オーバーロード -死の支配者と古竜の王-   作:佐賀茂

4 / 9
原作と被る部分は極力オミットしていこうね→遅々として進まない
オリジナル展開はしっかりと書き込んでいこう→遅々として進まない
何故だベジータ……。

今回は少々独自の設定、解釈が多めかな、という塩梅になっております。
よろしければご賞味ください。


03 -円形闘技場-

 状況を整理しよう。

 精神作用耐性が揺さぶられる程のことではないにしろ、少しばかり予想外の展開にハンザレイはやや面食らっていた。幸いなのは、それが否定的な感情から来る困惑ではなかったことか。しかしながら時間も限られている今、悠長に待つわけにもいかない。さてどうするか、と目の前の状態を見据え、ほんのりと面映い気持ちを浮かべながら彼は先程までの情景を振り返っていた。

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓第六階層、円形闘技場。広大なエリアに設置されたこれまた広大な闘技場の中心に立ち並ぶ異形たちの中で、その威容を一層震わせている存在があった。

 第五階層守護者、コキュートス。ライトブルーの外骨格が眩しい蟲系統に属する種族である。彼は今、至高の御方であるうちの一人、ハンザレイ・エバー・フラウより賜った望外の言葉により、まさに興奮冷め遣らぬといった様相で冷気のオーラを垂れ流しその顎を打ち鳴らしていた。

 至高の四十一人、その中でも我らシモベを最後まで見放さずナザリックの地に君臨していた慈悲深き方のお一人。そんな偉大なるかの方より差し伸べられた模擬戦という誉れの場。武人たれと設定されたコキュートスにとってこの一言は他のどんな栄誉にも替え難い、まさしく垂涎ものの提案であった。緊張と興奮のあまり、思わず全身から冷気が漏れ出し顎を打ち鳴らす無様を抑えることなく固まってしまう。

 しかしそれは余りにも、そう、余りにも不敬であった。至高の御方からのお言葉に対し押し黙ってしまうなどという大愚行。自己が発した惨状に、数瞬遅れて遠のいていた意識が追いついた瞬間。返しの言葉を発しようとした凍河の支配者よりも先に、他者の言葉が彼の行為を妨げた。

 

「――恐れながら、至高の御方のお言葉に口を挟む無礼をお許しください」

 

 そう切り出すは、コキュートスら階層守護者を纏め上げる地位を賜る妖艶の美女。守護者統括アルベドはその顔を上げ、彼女はその美貌に勝るとも劣らない叡智でもって弾き出された言葉を紡いでいく。

 

「ハンザレイ様による模擬戦闘のご提案。それは勝敗を分かつ目的ではなく、現在の異常事態下に於いてどれ程の戦闘力を発揮出来るかの実験的要素が強いと愚考致します。……コキュートスを侮るわけでは御座いません。しかしながら、それであれば防御に特化した私アルベドこそが、より一層目的に近付ける相手であると提案致します」

 

 お前じゃ話にならん、私に代われ。

 発する言葉は徹頭徹尾丁寧、そして語られる理も尤もではあったがしかし、言外に込められた意図を一切の遠慮なく、かつ簡潔に述べるならば詰まるところこうなる。その言葉の裏に何重にも、そして厳重に隠し込まれた羨ましい、という感情はおくびにも出さず、彼女は朗々と己が主張を言い述べる。

 そんな彼女の言い分に対し、凍河の支配者はカチリ、とただ一度己の顎を鳴らし。闇妖精の双子はそんな彼ら二人を交互に見据え。炎獄の造物主はその表情に静かな微笑を湛えたまま微動だにせず。唯一その身と口を動かしたのは階層守護者でただ一人、複数の階層に渡るエリアの守護を任された鮮血の戦乙女であった。

 

「ちょおおおおっと待つでありんすアルベドォ! それなら攻防ともに優れるわたしこそが一番の適任じゃありんせんかえ!? ハンザレイ・エバー・フラウ様! ご提案されました模擬戦闘の栄えある対戦相手には何卒このわたし! シャルティア・ブラッドフォールンに務めさせて頂きたく!!」

 

 羨ましい。けしからん。何より抜け駆けは許さん。

 一気に捲くし立てられたシャルティアの言からは、それらの感情がありありと読み取れた。

 思わぬ口撃を受けた守護者統括は、その美貌をまったくもって歪めることなくまるで勝ち誇ったかのような微笑みを返すのみ。ゆっくりと、しかし決して遅すぎず。上品な動作でもってその身を翻しシャルティアへとその身体、顔、視線を向ける。一連の動作の間、極めて小さく打ち漏らされた舌打ちは幸か不幸か誰の耳にも届かなかった。

 

「あら、シャルティア。確かに貴方が強いことは認めるけれど、さっきも言った通りこれは勝敗を決めるものではないのよ? ハンザレイ様の求める動きに貴方は完璧に、それも臨機応変に対応できて? しかも、信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)のクラスを取得しているとは言え貴方の本質は不死者(アンデッド)。とてもハンザレイ様の修める信仰系魔法に対して効果的な検証が行えるとは思えないのだけれど」

