前回までのあらすじ
レイ、オーウェンと模擬戦を行う。その後、友達になる。
Υ月 Ξ日
オーウェン君との模擬戦から一日が経ったわけなんだが……ヒャッフゥ――――! とうとう俺にも友達が出来たぜぇッ!! イエエエエアアアアアッ!!!
興奮しすぎてウザい? キャラがいつも以上に崩壊している? はっはっは、我慢してくれたまえ。あまりの喜びに私のテンションが天元突破しているのだよ。ちなみに両親に紹介した瞬間、その二人も天元突破しました。周りが引いてた気もするけど、私は一向に構わんッ!
いやぁー、嬉しいね。前世の記憶はネタとかロックマンの事とか一部しか覚えてないからアレだけど、初めての友達っていうのは心に来るものがあるねえ。あ、模擬戦の後は母さんが持ってきてくれたお弁当を全員で一緒に頂きました。上手かったっす。
それと紹介の後、父さんから一言貰った。「友達は絶対に大事にしろよ」と。もちろんそのつもりであるので、素直に返事を返した。それに満足したのか、何やらカーターさんと語ってた。
それとオーウェン君、口数が少なくても、嫌な顔一つせずに普通に接してくれるとか、マジでいい子すぎるでしょ彼。俺が女の子だったら惚れてるよ。
……たださ、一つだけ言ってもいいかな?
何あの子、滅茶苦茶強すぎるでしょ!?
模擬戦の時はこっちも負けじと全力で戦ってから何とも思わなかったけど、動きとか明らかに十歳じゃないでしょ!?
特に剣の軌道! 何あの変幻自在な動き!? 色々可笑しくない!?
え、何、王都にいる騎士見習いの子って全員あんな動きすんの? これマジなの? ……だとしたら騎士じゃなくて、明らかにKISHIだわ。もしくは騎士様。そんでアレか? 将来的には剣からビーム出したり、特定の時間では3倍バスターゴリラになったりすんの? ――いや、怖すぎんだろ!! い、いくら友達でも、そんな風にはなって欲しくは無いかなぁ~(汗)。
ま、まあ、彼なら大丈夫だと信じたい。そもそも世界が違うし。少なくとも型月では無いのは明らかだし。……負けず劣らず、神秘やら非ィ科学的なものが蔓延してるけど。俺も使ってるし。というか、それがあったからゼロを目指して頑張ってる訳だし。
とにもかくにも、ハクラン式ブートキャンプ受けてて良かったわマジで。それが無かったら、明らかに負けていた上に友達になれなかった。というか本当に何で相手を俺にしたし。……あれ? 今思えばハクランさん、意外なところで大活躍してね? 【空円舞】と【飛燕脚】の件といい、今回の件といい。普段がアレなせいか、俺の中の評価の浮き沈みが激しすぎるけど。
Υ月 σ日
今日は修行がお休みだった。師曰く、何やら山が少し騒がしいとか。その調査で修行出来ないから好きにしとけとの事。という訳でオーウェン君と雑談っす。
彼と話をしたんだけど、どうやら彼は父のような立派な騎士を目指して頑張っているらしい。父と同じように、王国を守りたいのだとか。うんうん、立派な事d――え? 守りたいという心は貴方も同じでしょう? その為に鍛錬を積んでいる? ……ちょっと待てどういうことだ? 一体何がなにやらさっぱりなんですが……。
Υ月 Π日
あっはっはー。何このワロエナイ状況は。あの後ハクランさんやカーターさんにバレない程度に探りを入れた結果、俺の知らない間に色々と誤解的なサムシングが生じてしまっていたようだ。俺は『自分の命を守りたい』って言ったのに、黙り癖+αのせいで『大切なモノを守りたい』『無感情だけど心の強い人』って変換されてるっぽいわ。どうしてこうなった。孤立してんのは否定しないが。
しかも自己鍛錬やハクラン式ブートキャンプに参加した影響で、今の年齢ではかなりの腕になっている上、オーウェン君は騎士見習いのトップクラスの腕で、ハクランさんとカーターさんは王国の上位クラスの腕で…………もうね、俺の頭脳回路がオーバーヒート起こしてる。本当にどうしてこうなったし。俺そんな英雄とか目指して無いんですけど。ゼロの技を習得したいだけの一般人(いや、既に逸般人か?)なんすけど。
確かにゼロに憧れてないと言えばそれは嘘になる。子供の時から、友であるエックスと共に戦うカッコいい人物だとずっと思っていた。まあ、何だ。要は俺に取って、少年時代に憧れたヒーローがゼロだってことだ。それは今も変わってない。
