鬼の体でFate   作:辺境官吏

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営業の話と、現実の話は全く違うものです。


第十四話

「アーサー王…。」

 

貧乏籤を引いたかもしれない。ステータスは高いようだが、俺と騎士様の相性がいいとは思えない…。

切嗣とも相性がよくなかったようだし………まあ、切嗣と相性がいい方が信用できないから、それはいいか。

 

「如何にも。───む、マスター。この家にサーヴァントの気配を感じます!」

 

「ん?ああ、それは同盟者だ…後で紹介するよ。それよりいくつか言いたいことと、確認したいことがある。いいか?」

 

ランサーもそうだったが、アーサー王も気配察知ができるようだ。

これはいいことだな。一番怖い不意打ちのリスクが減るのは歓迎したい。

 

「わかりました。確かに同盟者がいるならまずこちらの意思を統一することが必要でしょう。」

 

「ではまず俺のことはマスターではなく衛宮もしくは士郎とでも呼んで欲しい。マスター呼ばわりは自分が聖杯戦争参加者だと喧伝しているようなもんだ。」

 

「一理ありますね。ではシロウと呼ばせていただきます。私のことはセイバーとでもお呼びください。」

 

「わかった。(こいつ話を聞いていたのか…?人前でセイバーと呼んだらバレるだろうが。……いや、そもそもセイバーを見ればサーヴァントだとわかるか。今更だな。)次に、聖杯戦争は英霊…つまり死者が呼ばれるもんだとばかり思っていたが…なんで死んでないんだ?まさか死にたいというのが望みなのか?」

 

「───驚いた。わかるのですか。」

 

「あぁ。そういうのに生まれつき鋭いからな。」

 

「───シロウの言う通りです。私はまだ死んでいません。私の時間はカムランの丘で止まっているのです。『世界』と契約を交わし、死後の自分を守護者として『世界』に明け渡すことを条件に、聖杯を獲得し願いを叶える機会を得たのです。そして、その願いとは王の選定をやり直すこと。───私は王になどなるべきではなかった。」

 

「細かいことは置いておいて、つまり歴史改変が望みだと。そういうことか?」

 

「なっ!私の願いが細かいこととは聞き捨てなりません!!」

 

「細かいことだろう。どうせ叶わないんだから。」

 

「───どういうことですか。いくらマスターといえども言っていいことと悪いことがある。答えによっては容赦しません。」

 

セイバーはそう言って、右手で何かを掴みこちらに向ける。

 

握り方からして剣だろうか。不可視の剣とは便利な代物を持っている。殺意がないから怖くはないが…召喚の際に運命がどうだか言っていたわりに直情的だ。

今回はわざと挑発したが、あまり怒らせない方がいいな。…いや、さっさと怒らせて限界を探るべきか。

 

「…知らないのか?聖杯は汚染されて、呪いの釜となってるんだぞ?まともに願いなんてかなうはずがない。前回の聖杯戦争でセイバーが聖杯を破壊したと聞いていたんだが違うのか?」

 

「───っ!!まさか、そのために切嗣は聖杯を破壊させたと?」

 

「当たり前だろう。親父じゃなくても、まともな神経を持っている奴なら壊すだろう。少し漏れただけであの大火災だ。使用したらどうなるかなんて考えたくもない。」

 

ショックを受けてる顔をしているが、まさか知らなかったのだろうか。

だとすれば、説明もせず聖杯を破壊させたのか。………切嗣もエグいことをする。

 

「…聖杯が呪われているという証拠はあるのですか?」

 

「俺がその生き証人だが…ほんの10年前のことだ。調べれば当時の新聞記事ぐらい簡単に見つかるだろう。」

 

「………。わかりました…。ではシロウはなぜこの聖杯戦争に?」

 

「そんなこと決まっている。世界を守るためだ。」

 