 

 ぐうの音も出ない反論。うぎぎぎぎ、と苦虫を噛み潰したかのような表情でくぐもった怨嗟の唸り声を漏らし、それでもなおその視線だけは負けじと守護者統括を睨み返す。

 階層守護者と守護者統括。二人の間で巻き起こった想定外の口論は、守護者統括の完勝という形でその幕を下ろす。下ろすかに見えたがしかし、そこにまさかの第三者が乱入し事態は更なる混迷へと突入していく。

 

「アルベド。至高ノ御方ノオ言葉ヲ否定シ、ソレダケデハ飽キ足ラズ、アマツサエ自身ノ主張ヲ押シ付ツケルナドアマリニモ不敬ガ過ギル。ソレ以上御前ニテ恥ヲ晒スノデアレバ、貴様カラ切リ捨テテモ構ワンノダゾ」

 

 沈黙を保っていた凍河の支配者、模擬戦の当初の対戦相手であったはずのコキュートスが怒りの感情とともに言葉を、そして極寒の冷気を紡ぎだす。第五階層守護者の乱入を受けたアルベドは、今度こそその美貌を僅かばかり歪ませ――モモンガとハンザレイには見られない角度で――件の発言者を睨み付けた。

 至高の御方の模擬戦相手。その最高級の栄誉を勝ち取らんがため、完璧なる理論武装でもって先制攻撃を加えたアルベドであったが、唯一自身が理論で突破出来ない要素がここだった。

 そう、ハンザレイは先の発言で、模擬戦を実施したい旨とあわせて対戦相手にコキュートスを指名している。これがもし、戦闘能力を確認したいから誰か模擬戦に付き合ってくれないか、といった形であったならばアルベドの勝ちは揺るがなかっただろう。その程度には、アルベドの放つ言葉は理に適っていた。

 しかし、守護者を筆頭にあらゆるシモベが寄り集まって如何にその知恵と力を結集させようが、絶対に覆らせることの出来ないものがある。それこそが至高の御方であり、その存在であり、威容であり、叡智であり、お言葉であった。一方でアルベドは、最後までこのナザリックにお残り頂いた至高の御方が一人は、単なる支配者ではないことも分かり切っている。栄えあるナザリックを捨て、あろうことか至高の御方々のまとめ役であらせられる死の支配者を裏切った、そんな有象無象の連中とは格が違う。そしてそのような偉大な方だからこそ彼女は変わらぬ忠誠を尽くせると思っているし、そのような慈愛に溢れる方だからこそ彼女は自身の提案に対し、即断はしないまでもご考慮頂けるのではと踏んでいた。

 そうやって自身の勝ち筋を丁寧に、慎重に、かつ速攻で以って手繰り寄せようとしていたアルベド。しかしてその目論見は、コキュートスの手によって一気に五分の状態にまで引き戻されることとなる。

 恐らく、コキュートス自身にもこの栄誉を奪われたくないという気持ちは大いにあるだろう。だが彼はその欲求を前面に押し出すのではなく、表現は悪いが、至高の御方を盾に聡明なる守護者統括へ一矢報いる。さしもの守護者統括も、そう言われれば押し黙る外ない。彼女自身が最初に宣言した通り、ハンザレイの提案を遮り言葉を発した時点でそれは最早無礼の極みに値する。あくまでアルベドは、ハンザレイの慈悲深さに縋って一縷の望みを賭けただけに過ぎない。

 返しの言葉を発することなくその視線でもって訴えかける守護者統括。視線の圧力を真正面から受け止め、怒りの感情を顕に冷気を噴き出す第五階層守護者。ついでに羨望と慙愧の念をこれでもかとその顔に貼り付かせた第一、第二、第三階層守護者。

 

『ちょっと、ハンザさん。どーすんですかこれ』

『いやあ、まさかこんなことになるとは……いや、これも嬉しい誤算か……とりあえず、一旦俺が止めます。あの三人ちょっと空気がヤバいことになってます』

 

 守護者たちのやり取りを無表情――片方は表情など出ないが――で見つめながら、絶対の支配者として祭り上げられた二人は伝言(メッセージ)の魔法で短いやり取りを終えた後、事態を収拾させんとその御声を発した。

 

 

「はいはい、アルベド、コキュートス、シャルティアも。ちょっと落ち着こう」

 

 ぱんぱん、と手を叩きながらハンザレイは努めて明るい声色にて語りかける。その発言を受け、アルベド、コキュートス、シャルティアの三者は先程まで噴きあがらせていた不穏なオーラを瞬く間に仕舞い込み、揃ってその膝を折る。

 

「も、申し訳ありません! 至高の御方々を前に不躾なことを!」

 

 膝を折った三者、それらを代表し守護者統括たるアルベドが慌てて謝罪の言葉を発する。コキュートス、シャルティアの両者も言葉こそ発しないものの、前者からは先程までの迸る冷気は微塵も感じられず。後者はその表情を普段以上に青白くさせ、その視線は円形闘技場の柔らかい土の上を忙しなく行き来していた。

 

