえず、何があったのかを話そう。

 彼から魔法剣を教わった後、どのような剣を扱うのかを聞かれたので、俺が背中に背負っていた得物(腰じゃないのかって? 【ダブルチャージウェーブ】を出すことを考えたら、背中から抜刀した方がやりやすいと判断したからこうなった)を見せたら渋い顔をされた。これでやる気なのですか? と。一体どういうことか分からなかったので聞いてみたところ、こう答えられた。

 刀は剣よりも刀身が薄く非常にデリケートな作りの為に、耐久性が低い。その事から属性魔法を併用する事には向いていない。失敗すれば刀身はまず間違いなく折れるし、成功したとしても少しでもバランスを乱せば同じ結果となる。以上から、文字通り『針穴に糸を通すような繊細な魔力のコントロール』が要求される。

――だからこそ、今からでも遅くは無いので剣に変えるべきです。そう言われた。

 もちろん彼に悪気は無いというのは分かっている。相手を思ってそう述べているのだと。避けられる道なら避けるべき。その意図は十分に伝わっていた。

 

 でも……それが諦める理由にはならない。

 

 刀では無理? 針穴に糸を通すような繊細な魔力のコントロール? 

 

――上等だ。やってやるよ。

 

 元々俺は、身を守る強さを得る為にゼロのラーニング技を再現したいという、

傍から見ればあまりにもくだらな過ぎる理由から修行を始めた。その為に魔法弾習得で半年間も躍起になったり、素振りをしたり、ハクラン式ブートキャンプ(これは完全に想定外)を受けてきたんだ。だというのに今更諦めろ? あの英雄の背中を追い求めるな? そんなものは関係無い。やるからにはとことん突き進む。無茶と言うなら、俺の無茶でこじ開ける!! それが俺だ。

 

 という訳で続行です。

 

 

Ρ月 λ日

 

 今日は鍛錬がいつもより早く終わったので、残り時間は魔法刀(今命名)の練習にした。

 

 練習方法として、まず魔法剣をできるようにすることから始めた。何の積み重ねも無しに刀でやったらすぐに折れるのは目に見えていた。なので刀の前に剣で練習、出来るようになったら刀に移行。この内容で行うことに。

 ちなみに剣は何処で都合をつけたかと言うと、ハクランさんが「それなら俺がガキの頃に使ってた奴を貸してやるよ。丁度お前と同じ属性だしな」と言って渡してくれたのだ。ハクランさん、本当にありがとうございます。妖怪修行大魔神なんて思っててすみませんでした。

 

 で、それからは練習を続けて五日が経ったわけなんだが……形の形成が上手くいかない。

 

 原因は分かっている、三つ目のステップだ。武器の属性を引き出すのは散々やったから今更ここで躓きはしない。属性魔法の方も、修行の合間に魔法弾と共にずっと練習し続けてきたから問題無い。

 しかしそれを両方やるとなると、話は別だ。武器に魔力を送り込んで属性を引き出しつつも属性魔法の行使、これが難しい。例えて言うなら、某奇妙な冒険の『くっつく波紋と弾く波紋の同時使用』。別のもので例えるなら、数学の参考書やりながら英単語帳を見ることか? そんな感じ。

 武器の方に集中力を割けば属性魔法が疎かになり、属性魔法に重点的になれば武器の方が蔑ろになる。さっきからその繰り返しである。……もしかして、思考を二つに分割とか? いやそれ、どんなアトラス院だよ。でもオーウェン君は、そこまで集中している様には見えなかった。……いや、これだと言い方が悪い。何と言うかこう、自然体? 俺みたいに剣とにらめっこ、という感じでは無かった。慣れというのもあるんだろうけど。……頭でごちゃごちゃ考えてるのがダメなのか? 思い返してみれば、ハクランさんもあんまりそういう風では無かったし。ふーむ……。

 

