鬼の体でFate   作:辺境官吏

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第十六話

「───イリヤスフィール・フォン・アインツベルンといえば分かるかしら、リン。」

 

「アインツベルンの魔術師…!!」

 

遠坂が隣で驚いているが、俺だって驚きだ。

まさか姉が妹になっていたなんて…小学生のような外見だが、本当に切嗣の実子なのだろうか。年齢が合わない。これも魔術なのか?

───それに、背後に従える巨人。圧倒的な暴力の香りがする。セイバーもなかなかステータスが高いが、こいつはそれを上回る。───情報なしで戦闘になるのはリスクが高い。

現状、会話のイニシアチブはイリヤスフィールさんに握られている。なんとか取り返さなくては。その為には………。

 

「イリヤスフィール姉さん!!!会いたかった!!!!」

 

大声を出し両手を広げ天を仰ぐ。心から感動している表情を意識する。

隣で遠坂やセイバーがギョっとした顔でこちらを見ているが構うまい。

 

「親父が死んで、ずっと会いたかったんだ。ああ、本当に会えるなんて夢みたいだ。」

 

「───え?キリツグ死んじゃったの?」

 

イニシアチブの奪取に成功。

目に見えて動揺するイリヤスフィールさん。

切嗣がアインツベルンで何を話していたかは知らないが、まずは情報を注入して混乱させる。

 

「あぁ、10年前に事故で亡くなったんだ。イリヤスフィールさんと会えたと喜んでいたところにさ…。あれからずっとアインツベルンを探してたんだけど…ドイツにあることしか聞いてなくて…半人前の俺じゃコンタクトすら出来なくて困っていたんだ。切嗣が残した屋敷や遺産のこともあるし、イリヤスフィールさんの取り分も話し合いたい。聖杯戦争のために来日してくれたんだろうけど…まずは一緒に故人を偲んでやってくれないか?線香の一つでもあげてくれると親父も喜ぶと思う。ああ、そういえば今はどこに泊まってるんだ?今日はもう遅いし、うちに泊まっていったらどうだろう。歓迎するよ。」

 

───後ろの巨人は動かない。あんな存在感のあるアサシンはあり得ない。知性を感じないからキャスターも違う気がする。ライダーは…可能性としてはあり得るため保留。一番考えられるのは………バーサーカーか。

だとすれば問題ない。いくら強力だろうと、こちらにはセイバーとアーチャーがいる。錯乱した戦士に負ける道理はない。

 

「ち、ちょっと待ってお兄ちゃん。そんな一度に言われてもわかんないよ!」

 

案の定、混乱しているイリヤスフィールさん。

可能なら味方につけたいところだが…。追撃が必要だな。

 

「親父からイリヤスフィールさんのことは聞いている。俺が親父とすごしたのは数か月しかないが…いつも気にかけていた。よければ色々話を聞かせてくれないか?……聖杯戦争のことは…イリヤスフィールさんの立場があるから難しいかもしれないが…俺には聖杯なんて不要だし、協力したいと思っている。この世でたった2人の姉弟なんだ。せっかく会えたのに戦うだけなんて悲しいじゃないか。」

 

出来る限り大げさに身振り手振りまじえて主張する。

涙を流せればいいんだが…水の適正がないのが悔やまれる。

イリヤスフィールさんとの距離は約20m。サーヴァントなら一瞬で詰めれる距離だ。油断は出来ない。

 

「どうだろう…いつなら会える?」

 

提案しているようで、相手の思考の幅を制御する。誘導する。

実際そうなったらいいなと思っているから嘘じゃない。

───万が一、イリヤスフィールさんが思考を捨てて襲い掛かってきた場合は、セイバーを肉壁として対処する。その間にアーチャーに仕留めてもらおう。

可哀想だが敵となるなら仕方ない。

 

「………わかんない。リズやセラにも相談しないと。…今日は帰る!」

 

混乱し、どこか不貞腐れた様子のイリヤスフィールさん。

ちょっとヒステリックだが、境遇を考慮すると仕方ない。誰だって混乱する。

全然情報を引き出せていないから、ここで帰られても勿体ないが…。

 

「……聖杯戦争は夜に行うものだって言ってた。だから今度はお昼に会いにいくわ。」

 

「───ああ、わかった。御馳走を作って待ってる。屋敷の場所はわかるか?」

 

誰だか知らないがいい事を吹き込んでくれたらしい。それなら昼に聞けばいいか。

 

「うん。…私のことはイリヤって呼んでね、お兄ちゃん。またね。……バーサーカーも帰ろ。」

 