「元気なのはいいけど、喧嘩も程ほどにね。それと模擬戦の相手は、アルベドとシャルティアには悪いけどコキュートスに務めてもらう。アルベドの言葉にも一理あるけど、俺のスタイルを考えたらコキュートスが一番分かりやすいんだ。あと、これはアルベドとセバスには前もって伝えたけど、俺のことはハンザレイでいいからね。一々長ったらしいし、俺もフルネームで呼ばれるのは慣れてないから」

 

 まずは諍いを起こした三人を軽く諌め。そして模擬戦の相手を改めて指定する。ついでに呼び方もここで修正しておく。わざわざ声をかけられる度にキャラクターネームを全部呼ばれるのは少々、いや、結構恥ずかしい。流石にモモンガから呼ばれるような略称で統一するのはちょっと威厳が無さ過ぎる――もとより、そんな提案はNPCたちが必死の形相で否定するだろうが――気がするので、一旦はこれでいいだろう。

 さて、予想外の事態に少々余計な時間を食ってしまったが、模擬戦自体は長々と行うつもりはないので大した影響はないだろう。むしろ、彼らの忠誠心がより具体的に感じられたことを考えると却って良かったのかもしれない。

 早速準備をしようか、というハンザレイの言葉とともに、彼はインベントリ――この世界では中空に突如現れる黒穴だが――から愛用の装備を抜き出す。同時にモモンガは、コキュートス以外の守護者らを連れて円形闘技場の外縁へと足を運んでいた。折角だ、ハンザさんの模擬戦を一番近い場所から観戦しようではないか、という支配者然とした態度とともに。

 コキュートスも同じく、無手であった四本の腕に自身のインベントリから取り出した武装を取り揃える。両の手には白銀のハルバードを。空いたもう二本の手にはそれぞれブロードソードとメイスを。神器級(ゴッズ)アイテムである斬神刀皇こそ装備していないものの、かなり本気に近い出で立ちだ。模擬戦、そして相手がハンザレイということもあり、あまりに手を抜くのは逆に失礼。しかしながら、勝敗を決するわけではない模擬戦の中、至高の御方を相手に初手から全霊全力をかけるのも憚られる。そういった葛藤の末に導き出された彼なりの妥協点なのだろう。

 

 ハンザレイが取り出したる愛用装備。それは一振りの剣と一つの盾。それだけを見れば特段変哲のない、極めてオーソドックスな装備である。しかし、それらの様相は少しばかり、普通という範疇に収まるものではなかった。

 右手に握る剣は刃渡り1メートル半ば、剣という分類から言えばなかなかの長身だ。そしてその刀身には本来あるはずの切っ先が無く、例えるならば非常に細長い長方形の塊がそのまま無理やりくっ付いているかのような、そんな印象を抱くものだった。色彩は濃い灰色で統一されており、煌びやかな装飾などは一切見当たらない。くすんだ刀身は持ち得るはずの輝きを持たず、一切の光を反射させることはない。些か無骨に過ぎる、今にも漆黒の闇へと沈みかねない仄暗い灰色が、その異様を分かりやすく表していた。

 エクセキューショナーズソード。処刑人の剣と呼ばれる、かつて罪人を斬首刑に処す際に使われた歴史上の武具。それをハンザレイの身の丈にあわせて長大化させたモノ、というのが極めて正解に近い表現だろう。

 そして左手に構えるは、盾というには余りにも大きい、暗黒の鉄板。一見、黒一色で塗り潰されているかのようにも思える見た目だが、外縁をヒヒイロカネ合金が覆い、漆黒の境目を仄かな赤が取り囲む。その四隅には金に彩られた装飾が映え、敵の攻撃を遮る盾の前面には細かな、そして複雑な溝という名の文様が一定の規則に沿って走り回っている。その溝を避けるように、要所要所に黄金色に輝く蛇をモチーフとした装飾が埋め込まれていた。小盾(バックラー)とも、円盾(ラウンドシールド)とも、中盾(カイトシールド)とも違う。巨大な円柱を縦に切り分けたかのような、やや丸みがかった長方形の鉄壁は俗に大盾(タワーシールド)と呼ばれ、盾種最大の大きさを持つ、ハンザレイの守りの相棒である。

 

 右手に冠する剣の名は"古竜の失礼剣(ソード・オブ・フル・ノッキング)"。左手に持つ大盾の名は"断絶を抱く大盾(フル・ブレイキング・ハガー)"。ともにハンザレイが誇る、そして彼の戦闘スタイルを象徴する神器級(ゴッズ)アイテムだ。この二つの装備と、キャラクタービルド、そして彼自身のプレイヤースキルが融合したスタイル。それらを備え、今ここに立つ異形こそが、アインズ・ウール・ゴウンという人外魔境の地で産声を上げ、鍛え上げられ、そして完成された「前線支援特化盾役」ハンザレイ・エバー・フラウという竜王であった。

 

「これは模擬戦だからね、ルールを決めようか。攻撃に関して特に制限するつもりはないけど、方向指定の無い広範囲スキルだけはやめておこう。アイテムの使用は不可。制限時間は3分、それを越えるかどちらかの体力が残り5割を切ったらそこで終了。異論は?」

