鬼の体でFate   作:辺境官吏

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着々と迫る死亡フラグ


第十七話

──────結局、一睡も出来なかった。

 

眠らなくてもパフォーマンスに支障はないが…これではまるで童貞だな。

いや…衛宮士郎になってからは童貞だったか。新鮮な気持ちだな。新しい息子は自慢の息子だし、このゴタゴタが終わったら風俗にいくのもいいかもしれない。あと腐れなく遊ぶ。自分へのご褒美というやつだ。…いや、記念すべき一発目は厳選の必要があるか。あとで考えておこう。

…ベッドから降りて時計を見る。まだ5時前。鍛錬の時間はあるが、遠坂の家で勝手をするわけにもいかない。魔術師の家なんて変な仕掛けがありそうだ。

 

…そういえばセイバーは魘されていたが大丈夫だろうか。

布団で眠るセイバーの様子を伺う。規則正しい呼吸だが………これは殆ど起きてるな。

 

「セイバー。おはよう。」

 

「───ええ、おはようございます。」

 

布団から体を起こして朝の挨拶をするセイバー。

その声に張りはなく、明らかに憔悴している。おかしい。魘されていたとしても体は休めたはずだが。騎士王のくせにメンタル弱いのか?

 

「魘されていたようだが…大丈夫か?」

 

「──────えぇ。少し夢見が悪く………。いえ、率直に言いましょう。シロウ、あの地獄は何ですか…?」

 

サーヴァントでも汗をかくんだな。

…セイバーだけだろうか。

 

「地獄?───ああ。そういえばパスが繋がっていたら互いの記憶を夢という形で共有するとか遠坂が言ってたな。それで、見たのはどの地獄なんだ?」

 

「……炎の中で、泣き叫ぶ罪人をひたすら杵と刀で拷問する光景でした。正直、思い出すだけで気分が悪い。」

 

すぐ炎で焼かれるからそんなにグロデスクじゃないと思うんだが…。

初見だとビックリするかもしれないな。

 

「ああ、そっちか。…ちょうど時間もあるし、いい機会だから説明しておこう。なんていえば良いのか分からんが…俺には前世の記憶があるようなんだ。」

 

「前世…ですか?」

 

「キリスト教圏のセイバーには馴染みが薄いかもしれないが、仏教には輪廻転生という考え方があって…まあ要するに魂が巡るという考え方だな。分かりやすくいうと良い奴は天国にいって、悪いことをした奴は地獄に落ちる。それで、どうやら俺の前世はその地獄の鬼らしいんだ。罪人どもの看守。獄卒だな。」

 

実際は少々違うが意味が通じれば問題ない。どうでもいいことだから、わかりやすさ重視でいこう。

 

「では、シロウはあの光景を覚えていると───?」

 

「思い出すといった方が適切かもしれないが…俺であって俺でないからな。他人の映像。映画を見ているようなもんだ。前世の自分を自覚してからは妙に体も頑丈になったが…大したことはないよ。まあ、あの光景で気分が悪くなるようであれば、もう睡眠はとらない方がいいかもな。サーヴァントは眠らなくても戦えるんだろう?」

 

「…そうですね。……仰る通り、サーヴァントには本来、食事も睡眠も不要です。…食事は僅かながら魔力を回復させる効果もありますが。」

 

「藤ねえや桜の前では卓を囲んでもらう事になると思うが…それ以外では無理に食べる必要もないだろう。これでも魔力量には自信があるしな。」

 

深刻な顔で何やら考えこむセイバー。

やはり食事は無駄だと思っているのだろうか。俺もそう思うが世間体があるからな…多少は我慢してもらわなければならない。

 

「それより、遠坂を起こして作戦会議でもしないか?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「信っじられないわ!まだ5時30分にもなってないじゃない!こんな時間に叩き起こすなんて…」

 

「そう言うがな遠坂。勝手に部屋の中を見て回るわけにもいかんだろう。それに登校ギリギリに起きるのも優雅とは言えないんじゃないか?」

 

寝起きの遠坂は…なんというかボロボロだ。

遠坂だから庇護欲がそそられるが、十人並みの顔じゃあ百年の恋も冷めかねないな。

 

「士郎、あんたどんどん性格悪くなってるわよ。」

 

精一杯の抵抗だろうか。だが、ノーダメージだ。

さっさと顔を洗ってくるといい。

 