 ……とりあえず一回落ち着くか。ここで変に焦ってもしょうがない。とある深緑の智将さんも言っていたじゃないか。常に冷静《クール》であれと。冷静さを忘れないことこそが、成功する秘訣だと。

 よし、頭を一旦リセットする為に素振りでもやろう。こういう時は別の事をやって気持ちをリセットするのが大事だろう。ハクランさんからもそう教わったし。

 

 

Υ月 Ψ日

 

 今日は魔法弾の練習。普段も空き時間にちょいちょいやってはいるが、偶にはがっつりやらないと感覚を忘れる。

 練習内容は片手での狙撃だ。俺が習得したい【ダブルチャージウェーブ】は、片手での精密射撃が前提である。いくら魔法刀や詠唱破棄の魔法弾が出来たとしても、それが出来ないのならば意味が無い。

 

 で、結果としては最初の頃よりは遥かにマシになっていた。若干狙いがズレこともあるが、ハクランさんの特訓で体が鍛えられたおかげで反動もブレもあまり感じなくなっていた。……本当に凄い副産物だわ。

 それとバスターのチャージと連続発射について少し書こうと思う。

 チャージは一応、撃てるようになってはいる。込める魔力を1.5~2倍にすればいい話だから。ただその場合、やはり両手での発射でないと反動によるブレが大きいのと、込める魔力を多くすることから当然少しの時間がかかってしまう。現時点での、片手のチャージショットは難しいだろう。

 それと連続発射。これはX2のゼロを参考にして、両手から交互に魔法弾を放つことを練習していたから、最大二発までは連続で撃てるようになった。後は片手で二発撃てるように術式をどうにかするつもりだ。これなら基礎用の魔導書でまだ何とかなるし。しかし問題は【ゼットバスターレックレス】なんだけど……これどうしようも無いんだよなぁ……。

 理由としては、基礎じゃないから。多分だけど、これはもう少し上のレベルの魔導書でないと載ってないと思われる。ただなぁ……魔導書は本屋でも中々無いんだよ。田舎だからあんまり流通してないのか、全然見ない。ハクランさんに聞くのは……無理です。あの人の説明は人類には早すぎた。

 

 その後は今日も今日とでハクランさんとの修行……だったんだけど、駐屯所の裏に向かったら何故かオーウェン君と彼のお父さんまで居ました。……何故? 

 で、直後に説明がありました。「お前は俺以外と戦ったことがねえだろう? この際、いい機会だからアイツと殺《や》りあっとけ」と。つまりは模擬戦ですね、分かります。たださあ、何か字が違いません? 模擬戦って木製の武器を使った試合ですよね? 死人とか出ませんよね? ものっそい物騒なんですが……。そもそも何で俺と? 王都なら他に強い人はいっぱいいるでしょう?

――という俺の疑問は案の定スルーされました。知ってたわ。そんな訳で、逝ってきます。

 

◇    ◇    ◇

 

 レイが日記を書いてから数分後、ハクランが模擬戦のルール説明をしていた。

 

「――そんじゃ、ルールの確認すっぞ。魔法の使用は禁止。使うのは木剣と木刀。それ以外はオーケーだ。あ、分かってるとは思うが危険行為はすんなよ? こっちもこっちで見張ってるから、バレなきゃいいっつうのも無しだ」

 

 そう言って、ハクランとカーターは少し離れた場所へと移動した。

 

「さて、俺達はここからアイツらの戦いぶりを観戦してようぜ」

「ああ。……しかし、模擬戦か。お前らしい良い案だ」

「だろ?」

 

 あの時、ハクランが提案したのはレイとオーウェンによる模擬戦だった。

 カーターとの付き合いは長い。だからこそ、彼が何を考えていたのかも大体予想がついた為に今回の話を持ちかけたのだ。勿論、カーターはこの話を承諾。目の前で聞いていたオーウェンも、断る理由も無かった為に頷いだった。

 

