鬼の体でFate   作:辺境官吏

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コナン君だと思っていただければ。


第二話

「ルールを決めよう。」

 

 

こんな姿形だが、一応は大人と認められたため、切嗣に提案する。

 

もう口調を取り繕う必要もないだろうし、大人2人が一つの家で生活するのだ。避けれるトラブルは避けるにこしたことはない。

 

居間でお茶を飲みつつ、向かい合う形となる。

 

 

「まず基本的なことだが、切嗣と呼ばせて欲しい。不都合ならお父さんと呼ぶが、どうだろうか。」

 

「それは構わないよ。君の中身を知った今となっては、お父さんと呼ばれることに違和感があるしね。僕は士郎と呼んでいいかい?」

 

「ああ、士郎で頼む。次に確認だが、切嗣は一人暮らしなのか?この広い家に一人暮らしというのは違和感があるんだが。」

 

「……。今は一人暮らしだね。この家はもともと聖杯戦争用に用意したもので、以前は協力者もいたんだが、いなくなってしまったよ。聖杯戦争の前には、ドイツの雪深いところに住んでいたんだが、ちょっとしたトラブルがあってね。今は戻れない。」

 

聖杯戦争。未だ半信半疑だが、魔術師同士の血で血を洗う戦争とのこと。

 

この家にきた時、家の周囲を透明な壁が張り巡らされているのを確認した。切嗣に確認したら結界だという。普通の人間には見えないらしいが、自分には見える。死んだ影響だろうか。

 

それは後で検証すればいいことか。ひとまず魔力の存在は信じてやってもいいかもしれない。

 

「つまり、協力者は聖杯戦争で死んだということか?トラブルとは?」

 

「………聞きたいかい?君が巻き込まれる可能性を減らすためにも黙っているつもりだったんだが。」

 

なんだこのダメ人間。気遣いの方向を全力で間違えてるぞ。

 

「知らずに巻き込まれたら困るだろう。書類上は切嗣の息子なんだぞ。むしろ、知っていることでトラブルを回避できると思うんだが。それに協力者がこの家にきた時、何も知らなければうまく対応も出来ない。」

 

「………。」

 

「話しにくいなら無理には聞かないが。」

 

誰にでも隠し事の1つや2つはあるものだが、必要な事柄を黙っている意味がわからない。魔術師という人種はみんなこうなのだろうか。

 

「わかった。長い話になるが、他言無用で頼む」

 

「勿論。切嗣は自分に対して負い目があるのかもしれないが、自分も切嗣にはこれから世話になるんだ。助け合っていこう。こうみえても自分は大人だ。たいていの事なら受け入れることが出来る。」

 

なにせ人生3周目だ。よほどの事でもない限り大丈夫。

 

「ありがとう。実はね、僕は殺し屋だったんだ。」

 

どうしよう。無理かもしんない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「なるほど。悪の魔術師を専門に狩る殺し屋だったと。」

 

正直、信じたくないが。どうにも嘘を言っている様子もない。

 

想像以上にこの世界は物騒なようだ。ゾンビや吸血鬼が普通に存在するなんて聞いていない。穏やかな人生を望んだはずなのに、なんでこんな目にあうんだろうか。

 

それともアレか。実は前の人生でもこいつらは当たり前に存在していて、ただ単に遭遇しなかっただけとか。閻魔は平行世界と言っていたし、その確率が高いのかもしれない。いや、次元軸がどうたらこうたら言っていたし、違うのか。分からないな。

 

ともあれ危ない世界だということは分かった。そして目の前の人物が非常に危険な人物だということも。

 

引退したとはいえ、フリーランスの殺し屋だった男だ。どこかで恨みを買っているかもしれない、いやほぼ確実に恨まれているだろう。そんな男の養子になった自分。格好の標的になりえるのではないだろうか。

 

……これはまずい。

 

警察に駆け込んでも意味はないだろう。なにせ敵は魔術なんてよく分からないものを扱う連中だ。聞く限りでは倫理観なんて欠片も持っていない。

 

今更、養子縁組を解消するのも無しだ。

 

聖杯戦争直後に養子縁組をしたが、すぐに解消した子供。怪しすぎる。自分が敵なら真っ先に襲うだろう。

 

こうなれば自衛のためには多少は鍛えないといけないだろう。幸いにして頑強な体は閻魔に貰ったわけであるし。(ここまで強くしてくれとは言ってないが。)自ら進んで危ないことはしないが、身に降りかかる火の粉ぐらいは払えるようになっておかなければ。教師も目の前にいることだし。

 

「それで、聖杯を手に入れる事が出来なかったから、アインツベルンには戻れない、と。義姉、イリヤスフィールさんだったか。その子はどうするんだ?」

 

「どうもこうもない。必ず助け出すさ。」

 

「いやちょっと待て。その子は祖父と一緒にいるんだろう。別に危険が迫っているわけじゃないと思うんだが。」

 

「それがそうでもないんだよ。あの家は聖杯を求めることしか考えていない。あの家にいる限り、イリヤの命は保障されるだろう。だが保障されるのは命だけだ。」

 

「だが、この家に連れてきたところでどうにも出来ないぞ。そりゃ会いたい気持ちはわかるが、四六時中一緒にいるわけにもいかないだろう?学校に通う年齢だし。それにアインツベルンは大きな家なわけだ。そんなところの娘を攫ってみろ。必ず追っ手がくるはずだ。違うか?」