でも俺は彼のような鋼鉄で誇りのある精神力は持ち合わせていないのだ。特にZ版のゼロの精神の強さはおかしい。本当に尊敬するレベル、というか尊敬してますわ。
ま、そんな事から俺はせめて技だけでもと頑張っているのでした~……――って、違う違う、そうじゃない。話が大幅に脱線した。本題はこれからどうするかだ。流石に今までの行動を全否定……は難しいよなぁ……。そもそも俺自身全部把握できてるかどうかすら怪しいし。
クッソ、自分で撒いてしまった種とはいえ、まさか何処かのラノベや二次創作の主人公みたいな状況になるとか本っ当に予想外なんだが。とにかく解決策か改善策を導き出さないと……。
Ω月 α日
さて、あれから二日が経ったのだが……とりあえず、現状維持の方向に努める事にした。
ちなみに強さの方はすでに開き直っている。割ととんでもない腕前になってしまった? ――違う、逆に考えるんだ。このまま強くなっちゃってもいいさと。そう、つまりは腕前の方も特A級ハンターを目指してしまえばいいのだと思う事にした。こっちの方が俺らしい考えだし。強い分にはこした事は無いだろうし。
それにこれだけの強さがあったからこそ、オーウェン君と友達になれたのだ。彼とはこれからも友人でありたいので、尚更強くなる理由が増えたというもの。本末転倒? 知らんな、そんな事。
だ・が・し・か・し! このままでは今までの二の舞となるのは確実だ。その為、黙り癖の解消と言語補正の解除。正直コイツらが一番悪さしてる。さらには、目立たないように出来るだけ大人しくしているつもりだ。ただし技の習得時は自重しない……って、結局変わらないのか? だが、そうすれば多少はマシになる…………はずだ。なるといいなぁ……。
……うん。でも少しは楽になった。色々な意味で。ちょっと騙してる感が拭えないが……これは仕方無いと思う事にしよう。
Ω月 Z日
ちょっとこの十日間近く忙しかったから日記が書けなかったんだが………何と! ゼットセイバーが使えるようになりました!!
――剣限定で偶に!!
刀じゃないのか? ザンネン、まだ刀では試して無いんだな~。それに剣での成功率も六割前後だし。そんな状態で挑めば、間違いなく折れる。多分爆発四散する。
とりあえずどうやって成功したか。それを説明しよう。
オーウェン君との模擬戦後、訓練の内容に彼との模擬戦を例のあの人が追加しやがりました。その結果、オーウェン君と
――何という事をしてくれたのでしょう。
少し前までは物凄く真面目だったオーウェン少年が、「ふふふ……
さらにはカーターさんまで「ふ……息子が楽しそうで何よりだ」と止める気配すら感じられません。例のあの人はむしろ煽ってくる始末となりました。
レイ少年の訓練は、身体だけでなく精神まで甚振られる悲劇的ビフォー・アフターを遂げたのです。
――と、誰がどう見ても失敗にしか思えないビフォー・アフターのダメージを減らす為に、それらの記憶を隅に追いやって、ごちゃごちゃ考えずに心を無にした状態で励み続けた結果……成功してしまったのだ!!
色は緑! 形はX版の湾刀状! 属性は風! 俺のオリジナルセイバーを!!
成功した時はあまりの嬉しさに思わず変な声が出ちまったわ。「ハーハッハッハ!!」って。いや、どこの
傍から見たら狂人にしか見えねえし。一緒にいたオーウェン君も、思いっきり目を見開いてたし。
けどれでやっと第一の目標達成のゴールが見えてきた。……長かった。本ッ当に長かった!! まだ刀で出来た訳じゃ無いし課題も多いけど、それでもここまで辿りつけたのは心の底から嬉しかった。もう普段のキャラとかかなぐり捨てる、というか思いっきりキャラ崩壊起こして黙り癖が若干仕事してなかったけど、それ位だった。
ちなみにコツとしては、良く漫画とかで言ったりする『武器は身体の一部』ってやつだと思われる。腕を動かすのに一々脳内で考えたりしないのと一緒で、自然体に…………説明するのが微妙に難しいな、これ。まあ、そんな感じだろう。
良し、今の気分は最高だ。友達もでき、魔法剣も成功。この調子で今日やる予定の山での実践訓練も乗り切ってくれるわ!! 何か忘れてる気もするが、それは気にしない!!
さぁ、いつもよりも熱い戦いを期待しているよ。行くぞぉぉぉぉ!!!