「刺激が欲しいって言うんなら、これが一番だ。アイツらにとっても良い経験になるしな」

「確かにな。王都にいると、そこでの騎士見習い以外との対戦は滅多に無い。こちらとしても好都合だった。それに、お前の弟子の実力も測れる」

「へっ、言っとくがアイツは強えぞ? なんたって、俺が育てたんだからな」

「それはこちらとて同じだ。――むっ、そろそろ始まるようだぞ」

 

 その言葉で会話を区切り、二人は自らの教え子の方へと目を向けた。

 

 

 オーウェンとレイ、二人はそれぞれ木剣と木刀を手に取って構え、互いに向き合っていた。この時既にオーウェンは感じていた――強い、と。構えに一切隙が見られない。纏っている空気にも乱れが無いことから、精神も落ち着いている。だからと言って、遅れを取る訳にはいかない。これまで自身が尊敬している父から剣を教わったのだ。

相手に憶して負けたなど、父に恥をかかせるようなもの。その為、彼は少し深呼吸をして自身を落ち着ける。

 そして冷静になった時、前日に父が言っていた事をふと思い出した。模擬戦の説明の最後に、父が次のような言葉を漏らしたのだ。

 

『……お前には一つだけ足りてないものがある。それが彼であればいいのだが……』

 

 彼とはレイの事を指しているのだろう。

 村に来る前に、オーウェンは彼の事は父からある程度聞いていた。三年前に魔物に襲われ、身寄りも無いことからとある夫婦に引き取られた。が、感情が見えないせいで同年代では孤立し、他者との関わりを持とうとしない少年。だがそれでも、

己の恐怖を払拭する為ではなく守る為に力を求め、ハクランに弟子入りした心の強い人物。

 実際、オーウェンが見ていてもその通りだと感じていた。訓練の空き時間でも素振りや魔法の練習等、鍛錬を怠らず。強くなりたいという向上心が見て分かるほどだった。

 会話した時もそう。無口ではあったものの、何かを守りたいという静かながらも

揺らぐことの無いその意思の強さが伝わってきた。故に、彼に抱いた印象は良いものである。

 しかし分からなかった。私に足りないものはあるかもしれない。それは自分がよく

理解している。だが、それが彼とどう関係あるのか? 父は一体何を……。

それを彼は模擬戦の少し前まで考えていた。

 

(あの言葉の答えが、この戦いで判明すればよいのですが……)

 

 そう思ったところで頭から追い出す。今はこの模擬戦に集中しなければ。片手間に戦うのは相手に対して失礼だ。意識を切り替えた時、レイが声を掛けてきた。

 

「……準備はいいのか?」

「ええ。いつでもどうぞ」

「……そうか。なら――行くぞ!!」

 

 言うと同時に、レイは地面を蹴って一気に距離を詰めて目の前に現れる。

 

(速い……!) 

 

 驚くオーウェンを尻目に、レイは左手に持った木刀を掲げ、振り下ろしてくる。それをオーウェンは木剣の腹で受け止め、反撃に移ろうとする。しかしレイはそんな暇を与えようとせずに、すぐさま木刀を引っ込めて横に構える。そしてそのまま薙ぎ払いを繰り出してきた。

 勿論これは読めていた。相手の木刀の動きから次の攻撃が予測できたからだ。その為オーウェンは木剣に左手を添えた状態で縦に構え、刀身にぶつかった瞬間、斜め上に受け流しす。おかげで木刀の軌道は逸れ、相手は隙だらけとなる。

 

(これで勝負あり……!)

