鬼の体でFate   作:辺境官吏

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台風です。皆さん大丈夫でしょうか。


第二十二話

───衛宮邸。

 

黄金のサーヴァントとランサーの襲撃から逃れた俺達は、ひとまず衛宮邸に帰り───遠坂とアーチャー───と、保護された桜と合流していた。

───桜の心臓に寄生魂を確認。やはり直接取り除くしかないか。

 

「───桜。無事で良かった。色々言いたいことはあるだろうし遠坂からも聞いていると思うが………ひとまず今は大人しくしていて欲しい。理由は後で話すから………頼む。」

 

桜の両肩に手を置き、目を合わせて頼み込む。

あの照れ屋の桜が目を合わせられるようになった事は素直に喜ばしい。

 

「───ふぅ。先輩はいつもそうです。大事なことは秘密にしちゃうんですから。………後で全部話してくれるんですよね。」

 

ぷっくりと頬を膨らませて『私怒ってます。』という風を装う桜。プンプンなんて擬音が聞こえてきそうだ。

可愛い声だが、その体付きは凶悪だ。少し見ない間に更に成長したんじゃないか。ドコとは言わないが。

…あと全部話すとは言ってない。

 

「もちろんだ。───なに、すぐ済むよ。」

 

そう言って桜の後方からこちらをジト目で見つめている遠坂に声をかける。

位置は桜の前をキープ。

 

「遠坂。間桐の家はどうなったんだ?」

 

「───燃やしたわ。慎二は…暗示をかけて入院させた。少なくとも聖杯戦争中は大丈夫よ。」

 

やはり遠坂はなんだかんだ言って甘い。

一度殺人を経験させた方がいいんだろうが……余計なお世話か。

 

───アーチャーに視線を向ける。ちゃんと準備は出来ているのか。

 

「私としては処分することを提案したのだがね。」

 

「その事ならもう話はついているでしょうアーチャー。」

 

「…まあ、そういう事だ。サーヴァントはマスターに従うものだからな。───ああ、貴様の危惧していた間桐の妖怪爺なら殺害したとも。凛も確認している。」

 

「その通りよ士郎。───準備は出来ているわ。」

 

そう言って俺に意味深な視線を向ける。

なるほど分かりやすい。

面倒事はさっさと終わらせるに限る。

 

「わかった。───桜。」

 

「なんですか先輩。」

 

「…痛い時は手をあげるといいらしいぞ。」

 

「───え?」

 

左手を桜の背中に回して体を支え───右腕を胸の中央───心臓に突き刺す。

そして心臓と同化している腐った魂───蟲──気色悪い──を心臓ごと引きずり出す。

 

「────せん、ぱ、い───。」

 

ゴボッ───。

 

血とよくわからない体液が床を汚すが…蟲は右手で確保。

逃げようと必死に暴れているが…逃がすわけがない。詰みだ。

キィーキィーー!!と不快な音をたてて鳴いているが無視して締め上げる。

 

…左手で優しく桜を床に横たえる。……ちなみに桜は手を上げていない。我慢強いな。

 

「───遠坂、頼む。」

 

「わかってる!!」

 

減菌処理をしていない場所で外科手術をするのは感染症が怖いが…万能の宝石魔術でどうにかするんだろう。

体の中で心臓が再生される感覚というのはどういうものなんだろうか。

あまり体験したくないな…。

 

 

 

 

***

 

 

 

「成功したわ。」

 

居間でニュースを見ながら待っていると───遠坂が戻ってきた。

ひとまず一安心。

 

「桜は奥の部屋に寝かせてる……血の跡も処置しといたから大丈夫よ。」

 

「それは良かった。───で、コイツはどうする?あまり握っておきたくないし、出来ることなら早く着替えたい。」

 

真正面から桜の返り血を浴びて血まみれだ。蟲も気色悪い。

 

「………殺すわ。とても許せない。」

 

「だよな。」

 

右手に炎を纏い焼却処分を行う。

断末魔もなく、一瞬で燃え尽き───跡形も残らない。

…呆気なかったがこんなもんだろう。

 

