冷やしワカメ始めました。   作:ブラッ黒

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試験的な意味合いを含めて、Fate作品初挑戦です。
私なりの世界を楽しんでいただけたら幸いです。


冷えるワカメ

僕の名前は間桐(まとう) 慎二(しんじ)

まぁ、自分でも言うのは何だけど、容姿端麗、頭脳明晰、おまけに魔術師の血まで引いている生粋の『選ばれし存在』なのさ。

普通なら、僕と話すことさえ憚られる馬鹿どもに対しても、にこやかに過ごす僕……

ああ、なんて僕は慈悲深いんだろう?なんて僕は完璧なんだろう……

思わずうっとりしてしまう……

さてと、この物語は僕の華麗にして、優雅な日々を綴ったものだ。

庶民の君たちは、感涙に目を濡らしながら読むといいよ!

 

 

 

 

 

今更口に出すことでもないけど、僕、間桐 慎二は天才だ。

いや、僕が特別というのもあるけど、それ以上に僕以外がダメダメっていう事もある。

まぁ、仕方ないよね。僕が特別過ぎるって言うのもあるか……

 

「間桐、この問題は分かるか?解いてみろ」

 

「ああ、それはですね――」

おっと、いけない。僕としたことが自身のすばらしさを反芻する作業に夢中になってしまったようだ。

歴史の……えっと、誰だったかな?兎に角、不愛想な先生が僕を当てる。

無論、凡百の生徒なら無様にパニックになって「すいません、聞いてませんでした」なんて無様を晒すんだろうけど僕は違う!

第一、問題自体が簡単なんだ。当然答えも分かっている!

ここで華麗に答えて、僕の優秀な姿をクラスメイトに見せるとしようか。

 

 

 

「おい、慎二また徹夜したのか?

ゲームか部活かは知らないけど、ほどほどにしろよ?

日常生活に支障をきたす程――」

 

「うるさい!!今日はたまたま間違えただけだ!!

いつもならあんな問題、余裕なんだからな!!」

くすくすとクラスから受ける侮蔑ともいえる視線を感じながら、慎二は自身の親友でもある衛宮 士郎にそう言い放った。

 

「おいおい、そうカッカするなよ。ほら、せっかくの昼休みなんだ。

ほら、偶には学食で一緒になんか食おうぜ?」

俺弁当だけど、なんて言いながら士郎が紫の包みに覆われた袋を掲げる。

 

「学食か……いや、今日は桜が珍しく弁当を作ったんだ。

まぁ、どの程度か知らないし、あまり期待はしないけど……

吐き出す程、不味くはないだろうね」

そう言って慎二が同じくピンクの袋を取りだした。

 

「お!慎二もついに弁当デビューか、よっし!

屋上行こうぜ、生徒会室以外も偶には良いだろ」

士郎は良く生徒会室で食べている様だが、今日は慎二に付き合って屋上へ行くことしたらしい。

 

「ふぅん……他人を見下しながら食うって言うのも悪くないか。

衛宮、案内してくれよ」

慎二は士郎に連れられて、屋上への階段を上っていく。

秘密で借りた、と士郎が屋上の鍵を回せばそこは酷く開放的なロケーションだった。

 

 

 

「さてと、早く食おうぜ慎二」

 

「まぁ、そう慌てるな――あれ?」

士郎に続き、慎二が弁当箱を開けた瞬間固まった。

 

「ん?慎二どうし――た?」

士郎が慎二の弁当箱の中身を見て、固まる。

慎二の弁当箱は2段の弁当箱で、普通なら片方にご飯、もう一方におかずという風になっている。()()()

 

「まさかの両方ご飯……だと?」

慎二が開いた弁当に敷きつけられたのは白いご飯!!

右も!!左も!!ご飯オンリー!!驚きの白さ!!

 

「慎二が米をおかずにご飯を食べる人種……って訳じゃないよな?」

 

「あんッのぉ!くず妹ぉおおおお!!

よくも僕にこんな仕打ちを~~~!!」

地団太を踏みながら、慎二が激しく歯ぎしりをする。

 

「まぁまぁ……桜だって偶にはドジることくらいあるさ。

俺の弁当のおかず分けてやるからさ。

あ、けど米少しくれよ。じゃないと午後の授業もたな――」

 

「はぁはぁ……兄さん!!」

士郎が慎二の気をそらすように話すところで、桜が屋上の扉を開けて姿を見せる。

荒い息に、冬だというのに僅かに浮いた汗は、彼女が必死で校内を走り回っていたことを物語っている。

 

「桜ぁ……!」

慎二の声に怒気が混ざる、憤るような視線を自身の妹である桜に投げつける。

 

「兄さん、ごめんなさい!