渾身のドヤ顔を決める。

好感度は集めやすい時に集めるものだし、嘘をついているわけでもない。

サーヴァントは裏切ることもあるという。ならば可能な限り好感度はあげておきたい。

 

「なんて高潔な…。申し訳ありませんシロウ。自分のことばかり考えていました………騎士として恥ずかしい。だが同時に嬉しくもある。現代に貴方のような騎士が残っているとは思いませんでした。」

 

正面を向き、真っすぐな視線をこちらに向けるセイバー。

何か思い違いをしているようだが正す必要はないな。

 

「…騎士なんて立派なもんじゃないよ俺は。全てを救えるわけでもないしな。作戦上、悔しいが見捨てるしかないこともある。特に今回の聖杯戦争は強力な相手が多い。アイルランドの光の御子が既に確認されているし、前回の聖杯戦争から黄金のサーヴァントが引き続き参加する可能性もある。」

 

正直、半神半人なんてズルだと思うんだが。

 

「───なっ!アーチャーが生き残っていたのですか!?」

 

「ああ、少なくとも俺は10年前に受肉した姿を見ている…。そんなわけで騎士道精神に反するかもしれないが多少の犠牲は容認してくれ。万が一、俺や同盟者が負けたら比喩抜きで世界が滅びかねない。実際、ランサーのマスターは世界を滅ぼすために聖杯戦争に参加しているらしい。いいか、セイバー。これは聖杯戦争ではない。世界を救う戦いなんだ。」

 

トラブルのほとんどは事前の話し合いで回避できるものだ。

ここだ。このタイミングだ。ここでセイバーに楔を打ち込めば、だいぶやりやすくなる。

それに嘘というわけでもなく…事実だしな。なるべく騎士様好みの言葉を使っているが、全て事実だ。

 

「───わかりました。私にも経験があります。ブリテンを守るために村一つ犠牲にするしかなかった…周囲の理解は得られませんでしたが、そうしなければ被害はもっと大きくなっていた。」

 

「…セイバー、違う。そうじゃない。」

 

何を言っているのだろうか。

数百年前の村一つと比較されたらたまらない。

 

「どういうことですか…?」

 

「これは同盟者にも伝えていないことだから秘密にして欲しいが…最低冬木市全域。最大で日本国全てが犠牲となることを容認して欲しい。」

 

「───貴方は自分の住む国を滅ぼすつもりですか。」

 

「…世界を守るためだ。俺だって冬木に自分の家がある。可能なら救いたいし、出来る限り被害は減らすつもりだ。だが、黄金のサーヴァントは湯水の如く宝具を使用するという。その中には国一つ滅ぼすものもあるかもしれないし…エクスカリバーだって相当なもんだろう?───もしもの時、躊躇が生まれたら。そしてその結果、我々が敗北するような事があれば………世界の終わり。呪われた世界で全世界60億人のうち幾人が生き残れるだろう。仮に生き残れたとしても地獄に違いない。」

 

「───────。」

 

目線と目線。俺の視線とセイバーの視線が真っ向からぶつかり合う。

営業の基本は壮大な風呂敷を広げること。相手に最悪を想像させる。ここで目をそらしたらダメだ。

 

「───もし、従わない場合は?」

 

「令呪を使用する。セイバーは対魔力が高いだろうが関係ない。俺の魔力で力押しする。それでも効果がなければ2画使わせてもらう。」

 

もちろんブラフだが、ここまで言えば納得せざるを得まい。

先の村一つの話からも分かるように、理解できる頭はあるのだ。要は色々理由をつけて背中を押してやるだけだ。

 

「…わかりました。マスターにそこまでの覚悟があるというなら是非もありません。」

 

───勝った。

これで非道な手を使っても問題ないだろうし、とれる選択肢が広がった。

 

 

 

「───アルトリア・ペンドラゴン。これより修羅に入ります。」

 

 

 

少々、焚き付けすぎたかもしれない。

 


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