鬼の体でFate   作:辺境官吏

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誰だって、家族、友人、職場、その他諸々でペルソナを使い分けますよね。


第十三話

「ふぅ…疲れた。ひとまず無事でよかったよ。遠坂さんは大丈夫だった?」

 

普段学校での生活に使っている爽やかな笑顔を浮かべつつ、遠坂さんに相対する。顔の造形は悪くないつもりだ。彼女のような美人だが男慣れしてなさそうな子なら効果は覿面のはずだが、さて───。

 

「あっ、ありがとう。」

 

虚を突かれたように慌てながらお礼を述べる遠坂さん。心なしか顔も赤くなり嬉しそうだ。

問題クリアを確信。トラブルの8割は笑顔と言葉で解決できる。

 

「それなら良かった。じゃあ夜も遅いんでまた明日学校で。」

 

「ええ、さようなら衛宮くん。………って、騙されるか───ッッッ!!!!」

 

絶叫する遠坂さん。なんかイメージと違うような気がする。

 

「貴方魔術師だったの!?全然知らなかったわよ!!桜は知ってるの!?というか、報告!報告受けてないんですけど!!私冬木の管理者よ?!ちゃんと報告にこないとダメでしょう!!そして金払え!金ッ!!ていうか、なにその戦闘力。ドン引きなんですけど!!!なに!?衛宮くんってそんなに強いのッ!!?」

 

青筋を立てながら捲し立てる遠坂さん。やはり魔術師。猫をかぶっていたか。

 

「わかった。わかったから、落ち着いてくれ。会話が出来ない。」

 

「これが落ち着いていられるか───っ!!」

 

…収まる様子が見られないので、目標変更。赤いサーヴァントに視線を投げる。

───ん?一瞬、ひどく動揺したような表情を浮かべたような気がする。

俺にこんなマッチョな知り合いはいないが…。

 

「───凛。落ち着け。まだこいつが味方と決まったわけではない。」

 

そう言ってサーヴァントは遠坂さんの隣に並ぶ。

先ほど感じた動揺は勘違いだったのだろうか。俺を鋭い眼光で見つめるサーヴァント。

そんな目で見られることをした覚えはない。

 

「…ッ!!そうだったわね。ありがとう、アーチャー。私としたことが、とんだ失態だわ。落ち着くのよ凛。」

 

余裕をもって優雅たれと呟く遠坂さん。今更取り繕ってもだいぶ遅い気はするし、既にかなり面白い。……さて、空気が変わった。ここからが本番だ。

 

「冬木の管理者として色々言わせてもらいたいことがあるけど、それは後回しね。いい、衛宮くん。これから質問を投げかけるわ。よく考えて答えなさい。───貴方は何を目的に聖杯戦争に参加したの。答えによっては敵と見なすわ。」

 

「………いや、参加するつもりはないけど。」

 

「……へ?」

 

「正確に言うと、さっきまでは参加するつもりはなかったけど、流石に世界を壊されても困るから…これから参加するつもりだ。嫌でたまらないけど。」

 

本当にげんなりする。誰かが何とかして欲しい。せめて対価、お金が欲しい。無償労働が一番きつい。

 

「は?それじゃあサーヴァントも召喚していないってこと?」

 

「もちろんだ。誰が好き好んで戦うものか。痛いのも怖いのも嫌いだぞ。俺は平和主義者なんだ。ただ働きは御免だ。」

 

「じゃあ何?さっきはサーヴァントの補助なしで戦ってたってこと?」

 

「………?さっきからそう言っているんだけど。人の話はちゃんと聞いた方がいいぞ。」

 

「…とんだ出鱈目ね。いいわ、後で詳しく聞かせてもらうから。それで、参加するつもりになったってことは、何か願いは出てきたのかしら?」

 

「特にないよ。夢もないし、願いなんて自分でかなえるものだろう?ズルをしても意味がない。そもそもあんな呪われた聖杯(モノ)でかなえる夢に何の価値があるんだか。」

 