凛が覚醒するまで椅子に座って待っていると、お盆に紅茶を乗せたアーチャーがやってくる。

サーヴァントにこんなことさせていいんだろうか…。

 

「悪いなアーチャー。紅茶を入れて貰って。」

 

てっきり嫌われているかと思ったが、そうでもないらしい。

 

「───フン。誰が貴様のために入れるものか。凛のついでだ。」

 

やっぱり嫌われているようだが、俺とセイバーの分も持ってきてくれるあたり根は善良なのだろう。なんで嫌われているのかわからないが…何かした記憶はないんだが。

 

紅茶を飲みつつ待っていると───遠坂の足音が聞こえてきた。

どうやら完全に復活したらしい。

 

「お待たせ。見苦しい姿見せちゃったわね。───それで、作戦会議ってどういうこと?」

 

「学校での立ち振る舞いについてだ。セイバーは霊体化出来ないだろう?万が一敵に襲われたら令呪で呼び寄せる予定だが…一応アーチャーにも俺の方の警戒を頼みたい。」

 

「───そうね。同盟組んでるんだし当然よね。…出来るわよね?アーチャー」

 

「無論だとも。」

 

「そう。ならお願いね。」

 

これでひとまず身の安全は確保できた。

だが俺が学校に行くと屋敷が不在になるか…もしイリヤが屋敷にきたら厄介だ…いや、セイバーを配置すれば問題ないか。

 

「セイバー。悪いんだが、学校に行っている間は屋敷の警護を頼みたい。イリヤがきたら念話で知らせてくれ。」

 

「それは構いませんが…やはり私も学校に行った方が警護がしやすいかと。」

 

「それは問題ない。初撃で仕留められない限り令呪で呼び出すし、アーチャーも警護してくれる。みすみすマスターだとばらすのは勿体ないだろう?ああ、遠坂。手の令呪を隠すために後でファンデーション貸してくれ。」

 

「それは良い案ね。私もやろうかしら。」

 

「遠坂の場合は意味ないんじゃないか?御三家がマスターなのは参加者なら誰でも知ってるだろうし。」

 

ジト目で睨みつけてくる遠坂のことは放置。

 

「さて、話を戻して───学校の結界は恐らくキャスターかライダーが設置したものだろう。結界の基点を破壊すれば発動は遅延させることが出来るが…これははっきり言って待ちの戦略だ。相手に読まれる。ここは攻めに行きたい。」

 

「というと?」

 

遠坂が合いの手を入れてくれる。何気に聞き上手だ。ありがたい。

この提案は多分認めてくれないだろうが…提案する価値はある。

 

「───マスターを炙り出す。マスターを狩るのではなく、マスターになりえる者を狩る。マスターにたどり着くまで。」

 

「───────。」

 

空気が重くなる。遠坂が苛立っているのが分かる。

その反面、セイバーとアーチャーは平静。

 

「勘違いしないで欲しいんだが、何も害していくわけじゃない。怪しい奴にちょっと脅しをかけて反応を探るぐらいだ。違ったら暗示で誤魔化せばいい。」

 

「士郎…あなた自分が何を言っているのか分かっているの?」

 

「遠坂こそ分かっていない。ガス爆発のニュースを見ていないのか?恐らくサーヴァントの仕業だ。さっさとマスターを見つけないと死者が出かねない状態なんだぞ。」

 

ガス爆発が続いて死者が出ていない。あり得ない。サーヴァントの意思を感じる。

 

「…ダメよ。無関係な一般生徒を巻き込むのは許容できない。それにガス爆発は新都がメイン。少なくとも学園にはまだ猶予がある。」

 

「では、確実に魔術師と分かる者ならいいんだな?」

 

「…慎二と桜ね。」

 

「ああ。遠坂は桜と話しをして確認したわけじゃないんだろう?俺は慎二を確認するから、遠坂は桜を頼む。なに、聖杯戦争に参加していないならそれでいいし、味方になってくれる可能性もある。敵に回るなら処置するだけだ。」

 

慎二みたいなチャラチャラした男は好きじゃないしな。敵に回ってくれるとありがたい。

 

「…わかったわ。ただし、魔術の使用は無しよ。少なくとも他に生徒が残っているうちはダメ。いいわね?」

 

 

 

「───ああ、問題ない。鍛えているからな。」

 

 

 

 


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