オーバーロード -死の支配者と古竜の王-   作:佐賀茂

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二次創作をしていると常に感じるんですが、早く話を進めたい自分と詳細を書き込んでいきたい自分が常に喧嘩するんですよね。
うまく仲裁する方法ないですかね。ないですか。そうですか。

そして今更ですが、多数のUA、お気に入り登録、誠に有難う御座います。
良し悪しの基準は分からんのですが、拙作が僅かながらでも皆様の心に届いたこと、深くお礼申し上げます。

それでは、よろしければご賞味ください。


06 -円卓-

 

 本来であれば、その場には四十一人の異形が居並んで然るべき空間。今となっては、その部屋の中央に鎮座する円卓を囲むように配置された椅子に座るは、たった二人の異形のみ。しかし、寂れた空気を纏っても何らおかしくないその二人からは、否定的な感情は一切見受けられず。まるでゲーム時代に新たな未踏破ダンジョンを見つけた時のような、そんな喜色を孕んだ、そして朗らかとした空気がその場一帯を包んでいた。

 ナザリック地下大墳墓第九階層、円卓(ラウンドテーブル)。ギルド、アインズ・ウール・ゴウンに所属する者がログインした際、特殊な条件下以外においてはまず最初にその足を地に着ける場所。ギルドメンバーの話し合いの場としても活用されたその空間にモモンガ、そしてハンザレイの二人は座していた。最早、その数を二人より増やすことは、叶わないのだが。

 

「しっかし疲れた……。そういえばモモンガさん。今何時くらいかって分かります?」

 

 二人は第六階層を後にし、NPCたちには今後の方針をより具体的に詰める会議を行うとしてこの円卓まで足を運んでいる。その際、二人のみで行うため供回りは不要、と十全に念を押してまで。

 何のことは無い。突然の事態の連続に、如何な死の支配者と古竜の王とは言え、些か疲れていたのである。不死者(アンデッド)であるモモンガに肉体的疲労は存在しないし、異形種とは言え生命体に分類されるであろう古竜の王も、食事や睡眠を不要とする維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)を装備しているため、同じく疲労はほぼ感じない。少なくともこの程度の行動量で疲れるなど有り得ない。

 しかし、精神的な疲労は別だ。突然の異常事態に巻き込まれて此の方、心の休まるタイミングなど無かった。いい加減一息入れたいという気持ちは二人とも共通だったようで。こうして誰の邪魔も入らない円卓という場所にて、束の間の休息を楽しむに至るというわけだ。

 

「ちょっと待ってくださいね。確か時計的なアイテムが……あったあった。えーっと、午前2時くらいですね。うわぁ、完全に深夜帯だ。よかった4時起きとかじゃなくて……」

「4時起きとかヤバくないですか。完全にブラックじゃないですかそれ。ヘロヘロさんのこと笑えませんよ。……あれ、そういえばモモンガさん眠くないんですか?」

「はは、確かにクソみたいな職場でしたけどね。それが……食欲や睡眠欲なんかを一切感じないんです。多分これいつまででも起きていられますよ。アンデッドになった影響ですかね?」

「うわ、マジでか。完全に人間辞めちゃったかー」

 

 時間という話題から始まり、二人は本来ならば始まっていたであろう、現実世界での変わり映えの無い一日に思いを馳せながら二言三言、会話を繋ぐ。そこには支配者然とした威容などは微塵も感じられず。まさしくくたびれたサラリーマンといった様相を醸し出す二体の異形が嬉しそうに、しかし力なくその椅子に腰掛けていた。

 

「……モモンガさん。多分もう、タイミングとか中々ないと思うんで。俺の話、聞いてくれますか」

 

 笑いながら会話を楽しんでいた二人だが、ふとハンザレイは面持ちを神妙なものへと変化させ、モモンガの方へとその身体ごと向ける。モモンガは、学こそないが空気は読める男だ。いいですよ、と至極明るく、そして真面目な口調とともに竜王へと向き合った。

 