「ハッ! 御座イマセン!」

「オーケー。それじゃやろうか。モモンガさん、開始の合図と生命の精髄(ライフ・エッセンス)で審判お願いします」

「了解です、ハンザさん」

 

 模擬戦のルールを伝え、そこに問題はないことを確認。ゲームではなくなった今、体力を表示するゲージなどという便利なものは存在しないので、モモンガにお互いのHPの確認を依頼する。

 伝えると同時、ハンザレイは戦闘態勢へと移行する。左半身を前方に傾けた半身の構え。大盾を前面に押し出し、右手に携えた剣の刀身を自身の右肩へと預けた、やや前傾した姿勢だ。対峙するコキュートスも、ハルバード、ブロードソード、メイスをそれぞれに構えて迎撃の姿勢を取った。

 お互いが準備を整えた円形闘技場。数瞬の沈黙が場を支配する。

 

「それでは……我が盟友、ハンザレイ・エバー・フラウと第五階層守護者、コキュートスとの模擬戦闘を開始する。はじめッ!」

 

 沈黙の帳を破ったのは、偉大なる死の支配者によって齎された開始の号令。刹那、二体の異形は真っ直ぐに相手を見据え、その大地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、ハンザレイ様の戦い方とは一体どのようなものでありんしょうかえ?」

 

 開始の合図と同時、地を蹴った双方を見据えながら鮮血の戦乙女、シャルティア・ブラッドフォールンは可愛らしい仕草とともにちょっとした疑問を口にする。

 

「ふむ。私にも詳しくは分かりかねますね。装備を見るに近接戦闘を得意としているのは間違いないと思われますが」

 

 その疑問に応えるのは炎獄の造物主、第七階層守護者デミウルゴス。しかし、いかに彼の優れた叡智を以ってしても、始まったばかりの現段階から分かりえる情報は余りにも少ない。そしてだからこそこれから起こる何物にも換え難い、至高の御方の戦闘を見学出来るという誉れを少したりとも取り逃さないよう、デミウルゴスは眼鏡の奥に輝く宝石を一層煌かせ、燃え盛る熱意とともにその視線を固定する。

 

「ふははは、まぁ見ていれば直ぐに分かる。彼の戦い方は独特だからな。あれは中々に……イヤらしいぞ」

 

 守護者の疑問に小気味良い笑い声で応え、モモンガは鷹揚に構える。その声色からは、いくら模擬戦とはいえゲームの世界が突如現実になった世界で行う戦闘に対する不安感や、万が一にもハンザレイが負けるような心配など、微塵も感じさせない余裕と信頼が伺えた。

 

 

 

 

 見る見るうちに互いの距離を詰め、双方が持つ必殺の武器が届く間合い。まず最初にその空間へと到達し得たのは、白銀のハルバードを勢い良く振り上げた凍河の支配者。勢いそのまま、彼は袈裟切りにその凶器を振り下ろす。対する竜王は体格や得物の違いもあり、未だ有効打を撃てる距離には届いていない。先手を制したのは、間違いなくコキュートスであった。

 白銀のハルバードを振り下ろす距離、タイミング、角度、そして速度。完全に捉えたと確信を持てる一撃。よしんばダメージを与えられずあの大盾に防がれたとしても、その優位は揺るがない。武器戦闘に習熟したコキュートスは初撃を打ちながらも次の一手を考え、左腕に握ったメイスで横殴りに追撃せんとその構えを動かしていた。仮にハルバードが防がれたとして、防ぐにはあの大盾で弾く外ない。そうなれば残るはがら空きになった右半身。そこに渾身の殴打を叩き込む。弾かれずに受け止められたとしても、少なくともその動きは制限出来る。反撃の暇を与えずそこに第二撃を差し込む。そしてもしハルバードが届いたのであれば、それこそダメ押しの一手に成り得る。当然それだけで勝ちを拾うにはまだまだ程遠いが、序盤を制するには十分の成果だ。そしてそれを確信出来る程度には優れた動きであり、筋書きであった。

 

「ムウッ!?」

 

 がしかし、そんなコキュートスの予想を大幅に超えて返ってきたのは特大の衝撃。ダメージこそほとんど受けていないが、あまりの衝撃に思わず数歩、たたらを踏んで後ずさる。なまじ完璧に近い自身の初撃であったために、このような想定外が跳ね返ってくるなど予想だにしていなかった彼は弾き上げられたハルバードを、そして追撃の横殴りのため大きく振りかぶっていたメイスを戻し切れず、十分に防御の姿勢を取ることが出来なかった。

 

「ふんっ!」

 

 気合一閃。ハンザレイの短い呼気が闘技場に響く。有効打を打ち付けるに邪魔な四本の腕のうち、よもや二本が弾かれ、一本が宙を舞う今、猛然と襲い来るハンザレイの反撃を止める術をコキュートスは持ち得ていなかった。