◇ ◇ ◇
日記を書いた後、レイはやたらハイテンションな状態で山の入口へと向かった。
いつもなら駐屯所へと真っ直ぐに向かうのだが、今日は違う。今回行われるのは、魔物との戦闘を経験する実践訓練(しかも合同)。最近の山の事情を考えて控えるかどうか迷っていたらしいが、それもまた経験だという事で決行になった。その為に集合場所は駐屯所では無いのだ。
歩く事数分、待ち合わせの場所へ向かうと既にオーウェンが居た。どうやらかなり早く着いたらしく、素振りをしていたようだ。向こうも気づいたらしく、手を止めて小さく手を振っていた。
「……早いな」
「三十分前行動は基本ですから」
「普通、十五分か十分じゃないのか……?」
大体今それ位の時刻だし。軽く首を傾げつつも、今日の内容について確認。その時に、師であるハクラン達からの伝言として五分~十分程度遅れるとの事だった。
オーウェンはともかくレイは初めての実戦なので、何があっても対処できる為の準備に時間がかかるのだろう。カーターさんは言わずもがな、ハクランさんもそういう所はしっかりとしてるし。そう考えたレイはオーウェンとの雑談で時間を潰すことにした。
「……明日には王都に戻るらしいな」
「ええ、見習いとしての訓練がまだありますので。……少々名残惜しいですが」
「それはこっちもだ。……お前には世話になった。魔法剣を教えてくれただけでなく、
友人にまでなってくれるとはな」
「お礼を言われるほどの事はしていません。それに、友になりたかったのは私もなんですから」
「……そうか」
「それと魔法剣が成功したのは何よりなんですが……あの笑い方は――」
「頼む、アレは忘れてくれ。後生だから」
うなだれながらオーウェンに懇願する。散々黒歴史を作っているというのに、この男未だに学習していない。――対して彼は、
そんな友人に免じ、言葉では忘れると言って話題を変える。
「それはそうと、後は刀で成功させるだけですね。剣では出来たのですし」
「ああ。……まだ成功率は半々に近いから、当分先にはなるだろうが。出来る事なら、お前がいる間に完成させたかったのだがな……」
「仕方がありませんよ。そもそも刀で行う事自体殆んどないのですから。……一つ思ったのですが、魔法刀を習得した後はどうするのですか?」
「どうする……とは?」
「いえ、レイは騎士を目指しているわけでは無いと知っています。……というより、
勧誘を断られましたしね。やりたい事があると言ってましたし」
(――すっかり忘れてたぁぁぁああ!!)
実は二日前、オーウェンから一緒に騎士を目指さないかとレイは勧誘を受けていた。彼曰く、魔法剣が扱える上に実力も問題無しなら、今から勉学に励んではどうかと。しかもカーターさんのお墨付きで。尚、当の本人は「嘘だろォォオオオオ!?」と内心大パニックになったそうな。そりゃそうだ。まさかそんな事が起きるなんて、考えてすらいなかったのだから。
しかし「俺はそんな奴じゃない」とかほざいたところで聞き入れて貰えない……というか、絶対に言えないので理由をつけて断る事にしたのだ。
ちなみに断った理由として、自分にやりたいことがあるからと伝えた。……ウソの様で本当である。一応、自分にはゼロの技を再現するという目標がある。だと言うのに騎士を目指したら、そんな時間は無くなってしまうだろう。
第一、自分は彼のような立派な志を持ち合わせていない。そんな奴が王国を守る等冗談にも程がある。他の騎士見習いの方が数百倍マシというものだ。
……という事があったのだが、この男。その場凌ぎで答えたがために、細かい内容までは考えていなかったのだ。ハッキリ言ってバカである。
だからと言って、正直に話す事は絶対に出来ない。ゼロという人物はこの世界には居ないのだし、転生云々は話した瞬間即アウト。精神異常者の診断を受けてしまうだろう。レイは内心で焦りまくった。それこそ冷や汗が滝の如く滴り落ちるレベルで。
(うわぁ……ど、ど、どうすればいいんだ!? えーとえーとえーと……)
けれども普段の言語補正もとい黙り癖がここでも作用したからか、表には全く出ていないようだ。現に、オーウェンは特に何も言って来ない。この時ばかりはそれに感謝した。
しかし答えが得られたわけでは無い事には変わりない。いつまでも口を開かない事を疑問に思ったのだろう。彼が首を傾げながら聞いてきた。
「……? どうしたのですか?」
「あ、ああ、いや……」
絶対絶命。――いや、この男の場合は自業自得と言うべきか。
年貢の納め時が来たのだろう。素直に、何も考えていませんでしたと白状しようかと腹を括った時――。
「きゃぁぁぁあああああ!!!!」
突如、山からの悲鳴が二人の耳に飛び込んできた。
「な、何だ!?」
「どうやら奥から聞こえてきた様です! 行きましょう、レイ!!」
「あ、おい!?」