「……俺の本名は、市原啓(いちはらけい)といいます。今年で34歳になる予定でした。何とかかんとか中学校を卒業して、職を転々として。最終的には労働者需給調整事業……世間からは奴隷商なんて呼ばれてましたけどね、そんなことをやってました。まあ、それなりの稼ぎはあったと思います。ただ、恋人はここ数年居なかったです。……なんてことは無い、中年に差し掛かった冴えないサラリーマンですよ。そんなやつが、ハンザレイ・エバー・フラウの皮を被ってるんです」

 

 滾々と語られる、ハンザレイ・エバー・フラウのリアルにおける半生。いきなり何を、と一瞬訝しんだモモンガであったが、その真意は直ぐに分かった。

 

 今となっては、モモンガは鈴木悟ではないし、ハンザレイも市原啓ではない。鈴木悟は死の支配者となり、市原啓は古竜の王となったのだ。いや、成ってしまった。彼らの本体、いわゆる"中の人"を知る人物は、お互いを除いてもう居ない。もう存在しない。

 間違いなく彼らは、人間を辞めてしまっている。現実世界においてただの人間だった彼らには本来、魔法なんぞ扱えないし、空も飛べないし、スキルなんて使えるわけがない。姓と名を持つ二人の日本人は、消えてしまったのだ。彼らに残る僅かながらの人間性は、もはや鈴木悟と市原啓の残り滓と呼んでも差し支えない程に。

 だから。だからこそ、ハンザレイは、市原啓は。ハンザレイ・エバー・フラウを構成するに至った根源を忘れたくなかった。忘れて欲しくなかった。

 

 異形種には、寿命が設定されていない。少なくとも、アンデッドであるモモンガがその生涯を寿命で終えることはないだろう。ドラゴンたるハンザレイも、『悠久の時を幾度繰り返してもなお、その身が朽ち果てることは無い』などという大層なフレーバーが種族説明に書かれていたことから、限りなく無限に近い長寿を誇っていると考えられる。

 今後の見通しは分からない。もしかしたら、ユグドラシルの世界よりも平均レベルが遥かに高い世界かもしれない。未開の大地を探索中、ちょっとしたことで命を落とすなどはよくあることだ。少なくともユグドラシルにおいては、如何にカンストプレイヤーといえどその危険はすぐ傍に在った。この世界がユグドラシルと同等、あるいはそれよりも温い保証は何処にもない。あっさり死んでしまう可能性すらあるだろう。逆に、何のトラブルも争いもなく平穏な毎日を過ごす可能性もあるとも言えるが。

 どんな結末が待ち受けているかは分からないとはいえ、彼らは今後、鈴木悟と市原啓という人間性を少なからず捨てて、捨て続けていかなければならない。ナザリックとともに在る限りは。そこに未練こそ無いが、あろうことかその身がもはや異形に堕ちてしまった今であっても、心までもを完全に異形の影へ落とし込むことは些か躊躇われた。

 

 モモンガとハンザレイは、異形種である。だがそれ以前に彼らは、たとえゲームとは言えどもその関係を築き上げてきた、心に血の通った友人なのだ。心血を注ぎ込んで作り上げたキャラクター、ギルド拠点は勿論のこと失いたくはない。そして、その心血を生み出した自分自身と友人のことは、それ以上に失いたくなかった。

 

「……忘れませんよ。絶対に、忘れません。……それにほら、俺って意外と記憶力いいんですよ? プレゼンの時なんか、何十枚にも及ぶ資料の内容を死ぬ気で暗記しましたからね!」

 

 そんなハンザレイの、市原啓の悲痛とも呼べる心。願い。それらは確かに、異形という、モモンガという皮を貫き、鈴木悟の残滓に突き刺さった。

 

「……ははっは! 俺の半生はプレゼン資料以下ですか? うわーショックだわー。モモンガさんがそんな鬼畜生だなんて考えたくもなかったわー!」

 

 確かな答えを得た竜王は、大仰にその身体を傾け。たまんねえな、という様相とともにその鱗に塗れた顔に、無骨に過ぎる逞しい腕を添え。げらげらと下品とも取れるような笑い声をあげながら。その安堵からか、はたまた自身を吐露した恥ずかしさからか。ほんのりと潤った双瞳と頬を、ひた隠す。

