鬼の体でFate   作:辺境官吏

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セイバーのステータスは、凛セイバーとほぼ同じです。ほぼ。


第十五話

「ちょっと何その高ステータス!!出鱈目だわ!!」

 

密談を終えて屋敷に戻り、セイバーを紹介するや否や叫び声をあげる遠坂。

彼女からは余裕も優雅さも感じとることが出来ないが、いいのだろうか。

この場にはアーチャーも現界しているのだが…自軍のサーヴァントのメンタル管理もマスターの仕事の一つだと思うんだが。

ほら見ろ、アーチャーが情けない顔してるぞ。

 

「───凛。サーヴァントの良し悪しはステータスで決まるものではない。技術、経験、そして宝具だ。確かに高いステータスにこしたことはないが…それが全てではない。」

 

俺もその意見には賛同するが、アーサー王にも技術、経験、宝具が高水準で備わっていると思う。

…それはともかく、アーチャーの宝具や戦闘スタイルは気になるところだ。白兵戦が出来ることは確認しているが、あれが本来の戦い方とも思えない。

同盟者なのだから、真名も含め確認が必要だな。

 

「悪かったわよ。でもしょうがないじゃない、私もセイバーが良かったんだから。それにこんなに可愛いし。───ね、私は遠坂凛。凛って呼ぶといいわ。士郎とは同盟を結んでいるわ。」

 

「───わかりました。ではリンと呼ばせていただきます。」

 

微笑みかける遠坂に対して、生真面目に応対するセイバー。

どうせ聖杯戦争期間だけの関わりだ。必要以上に打ち解ける必要もないだろう。

 

「…自己紹介が終わったところでお互いのサーヴァントと、今後の方針を再確認させてもらいたい。全て開かせとは言わないが…連携に齟齬がない範囲で頼むよ。」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「───まさか聖杯が呪われているなんてね。それに、あのアーサー王ならこの高ステータスも納得だわ。アーサー王が女の子の姿なのには驚いたけどね。」

 

「そういう遠坂は自軍のサーヴァントの真名も知らないのか。…まあ、戦い方さえわかれば特に問題はないが。」

 

そう指摘すると、悔しそうな顔でこちらを睨みつける。

…そんな目で見られても事実を言ったまでだが。やはり遠坂も魔術師ということか。人間味があると思っていたが、それなりにプライドも高いらしい。

 

「………聖杯はエクスカリバーで破壊するとして…。俺たち相性はいいんじゃないか?敵と遭遇した場合、俺とセイバーが前衛で、遠坂とアーチャーが後衛をしてくれたらだいたいの相手には勝てるだろう。アーチャーの固有結界で俺とセイバーと敵マスターを取り込んで、ハメ殺してもいいしな。遭遇戦なんて想像したくもないが、何事も想定しておくべきだ。」

 

チラリとセイバーの方を流し見る。一言も発さないのは俺に任せているからか、従うと決めたからか。

………少しぐらいならアドバイスをしてくれてもいいんだが。…まあ、船頭多くして船山に上ると言うし、サーヴァントが主張しだすとめんどくさい。良い傾向か。

 

「…士郎ってよく鬼畜って言われない?」

 

顔をひくひくさせて遠坂が言うが、この程度序の口じゃないだろうか。遠坂は本当の戦争を経験してないから考えが甘いのかもしれない。現にアーチャーやセイバーは特に反論もないようだ。…まだ子供だししょうがないか…俺がリードしてやらないとな。

 

「薄々感じていたが、遠坂は聖杯をトロフィーか何かだと勘違いしていないか?命がかかっているんだぞ。確実に勝てる手段を模索するのは当たり前だし慢心していると足元を掬われる。必勝法があるなら使えばいい。その方が犠牲も少ないし「───待ってもらおう」…む。」

 

アーチャーに割り込まれる。今まで特に主張せず控えていたが、何か彼の琴線に触れる発言があったのだろうか。

 

「───貴様は犠牲を容認するというのか。」

 

まるで睨み殺さんとばかりに、こちらを睨みつけるアーチャー。

明らかに雰囲気が変わり空気が数段重くなる。これが英霊のプレッシャー。常人なら気絶してもおかしくないだろう。鍛えていて良かった。

セイバーが動き出そうとするが手で制す。ただの問答だ。問題ない。

 

「当たり前のことだが…これは戦争だ。前回の聖杯戦争でも犠牲者が出たということは、今回も出るということだ。既に出ているかもしれない。ならそれは仕方ないだろう。参加者として責任の一端はあるだろうが、まさか世間に公表するわけにもいかない。…一般的な働き手なら死亡保険が降りるだろうし、最悪生活保護もある。基本的な賠償責任は諸悪の根源であるアインツベルン、遠坂、間桐にあると思うぞ。」

 

口には出さないが、知らない人が2人死のうが2兆人死のうが何とも思わん。

セイバーの手前、絶対言えないが。

 

「貴様───正気で言っているのか。」

 

「もちろんだ。残念だが巻き込まれる人はいる。ならその人達の生活再建を考えるのがそれほどおかしいか?」

 

「(どこか致命的にズレている。なんだコイツは。)…いや、おかしくなどない。………どうやら貴様は正義の味方というわけではないようだな。」

 

「(正義の味方?)…少なくとも世界を守るために戦うつもりだ。」

 

「───そうか。…私の思い違いだったようだ。」

 

