「ほーん、こういう日常系をやるのね。wktk」
第二話視聴後
「初っぱなから色々アウトじゃね? あと、図書館は毎回滅茶苦茶になるという宿命でも背負っているのか」
個人的には各キャラの出会いとかやって欲しいんですけどねぇ……。オーウェンとアンの出会いは第一話エクストラパートでさらっとやってましたけど、グレアとアンのそれも見てみたい。……執筆時の参考にもなるし。
前回までのあらすじ
レイとオーウェン、マナリアにて再会。その後、オーウェンの部屋にて語り合いを行った模様
辺り一面を薄暗さが包み込む中、それを取り払わんと朝日が僅かに顔を出し始めようとする時刻。未だ大半の生徒達がベッドの中で微睡み学院を静寂が支配しているこの刻限、とある場所からは何かがぶつかり合うような鈍い金属音が鳴り響いていた。
音源となっているのは学院のグラウンド。体育のような、魔法以外の一般科目で利用されることの多いこの場所で、二つの影がぶつかり合っていた。
「せあああっ!!」
「なんの!!」
その二つの影の正体は二人の男子生徒。片や青いジャージを身につけて意匠の施された剣を携え、片や赤いジャージを着用して鈍く光る刀を持つ。
彼らは互いの得物を以て激しく衝突していた。片方が距離を取ればもう片方が詰め、両方が静止したかに思えば数合の打ち合いが発生してからの膠着、弾けるように離れた後の距離の詰め合いと牽制。この様な光景が先ほどより何度も展開されていた。
――まあ、その二人はレイとオーウェンなのだが。
ここで、一体何がどうしてこうなっているのかを軽く説明しよう。
事の発端となったのは、先日オーウェンの部屋で行われた近況報告会。七年間会うことが出来なかった二人は、空白の期間を少しでも埋めようとその間に起こったことを話していた。騎士の訓練はとても実りのあるものでしたとか、魔法の勉強にはかなり手こずったという具合に。
そして話は佳境に入り、レイがハクランとの特訓に関することを持ち出した時だ。座学の合間にも鍛錬は行っていたという話をした瞬間、
『レイ。明日の早朝より共に鍛錬を行いませんか?』
と、がっしりと肩を掴みながら即座に言ってきたのだった。それはもう、とんでもない速さで。
そして七年間のことを話していたはずの近況報告会は、いつしか翌日の鍛錬の打ち合わせへと変わっており、場所や時間などを決めてお開きとなった。
そして迎えた翌朝。早朝でも使用できるグラウンドに集合して走りこみや素振りなどの基礎トレーニングを終わらせ、魔法の使用禁止という条件下で剣を交えて今に至る訳である。
なお、レイはこのことに関して『あ……ありのまま今起こったことを話すぜ! 俺はオーウェン君と近況報告をしていたと思っていたら、いつの間にか鍛錬の話し合いになっていた。な……何を言っているのか分からねーと思うが(ry』と日記に綴っていた。以上、説明終了。場面は二人の戦いへと戻る。
「はぁッ!!」
上方から刀が空を切り裂いてオーウェンへと肉薄する。
彼は剣で軌道を逸らして切り返す。レイはそれを体裁きで躱しながらも絶えず攻撃を仕掛け、オーウェンはそれを防ぎながらも剣戟を放つ。
数にして二十程の打ち合いを経た後、両者の剣がぶつかり合って拮抗状態となった。双方共に相手を無理矢理押し込もうと、自身の握る力をさらに強くなっていく。
数秒間の時が流れてこのまま睨み合いが続くと思った後、オーウェンが仕掛けた。相手の刃を横へと受け流したのだ。
これによってレイは隙だらけとなる。当然ながらこれを逃すはずもなく、がら空きとなった首筋目掛けて剣を振り抜いた。
武器での防御はどうやっても間に合わない。かと言って後ろに退いたとしてもギリギリ躱せるか否かの距離。防御と回避、そのどちらも解としては成り立たない。
ならばどうするのか。相手は退くことも避けることもせず、逆にオーウェンに向かって突っ込んできた。
それも只突っ込むのではない。剣の軌道修正がギリギリ間に合わないところから前傾姿勢で行うことで、剣を素通りさせるのと同時に懐へと潜り込んだのだ。
その大胆な避け方に驚愕しながらも、オーウェンはすぐに後ろへと下がった。空を切った事で生じた僅かな時間。それを狙って相手が刀を振り上げるのを一瞬先に目にしたからだった。
