鬼の体でFate   作:辺境官吏

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追記:胸糞表現注意です。
苦手な方は結論だけ後書きに書きましたので、そこだけ見ていただければ大丈夫です。




第二十話

柳洞寺に到着し、タクシー運転手に代金を支払う。

 

結果は黒。

 

柳洞寺の周囲を結界が包み込んでいる…まだ視認していないため断言は出来ないが恐らくキャスターだ。

 

「あっ、そうだ運転手さん。プレゼントがあるんで目を閉じてくれますか?」

 

「へえ、何かな。楽しみだな。」

 

タクシーから降りて運転手に話しかける。爽やかな笑顔を忘れずに。

できるだけ恐怖を与えない方がいいだろう。こういう配慮ができるのが大人の証だ。

 

 

「───さようなら。」

 

 

指先に魔力をこめて運転手───佐藤さんを一瞬で焼き殺す…ただし焼きすぎないように注意して。

その後、タクシーをガードレールに投げ飛ばし、極限まで威力の抑えたガンドで燃やす。

 

───よし。これで事故死したように見える。

跡形もなく燃やしたら失踪事件になるかもしれないからな。佐藤さんにも家族はいただろうし、これで死亡保険金がおりるはずだ。直前で思い直して良かった。

詳細な現場検証をされれば殺人事件だとわかるだろうが…まぁどうみても事故だろう。

 

…背後からセイバーがこちらを凝視しているのを感じるが無視する。

数百年前の人間に保険金の話をしても仕方ない。

 

 

「───さて、柳洞寺攻めだな。」

 

これから焼き払うことになるのか。立派な建物だが火災保険はちゃんと入っているだろうか。

…一成にも最後の挨拶をしとくんだった。真面目すぎるきらいはあるが良い奴だっただけに残念だ。

 

「………ふぅ。……シロウには見えていると思いますが、柳洞寺の周囲には強固な結界が敷いてあります。強行突破できなくはありませんが…ステータス低下は避けられないでしょう。万全を期すなら正門から入るしかないですね。」

 

「結界を壊すことはできないか?」

 

「宝具を使えば可能です。」

 

「ならいい。宝具を使ってセイバーの真名が露見するようなことがあれば損だ。」

 

…というか、わざわざ相手の有利な陣地に入ることもないか?

いや…こういう相手は自分の有利な場所でしか戦わない。悠長なことをしていたら逃げられるか。

それに大聖杯が地下に存在することが問題だ。山崩しをして大聖杯のカウンター機構が発動すればどれほどの脅威になるのか…最悪セイバーを囮にして逃げるが…大聖杯は順当に勝ち残ってから処分した方が安全か。

 

「───では正面突破ですか。」

 

「ああ、正面から突破する。力技だがしょうがない。短期決戦だ。」

 

…両足を肩幅に開き深呼吸。

 

「………あの、シロウ。…正門はあちらですが。」

 

セイバーが何か勘違いしている。わざわざ危ない場所を通るなどバカのすることだ。

 

「………?正面から突破すると言っただろう。あんな見え見えの罠にかかってやる必要はない。」

 

何も準備をするのはあちらの特権というわけではない。

陣地で待ち構えるというのなら、破壊するだけのことだ。

 

 

 

「─────顕現開始」

 

 

其れは世界を侵す魔力。

無意識化でかけていた制限を解き放ち、肉体を新生させる異次元の強化。

───続けて右腕に魔力を集中───掌握。

───全身の筋肉は膨張と収縮を繰り返しつつ肥大化し、髪の色は赤から金へ、健康的だった体色は肌色から赤色へ変貌する。

 

 

「───セイバー、合図をしたら突撃しろ。セイバーがキャスターを抑えている間に俺は敵マスターを確保する。とはいえ、基本は臨機応変にいくぞ。」

 

 

牙が邪魔で喋りにくいが、伝わったようだ。

緊張した顔で頷くセイバーを横目にとらえつつ、戦闘準備を継続。

 

左足を前に、右足を少し後ろへ。左腕を前方に伸ばし、右手は腰元へ。正拳突きの構え。

───前々世で空手を習っていた甲斐があった。

 

 

 

右腕に魔力を溜める──更に膨張する筋肉──。

魔力をためて、ためて、ためて──────力任せに結界を殴りつける!!同時、魔力解放───ッ!!!!