言い終わるが早いか、オーウェンがこちらの言葉を聞く暇も無く走って行った。レイは一瞬迷ったものの、そのまま一人で行かせる訳にもいかないと判断し、急いで後を追った。
◇ ◇ ◇
走る。走る。走る。悲鳴の聞こえてきた方向へと、レイとオーウェンは急いで向かう。
走る事数分。木々の生い茂る、奥に近い部分へとやってきたが、一向に声の主は見つからない。何処かで見逃している可能性も有る為、足を止めて辺りを見回す。が、やはり見つからない。
「一体何処に……?」
「――! あそこです!!」
どうやら見つかったらしく、オーウェンが指を指す。その方向を見ると、ここから二十メートル近く離れた先の開けた場所に、悲鳴の主であろう少年と少女の二人と、岩の様な魔物の姿を捉えた。
少年の方は背後の女の子を庇おうとしているのか、拾ったらしい木の棒で震えながらも立ち向かおうとしていた。
対して魔物の方はそんな事など意に介さずと言わんばかりに、その大きな腕を振りかぶっていた。距離は遠くない。だがタイミングが遅かった。まだ攻撃に入っていなかったのなら良かったものの、既に腕を空へと掲げて後は振り下ろすだけの状況だ。――走ってもギリギリ間に合わないだろう。
「くっ……一体どうすれば……!」
「頼むから間に合えよ……!」
呟きと共に足を止める。左手を添えた右腕の照準を魔物の胴体に合わせて、魔力を集中させてチャージを開始。
確かに距離は少々離れてるし、走りながら撃つのには慣れていない。が、相手は大型の魔物。的にしては随分と大きいし、こちらには気づいてない。その上、視界を塞ぐようなものも射線上に無いという好条件。反動のブレを考慮しても、ほぼ外さないだろう。――魔力のチャージが完了する。
「――喰らえ!!」
右手から風の魔法弾が発射され、空を裂きながら勢いよく突き進む。通常よりも一回り大きなそれは魔物の胴体へと迫り衝突、その身体をぐらつかせた。二人はその間に、広場へと到着する。
どうやら注意を引くには十分だったようだ。顔をゆっくりとだが、子供達からこちらへと向けた。その隙にオーウェンが激を飛ばす。
「そこのお二人! 今の内にお逃げ下さい!!」
最初は何が何だか分からなかったらしく、すぐには動けなかったものの、数秒後にはハッと我に返ってその足を動かした。魔物も首を向こうに戻そうとしたが、レイが続けて魔法弾を顔面にピンポイントで撃ち続ける事で、嫌でも意識をこちらに集中させる。本来なら、レイ達も一緒の方がより安全なのだが、今はこれしか手が無かった。二人の無事を祈りつつも、レイとオーウェンは魔物と対峙する。
「こいつは……」
「ゴーレム、ですか。もしや最近山が騒がしいのはコイツのせいなのか……?」
――ゴーレム。土塊や岩や鉱石、はたまた機械等を素材にして作られる人形。
目の前にいる個体は大きさにして2m近く。さらに身体が岩で構成されていることから、ストーンゴーレムだと思われる。ストーンゴーレムは、その巨大な腕による怪力と並みの刃では傷すらつかぬ堅牢な身体を持ち、素材にした鉱石の種類で硬さが変動するという特徴を持つ。しかもこの個体は上質な鉱物を素材にしているらしく、チャージした魔法弾でさえ表面を浅く削る程度だった。
ここでふと疑問が生じる。二人は魔物図鑑でしか見たことないものの、本来ゴーレムは財宝や宮殿、または遺跡などを守る為に配備される存在だと記憶していた。いくら魔を宿して暴走したとはいえ、何故ここに……?
だが、相手は考えている暇を与えてくれない。
「…………!!」
二人を敵と認識したらしく、腕を振り上げて戦闘態勢へと移行した。それを見た二人も武器を構える。
「オーウェン、魔物との戦闘経験は?」
「ラウンドウルフの様な小型とは少々。ですがこのような大型とは初めてですね。レイの方は?」
「生憎だが、こっちは実戦すら初めてだ。……だが、やるしかないのだろうな」
確かにこのまま逃げるという選択肢もあった。しかしこのまま相手が見逃してくれるとは思えない。足は遅いだろうが、横やりを入れた者をそう簡単に逃すとは考えられないからだ。
仮にさっき山を下りた子供達が助けを呼んでくれたとしても、それまではどうあってもゴーレムと向き合うしかない。
結局のところ、戦うという選択肢しか無かった。
しかし、そう言ったレイの手は微かに震えていた。それを見たオーウェンは、ハッと気づく。彼は魔物に襲われたのだ。もしやその恐怖がフラッシュバックしているのではないか、と。
(……ここは、私が彼を守らなければ)
心の中で気を引き締める。尚、当の本人はと言うと……
(いぃぃやぁぁあああ!! 何で初めての実戦がストーンゴーレムなの!? そこはウインドラビットとか土のエレメンタルとかそういうのでしょ!? 何でカッチカッチの人と魔物ミーツボーイ紛いの状況になっちゃったの!? もうやだ、俺の運悪すぎィ!!)