即座に取った後退によって胴を狙った一撃は寸でのところで空振りに終わる。直後、レイは腕を上げきったと同時に地面を蹴った。
開いたオーウェンとの距離を一気に詰め、加速の勢いを上乗せした薙ぎ払いを繰り出す。
咄嗟に剣をぶつけて追撃を防ぎきる。そして反撃へと移ろうとしたが――続く斬撃が彼を襲った。
「ハッオリャッ! ハットウッオリャ――ハァッ!!」
「ぐっ……!?」
先の一撃である横薙ぎから続く斬撃。振り下ろし、斬り上げ、袈裟斬り、大上段、振り上げ、そして最後の締めとなる跳躍の勢いを上乗せした斬り上げ。相手に反撃の隙を与えぬ怒濤の七連撃。
全ての攻撃をオーウェンは何とか防いだものの、威力までは殺し切れずに後退しそうになる。
それでも両足に力を込めて何とか踏みとどまり、攻撃後の隙を晒しているレイへと一撃放った。
無防備な状態となっているレイにこれを躱す術は無い。刀を反転させて受けたものの、数メートル先へと弾き飛ばされた。これによって、先ほどまで零だったお互いの距離は数メートルの間が開き、状況的には仕切り直しといったところになった。
飛ばされたレイは態勢を立て直し、刀を構え直す。それを視界に納めながらオーウェンは内心で溢した。
(相変わらず見事な腕前だ……!!)
先の強行突破や以前とは比べものにならない剣速や剣圧、返しに対する防御を含めた剣の技量。七年前よりも遙かに上達している。
技量だけではない。相手の一切の行動を動じること無く対処する判断能力も磨かれていた。この分では、こちらがどのような攻撃を仕掛けたとしても顔色一つ変えずに防ぎきるだろう。
しかし、それはオーウェンの戦意を喪失させる理由とはならなかった。――むしろ逆。彼の心に火を付けていた。それでこそ自身が好敵手と定めた相手だと。
ならばこそこちらも全てをぶつけられるというもの。身体から湧き上がるような高揚感から口元がつり上がりながらも、剣を構え直した。まだまだ勝負はこれからなのだと。
一方、レイはというと――
(……やっぱりこの子強すぎだと思う(震え声))
物凄く動揺しまくっていた。冷静? 動じない心? 何それ美味しいの? と言わんばかりに心が波立っていた。というか必死に食らいつくので精一杯である。口や顔に出ていないのは、時折仕事する黙り癖(笑)のおかげだろう。
この七年間で強くなっているのは自分だけではない。何せ自身の師という、変態に片足どころか底を突き破って全身丸々ダイブしている人物の所属する騎士団に入団出来る位なのだ。並大抵の努力では勤まるはずもないし、彼の友人がその程度で済ますはずが無いと。そう理解はしていたのだ。理解はしていたのだが……。
(メシア乱舞を全段裁いた上に反撃してくるとか、予想すらしてなかったわ)
先ほどの連続斬り――彼が目指すイレギュラーハンター、そのオリジナルボディを使用せし紅き破壊神たる
原作の様な『間合いに入ったら防御不可』という理不尽極まる性能までは再現出来ていないとはいえ、レイが習得している技の中では練度は群を抜いていた。
故にこれなら決められるだろう。そう踏んで繰り出したのだが……結果は散々なものである。防ぎきられたという事実には彼も内心歯噛みするしかなかった。
少しはあの英雄に近づけたと思ったのだが……やはりまだまだだ。
相手がかなりの腕前を誇るというのを差し引いたとしても、全段防がれたことは己の技量が足りていないという証拠でもある。これでは笑い話にもならない。
確かに自分がやっていることは笑い話の類いであるのは明確だ。他者が聞けば馬鹿にし、嘲笑するのも目に見えている。
しかし、それでも自分はあの背中に憧れたからこそ今までやってきたのだ。心が弱い、精神もそこまで強い訳では無くとも、強さだけはそうであろうと。なればこそ、自身を好敵手と見てくれた友人に勝つ位のことはしなければ。
悔しさはあったものの、その顔は思い詰めているものではなかった。
彼もこの戦いを楽しんでいるのだ。普段口ではどうこう言っているものの、彼自身戦うことの楽しさというものは理解出来る。打ち合っている時は闘争心が燃えるし、感情も高ぶって心が熱くなる。切磋琢磨して競い合うことが気持ちいいものであり、心底楽しいものだということを知っているからだ。