 円卓にて行われた、鈴木悟と市原啓による最初で最後の語らいは、今しばらくの歓談とともに、その時計の針を進めた。

 

 

 

 

 

「――それでですね。俺この維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)を一旦は外しておこうと思うんです。本来食事や睡眠が必要なはずなのに、アイテムでそれを無くしちゃうってちょっと怖くて」

 

 その装いをモモンガとハンザレイへと戻し、彼らは話し合いを続けていた。具体的には彼らの装備や現状のより細かい打ち合わせとなっている。その中の一つに挙がった、食事・睡眠を不要とするアイテム、維持する指輪。その名の通りの効果であるが、ゲーム時代は生命を持つ種族であれば必ず付きまとう問題を無視出来る、非常に有用な、かつ必須に近い装備であった。しかし、現実的に考えればこのアイテムの効力は極めて不可解だ。恐らくその効果は発揮されるのであろうが、何が起こるか分からない。そして、長期間にわたって無効化されていた空腹感や睡魔が解き放たれた時も怖い。何らかの事故や事情でこの指輪を外さざるを得ない事態に陥った時、そのしっぺ返しが来ないとは限らないのだ。また、異形の身で何をいわんやであるが、ゲームと違って栄養状態などはどう反映されるのだろうか。とにかく謎が尽きない仕様のアイテムを頼るには、余りにも不明点とリスクが大き過ぎる。であれば、いっその事付けておかない方がいいのでは、という結論に達したわけだ。

 

「まあ、確かに。食事や睡眠は取ろうと思えばナザリックで……あれ? そういえば睡眠はともかくとして、食事とかどうなってるんでしょうかね……?」

 

 ナザリック地下大墳墓はゲームにおけるギルド拠点である。間違っても、誰かが生活する前提で作り上げているものではない。ロイヤルスイートの一角にある自分の部屋へ戻ればベッドくらいは確かあったはずだが、食事となると果たしてどうだっただろうか。バフ効果のある料理アイテムなどもあるにはあるが、無制限に出てくるものでもない。

 そんな疑問がふと頭を過ぎり言葉を発するモモンガではあるが、時既に遅し。ハンザレイは既にその左手の指から、維持する指輪を取り外した後であった。

 

「……それ、もうちょっと早く気付くべきでしたね……。あぁー……今、めっちゃくちゃ腹が減ってます。空腹感が半端ないです。幸い眠気はそこまでじゃないですけど……横になったら多分眠れそう……」

 

 見る見るうちにその威容を萎らせていく古竜の王。腹の虫こそ鳴ってはいないが、見るからに元気がなさそうなその様相は、見ているモモンガが気の毒になりそうなほど遣る瀬無いものだった。

 どうしたものかとオロオロしている死の支配者を他所に――維持する指輪を嵌め直せば当面は大丈夫のはずだが――ハンザレイは、どうせだからナザリック内のことについても色々と実験をしてしまおうと思い立ち、伝言の魔法を発動させる。

 

『……あー、デミウルゴス。聞こえる?』

 

 必殺、困った時のデミウルゴス。もう一つの必殺技、困った時のアルベドでも良かったが、午前2時を過ぎ、間もなく3時に差し掛かろうかという、現実世界であれば些か非常識な時間帯。そんなタイミングで女性にメッセージを送りつけるのは少々憚られた。

 

『これはハンザレイ様。如何なさいましたでしょうか』

 

 伝言の魔法が発動した感触から、恐らくコンマ数秒も経っていなかったのではないか。現実世界で言えば電話のダイヤル音が響いた瞬間相手が出たようなものだ。超速度の応答に、一瞬言葉が詰まる。

 こいつらいつ寝てるんだ。新たな疑問が湧き出るが、目下のところは今の腹事情の方が優先度が高い。

 