「───さて、色々と報告と相談する事があるが…まずは着替えさせてくれ。セイバーは引き続き警戒を頼む。」

 

 

 

 

***

 

 

 

「お待たせ。…それとセイバー。警戒はいい。居間に入ってきてくれ。」

 

甚平に着替えた俺は、遠坂とアーチャー、そしてセイバーを見渡し情報交換を行う。

そして先ほどキャスターを自害させ、マスターを倒したこと。

ランサーや黄金のサーヴァントの襲撃を受けた事を話す。

遠坂の方はスムーズに間桐の家を襲撃できたらしい。

 

「まさか葛木先生がマスターで魂喰いをさせてたなんて…。」

 

魔術師と判断することの難しさがわかる。

令呪がなくてもマスターにはなりえるのだと葛木先生が証明してしまった。

これでは隣人がマスターであっても気づけまい。であればマスター候補を減らす必要がある。

 

「…俺の認識が甘かった。出来るだけ被害を抑えるように立ち回った結果がこれだ。…ランサーに命を狙われるまで自覚が足りなかった。どこかで侮っていたんだろうな………ランサーも黄金のサーヴァントも俺の命に届くというのに。…だがもう油断はない。これからは全力でいこうと思う。」

 

ここからが本番だ。もう資産を守ろうとも思わない。野蛮な原始人どもは必ず殺す。

 

「………ねえ士郎、アンタまだ本気じゃなかったの…?」

 

遠坂がゴクリと喉を鳴らす。

 

「本気だったが全力ではなかった。所詮はサーヴァント。マスターを殺せば消える存在と思っていた………特に脅威でもなかったしな。」

 

「─────。」

 

歯ぎしりをしてこちらを睨みつける遠坂。

確かに同盟者が全力で戦いに挑んでいないと知れば怒るだろう。

 

「…誤解を解いておきたいんだが、なにも敢えて全力を出さなかったわけじゃない。俺の全力は…なんていうか、周囲に被害を与える可能性がある。」

 

「……ふぅ。確かに全力の士郎が暴れたら、辺り一面滅茶苦茶になるでしょうね。」

 

滅茶苦茶どころか更地になるだろうが…逆に復興しやすいか。

 

「───まあ、そんな感じだ。それでここからの作戦だが…ランサーと黄金のサーヴァントとの敵対は決定している以上、バーサーカーを仲間にできれば一番なんだが…。」

 

「アインツベルンか…。」

 

「イリヤ一人なら説得も出来るんだろうがアインツベルンとして動いている以上望み薄だろう。呪われているくらいで聖杯を諦めるならそれに越した事はないが…まぁ保留だな。…逆にランサー側や黄金のサーヴァント側に付くこともないはずだ。つまり、四つ巴の戦争というのが今の現状だ。───ここまではいいか?」

 

まずは議論の土台を共有する。遠坂が頷くのを確認し、続ける。

 

「単純な戦力ではアーチャーとセイバーが同盟を組んでいる以上こちらが強いが、ランサーにヒットアンドアウェイ戦法に出られたら分が悪い。奴は伝承からも分かる通りゲリラ戦のプロだ。…また、黄金のサーヴァントを間近で観察して分かったが…アイツは誰とも同盟を組む器じゃない。自分以外は全てゴミ…そんな印象を受けたな。聖杯が汚染されていることも知っていたし、それをセイバーに飲ませるとも言っていた。最悪なのがこいつにマスターはいなくて受肉していることだ。」

 

「………狙うは黄金のサーヴァントね?」

 

遠坂が言う。確かにそれが正しい。

 

「それが出来たら一番だが…ランサーが漁夫の利を狙ってくる可能性が高い。逆に、ランサーと戦っている時に黄金のサーヴァントの邪魔は入らないと考えていい。アイツはセイバーとの決戦にこだわっているようだったし、俺に邪魔者を排除しろと言っていた。なら簡単だ。ランサーを排除後、黄金のサーヴァントに戦いを挑めばいい。」

 

「───ではバーサーカーはどうする。アインツベルンが大人しくしているとは思えん。」

 

