冷やしワカメ始めました。   作:ブラッ黒

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ゲッター線を浴びたので久々に投稿です。


チェイス×チェイス×チェイス

僕の名前は間桐(まとう) 慎二(しんじ)

まぁ、自分でも言うのは何だけど、容姿端麗、頭脳明晰、おまけに魔術師の血まで引いている生粋の『選ばれし存在』なのさ。

普通なら、僕と話すことさえ憚られる馬鹿どもに対しても、にこやかに過ごす僕……

ああ、なんて僕は慈悲深いんだろう?なんて僕は完璧なんだろう……

思わずうっとりしてしまう……

さてと、この物語は僕の華麗にして、優雅な日々を綴ったものだ。

庶民の君たちは、感涙に目を濡らしながら読むといいよ!

 

 

 

 

 

間桐家の長い廊下を、桜が顔面に笑みを張り付けて歩いていた。

 

「ライカちゃーん?何処に行ったんですかー?ライカちゃーん?出てらっしゃーい!

ほぉーら、美味しいビーフジャーキーを上げましょうね~」

露骨なまでの猫なで声。

口元に対して全く笑っていない眼。

そして、後ろ手に隠した手に持つルールブレイカー!!

圧倒的に不機嫌な、妹様は廊下を闊歩する。

その瞳に映るのは『犬・即・斬』の強い意思!!

 

「あうあう!!」

 

「そこですか!!私の大切なモノを奪う泥棒犬は!!」

ルールブレイカーを翻し、桜がライカの声のした方に走り出す。

狂気に満ちてはいたが、桜の心の中はいたってクールだった。

 

(アレを、アレを奪い返さないと……アレを奪われる前にはいかないんです!!)

冷静沈着にマシンの様な心で、ライカを追う桜。

そして遂に廊下を走る、栗色の尻尾を見つける。

 

「はっはぁ!!ついに見つけましたよ!!

この、淫獣!!ケダモノ!!ビースト!!

『ソレ』は私のモノです、大人しく返しなさい!!」

 

ライカを追う桜、そしてそのライカが向かうのは――

 

「あ、いたいた。そろそろ散歩の時間だぞ?」

自らの主の慎二の所だった。

慎二がひょいッとライカを抱き上げる。

 

「に、ににににに、兄さん!?」

咄嗟にルールブレイカーを背中に隠す。

 

「ひぃえ!?びっくりした!!

突然飛び出すなよ!!」

慎二は一瞬桜がナイフを持っていた気がしたが、必死に取り繕う事で相手に察知されるのを防いだ。

 

「あっふ……あっふ……」

慎二に抱きかかえられたライカがモゴモゴと口を動かす。

その口には布が咥えられていた。

 

「ん、なんだその布?どこかで見覚えが……これは!?」

ライカからその布を取り上げると、それは慎二の愛用の下着だった。

 

「あっ……ま、全く!ライカちゃんにも困った物なんですよ?

脱衣所に入って洗濯前の服を持っていっちゃうんですから!」

人差し指を立てて、メツと桜が叱る。

 

「さ、兄さんの下着を返してください!

キチンとお洗濯しなきゃいけないんだすから!」

 

「わ、悪かったよ……ライカのマスターは僕だ。

サーヴァントの落ち度はマスターの落ち度だ……」

すまなそうに慎二がライカから取り上げた下着を桜に渡す。

 

「これでようやくお洗濯ができますね」

 

「所で桜……さっき、ナイフの様な物が見えた気が、したんだ、が?」

慎二の一言で、桜が動きを止める。

一瞬だがぴしっと、空気にヒビが入る音が鳴ったような気さえした。

 

「や、ヤダな兄さん……私がナイフを持って走るなんて、非常識な事する訳無いじゃないですか」

 

「じゃあ、なんてその手を後ろに隠したままなんだ?」

 

「え?」

慎二の指摘通り、桜の左手は不自然に背中に隠されたままだった。

それはまるで『何かを背後に隠しています』と言っている様な物だった。

 

「何も、持ってませんよ?本当ですよ?」

桜が僅かに冷や汗をかく。

 

「じゃ、両手をこっちに見せてくれるか?」

 

「…………はい、兄さん」

両者に緊張が走り、桜が不自然なほどゆっくりした動作で、さらに一瞬の躊躇いの後、桜が両手を開いて慎二に見せる。

 

「……なにも、持ってない……な」

この言葉で最も安心したのは、桜以上に慎二だった。

 

(もし、ここで持ってたら持ってたで、話が拗れるからな……)

最悪の場合は回避したと、慎二が心の中で一息ついた。

 

「じゃ、次はコッチですね」

 

「え?」

両手を見せた桜が今度は、自身の胸のボタンに手を伸ばし外し始める。

 

「え、ちょっと、何を……!?」

 

「私の体、検査したいんですよね?