 

 内心勝利を確信して、木剣を両手で振りかぶった。――だが、それは甘かった事がすぐに分かった。何故なら、相手は既に()()()()()()()を取っていたからだ。しかも気づいた時には攻撃に移っていた。

 

「――ハァッ!!」

 

 凄まじい速さで木刀が振り下ろされる。

 ギリギリで気づいたオーウェンは、刀身でレイの攻撃を受け止める。木剣で防いだものの、その攻撃の重さに冷や汗を掻く。そして理解した。彼は最初からこの攻撃が本命だったのだと。

 

(こちらが初段と二段目を防ぐことを最初から想定……そして、踏み込んだ瞬間に三段目を

当てる。成程……流石はハクランさんの弟子ですね)

 

――尚、当然ながらレイはこれを狙っていた訳では無い。初段はともかく、二段目は防がれるとは思っていなかった。三段目が自然に出せたのは、普段からゼロの三段斬りを練習していたからという何とも締まらない理由だ。最も、今回はそれに助けられているのでバカには出来ないが。

 しかし反応できたのはこれだけが理由では無かった。レイは普段からハクラン監修の訓練を受けている。その為、並みの騎士見習いは普通に倒せる実力とそれに見合った反射神経や対応力を有していたのだ。……本人にあまり自覚は無いようだが。

 

 だが、それでもオーウェンにとって強敵である事には変わりはない。 

 一撃の速さは、今までに戦った王都の騎士見習いと比べても遥かに上。そして攻撃の重さもそれに違わない。加えて技と技の継ぎ目がほとんど感じられない事から、技術の方も並以上と見受けられる。

 それらの事実がこの三回の斬撃だけで把握できたのは、これまでの試合で養われた観察眼のおかげだろう。

 口元に笑みが浮かぶ。これ程の相手と戦えるとは……。そう思うと、胸が少し熱くなった。

 受けていた木刀を押し返し、互いに距離を取る。

 

「今のは見事な連続攻撃です。しかし、次は私の番だ!!」

 

 今度はオーウェンが仕掛けた。距離を詰め、浅い袈裟切りを繰り出す。レイはそれを体を左に逸らして回避。当然、そのまま反撃しようと木刀を振りかぶってくる。

 しかし、そんな事は百も承知。これはブラフだ。振り下ろした木剣の勢いを殺さず、握り方を少し変えることで下から切り上げる攻撃に移行。

そのまま左上へと剣の軌道を変えた。――が。レイはそれを直前で察知したのだろう。小さな円を描くように足を捌くことで身体を回転。そのままオーウェンの左後ろへと回り込んだ。

 

「何!?」

 

 今のを木刀で受けるのではなく、体捌きで躱すのですか!? これには驚愕した。

 この攻撃は普通は武器で受ける。さらに振り下ろした勢いをそのまま利用しているために、威力もかなりのもの。その為、武器を弾いて終了。もしくは受けた硬直を狙って次の攻撃を仕掛けようと考えていたのだが……これは予想外だった。まさか受けもせずに回避するとは。

 そのままレイは、回転によって生じた遠心力を利用して木刀を振ってくる。それをオーウェンは身体を反転させて、木剣で防ぐ。その時少し体を浮かせ、防いだときの衝撃を利用して距離を空ける。

 攻撃面だけでは無く機動力も優秀。しかも予想外の躱し方まで行い、その動きを攻撃への応用までやってのける。さらにオーウェンの心に火が灯る。

 

(私の予想をここまで上回ってくれるとは……!!)

 

 そう心の中で歓喜しながら、レイへと次の攻撃を仕掛ける――。

 

 

「ほう……まさかあれ程とは……」

「言ったろ? 俺の弟子は強えって」

「ああ。しかし、私の息子とあそこまで打ち合えるとは思いもよらなかった。……どうも過小評価していたようだ」

 

 二人の打ち合いを見ながら、素直な感想を述べる。確かにカーターはレイが強いとは予想していた。構えからもそれが分かったし、

あのハクランから手ほどきを受け、あまつさえそれについて行っているのだから、と。だがしかし、ここまでとは予想もしていなかったのだ。

 

「あれ程の動きができる人物は、騎士見習いでもそうそう居ない。正直な話、武器を変えて今から騎士を目指せば大成できるぞ彼は」

「へっ、何たって俺が育てたからよ。一方的にやられるほど軟には鍛えてねえ。それにアイツは俺の訓練を受ける前から自己流で鍛錬していたから、その分もある」

「成程な」

 