『忙しいところすまない。ちょっと腹が減ってね、もし食事などがあれば第九階層の円卓まで運んで欲しいんだ。無ければこっちで何とかするから構わない。ああ、デミウルゴスが直接運ぶ必要はないから、誰かシモベを使ってくれていい。モモンガさんは食べないから、俺の分だけで』

『畏まりました、至急ご用意致します。メニューは如何致しましょう』

 

 淀みないデミウルゴスの返答から察するに、とりあえずメシはあるようだ。しかし、メニューと言われてもいまいちピンと来ない。ほとんど毎日を練り物のような栄養食で済ませていた身からすれば、そんなものが咄嗟に思い浮かぶわけが無かった。というわけで、必殺技に任せることにする。

 

『メニューは任せる。出来れば肉がいい。頼めるかな』

『勿論で御座います。それでは少々お待ちくださいませ』

 

 現実世界では数えるほどしか食したことが無い物をリクエストしてみるが、何とあるらしい。伝言越しにも伝わってくる、デミウルゴスの満面の喜色に少々不可思議な気持ちも沸いて出るが、詮無いことだろう。伝言でのやり取りを終了させ、デミウルゴスと連絡を取った旨、その内容を傍らに座す友人へと伝える。

 

「あ、食事あったんですね。良かったですほんとに」

 

 モモンガは、友人が抱える目下の問題が解決しそうなことに安堵の息をつき。同時に食糧もそうだが、膨大な数にのぼる各種アイテムの効果や、ギルド維持のため消耗し続けているであろうユグドラシル金貨など、まだまだ確認しなければいけないことが山積みだなあ、と人知れずもう一度、息を吐いた。

 

 

 

「いいですか。ハンザレイ様がお食事を望まれております。メニューに関しては、恐れ多くもこの私が一任されました。テーマは『肉』となります。前菜から全て、こちらの用紙に書かれているコースでの調理をお願いします。無論、私の考案したメニューが完璧である保証などありません。料理人である君たちだからこそ気付くところもあるでしょう。何か意見があれば遠慮なく声を挙げてください。何より、至高の御方が初めてお召し上がりになるナザリックの食事、僅かなミスも妥協も許されません。迅速に、かつ完璧に仕上げなさい」

 

 しばらく後。とんでもなく大仰なワゴンが何台も並び、円卓に運ばれたことはきっと些細な問題だろう。

 メイドが何人も集まり、あろうことかデミウルゴス本人までも登場したことは、きっと大したことではない。

 ハンザレイがそのあまりの美味に感動し、モモンガとの間で一悶着あったことも、きっとどうでもいいことだ。

 最高に美味かった。その一言がデミウルゴス、メイドたち、料理長たちに伝わり、莫大な熱を巻き起こしたのもきっと小さきことに違いない。

 食事中、勢い余って肉の一切れがその皿から飛び出し、勿体無いとメイドが片付ける前にそれを摘み、口に放り込んだ姿を見て、絶望に塗れた表情を張り付けたメイドの顔に思わず息が詰まったことも。

 

 それら全ては、このナザリックにおいては通常運転の範疇なのだろう。

 そうでも思わないと、とてもやっていけそうにない。ハンザレイは生まれて初めて口にしたフルコースなる料理に大満足の舌鼓を打ちながらも、心中嫌な汗が一筋滴る感触を、無視出来なかった。

 

 

 

 翌日。

 自室であるロイヤルスイートでの一室にて、これまた人生で初めて味わう極上のベッドの感触に大満足の笑みを湛えて眠りについた竜王は、モモンガから借り受けた時計アイテムに、とりあえずこのくらいかな、と適当な時間を設定したアラームの音に導かれ、その眼を開く。

 ナザリック地下大墳墓第九階層、ロイヤルスイート。そこは不埒な侵入者どもを思いつく限りの手段で一切の容赦なく切り捨てていくような、そんな戦闘が想定されたエリアではなく。各ギルドメンバーが各々の個室を持ち、さらに様々な娯楽施設が所狭しとひしめく、ナザリックが誇る極上の歓楽街であった。

