鬼の体でFate   作:辺境官吏

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初志貫徹。臨機応変。


第十九話

「───あんた周りのこともっと考えなさい!そもそも士郎!何しれっと変身してんのよ!!!」

 

サーヴァントを仕留めた後、激怒している遠坂を宥めつつ衛宮邸に帰還し、セイバーと合流する。…どうやらイリヤは来なかったようだ。

…遠坂は先ほどの戦闘をセイバーに説明しつつ、危なかっただの、反則などと愚痴っている。説明2割、俺への批判が3割、驚き5割だろうか。

セイバーに説明してくれるのはありがたいがテーブルをあまり叩かないでもらいたい。お茶がこぼれそうだ。

 

「…これが俺の魔術だ。それに気が付いたら変身出来るようになっていただけで、俺も原理は知らない。周囲への被害は出来るだけ抑えたつもりなんだが…。」

 

10年前と比べて確実に被害は少なくなっていたと思う。自分の成長が少し誇らしい。

 

「アホかぁああああーーーっ!!そんなわけあるかっ!!!!だいたい、なんでセイバーを召喚しなかっ「───そこまでです。リン。」──む。」

 

セイバーが遠坂を止めてくれる。ありがたい。もう少しでお茶がこぼれるところだった。

 

「…確かにシロウが令呪で私を召喚しなかったことには思う所がありますが…冷静なシロウが判断を誤るとも思えない。敵サーヴァントのステータスを見て戦えると判断したのでしょう。令呪は温存すべきです。───相手に反撃を許さない速攻。宝具を持つサーヴァントに対して理想的な攻撃です。確かに学園の森林が破壊されたことは残念かもしれませんが…実際の戦場ではよくあることです。人的被害が無かっただけいいでしょう。」

 

「───その通りだ凛。君は魔術師としては優秀だが戦闘となると甘いところがあるな。もし初手で宝具を使用されていたらどうなっていたかを考えたかね。ダメージを負うことで発動する宝具があるかもしれん。サーヴァント相手はやりすぎるくらいでちょうどいい。………まあ、この小僧の実力があそこまでだとは思わなかったがな。正直私も呆れている。」

 

アーチャーまで擁護してくれるとは思わなかったな。

……いや、これは遠坂への教育か。確かに宝具で先制攻撃されていた場合死んでもおかしくなかったしな。………いや、その場合はアーチャーが防いでいたか。どうせ俺の実力を測るために敢えて敵の攻撃を見過ごしたんだろうし………頭のいい奴だ。

 

「む。………わかってるわよ。ちょっと士郎の強さにビックリしただけなんだから。───そういえばまだお礼を言えてなかったわね。…改めてありがとう士郎。これは借りね。」

 

こういう貸し借りにしっかりしているのが遠坂の良い所だろう。

口約束がどのくらいの重さを持つのかは分からないが、一つ一つの積み重ねが信頼と信用を生むことになる。

 

「…大したことはしていないが、借りというなら遠慮なく貸しておこう。」

 

それでも遠坂のような正統派の魔術師に貸しを作るメリットは大きい。

聖杯戦争後に役立ってくれるだろう。

 

「サーヴァントを一人倒しておいて大したことじゃないか……士郎と同盟を組んでおいて良かったわ。………それはそうと倒したサーヴァントの特徴を聞く限り、桜の召喚したライダー…メデューサで間違いなさそうね。慎二に譲渡したせいで弱体化していたらしいし、ラッキーよ。」

 

「む。そうだったのか…残念だ。」

 

「残念?」

 

「ああ。今のマスターが慎二とはいえ、元は桜の召喚したサーヴァント。つまり協力関係になれた可能性がある。どんな宝具を持っていたのか知らないが勝率は大きく上がっていたはずだ。…まあ、慎二や間桐の家を排除してからの話だし、消滅した今となっては何を言っても遅いがな。…それで、もう少し時間が経てば間桐の家に襲撃をかけるということで問題ないか?」

 

「………えぇ。聖杯戦争も気になるけど桜を放ってはおけないわ。公私混同かもしれないけど力を貸してくれると助かる。」

 

ここで更に貸し付けることも出来るが………やめておこう。

こちらにもメリットがある提案だからな…欲張って信用を失う必要はない。

 

