冷やしワカメ始めました。 作:ブラッ黒
人によっては大したことない様に思えるでしょうが、意外と10話に行く作品はなかなか無いのが私の持論。
前々からアンケートを実施しましたが、半分近くの人が自由にすべきと言ってくれたので、この話が公開になりました。
さて、記念という形で、本来とは違う世界のストーリーをお楽しみください。
人理継続保障機関フィニス・カルデア。
そこは人類社会の存続の保障を任務とする機関。
2016年の滅ぶ人の歴史を変える為、特異点――本来なら存在しない過去へと飛び、未来を修正する「グランドオーダー」をなす組織である。
そして、そんな組織に身を置く少年がここに一人。
世界最後のマスターよ。過去を修復し、人類の歴史を、未来を救え!!
「って、言われてもなぁ……」
一人の青年――
その理由は酷く簡単。彼は酷く疲れていたのだ。
一般人枠でマスターとして呼ばれた組織。
沢山の仲間や先輩マスターと共に、過去を修復していくと思ったのもつかの間。
カルデア内で謎の爆発が起こり48人いたマスター候補は自分一人に成ってしまった。
それはつまり、本来なら48分割される仕事が全て、彼一人に行くことを意味していた。
「サーヴァントの召喚、特異点へのダイブ、そして気難しいサーヴァント達との生活……
こんなの、よほどのドMじゃないきゃ耐えられる訳ない、ないよぉ……!」
誰も見ていない事を理由に、枕に顔を押し付ける。
彼の心配はこれだけじゃない。
彼の一番の心配は――
ウィィーン
「
「ひぃ!?」
扉が開くと同時に入って来た相手に、青年が声を漏らす。
白にも銀にも見える髪に、髪の間から片方だけ見える目には黒ぶちの眼鏡。
赤いネクタイに、白のパーカーを身に着けている。
そして――
シュボッ!
胸ポケットから、たばこを取り出し咥えて火をつけた。
「マシュさん!?この部屋でたばこはやめてね!?
っていうか、まだ未成年――」
「黙れ、クソ虫。バレなきゃ犯罪じゃないんですよ?」
一瞬人を殺せるかのような鋭い視線をして、こちらをにらむ。
だがそれも一瞬。その後恐ろしくなど程の柔和な表情に戻る。
彼女の名はマシュ・キリエライト。人類最後のマスターである彼がこの施設で初めて出会った人間であり、必要に迫られたとはいえ奏真と共に初めての特異点へとレイシフトし、「特異点F」にて共に戦った3人の仲間の一人である。
「え、えっと、この部屋にはなんの御用……ですか?」
びくびくと怯えながら奏真がマシュに尋ねる。
「次の作戦の情報の通達です。ダヴィンチちゃんは『奴の部屋はイカ臭いから行きたくない』って言うんですよ。わざわざ、私がイカ臭いクソ虫先輩の所まで、来て上げたんですから、遠慮なく床に額をこすりつけて喜んでもいいんですよ?」
「く、臭くないもん!!」
「うるせぇ!」
パァン!!
マシュの張り手が奏真の頬を捉える!!
なけなしのプライドを振り絞った一言が、マシュによって見事に粉砕された。
「おら、喜べ。クソ虫」
「喜びの表現は、え、遠慮しておくかな……」
やけに塩対応なマシュを見て、怯えながら奏真が小さく笑みを作って見せる。
「そうですか」
じゅッ!
壁にたばこを押し付け火を消す。
一瞬焼ける臭いがして、部屋に煙が消えていく。
「そろそろお昼ですね。一緒に食べてあげますよ。
クソ虫先輩一緒に
「逝くの字、違くない!?」
正確な文字表記は分かりはしないが、何となくイントネーションで分かる気がする。
「で?先輩はかわいい後輩のお願いを無碍にするんですか?」
再度マシュが笑みを浮かべる。そして再度右手を構える。
まだ、笑みを浮かべている。まだ笑みを浮かべているが、これ以上彼女を苛立たせれば――
「つ、付きそい、ささせていただきます!!」
奏真は怯えながら、マシュに続いた。
ビクッ!
奏真の体が、とある通路の前で止まった。
この通路を抜けてしばらく歩くと食堂なのだが――
「ね、ねぇ、マシュ……あそこの前を通るのはやめた方が……よくない?
