冷やしワカメ始めました。   作:ブラッ黒

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クリスマスは特に何もしてないですが、とりあえずメリクリ!!
一日遅れだけどメリクリ!


望むべき未来

僕の名前は間桐(まとう) 慎二(しんじ)

まぁ、自分でも言うのは何だけど、容姿端麗、頭脳明晰、おまけに魔術師の血まで引いている生粋の『選ばれし存在』なのさ。

普通なら、僕と話すことさえ憚られる馬鹿どもに対しても、にこやかに過ごす僕……

ああ、なんて僕は慈悲深いんだろう?なんて僕は完璧なんだろう……

思わずうっとりしてしまう……

さてと、この物語は僕の華麗にして、優雅な日々を綴ったものだ。

庶民の君たちは、感涙に目を濡らしながら読むといいよ!

 

 

 

 

 

日曜の朝、目覚ましよりも先に目を覚ました慎二が、小さく鼻を鳴らしてがため息を吐く。

「はぁ……今日もか……」

この部屋にいても分かる甘い臭い。

餅米のねっとりした香りと、小豆が砂糖と煮える香り。

 

「にーさーん、朝ごはんの準備が出来ましたよ~

早く食べてくださーい!」

ドアが開かれ、義妹が顔をのぞかせる。

何時もなら、驚き小さく悲鳴を上げる慎二だが、今はそんな反応すら出来ないほど精神的に参っていた。

 

「今日の朝飯は?」

この匂いで分かってはいる。

分かっているのだが、一縷の望みをかけて敢えて聞いてみる。

 

「おはぎです!

餡子以外にも、きなこや黒ゴマにも挑戦したんですよ?」

ぐったりする慎二と対象的に桜が、華の咲く様な笑顔で答えた。

 

「兄さん、好きですよね?」

 

「ああ……そうだな……」

『またか』という言葉を必死で押さえて、げんなりした様子で慎二が応えた。

三日、既に三日ほどおはぎが続いている事実に慎二が額を押さえた。

 

 

 

時は3日ほど前に遡る。

 

 

 

「今日の夕飯はオムライス♪義妹の愛情たっぷりオムライス♪」

桜が鼻歌を歌いながら、軽くスキップをする。

その度に夕飯の材料の入ったビニール袋が小さく音を立てる。

特売の鶏肉に続き、玉子までもが安く手に入った故のチョイスだ。

 

「とりあえずケチャップでハートを――けど、それはありきたり過ぎかしら?

いいえ!古来より続く古典、定石には()()なるだけの理由があるもの!

やっぱりここはストレートに愛の言葉を――あ、兄さん!」

桜が自宅の玄関先に兄の姿を見て、喜色の笑みを浮かべる。

余談ではあるが、家までの距離は凡そ一キロ以上存在している。

その長距離から兄を視認出来るのは、桜の妹力の代物だろう。

 

「にーさーん!」

 

「ひっ!?さ、さくら!!」

突如満面の笑みを浮かべ走り寄ってくる桜に慎二が僅かに驚く。

そして慌てて、玄関口にあったポストを閉じる。

 

「兄さん?手紙でも待ってたんですか?」

明らかに怪しい兄の行動になんとなしに、桜が探りを入れる。

 

「あ、いや、そう言う訳じゃ……

んじゃ、僕は部屋に戻るからな!」

露骨すぎる言い訳をして、慎二がその場を後にした。

 

「おかしな兄さん……?」

義兄の不可思議な行動に、桜が首を傾げた。

一体、ポストの前で何を待っていたのだろうか?

 

「はっ!?まさか……怪しいお薬でも買ったんじゃ……」

桜の脳裏にゲスな笑みを浮かべる慎二が現れる。

 

「夕飯にお薬を混ぜられて、すっかり欲情した私を観察する兄さん……

我慢できなくなった現場を押さえて、黙ってる代わりに私の体を要求して……

やがてその欲求はエスカレートして……最終的には兄さん無しじゃ生きられない体にされちゃうのね!?」

体をよじる桜の隣を、ライダーが小さく「また発作ですか」とつぶやきながら自転車で出かけて行った。

と思ったが……

 

ちりんちりーん!

 

「あら、ライダー出かけたんじゃないの?」

今しがた出かけたハズのライダーが戻って来た。

 

「今、郵便局員とすれ違いました。

家に荷物だそうです」

そう言ってライダーが少し厚みのある冊子を差し出した。

 

「えーと、何処かの大学の資料?