「…この件については貸し借りは関係ない。俺も桜を助けたいしな。それに令呪を開発した家をそのまま放置するなんて危険は容認できない。俺が間桐なら令呪を操るバックドアや、令呪の行使を凍結する裏コードを用意しておく。慎二みたいな魔術回路を持たない人間をマスターに仕立てあげる技術力は危険だ………それで、襲撃方法は俺がガンドで焼いて逃げ道を塞いだ後、アーチャーの絨毯爆撃ということでいいか?場合によってはエクスカリバーも使用するが、被害が大きくなりすぎるから保留だな。」

 

「………私は士郎の発想が怖いわ。」

 

「………いや、戦争だろう?サーヴァントを失ったマスターでもサーヴァントさえ余っていれば契約できると聞く。慎二の性格上、教会に逃げ込まず部屋で震えるのがいいところだろうし、他のサーヴァントと契約する前に倒しておいた方がいい。」

 

「───待って。慎二を殺す気?」

 

「違う。戦えなくするだけだ。慎二にその気がなくてもマスターを失ったサーヴァントに狙われる可能性もある。」

 

結果として死んでしまうかもしれないが積極的に殺しに行く気はない。戦争である以上、再起不能にはするが。半端に痛めつけるだけだと魔術で治癒される可能性もあるため、少なくとも精神は殺す。

…遠坂とここで揉めてもいいことなんて一つもないから口には出さないが。

 

「…そう、それならいいわ。あんなのでも桜の兄貴だからね…。」

 

 

 

『─────番組の途中ですが臨時ニュースです。冬木市で多発していたガス漏れ事故でついに犠牲者が出ました。現在確認できただけで死者の数は47名に登り─────警察は穂群原学園で起きた爆発事故との関連も視野にいれて捜査を───。』

 

 

 

───テレビから冬木市で初の犠牲者が出たとの声が聞こえてくる。

どうやら場所は新都らしいが…ガス漏れ事故で47名の死者は無理があるんじゃないか。全然誤魔化せてないぞ。

 

「…サーヴァントの仕業ね。私のシマで好き勝手やってくれるじゃない…。」

 

遠坂が怒りのあまり震えている。…冬木の管理者としては看過できないだろう。

よくよく考えてみれば定期的に戦争が起こる土地の管理者って罰ゲームじゃなかろうか。俺なら絶対に嫌だ。

 

「………それより、気づいてるか?」

 

アーチャーとセイバーは、ライダーとの戦闘が終わってすぐに犠牲者が出た意味に気づいている。

今までは昏倒で済ませていた奴が命まで奪うことにした。

…つまり、方針転換するに値する切っ掛けがあったということだ。

 

「…わかってるわよ。安心しなさい、私はちゃんと冷静よ。───恐らく敵はキャスター。このタイミングで死者を出したということは………私達の戦闘を見ていたわね。なりふり構わず魔力を蓄えるつもりよ。曲がりなりにもキャスターだけあって神秘の隠匿はしているようだし…教会は動かないとみていいわね。」

 

ライダーを倒してから1時間足らずで約50人か。このペースでいけば明日には千単位で人死にが出かねないな。なにせ、サーヴァントに魂喰いを命じるマスターだ。危険人物に決まっている。

関係ない人がどれほど死のうが構わないが…みすみす敵の強化を黙ってみているつもりはないが……いや、こちらには対魔力に優れたセイバーがいるしそこまで脅威ではないか。

キャスターをアサシンやバーサーカー、理想をいえば黄金のサーヴァントにぶつけることが出来ればいいんだが…。

───マスターを捕まえて言うことを聞かせればいいか。

 

「…予定変更だ。俺はキャスターのマスターを狩る。…冬木で一番格の高い霊地は柳洞寺でいいんだな?」

 

今はまだキャスターの居場所は分からないが、魂の吸い上げられる先を探せばすぐ見つかるだろう。

柳洞寺から当たる方が効率的だ。

 

「───ええ。他にも私の家や、言峰教会、冬木中央公園なんかも優れた霊地だけど…陣地を作るなら柳洞寺が最適ね。桜のことは気になるけど…私も一緒に行くわ。」

 