 古竜の失礼剣(ソード・オブ・フル・ノッキング)による一撃は、剣で斬るようなモーションではなく、どちらかと言えばクラブやメイスといった殴打武器に近かった。右肩に定められた初期位置からそのままに、やや斜め下から振り上げるかのような軌跡でその刀身を強かに叩き付ける。

 

 瞬間、全長2.5メートルを有するコキュートスの巨体が浮いた。

 繰り返すが、浮いたのだ。それも勢い良く。

 

 先程ハルバードを弾かれた時とは比べ物にならない、超弩級の衝撃。その勢いはコキュートスが本来持つ自重だけではとても殺しきれるものではなく。成す術もないまま彼は、その衝撃に身を任せて吹っ飛ばされるのを黙って肌で感じ入る外なかった。短くない滞空時間を終え、闘技場の地にその足が着こうとも衝撃は未だ死なず。盛大な砂塵を巻き上げながら第五階層守護者コキュートスは、闘技場の壁にその巨体を強かに打ちつけた。

 

「んなッ!? な、なんでありんすかあれはッ!?」

「コ、コキュートスがふっ飛ばされた!? ウッソ!」

「う、うわわ……す、すごい……」

「まさか……これ程とは……っ!」

「あれ程の衝撃……私ならどうにか受け流して……いえ、無理ね……」

 

 その光景に驚愕の声を発したのは模擬戦を観戦していた守護者たちだ。恐らく彼らは、ハンザレイとコキュートスによる格闘戦を予想していたのだろう。コキュートスの四腕から繰り出される猛攻をハンザレイがどう捌くのか。そしてそこからどのような反撃が繰り出されるのか。そんな未来を想像し、期待していたはずだ。

 まさか、守護者の中で武器戦闘最強を誇るコキュートスがたった一撃で、しかも接触してからほんの僅かな時間でああも見事にぶっ飛ばされようとは一体誰が予想出来ただろうか。正しく今の姿を予測出来ていたのは、今まさにコキュートスを自前の武器で吹っ飛ばした古竜の王と、守護者の驚愕を耳にし上機嫌なまま余裕の態度を崩さない、観戦席に座る死の支配者だけであった。

 

 

 

 ノックバック。

 ユグドラシルのみならず、対戦要素が組み込まれたゲームであればその大半が採用しているシステムの一つである。時には魔法に、時にはスキルに、時にはデータクリスタルに組み込まれているそれは、ヒットした相手を現在位置から強制的に後ろに動かし、また次の行動をある程度阻害する効力を持つ。ずらせる距離、行動阻害時間などは各種魔法、スキルにより細かく異なるが、共通して言えるのは「強制的に移動させ」、「静止状態を解除させ」、「次の行動を遅延させる」ことである。

 ゲームタイトルによってその詳細は変化するが、ユグドラシルに於いてはこのシステムをプレイの主軸に組み込んだプレイヤーは極少数である。と言うのも、ユグドラシルのゲームシステム上ノックバック自体にはダメージが発生しない。無論、ノックバックの結果フィールドの端や壁オブジェクトに衝突しダメージを与えることもあるが、狙うにはあまりに難易度が高く、そして何より状況が限定される。ノックバックの効果自体には一定の有用性が認められているものの、その効果を戦術に、それも主軸に据えようなどという物好きは居なかった。せいぜいがその場凌ぎに敵前衛を一瞬下がらせたり、戦場の後方で詠唱に入った魔法詠唱者(マジック・キャスター)に対し、ノックバック効果を持つ魔法や遠距離スキルをぶち当てて静止状態を解除させ、詠唱の邪魔をする程度だ。

 しかし、ハンザレイは違った。彼はユグドラシルにおけるこのシステムこそが、ドラゴン種をはじめ不遇と呼ばれた種族が勝ち筋を見出せる光だと判断した。

 

 ユグドラシルにおけるノックバックには、無効化手段がない。どれ程の装備品を揃え、どれ程のビルドを練り上げ、どれ程のプレイヤースキルを身につけようが、ヒットしさえすれば動く。厳密に言えばノックバックとは運営が設定した攻撃判定とは別のシステムであり、属性攻撃でもなければ、状態異常でもないのだ。直接的なダメージが発生しないゲームシステムの一部に、無効化させる手段など普通は用意しない。例外で言えば、動くと困る街中に配置された特定のNPC、大型のレイドボス、そしてワールドエネミーくらいのものだ。無論、キャラクターメイキングの段階で最大限キャラを大きくする、ノックバック中の姿勢制御によって次の行動可能時間を短縮させる、などといったテクニックは存在する。だが、根本的には防ぎようがないものだ。

 しかし、その程度のことはある程度ユグドラシルに慣れ親しんだユーザーならば誰もが理解している。理解した上でなお、それを主軸にすることは無かった。

 そんなものを主軸にキャラクターを仕上げてしまっては、絶対的に火力が足りない。ソロで冒険しようものなら殴る度にモンスターがノックバックし、それを追いかけ、さらに殴り、そしてさらにモンスターがぶっ飛ぶ。その繰り返しだ。狩りの効率も極めて悪い。そして本来であれば攻撃力を底上げする武器や防具の特殊効果といった部分をノックバックに割り振れば、当然攻撃力は種族レベルと職業レベルによるパラメータボーナスの合計値、そして武器に最初から設定されている固定攻撃力の上乗せ分だけだ。純粋な物理火力だけで言えば、レベル100の裸装備とほぼ変わらなくなってしまう。そんなある種究極のマゾ仕様とも言えるキャラクターを、一体どこの誰が作り上げるのか。