「……保留する。場当たり的な行動になるのは嫌だが、アインツベルンの森に行って交渉が決裂した場合、不利な場所で戦わねばならなくなる。二体一なら勝てるだろうが、相手の優位な場所では戦わないのが基本だ。俺がアインツベルンなら戦闘用ホムンクルスを待機させておくしな。…どうせならバーサーカーをランサーか黄金のサーヴァントにぶつけたいんだが…そこは臨機応変にだな。敵対が決定的にならない状態でこちらから攻撃するのは止めてくれ。」

 

「───いいだろう。で、プランはあるのか?ランサーも神出鬼没だろうに。」

 

その質問を待っていた。遠坂の出方で全てが決まる。

 

「───炙り出す。ここからが俺の全力を出すという発言に繋がるんだが…。」

 

チラリと遠坂の顔を伺う。流石に言いづらい。

 

「なによ。勿体ぶらないで言いなさいよ。」

 

絶対怒るだろうな。

 

「少し話は変わるが…戦闘の余波はこれまでとまるで比べ物にならなくなる…冬木市の住民を逃がそうと思う。」

 

「……難しいわね。暗示をかけるにしても数が多すぎるわ。」

 

「ああ。だから自発的に逃げてもらう。───学園、公民館、海浜公園、言峰教会…町中の主要施設や新都のビルを爆撃し、町中に火を放つ。もちろんこの家も破壊する。自分だけ助かろうとは思わない。そうすれば自治体が避難指示を出さずとも逃げ出すだろう。場合によっては自衛隊が派遣されるかもしれないが───それまでに決着をつける。」

 

全力を出すと決めた以上、どうせ冬木は焼ける。いま破壊しようが後で火事になろうが同じことだ。

それにランサーには恐らく拠点がバレている。長居していい場所じゃない。

 

「なっ───!!そんなの許可できるわけないじゃない!!!」

 

机に手を叩きつけ、怒鳴りつける遠坂。遠坂の憤りは理解できる。

冬木の管理者というより、一住民として許容できないのだろう。

対してセイバーとアーチャーは沈黙。シミュレーションしているんだろう。

 

「だがそうしなければ死者が増えるぞ。命の重みをよく考えるんだ。黄金のサーヴァントはステータスこそパっとしないが超級のサーヴァントだ。対してセイバーのエクスカリバーも超級の破壊力を持っている。もしこれを街中で放つとどうなるか…10年前の焼き直しだ。それに、逃がすことは魔術の秘匿にも繋がる。」

 

「………。」

 

「実際、ランサーと黄金のサーヴァントには街中で襲われた。奴らは周囲の被害なんて何も考えていない。手を抜いて勝てる相手だと本当に思うのか。」

 

「……それでも勝ち切るのよ。」

 

どんな精神論だ。昭和の時代はとうに終わっている。

 

「言い忘れていたが、俺が全力を出すと周囲が焼ける。それにもうガンドなんて玩具は使わないぞ。徹底的にやる。…セイバーとアーチャーはどう思う。」

 

説得する時には周囲を巻き込むことが大切だ。

セイバーは召喚時に根回しは済んでいるし、アーチャーは…どうだろう。読めない。

 

「私はシロウに賛成します。───ランサーや4次アーチャーは決して手を抜いていい相手ではない。我々が敗北すれば、それすなわち世界の危機となります。」

 

「───私も賛成させてもらおう。貴様の案に乗るのは嫌だが…戦争に犠牲はつきものだ。少なく出来るならそれに越したことはない。それに───どうせ凛が同意しなくてもやるのだろう。セルフギアススクロールに縛られた我々に貴様の邪魔は出来ん。───こうなる事を見越していたわけではないだろうが…小賢しい奴だ。」

 

いつも思うがアーチャーは英雄っぽくないな。

なんというか犠牲を最初から容認している…諦めている。

やりやすくて助かるけども。

 

「………はぁ。なによ、分かったわよ。私だって分かってる。どうせ反対しても士郎は実行するでしょうし。でも士郎分かってるの?この戦いが終わった後、確実に目を付けられるわよ。アンタ日常に戻りたいんでしょ。」

 