良いですよ、全部、私の体の全部兄さんに見せます!!

あ、そうだ上じゃなくて……先にコッチですよね?」

胸のボタンから手を離し、今度はスカートの先を摘まみ下着を見せつける様に持ち上げる。

 

「兄さん、見てください……兄さんの下着さっき見ちゃったから……今度は私の下着でおあいこですよね?

すごく恥ずかしけど、こんな姿兄さんにしか見せないですから……

桜の全部見てくださ――」

桜の頬が赤くなり、じっとりと汗をかき始める。

 

「さ、散歩の時間だ!!あ、あー、忘れてたー。

じゃ、桜!!洗濯よろしくなー」

慎二は分かりやすいウソを並べると、その場から逃げ出した!

 

「あ、兄さん!!そんな……!!

ここからが、見ものだったのに……

私の準備は既に出来ていたのに……!」

一人残された半裸の桜が切なそうに、去っていく慎二を見送った。

 

 

 

 

 

「ただいま帰りました、サクラ。

これ、手紙とチラシです」

バイト帰りのライダーが廊下の中で立ち尽くす桜を見つける。

 

「あ、丁度良かった。ライダー、アレ取って」

桜の指の指し示す先――天井にルールブレイカーが突き刺さっていた。

 

「なんで、こんな所に……」

訝しがりながらも、その長身を生かしライダーが天井から件のナイフを取り返す。

 

「ちょーっと、ライカちゃんがイタズラしたから、『始末』しようとしただけよ?」

ナチュラルに『始末』という言葉を桜が発し、ライダーが内心怯える。

 

「一体何を……」

 

「ライカちゃんったらね?私の兄さんの下着を盗んでいっちゃったのよ?全く!」

 

「???文章ではサクラのなのか、シンジのなのか、分かりかねますね」

関わりたくない。と言いたげな表情でライダーが口を開く。

そうだ、このパターンは非常によろしくない。

 

「私の全ては兄さんの物。だから、兄さんの物は私の物でもあるのよ」

 

「ジャイアニズ……いや、すこし違う……ナニコレ?」

やはり良くないパターンに入ったと、ライダーが内心で苦虫をかみつぶした様な顔をする。

 

「兄さんの下着は私の物って決まってるのに!

それに最近は夜、使用済みの兄さん下着を身に着ないと寝れなくなっちゃって……

それなのに、盗むなんてライカちゃんは本当に悪い子!」

 

「自身の行いについては一切鑑みないんですね」

ライダーが冷たくつぶやいた。

 

「なんとか、合法的にあの子を家から追い出す手段は無いかしら?」

桜が顎に手を当てて考える。

そして、ちらりとライダーの持っていたチラシを見て、何かを思いついた。

 

 

 

 

 

「冬木のー、集まれペット自慢大会ー!!イエーイ!!」

冬木の海岸沿いの広場で、たくさんの人が集まっている。

遠くに見える手作りのアーチには『ペット大集合』の文字がカラフルに踊っている。

運営委員会の女性が、高めのテンションで案内をしている。

 

「さ、兄さん!ライカちゃんとの実力を見せる時ですよ」

 

「まったく、何で僕が……」

乗り気な桜に対して、消極的な慎二がため息をつく。

チラリと、運営のテントを見ると放送席にはテンションの高い女性と良く見知った人物が解説席に座っていた。

 

「解説の間桐さん、本日の見どころは如何でしょう?」

 

「フッフッフ、今年で7回目を迎える今回のペット自慢大会。

やはり、一番の目玉は最終種目の『無差別級課題競争』じゃろうて。

犬、猫、爬虫類に昆虫まで家で飼育しているペットなら、誰が出ても構わない競技じゃ。

毎年この種目に向けて鍛え抜かれたペットたちがしのぎを削るのを儂は楽しみにしておる。

余談じゃが、今年は儂の孫も参加予定での……

個人的にも楽しみじゃわい」

解説の臓硯がにこやかに嗤う。

 

(ちっ、爺さんめ。僕のプレッシャーをかけて来たな……

桜も桜だ。犬のサーヴァントとは言えライカをこんな場所に出させるなんて……)

内心慎二が悪態をつくが、そうも言ってられない。

雑念を払う様に、自身の頬を叩く。

 

「多分、これは爺さんの試練だ……

動物を使役する間桐の魔術師として、『結果』を出せって言いたいんだろ?」

もしも、もしもライカが結果を残せなかったらどうなるか?