 そんな一角にあるハンザレイの自室。その広さこそ広大なものだが、内装はしかし、思いの外簡素なものだった。彼自身、ギルド拠点に自室が出来た直後はそれこそ他のメンバーの例に漏れず、様々な家具や装飾品を配置し、一定のこだわりを見せていた。だが、その情熱は程なくして消沈することとなる。そもそも、彼はいわゆるハウジング要素をユグドラシルに求めていたわけではない。興味が無かったわけではないため、最低限以上の装いは完成させているが、そこに長期間に渡る興味と好奇が持続することはなかった。

 リビング部分、寝室部分、ともに壁紙は光度を抑えたメタリックグレー。調度品や家具も少なくない数が揃えられているが、その多くはモノトーン。ところどころに深みのある青や赤、さり気ない金の装飾が彩られたアイテムが並べられている程度。

 無機質、機械的な印象を前面に押し出した、当時のハンザレイが考える『カッコイイ』をまさに体現している部屋と言えよう。

 

「おはようございます、ハンザレイ様」

 

 起き抜けの寝惚け眼も開ききらない最中、至高の御方たるハンザレイの動きを察知したメイドが、間髪入れず朝の挨拶を紡ぐ。その声色に導かれ視線を向けると同時、とんでもないことを仕出かしたと言わんばかりに彼はその目を見開き、さざ波立つ心をどうにか落ち着かせた。

 

「お、おはようインクリメント。……えっと、もしかしてずっと居たの? 俺が寝てから?」

「当然で御座います。お傍に侍ることこそがメイドたる私たちの使命かつ本懐に御座います」

 

 そういえば、彼女に自室の扉を開いてもらった後、下がって良いと命令を出すことを忘れていた。そして、今の状態を当たり前と言わんばかりに言い放つインクリメントを視線に据えたまま、やってしまったと強い後悔が押し寄せるが既に遅きに逸している。

 だが、ここで発揮されるはハンザレイ自慢の種族特性、精神作用耐性であった。至極冷静に現状を把握し、そして起きたばかりと言えどもその思考の切れ味は少しも鈍ってはいない。

 インクリメントの様子を見る限り、寝ずの番を行った今ですら、不満や怒りといった感情は微塵も感じられない。むしろ、強い歓喜の感情が竜の超知覚(ドラゴン・センス)を通してありありと伝わってくる。

 階層守護者たちがそうだったが、彼らは「仕える」「命令される」などという行為に対して非常に強い満足感と充足感を得るらしい。てっきり守護者という役割からその意志が発揮されているのかと思っていたが、レベル1の一般メイドらも何一つ変わらないところを見ると、NPCたちは全員がこうなのではないか。そうであれば、守護者だけでなく彼女らのような一般メイド、またその他のシモベに対しても、扱いや命令の内容をよく考えておかなくてはならない。今回のような、たとえ本人が嫌がってはいないとはいえ仕える対象が既に眠りにつき、与えられる命令もないまま一晩中放置させるようなことは、余りにも横暴だ。

 

「そ、そうか。それじゃ、朝食の準備をしてもらえるかな? 軽いものでいい」

「畏まりました、ハンザレイ様」

 

 インクリメントには、自分の朝食が終わったらしっかりと休息を取らせよう。固く心に決める。

 そうして彼女を一旦下がらせ、その間に自身の身の回りを整える。とは言っても、モモンガのようなローブや細かな装備などは彼に必要ない。コキュートスほどではないが、ハンザレイはその種族柄、装備出来るアイテムが限られている。ドラゴンはその身に宿す鱗こそに絶対の自信を持っており、軟弱な防具など不要、といった設定がなされているため、胴体防具最大の防御値を持つ、いわゆる全身鎧(フルプレート)をはじめとした、いくつかの重装備が除外される。

 当時、思わぬ装備制限に面食らい、迷いに迷った末、彼が手にしたのは胸甲鎧(ブレストプレート)であった。全身鎧には幾分劣るが、装備出来る中では布や革といった他のものよりも防御値は高い。彼が作ったNPCであるヴァネスティアが同じタイプの鎧を装備しているのもそれが原因だ。実際、彼の鱗には低くない防御値が鎧とは別に設定されている。無論、性能序列で言えば遺産級(レガシー)聖遺物級(レリック)の中間といった程度の、ヘビーユーザーどころか、一般的なカンストプレイヤーからしてもお話にもならない性能ではあるのだが。

