鬼の体でFate   作:辺境官吏

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休む勇気。


第四話

真夜中。

 

切嗣がいなくなった山で考える。

 

効率的に強くなるにはどうすればいいかを。

 

なんでもそうだが、我武者羅に行動して成果を得ることが出来るのは一定ラインまでで、一定ライン以上の成果を得るためには、それなりに自分で考えることが必要だ。

 

その点、自分は幸福だったといえるだろう。(戦いを運命付けられているようで気にくわないが。)

 

曲りなりにもプロの戦闘屋に教えを受けられるのだから。

 

だが・・・。

 

「───違う気がする。」

 

違うのだ。あくまで切嗣に教えを受けているのは、人間としての戦い方だ。それは、人間の筋力、人間の魔力量、人間の知覚を持った者としての戦い方だ。

 

もちろん無意味どころか、大いに有意義な教えなのだが…違うのだ。

 

切嗣が兵器を多用するのが、その最たるものだろう。切嗣が想定している相手は主に魔術師…つまり人間だが、切嗣の兵器では魔術師は殺せても、自分を殺しきれない。

 

自分を殺しきれないということは、仮想敵であるサーヴァントや使徒二十七祖も殺しきれないということだ。

 

であれば、もう一歩踏み込まねばならない。

 

別に最強になりたいわけじゃない。強さに取りつかれているわけでもない。だが、どうせやるなら効率的に行いたい。

 

今の自分は武装したヒグマみたいなもんで、丸裸の人間相手なら負ける余地はないが、更に巨大な象や、自然災害には勝てそうにない。

 

欲しいのは、格上殺しの一撃。(一撃でなくてもいいが。)

 

「───とはいえ、そんな都合よくないか。」

 

せめて魔術適正が水なら、空気中の水分を利用して色々できたかもしれないが。

 

火と土でどうしろと。

 

火と土。鬼と蛇。

 

んー。前提が違うのか。そもそも、誰にでも勝てる力を持とうとすることが間違っているのか?

 

そんな力を持っているなら、そもそも最強か。

 

それもそうか。ゲームでも強い相手にはハメ殺しがきく。日露戦争を日本が勝利で終えることが出来たのも、有利な状況を作り出したからだ。

 

歴史を紐解けば、強大な鬼も人間に退治されている。

 

発想の転換だ。

 

自分が勝てる空間に相手を引きずり降ろす。

 

相手に普段通りの力を出させなければ、それで勝てる。

 

「これだな。この方面だ。」

 

自分より強いものを呼び出して代わりに戦わせるというのはどうだろう。

 

万が一、呼び出したものが勝てなくても、戦っている間に自分は逃げられる。なにも一度の戦いですべてを終える必要はないのだから。

 

「効果のある相手にはトラップや重火器などで戦う。効果がなければ、命の危険がなさそうであれば普通に戦う。同格以上は引きずり降ろす。それでも危ないなら代理で戦ってもらう。これを基本方針とする。」

 

これでいい。

 

可能な限り安全マージンを確保しつつ、格上にも対応する。卑怯かもしれないが理想的だ。

 

とはいえ、切嗣の評価を聞いてみないと分からないが。

 

やはりこういうのはプロの意見が貴重だろう。

 

…さて、切嗣が帰ってくるまで暇だしな。トレーニングでもしてみるか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「基本的にはいいと思う。だけど、足りないことがある。」

 

目の前には疲れた顔の切嗣が自分を見下ろしている。

 

ちなみに自分は正座だ。

 

周囲を見渡せば、木々が何かに抉られたように倒れており、一定範囲が裸山となってしまっている。

 

「士郎、加減が足りない。」

 

「返す言葉もありません…。」

 

言い訳をするとすれば、自分はただ全力で正拳突きをしただけなのだ。集中するために眼を瞑って行った結果、辺り一面がボロボロに荒れ果てていたのだ。

 

「ただの正拳突きでこんなことになるわけないだろう。おそらく、無意識に魔力放出をしたんだな。濃厚な魔力の残り香がある。全く、末恐ろしいな。…魔力制御が完璧になるまでは、僕が見ている前以外では全力を出すことを禁止させてもらおう。いくら隠蔽用のお守りを用意しても、これじゃあ意味がない。」

 

「おっしゃる通りかと。」

 

「本当に反省しているのか?…まあ悪気があったわけじゃないんだろう。もういいよ。それより、これがお守りだ。」

 

正座から解放された自分に切嗣から渡されたのは、何の変哲もないお守りだった。

 

本当にこんなんで隠蔽できるのか。

 