そう言って踵を返すイリヤ。

…やはりバーサーカーだったか。混乱していたし、ブラフの可能性は低いだろう。

背後からガンドは───やめておこう。アインツベルンの聖杯の使用目的次第だが協力関係になれる可能性はあるし、出来るならば仲良くしたい。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

遠坂邸にて、アーチャーにいれて貰った紅茶を飲みながら遠坂と作戦会議。

紅茶の味は……普通に美味しい。どこの英霊か知らないが、王の召使でもやっていたのだろうか。

 

「正直、今日はもう色々な事が起こりすぎて疲れたわ。バーサーカーだっけ。あんなんチートもいいとこよ。何よあのステータス。」

 

自宅だからか、猫をかぶるのはやめたようだ。

 

「一対一で戦えば危なかったかもな。だがまあ、二対一なら負けはない。」

 

イリヤを殺せばそれで終わりだ。魔力供給がとまればすぐ消滅するだろう。

問題はアインツベルンが組織力を生かして複数サーヴァントや魔術師で攻めてきた場合か。こちらのサーヴァントを見られたのは痛いな。

 

「───それは、イリヤスフィールを殺すということか。」

 

アーチャーが口出しをしてくる。

さっきまで無言だったが、気になるのだろうか。

…いざという時に連携に齟齬が出ないためにも、伝えておくべきだな。

 

「そうだ。もちろん言葉は尽くすが…それでも敵対するというなら…仕方ない。セイバーがバーサーカーを足止めし、その隙にアーチャーがマスターを無力化…殺害する。何か問題が?」

 

「───いいや、問題は何もない。正しい判断だとも。」

 

それきり黙り込むアーチャー。何を考えているのか分からないところがある。…まあ、あんな子供を殺すのは誰でも目覚めが悪いものだろう。

 

「でもいいの…?士郎のお姉さんなんでしょう?」

 

「ああ、血縁上は俺の姉ということになる。何故かお兄ちゃんと呼んでいたが…きっと日本語に不慣れなんだろう。もちろん仲良くしたい。だが…これは世界を守るための戦いだ。遠坂も言峰神父のことを我慢しているだろう?俺も覚悟をもって戦いに臨んでいる。」

 

遠坂の目を見つめ、断言する。

初対面の娘に愛着も何もあったものではないが。

 

「そう…わかったわ。─────桜…。」

 

ん?いま確かに桜と呟いたが…なんでここで桜が出てくるんだ?

ほとんど独り言だったが…耳には自信がある。伊達に後藤から地獄耳と恐れられてはいない。

 

「遠坂は桜と何か関係があるのか?……知っているかもしれないが、俺は個人的に桜と仲良くさせてもらっていて…家族だと思っている。何かあるなら聞いておきたい。」

 

「────ふぅ。話してた方がいいか。実は、私達姉妹なの。」

 

……驚いた。どこの部位とは言わないが、全然似ていない。ミカンとメロンくらい違う。当然、遠坂がミカンで桜がメロンだ。(メロンの方が好きだ)

表情も勝気な遠坂と奥手な桜では似ても似つかない。髪の色も違うし、共通点を探す方が難しいんだが。

 

「…士郎がどこを見て驚いているのか敢えて聞かないけど、桜は幼い頃に間桐の家に養子に出されたのよ。今でも学校で話すことはあるけど…まあ、節度を保った付き合いというやつね。…士郎とイリヤを見ていたら思い出しちゃって。」

 

───ああ、なるほど。桜が敵になることを想像したわけか。

魔術師は家に縛られると聞くし、その可能性は否定できない。

 

「………もし、桜が敵に回ったらどうするんだ。」

 

「士郎と一緒よ。言葉を尽くして、それでも敵に回るなら───殺すわ。私の手でね。こればっかりは士郎にも譲れない。」

 

「そうか。」

 

「───止めないの?桜と仲いいんでしょう?」

 

「遠坂と同じだ。俺たちの敵になるということは…世界の敵になるということ。桜のことは大切だが…それでも敵になるというなら…仕方ない。」

 

それよりセイバーが静かなのが気になる…。無駄話はしない性格なのだろうか。念話もできるけど、いまいち慣れないんだよな。

 

「そう。…今日はもう寝ましょ。見張りはアーチャーにやってもらうからセイバーも休んでいいわよ。おやすみ士郎。」

 

「だそうだ。起きていても活動に問題はないだろうが、休める時に休むべきだ。今日はセイバーも寝るといい。おやすみ遠坂。」

 

「───わかりました。リン、可能ならばシロウの部屋に布団を用意してもらいたい。」

 

 

 

 

洋物は趣味じゃないとはいえ、興奮して眠れなかったよ…。

 

 

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