 それを聞いてカーターは納得した。三年間の鬼畜メニューに加え、その前の積み重ねもあったのだ。ならこの強さも頷けるというものだ。

 

「そういうお前の息子だって、相当なもんだろ。あの歳にしては卓越した技量に咄嗟の判断能力。あれじゃ、同じ騎士見習いの奴が敵わねえのも合点がいく」

「それを察してくれたからこそ、お前が提案してくれたのだろう?」

「まあな。こっちも同じ様な理由があったし」

 

 そう、これが今回の模擬戦の真の目的。

 カーターの家系は代々マナリア王国に仕える由緒正しき騎士のそれ。父カーターが騎士であるため、父親の背中を見て育った息子のオーウェンが同じ道を辿るのは必然だった。その事は父親である彼も理解していたし、むしろ嬉しいとも思っていた。

 だがしかし、一つだけ問題があった。――息子が剣の才能に恵まれていたことだ。高い才能に加え、生来の生真面目な性格からくる日々積まれていく努力。その結果、歳の近い者で渡り合える人物は居なかったのだ。

 友はいる。仲間もいる。しかし同じ実力を持つ者は居ない。その事をオーウェンは気にしていないように見せていた。しかし、やはり何処かで自分と同じ目線に立てる友が欲しいと渇望している事を、親であるカーターは感じていた。だからハクランから弟子の話を聞いた時、村へ来ることに決めたのだ。彼ならもしかすれば――。そう思って。

 そしてそれはハクランも同じだった。レイは性格上、同年代の中では孤立してしまっている。その上、およそ子供がやるような遊びを一切せずに鍛錬のみを続けてきた。その事から他者との触れ合いの少なさを危惧したドルドとミナは、友人でありレイの師のハクランへと相談したのだった。ハクラン自身もその点が少し気になっていた為、相談を受けた彼はカーター達が来ることを利用して、今回の模擬戦を提案したのだった。

 結果、互いに目的が一致していると言える。

 

「しかし、お前の話に乗って正解だったようだ。……息子があそこまで嬉しそうにしているのは、久しぶりだ」

「それはレイも同じだ。あの野郎、自分じゃ意識してねえようだが顔がニヤついてやがる」

 

 そうして二人は、未だ続いている激しい戦いへと目線を戻した。

 

 

 オーウェンは一気に距離を詰め、右手に持った木剣で左から薙ぎ払う。だがそれは両手を添えた木刀で防がれる。

 すぐに防がれた木剣を両手で握り直し、右斜めに一閃。レイはこれを間一髪で左身体を逸らすことで避け、降ろしていた左手の木刀を、構えもしていない状態からは想像もつかないような速度でいきなり振り下ろしてきた。一瞬驚くが、ギリギリで反応して木剣で受ける。レイは反撃させまいと全力で打ち続ける。袈裟切り、横薙ぎ、切り上げ、

斜めからの振り下ろし、横からの一閃、両手での振りおろし。息をつかせないような激しい連続斬りを、オーウェンは辛うじて全て防ぐ。そして隙をついた一撃により、鍔迫り合いへと持ち込んだ。

 

(ここまで追い詰められるとは……だが、良いぞ!!)

