鬼の体でFate   作:辺境官吏

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次からです。


プロローグ2

列に並んでいる。

 

周囲を見渡せば、空は赤く、ひび割れた岩々がみえる。

 

前方には着物をきた老人が並んでおり、後方には薄幸そうな少年が並んでいる。

 

 

 

なんだろう、自分は確かに死んだはずだが、夢でも見ていたのだろうか。

 

…いやいやそれはない、自分は確かに馬車に跳ねられて死んだはずだ。

 

奇しくも前世と同じく30歳の誕生日を目前にして死亡した。

 

これが運命というやつか。

 

ということは、この列は死者の列か。神だか閻魔だか知らないが、まさか死後の世界があったとは驚きだ。

 

この後、自分は裁かれるのだろうか。

 

悪行も善行もした覚えがないが、少なくとも迷惑をかける生き方だけはしなかったはずだ。

 

 

 

とりとめのない事を考えていると、自分の番がきた。

 

「開門!!!」

 

どこからか声が響く。

 

どこだろう。どこでもいいか。

 

ドアが開くと、偉そうな偉丈夫が偉そうな服装で座っていた。

 

机の上に何やら紙を広げている。角度的にこちらから見えないが、何かの手紙かな。それともあそこには自分の行いみたいなものが書いてあるのだろうか。

 

あんなしょぼい紙では自分の人生を書くにはスペースが足りないと思うのだが・・・。

 

それより偉丈夫だ。無茶苦茶怖い顔をしているが、素の顔が怖すぎて表情がわからない。

 

「田中伊右衛門。ここがどこだか分かるか」

 

その声は耳というより、体の芯に響くようであった。恐ろしい。きっと耳の聞こえない人でも意味がわかるのだろう。

 

それより質問だが・・・なんだろう。初めてくる場所だし、わかるわけないと思うんだが。

 

まさか全員に同じ質問をしているのだろうか。

 

「そのまさかだ。田中伊右衛門。」

 

まだ声に出していないのに返答がきた。心が読めるのか、声に出ていたのか。

 

「心が読める。お前の考えていることがよくわかるぞ、田中伊右衛門。さて、薄々わかっているとは思うが、お前は死んだ。ここは裁きの間と呼ばれる部屋で、儂は閻魔大王という。これから転生先を決めるが、お前は少し特殊なようだ。そこで儂が直接対応することとなった。」

 

「そうですか。」

 

「冷静だな。いや、お前の場合は無関心なのか。」

 

「ここで暴れて生き返ることが出来るなら暴れますが、話を聞いてからでも遅くないと思いまして。」

 

「その通りだ。冷静なことだ。」

 

したり顔で頷く閻魔大王。いや、相変わらず表情は分からないが。

 

そこでふと思った、心を読むということはイメージも読むということなのか。

 

春画の中でも特にお気に入りだった、鉄棒ぬらぬら先生の一ページを思い浮かべてみる。

 

・・・あれ、特に表情が変わらないな。イメージ力が足りないのか?

 

「お前はバカなのか賢いのかよく分からんところがあるな。人間の裸なぞ見飽きておる。タコに襲われる女体というものも既に見覚えがある。あまり閻魔大王を舐めない方がいいぞ。」

 

閻魔大王の守備範囲は広いようだった。さすが大王だ。

 

「そんなことよりお前のことだが、本来お前は死ぬべき者ではなかったのだ。いや、お前とお前の前世。これについては完全に神のミスだ。」

 

どういうことだろうか。

 

「本来、生物には寿命というものが設定されておる。それを神が管理し、寿命がなくなれば儂が管理することになっておる。しかし、神がお前の寿命の蝋燭を・・・誤って蛇のものを使ってしまったらしくてな。蛇の寿命は通常20年ほどだが、稀に30年生きる個体がおる。つまり、そういうことだ。」

 

どういうことなのか。

 

説明されているようで、説明されていない気がする。

 

どういうことなのかちょっとよく分からない。なんで人間用の蝋燭に蛇用の蝋燭が紛れ込むんだろうか。管理体制がなってないんじゃないか。

 

「それは儂にもわからん。こんな事は初めてだしな。今、神からの手紙を読んでおったが、『事情を説明しておいてくれ。ごめんね。適当に対処しといてくれればいいから。』としか書かれておらん。」

