冷やしワカメ始めました。   作:ブラッ黒

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シンジ君が活躍するロボット物映画を見て来たので、投稿です。


蘇るワカメ

僕の名前は間桐(まとう) 慎二(しんじ)

まぁ、自分でも言うのは何だけど、容姿端麗、頭脳明晰、おまけに魔術師の血まで引いている生粋の『選ばれし存在』なのさ。

普通なら、僕と話すことさえ憚られる馬鹿どもに対しても、にこやかに過ごす僕……

ああ、なんて僕は慈悲深いんだろう?なんて僕は完璧なんだろう……

思わずうっとりしてしまう……

さてと、この物語は僕の華麗にして、優雅な日々を綴ったものだ。

庶民の君たちは、感涙に目を濡らしながら読むといいよ!

 

 

 

 

 

慎二は白を基調とした清潔感のある部屋にいた。

壁に飾られた人体模型、タバコへの注意を促すポスターに鼻を突くツンとした消毒の香りがここが病室であることを知らせている。

 

「あー、これは全治2週間ってトコだね。

幸い骨に異常は無いし、神経を傷つけても居ない。

傷跡くらいは残るかもしれないけど……

いやー、良かった良かった!最悪右腕が麻痺していた可能性もあったよ」

ほっほっほと恰幅の良い年よりの医者が、レントゲンを手に笑って見せた。

慎二の右腕には包帯が巻かれている。

 

「ああ……良かった……!

良かったですね兄さん」

まるで、すさまじく重い病気から快復したことを喜ぶような態度で桜が立ち上がり、横にいた兄に抱き着いた。

 

「ひゅうぁ!?あ、ああ……そうだな」

突然の妹の行動に慎二の声が一瞬だが裏返る。

 

「私心配で、心配で……夜も眠れなくて……」

目じりに浮かぶ涙を、桜が指先で拭う。

 

「脅す訳じゃないけど、次も同じ様に行くとは限らないからね?

ナイフの傷だって馬鹿に出来ないよ。

原因は喧嘩か?それとも――」

 

「女性関係です」

脅す様に放った医者の言葉を遮り桜が言い放つ。

 

「ふむ、そうか……ま、お大事に。

妹さんを悲しませちゃいかんよ?」

何かを察した医者の言葉に慎二はただ苦笑いを浮かべるだけだった。

 

(言える訳ない、言える訳ないだろ!?

この傷をつけた張本人が、今自分に抱き着いてるだなんて!!)

慎二の心の叫びなど誰も知る由は無かった。

 

 

 

 

 

「痛ッ……ただいまー」

実家の扉を開ける時、何時もの癖で使った右腕から走った痛みに、慎二は顔をゆがませる。

 

「兄さん!?無理をしちゃダメですよ」

 

「誰のせいだと……」

桜の言葉に慎二が機嫌を悪くする。

 

「わっふ!!わふ!!」

玄関マットの上で待機していたとみられるライカが尻尾を振る。

その瞬間、慎二の心が軽くなる。

 

「なんだぁ?心配してくれてたのか?

お前は主人思いだなぁ……」

自身の貴重な癒し要因であるライカに慎二がゆっくり手を伸ばすが――

 

「兄さん、危なーい!!」

 

「え、ちょ!?」

桜が勢いよく走って二人の間に割って入る!

 

「ダメですよ!

兄さんの腕にはキズが有るんですから、動物の菌で化膿しちゃったらどうするんですか!!」

ピンと指を立て、右足でライカにシッシッと追い払おうとする。

 

「いや、家にいるんだから、そんな心配無いだろ?

野良猫を触る訳じゃないんだし……」

突如癒しを奪われた慎二が口を尖らす。

 

「何を言うんですか!ライカちゃんの正式な史実も不明なんですよ?

もし、もしもペストや狂犬病の発症元の伝説が英霊化した物だったら……」

 

「いや、それだったらとっくの昔に全員死んでないか?

家の人間全員――」

 

(爺さんはまぁ、死なないだろう。

桜も……生き残る気がする……

あれ?死ぬの僕だけじゃないか?)

自身の言葉の最中で、言っていて良くないイメージが慎二の中に降って湧いた。

 

「兎に角!怪我が治るまでライカちゃんと距離を取ってください!