 

 両者共に全力を出した本気の戦い。オーウェンは内心歓喜していた。これだけの強さを誇る相手に出会えたことを。そう思いながらレイの方を見る。すると――彼も自分と同じ顔をしていた。

 意外な事に、レイも同じ気持ちだったのだ。最初は釈然しない心持で挑んでいた。だが、ここまで熱くなれる戦いを、苦戦する人物を初めて知った。しかも歳が同じ相手で。なら燃えないはずがない。

 両者の心境を表すかのように、二人の顔には笑みが浮かんでいた。お互いに惹かれあったかのように。運命の出会いを喜んでいるかのように。

 そしてオーウェンはこの時理解した。父の言いたかったことを。負けたくないと思える相手を。その相手が彼である事を。

 

「……レイ殿」

「なんだ?」

「私は……貴方に……――勝ちたい!!」

「……そうか。――俺もだ!!」

 

 激しく切り結ぶ。打っては防がれ、斬っては躱され。彼等の年齢からは予想も出来ない凄まじい剣戟の押収。斬撃の打ち合い。

 一瞬であり永遠とも体感できるような夢の時間。無関係な人物がみれば手出しすら阻まれる二人の戦い。だが彼等は確かに心地良い時を過ごしていた。

 

――しかし、何事にも終わりというものは存在する。

 

 両者にも体力の限界が訪れたのだ。過度な攻撃の防御による腕震え、身体捌きによる足腰の酷使、長時間相手に集中した事による精神的疲労。

 両者は感じていた――これが最後の一撃だと。

 

「……次が最後です」

「……そうだな。だが負けん」 

「ふふっ……見かけによらず、貴方も負けず嫌いですね」 

「……それはお前も同じだろう」

 

 そして構える。互いに武器を、正面に両手で。

 

 両者は同時に地面を蹴り、得物を振りかぶる。

 

 勢い良く振り下ろされた剣と刀がぶつかり合い、鈍い音が裏庭に響く。

結果は――。

 

「……引き分け、だな」

「ええ……ですね」

 

 互いの武器の刀身が折れてしまって、地面へと破片が散乱していた。

 いくら鉄より強度の落ちる木製でも、強度自体はかなりのものではある。だが、この試合での幾度とない打ち合いによって武器への疲労が急激に蓄積され、最後の一撃でそれが限界に達したのだった。

 

 何とも呆気無い幕切れ。武器の破損によって勝敗はつかなかった。

 しかし両者の心は満たされていた。勝てはしなかったものの、探し求めていた相手に。 その礼をオーウェンは相手に伝えた。

 

「レイ殿、貴方に感謝を。貴方と手合せできたこと、心より嬉しく思います」

「……それはこちらの台詞だ。お前との戦い、胸が躍るものだった」

「そうですか……」

 

 どうやら向こうも同じだったようだ。そう思っていると、ある思いが心に浮かぶ。

――彼と友人になりたいと。

 しかし思いが強すぎたのだろう。いつの間にか言葉が漏れてしまった。

 

「……貴方と友になりたい」 

「……は?」

 

 ハッと気づくものの、時既に遅し。レイには聞かれてしまったらしい。呆気に取られている彼に、慌てて取り繕う。

 

「いや、その、あ、貴方とまた戦いたいと言いたくてですね――」

 

 そう言ったものの、しっかりと聞こえていたらしい。クスクス笑った後、言葉を返してきた。

 

「――いいよ」

「え?」

「俺なんかで良ければ友にしてくれ。……むしろ、こちらから願いたいくらいだ」

 

 彼はそう言った後、手を出してきた。オーウェンはそれを――

 

「……はい! よろしくお願いします、レイ殿!!」

「ふっ……レイで良い。こちらこそよろしくな」

 

 握り返して答えたのだった。

 

 

「おうおう、まさか練習用の武器が折れちまうとはな」

「……彼とお前には感謝せねばなるまい。息子の良き相手となってくれたのだから」

「礼は必要無え。俺とお前の仲なんだからよ」

「……そう言ってもらえると有り難い」

 

 カーターがそう静かに言った時だった。

 

「――おーい、ハクラン!」

「ん?」

 

 背後からいきなり聞こえてきた声の方向に首を向けると、夫婦であろうヒューマンの男女が籠を持ってこちらに走ってきていた。

 

「……誰だ彼等は?」 

「ああ、言って無かったな。レイの両親も呼んだんだよ。アイツに友達ができるかもしれねえってな」

 