 

 

一切合切塵と化せ!!!

 

 

「滅びろッッッッツ─────!!!!」

 

 

───解き放たれた破壊の力は、一瞬すら拮抗を許さず結界を破壊。

 

 

ズガガガガガァ────!!!!

 

 

指向性を持った暴力の竜巻が山の地表を抉り取り、炎と衝撃破を撒き散らしながら頂へ突き進み───寺社を破壊ッ!大爆発を引き起こし───一瞬後には熱波と瓦礫と木々と炎が乱舞する異界と化す。

 

───吹き飛ばされた燃える木々が遠く離れた住宅街へ着弾したのを確認。

…制限時間を3分に設定。それまでに退避する。

 

 

「───何をしている。行け。」

 

 

呆然と眺めていたセイバーを叱咤し、俺も周囲を警戒しつつ後を追う。

ちょうど一本道も出来たことだし、一直線に向かう。

山頂は人間の住めない環境になっているだろうが…相手はキャスター。油断は出来ない。

 

山頂へ向けて走っていると…山門にサーヴァントの気配を感じる。

やはり罠をはっていたか。………消去法だとアサシンだが…ともかくキャスター含むサーヴァント2体か。何故か山門を動かないが…令呪で縛られているのか?となると同盟者がいるはずだが…ええい、時間が足りない。

キャスターを締め上げ吐かせる。これが一番早い。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

セイバーの一瞬後、ほぼ同時に山頂にたどり着き、周囲を警戒。セイバーのやや後方に位置どる。

 

というか後から追いかけたのに追いついてしまった…敏捷Bではこの程度か。

………魔力放出を使用すればもっと早いんだろうが…セイバーは魔力を節約する癖でもついているんだろうか。後で修正が必要だな。

 

 

さて、生存している人間は───いた。

あれは───驚いたな、葛木先生がマスターだとは思わなかった。…いや、藤ねえ曰く武道の達人らしいし予想しておくべきだったか。となると、その前方にいるのがキャスターか。

怒っているのだろうか…肩を震わせフードを被っている姿は魔女らしいが…目線が合わないのはやりにくいな。

 

《セイバー。山門にサーヴァントがいた。どうやら動かない様子だが、注意するように。》

 

《わかっています。護衛はお任せを。…キャスターはどうします。マスターを守っているようですし、宝具を使えば今なら確実に倒せるでしょう。》

 

《…まずは話し合いだ。葛木先生は話の通じない相手ではない…目的が分かれば共闘できるかもしれない。ただし、何か怪しい素振りをしたらセイバーの判断で宝具を使用してかまわない。任せる。》

 

《わかりました。いつでも撃てるよう準備をしておきます。》

 

 

「───こんばんは、葛木先生。」

 

相変わらず牙が邪魔で話しにくいが、きちんと伝わったらしい。

 

「ひぃっ──!!お逃げ下さい宗一郎様!ここは私が時間を稼ぎます!!」

 

…伝わらなかったらしい。

 

「待てキャスター。姿は変わっているが、その声───衛宮か?」

 

自由意志の存在を確認。第一ステップをクリア。どうやら操られているわけではないらしい。

 

「ええ、そうです。ところで先生は何故このような場所にいるんでしょうか。」

 

「ふむ───それは私が下宿しているからだが…先の攻撃でその下宿先も吹き飛んでしまった。」

 

異常を確認。このような状況で普通の一般人が冷静でいられるわけがない。魔力は感じ取れないが、やはり魔術師だろう。

時間もあまりない。単刀直入に聞くしかないか。

 

「───ところで、葛木先生が聖杯にかける願いは何なんでしょう。場合によっては共闘できるかもしれません。」

 

「願いか。そのようなモノはない。私はただアレに請われるがまま参加したに過ぎん。」

 

「ということは、令呪は?」

 

「…持っていないが。」

 

確認終了。制御できない味方は不要。

 

 

 

《───殺せ。》

 

 

 

「───勝利すべき黄金の剣(エクスカリバー)──!!」

 

 

 

セイバーから放たれる圧倒的な光の奔流───!