寝る時も私の部屋で寝かせますし、お風呂も私が居れますし、ごはんも私がやります」

余にもぴしゃりと良い切る桜の迫力に、慎二は何も言えなくなってしまった。

 

「わ、わかったよ……ライカにはあんまり近寄らない事にするよ」

不承不承といった感じで慎二がうなづく。

 

 

 

 

 

数時間後……

 

「ん、そろそろ時間か」

自室で本を読んでいた慎二が、壁の時計へ目をやる。

それとほぼ同時に、何かを扉がひっかく音がする。

 

カリカリ!カリカリカリ!

 

この音は何時ものライカが爪を扉にこする音だ。

そして器用に、部屋のドアノブをひねり扉の間から顔を出す。

 

「わっふ!わっふ!」

その口にリードを咥えて、希望に目を輝かせ姿を見せる。

 

「よしよし、散歩の時間か」

何時もの様に散歩に行こうとして、ついさっきの桜の言葉を思い出す。

これもすっかり慎二の日常の一部にして、家の中から解放される貴重な自由時間だ。

逃す術はない。

 

「……桜は……いない……よな?」

自室から首だけだし、周囲をきょろきょろと見回す。

妹の姿はない。

次に慎二は耳を澄ませ、周囲の音に気を配る。

妹の気配はない。

 

「周囲に足音も、無い……な?

よしよし、それじゃ散歩に連れて行って……」

慎二がライカに手を伸ばした時――

 

「兄さん!?何処へ行くつもりなんですか!!」

 

「ひぃへぇ!?」

突如桜が、慎二の部屋のクローゼットから姿を見せる!!

 

「な、なんでこんな所にいるんだよ!?」

 

「洗濯した兄さんの服を持ってきただけです!!

キチンと畳んでしまっておきましたからね。

それよりも、ライカちゃんには近づかない約束でしょ!?

何時から兄さんは最愛の妹より、犬を優先する様になったんです!!」

 

「いや、散歩位大丈夫だろ?

腕もケガしてない左手を使うつもりだったし……」

 

「右左の問題じゃありません!

偶然、ライカちゃんのリードが左手に絡まったらどうするんですか!

急にライカちゃんが走って、その拍子に転んで右腕で地面を着いたら!?

私、怒ってますよ!兄さんが自分を大切にしないから、すごく怒ってます!!」

 

「ええ……自分大切にして無い訳じゃ、ないんだぞ……?」

 

「ライカちゃんも、兄さんの怪我が治るまでお散歩はお預けです!」

 

「あ、あうーん!?」

非常にショックな顔をして、ライカは自身の持ってきたリードを咥えて帰っていった。

 

「あ、ああ……ライカ……僕の癒しが……」

 

「全く、あのメス犬は油断も隙も……

そんな事より兄さん、今日は退院回避祝いに、ごちそう作りますからね?

楽しみにしててくださいね?」

しょぼくれる慎二を桜が励まし、その部屋を出た。

 

 

 

 

 

「なんだよぉ……散歩位自由に行かせろってんだ……」

愚痴りながら慎二が、リビングでTVの電源を付ける。

さっきの桜の言葉を気にしてかいつもなら、膝にいのいちばんに飛んでくるライカの姿が無い。

 

「あーあ、ライカも変な気を利かせるし……」

やるせない気持ちで、コマーシャルに視線を向ける。

それは丁度今夜放送する、海外の映画の宣伝の様だった。

 

『――を助けた女は主人公のファンだと云う。

しかし、その手厚い介護は狂気を見せ、やがては虐待に変貌していく!!

看病という名目で家に閉じ込められ、連絡手段を奪われ……そして遂には!!

恐怖のスリリングホラー!!今夜放送です』

 

「ふん、馬鹿らしい。女が可笑しいと思ったならすぐに逃げればイイじゃないか!

全く!フィクションだからって、もう少し現実的な設定は考えられなかったのか?

第一看病って偽りながら…………ら、ら……ら?」

映画の設定を見ているウチに、何だか主人公の置かれた立場がなんだか自分の立場に似ている気がしてきた。

 

(いや、大丈夫だ。確かに桜は僕の事は好きではないが目立って攻撃してくるほどではないハズだ……

寧ろ『ケガの一端は自分にある』って言ってた位だし……

まったく、馬鹿馬鹿しいね)

そうやって自分を無理やり納得させようとするが、どうしても心の中に沸いた疑念が消せなかった。

 

「大丈夫、大丈夫さ。きっとただの思い過ごしだ……」

自分に言い聞かせるように、不安を飲みこむかの様にテーブルのお茶を煽った。

 

 

 

 

 

「うふ、うっふっふ……見たライダー?」

 

「何をですか?」

自室の中で突如、気持ち悪い笑いを漏らした桜の言葉に早くも、ロクでもない事を聞かされるのだとげんなりしたライダーが姿を見せる。

 

「あの泥棒犬の落ち込んだ顔よ!