そっちのお弁当ごはんだけです!こっち、こっちのお弁当を――」

桜が走ってきて、群青色の弁当の包みを差し出す。

 

「フン!!」

 

カシャん!

 

慎二はそれを容赦なく叩き落した。

包みがほどけ、オカズが地面に転がった。

 

「弁当?お前の弁当なんていらないんだよ!!

珍しく作ってるから?少し、期待してやったけど――

跳んだ期待外れだよ!!」

 

ガシャン!!

 

慎二は地面の落ちた弁当を蹴り飛ばすと、桜を無視して入口へと向かっていった。

 

「慎二!お前――!」

あまりの事態に、ついに士郎が拳を振り上げるが――

 

「先輩、もうやめてください!」

士郎を止めたのは、外ならぬ被害者のハズの桜だった。

 

「桜!?」

 

「私が悪いんです……私が全部……

ごめんなさい、ごめんなさい、兄さん……

不器用で、要領が悪くて、物覚えが悪くてごめんなさい……」

士郎を差し置いて、桜が何度も慎二に頭を下げる。

義理とはいえ、おおよそ兄妹とは思えない、まるで()()()()()()の様な関係を士郎はもう何度も見てきた。

 

「ほら、桜本人がこう言っているんだ。もういいだろ?

全く、ドジな妹のせいでこっちは昼を食いそびれる一歩手前だっての!

桜。そのごみ(弁当)片付けておけよ。

あーあ、最初から学食行った方が賢かったな」

慎二はそう言い放つと、これ以上は一瞥すらせずに屋上を去っていった。

 

「くっそ!慎二め!

桜は悪くないって言うのに……!

こんなのちょっとした入れ違い、事故みたいなもんだろ?」

小さく文句を言いながら、いつの間にか地面に屈んでいた桜に続いて士郎も、地面に落ちた弁当の残骸を片付け始める。

 

「あ、先輩……いいんです……いいんですよ……」

何でもない。気にする事でもない。そう言いたげに桜が目を伏せる。

そしてわずかに、悲しそうな顔をして慎二が床に叩きつけた弁当の残骸を片付けた。

 

「くっそ……」

向けようのない怒り、理不尽に対する憤りを抱えて、士郎は自身の感情をどう処理すべきか、答えの出ない疑問に胸中をもやもやしたもので覆われていくのを感じた。

 

 

 

 

 

その日の夜――

 

『さくらのへや』と書かれたプレートの掛かった部屋で、青い髪の少女が数枚の紙をみて、テーブル前の椅子に腰かけている。

非常に、非常に熱心な表情で、数枚の紙――慎二の写真を眺める。

どれも被写体が小さかったり、あるいは明後日の方向を向いているため、正面で撮った訳ではない。

あえて言うならば()()()()()()写真だった。

 

「兄さん……兄さん……なんて、なんて愛しいの……!

学校で、女の子を侍らす兄さん……弓道部で、弓を引く兄さん……

どれも、どれも素敵すぎる!!最高、いいえ!!兄さんの至高さは、私なんかの言葉では到底語り切れないわ!!!最高以上の物を示す言葉が無い、事が悔やまれるわ……

ああ、もっと、もっと私に文才が有れば、兄さんのすばらしさを言葉にできるのに!!!」

 

危険どころか完全にイッちゃってる目をした桜が、慎二の写真を見ながらうっとりする。

数枚の写真を並べ、その中の一枚。偶然こちらを見た時に取れたカメラ目線の写真を桜が手にする。

 

「ああっ……!兄さんが見てる……写真の向こうから、こっちを笑顔で……!」

当然これは桜に向けた笑みではないが、それでも桜にはそれと同じ価値があった。

今はあまり関係ない事だが、桜は慎二の写真一枚でごはん2杯は食べることが出来る。

昼の白米オンリーの弁当は、決しておかずを作り忘れたのではなく、最初から写真をおかずにするための桜の弁当だったのである。

 

「ああ――けど、いらない()も一緒に写ってるわ……いらない物は切り捨てないと……」

まるで暗く濁った泥の様な瞳で、ハサミを取り出し――

 

シャキ!シャキ、シャキキッ!