 残念ながらここに一人、その可能性を信じて疑わなかった変人が居た。そしてさらに悪いことに、その変人が見つけた可能性をあらゆる角度から検証し、あろうことか立派な戦術に昇華させてしまうような、総勢41名にも上るぶっちぎりの変人集団が存在してしまっていたのだが。

 

 ハンザレイの神器級武器、古竜の失礼剣は剣という分類にありながら斬撃や刺突属性の攻撃値を持っていない。攻撃力のすべてが殴打属性に準じている。これは武器を作る前から考えていたことで、斬撃や刺突に比べて殴打属性は全体的に通りが良いからだ。ただでさえ低くならざるを得ない攻撃力を、僅かでも有効的に通すための策である。また、多少歪ながら剣という見た目のくせに実際のダメージ属性は殴打という、予測の裏をかくためという理由も挙げられる。そしてこの武器にはノックバック付与、ノックバック強化、無属性ダメージ付与、殴打強化といったデータクリスタルがふんだんに盛り込まれている。ドラゴン種特有の高い攻撃力を殴打という属性に乗せ、更に殴打とは別の無属性ダメージを付与することにより最低限のダメージソースを獲得するに至った。

 断絶を抱く大盾にしても、基本は同じである。盾の中で最大の大きさを持つだけあって元々の防御力もかなりの数値だが、更にそこに物理防御強化、魔法防御強化、ノックバック付与、ノックバック強化といったデータクリスタルをこれでもかと言わんばかりにぶち込んでいる。武器と盾、2つあわせてかなりの量のデータクリスタルをつぎ込んでいるが、ノックバック関係のデータクリスタルはユーザー市場に安価で出回っていることも幸いした。

 

 そして、これらの要素を"戦術"として組み上げたロジックはこうだ。

 まず、ハンザレイが敵を殴る。大小違いはあれど攻撃が当たりさえすれば、敵はノックバックする。強制的に動かされた敵は、数瞬とは言え無防備になる。そこに後衛――ペロロンチーノやウルベルト・アレイン・オードルに代表されるような――が強力な一撃を叩き込む。言ってしまえばこれだけだ。複雑な仕組みは何もない。

 しかし、言うのは簡単だが実戦でこれらを滞りなく実行するのは並大抵ではない。まず、ノックバックというものは長時間行動を阻害出来るものではない。ノックバック距離にもよるがせいぜいコンマ数秒、1秒あればかなり長いレベルだ。そして、ノックバックを受けた敵が無防備になっている時間は――ノックバックを受けたキャラクターのプレイヤースキルに大きく依存するものの――更に短い。少しでもタイミングが遅れれば如何に強力な一撃といえど避けられるか、防がれて終わる。

 さらに、遠距離での攻撃手段はそのほとんどに発動から着弾まで多少のタイムラグがある。それを加味して効果的な一発を叩き込むには、ハンザレイがいつ、どのタイミングで、どの敵に対してノックバックを叩き込むか事前に把握、少なくとも予測を立てていなければ難しい。普通に考えれば、それこそ阿吽の呼吸レベルの連携でなければ不可能な芸当だ。

 しかし、アインズ・ウール・ゴウンに所属する41人の変態どもには、これが出来てしまった。ハンザレイがその心血を注ぎ込んで作り上げた武器から繰り出されるノックバックは、その威力が半端ではない。場合によっては食らった相手がとんでもない距離をすっ飛んで行く。必然、従来考えられる平均的なノックバックよりも連携を取る猶予時間がかなり長いのが幸いした。まあ、そもそもが壁が高いほど面白いなどと言ってのける集団である。そしてこの戦術の確立さえ出来てしまえば、今までのPvPにはなかったまったく新しい角度による素晴らしい嫌がらせが可能になるのだ。曲者揃いのギルドメンバーたちが、この一大プロジェクトに乗らないわけがなかった。

 

 かくして、一度戦場に降り立てば強烈なノックバックを高頻度で連発しまくり、敵の戦列を乱しまくり、戻ってきたらまたカッ飛ばす……対峙した相手からすれば迷惑極まりない「前線支援特化盾役(フル・ノックバッカー・タンク)」が出来上がったというわけだ。

 

 

 

 実際、先程コキュートスを相手に行った動作にも、何一つ特別なものは含まれていない。

 ハルバードによる先制攻撃が届く直前、ハンザレイは断絶を抱く大盾を構えスキル<シールドバッシュ>を発動。小盾や円盾にあるようなパリィ……いわゆる受け流しが出来ない代わりに、大盾ではその盾でもって攻撃を加えるシールドバッシュが使用可能となる。このスキルはダメージこそ高くないが、パリィと同じく発動が極めて早く、タイミングによっては相手の攻撃に対し一方的に割り込める性能を持つ。