兄さんが怪我をしたのは可哀そうだけど、そのおかげであのメスイヌを合法的に遠ざける事が出来たわ!!」

まるで大戦にでも勝ったかのような桜の態度に――

 

「ソウデスネ」

とライダーが力なく答えた。

 

「このまま、あの犬を遠ざけて私が兄さんの寵愛を受けて見せる!!

ああ……兄さん……はい、サクラがあの犬の代わりに兄さんのペットになります……

はぁ、はぁ……夜の公園で首輪をつけて散歩して……ああ、そうです、ペットは服なんて着ないです……兄さんさえ、望めばどこでも、サクラは首輪をして服を脱ぎます……サクラは兄さんのペットです……どんなご命令にも、絶対服従……」

頬を赤らめて、危険な一人事を言いながら桜が自身の胸を掴む。

 

(また始まった……帰りたい……)

 

「はっ!?それだけじゃないわ!!今の兄さんは利き腕が不自由……!

つまり私が日々の生活をお手伝いをしなくちゃいけないのよ!!

例えば、兄さんに『あーん』してあげてごはんを食べさせたり、腕が痛くて体が洗えない兄さんを、お、おっふ、お風呂に入れたり……それどころかトイレのお世話や、一人でムラムラした時の『処理』なんかも……

ああ!!これは、これは大変!!大変よ!!

そうと決まれば早速、夕飯のお買い物に行かなくちゃ!!

兄さんに合法的にごはんを『あーん』させる二度とないチャンスよ!!

ライダー!!夕飯なにが良いかな!?出来れば両手使う奴!!」

 

「……手巻き寿司とか、良いんじゃない……ですか」

心を閉ざしたライダーが何とか答える。

 

「それよ!!流石ライダー!!

手巻き寿司とか、なんだかんだ言って絶対に両腕使うもの!

絶対に兄さんは困るわね!!考えるだけでワクワクしてきたわ!!」

この状態の桜は自身の手に負えない事を、ライダーは理解していた。

 

 

 

 

 

「くそっ……なんだかんだ言って不便だな……思った以上に苦労する事が多いな」

トイレで用を足した慎二が廊下を歩く。

僅かに感じた喉の渇きを癒すため、台所へと向かっていた。

 

「出来れば、片手で食べれる物が夕なら良いんだが、あの妹はそこまで気が回るか?」

そんな事をつぶやきながら進んでいると、台所から件の妹の声が聞こえて来た。

 

 

 

『ライダー!!夕飯なにが良いかな!?出来れば両手使う奴!!』

 

『……手巻き寿司とか、良いんじゃない……ですか』

 

『それよ!!流石ライダー!!

手巻き寿司とか、なんだかんだ言って絶対に両腕使うもの!

絶対に兄さんは困るわね!!考えるだけでワクワクしてきたわ!!』

 

 

 

「ひぇ!?……気が回らない所か、真逆の方向に気を回して来やがった……

ここぞとばかりに、嫌がらせを……!」

桜とライダー二人の慎二を貶め入れる計画を聴き、慎二急いでその場を離れた。

 

(畜生……分かってたさ、桜が僕の事を嫌いなコトぐらいとっくの昔に分かっていたさ!!

けど、けどこんなオフェンシブに嫌がらせをしなくていいじゃないかぁ!!)

涙を流し慎二は逃げる様に自身の部屋へと駆け込んだ。

妹も妹だが、兄も兄で逃げ足は相当の物だった。

血は繋がっていなくても、二人は兄妹なのだろう。

 

 

 

 

 

「それじゃ、早速お買い物に行かなくちゃ!!」

 

「あ、サクラ」

ライダーが止めようとした時には、桜は自身の財布と買い物袋を手に廊下をスキップしていた。

 

「最速と呼ばれる『ライダー』のクラスを持つ私でさえ追えぬ速度……

サクラ、アナタは一体どこまで人間をやめるのですか……」

ライダーの言葉は虚空に消え、桜が上機嫌で出かける。

 

 

 

 

 

『いってきまーす』

桜の声と扉の開く音がして、自室の慎二は窓の外を見る。

買い物袋を提げて、遠目でも分かる位上機嫌でスキップをしながら桜が出かけていく。

だが、急に振り返り、慎二に向けて手を振って見せた。

 