そんなことを心配していたのか。

その優しさは嬉しいが───もう遅い。

 

「………。どうせこの戦いの勝者…生き残りは目を付けられる。なら、手を出せば火傷じゃ済まないというところを見せつけておいた方がいい。」

 

「───わかった。私も覚悟を決めるわ。」

 

「ありがとう。───では、これから炎の雨を降らせに新都ビルの屋上に行く…アーチャーは協力してくれ。出来るだけ人のいないところを標的にする。セイバーは遠坂と桜を守ってくれ。遠坂は桜に事情の説明を頼む。…恐らく藤ねえが駆け込んでくるだろうから、暗示でも何でも使って桜と共に避難させてやってくれ。」

 

「───わかったわ。」「わかりました。御武運を。」

 

 

 

─────顕現開始。──魔力掌握。

 

 

───一気に鬼の姿に変貌する。

 

 

「………士郎に認識阻害の結界を張ったわ。その姿でどこまで効果があるか不明だけど。」

 

「いや、ありがとう。便利だなこれ…。…では行ってくる。何事もなければ2時間以内に戻る。アーチャー、行くぞ。」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

───新都ビルの屋上。

 

アーチャーと二人で周囲を見渡す。

…さて、まずは学園から燃やそうか。

 

「───待て。」

 

──む。なんだろうか。

 

「貴様…口では正義だの何だのとほざいているが、ただ自分の命が惜しいだけだろう。」

 

「───いや俺は本当に」

 

「ではその表情はなんだ。罪悪感も何もない無機質。正義?笑わせるな。貴様はただ効率を求めたロボットにすぎない。冬木の町を焼くのもその方が勝算が高くなるだけだ。」

 

……何でこいつは突っかかってくるのだろうか。気づいたところで黙っていればいいものを。

 

「───遠坂は見ているか?」

 

「………いや、凛と視野は共有していない。」

 

「…ならいいか。別に共有しても構わないが、しないことをお勧めする。こんなところで無駄な時間を使うのも嫌だからハッキリ言うが、俺は聖杯戦争参加者が嫌いだ。人の日常をぶち壊したクズどもは全員死ねばいいと思っている。」

 

「………。」

 

「そうだろう?根源が何だか知らんが、真面目に生きている人間の邪魔だ。遠坂の人柄には好感が持てるが…やはり魔術師。根本的なところで人命を軽く見ている。命を背負う?責任?…馬鹿らしい。死んでしまえば責任なんて取れないし、それで遺族が納得するものか。前回の聖杯戦争で死んだ人たちへのフォローも何もしていない。…まぁ何かしているのかもしれないが、俺は知らん。」

 

「…だが、それは貴様もだろう。」

 

「その通りだ。俺は他者が何人死んでも何とも思わないし、巻き込んでも、直接手を下しても特に思うことはない。ああ、そういう点では確かに人でなしなのだろう。立派な魔術師だ。…だが少なくとも聖杯戦争に参加したくなどなかった。勝っても負けても迷惑でしかない。……マズローの欲求階層説を知っているか?…俺達だけじゃない、この世界全ての人間の安全が脅かされていることは事実だ。少しでも勝算が上がるなら数人くらい簡単に殺すさ。」

 

「………。」

 

「………正義という発言に何のこだわりがあるのか知らないが、ただの言葉だそれは。本質は殺人犯に過ぎない。命に貴賤はないというが、俺は自分の命の価値が一番高く、次に藤ねえ、桜だ。誤魔化すことが気に入らないというなら訂正しよう。俺は正義の味方ではなく、悪の敵だ。…これで満足か。」

 

「────いや、わかった。貴様は…正しいとも。」

 

「わかってくれたようで何より。」

 

何やら信じられない者を見る目でこちらを見るが………敵意が完全になくなった。

男同士。話せばわかるというやつだな。

 

 

 

 

 

「────ではこれより本当の戦争を開始する。アーチャー、補佐は任せたぞ。」

 

「───無論だ。大船に乗った気でいるがいい。」

 

 

 

 

───叫喚地獄、雨炎火石処。

 

 

 

 

その日、冬木に災厄が降り注いだ。


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