それに技量が不十分ということは、言い換えてしまえばそれだけ鍛え上げる余地があるということでもある。彼の英雄が戦闘の中で強さを増していったように、自分もまだまだ強くなれるはずだ。
「あの背中は遠い、か……」
「どうかされましたか?」
いや、何でも無い。そう言ってレイは刀を構える。
「……続きだ。さっきのは防がれたが、次は通させてもらうぞ」
「ふっ……いいでしょう。どのような攻撃であろうと悉く受けきってみせます」
「言ってくれるな……!!」
開いていた距離は零となり、激しい刃の押収が始まる。彼ら二人の戦いは、朝日が昇った後も続いたのだった。
ちなみにレイが
◇ ◇ ◇
早朝の鍛錬が終わって学生寮へ戻ったレイとオーウェンは、制服に着替えた後に寮を後にした。本日行われるのは入学式。新入生である彼ら二人はそれに参加する為に、会場である大講堂へと向かわなければならない。
しかし一般生徒であるレイと異なり、オーウェンには護衛の任務がある。いくら初日とはいえ一人で向かわせる訳にはいかない為に、共に行動することを申し出ていたのだった。
待ち合わせ場所や時間も既に決まっている。その事を聞いたレイは、自分とは別行動になるのだと判断した。いくら友人とはいえ、部外者にあたる己が居るのは話が違うからだ。そう思っていたのだが――
(俺まで一緒に行くことなるなんて……)
現在、護衛騎士である彼と共に待ち合わせ場所へと向かうべくサクラの映える通りを突き進んでいた。
というのも、レイが一人で向かおうとしたらオーウェンに待ったを掛けられたのだ。"あの方"とは同じ生徒なのですから顔くらい出してはいかがでしょうか、と。そのことからこうして同伴しているのだ。
(やっべー……マジやっべー……本当にどうすりゃいいんだ)
横を歩いているコイツは緊張のあまり胃が痛くなりかけているが。
理由を挙げるとするならば、護衛相手が王国の重要人物であることが確定しているからだ。
王国の騎士団所属のオーウェンが派遣されていることや、彼が相手を"あの方"を呼んでいることなどから、護衛対象は有数の貴族ないしは魔法の名家の人間である位の想像はつく。そんな人物と会うとくればこうなるのも仕方無いとも言える。
加えてレイはマナリア魔法学院に入学出来たとはいえ、育った家は貴族でも名家でもない田舎の一般家庭だ。相手に失礼なことをしないか、不敬扱いされないかどうかが不安の種となっている。以前よりはマシになったとはいえ言葉や反応は素っ気ないものだし、同年代としてはあまり話さない方であるのに変わらない。人によってはこちらの反応に眉を顰める恐れがある。
そこへさらに相手の情報が皆無と来た。当然といえば当然なのだが、こうして歩いている間に少しでも聞き出すという方法もあったのにコイツはやらなかったのだ。
強いて言えば、服装に対して思考を割くことで緊張を解そうとしていたこと。制服は前世の記憶にある制服とほぼ同じだとか、この世界を含めたファンタジー系の服装は色々混ざりすぎて基準が曖昧だとか、アウギュステの水着は素材諸共前世のそれと遜色無かったとか、フンドシやユカタビラというジャパンを代表する服があるのが謎すぎるとか、多くの種族や星晶獣というやべーやつらが共存してるから曖昧なんだろうかとか、創造神よもう少しどうにかならなかったのかとか。
服装といえばレイとオーウェンが身につけている制服。これはデザインは共通であるというのはこの世界でも変わらないのだが、ズボンとネクタイの色は学院から指定されている色の中から任意のものを選べるという点が違っている。その為、オーウェンは群青色のものを身につけているのに対してレイは深紅色のものを着用している。
ここまでくると一種の嫌がらせの様にも思えてくるかもしれないが、当然ながらオーウェンはレイの内心を知りもしないし悪意なんて欠片もない。護衛相手とレイが互いに良き学友になれればという、二人に対する善意100%からの行動である。
各々違う思いを抱きつつ歩を進めていくと、目的地であろう一際大きなサクラの木が目に映った。オーウェンが足を止めていることから、ここであっているらしい。