相手は間桐家の当主臓硯だ。

自身の考える『最悪』を容易く超える『最悪』を出してくるだろう。

慎二は強く拳を握り、ライカに視線を投げた。

 

あっという間に、時間が過ぎ件の最終種目の時間となった。

 

『参加者の皆さんは、順番にスタート位置についてください。

この競技のルールを説明します。

参加は誰でも、どんなペットでも自由。

それどころか時間以内ならいつでも乱入も自由の超自由形です。

スタート位置から、無数の妨害ポイントを潜り抜けて最初にゴールすれば晴れて優勝。

名誉と豪華副賞が進呈されます』

前もって聞かされていた通りのルールが再度説明される。

祈るような気持ちで、慎二がスタート位置にライカを座らせる。

 

『それでは、位置について――』

 

「ライア、お前なら勝てる。僕のサーヴァントとして優秀な所を見せて見ろ!!」

 

『ドン!!』

 

「あうん!!」

スタートと同時に、ペットたちが走り出した。

 

 

 

「いけー!!ライカ!!走れー!!」

慎二が声援を送るその先で、ライカは――

 

「わっふ、はっふ!!」

沢山の人がいるのが嬉しいのか、観客に愛嬌を振りまきながら殆ど歩く様なスピードで走っていた。

 

「はしれー!!はしれよぉ……頼むからぁ……」

慎二が力なくうなだれた。

 

『さぁ!先頭集団がつぎつぎ、トラップにハマってリタイアしていく!

この罠を超えられる者はいるのか!!』

 

「トラップにさえたどり着いてない!!」

慎二が膝から崩れ落ち、地面を拳で殴る。

そんな慎二の隣に、見知った足が現れた。

 

「先頭集団はあそこらへんですか……

ハンデとしてはもう十分ですね」

 

「お前は……桜!?

お前も参加していたのか!!」

 

『おおっと!!去年のチャンピオン、間桐桜女史がついに動き出すのか!?

これは一気に分からなく成って来た!!』

実況の女性が桜が立っただけで、ヒートアップする!!

 

「え、おまえ、去年優勝したの?」

 

「ここ3年くらいは優勝してますよ?」

 

「さ、さんね!?」

桜の言葉に慎二が押し黙る。

 

「さぁ、行きなさい!!椿子ちゃん!!」

 

「きしゃー!!」

桜の掛け声と同時に、スカート中からピンクの刻印蟲が姿を見せる。

 

「ちょ、ちょ、人前に出していいヴィジュアルじゃないだろ!?」

慎二のツッコミを他所に、椿子がすさまじい勢いで先頭を追いかける!!

行く先に有るのは、動きを封じるネット!誘惑するエサ!ちょっと高めの平均台!

だが、その全てを椿子は圧倒的なスピードでクリアしていく!!

あと、他のペットたちが驚いて逃げていく!!

 

「さぁ!兄さん見てください!!コレが私の実力です!!

ライカちゃんなんか捨てて、私と一緒に蟲たちのお世話をしましょう!!」

勝ち誇った顔で桜が笑う。

小さな声で、「兄さんと個人レッスン、兄さんと個人レッスン」とつぶやいているが、周囲の歓声にかき消されて慎二には聞こえなかった。

 

その時――!

 

『おおーーっと!!ペットたちの群れのはるか後方から、猛烈なスピードで追い上げてくるのは!!エントリーナンバー6番!!今回飛び入り参加の――!!』

実況女がハウリングが起こらんばかりに声を上げる。

無数の動物が、その姿を見て怯え道を開ける。

そして一気に先頭集団に踊り出た!

 

「わんわんわんわん!」

 

「な、なにぃ!?あ、アイツは――!!」

慎二は自身の視線の先に、信じられない者を見た。

黒い服に、首にぶら下がる十字架。

 

「こっ、言峰 綺礼!!」

 

「わんわんわんわん!!」

慎二の前を綺礼が走りぬけた。

一瞬だけ目が合った綺礼の眼は死んでいたような気がした。

 

「ふふふ……どうかしら私のペットは?」

慎二の背後、あまり人に見せられない恰好のシスターが姿を見せる。

言峰教会のシスターを務めるカレンだった。

 

「人じゃないか!!」

 

「人は参加しちゃいけないルールは無いわよ。

この勝負、貰ったわ!!」

 

「くぅ!椿子ちゃんは神父さんなんかには負けません!!」

カレンに対して桜が立ちふさがる。

 

「そうかしら?アレを見てもそう言える?」

 

「そんな――椿子ちゃん!?」

レースも終盤も終盤、そこには最後の難関の箱の中身のボールをミニサッカーゴールに入れるという物があった。

 

だが――

 

「きゃしゃ……」

椿子はポケットに入るサイズの蟲。

当然箱を開ける事も、ボールを運ぶのも一苦労。

だが、綺礼は違う!!