他の道なら、いくらでもあるし……」
「ビビってるんですか?
大丈夫ですって。
ってか、早く来てください。私お腹空いてるんです。
チッ、逝けおらッ!」
マシュが一瞬舌打ちをして、足で奏真の尻を蹴飛ばす。
それにより、奏真がマシュの前方に蹴りだされる。
「いけ」
「いぃ……」
顎でこちらに行くように指示するマシュ、びくびくしながら奏真が廊下を進んでいく。
時折振り返ると、マシュは心底楽しそうにニヤニヤと笑みを浮かべている。
「あひ!?」
振り向き様に、とある部屋のプレートが目に入る。
何度も何度も修理され、壁がつぎはぎに成っている。
その部屋の隣に、書かれたプレートには「所長室」と書かれていた。
奏真がその部屋の前を横切ろうとした瞬間――
ドッグゥアーン!!
「いやぁああああああああ!!!!」
その部屋の前を通りかかった時、爆発音と共に、部屋の扉が吹き飛んだ!!
変形し、ひしゃげた鉄の塊が高温を纏った破片となって、容赦なく奏真に降り注ぐ!!
「アツい!熱い!!熱い!!痛い!!イッタイ!!」
「ぷっくくく!
まるで本物の死にかけの虫みたいです」
痛みと熱さのたうち回る奏真をマシュが指をさして笑う。
自分だけきっちり盾でガードしている様は、やはりシールダーなのだろう。
「あ、ぁあ!!あああ……生きてる、生きてる……」
奏真は寝ころんだまま、自分の体5体満足であることを確認する。
その時、誰かがこちらに走ってくる様な足音が聞こえる。
「この爆発は……!!
大変だ。この様子では、もう、所長は……!」
爆発音を聞きつけたのか、モスグリーンのタキシードとシルクハットを着た赤みがかった髪をした紳士風の男が走って来た。
爆発を聞いてから駆け付けるまでが早すぎるし、なぜか手を当てた口が笑っている様に見えるが気のせいだろう。
「大丈夫よ、レフ。心配しないで」
「ぐぅ!?しょ、所長……ご無事、で……すか?」
瓦礫をかき分け、一人の女性が姿を現す。
長い髪についた煤を払いながら、爆発で一部が破けたタイツを履いて、上着の半分以上が吹き飛び、下着が見えているのも気にせずに悠然と歩いてくる。
彼女こそ、このカルデアの所長オルガマリー・アニムスフィアその人だ。
「全く!いったいどうなってるのかしら?
最初のレイシフトの時と良い、なんでこんなにカルデアは爆発が多いのかしら?
これじゃおちおち、作戦も立てられないじゃな――」
「おうっふ!?」
マリー所長が気づかずに奏真の腹を踏んだ。
ヒールの先が、奏真の敏感な部分を踏み抜いた。
「あん?貴方……こんな所で昼寝なんて良い身分ね?
時間を無駄にしてるなら、サーヴァントの育成か、特異点でも行ったらどうなの?
まったく、こんな奴しか生き残らないなんて、マスターの質が知れるわね」
血の混じった唾を吐き捨て、マリーは歩き出す。
「所長、こんにちは。よく無事でしたね」
「あら、マシュじゃない。いつもご苦労様。
彼の付き添いかしら?」
「はい、クソ虫先輩は私が付いてて上げないと、何もできない正真正銘のクソ虫なので……」
「そうよね?マスターは残念ながら、彼一人しかいないモノね?
今度、私からも少し、
マシュとマリーが床で悶絶する、奏真に背筋が凍るような視線を送る。
「レフ!!部屋、掃除しておいて」
「は、はい、所長……」
レフと呼ばれた男が、がっくり肩を落としてうなだれる。
彼は所長から全幅の信頼を置かれているが、なかなかのドジを踏む。
うっかり、刃物を持って歩いている時に、転んで所長に突き刺さりそうになったり
間違って、所長の部屋に危険な魔術で作った毒を散布したり。
失敗して、カルデアの核の部分に突き落としてしまったり
なぜだか、所長の食べ物に即死クラスの呪をかけたり。
様々なミスを犯している。
しかし、そこは所長の実力。
全てを受け止め、「もう、レフったら」の一言で笑って許してくれる。
恋する乙女の様な笑顔を見るたびに、レフはなぜか震えあがっているが……
完全に余談ではあるが、奏真の中では所長のニックネームは「ダイハード・オルガマリー」である。
「特異点F」でシャドウサーヴァントたちを魔法と己の肉体で、フルボッコにしたのは記憶に新しい。
もう、この人一人で良いんじゃないかな?
