鬼の体でFate   作:辺境官吏

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初めまして。初小説です。

至らぬところしかありませんが、生暖かい目でみていただければと思います。


プロローグ1

30歳の誕生日を目前に控え、そろそろ適当な相手でも見つけて結婚しようかと考えながら交差点を歩いていると、右半身に誰かに殴られたような衝撃を感じて吹き飛ばされた。次いで爆発音と地鳴り。

 

何かが爆発したのかと思い、周囲を確認するも首が自由に動かない。

 

「人がはねられたぞ」

 

誰かの声が聞こえる。

 

(最悪だ。クソが。道路交通法違反だぞ、てめぇ。)

 

自分がはねられた事を自覚してから、急速な悪寒に襲われた。

 

顔付近まで血だまりができている。ひどい出血だ。助からないかもしれない。

 

客観的にそう判断できるレベルには頭は働いていた。

 

それが幸運か不幸だったかはわからないが、最後に自分のPCにロックをかけていなかったことを思い出した。

 

 

 

「やべえ、HDDの中の人妻モノ削除してねぇ・・」

 

 

 

死の苦しみの中、男がそう呟いたことは、誰にも聞き取られることもなく消えていった。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

前世の記憶というものを信じる人はいるだろうか。

 

前世の記憶があるとか、幽霊が見えるとか、妖怪を見たとか

 

自分自身が前世の記憶を思い出すまでは、みんな詐欺師だと思っていた。

 

実際今でも99%は詐欺師だと思っている。もしくは、思い込みの激しい人か、思春期特有の病気が遅れてきただけだろうとも。

 

 

自分は幼少の頃から、感情を荒げることがなく、また聡明であり、いわゆる手のかからない子として育った。

 

両親は既に他界しており、親戚の家で育てられたこともあってか、迷惑をかけないように生活することを強く念じていたように思う。

 

他人と比較して、優れていたことを自覚していたからか、自覚しすぎていたからか、テストではわざと満点を取らない、わざと運動神経を並みレベルに落とす、わざとバカな振りをする。

 

しかし、周囲からはなんとなく優秀と目されている。

 

そんな子供だった。

 

 

 

 

****

 

 

 

尋常小学校の卒業日。夢をみた。

 

夢の内容は覚えている。

 

1人の男の一生を追体験するというものだ。

 

その男は、両親が健在な家で育ち、しかし兄弟仲は絶望的に悪く、他者に対してひどく無関心であった。

 

学生時代は中の上、上の下という位置でそこそこ優秀という立ち位置を確保し

 

恋愛経験がないことは恥ずかしいという思いから、そこそこの相手と冷めた恋愛を経験し

 

一部上場企業に入社したものの、周囲の熱に馴染めず、しかし社会的立ち位置は落としたくないので地方公務員に転職するような、そんな冷めた男だった。

 

突然の交通事故で他界してしまったが、平均より多い人数に惜しまれるような、そこそこの人望と、そこそこの優秀さを持ち合わせた男だった。

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の名前は田中伊右衛門。

 

時は明治38年

 

日露戦争が終結した年である。

 

 

田中少年は理解した。

 

ああ、あれが俺の前世なのだな、と。

 

前世というか未来の話であったが、時空間の流れはよくわからない。

 

少年はわからない事をわからないまま受け入れる度量の広さを持っていた。

 

あるいは無関心なだけかもしれないが。

 

死の間際が情けないことに思うことはあるものの、恥を知る人間だと思えば別になんてことはない。

 

 

 

未来の知識を獲得した田中少年は、しかし何も行動をおこさなかった。

 

自分はそれなりに生きて、それなりに死ねればそれでいい。

 

獲得した知識の中には、今の生活を劇的に向上させるアイデアや歴史に残る大発見もあるが、そんなことはどうでもよかった。

 

気にならない。冷めている。

 

むしろ納得した。自分が他者と比較して優秀であったのは、ただ単に2周目だったからだろう。

 

ならば成長とともにその差も埋まるはず。

 

自分の能力を超えない範囲でうまくやればいい。

 

下手に成功して、本当に優秀な者の中でやっていくのも気疲れする話だ。

 

特許を取ることもできるが、他人の成功を横から奪うような泥棒になりたくはなかった。

 

夢は夢のまま。

 

俺の人生は俺の人生。

 

それでいい。それがいい。

 

普通に生きて、普通に死ぬ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

田中伊右衛門29歳

 

30歳の誕生日を目前にして死す。

 

死の間際の言葉は「しまった・・・春画を机の上に置きっぱなしだった・・・」

 

 

 


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