 そうして、ハルバードの一撃から生まれるダメージを大盾本来の防御力によって受け切り、同時にシールドバッシュによってダメージを与える。そして大盾に組み込まれたノックバック付与効果により、コキュートスは数歩、たたらを踏む結果となった。

 そこにすかさず、古竜の失礼剣による追撃を、戦士クラスのスキル<フルスイング>を乗せて敢行。このスキルの効果は、敵に物理攻撃力の150%ダメージ、ノックバック効果、という極々有りふれたものだ。前衛クラスの基本である戦士が取得出来る、極めて初歩的なスキルである。たかだか戦士クラスの初歩スキルではあるがしかし、そこにレベル100異形種の持つ物理攻撃力、神器級武器によって上乗せされた攻撃力、膨大な量のデータクリスタルによって付与された強烈なノックバック効果があわさり、途轍もない衝撃を生み出すに至った。

 シールドバッシュ、フルスイングともに前衛職の基本スキルであるが故、一部の上位スキルのような回数制限もなく、クールタイムも短い。クラススキルであるが故にMPも消費しない。これは同時にハンザレイの継戦能力の高さを意味していた。

 前線維持に際してMPを消費せずに済むということは、保持しているMPは全て強化魔法(バフ)や回復魔法に回せるということだ。元々ドラゴン種は、前衛向けの異形種の中では低くないMPを確保出来ている。そしてもしMPが完全に枯渇してしまったとしても、そもそも彼の本領にMPは関与しない。ハンザレイの役回りはまったく変わらないのだ。

 

 そう。彼は、ハンザレイ・エバー・フラウは、"アインズ・ウール・ゴウンのメンバーで構成されるパーティ内"に限り、その真価を極めて高いレベルで発揮出来るビルドを組んでいる。モモンガのインパクトに隠れがちではあるが、彼も立派なユグドラシル、いや、アインズ・ウール・ゴウン・ジャンキーであった。

 

 

 

「ヌゥウンッ!」

 

 ノックバックの衝撃から復帰したコキュートスがその呼気を冷気のオーラに変え、ハンザレイへと吶喊する。先程は不意を突かれて無様に吹っ飛んでしまったが、それはあくまでハンザレイの攻撃方法を知らなかったからだ。一連の流れで先程の衝撃は覚えた。これからはあの衝撃に備えながら、攻撃を繰り出せばいいだけの話。もとより手数はこちらが圧倒的に上。ハルバードによる一撃のような大振りの攻撃は控え、相手を張り付けにさせる程の連撃を繰り出せば、あの技を出す余裕もないはずだ。そうしてじわじわと追い込み、封殺する。

 

(……とか考えてんだろうなあ、多分。残念ながらそりゃ悪手だぞコキュートス)

 

 先程の一撃よりも幾分以上小振りになった攻撃を大盾で捌きながら、ハンザレイは冷静に思考を回転させる。

 コキュートスの考え、その思考回路自体は間違ってはいない。理にも適っている。しかしながら、数多の奇人変人に囲まれてその知識とプレイヤースキルを蓄えていったハンザレイにとって、その程度の攻略は当然ながら想定内であったし、その思考に導くことが彼の策略の一つでもあった。

 

「おらっ!」

 

 再び迸る、竜王の気合。ハンザレイは構えた盾をそのままに左肩を前方へ突き出し、あろうことか体格で自身を遥かに上回るコキュートス相手に体当たりを敢行する。

 戦士クラスのスキル<チャージ>だ。文字通りの体当たりによって僅かながらのダメージと、例に漏れずノックバック効果が付与されているスキルである。シールドバッシュと違い自身の身体で行う攻撃スキルのため、その有効射程は更に短い。しかしながら、大振りの攻撃を控え連撃を重視するようになったコキュートスは、自然とその間合いを詰めざるを得ない状況に陥っていた。攻撃の回転速度を上げるためにはどうしても一つ一つの攻撃動作をコンパクトに纏める必要がある。そうなればハルバードのような長物は当然扱いにくくなるし、メイスのようなリーチの短い、取り回しの利く武器での攻撃となってしまう。そして腕を畳んで回転率を重視した攻撃な以上、一発の威力は見込めない。

 ハンザレイの持つ大盾はノックバックという稀有な効果を組み込んでいるものの、腐っても神器級装備だ。生半な攻撃で容易に打ち破れるものではない。そして間合いが狭まるということは、近接前衛職であるハンザレイにとって打てる手段が増えることを意味する。

 コキュートスは、ハルバードによる長射程での全力攻撃を敢行するべきだったのだ。ハンザレイの繰り出すノックバック地獄に真正面から打ち克つには、魔法や長物武器といった手段で彼の有効射程外から封殺するか、大盾の防御力を凌ぐ特大の一撃を見舞うしかない。少なくとも、張り付き小技一辺倒といった策は用いるべきでなかった。

 コキュートスは戦局を見誤った。そしてその代償に至近距離からのチャージをもろに喰らい、再び数歩、無防備な体勢で後ずさる。

 

「もう一丁!」

 