 

それはキャスターにぶち当たり───その直前に逃げられる。

 

 

「───瞬間移動───転移か。」

 

 

背後に気配を感じる───殺気が見え見えだが…。

キャスターから放たれた極太の魔力弾は───しかし、セイバーに弾かれる。

───さすが対魔力A。ダメージはなさそうだ。

俺に対しても魔力弾を放ってくるが………ただの魔力の塊が効くわけもない。腕の一振りで弾き飛ばす。

 

「…取引しよう。」

 

とはいえこれでは埒があかない。攻撃し続ければいずれ当たるだろうが、制限時間も残り少ない。

どうやら主導権を持っているのは葛木先生のようだが…聖杯戦争の知識はないらしい。

ならば交渉相手はキャスターだ。

 

「キャスター取引だ。」

 

「………いきなり攻撃してきて取引だなんて都合のいい話ね。」

 

「そうでもない。───自害しろ。そうすれば葛木先生は助けてやる。」

 

「──────!」

 

「分かっているんだろう。お前では絶対に俺達には勝てないし、令呪がない以上、お前が味方になるといったところで信用出来ない。見たところ葛木先生を大事にしているようだし…悪い取引ではないと思うが。葛木先生には俺も同盟者も手を出さないと誓ってもいい。」

 

「………信用できないわ。」

 

「だが信用するしかないだろう。俺の言葉が嘘ではないことぐらい分からないか?それと…あの正門のサーヴァント。アイツに手出し無用だと伝えろ。…言っておくが、もし逃げてみろ。必ず追いかけてマスターともども殺す。弁解は聞かない。俺は本気だ。」

 

「──────。正門のサーヴァントは私が消滅したら消えるわ。」

 

キャスターが召喚したということだろうか。

…さすがは魔術師のサーヴァント。絡め手でくると油断ならないな。

 

「───キャスター。私が衛宮を殺すという手ではダメなのか?」

 

おっと…。葛木先生が予想以上に好戦的だ。これは想定外。

だがキャスターなら力量差がわかるはずだ。

 

「いいえ…例え私の強化を宗一郎様にかけたところで、セイバーはともかくあの化け物の防御を抜くことは出来ないでしょう。暗示も…どうやら効かないようです。」

 

それはセイバーを侮りすぎだと思う。

 

「───宗一郎様。貴方とすごしたこの数日間はまるで夢のような日々でした。」

 

「…そうか。案ずるなキャスター。お前の望みは私が責任をもってかなえよう。」

 

「フフっ、それは無理ですわ。…私の願いはもう叶っていたのですから…。…ではセイバーのマスター、後は任せましたよ。」

 

「ああ、安心するといい。お前という脅威がいなくなれば俺も同盟者も手を出さないと誓う。」

 

キャスターは安心したように微笑み───自身に魔力弾を撃ち込み消滅した。

 

「………。」

 

残された葛木先生が消滅したキャスターの方向を見ている。

何を考えているんだろうか。

 

《セイバー、周囲にサーヴァントの気配はあるか?正門にいた奴の気配が消えた。》

 

《…いえ、感じません。どうやらキャスターの消滅と共に消滅したようです。》

 

《ふむ…。では後始末だな。セイバー。葛木先生を殺せ。》

 

《なっ───!!》

 

《俺はキャスターと約束したし手は出さない。それにどうせ殺人を容認するマスターだ、気に病む必要はない。───もう一度言う。殺せ。》

 

《───わかりました。》

 

魔力放出と共に葛木先生に斬りかかるセイバー。

 

瞬時に反応し、迎撃する葛木先生だったが…ただの人間の攻撃がサーヴァントに通じるはずもなく、一撃で命を狩りとられる。

 

 

───残り制限時間20秒。任務達成。

 

 

「ではセイバー。逃げるぞ。」

 

 





読み飛ばした方のために要約。

①士郎:柳洞寺まで運んでくれたタクシー運転手を殺害後、結界を破壊。(例によって例の如く、周囲は火災炎上。)
②セイバーと共に一気に山頂へ。(なお、正門通らなかったので農民侍は放置)
③圧倒的な実力差を見せつけ、マスター葛木先生の保護と引き換えに自害させる。
④約束の裏を突いて葛木先生も殺害。
⑤逃走。

完全に犯罪者の所業。

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