「ふむ……予定通り早めに着きましたね」
木の下で待ちましょう。その言葉に頷き、揃って木の下で待機する。
待ち合わせの時刻より前に到着したので相手は来ていない。内心ホッとしてはいるものの、会うということに変わりは無い。
待ち時間を利用して彼から相手に関する話を伺うべきか否かと考えつつ、言葉使いとかどうすりゃいいんだよと思ったことで胃の痛みが本格的なものとなった。
鈍痛を発する腹部を摩ろうと手をやろうとした時、オーウェンが口を開いた。
「レイ、一つよろしいでしょうか」
「何だ?」
「これから"あの方"と会うわけですが、その……可能な限り普通に接していただけますか?」
「普通……?」
レイが頭に疑問符を浮かべて返すと、彼は頷いて話し始めた。
オーウェン曰く、"あの方"は立場の関係で生まれ育った場所からほとんど外に出たことが無いらしい。その為に同年代との関わりもさることながら、世間知らずだという。
それにその人物は一人の生徒として学院生活を送るのを望んでいるらしい。だからこそ色眼鏡で見ず、一学生として接して欲しいとのことだった。
(色眼鏡で見ず、か……)
だとすれば、先ほどまで抱いていた考えは改めるべきなのだろう。ある程度の礼儀は必要だろうが、必要以上のものは目の前の護衛騎士が言ったことに反するからだ。
第三者が聞けば気にするのも仕方がないと思える内容ではあるものの、それこそ偏見を持った行動だともとれる。
口にはしていないから、頼んできた彼はこちらが思っていたことを知ることは無いだろう。決して。しかしだからといってそのままにしておくものではない。自分だってある意味先入観の塊のようなものなのだから。
「……分かった、出来る限りはそうしよう。で、その相手というのは一体どんな人物なんだ?」
「それはですね――」
「あ、いたいた!」
二人の耳にはつらつとした声が飛び込む。
聞こえた方向へ顔を向けると、一人の女子生徒が手を振りながらこちらへと走ってきた。
身を包んでいるのはレイ達と同じ意匠の上着に空色のスカート。くりっとした目に腰辺りまで伸ばした橙の鮮やかな髪。活発そうな雰囲気を纏った、笑顔が似合う如何にも可愛らしい女の子だった。
「おはよう、オーウェン! 今日は待ちに待った入学式だね!!」
「おはようございます、姫様。今日という日を迎えられたことを私も大変喜ばしく思います」
「あはは……。相変わらず堅いなぁ……」
そう言って彼女は苦笑いをした後、隣にいるレイへと目を移動させる。
「えーと、こっちの人は? もしかしてオーウェンの友達?」
「はい。彼は友人のレイです」
「そうなんだ! あ、私はアンだよ、よろしくね!」
「あ、ああ、こちらこそよろしく頼む」
若干たじろぎながらもレイも挨拶を返す。というのも、彼女の名前がある人物と同じものであったことが頭に引っかかったせいである。
それを確認する為にもオーウェンへと振り向いて小声で話しかけた。
「(オーウェン、もしや彼女は……)」
「(ええ。マナリア王国の姫君、第一王女のアン様その人です)」
(おおう、マジですか……)
驚き半分納得半分といった感じで彼女をじっと見る。
マナリアの王女――アン。レイも多少なりとも知ってはいる。生まれ持った魔法の才をも。まさかオーウェンの護衛相手だとは思わなかったものの、これには納得である。
学院ではある程度安全が配慮されているとはいえ、一人で放っておけば何があるか分からない。
ましてや魔法の才があるというのであれば尚更のこと。その身に何かがあっては国家の一大事に繋がるだろう。
レイが黙っていることを疑問に思ったのだろうか、アンが言葉を投げてきた。
「どうしたの? こっちをじっと見て」
「……まさかオーウェンの護衛相手がこの国の王女で、しかも同じ新入生とは思っても
みなかったからな。癇に障ったのならすまない」
「ああ、大丈夫大丈夫。王女といっても今は一人の生徒だから」
気にしていないという風に答えた後、オーウェンの方を向いて笑みを浮かべた。
「でも良かった、オーウェンにも友達が出来て。オーウェンって少し堅すぎるきらいがあるからさ、ちょっとそこの部分が心配だったんだ」