と、微妙に緊張感の無い感じで嘆いていた。
しかしそんな事は露知らないオーウェン。彼の不安(勘違い)を和らげようと、優しく言葉を語りかける。
「大丈夫ですよ、レイ。私がついています」
「オーウェン……。(やだ、何この子超カッコいい……!!)」
だがそれで恐怖は緩和されたようだ。震えは収まり、刀をしっかりと握る事ができた。その事に内心感謝しつつも、相手を見上げて睨みつける。やってやるよコンチクショウめ!! と言わんばかりに。
「……やるぞ、オーウェン!」
「ええ!!」
二人はゴーレムへと疾駆。敵は岩の拳を、彼等は刃を振り上げた――。
――一方その頃。
「やべえやべえ、随分と時間食っちまったな」
「まさかあそこで書類仕事が来るとはな……」
そう言ってハクランとカーターは駐屯所を出る。本来なら準備自体は
もっと早く終わっていた。だがそこへ急な書類が回ってきてしまい、それを処理するのに時間がかかってしまったのだ。こういう事は滅多に無いのだが。
「まさか山にゴーレムが出るとはなぁ……。こりゃ今日の訓練は中止だな」
ハクランのぼやきにカーターが頷いて待ち合わせ場所へと向かおうとした時だ。彼等の下へと、二人の子供が走って来た。――只ならぬ様子で。その事が気になった彼は、事情を聞いた。
「おうおう一体どうしたお前ら? 魔物でも出たか?」
「は、ハクランさん!」
「何だ?」
「おにいちゃんたちが……おにいちゃんたちが……!!」
「――何ぃ!? ゴーレムと戦っているだぁ!?」
思わず叫んでしまう。まさか自分達が手間取っている間にそんな事になっているとは、一体誰が予想できようか。しかもついさっき報告書で纏めていた相手とは。
ハクラン達からすればゴーレムはそこまで脅威では無い。だがレイとオーウェンの
二人は別だ。戦闘経験があるとは言っても対人戦が大半。魔物との戦闘は不慣れ。
その上、レイは実戦未経験と来た。――二人が危ない。そう感じた彼等は山へと急いだ。二人の身を案じながら。
魔法弾をゴーレムへと放ち、属性を引き出した刀で斬りかかる。しかしそれは頑丈な岩の鎧が阻み、弾く。オーウェンも魔法剣で斬りかかるが、表面に浅い傷をつけただけにとどまった。――硬い。
「チィッ!」
「ここまでとは……!」
二人は苦戦していた。ストーンゴーレムの攻撃を避けながら何度も攻撃を仕掛けたものの、全くと言っていい程に通用しない。その事実に舌打ちせずにはいられなかった。
原因は分かっている。属性の相性だ。以前にも言った通り、属性には優劣がある。ストーンゴーレムの属性は土。対するレイとオーウェンは風と水。それだけで見たのならレイは有利と言えただろう。
しかし、攻撃に決め手となるものが無かった。得物が剣なら魔法剣を使う事ができたかもしれない。だが実戦訓練では使い慣れた武器である刀を持って来るように指示された事が、今回に限って災いした。刀ではイマイチ攻撃の通りが悪かったのだ。魔法弾で牽制してはいるものの、大したダメージにはならない。属性魔法もそこまで強力なものは扱えないから、ただの魔力の無駄遣いにしかならないだろう。対するオーウェンは魔法剣が使え、属性魔法もレイよりは強いものが扱えた。しかし、ここで属性の優劣が邪魔をした。彼の水属性は土に弱い。その為、威力が軒並み半減されてしまう事から有効打が与えられずにいた。
さらにゴーレムの攻撃は一撃一撃が強力。動きはそこまで速くは無いものの、避ける事にも集中力を要する為に、神経を酷使する。加えて魔物との戦闘経験不足が足枷となって、余計に疲労が溜まっていた。
(クソッ……! 一体どうすれば……)
このままではマズイ。少しでも状況を変えられないかと、レイは焦りながら攻撃を仕掛ける。――だがこれが仇となった。
「何っ!? ――ぐあっ!」
焦りは動きから精細さを奪う。刀からの属性が途切れている事に気がついていなかったのだ。その為、攻撃は弾かれてしまった。
さらに敵もその隙を逃すほど甘くは無い。生じた隙をゴーレムの放った拳が捕らえ、彼は吹き飛ばされてしまう。刀は手から振り落とされ、宙へと投げ出された身体は数メートル先の木へと背中を打ち付け、そのまま体は地面へと転がった。
「レイ! ――うぐっ!?」