 

「わんわんわん……」

あっさりと箱からボールを取り出し、ゴールに投げ入れる。

これで全ての関門は無くなった!!

 

「行きなさい、キレイ!!私のペット!!」

カレンが自身の勝利を確信した時。

 

ピンポンパンポーン!

 

『えー、協議の結果、人間の参加は倫理的にNGなので、エントリーナンバー6番のキレイちゃんは敗退となりました』

 

「ノー!!何よ!!倫理的NGってなによ!!」

カレンが膝から崩れ落ちる。

 

「いや、まぁ……ダメでしょ……」

慎二が茫然とする前をライカがトコトコと歩いていく。

綺礼の暴走で、殆どのペットたちが怯え飼い主の元へ帰ってしまっていた。

それでも、なおマイペースで気にしないライカだけが歩き続け――

その後30分という時間をかけて――

 

『ああ、ゴール!!ゴールです!!

エントリーナンバー1番ライカちゃんが今、遂にゴールです!

今年の優勝は、ライカちゃんに決定です!!

はぁ~、長かった……』

 

「あん?」

何か良く分からないと言いたげな顔をして、ライカが首を傾げた。

 

『いやー、見事なレースじゃった……

年甲斐もなく、手に汗握ったの』

解説の臓硯が満足気にうなづく。

そして、マイクを切ったのを確かめると――

 

 

 

「くっくっくっくっく……我が間桐の魔術の真価は生物を使役する魔術よ。

ならば我が家の住人である桜がその魔術を得意とするのは当然じゃて。

そして、我が血を受けづぐ慎二も同じ事が出来るのも、また当然」

臓硯がニヤリと笑って見せた。

 

「……ほぼ自爆では?」

いつの間にか出現していたアサシンがぼそりと呟いた。

 

 

 

 

 

「それでは、優勝は間桐さん宅のライカちゃんですー!」

表彰台の上でライカと慎二が、皆の前に並ぶ。

 

「あ、えっと……なんか優勝出来ました」

非常に釈然としないが、勝利は勝利だ。

ぎこちない笑みを浮かべて慎二が手を振った。

非常に、非常に釈然としないが、勝利は勝利だと自身に言い聞かせた。

 

「あの雌犬……運だけです、あの犬は運だけは良いんですから……」

ギリギリと歯ぎしりをさせながら桜がライカを睨んでいた。

 

 

 

 

 

自室で慎二が小さな箱とそこに入っていた説明書を読む。

 

「えーと、副賞は『ペット翻訳機』ねぇ?

本当に効果あるの?」

安っぽいピンクのフレームに、簡単なデジタル画面が付いている。

 

「なんか、言ってみ」

 

『あうん?』

慎二が機械をライカに差し出すと――

 

ピリリン!

 

安っぽい機械音と共に画面に文字が表示された。

 

『翻訳できません』

 

「あれ?もう一回……」

 

『アウるるるるん?』

 

ピリリン!

 

『翻訳できません』

 

「なんだよ、壊れてるのか?

全く!あんな小さな大会のオマケなんて、最初から当てにしてなかったからな!」

慎二が小さく苛立って、翻訳機をベットに放り投げた。

 

「兄さん~?おやつでクッキー焼いたんです。

一緒に食べましょう?

優勝のお祝いです」

ドアをノックして、桜が姿を見せた。

 

「クッキーか、良いね。

丁度小腹が空いてたんだ。

すぐ行くよ」

 

「はい、紅茶を淹れて待ってますね」

その言葉と共に、桜が部屋を出ていく。

 

ピリリン!

 

「ん?」

ベットに投げた翻訳機が、何かを翻訳した。

 

『兄さん大好き、兄さん愛してる、兄さん好き、兄さん、兄さん、兄さん、産める』

 

「ひ、ひぃええええええ!?

な、なんだこれ!?なんだこれは!!」

突然、流れ出す混濁の愛情表現に慎二が慄く!!

 

「こ、壊れただけだ……壊れて調子が悪いに決まってる……」

 

「にーさーん、早く来てくださいー、クッキーが冷めちゃいますよー」

 

ピリリン!

 

『絶対に逃がしませんからね』

 

「ひえッ……」

慎二は翻訳機の電源を落として、内容を見なかった事にすると心に誓った。

 

「にーさーん?まだですかー?」

 

ピリリン!

 

ピリリン!

 

ピリリン!

 

「見ない……僕は絶対に見ないぞ!!」

桜の声を、それを翻訳する機械に慎二は一人震え続けた。




バーサーカーの言葉は翻訳不可能。
仕方ないね。
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