「いえ、彼とは昔知り合った仲でして。お互い長い間会えなかったのですが、この魔法学院で偶然再会したのです」
「そうなの?」
「ああ。偶然、な」
友人の間柄になったのは前日ではなく七年前からです。長い間会えなかったのですが、昨日偶然再会することになりまして」
「へぇー、そうなんだ。……あれ、ということはレイも騎士だったりするの?」
「俺は只の魔法剣士にすぎない。オーウェンとは師の繋がりで出会った、
いいや、俺は只の魔法剣士にすぎない。オーウェンとは師の繋がりで知り合った……最初の友だ」
そう答えると、アンの顔が輝いた。何か嬉しいことでもあったかのように。
「私と一緒だね!」
「一緒……というと、アンタもそうなのか?」
「うん。私の初めての友達もオーウェンなんだ」
お互いに共通点があったことをレイは嬉しく思う。
だがそこで、はたときはたと気づく。先ほどまでの会話でそのような内容には一言も触れていなかったが、それは……。
真偽を確かめる為にも隣の護衛騎士へ視線を向けると、こちらの意図が伝わったのだろう。相手は困った表情で答えた。
「姫様のご厚意で、一応はその様な関係を取らせて頂いています。……護衛である私には恐れ多いことですが」
成る程、そういうことね。
だがその答えに不満だったのか、彼女は若干頬を膨らませていた。
「もう、そういうのは無しでって言ってるのにさー……」
「ですが私は姫様の……」
「従者だから、でしょ? 私としてはもっと砕けた感じでいいと思ってるのに……」
アンは肩をすくめながら首を振る。
主君である彼女からすればもっとフランクに接して欲しいのだろうが、従者であるオーウェンからすればそういう訳にもいかないのだろう。真面目なあの子だから余計にそうなんだろうね、とレイは考えていた。
この件に関しては、このまま当人同士で話し合って貰うのが一番の解決策ではある。けれども今は入学式の前。加えて時間もそれなりに経っているので、止めに入ることにした。
「そうやって話をするのはいいが……時間は大丈夫なのか? 入学式に遅刻はシャレにならんと思うんだが」
「あ、確かに。そろそろ向かわないと遅れちゃうね」
じゃあ、このことは後でね。そう言って彼女は話を切った。
「それじゃ、行こっか! 他の新入生とも仲良くなりたいしね!!」
皆と友達になれるかな? 言うが早いか、アンは颯爽と駆け出す。突然の出来事に一瞬反応が遅れたオーウェンも、慌てて後を追うように走り出した。
「姫様、お気持ちは分かりますがもう少し落ち着いて参りましょう! でなければ転ばれますよ!!」
「平気平気! ほら、急いで行こうよ!!」
オーウェンの声に彼女は耳も貸さない。レイはその光景を見ながら、元気な人達だなぁ……、と半ば呆れつつも後に続いたのだった。
オマケ
「ぜぇ……ぜぇ……」
「大丈夫か? 随分と息が上がっているようだが……」
「ええ、何とか……あんなにも活発なお方だとは思いも寄りませんでした。それに何時転ばれたりぶつかったりするかと肝が冷えましたよ……」
「……まあ、何だ。頑張れ」
この先彼女に振り回されるであろう護衛騎士の未来を祈ったレイだった。
会話パートが上手く書けねえ……。
2/11 アンとレイ達の会話内容を少し変更して再投稿。もう少し突っ込んだ感じにしました。
補足説明
・アン
マナリアを代表する人物その一。内容的にも詳しい説明は次回以降。
・メシア乱舞
初出は『ロックマンゼロ3』。文中でも述べた通り、ゼロのオリジナルボディを使って生み出された破壊神オメガのEXスキル。攻撃方法は予備動作無しの低空ステップで接近して即座に七段切りを繰り出すという非常にシンプルな技。
しかしその性能は極悪で、間合いに入ったら防御不可な上に他の攻撃を食らって発生した無敵時間すら貫通してダメージを与えてくる。
当然ながらこちらへ与えるダメージも破格なもの。ハードモードでは即死、通常難易度でもプレイヤーのライフゲージを半分近くは持っていくという、正に破壊神の名にそぐわないものであり、ダメージ量はゲーム全編を通してもトップクラスの座に鎮座している。
……と、ここまで述べると非常に恐ろしく思えるのだが、如何せんラスボスの強さと登場した作品のゲームバランスが噛み合っていなかった。