 待ってましたと言わんばかりに放たれる、本日2発目の<フルスイング>。チャージを繰り出した勢いを殺さず、ハンザレイはそのまま右回りに身体を捻り一回転。振り向き様に遠心力を乗せに乗せた渾身の一発を叩き込んだ。

 

 

 

「そこまで!! 両者とも、武器を収めよ」

 

 二度闘技場の端まで吹っ飛ばされたコキュートスが戦線に復帰し、幾度か刃を交えることしばし。観戦席に座する死の支配者より模擬戦の終了が宣告される。

 模擬戦開始前に定められた、3分という制限時間を越えたことによるタイムオーバー。体力の5割を削るというもう一つの勝利条件は双方掴み取ること叶わず、結果としては引き分けという形だ。

 残された体力はモモンガの生命の精髄(ライフ・エッセンス)によるとコキュートスが7割強。ハンザレイに至ってはきっちり10割、全ての体力を残しての終了となった。結果こそ引き分けとなったが、その明暗は明らかであった。無論、コキュートスとしても自身の持つ最強武器である斬神刀皇を持ち出していなかったし、スキルもほとんど使用していない。全力と言うには大いに余力が残る状態ではあったが、今回の模擬戦に限って言えば完敗と言えるだろう。少なくともコキュートス自身はそう捉えていた。

 

「ふう。コキュートス、付き合ってくれてありがとうな。おかげでかなり感覚が掴めた」

「礼ヲ申シ上ゲルベキハ私ノ方デ御座イマス。至高ノ御方トノ打チ合イトイウ栄誉ヲ賜リ、マサニ感謝ノ極ミ。ソシテ何ヨリ、素晴ラシイオ手前デ御座イマシタ」

 

 ハンザレイの言葉を受け、フシューッと冷気を吐きながらコキュートスはその手練手管を褒め称える。そんな彼を労いながら<大治癒(ヒール)>で回復させてあげることも忘れない。部下に対するきめ細かなフォローは良い上司たる基本だ。

 ハンザレイとしては、自身の戦闘スタイルの主軸となるノックバック性能、そして一人では決して掴むことが出来ない、近接スキルの感覚をどうしても把握しておく必要があった。まさかモモンガを相手にシールドバッシュやフルスイングをぶち当てるわけにも行かず、こうして模擬戦を提案する流れになっていたわけだ。そして、その模擬戦の相手としても小柄なシャルティアや、幾ら防御力に特化しているとは言え見目麗しい女性であるアルベドを派手にぶっ飛ばすのは憚られた。また、守護者の中でもいっとうの体格と体力を持つコキュートスが相手であれば、ゲーム時代と現状での性能の違いをより把握出来るのではないかという狙いもあった。

 結果は上々。古竜の失礼剣や断絶を抱く大盾の実際の性能も把握することが出来た。凡そゲーム時代と同じ実力が発揮出来ると見てほぼ間違いはないだろう。

 

「す、凄かったでありんす! 凄かったでありんすぅ!!」

「分かってはいたけどさぁ、やっぱり至高の御方々は格が違うよね!」

「う、うん! す、すごかったねお姉ちゃん!」

「このデミウルゴス、ハンザレイ様の見事なお手前に感服致しました。正に至高の御方足る、素晴らしい模擬戦闘であったかと存じます。コキュートス、君もよくやったよ」

「流石は至高の御方。お見事と言う外ありません」

 

 観戦していた守護者たちもめいめいがその感想を述べ、そしてハンザレイを褒め称える。諸手を挙げての大絶賛の嵐に少々どころでない恥ずかしさが込み上げてくるが、恐らくこれが彼ら彼女らにとっての普通なのだろう。尋常でない持ち上げられ方には未だ慣れない部分が多いが、そこはギルドマスターである、そして支配者ロールを決めたモモンガの方がもっとキツいはずだ。こればかりは慣れていくしかないなと決意を固める。

 

 

 

 

「モモンガ様、ハンザレイ様、守護者の皆様方。大変お待たせ致しました」

 

 模擬戦の興奮冷めやらぬ中、衝撃によって破壊された闘技場の壁を修復しつつ、守護者各位がやれどこが凄かった、どこが格好良かったなどと感想戦を繰り広げているところへ、ナザリックが誇る老練の家令、セバスがその歩みを進め円形闘技場へと姿を現した。その傍らに、補佐として付けていたソリュシャンの姿はない。聞けばナザリックに帰還した際、セバスより他のプレアデスに合流し第九階層の警備に就くよう指示を出したそうだ。このような一面を取ってみても、やはりNPCには改めて高い知性と柔軟性を感じられる。

 

「うむ。偵察の任、ご苦労だった。早速で悪いが報告を聞こう」

 

 モモンガは鷹揚に頷くと、そのままセバスに自身が見てきたものを報告するよう命じる。

 

 

 

 

 

「……えっマジで?」

 

 何とも気の抜けた台詞は、いったい誰から放たれたものか。

 モモンガとハンザレイ、二人の共通認識であった『ユグドラシルの世界が現実化した』という予測は、セバスの証言によって大きく裏切られる形となった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。