「い”!?」

まさかのタイミングで目が合った事で慎二が部屋の中で震えあがった。

慎二の反応を見て、桜は再度スキップで買い物に向かった。

 

 

 

「不味い、不味い、不味いぞ……ライカと分断してきた。

それになんか、僕の動きを読んでる……このままじゃ……

看病の大義名分の元に、本当に僕を……」

イヤな想像が慎二の脳裏を駆け巡る。

 

『ずいぶんと大きな独り言ね』

 

「ひぃえ!?だ、だれだ!?」

突如掛かる声に、慎二が周囲を見回す。

その時――慎二はようやく、巨大な影が自身を見下ろしている事に気が付いた。

床から壁へ、そして壁から天井へ。

まるでこちらを見下ろすかのように、存在しないハズの影が佇んでいた。

 

「久しぶりね、間桐の坊や」

女の声がして、平面の影が3次元で形を持っていく。

真っ黒なのっぺらぼうは、妖艶な女へと形を変えた。

 

「お前は、キャスター!?」

右腕をかばいながら慎二が咄嗟に構えを取る。

 

「サーヴァント相手に素手は無謀すぎるわよ?

間桐の坊や」

キャスターが余裕たっぷりという表情で、口角を僅かに上げる。

 

「何の用だ!!」

 

「何って決まってるでしょ?

私がその傷の事を知らない訳とでも思って?

後始末に来たのよ」

 

「後始末!?」

キャスターのその単語に慎二が震えあがる!!

 

(そう思えば、今回の事件は謎だらけだった。

突如態度を変える生徒たち、女子は兎もかく衛宮や神父までおかしかった!

や、やはり事件の裏に糸を引く奴が居たのか……!)

朧気に浮かんでいた点と点が慎二の中でまっすぐに繋がった。

そしてその黒幕が目の前に居る。

慎二の中に冷たい物が走った!

 

「さ、桜とお前が裏で協力して……」

 

「さぁ?想像にお任せするわ。

じゃあ、あの五月蝿いお嬢ちゃんが来る前に……」

キャスターが空中に陣を出現させる。

そして指を振るい……

 

「ひ、ひえ……」

 

「これ、お見舞いの品です」

キャスターが空中の陣から、数本の薬瓶を取り出す。

 

「へ?」

 

「一流の魔術たる者、しっかり最後まで後始末するものよ」

一瞬だけ、すまなそうな顔をする。

 

「その、あれよ?一応あなたは宗一郎様の教え子でもある訳だし……

その……私が全く関与していない訳でも……無い事も無いし……」

キャスターの声がごにょごにょと小さく成っていく。

 

「んで?一体どうしたい訳で?」

 

「傷位は簡単に治せる薬を調合してきたわ。

患部に塗って半日、短ければ数時間で完治ね。

ちょっと多めに持ってきたから、次切り傷とか打撲した時にでも。

保存は常温で直射日光を避けてね」

持ってきた瓶の中身を説明するキャスター。

 

「あ、え、はい……アリガトウ、ございます……」

イマイチ現状の飲み込めない慎二の手に、いくつかの薬の小瓶が残った。

そして――

 

 

 

 

 

「兄さーん!ただいま帰りまし……た?」

 

「おー、桜。お帰り」

廊下の先、そこで慎二はライカとオモチャのロープで遊んでいた。

何処にでもある飼い主とそのペットの日常的行動。

何も問題は無い。何も不都合な事は無い。

自身の兄が右腕をすっかり完治させてさえいなければ……

 

「あれ……兄さん……腕の怪我は?」

声がワンオクターブ落ちた桜が、指先を震えさせながら指摘する。

その脳裏には自身の計画が崩壊してしまうのでは?という漠然とした確信があった。

 

 

 

「さっき、入れ替わりでキャスターが来て薬をくれたんだ。

流石は神代の魔術師、効果は覿面ですっかり完治だ。

これで、僕の世話は大丈夫だからな?」

慎二は自身の回復を示すかのように、右腕をその場で回して見せた。

その動きは、紛れもない桜の計画の崩壊を意味しており……

 

「がん”ぢじでよ”がっ”だでず……」

理解と同時に桜が、滂沱の涙を流す。

 

「ひぇ!?」

桜の悔しそうな声と、慎二の怯えた声が小さく響いた。

 

「ぼんどう”に……ぼん”どう”に”よ”がった”です……」

兄の完治と自身の計画の瓦解の狭間で、桜は己にすら言葉に出来ない感情を胸に、言葉を絞り出した。




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