それはオーウェンも同じだった。魔法剣に纏わせていた水の魔力は乱れ、本来の威力を損なっていた。さらにはレイの方にも気を配っていたという事もあり、彼がやられて動揺したところを狙われてゴーレムの腕に捕らえられてしまった。
そしてそのままオーウェンの身体を握りしめた。彼の口から悲鳴が上がる。
「ぐあああああ!!」
「オーウェン!」
楽しいおもちゃを手に入れたかのようにゴーレムは気味悪く目に笑みを浮かべる。そしてこちらを見た。次はお前の番だと告げるかのように。
「に、げてくだ、さい……。今、なら……!」
逃げろ。ゴーレムに掴まれながらも彼はそう言った。――こちらを案じて。しかし反射的にだが、それを受け入れる事は出来なかった。
「だが……!」
「早く……! せめて……貴方だけで、も……」
レイは考える。
確かに相手が悪い。相手に有効打が与えられない事が原因で、今の状況に陥っている。が、奴はオーウェンに気を取られている。そう、逃げるチャンスなのだ。彼だってそれを促している。ならそれを実行したとしても恨まれる筋合いは無い。死ぬのはこっちだってゴメンなのだから。そう――逃げ出すのが最善だ。
思考を巡らせ、その考えに行きついた。なら、後は実行するのみ。
レイは身体を動かす。さっきの拳を喰らったものの、幸運なことに運動に支障が出るようなダメージは無いようだ。
自身の状態を確認しつつもゆっくりと上体を起こす。
そしてそのまま――額を地面へ思いっきり打ち付けた。
(ふざけるな……!!)
鈍い痛みが逆に頭を冴えわたらせた。
自分は今何を考えた? アイツを見捨てる? 自分を友と呼んでくれた存在を見殺しに? こんな事を考えてしまった自分に憤った。
自分は死にたくない。今までそう思いながら強くなってきた。守りたいだの何だのは誤解から生じてしまった出来事に過ぎない。
だが、それは他者を犠牲にすることとはイコールにはならない。
他者の命を食いつぶしてまで自分だけが生き延びる? 親しい者を犠牲にして自身の未来を得る? 友人を死神に差し出して己の生を守る?――そんなのはゴメンだ。臆病なのはともかく、卑怯者になんてなりたくない。
今思っている事は、自分の今までの考えに矛盾するというのは重々承知している。自分勝手だという事も。
それでも……友を失いたくない。自分が死にたくないのと同じくらいに。そう心の底から思ってしまった。
だがどうすればいい。魔法弾はそこまで効いている訳では無い。刀を振るっても通りが悪い。しかも属性が引き出せはいるものの、技量の方はまだ成長過程の域を出ていない。もう手段は……
(――いや、ある。たった一つだけ)
通用するかどうかは自分にも分からない。ただでさえ安定しないソレを、今から
だがそれでもやるしかない。決意と共に痛む身体を起き上がらせ、刀を拾って構えた。
ゴーレムは僅かに存在する思考で考えていた。こいつを潰したら、次はあいつだと。人間とは脆いものだ。この岩の腕で握り、少し力を入れただけで潰れてしまう。しかし、その際に漏らす悲鳴が面白いのだ。自身の親類に遺言を残す者、死にたくないと叫ぶ者等々……様々だった。仲間の目の前でそれを行った事もあった。すると、これがまた楽しいものだった。目の前で悲嘆に暮れ、自分に挑みかかるもあえなく返り討ちに。そして仲間に懺悔しているところで、後を追わせてやる。これが何と気持ちのいいものか。
さて、目の前のコイツを壊したらアイツはどんな風に悲しむかな? そう思った時だ。
「…………?」
何だ? 風の流れが変わった? 天気が変わったのか? だが、いくら山とはいえこんな短時間で変わるものではないはずだ。現に、空を見上げても変化は無い。では何故……。そう考えている時――いきなり風が吹き荒れた。
「…………!!」
はっきりと分かった。この風の変化の原因が。流れを追って、その出所である方向を見ると……さっきまで倒れていた子供が刀を構えていた。
それだけなら然程気にも止める必要は無い。属性を引き出したところで、あの武器では自分を斬れないということが、数分前の戦いで理解できたからだ。だがさっきまでとは様子が違う。そもそも普通の武器では、あれだけの属性が出ないはずだ。
ゴーレムが狼狽えていると、さらに変化が起こった。さっきまで激しく吹いていた暴風が、一気に武器へと収束する事でピタリと収まったのだ。
ゴーレムはその武器を見て、目を見開いた。