「そのお守りの中はあけないようにね。鬼に厄除けのお札を渡すのもどうかと思うが、霊験あらたかな元三大師の厄除け札だよ。知り合いに腕のいい人形師がいてね。なかなか高額だったが、作ってもらうことができた。士郎は魔力量の割に、外に漏れる量が極小だからね。それで十分なはずだよ。」

 

「ちなみに開けるとどうなる?」

 

「死にはしないだろうが、苦しむんじゃないかな。」

 

とりあえずこれは大事に持っておこう。

 

「それで、士郎の戦闘方針だが、おおよそはいいと思う。特に相手の戦力を削ぐやり方には賛成だ。ただし、簡単に逃げることができると思っているのがダメだね。」

 

何故だろう。召喚物をおとりにして逃げている間に対策を考えることや、そのまま逃走することもできるはずだが。

 

「逃げる時間を稼ぐことぐらいは出来ると思うんだが。」

 

「士郎。それは人間相手の話だ。」

 

どういうことだろうか。

 

「例えば魔術の奥義の一つに固有結界なんてものがある。これは任意の相手を結界内に閉じ込めて、、、まあ、いわば一方的に殴殺する結界だ。当然、逃げようとして逃げれるもんじゃない。」

 

なるほど。確かに、そもそも逃走が出来ない状態に追い込まれれば、本当に時間稼ぎ以上の意味をもたないだろう。

 

「それに、褒めるみたいで言いたくないが、アーサー王のエクスカリバーなら召喚物ごと斬られる可能性もある。相手が超火力を持っている場合や、そもそも2人組だったらどうする?逃げきれないだろう。待っているのは死だけだ。」

 

言っていることはわかる。だが、そうなってくると…どうしようもない気がするが。

 

「士郎。発想はすごくいいんだ。あとはその先へ踏み出すだけだ。」

 

考えてみる。

 

…そうか、安全マージンをとっていると見せかけて、防御や回避がないんだ。

 

いわば、攻撃とデバフと逃走の3つのカードで戦おうとしていたようなものか。

 

「つまり、防御と回避を考える必要がある?」

 

「その通り。士郎のその体は素のままでも十分な硬さがある。魔力放出も行えるようだから、それだけで鉄壁の守りになるだろう。あとは回避だけだ。」

 

回避か。確かに一番大切かもしれない。サーヴァントが持っている宝具なんてインチキばかりだと聞く。その中には当たれば必ず死ぬ攻撃なんてのもあるかもしれない。

 

とはいえ、回避となると難しい。

 

なにか良い手は………あっ!そうだ、瞬間移動はどうだろう。

 

「瞬間移動とか?」

 

「………残念ながら僕には教えることが出来ないし、できる人も聞いたことがない。最高峰の魔術師ならできるとは思うけど。」

 

「それもそうか。じゃあ体を炎に変えて回避するとかはどうだろう。こう、物理攻撃無効みたいな。」

 

「それもおすすめ出来ない。そもそも士郎の体は物理攻撃無効みたいなもんだろう?なら敵は概念武装や神秘の強い武器を持っている可能性が高い。炎ごと斬られて終わりだよ。」

 

自分一人で考えていたら気づかなかった穴が出てくるな。

 

やはり一人では限界がある。・・・ん?一人?

 

「そもそも召喚って難易度が高いのだろうか?」

 

「簡単なものならそう難しくはない。強大な魔に属するものなら難しいが…それは普通の術者の場合だ。」

 

「というと?」

 

「召喚術が難しいのは、召喚対象を制御する必要があるからだ。無理やり制御するか、対価を示して従わせるかの違いはあるが、士郎なら力づくも出来るだろう。それに、そもそもの来歴的に召喚魔術への適正は恐らく高い。」

 

「なら簡単だ。逆召喚させればいい。自分が危機に陥った時に、自分を召喚させる魔物…この場合、魔具でも何でもいいが。それを用意しておく。」

 

「なるほど。その発想はなかったな。危険は伴うが試してみる価値はある。」

 

「そうか。ならやめておこう。」

 

「………え?」

 

「いや、危険が伴うんだろう?なら、やめておこう。」

 

「士郎…。」

 

「む、怖気づいたわけじゃないぞ?ただ、試す前にやるべき事が多いってだけだ。もしかしたら訓練の過程で解決するかもしれないしな。」

 

「…確かに。とんとん拍子にアイデアがわいてくるから僕まで焦ってしまってたよ。ところで来週から小学校だが、どうする?」

 

そういえば小学校があるんだった。

 

2年生の中、精神年齢30歳+30歳の男が混じる…。

 

地獄絵図以外のなにものでもないな。

 

 

 

 

 

「よし、休学しよう。」

 

 

 

転生して初めての笑顔であった。

 




俺も仕事休みたい。
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