そう言うと黙り込むアーチャー。よくわからないが不機嫌そうだ。だが、納得してくれたのならそれでいい。

遠坂も怪訝そうな顔でアーチャーを見ている。

 

「………話を戻すぞ。ともかく、時間も情報も足りない。遠坂はマスター候補に心当たりはあるのか。」

 

「…アインツベルンは確定ね。あとは間桐だけど…あそこは枯れてるわ。桜の手にも令呪はなかった。…他に考えつくのは…綺礼ぐらいだけど、聖杯戦争の監督だからこれも除外していいと思うわ。」

 

「綺礼というのは、ひょっとして言峰教会の言峰神父のことか?」

 

「ええ、嫌味な奴よ。信用も信頼もできないけど能力は本物。今回の聖杯戦争の監督役で、私の後見人でもある。」

 

俺は転生直後、炎の中で神父と黄金の男を見ている。(黄金の男は全裸だったが。)

黄金の男が印象深すぎて神父の記憶が飛んでいたが、アレが言峰神父だとしたら全て繋がる。

言峰神父が黄金の男のマスターだと推定していいだろう。

 

「そうか。ちなみに遠坂は言峰神父が前回の聖杯戦争に参加していたのは知っているか?」

 

「ええ。私の父の補佐役として出ていたらしいわ。残念ながらすぐ脱落したとも聞いているけど…そういえば、士郎のお父様も前回の聖杯戦争に出ていたのよね。」

 

「その通りだ。全てを親父から聞いたわけではないが───その言峰神父。嘘つきだぞ。なにせ、親父が最後に殺し合ったのは言峰神父らしいからな。これは推測だが…恐らく4次アーチャーの現役マスターも言峰神父だろう。元々黄金のサーヴァントのマスターは遠坂の親父さんだったらしいし…何かがあって引き継いだか、裏切って殺したか。…娘の遠坂に真実を言わないあたり後者が濃厚だがな。」

 

「なっ───。」

 

絶句する遠坂。右手で顔面を覆い、何やら考えこんでいる。

…ショックなのはわかるが、さっきから脱線がひどいな。話が進まない。割り切って欲しいものだが。

 

「───綺礼に確認するわ。」

 

「そうくると思ったが、少し待って欲しい。」

 

「嫌よ。同盟者とはいえ、士郎にそこまで制限される覚えはないわ」

 

俺に殺気を飛ばしても意味ないぞ。

 

「その通りだが…自殺するつもりか。4次アーチャーは、複数のサーヴァントを相手にして尚余力があったらしい。そうだろう、セイバー。」

 

「ええ、業腹ですが、奴の実力は本物だ。…もちろんそれは前回の話ですが。今回はマスターとも連携出来ていますし、魔力の不足は感じません。手段を選ばなければやりようはある。」

 

いい傾向だ。セイバーの一言一言から覚悟が伝わってくる。

 

「つまり相手は格上だ。そこのアーチャーが格上殺しだったとして、闇雲に突っ込んでは勝てるものも勝てない。…まだランサーのマスターという脅威もある。せめて確殺できる環境が整うまで抑えてくれないか。」

 

「───ふぅ。…わかったわ。ちょっと熱くなっちゃった。」

 

…親父の仇かもしれない相手に養育されていたのだから、複雑だろう。

頑張って乗り越えて欲しい。

 

「…つまり、サーヴァントは合計8騎いて、そのうち不明なサーヴァントはバーサーカー、キャスター、アサシン、ライダーの四騎。マスターは俺と遠坂、アインツベルン以外は不明ということか。言峰神父は…今回の聖杯戦争のマスターとしては除外でいいだろう。…弱ったな、全然情報が足りない。」

 

「…ねえ、私達を餌におびき出すというのはどうかしら」

 

「下策だな。圧倒的な実力差があるならまだしも、先に捕捉されて攻撃されれば目も当てられない。…とはいえ、相手も条件は同じで、こちらがマスターだとは分からないか。…わかった。俺はなるべく今まで通りの行動を心掛けつつ敵を探索する。遠坂は御三家だから狙われるだろうが、幸いにもアーチャーは索敵に優れている。そう易々と先制攻撃されることもないだろう。」

 

「───。」

 

なんか言えよ、アーチャー。

 

「俺は…衛宮切嗣の養子だからな。言峰、間桐、アインツベルンには恐らくバレていると考える方が自然だ。間桐は…桜や慎二ではなく親戚が出てくるかもしれないし油断禁物だな。…こんなところか。今夜はもう遅いし、詳細を詰めるにしても後日にするが…何か質問は?」

 

「………。」

 

特になし、か。

 

「それじゃあ今夜は解散ね。」

 

「ああ。どうする?幸い部屋は余っているし泊まっていくか?各個撃破の可能性は下げておきたい。」

 

「…今夜はいいわ。持ってきたいものもあるし、明日以降泊まらせてもらうわ。じゃあね。アーチャー、行きましょう。」

 

「待ってくれ。…なら今夜は俺が遠坂の家に泊まろう。ランサーには居場所がバレている可能性がある。」

 

「───もしかして士郎、怖いの?」

 

遠坂が獲物を見つけたようなニヤニヤした表情を浮かべる。やはりこちらが素か。

もちろん怖いが、ここで素直に怖いと認めるのは癪だな。

 

「注意深いだけだ。…じゃあ遠坂。一緒に行くぞ。少し待っててくれ。」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「───こんばんわ、お兄ちゃん。いい夜ね。」

 

 

 

妹を持った覚えはないのだが…。

 


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