冷やしワカメ始めました。   作:ブラッ黒

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さてさて、今回も投稿です。
ようやくあのキャラがしっかり出せましたね。


防波堤の攻防

僕の名前は間桐(まとう) 慎二(しんじ)

まぁ、自分でも言うのは何だけど、容姿端麗、頭脳明晰、おまけに魔術師の血まで引いている生粋の『選ばれし存在』なのさ。

普通なら、僕と話すことさえ憚られる馬鹿どもに対しても、にこやかに過ごす僕……

ああ、なんて僕は慈悲深いんだろう?なんて僕は完璧なんだろう……

思わずうっとりしてしまう……

さてと、この物語は僕の華麗にして、優雅な日々を綴ったものだ。

庶民の君たちは、感涙に目を濡らしながら読むといいよ!

 

 

 

 

 

ぐつぐつと煮える鍋をお玉がかき混ぜる。

豚肉と複数の野菜が湯気を立ち上らせ、ほんのりと野菜のの甘い香りを立てながら煮えている。

 

「そろそろかな?」

桜がその豚肉のかけらを掬い、小皿に掬って味を見る。

 

「うん、おいしい」

思った以上の料理の出来に、桜の顔に笑みが咲く。

 

「おや、とても良い香りですね」

 

「あ、ライダー」

桜の背後、彼女のサーヴァントであるライダーが立っていた。

小さく鼻を鳴らし、桜と同じ様に笑みを浮かべる。

 

「昼には早ですけど、夕飯の仕込みですか?」

時刻は午前10時を少し回った頃、確かに昼にしては手が込んでいるし、夕飯に出すには早すぎる。

 

「ああ、これはライカちゃんの分なの」

 

「そうですか」

桜の言葉を聞いて、ライダーは内心ほっとしていた。

約一か月前、彼女の兄がサーヴァントである「ライカ」を召喚して以来、桜の暴走は酷くなるばかりだ。

 

散歩に行く慎二を見て「私も、私も兄さんと散歩に行きたいです!!」と言いながら自分の首に首輪とリードを付けて散歩しに行こうとしたり……

 

ライカと同じベットで寝る慎二を見て「わ、私だって兄さんと同じベットで寝たいです!!それどころか……うぇっへっへっへっへっへ」とイってしまった目をしたり……

 

汚れたライカの体を、慎二が風呂に入れて洗ってやったりするのを見るて「兄さん、私も、私も汚れちゃいました。いっしょに私もお風呂……いえ、むしろ……寧ろお風呂で私の事をムチャクチャに汚してくださ――」

 

「ひぃえ!?」

 

これ以上思い出すのは自分の精神状態的によろしくないので、ライダーはあえて思い出すのをやめておくことにした。

 

だが、結果的に言えるのは桜はライカの事を目の仇にしており、ライカが慎二と仲良くしているのが許せないという事だ。

 

「けど、ようやく仲直りしたんですね」

ライダーはこれで桜が勝手に暴走するのが、多少は楽になるだろうと安堵のため息をついた。

 

だが……

 

「仲直り?誰と?あの雌犬と?

私が?するワケ無いじゃない。

後からしゃしゃり出て来た泥棒犬の分際で、兄さんを独占して……」

桜の目が一瞬にして、ハイライトをなくす。

いや、ひょっとしたら今日話しかけた最初から、そんな物無かったのかもしれない。

 

「実はね?昨日TVで見たのよ、ライダー……

犬ってね?玉ねぎ食べると死んじゃうんだって……

何かの拍子に、ライカちゃんのごはんに入ったら大変よね?

うん、大変よね……私も気を付けないと……」

 

「あ……」

ライダーが視界の端に、多量の玉ねぎの皮がゴミ箱からはみ出ているのに気が付いた。

おそらく、この鍋には何らかの形で調理された大量の玉ねぎが入っているのだろう。

桜は決してライカを許していなかった!!

それどころか、桜の内心に在ったライカへの憎悪は相手を暗殺する方へとシフトした!!

 

「サクラ、やめなさい!!動物虐待は描写的にNGです!!」

 

「離してライダー!!大丈夫よ、間違って偶然ライカちゃんが食べちゃっただけだもの!!

後で、ご褒美としてチョコレートも上げるし!!

飼い主とペット、普通の風景よ!」

 

「犬にはチョコレートもダメって言ってたでしょう!!」

ライダーが必死になって、桜を止める。

桜の暴走は留まるところを知らない!!

