鬼の体でFate   作:辺境官吏

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新人がミスをするのは、先輩の責任です。


第八話

次のニュースです。

 

昨夜未明、鳥取県東山にて隕石が原因と見られる火災が発生し───。

 

 

「しばらくガンドを使用禁止とする。」

 

「む。」

 

「『む。』じゃない。士郎、今のニュースを一緒に見ただろう?魔力の痕跡は消したから個人の特定までは出来ないだろうが…。」

 

「隕石が原因だろう?」

 

「実は頭が悪いのか?ふざけないで聞くんだ。いいか、魔術の秘匿は最低限行わないといけないのは説明しただろう?無意味に協会を刺激する必要はない…トラブルは避けるべきだろう。」

 

「だから隕石が原因という話になっているだろう?少なくとも世間はそう信じているし、魔力の痕跡も消している。それなら問題ないんじゃないか?」

 

「………。恐らく、ほぼ大丈夫だとは思うが。」

 

「確かに不注意だったのは認める。…そんな目で見なくても、きちんと反省しているし理解している。(監督役のくせに止めなかった切嗣もどうかと思うが。)ただ、まさかあんな破壊力になるだなんて想像できるわけないだろう。」

 

「………。下手な宝具を上回る破壊力はあったかもしれないな。」

 

「次はうまくやるさ。二度と同じ失敗はしないとも。」

 

「全く信用できないが、これ以上言っても無駄なようだね…。士郎は真面目な性格だと思っていたが、変なところで大雑把だな。」

 

「真面目だとも。まだこの体に慣れていないだけだ。」

 

 

島根県にあるホテルの一室で、切嗣と向かい合う。

 

冬木にある武家屋敷に帰ろうかとも思ったが、万が一、追っ手がかかることを想定し、今は身を隠しているというわけだ。

 

一晩たっても何もない様子をみると、ほとんど杞憂だったようだが。

 

 

「ところで切嗣に質問があるんだが。」

 

「ふぅ…。その切り替えの早さは美徳だね。なんだい。」

 

「普通のガンドで炎は出るのか?」

 

「出るわけないだろう、全く…。士郎の起源『鬼』が関係していることは疑いようがない。魔力放出(炎)といったところか。暗殺者としては目立つから好ましくないが、単純な戦闘能力としてはプラスだろう。」

 

「そうか…。タメの時間がそれなりに必要な事を考えると、今の状態だと狙撃が関の山か。」

 

「その辺は要改善だね。魔術師相手の場合は、威力過剰だからタメを減らしてもいいかもしれない。」

 

「あるいは、効率的にタメを作るか、だな。」

 

要は魔力の回転を加速させればいいわけで、加速に使用する魔力をニトログリセリンのような物としてイメージすると飛躍的に加速できる気がする…。…いや、何も爆発にこだわる必要はない。そのまま電気を蓄えるイメージの方が早いか?この場合の問題は魔術回路に負担がかかることだが…これは問題ないと思う。破損するイメージがない。

 

「………。」

 

「心配しなくても切嗣の許可を得ることができない限りはやらないさ。そこで次の質問だ。昨日、俺のことをサーヴァントレベルの身体能力と言ったが…もし俺が第四次聖杯戦争に参加したとして、勝ち残れるかな?」

 

少なくとも攻撃力は十分だと思うんだが。

 

「───無理だろうね。」

 

即答だった。少なくとも何らかの確信があるようだった。

 

「士郎は確かに魔術師が殺すには骨が折れる相手だ。それにサーヴァント級の身体能力を持っているし、最強のマスターになるだろう。だが、サーヴァントと士郎を分ける大きな違いがある。何かわかるかい?」

 

「…経験だろう?」

 

宝具レベルの攻撃力は既に持っている。

 

「それもある。が、違う。…宝具だよ。士郎の近接能力はまだ分からないが、無手ならセイバー…アーサー王とすら戦えるかもしれない。だが、戦えるだけだ。勝てる可能性は限りなく低い。」

 

「それは宝具がないから?」

 