「いいや、それには及ばない。幸いセイバーは対魔力に優れているしキャスター相手なら優位に戦える。…それより桜を保護してくれないか。敵は魔力の豊富な相手を狙っているだろうし、サーヴァントのいない魔術師は質のいい餌だ。」

 

これは考えすぎかもしれないが…桜の心臓に巣食う何者かが、吸い上げられた先…つまりサーヴァントに寄生することもありえるかもしれない。

他者の肉体に魂を寄生させるような奴だ…生存への執着を感じる。仮にサーヴァントの肉体を得た場合、闇に潜み、アサシンの真似事をする可能性が高い。

真正面から戦うよりアサシンの方が怖いからな。そうならないためにもこちらで桜を確保しておいた方がいい。

 

「冬木の管理者としては譲れないところだろうが…頼む。」

 

目をみて真摯にお願いする。

立場で行動しようとしているだけで心情的には桜を助けに行きたいだろうし…理由を与えて背中を押せば必ず折れる。

 

「………わかったわ。…士郎は桜に甘いのね。」

 

諦めたように頷き、そんなことを言う遠坂。

桜には世話になっているし多少は甘くなる。

───許容できる限度を超えたらその限りではないが。

 

「頼む。さて───悪いが休憩は無しだ。こうして話している間もキャスターは強化されている。では行動を開始する。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

柳洞寺にはセイバーと共にタクシーで向かうことにした。

日は落ちているものの、まだまだ活動時間だ。道路や電柱の上を走るにしても、目撃される可能性は高い。

タクシー運転手は一般人だから問題ないだろうが…セイバーと念話で連携確認を行う。

 

《───セイバー聞こえるか。》

 

《ええ、聞こえますシロウ。》

 

《柳洞寺がまだ敵本拠地と決まったわけではないが…仮に本拠地だった場合、そこに住む人間を含めて破壊する。場合によっては初手でエクスカリバーを使ってもらうことになる。》

 

《───わかりました。ですが、理由をお聞きしてもよろしいですか。》

 

《敵がキャスターだからだ。操られている可能性が高い。柳洞寺には多くの僧達が生活しているが…その中にマスターもいるだろう。皆殺しにして生き残った者がマスターだ。そいつを捕虜にする。無理なら殺す。》

 

《………わかりました。現在進行形で人が死んでいる以上、仕方ありません。》

 

《当たり前のことだが、セイバーが攻撃の要となる。俺は後方支援だ。》

 

《ええ。お任せください。キャスター風情に遅れはとりません。》

 

《それと柳洞寺が当たりだった場合、残念だがこのタクシー運転手も死んでもらおうと思うんだが…。》

 

《───なっ。》

 

驚いた顔でこちらを見ないで欲しい。念話の意味がないだろうに。

 

《いや、こちらの顔を見ているしな。柳洞寺で事件が発生すれば真っ先に疑われるだろう。教会も事件は誤魔化せるだろうが…タクシー運転手にまで気を払うとは思えない。…俺は暗示なんて出来ないしな。仮に警察に疑われて拘置所に入れられた場合…証拠はないから釈放されるだろうが…監視の目がつくことになる。》

 

《………では途中で降りて歩いていくのはどうでしょう。》

 

急いでタクシーに乗った意味をわかっているのか。

 

《その間により多くの人が死ぬぞ。》

 

《………。》

 

《100m手前で降りるのも無しだ。そもそも物騒な事件や事故が頻発する冬木で、この時間帯に柳洞寺までタクシーに乗る2人組が珍しい。しかもセイバーほどの美人となれば絶対記憶に残る。セイバーが霊体化できればまた違ったんだが。》

 

《………わかりました。私がやりましょう。》

 

覚悟をしたと言っていたが、汚れ仕事は嫌らしい。

明らかに無害な一般人を殺めることに罪悪感があるんだろう。その博愛精神は素晴らしいが、戦時では邪魔だ。

セイバーにやらせてその辺に慣れてもらってもいいんだが………罪悪感を稼いだ方がいいか。

 

《───いいや、俺がやる。提案者は俺だからな…辛いが、この役目は譲れない。》

 

 

それに俺なら証拠も残さない。

 

 


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