 

 

 

 

 

その頃慎二は――

 

「――ッくょん!!あ……なんか、鼻がむずむすする……」

 

「あう?」

容赦なく吹き付ける冬の風。防波堤に水しぶきが舞い、遠くに船が見えるここは冬木市の港。

そんな場所で、慎二は釣り糸を水面に垂らしていた。

そしてその隣では――

 

「あー、また逃げられちまった。今日はボウズか?」

やれやれとため息をつく全身青タイツの男。

 

「どうだボウズ、釣れたか?ん?」

気さくに話しかけるその男は、言峰 綺礼の元サーヴァントにして現カレンのサーヴァントである、ランサーだった。

 

 

 

「いや、なんで僕が釣りなんか……」

 

「良いじゃねーかよ。偶にはよぉ。

実は、今の雇い主からお前が犬のサーヴァントを召喚したって聞いてから少し興味があったんだよ。

北欧かどっかの、狼かと思ったんだが――」

ちらりとライカをランサーは見る。

 

「まぁ、頑張れや」

 

「おいぃ!!どういう意味だ!?今、一体どういう意味で、ライカをみて『頑張れって』言った!?」

ため息をつくランサーに慎二が声を荒げた。

 

「あーわりぃ。口が滑った」

 

「びっくりするほど、謝罪する気が無いな!!」

 

「けど、愛玩用には良いんじゃないか?

クラスは特殊クラスの『ペット』か?」

 

「違いますー!『バーサーカー』ですぅー!

本来のクラスは『ライダー』ですぅー!!」

ギャンギャンと慎二が喚く。

街中を散歩していて、バイトがたまたま休みだったランサーに出会い、半場無理やり連れてこられたのがここ()だった。

 

「ふっ、先客か。

騒がしいぞ。魚が逃げる」

 

「お、オメェは!!」

横から掛かる声に、ランサーが表情を鋭くする。

その視界の先には、赤い服をした男。

そう、その姿は慎二も知っているサーヴァント。

 

「遠坂の所のアーチャー!!」

 

「やぁ、シンジ。まさか、お前がランサーとつるんで釣りをしているなんてな。

知らなかったよ」

そう言って慎二の隣に座り、虚空から釣り竿を取り出して二人と同じく海面に浮かべる。

 

「てめぇ、なんでこんな所に!」

 

「何を言っている?釣り位誰でもするだろ?」

ランサーの言葉を躱しながらアーチャーが答えた。

青と赤の二人のサーヴァントが静かに、激を飛ばし合う。

 

慎二を真ん中にして……

 

「帰りたい……」

 

 

 

「第一俺は、テメェが気に食わねぇ!

初めてやり合った時からそうだ!」

 

「ならばどうする?中断した聖杯戦争だが、訳も無く戦うのか?

お互いのマスターがどういうかな?」

 

「ンなことは分かってんだよ!」

ダンダンと二人の語気が荒くなっていく。

一触即発の口撃が慎二を挟んで、繰り広げられる

 

「マジで帰りたい……もう、かえる……」

慎二が立ち上がろうとした時――

 

「ふっ、ならば勝敗はコレで決めようではないか?」

そう言ってアーチャーが自身の右腕、ひいてはその手に持った釣り竿を叩く。

 

「へっ!わざわざ俺の得意分野で挑んでくるたぁ、戦局の読めねぇ野郎だな?」

勝負を挑まれたランサーは、好戦的な笑みを浮かべ同じく持ってきていた釣り竿を、槍をふりまわす様に回転させ風を切る音と共に構える。

 

「えっと、僕はもう帰――」

 

「「ダメだ!!」」

 

「ヒェッ!?」

サーヴァント二人に慎二が速攻で止められる。

目の前のランサーは槍を慎二の胸に構え、アーチャーは2本の剣を交差して慎二の首に当てる。

 

「この勝負、見届け人が居なくてはな?」

 

「そう言うこった、コイツが負けるのを誰かが見ていなくちゃいけねーのさ」

アーチャーが、ランサーが、互いにけん制し合う。

どうやら帰る自由すら慎二にはもらえない様だった。

 

「あ、あああ、ああ……」

 

「いざ尋常に――」

 

「勝負!!」

お互い目で相手をけん制して、静かに防波堤に座る。

そして、勢いよく水面に糸を垂らした。

 

数分後……

「……なんか、地味じゃないか?」

 

水面に糸を垂らし、ほぼ全く動きの無い二人。

ライカに至っては飽きたのか、足を組んで昼寝を始めている。

 

「分かっていないな、シンジ。コレは忍耐がモノを言うのだ。

魚に悟られること無く、水と一体化して獲物を待つ。

釣りとは忍耐の勝負なのだ」

アーチャーが慎二にそう教える。

 

「へっ!忍耐?違うね!