 

「うん!これで邪魔者はいなくなったわ」

無残にも切り刻まれた女生徒の部分を丸めて桜が、ライターであぶって燃やす。

一仕事終えた桜は、残った慎二をうっとり見つめてる。

 

「心なしか、写真の兄さんも喜んでる気がする……」

 

『桜……おいで、僕のかわいい妹……』

 

「ああ!!兄さん!!にいさぁああん!!!」

妄想の中で、慎二が優しく桜に語り掛けた時、桜が大勢を崩し写真ごと床に倒れる。

 

「ああ……兄さんの(写真)で一杯……」

打ち付けた後頭部に痛みを感じつつ、桜が写真を抱きしめる。

その時、部屋の前に誰かの足音がした。

桜がハッとすると同時に部屋の外から声が掛かった。

 

「さくらー、今、なんか音したけど、大丈夫か?」

 

「に、兄さん!?す、すぐに開けますね!!」

慎二の声を聴いた瞬間、桜の胸が跳ね上がった気がした。

 

(優しい兄さん……たまに、肉体言語を繰り出す時もあるけど……私を心配するなんて、何時もより優しい……

ハッ!?これはまさか、兄さんの夜這い!!

そうよ、血の繋がらない兄妹という禁断味あふれる関係、同じ屋根の下で暮らす男女、そして夜に異性の部屋へやってくるというイベント……!!

間違いないわ……兄さんは若い獣性を抑えきれず、何時もは心にしまっていた血の繋がらない(重要)妹への欲望が満ちてついに禁忌の扉を開けてしまったのね……!!

惜しむべくは、今兄さんを煽情出来るような下着で無い事……

いいえ、構わないわ!!ここは成り行きで、構わない!!)

僅か数秒の葛藤を済ませ、桜が自身の部屋の扉を開く。

 

「兄さんお待たせ、しました……大丈夫ですよ?少し転んじゃった、だけですから」

 

「なんだよ。相変わらずトロいな、お前はそんなんじゃ――

ひぇ!?え、えっと……じゃ、じゃあな桜、気を付けて寝るんだぞ?」

 

「あ、兄さん?兄ーさーんー!」

早々と逃げる様に、慎二はその場を去っていった。

 

「もう、兄さんったら……もう少し、妹をしっかり襲うべきなのに……

まぁいいや。今夜は兄さんの写真を……ああ!!」

桜がついうっかり持ち続けていた写真をみて、声を上げる。

そこにあった、慎二の写真には転んだ拍子に持っていたハサミが丁度、目の部分に突き刺さっていた。

しかも、奇跡か悪夢か、開いたハサミの先端が丁度両方の目に刺さっていた。

 

「うえぇーん!せっかくの、せっかくの兄さんの写真がーーーー!!」

桜が子供の様に泣きじゃくった。

 

 

 

 

 

慎二は、間桐家の廊下を速足に歩いていた。時折振り返り桜が付いてきていないか、気にする。

実は昼間のことは少しやりすぎたのでは?と後々になって慎二の中で、問題になって居た。

昼を食べ損ねかけたのは、事実だし、桜の不注意もあった。

だが、自分のしたことはひどく桜を傷つけたに違いない。普通なら桜が傷つこうが気にしないが――

 

「出来る兄貴である、僕は失敗したならキチンと謝るべきだよな。

まぁ、桜も何時もは良く頑張ってるし……

ここは天才たる僕が、器の大きい所を見せるべきで――」

なんて、誰に向けたか分からないツンデレを発揮して、桜の部屋に向かったのだが――

 

 

 

(やばい、やばい、やばいぞ……)

慎二の脳裏に写るのは、さっきの桜。楽しくてたまらないという笑みを浮かべ、その手には自身の写真を持ち両目にハサミを突き立てていた妹。

 

「ヒェッ……」

思い出すだけで、小さく悲鳴が出て背筋が凍る。

確かに自身は良い兄ではなかった、だが桜が写真に写った自分にあんなことをして、笑みを浮かべるほど追い込まれていたとは思っても居なかった。

 

「これからは、もう少し桜に、優しくするかな……」

頭を掻きつつ、慎二がそうつぶやく。

そう、何かの拍子であの写真の様な事が起きて、ハサミが自分の目に――

 

「ヒエッ……!」

またしても小さく慎二の口から悲鳴がこぼれた。

 

 

 

「ああ、兄さん……兄さん、愛おしいです……もっと、もっと私をぶって、兄さんのくれる痛みなら私、喜んで……」

部屋で怪しい瞳をトロンと、歪ませお気に入りの慎二の写真コレクションを眺めて桜が、怪しい笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

薄っぺらな自尊心と恐怖。陶酔と依存。

全く異なる、感情を抱いて今日も間桐兄妹の、一日は過ぎていく。

 




もし人気が出たら次の話を……
ハンターの暗黒大陸編が終わった頃に書きます。

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