鬼の体でFate   作:辺境官吏

13 / 25
心の欲する所に従えども矩を踰えず。


第十一話

「わかりました。どうもありがとうございます。」

 

 

遺産相続について市役所の無料相談窓口にいく前に、戸籍請求をして確認したが、イリヤスフィールさんの名前はなく、養子の俺と切嗣の名前しかなかった。(切嗣の父母もいたが、故人であった。)

通常、海外で婚姻をしたとしても届け出は日本にもするだろうから事実婚ということになる。(あるいは不倫で出来た子。あの枯れ木のような切嗣が不倫をするとは考えにくいから事実婚だろう。)

とはいえ…いくら切嗣が認知をしていたとしても、現代の日本の法令上、実子と認められなければ遺産相続では非常に不利になる。

特に遺言も残っていないし、現状、役所の人からは士郎さんの心次第ですと言われたが…。

 

「分かってはいたが…。」

 

なにせ俺も前々世では市役所で働いていたのだ。ある程度はわかる。

だが、ここで欲をだすのは間違っている。こういうのはきっちり正しく分割しないといけない。それが後々のトラブルを防止することになる。

 

「………。」

 

決めた。イリヤスフィールさんが望むなら、あの屋敷は引き渡して、代わりに相応の金銭をいただこう。(こっちにも生活がある。)

 

………聖杯戦争で冬木にアインツベルンの縁者がやってくる可能性が高い以上、もうあまり時間はないのか。

屋敷は桜の協力もあって綺麗に保っているつもりだが、土蔵は放置していた。あそこも相続の対象に入るだろうし、片付けないといけないな…。よし。学校は休んだから時間もあるし、ちょうどいい。今日中に片付けよう。

 

 

 

***

 

 

 

土蔵にてゴミの山と格闘して1時間。

藤ねえが拾ってきたと思しき、よく分からないものが山ほどあったが…綺麗なもの以外は焼却処分した。藤ねえには怒られるだろうが、どうせ何を拾ってきたかも覚えていまい。

こういう時、この体は便利だ。少し魔力をこめれば跡形もなく焼却処分できる。文字通り灰も残らない。

空きスペースも出来たし、有意義な時間をすごす事が出来たと思う。

 

…問題は所有者のわからないモノがそれなりにあることだ。

特に困るのが、女性用の黒スーツ。見ただけで高級品だと分かるが、誰が着ていたのか全く分からない。藤ねえとも体格が違うし、切嗣が聖杯戦争の後に購入したとも思えない。

切嗣と一緒に来日して、戦いの中で命を落としたというアイリスフィールさんのものだろうか?だとすれば、捨てるわけにもいかない。

───保存状態もいいし、これは塩漬けだな。ここに置いておこう。

 

 

「…ふぅ。ちょっと休憩するか。」

 

 

疲れているわけではないが、深呼吸。こうやって思考を切り替えるのだ。

今は夕方。逢魔が時。

道場で瞑想しつつ、後回しにしてきた聖杯戦争のことについて考える。

 

 

───聖杯戦争。

 

 

願いが叶う万能の聖杯を巡って、7人の魔術師が争う戦争のこと。

切嗣からだいたい聞いているし、そもそも泥と炎を経験しているので知っているが、この冬木の聖杯は呪いの塊だということ。

…恐らく、他の魔術師は知らない。そして、知ったところで戦争が起こることには変わらないと聞いている。

魔術師は代を重ねて根源を目指す生き物だという。だから聖杯がいいものであれ、悪いものであれ、使えるものなら何でも使うのだと。

 

「………。」

 

俺からしてみれば自分の幸福を捨てて、一生を研究と研鑽につぎ込み次代に託すなんて生き方は気狂いだとしか思えないが、本人たちは本気なんだろう。

7人も魔術師がいればバカな願いをする者もいるかもしれないし、この冬木が戦場になるのだから流れ弾が飛んでくるかもしれない。本当に迷惑極まりない。

 

大聖杯のおおよその場所は聞いているし、聖杯を跡形もなく破壊してやろうとも思ったが、聖杯が危機を察知して召喚するカウンターサーヴァントの話を思い出してやめた。

俺一人でサーヴァントと交戦するなど、確実に勝てるとは言い切れない。鍛錬は継続しているが、実戦は10年前の1回だけだし…自信がない。

 

遠坂さんは冬木の管理者なのだし、冬木の地を守るために事情を話して協力を仰ぐことも考えたが…望み薄だし、不利益が大きいからやめた。

そもそも俺のような野良魔術使いが、突然聖杯戦争の真実を語ったところで信じてくれるとも思えないし、遠坂さんも魔術師だ。いざという時に背後から刺されかねない。

 

そういう点では間桐の家はより酷い。

桜の性格は知っているから、桜個人であれば協力してくれるだろうが(大した力があるとも思えないが。)、間桐の家は信用ならない。

桜の体を見ていると魔術師の醜さがよくわかる。体内に別人の魂をいれるなんて初めて見た時は驚いたものだ。(しかも腐った魂だ。)

桜も俺には知られたくないだろうから何もしないが、戦争のどさくさに紛れて滅却してやるのもいいかもしれない。桜にセクハラの出来ない理由の一つがそれだからな。腐った魂に見られながらする趣味はない。

慎二も嫌な奴だし、あの家は本当にろくなもんじゃない。

 

「………思考が乱れている。そもそも、俺がどうしたいか、だ。」

 

俺の強みは、聖杯戦争の知識があることと、頑強な肉体があること、少々魔術が使えること。

マスター同士の殺し合いなら勝率は高いと思うが、まさか慢心する余裕などあるはずもない。

過去一度みた、黄金のサーヴァントも参戦する可能性があるだろうし、ぶっちゃけ逃げた方がいいかもしれない。

 

「逃げる…。ありだな。」

 

俺が逃げることで、藤ねえが犠牲になることがあれば二日は眠れないだろうが…そもそも藤ねえは大人だし、それなりに戦える。逃げるように言っても、頑固な所があるから言っても聞かないだろうし…気絶させて運んだとしても、生徒に一人でも犠牲者がでれば自分を責めるだろう。

普段なら美点なんだが、なんて面倒くさい女なんだろう。とりあえず保留。直接藤ねえと話して決める。

 

…イリヤスフィールさんのことは気になるが、よくよく考えてみれば聖杯を用意するのはアインツベルンだ。きっと碌な家じゃないんだろう。というか切嗣を雇った時点でお察しというものだ。

戦争が終わって落ち着いたら会えばいい。

 

「となれば、善は急げ、か。」

 

明日、学校にいって長期休暇の申し出をするか。認められなかったとしても、仮病で休めば問題ない。その間に転校手続きをしてもいいだろう。

…弓道部のメンバー。主に桜と美綴に会えなくなるのは残念だが、命には代えられない。人の一生は出会いと別れ。俺はそれを2回の人生で学んだ。

 

明日、日中に学校に行っても授業があるだろうし、部活が終わった頃に相談に行くのがいいだろう。余計な邪魔も入らないしな。

よし、これでいい。

令呪が刻まれたままなのは気になるが、冬木の外に出れば問題あるまい。最悪、焼き捨ててもいい。

 

 

問題を整理したら意外と簡単だったな。

エジプトあたりは行ったことないし、この機会に世界旅行もいいかもしれないな。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。