魚が食いついた瞬間を逃さず釣り上げる!

釣りってのは、瞬発力の勝負なのさ!」

だが、その横でランサーがその意見を瞬時に否定する。

 

「……いや、二人とも全く釣れてないじゃないか……」

ため息をついて、さっさと勝敗が決まれば良いのにとぼんやりと思った。

 

「そうかな?来たぜ!!はぁッ!」

その瞬間、ランサーが目を見開いた!

釣り竿を瞬時に持ち上げ、糸を引く!!!

 

そして――

 

「ふっ、どんなモンよ?」

ランサーの手には一匹の魚がいた。

 

「どうやらこの勝負。俺の勝ちみたいだな?アーチャー」

笑みを浮かべ、ランサーが挑発する。

 

「なんの事だ?そんな小魚一匹で勝負が決まったと?

そんなサイズで満足とはケルトの大英雄も落ちたモノだな」

アーチャーの言葉通り、ランサーの魚は10センチにも満たない。

 

「なにぃ!?」

 

「これならすぐに――むっ!噂をすれば影だ!!」

アーチャーも竿にアタリが来たのか、すぐに釣りあげる。

数度の駆け引きの後、海面から魚が姿を見せた。

 

「どうだ、やはり釣りはこのサイズでは無くてはな?」

アーチャーが見せたのは15センチ程度の魚。

決して大物とは言えないが、ランサーと違い小物と言い切ってしまう訳には行かないサイズだ。

 

「どうだランサー。潔く敗北を認めたら――」

 

「ふっ、気が付いてねぇみたいだな?

こっちの手には、コレが有るんだぜ?」

 

「なに!?」

アーチャーの様に手を挙げたランサー。

その手には2匹目の魚が握られていた。

 

「2匹の獲物、この勝負俺の勝ちだな」

 

「何を言っている?その2匹より、こちらの魚の方が大きい」

 

「俺は2匹なんだ!!」

 

「デカいのはこっちだ!!」

ギャンギャンと再度英霊二人が言い争う。

正直言って、凄まじくくだらない!!

 

 

 

「ちっちゃいなぁ!!いろいろと!!」

ギャンギャンと、小魚を前に騒ぐ英霊二人を見て、慎二が声を上げる。

 

「五月蝿い!!」

 

「うるせぇ!!」

 

「ああもう、こんな時だけ仲良しかよ!」

嫌になった慎二が声を上げる。

自身のあこがれた英霊が二人揃いも揃ってこの醜態。

慎二は何処か、心の底に在った英霊へのあこがれが更に消えていくのを感じた。

 

「はぁ……ちっとも釣れないし、やっぱり僕も帰る――」

 

「アンアン!!」

慎二が踵を返そうとした時、ライカが激しく吠えた。

その視線の先は慎二の釣り竿。

そして、その針はピィンと海面に吸い込まれている。

 

「む?シンジ、アタリが来ているぞ」

 

「ボウズ引け!!全力で引け!!」

アーチャー、ランサー両名も気が付き、慎二に声を掛ける。

 

「わ、わ、わかってる!!」

走り出しこけそうになりながらも、海面に引き込まれそうな釣り竿を寸での所で手にする。

 

「な、コイツ――デカい!!」

竿からダイレクトに伝わってくるのは今までに感じた事の無い『圧』。

なおも竿を水中に引き込まんばかりの純粋な『力』。

釣り初体験にして、明確に分かる『大物』!!

 

「アンアン!!」

ライカが必死で、足元で吠えて慎二を応援している。

 

「ランサー!」

 

「分かってる!」

アーチャー、ランサーの両名が自身の持っている竿を置き、慎二のもとに駆け付けた。

 

「なるほど、これは……到底魚には思えん力だ。

糸が切れる所か、竿自体がへし折れてしまいそうだ」

 

「へっ!コイツぁ、俺でも見た事の無い『超』のつく大物だぜ?

ぜってぇに釣りあげるぞ、ボウズ!」

慎二を後ろから支える二人の英霊。

アーチャーが何らかの魔術で竿と糸を強化し、ランサーがその釣りのテクニックで的確に魚を誘導する。

 

「なんで、なんでこんな時だけ、仲が良いんだよぉおおお!!