「───そう、わかったわ。(ひとまず安心ね。衛宮くんが死ぬとあの子が悲しむだろうから…。)それじゃあ行くわよ。」

 

「どこに?」

 

「決まってるわよ。衛宮くんのお家よ。」

 

どうしよう。ちゃんと片付けてあったかな。

 

 

 

***

 

 

 

「ちょっとここで待っていてくれ、遠坂さん。」

 

「なに?隠したいものでもあるの?」

 

衛宮邸の玄関にて遠坂さんを待たせようとするも、睨まれる。

 

「あるにはあるが…そんな物騒な代物じゃないよ。」

 

「なら問題ないわ。お邪魔させてもらうわね。」

 

「…わかった。」

 

───悪意を持った者に対する結界は無反応。

敵意を感じなかったし顔見知りなので家まで案内したが、特に問題なしか。

アーチャーは俺を警戒していたようだがマスターに交戦の意思がみられない以上は問題あるまい。警戒を解いてもいいだろう。

 

「衛宮くん、これって。」

 

赤い顔でプルプル震える遠坂さん。

 

問題発生。テーブルの上には成人雑誌『はめられた若妻~その絶頂が悔しくて~』が置かれたままであった。

………。まあまだマシか。これが『緊縛地獄無限絶頂40連発』や『亀甲縛りで堕とされて。人妻達の昼下がり』なら軽蔑の視線は回避できなかっただろう。遊んでいる素振りのない遠坂さんには少し刺激が強かったかもしれないな。

だがまあ、健全な男子高校生なら誰でも持っているものだ。そんな目で見られる覚えはないのだが。

 

「ああ、ごめんごめん。後藤が押し付けてきたんでな。ホント迷惑で困っているよ。すぐ片付けるな。」

 

「ティッシュ転がってるわよ。」

 

「………。」

 

「………。」

 

「……5分ほど、部屋の外に出てもらえるか?」

 

「ごめんなさい。」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

先ほどの騒動は無かったことにして仕切り直し、説明を終えるのに1時間。

道中脱線もあったが、まさか自分の半生を語らされることになるとは思わなかった。

突っぱねても良かったが、そうすると敵対関係になりそうだからな…。

 

「そういうことね。じゃあ、桜は士郎が魔術師だって知らないのね?あ、士郎って呼ばせてもらうわ。」

 

「それなら俺も遠坂と呼ばせてもらおう。…少なくとも桜に魔術師だと言ってないし、人前で魔術を行使したこともない。」

 

「だいたいわかったわ。士郎のお父様がそんなに前に亡くなってるなんて知らなかったからね…だからそんなに中途半端なのね。強いくせに基本的なこと知らないし。その割に魔力の隠匿がほぼ完ぺきなのが気になるけど。」

 

「む。そりゃあ仕方ないだろう。ほとんど独学だし、魔力については生まれながらの体質だ。それで───遠坂家に収める冬木の管理料だったか。いくらだ?」

 

「え?今の流れでこの話?払ってくれるの?」

 

「当たり前だ。知らないから払わないなんて論理は通じないし、通しちゃダメだ。可能であるなら分割払いをお願いしたいところだが…。」

 

「…ふぅ、変なところで真面目ね。1年で100万。10年で1,000万円ってところね。…格安にしたんだけど、払える?」

 

「思っていたより高いな…。(相続した金を使えばすぐにでも払えるんだが、この金は今は使えない。まだ遺産分割の方がついていないし。)…少なくとも一括は無理だ。何か別のもので支払うことは可能だろうか。」

 

「それなら───私と同盟を組むっていうのはどう?」

 

「む。待て凛。まだこの男はサーヴァントも召喚していないのだぞ。」

 

アーチャーが実体化して、遠坂に警告する。

その警告は当然だ。俺でも同じことを思う。

 

「大丈夫よアーチャー。話していて感じたのだけど、士郎はあんまり他人に興味ないでしょう?自己中心的なのかとも思ったけど、それも違うようだし。好きなことなら頑張るし、嫌なことからは可能な限り逃げたい。逃げれないなら頑張る。変なところで生真面目なところがあるだけの、いわば普通の人間なのよ。だから本当に聖杯に望みはないと思うわ。ランサーの動向も気になるし、士郎が召喚するサーヴァントなら間違いなく強力よ。少なくとも聖杯戦争の序盤で敵に回すのは今は避けたいところね。」