その手に握られていたのは、もはや刀であって刀では無い。
刀身を覆うは翡翠の刃。
帯びている風は先ほどとは比べるべくも無く濃密なソレ。
――全てを切り捨てる為の武器。それを体現していた。
だがゴーレムはこれを見た瞬間、何かを感じていた。何だこの悪寒は? この気色の悪い空気は? 自身が宿している属性に対する対抗属性、というのもあるのかもしれない。しかしそれとは違う。この感覚は……。
考えた時には既に攻撃していた。これはもはや反射と言ってもいいだろう。不安要素を消す。その為にも奴を殺さなければ。そう焦りを感じたためでもある。
子供は振りかぶった左の拳を避ける素振りすら見せず、そのまま吸い込まれるように直撃。砂煙が舞い上がった。
「そんな……レイ――!!」
そうだ、この悲鳴だ。これが聞きたかったのだ。何かやろうとしていたが、所詮子供は子供。何も出来はしないのだ。
しかしここで違和感を感じた。確かにアイツは避けようともしなかった。直撃したと考えていい。だが……何故何も感じない? 肉を潰したあの感覚が。骨を砕いた音が。血液に濡れた生暖かさが。
ゴーレムが疑問に思っている内に砂煙が晴れた。そして答えが分かった。何故なら自分の左腕の先が――
「!?!???!?!?!?」
自身を理解不能な現実が襲った。痛みは無い。岩から作られたこの身体に、そんなものなど存在しない。だが、何故だ? 何故こうなった? ……もしやあの子供がやったのか? そう思って目を向ける。するとそこには、
何だアイツは……。何だアイツは……! 何だアイツは……!!
もはや得体のしれない恐怖しか感じられなかった。まるで自分に死を宣告しに来た死神、そう言っても差して変わりは無かった。現に自分の腕を斬り落としたのだ。このまま頭を両断されても可笑しくはないという事まで考えていた。さっきまでおもちゃと馬鹿にしていた人間風情に。それも年端の行かぬ子供に。
しかしそこである考えが思いつく。そ、そうだ! こいつの仲間を盾に――。だが、それをすぐに実行しなかったのは致命的だった。
「ハァッ!!」
跳躍してからの振りおろし。それにより、右腕は掴んでいた人間ごと地へと落ちる。そしてゴーレムは瞬時に悟った。もう自分に残された道は一つ――このまま殺される事なのだと。
足が震える。腕をやられたせいで、上手くバランスが取れない。そのせいで逃げたくても足が動かない。逃げたい。逃げたい。逃げたい。そう願っているところへ、死神がやってきて両足を斬り落とした。バランスが崩れ、そのまま胴体は地面へと倒れ込み、空を拝む。やがて一つの影が太陽の光を遮り、得物を振り上げた。
「消えろ――」
感情の無い声と共に一閃。それがゴーレムの見た最後の光景だった。
◇ ◇ ◇
Ω月 A日
ゴーレムを倒した後、ハクランさんとカーターさんがやってきた。何やらついさっき処理した報告書で魔物の正体がソイツだったそうな。……あのー、セイバーで叩き斬っちゃったんですけど。既に残骸が塵に返りつつあったし。この光景に二人は唖然としてました。そりゃそうだ。実戦初めての奴がいきなりゴーレム倒したらそら誰だって驚くわ。自分でも驚いてるし。
それからは俺とオーウェン君は病院に直行、治療を受けました。幸い俺は打撲、オーウェン君は一部の骨に少しヒビが入っていたものの治療魔法で直せるレベルで済んだので良かった。あ、その時に二人の子供がお礼を言いに来たよ。ありがとうって。どうやら二人は、件の山の魔物を見に行ったらしい。で、そしたら本当に出くわしてしまったとか。余談だが、二人は親にこってりと絞られたらしい。
で、治療が終了したら事情聴取や説教(とは言っても、そこまで重くは無かった)、俺の両親が殴り込m――じゃない、突貫してきたりとでその日は潰れた。
あ、それとセイバーについて少しだけ。どうやらアレは偶々できたらしく、家に帰った後試しにやったら、刀が少し歪んだのですぐに止めた。要修行、だな。
そして今日は、オーウェン君が帰る日だった。見送りには俺と両親、ハクランさんが参加。その際、オーウェン君からお礼と謝罪を言われた。ゴーレムから助けてくれた事、自分は何もできなかった事を。……いや、うん、むしろこっちが謝りたいんだけど。一瞬とは言え、君を見捨てるような事考えちゃったし。とは言え、これをドストレートには言う勇気は無いので、魔法剣等の件でチャラにしといてって伝えた……んだけど、食い下がってきました。いやいやちょっとちょっと、こっちも困ってるんですけど。そんなにお礼を言われる権利こっちには無いんですけど。けれども彼が引かないのは分かっていたので、次にこっちを助けてくれとか言ったら納得してくれた。