けど、聞いた事の無い名前……あ」

小さく桜が声を漏らした。

 

「どうかしました?」

 

「この大学、冬木とは違う都会の方の大学みたい……

送り先の住所が全然違うもの」

 

「シンジが取り寄せたんでしょうか?」

 

「兄さんはきっとコレを待ってたのね」

桜が一人納得する。

すこし残念そうだが、何時もの事なのでライダーは何も言わなかった。

 

「都会に出たい少年と言えば、古臭く感じますがシンジなりに将来の事を考えていたんですね。

実家の財産を食いつぶして一生を終えるか、サクラにおんぶだっこのまま生きていくつもりだとばかり……」

 

「ライダー?」

桜の言葉に、ライダーはついさっき自身がしてしまった失言に、冷や汗を流す。

しまった。

この兄大好き妹の前で、兄の真実を言うのはタブーだったと口を噤む。

 

「兄さんはソコが良いのよ?いえ、よしんば一人立ちなんてされるより、ダメダメになった兄さんを私が死ぬまでお世話するのが、私のユートピア!

朝から夜まで、私無しでは生きられなくなってどっぷり依存して欲しい位なのよ!」

熱心に桜が語りだす。

 

「はぁ、それは良かったですね……」

 

「けど、兄さんの悪口は許さないわ。自害しなさいライダー」

 

「やっぱり、そっちはダメだったんですね!?

すみませんでしたぁ!!私が間違ってましたぁ!!」

うっかり令呪で自害させかけられたライダーが必死に謝る。

 

「兄さんもそろそろ受験を考える頃なんですね……

けど、せっかくならコッチの方の大学を受験すれば良いのに。

なんでわざわざ都会の方へ?

そんな素振りちっとも見せなかったのに」

冊子を手に桜が考える。

 

「周囲に反対されると思ったのでは?」

ライダーの言葉通り、慎二は間桐の家系の人間。

家督を継ぐのは桜か慎二がではっきりとは決まっていないが、あの臓硯が自らの孫を自身の手の届きにくい場所に置きたがるとは思えない。

かの爺は、桜ほどでは無いが孫を溺愛している。

 

ライダーの脳裏には

『許さん!許さんぞ慎二!!おじいちゃんの選んだ大学に通いなさい!!

じゃないとおじいちゃん、さみしくて泣いてしまうぞい!』

なんて猛反対する臓硯が思い浮かぶ。

孫の前では決して見せないが、内心では少なくともそう思う事に成るだろう。

 

「サクラも反対ですか?

シンジを手元に置いておきたい気持ちは理解出来ますが、相手の気持ちを汲む事も時には必要かと思いますよ?」

 

「確かに兄さんの一人立ちを妨げる事はしたくはないわ。

兄さんだって一人の人間だもの……

けど!けどよ?

都会の大学に行くとなれば、当然!

この家から出て行っちゃうわ、となれば下宿でアパートやマンションを借りる事に……」

みるみる桜の顔が青ざめていく。

 

「それの何処が問題なので?」

ライダーが首をかしげる。

資金的な問題など、この家が抱えているとは思ってはいない。

 

「一戸建てじゃない限り起きる問題……

それは隣人トラブルよ!」

酷く真剣な顔をして桜が話す。

 

「隣人トラブルって……確かにありはしますが、そこまで拗れる事が――」

 

「いいえ!!美形で優しい兄さんの事だから、隣の人妻や未亡人を知らず知らずのうちに誘惑してしまうに決まってるわ!!

それで、兄さんは優しいから悪女と知らず騙されて、あれよあれよと悪女たちの食い物にされちゃうんだわ!!

数年後に、すっかり悪女の虜にされた兄さんから、お別れのビデオが届くのよ!!

信じで送り出した兄さんが、未亡人の情夫にされちゃってNTR系ビデオを送り付けてくるのよ!!」

滂沱の涙を流して桜が力強く宣言する。

 

「あ、私アルバイトあるので」

理解を諦めたライダーがその場を去ろうとする。

 

「ライダー!?兄さんが何処の誰とも知らない女の物に成ってもいいの!?

義理の兄は義理の妹と結婚するのが世界のルールでしょ!?」

 

「そんな、ルールありません!!

第一サクラは妄想力が高すぎます!

いいですか?そんなご都合展開起きる訳、無いいじゃないですか!」

バイトを理由に逃げようとするライダーを桜が取り押さえる。

 

「お前たち、玄関先でなにをやってるん――」

騒ぎを聞きつけた慎二が姿を見せる。

 

「じゃあ、私が世界のルールを変えます!!