まず使用者であるオメガ。使ってくる技は豪快なのだが、コイツがこちらの攻撃で怯む怯む。それこそ一番弱い豆鉄砲(与えるダメージは一メモリ分)でさえもだ。そのせいで、近づく→オメガがヒッフッハッ(三段切り)→回避してこちらが三段切り、相手が怯む→相手がヒッフッハor近接技→回避後にヒッフッハを食らわせる→相手が怯む……
の流れで完封できるという、ラスボスにあるまじき醜態である。攻撃後の隙も多いから、そこを突いて完封することも可能。そのせいで苦戦することはおろか、この技を知らない者までいるという事態に。加えて言うなら、EXスキルはボスの体力が半分を切った時に解禁してくるという仕様や、使用頻度自体も少ない事が拍車をかけている。
次にゲームバランス。ゼロ3では武器の仕様(レベルアップ制度の廃止等)は調整されているものの、全体的には良好。出現する敵も極端に弱い相手や一部初見殺しの技があったりはするものの、縛りを追加すれば途轍もなく強い相手に化けたり、よく観察すれば回避ルートが存在したりとこちらのバランスもいい。
では何が問題か。それは、ゼロをカスタムするチップ、その一つのフットチップ『シャドウダッシュ』の存在である。
ゼロ3のカスタムシステムを簡潔に説明すると、チップにはヘッド、ボディ、フットの三種類があり、これでゼロの攻撃に属性を付与したり、二段ジャンプを可能にしたり等の改造が出来る。
問題のシャドウダッシュなのだが、効果は『ダッシュで敵と敵の攻撃をすり抜けることが可能となる』。要は、敵の攻撃だろうと敵本体だろうとダンジョン定番の引っかかると敵が出現するセンサーだろうとお構いなしに通過できる様になってしまうのだ。これのせいで、ラスボスの攻撃が全て回避出来るようになってしまった。全てのフットの能力を発動可能となる『アルティメットフット』があれば、大概のボス相手に走るなり二段ジャンプするなりで何とかなってしまう。こいつのせいで、バランスが若干崩壊気味となっている。
しかし、後の作品である『ロックマンZX』にてまさかのオメガが隠しボスとして再登場。プレイヤー側にシャドウダッシュや二段ジャンプが無いことや、問題だったオメガののけぞり条件と攻撃後の隙の激減、AIや一部の技の強化(回復効果の付与といういやらしい内容)やEXスキルの廃止によるメシア乱舞の通常技への降格という魔改造が施された結果、文字通り恐ろしい技へと変貌した。
使用頻度自体も、通常の技として調整されたことでガンガン使ってくる。これが本当にえげつなく、数多のプレイヤーからは非常に恐れられている。作者の実体験を挙げると、
・他の技でバトルフィールドの隅にまで誘導。回避不可の状況からステップ→乱舞のコンボを仕掛けてくる。
・技を食らってこちらが行動不能の無敵時間中にステップ、からの乱舞という格ゲーにありそうなコンボ紛いのことをやってのける。
・ステップをジャンプで躱しても、他の技による追撃がやってくる。つまりは囮になってしまうことも。
・ステップを躱した――と思いきや、隙を生じさせぬ二段ステップで乱舞を食らわせてくる。
・二連続ステップを警戒し、躱した後は流石に大丈夫……かと油断したら、三回目を即座に繰り出すというステップコンボを仕掛けてくる。こんな技を繰り出しておいてどうやって避けろと言うんだ。
大体こんな有様である。
あまりの強さから権利元である『CAP○OM』の別作品『ストリート○ァイター』のコマンド技になぞらえて【瞬獄殺】と呼ばれることになったとか。
だが結果的にはプレイヤーに一泡吹かせたので、見事ゼロ3での汚名を挽回したといえる。
絶望感などをグラブルで例えると、
【before】
使用頻度はグランデの『ガンマレイ』並。威力は高いものの、カットも出来るし幻影などでもあっさり回避可能な情けない技。
【after】
使用頻度はチャージターンに関わらずランダムな上、連続で使ってくる可能性あり。無属性ダメージなのでカット不可。防御アップなどを無視。幻影や攻撃ダウンで対処出来るものの、ミスればほぼアウトのヤバすぎる技。
ちょっとやりすぎかもしれないが、こんな感じだと思っていただければいい。