これで釣れなかったら、僕が釣りがヘタみたいじゃないか。

いいぜ、絶対に吊り上げてやる!!」

 

「タイミングを合わせろ!!一気に片を付ける!」

 

「良いぜ、今回だけは従ってやる!!」

慎二、アーチャー、ランサーが同時に力を合わせ竿を持ち上げる。

その先には――

 

ザバァ!!

 

「あ、兄さん!やっと見つけましたよ?」

 

「ひぃえ!?」

海中から現れたのは、まさかの桜本人!!

長い髪が海水で濡れて体にへばりつき非常に怖い!!

 

「な、な、なななな、なんで!?お前がここに!?」

 

「いやだなー、海の散歩をしていたら偶然波に攫われちゃっただけですよー

こわなー、海怖いなー、兄さんが吊り上げてくれなかったら私死んじゃってたかもなー」

明らかすぎる棒読みで桜が誤魔化す。

どう考えてもあり合えない話だが、桜はこれを貫く気らしい。

 

「それにしても、釣りなんてやってたんですね?

私知りませんでした。兄さんは何でも上手にやっちゃいますね。

今度私にも教えてくださいね?

あれ、そう言えばこれって私、兄さんに吊り上げられちゃったって事ですよね?

なんか、どきどきする展開ですよね?」

べちゃべちゃと海水をまき散らしながら、桜がゆっくりと慎二の方へと歩き出す。

 

「ひ、ひ、ひっひ、はぁー、はぁー、はぁー」

余の恐怖すぎる光景に過呼吸気味になった慎二を見て、英霊二人は(確かに別の意味でドキドキしているな)なんて考えていた。

 

「じゃ、そろそろ帰りましょうね?兄さん。

海風に当たって風邪なんて、引いてほしくないですから」

 

「待て、待ってくれ、サクラ。

今シンジは俺たちの戦いの見届け人なんだ。

私とランサーどちらが大物を釣るかという、真剣勝負なんだ」

アーチャーが慎二の「助けて」と動いた口唇をみて、桜に話す。

 

「勝負?そんなの兄さんの勝ちに決まっているじゃないですか?

1メートル越えの大物()を釣ったんですよ?

どう考えてもこれ以上は無理です。

それじゃあ、決着もついた所で、お二方失礼しますね?」

桜は英霊二人に笑みを浮かべ、尚も過呼吸気味な慎二を連れて帰り始めた。

 

「さぁ、兄さん。釣りの優勝を祝して夕飯はとっても豪華にしてあげますからね?」

 

「た、たすけ、て……」

 

「…………」

 

「…………」

英霊二人は、桜に引きずられていく慎二を黙って見送った。

この勝負の真の勝者。

 

それは、そこそこの大きさの魚を釣ったアーチャーで無く。

かといって、小さな魚を2匹釣ったランサーでも無く。

そして、一番の大物を釣った慎二ですら無く。

 

「兄さんに釣られちゃった、釣られちゃった♪

これはもう、私は兄さんの所有物という事……

なーんて……うふふふふふ!」

楽しそうに獲物(慎二)を連れ帰る(本当の勝者)を見た。

 

 

 

 

 

余談――

 

「うふふ、ライカちゃん。チョコレートアイスは美味しい?」

部屋の中で桜が、市販のチョコレートの入ったアイスクリームをライカに食べさせる。

 

「あんあん、わふぅ!」

上機嫌で尻尾を振り、アイスのカップに顔を突っ込むライカ。

 

「くふふふ、せいぜい犬生最後の食事を楽しみなさい。

明日の今ごろは――」

 

「ライカー、何処だー」

 

「あぅん!!」

ライカが慎二の声に反応して、部屋を出る。

慎二は丁度桜の部屋の前にいた様で、扉を開けたライカを抱きとめた。

 

「ああ、居たいた。ん?ライカお前――またチョコレートを食べたのか!

口の周りにツイてるぞ?」

慎二の顔を舐めようとするライカを、遠ざける慎二。

 

「え?()()?」

 

「さ、桜か、ライカはチョコレートが好物みたいなんだ。

英霊だから大丈夫って爺さんが言ってたけど、あんまりやりたくは無いんだよな……

あー、口の周りベタベタじゃないか……

来い、風呂場で洗ってやる」

 

「ぅぅぅん……」

慎二の言葉に若干困りながら、ライカが渋々と言った様子で慎二についていく。

 

「失敗……またしても、あの犬は!?」

ダン!ダァン!と桜が自身の部屋の床を殴った。




魅力的なキャラクターが大いので、出す順番とスゴイ悩む……
そう考えると、どんなキャラとでも接点が作れるコミュ力って重要なんですね。

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