「さて、食事の前に、私がしっかり教育してあげますからね?」
レフに向ける、恋する乙女の様な顔は一転。
一切の情を排除した、冷酷な表情でこちらを見る。
その視線を投げかけられただけで、奏真の背筋に寒い物が流れる。
「マシュも付き合ってくれるかしら?」
「お昼はまだでしたけどぉ――
人肌脱ぎます」
「ま、マシュ?しょ、所長?……俺は、所長の様なダイハードな人物じゃないので……
それに、朝から訓練で朝ごはん食べてない……」
「大丈夫よ。死にさえしなければ、カルデアの総力を使って
「きっと多分、字が違う~!!」
「さ、行きましょうか?せ・ん・ぱ・い」
煤けた廊下の中、奏真の悲鳴が静かに響いた。
約半日後――
「ん~!そろそろ休憩にしましょうか?」
「ハイ、所長!先輩を鍛えるのに付き合ってくださってありがとうございます」
スッキリした表情を浮かべるマシュとマリーの後ろで、ボロ雑巾の様になった奏真が倒れている。
ぴくぴくと痙攣している事から、生きては居る様だった。
「私は先に上がるわ。またね、奏真君?」
マリーが部屋を出ていく。
「お疲れ様です、所長~
んじゃ、クソ虫先輩また明日。
明日は、もう少しガンバってくださいね?」
「はい、はぁい!!マシュ様!!」
マシュの言葉に反応して奏真は訓練室の床の上で正座をして、頭を床にこすりつけはじめる。
そして、扉が開きマシュの足跡が消えるまでずっと奏真は土下座を続けて居た。
やがて――
「うっ……マシュは厳しいし、サーヴァントたちはみんな俺なんて、何とも思ってないし……
所長は訳もなく怒鳴るし……命がけの任務ばっかりだし、けど誰も労ってくれないし……
なんて、なんて、場所だ!!」
床から頭を上げる奏真の顔は、
「あっあっ、あっ……マシュ様のあの蔑む瞳は最高ぉ!!
所長も、耳元で思いっきり叱ってくれて、あぁぁああ……
キモチイイ……もっと、もっと叱ってほしい……
けど、そんなお願い出来ないし……
あああああああぁあああ、もっと、いじめてくだせぇ……!!」
奏真は床に寝転がりくねくねと転がる。
霧江 奏真は普通の一般人であった。
魔力を持っている事だけが異常だったが、それでもカルデアに集められた魔術師達と比べれば無個性その物だった。
だが!!
ただ一つ!たった一つ、彼が他の人と違う点があった!!
それは――!!
「わ、私は卑しい豚ですぅ!!
マシュ様の言う通り、クソ虫ですぅ!!」
彼が過度のマゾヒスト――ドMだという事である。
これは塩対応のマシュとそれに対して、密かに気持ちよくなってしまうド変態野郎の物語である。
好き勝手書いた結果がこれだよ!!
敢えて名前を付けるなら「塩対応マシュとガチマゾ変態ロリコン次元」略して塩マシュマロ次元とでもしておいてください。
この次元は貴方たちのカルデアとは違う次元です。
なので、霧永 奏真君はカルデアのマスターとは違う人です。
塩対応マシュも別の誰かです。
キャラクター紹介
霧永 奏真(キリナガ ソウマ)。
16歳程度のマスター。カルデア内に唯一のこったマスターにして、ドMの変態。
マシュの叩かれたり、所長に恫喝されるとすごくうれしい!ビクンビクン。
けど出来れば、ロリ系サーヴァントたちに、イジワルされたいらしい。
ロリコンのドM
名前の由来は「霧永 奏真」→「永霧 真奏」→「えいむ まそ」→「えむ まぞ」からきている。
決して、作者が中二の頃書いてたノートからの引用ではない。
次は20話でお会いしましょう。