 実は前日、ハクランはレイが居ない間に二人に今日の模擬戦の事を話していたのだ。自身に相談した彼等にも、折角なのだからと丁度模擬戦が終わる頃の時間を伝えたのだった。

 ……この事を聞いた二人が仕事をほっぽり出してまで朝っぱらから待機しようとした事から二人の親バカぶりが伺えた事にはため息をついたが。勿論、ハクランが止めたので未遂である。その為、ハクランはこの二人に比べればマシと言えるだろう。

 その事をカーターに話している間に、二人は到着した。

 

「ハクラン! 模擬戦――えーと、こちらの方は?」

「あ、私はお宅の息子さんの相手を務めたオーウェンの父親のカーターです」

「あ、どうもご丁寧にすみません……。私はレイの父親のドルドです。それとこちらは――」

「妻のミナです」

 

 そう言って互いにお辞儀する。挨拶は大事である。

 保護者同士のやり取りの後、ドルドはすぐにハクランへ食いかかった。

 

「ハクラン、模擬戦は!?」

「いいタイミングだな。丁度終わったところだ」

「いや、最悪のタイミングだろ!? 息子の勇姿が見れなかったんだぞ!?」

「当たり前だろ? アイツの試合を見るのは師匠である俺の特権だ(ドヤァ」

「ムカつく! すっごいムカつくそのドヤ顔!! しかし、頼んだ身としては何も言えない……!!」

「ほーれほれ。羨ましいだろ? 今どんな気持ち? なあ、今どんな気持ち? NDK? NDK?」

「コイツ……!!」

 

 訂正。やっぱこいつもバカだった。バカとバカの化学反応が起こった結果、友人兼息子の師匠がウザい踊りと憎たらしい顔芸で煽り、父親がぐぬぬと悔しそうにし、それを妻と師の友人が冷ややかな目で見るという何とも形容しがたい光景が完成したのだった。

 

 それを遠目から見ていたレイとオーウェンはと言うと――、

 

「……何ですか、あの状況は」

「……またハクランさんが何かやったんだろう」

 

 ため息をつき、心の中で『ハクランさんマジでスカドさんに引き渡してやろうか』と呟いた後、自身の友の方へと顔を向けた。

 

「……行こう。お前を両親に紹介したい」

「……ええ!」

 

 そうして二人は、両親たちの下へと向かった――。

 




補足説明

前書きにも書いたとおり、以前の話は削除して書き直しました。描写や説明が明らかに足りていないと判断したので。日記形式に慣れてしまうと、普通の文が書きづらくなる……。

そして書き直して思った。やはりこの二人、本当に十歳か? 実は十七歳なんじゃねえの、と。木刀とか折ってるのは変えてないし。
戦闘描写等も少し追加しました。しかし、下手糞だな……。もう少し頑張らねえと……。それと、オーウェン相手だと勘違いが息して無いような……?

オーウェンがライバル渇望云々は勿論公式ではありません。ただ王女の護衛を任されるレベルの実力を原作時点で持っているのなら、この年齢でも結構な腕前だろうしそれに応じた相手を欲しているのでは? と思った結果こんな感じになりました。……ライバル関係、良いよね(ボソッ。

それと主人公の容姿なのですが、流星のロックマンのソロの髪と瞳の色を変え、左目の下のペイントを消した姿が作者のイメージに一番近かったりします。尚左利き。

主人公の刀の振り方は、XシリーズとZシリーズを参考。模擬戦の連続斬りは、オメガの乱舞をイメージ。

最後に出てきたドルドさんとミナさん。そして突然のキャラ崩壊。いや、シリアスのみってのは無理です。作者の気質的に。ちょっとふざけ過ぎたかもしれませんが、大体こんな感じでちょいちょいギャグを挟んでいくスタイルだと思ってください。そうじゃないと持たない……。

今回の話の書き直しに時間を使ってしまったので、次話はもう少しお待ちください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。