 

「そうですか、それなら仕方ないですね。」

 

怒りはある。怒りはあるが、それをぶつける相手は閻魔大王ではない。彼はいわば責任を押し付けられた現場責任者のようなものなのだから。

 

しかし、なぜ最初に亡くなった時に人間用の蝋燭に変えてくれなかったんだろうか。

 

「わからん。引継ぎがなかったか、新しい蝋燭に変えてから気づいたからじゃないか?」

 

適当な回答だった。しかし、ありえそうであった。

 

「話を戻すが、少々面倒なことになっておる。お前は確かに死んだが、お前の人間としての寿命は残っておるのだ。具体的にいうと、前世で80歳まで生きるだけのエネルギーがあったが、30歳を目前にして死亡した。そして今回も80歳まで生きるだけのエネルギーがあったにも関わらず、30歳を目前にして死亡した。差し引きすると、50歳+50歳で100歳の余剰エネルギーがあるのだ。このまま見て見ぬふりをして適当に畜生道にでも堕ちてもらおうと思ったが、バグが生じそうという報告がきたのでな。渋々儂が対応しているわけだ。わかるか。」

 

わかるけど、わかりたくない説明だった。

 

こいつ問題を握りつぶそうとしやがった。多少なりともあった敬意がいきなりマイナスに振り切れた瞬間だった。

 

たぶん、神がいった適当ってそういう適当じゃないと思うぞ。

 

「いや、こういう適当だ。なにせ第三者機関なんてものは存在せん。コンプライアンスもクソもない。儂を誰だと思っておる。閻魔大王だぞ。」

 

無意味に偉そうだった。くたばれ。

 

「さて、そんなわけでお前をこのまま輪廻転生の環に戻すとバグが生じるのでな。100歳分のエネルギーを解消せねばならん。何か要望があれば可能な限り計らってやるが、何かあるか」

 

そう突然いわれても困る。今更赤子に生まれなおしも勘弁して欲しいところだった。

 

なにせ平成の世を知ってから、明治、大正を生きるのは辛かったのだ。便利な生活を知ってからの不便な生活というのは、なかなかくるものがある。

 

春画なんかじゃなくてXビデオがよかった。そういうことだ。

 

そういえば、、、自分の人生には熱がなかったように思う。それが蛇としての寿命が関係しているかどうかは分からないが、ただ生活するだけというか。

 

魂を燃やすような人生に憧れというものはあった。

 

「記憶を消して生まれなおすことはできますか。次はできれば、熱のある人生がいいです。生きているって実感するような」

 

「わかった。次は鎌倉武士として生まれなおすといい」

 

「待った。違います。そういう生きているって実感じゃないから。そういう熱じゃないから。平成の日本でお願いします」

 

歴史上で平成ほど平和だった時期はないだろう。これなら安心できる。

 

「わかった。しかし、同じ次元軸に生き返らせるわけにもいかんのでな。最初のお前と、最新のお前が出会ったらまずい事になりかねん。平行世界でもよいか。」

 

それぐらいなら構わないだろう。平行世界というのがよく分からないが、大した違いはないはずだ。

 

「しかし困ったな。これでは全然エネルギーを使わんぞ。おい、他に要望がなければ適当に決めるがよいか?」

 

「そうですね。。。特に要望はありませんが、ちなみにエネルギーはどれくらい残っているんですか」

 

「99年11か月ぐらいだな。」

 

全然減ってねぇ。

 

「じゃあ、お金に苦労せず、健康で、頭の回転もそこそこ速いようにしてください。それでいいです。」

 

「わかった。それじゃあ安心して転生するといい。」

 

そういって、閻魔大王が紙にハンコを押した瞬間、意識は消失した。

 

 

 

 

***

 

 

 

「無欲な青年だったな。もっと色々要求するかと思ったが・・・まあいい。望みは叶えてやろう。しかしエネルギーは使いきらねばならんのでな。鬼として頑強な体と、金に困らない家を転生先として選んでやろう。そういえば、熱がどうこう言っておったな。うーん。生まれてすぐ火事に巻き込まれたらいいか。ちょうどいい魂の欠けた器もあるし、ここに入れてやろう。元の魂の名前は・・・■■■■か。すまんな。だがこれでいい。万事解決だな。では次の者。入れ」

 

 


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