それと案の定やりたい事について聞かれました。
そして答えました――マナリア魔法学院に入りたいと。
あれから考えた。ゼロの技の再現、習得。これらと魔法は切っても切り離せない関係だ。それに市販の魔導書では限界がある。【ゼットバスターレックレス】とかならまだしも、【裂光覇】とかは恐らくそれでは無理だろう。しかしそこで俺に電流が走った。なら、王都の魔法学校に入ればいいと。
あそこはこの空域でも最古の魔導図書館でもある。そこになら絶対に、技を完成させるのに必要な魔導書が揃っているはずだからだ。しかし、そこはファータ・グランデ最高峰の魔法学校。入るには相応のレベルが要求される。そこでだ。今から目指して頑張ろうと。
その事を伝えると、お互いに頑張りましょうと言われた。彼は一人前の騎士に、俺は魔法使いに。それぞれの目標に向かって励みましょうと。
そしてオーウェン君とカーターさんは王都への馬車に乗り込んで帰って行った。同じ国内だからまた会えるだろうけど、それがいつかは分からないんだよなぁ……。彼の訓練の都合上、こっちに来れる確率は低いだろうし……手紙は出すとは言ったけども。あー……めっさ寂しいのう……。
――さて! 暗い気分はここまで! 頑張るって約束したんだから、それを果たさないとな!!
今日も訓練に励むとするか! 目指せ! 紅いイレギュラーハンター!!
……その前に黙り癖とかどうにかしないと。
◇ ◇ ◇
「……父上」
「何だ?」
「私は強くなります。今よりも、誰よりも。守る側だったというのに、守られてしまうとは……このままでは騎士として失格です」
「……そうか」
息子の強い決心を秘めた眼に、優しく笑みを浮かべて頭に手をやった。
「……頑張ろうな」
「はい!!」
かくして彼等は別れた。
片や騎士となる為に鍛錬を積み。
片や魔法学院に入る為に勉学に励み。
そして彼等は……七年後に再会するのだった――。
Rei learned "Magic saber"
尚、勘違いに気づいた模様。(ただし、無くなるとは言ってない)
そしてオーウェン君、強化フラグ的なもの成立。
補足説明
魔物がゴーレムな理由? これがやりたかっただけです。セイバー入手といえばZのオープニングステージですし。ただ書いてて思ったけど……もはやどっちが悪役か分かんねえなコレ。最早ゼロじゃなくて覚醒ゼロかオメガだろ。一応シリアル系小説なんですけどねぇ……。
それとゴーレム戦について軽く補足。ただ自分の身を守る為に強くなってた奴が、友人のピンチで何も無しに他の人の為に戦うというのも少し違うかなと思いましたので、若干の葛藤っぽいのを入れました。くどかったらすみません。あ、今回出てきたゴーレムは間違いなくクズです。死すべし慈悲はない。
あと年齢。途中13歳位に書き直そうとも考えましたが止めました。どこぞの小学生は世界救う位の強さがあるんだから、この作品でも問題無いかなと(ネットバトル大好きな小学生とか、宇宙が大好きな小学生とか)。それに、グラブル自体強さとかの基準が微妙に曖昧ですし。あ、別にディスってる訳ではありませんよ?
【お知らせ】
ちょっと駆け足ですが、これで幼少期編は終わりです。一応次話から本編に入りますが、少し書き溜めを作ったりしたいのでお時間を頂く形になります。あ、失踪は余程の事が無い限りはしません。……時間はかなりかかるかもしれませんが。大学も始まってしまったので。実験レポートめんどくせぇ……。
それと投稿ペースは文字数に依存するというのもあるので、中々更新されない場合は「あ、コイツ書き溜め作ってるか、書き直しに時間かかってるか、クッソ長い文書いてるか、修羅場状態か」と思ってお待ち戴けるとありがたいです。一応活動報告で状況報告等は行いますので。
では、しばらくの間姿を消します。また近いうちにお会いしましょう。さようなら。
9/22 ゴーレム戦の一部を改訂。セイバー習得の部分をもう少し目立つようにしてみました。