 

「だが、もし召喚したサーヴァントが暴走したら?この半人前ではどうなるかわからんぞ。」

 

思いっきり作戦会議が聞こえているがいいのだろうか。口から出す音はブラフで、念話でやりとりしてるのかもしれないが。

 

「分かってて言ってるでしょうアーチャー。士郎ならその前に自害させるわよ。……それで、士郎はどうかしら?同盟を組むなら今までの管理料のことはチャラでいいわよ。」

 

「それは───俺に有利すぎないか?1,000万円で命をかけるのは嫌だが、そんなことしなくても同盟するつもりだったんだが。遠坂なら聖杯を無茶なことに使わないだろうし。」

 

「あら、ちゃんと意味はあるわ。だって士郎、もし私よりもいい条件の同盟先がいたら乗り換えるでしょう?」

 

「ひどい誤解だ。そんなことをするわけない。それに、そのための自己強制証明(セルフギアス・スクロール)だろう?(親父の遺品が残っていたはずだ。)」

 

「えっ」

 

「口先だけの同盟なんて意味はないだろう。命を預けるなら当たり前のことだ。違うか?」

 

「ふっ。そこの男の言う通りだ、凛。私達にとってもその方がいい。後ろから撃たれるのは御免だからな。」

 

「全く、変なところで魔術師らしいのね。」

 

「………?約束を紙に残すのは魔術師でなくても当たり前だろう。細かい条件はあとで詰める必要があるが…このまま後回しにするわけにもいかない。召喚するか。」

 

「なぜかしら。時々衛宮くんが大人に見えるわ。でもそうね。じゃあ私達はここで待っているから、さっさと召喚してきなさい。」

 

「ああ、わかった。───ところで遠坂。どうやって召喚するんだ?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「全く。あんなに怒らなくてもいいだろうに。女性はこういうところが嫌だな。」

 

───土蔵。

魔法陣の前に立ち、先ほど教えてくれた詠唱をメモしたノートを開きながら愚痴る。

なんでも既に令呪が手の甲にあるなら、聖杯側からサポートしてくれるそうだ。なんでもありだな、聖杯。と思わなくもない。

正直、触媒無しでの召喚は鬼とか蛇が出てきそうで怖いんだが。触媒を手に入れる伝手なんかないし、しょうがないか…。愚痴を言ってても仕方ない。変な奴が出てきたら自害させよう。覚悟を決めろ。

 

魔力をこめて詠唱を開始する。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する。

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

詠唱終了とともに荒れ狂う光の放流。

 

目を離したわけではないが、そこには強い意志を瞳に宿す金髪の少女がいた。

 

「サーヴァントセイバー。召喚に応じ参上した。───問おう。あなたがわたしのマスターか。」

 

「そうだ。」

 

「これより我が剣はあなたと共にあり、あなたの運命は私と共にある。契約はここに完了した。」

 

「………人間か。てっきり鬼か蛇、もしくはアサシンクラスが出てくるかと思って構えていたが、どうやら俺の性質も捨てたもんではないらしい。(やりにくいな。)」

 

「───なるほど。事情はわかりませんが、私を聖遺物無しで召喚したのですね。それは嬉しいことだ。───ん?」

 

セイバーの目線が、脇に置かれている黒スーツにくぎ付けになる。

穴が開くほど見ているが、そんなに珍しいのだろうか。聖杯は召喚の過程で現代知識を与えると聞くが───着てみたいのだろうか。

 

「どうかしたのか?」

 

「…申し訳ありません。マスターの名はなんと?」

 

「俺の名は衛宮士郎だ。」

 

「なるほど。お父様の名前を伺っても?」

 

「切嗣だが…それで、セイバーの名は?」

 

 

 

「…アルトリア・ペンドラゴン。このスーツを以前着ていた者です。」

 

 

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