兄さんの全ては私の物って決まってるんですからね!!

――あ、兄さん」

 

「お、おお……」

義妹のなかなかに重い言葉に慎二が言葉を詰まらせる。

そして、義妹の持つ封筒の存在に気が付く。

 

「それ、俺のだから返してもらうぞ」

慎二が桜から資料をひったくると、そそくさと家の中へと入っていった。

 

 

 

「不味いわライダー……兄さんが警戒してる……

このまま家を飛び出して下宿&独立ルートなんて認めないわ!!」

 

「なら、愛情でつなぎ留めるしかありませんね!

美しい兄妹愛ですよ」

半場やけくそになってライダーが桜を煽る。

 

「ライダー?ついに、ついに分かってくれたのね?

そうよね、義妹が負けるなんてありえないわよね」

いたく感動した様子の桜。

だがライダーは消して桜に毒された訳では無かった。

自身がここから逃げるため、慎二を生贄にする事を『良し』とした。

ただそれだけなのだ。

 

 

 

 

 

「ふぅ、まさか桜に先に見つかるとはな……」

焦りを感じながら慎二が小さく自室でため息を着く。

手にはさっき桜から奪った大学の案内。

 

「わうん?」

ライカが慎二(主人)の不安を感じ取ったのか、膝に頭を乗せてくる。

 

「いや、別にこの大学にどうしても行きたいって訳じゃないんだよ。

正直な話をすると、この家から出ていきたいってのメイン。

どうにも、最近桜がきな臭いだろ?爺さんもナニ考えてるかわかんないし……

これを機に出て行ってやろうと思ってるだけさ」

 

『家は優秀な妹様が継いでくれるさ』

という言葉が出かかったが、慎二はそこだけは口を噤んだ。

慎二がライカを膝にのせて撫でる。

犬でもあり、サーヴァントでもあるライカがどの程度話を分かているかは知らないが、話しても良いだろうと慎二が思える程度にはライカを信用していた。

 

 

 

「兄さん!今の話、聞きましたよ!」

 

「さくら!?

……ん?どこだ?」

慎二が桜の声に驚き、ドアを見るが姿は無い。

 

「兄さん、ここです!」

 

「へ?ひぇあ!?」

部屋の隅、それも天井と壁の間に蜘蛛がへばりつく様な体制で桜が慎二を見下ろしていた。

 

「い、いったいどうやって入った!?いや、そんなことよりも、なぜ平然としてられる!?」

驚き指をさす慎二を他所に、桜が床へと飛び降りてくる。

 

「ふぅ、実はちょっと辛かったです」

 

「お前は何時からアサシンに成ったんだよ……」

 

「兄さん、今の話聞きました!

家を出たいだけで、他の県に行くなんて動機が不純すぎます!!

人生の一大事をそんな事で決めて言い訳ありません!」

 

「な、オマエに指図される筋合いはないだろ!?」

桜の言葉に咄嗟に慎二が反論する。

 

「私は、兄さんを心配しているからこそ――」

 

「ハァン!そんなの知るか!僕は都会の大学へ出て行くのさ。

才能あふれるこの僕がこんな小さな町で一生を終えるなんてありえないだろ?

お前は、勝手にここでくすぶっていれば良いんだよ!」

 

「な、そんな言い方無いじゃないですか!?」

怒った様なアクションを見せるが、桜は内心怯えたいた。

愛する兄が居なくなってしまうなど、考えただけで到底耐えられはしない。

 

(たとえ、どんな事を言ってでも、兄さんが都会へ行くのを止めなくては!!)

口調では相手を思いやるが、その内心自分の欲求100%である!

 

「第一、この町は僕には小さすぎるのさ!

僕はな、もっとビッグに成れる男なんだよ!

お前とは違ってな!」

半場やけくそに慎二が叫ぶ。

反射的に慎二は『しまった』と思った。

本当の事を言うと、内心は『言い過ぎた』とさえ思ってしまった。

 

自分の妹が自分の身を案じているのは分かっている。

だが、一度口を出た言葉はどうやっても取り消せはしない。

事態はより悪い方へ転がっていくしかない――ハズだった。

 

 

 

その時――

 

 

 

『ピンポーン』

 

「あーっと、お客さんだ!出て行かないとなぁ」

桜の追及を躱す様に慎二が、桜の横をすり抜ける。

 

「あ、兄さん!まだ話は終わってません」

 