 

「………。それはそうかもしれない。」

 

「切嗣の実力は知らないが、きっと強いんだろう。だが、まさか皆殺しにするわけにもいくまい。なら、逃げ続けるのか。そんな生活をその娘にさせるのか。」

 

ちなみに自分も嫌だ。

 

義姉のためというより、自分の生活を守るためにも説得に力が入る。

 

顔も知らない義姉のために逃げ回るなんて御免だ。自分は悪ではないが、聖人というわけでもない。

 

「交渉したらいいんじゃないか。魔術師は等価交換が原則なんだろう?なら、あちらの欲しいものを提示して、その対価としてイリヤスフィールさんの養育権を勝ち取ればいい。そこまでは無理でも、月に1度の面会とか。その程度ならなんとかなるんじゃないか?何か無いのか?」

 

「あるにはある。アインツベルンの、というより魔術師であれば誰でも喉から手が出るほど欲しいものを持っている。」

 

「それは?」

 

「全て遠き理想郷。聖剣エクスカリバーの鞘だよ。アーサー王を召喚した状態なら、この鞘を持つ者は一時的な不死となる。アーサー王を召喚していない状態でも魔力をこめれば回復効果程度ならある。」

 

光が集まったかと思うと、切嗣の手の上には鞘があった。

 

清浄な気配を感じる鞘だ。この鞘にそんな凄い効果があるんだろうか…。というかどこから出した。

 

視線を切嗣に向けると、目覚めた時に感じた泥の気配を感じた。嫌な気配だ。この世のありとあらゆる負の要素を煮詰めた呪いのような…。

 

もしかして鞘の効果で緩和していたのだろうか。

 

だとすれば、この鞘を渡すということは、切嗣の死期を早めることにならないか。

 

「───なるほど。後悔はないんだな。」

 

「あぁ。この鞘を手土産として、交渉をしてみるよ。」

 

切嗣の目をのぞき込む。そこには覚悟を決めた男の顔があった。明治によくみた男の顔だ。ついぞ俺の出来なかった顔でもある。

 

こういう顔をした男には何を言っても無駄だ。

 

これから世話になる養父が亡くなるのは申し訳ないが、トラブルの種が無くなると思えば悪いことでもない。

 

すぐ、というわけでもないんだろうし。

 

冷たいようだが、まだ会ったばかりの男だ。

 

「………さて、ようやく本題に入れるな。まず家事分担だが、基本的には半々としたい。切嗣にも仕事があるだろうから、その場合は自分が請け負おう。次に要望だが、2つある。まず1番大切なことは早急にインターネット設備を整えて欲しいということ。次に自分に戦い方を教えて欲しいということ。」

 

フッと気が緩む気配を感じた。

 

「僕は無職だよ。」

 

「え?」

 

「だから僕は無職だ。聖杯戦争で魔術回路の大半が焼き付いてしまってね。魔術師殺しも今は昔というわけさ。それに士郎に話したおかげでイリヤのことにも目途がついた。きっとアインツベルンのこともうまくいく。だからまあ、戦い方を教えて欲しいというなら任せて欲しい。インターネットもすぐに準備できるよ。ああ。そんな目で見なくても心配はいらないよ。お金はためこんでいたからね。ただまあ、理由ぐらいは教えて欲しいかな。」

 

「………。理由はいくつかあるが、世界が危険なことを知ったからだ。争い事は嫌いだが、巻き込まれた時に火の粉を払えるぐらいにはなっておきたい。それにどうにも力が強すぎて違和感がある。今のところコントロール出来ているが、ふとした時にコントロール出来なくなるかもしれない。これから自分は小学校に通うことになるんだろうが、寝ぼけて学友に怪我を負わせたくもない。それに…ぶっちゃけ暇だ。」

 

考えても見て欲しい。3度目の小学校生活。ロリコンでもなければ地獄だろう。

 

「鍛錬を暇つぶしで学ぼうとするのはどうかと思うが………わかった。先祖返りした君は力の使い方を学んだ方がいいからね。平行して魔術の鍛錬もした方がいいだろう。これはもう少し成長してから教えるつもりだったが、どうにも士郎は魔力が大きいようだ。最低限自衛できるレベルは必要だと思っていた。邪な魔術師に見つかれば、そのまま脳髄を引き抜かれてホルマリン漬けにされかねないからね。」

 

「なにそれ怖い」

 

「それが魔術師の世界さ。腐っているだろう?君がこれから足を踏み入れる世界でもある。」

 

「いや、踏み入れないが。」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「魔術を学ぶんだろう…?」

 

「ああ。魔術は学ぶが、魔術師になるつもりはない。切嗣は魔術使いだったんだろう?似たようなもんだよ。自分は根源なんてよく分からないものを目指すつもりはないし、他人の幸せを踏みにじったりもしない。目指すのは平穏な生活。そのために障害となるものを学ぶのは当然のことだ。彼を知り己を知れば百戦危うからずというだろう?」

 

「それを聞いて安心したよ。ああ、その姿勢は好ましい。………ところで、インターネットが欲しいのはなんでだい?鍛錬に必要なものなら僕が用意するが。」

 

おいおい、なんでこんな簡単なことがわからないんだ?

 

インターネットの使い方なんて1つしかないだろう。

 

 

 

「ちょっとXビデオを見たくてね。」

 

 

こちとら30年ぶりなんだ。

 




インターネットの使い道なんて1つでしょ?

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