「その通り。アーサー王はエクスカリバーを使えば士郎を殺せるが、士郎はアーサー王を殺すことは出来ない。三騎士クラスは対魔力もかなりのものがあるからね。士郎のガンドでは殺せないよ。…まあ、首でも折るか、僕に令呪を使わせれば殺せるだろうが。」

 

白兵戦に強いセイバーの首を折る。…無理な話だ。

 

それに切嗣を戦争中に見つけるのは困難を極めるだろう。性格の悪いこの男のことだ、逃げに徹すると見つけることは困難を極めるだろう。

 

特に探知の異能を持っているわけでもないし。

 

「これは仮の話だが、俺に宝具があったらどうなる?」

 

杵と刀。間違いなく宝具級。サーヴァントにも効くだろう。

 

「………。(持っているのか?)宝具といっても種類は多いし、どういった宝具を想定しているのかが分からない以上、なんとも言えないね。だが、まあ、勝率はあがるだろう。それに、先日使用したガンドは宝具級だ。対魔力の低いサーヴァントなら十分に勝機はあるといっていいだろう。」

 

「───ふむ。じゃあ次の質問。切嗣が一番強いと思ったサーヴァントはどんな奴なんだ?」

 

「2体いるね。まずはアサシンのサーヴァント。これは単純に僕の戦略と合うからだね。戦争というのは弱い所を狙うのが効率的だ。アサシンのサーヴァントは歴代の山の翁が呼ばれることが確定していることもあって、マスター殺しに特化している。対サーヴァント戦では心もとないが、非常に使いやすいサーヴァントといっていいだろう。」

 

単純に強いだけが取り柄ではなく、相性が大事なんだな。確かに、切嗣みたいな人間はどう考えても騎士とか、正道の英雄とは合わないだろう。むしろなんでアーサー王なんか召喚したのか不思議だ。絶対合わないだろう。

 

「それはパワハラが原因でね…。いやまあ思い出したくもない。それで、次は……真名は不明だが、黄金のサーヴァントだ。」

 

「───黄金?」

 

…ん。見覚えがあるような気がする。

 

「自分のことを王とか言って、やたら偉そうな奴だったな。だが、アーサー王と違ってその能力は本物だった。なにせ多種多様な宝具を湯水の如く使い捨てるんだからね。」

 

いちいちアーサー王への愚痴がひどい。

 

「………宝具の使い捨て。」

 

「ああ。恐らく、真正面からあのサーヴァントを打倒できる存在は限られるだろう。ああいう相手こそ、マスター狙いが一番だね。」

 

「…ちなみに外見は?」

 

「赤目で金髪の…魔性の美顔といって良いだろう。怪しい魅力があった。筋骨隆々とした男じゃなくて、なんていうのかな…攻撃的な表情をするが、中性的な奴だ。滅茶苦茶偉そうな癖にどこか気品があったな。」

 

………。

 

おい、そいつ生きてるぞ。

 

どういうことだ!

 

「もう聖杯戦争も終わっているから士郎が出会うことはないだろうが…万が一、出会ったなら注意することだ。理解不能なところでキレる奴だからな。目線を合わせただけで殺しにかかられてた奴もいる。」

 

「………。」

 

「士郎?」

 

「…いや、何でもない。ちょっと気になっただけだ。」

 

…別に言う必要はないだろう。そんな強い相手に今の切嗣が勝てるわけがないし、そもそも喧嘩を売りにいくメリットもない。

 

ただでさえ少ない寿命をこれ以上削る必要もないだろう。

 

俺も理由もなく人を襲うほど人間をやめていないしな。(サーヴァントが人なのかという疑問はあるが。)

 

「…ところで、今後の訓練はどうすればいい。正直、既に体術では切嗣を上回っているし。魔術の訓練も、ガンド以外を経験したいんだけど。」

 

「───ふぅ。衰えた僕レベルに勝っても自慢にはならないけど…そう言うと思っていた。実はもう決めてあるんだ。まだ先のことだとは思っていたけど、想定以上に士郎が強くなったからね。」

 

「ふぅん?」

 

「何事も経験に勝るものはないだろう?」

 

「つまり?」

 

 

 

 

「死徒狩り。───強くなれて、平和になる。一石二鳥だろう?」

 

 

 

 


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