「客人を待たせる訳にはいかないだろ~?」

慎二が桜を背に、逃げるように玄関へと向かっていた。

その軽薄な態度とは裏腹に、内心慎二は必死になっていた。

これ以上、空気を重くしたくなかったのだ。

 

 

 

「はいはい、お待たせしまし……た?」

扉を開けた慎二が固まった。

目の前には、緩やかなウェーブの髪をした美女がいた。

縦セーターでも隠しきれないほどの豊満なバストに、艶やかな彩をたたえた唇。

纏う雰囲気にさえ、むせ返るような怪しい色香を纏っていた。

 

「どぉもぉ~、今度隣に引っ越して来ました殺生院です」

 

「あ、ひゃい……あ、ありがとう、ございます……」

思わずたじろいでしまうほどの美しさを持った相手が、慎二一人に向けられている。

慎二が言葉を忘れてしまうのも、無理ない話だった。

 

「これ、引っ越しソバならぬ、引っ越しおはぎです。

私、コレが大好きでして、手作りなんですよ?

お口に合えば良いのですか。

あら、イケない。初めてなのに話過ぎてしまいましたね」

心が安らぐ、不気味なほどに心に入り込む、安らかな笑みを浮かべ殺生院と名乗った女が何気ない仕草で髪をかき上げる。

たった、たったそれだけで慎二の心臓の鼓動が跳ね上がる。

 

「あ、あの、あの……ボクは、間桐、慎二です……

と、となりどうし、なかよくしますね!」

 

「あら、慎二君はやさしいのね。

それじゃ、また今度ゆっくり町を案内してね?」

嬉しそうに掌を合わせて、殺生院は間桐家を後にした。

彼女が通った後は、風に乗って良い香りがした気がした。

そのむせ返るような、怪しい美しさは少年の心をかき乱すのに十分だった。

 

「兄さん、話はまだ終わってませんよ!」

追って来た桜が、おはぎの乗った皿をもって茫然と手を振る兄の姿を見つける。

 

「兄さん?」

 

「俺、都会の大学行くのやめるわ……」

殺生院の去っていった先を眺める呆けた慎二を見て、桜は兄が県外へ行く以上の危機を感じ取った!

 

 

 

 

 

「あん!アンアン!!」

足元でライカがリードを持って散歩の催促をする。

何時もはすぐに答えて出かける慎二だが、今日ばかりは心ここに在らずといった感じだ。

 

「…………美人だ……好みかもしれない……遠坂よりも……いや、けど……」

慎二がぼおっと口を開け、無意識に貰ったおはぎを放り込んだ。

あんこの一部が零れるが慎二は気づいてすらいない。

 

「わっふ!わふ!!」

落ちたあんこを食べたライカが、もっと寄越せと慎二の膝に手を掛けるがそれでも慎二は反応しない。

 

「はぁ……殺生院さん……」

悩まし気にため息を着く慎二。

 

ぎりぃ……!

 

「兄さん!?夕ご飯前にやめてください!!

お菓子ばっかりなんて、栄養が偏ってしまいます!」

 

「すげーうまいんだぜ……一個食ってみろよ」

力ない声で慎二が皿を刺しだす。

 

桜が歯ぎしりをして、一瞬迷い乱暴におはぎをひっつかんだ。

そして口に入れた――

 

「おいし……くなんかありません!!

私の方が、私の方が絶対に美味しいおはぎを作れるに決まってます!!」

一瞬だけ「美味しい」と言いかけたが自身の矜持を持って、必死に言いよどませた。

綻びかけた笑みを無理やり修羅の顔に戻す。

 

そして――

 

「兄さん!おはぎなら、私の方がおいしく作りますから、一緒にお買い物に行きますよ!」

 

「ちょ!?桜!!ひぇ!力、強い!!」

慎二を引きずり桜が町へと向かっていく。

 

 

 

 

 

引っ越しの荷物が詰まれたトラックが止まっている家の前を横切る。

 

「お口に合いました?」

家の庭の中、殺生院が通り過ぎる二人に笑みをこぼす。

 

「あ、とても、美味しかったです」

 

「ちっ!」

慎二の手を引っ張りながら、柔和に微笑む殺生院に対して桜が舌打ちをしながらその横を通り過ぎた。

 

 

 

「うふ、慎二君ね……

あの子……美味しそうだわ」

殺生院さんが引っ張られていく慎二を見て、自身の唇を静かに舌で濡らした。




べ、別に月の癌とかビーストとかと関係ないし……
ただ名前が同じで、見た目がそっくりなだけだから……
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