 

 ゲーム時代に思いを馳せながら、早々に身支度を整えたハンザレイ。朝食の用意が終わり、再度顔を覗かせたインクリメントがその美貌を真っ青に染め、愕然とした表情を浮かばせたのは、きっとナザリックに於いては日常茶飯事だ。そう思い切ることにした。

 

 

 

 

「おはようございます、モモンガさん」

「おはようございます、ハンザさん。ゆっくり眠れました?」

「そりゃもうバッチリ。元気百倍って感じです」

「おはようございます、ハンザレイ様」

 

 インクリメントをどうにかこうにか宥めすかし、朝食を終えたその足が進んだ先は同じく第九階層、ギルドマスターたるモモンガに割り当てられた一室であった。ゲーム時代には決して行われなかったであろう、ナザリック内で夜を明かした後の朝の挨拶。その傍らには、執事たるセバスが直立不動の姿勢で控えている。

 モモンガはハンザレイがその身体を休めた後、食べることも、眠ることも出来なくなった身体を少しばかり恨めしく思ったが、ナザリックやNPC、そして友人のために24時間働けるぞと些か間違った方向へその思考の舵を切り。夜が明けるまでの間、ずっと自身のインベントリやアイテムボックスに蓄えられた膨大な数のアイテムの調査を行っていた。傍らに控えるセバスは、モモンガが一度は下がってもよいと命じたものの、主人が働いている間に休息を頂くなどとんでもない、とその命を固辞。こうして彼の作業をただ見つめるだけという、ハンザレイからしてみれば苦行以外の何物でもない使命を遂行していた。

 この異世界に転移してからまだ半日が経過しようかというところだが、そんな短い期間であっても、彼らNPCの働きや意識は常軌を逸していることは容易に理解出来た。休憩や休日という概念を持ち合わせているとはとても思えない。彼ら自身がそれを望んでいる以上、非常に性質が悪いのだが、モモンガにもハンザレイにも、ナザリックを現実世界に蔓延っていたようなブラック企業にするつもりは微塵もなかった。

 早急なる休暇体制の構築、そしてNPCたちの意識改善。当初の予想以上にこれは二人が共通して感じた急務であった。

 

『ハンザレイ様。少々お時間を頂戴してもよろしいでしょうか』

 

 モモンガと朝の挨拶を終え、セバスにちらりと視線を移し、どうしようかなと静かなため息を吐いたところ。デミウルゴスより伝言の魔法が届く。モモンガにその旨を伝え、彼はその伝言へと返事を返した。

 

『ああ、大丈夫だよ。どうしたデミウルゴス?』

 

 しかしながら、彼にはデミウルゴスが態々メッセージを飛ばしてくるような用件に、直ぐに思い付くものがなかった。もしかすると、今夜の夕食メニューの打診やもしれない。くだらない、と一笑に付してしまわれそうな予測ではあるが、この極短期間で彼らNPCの異常性は身に沁みて痛感している。あながち的外れとも言えないだろう。

 

 

『はっ。ブラックカーテン作戦により走らせた影の悪魔、6番、7番、8番よりほぼ同じタイミングにて伝言の魔法を受信致しました。50人から100人程度の人間種からなる集落を複数発見したとのこと。そして、その集落に向け動いている、武装した集団が距離を置いて計3種、確認出来たとのことです』

 

 

 マジか。

 デミウルゴスから齎された思わぬ報告に彼は小さく、しかしモモンガには聞こえる程度の声量で、その心情を零した。

 




ここまで読んでくださり、誠に有難う御座います。
漸く、ナザリックの外に目を向けることが出来そうです。
これからじわじわとモモンガさんとハンザレイの世界を広げて行きたいと思いますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。


さて、私事ではございますが、これ以降、更新速度が大幅に低下することが見込まれます。
今現在、ちょっとした休暇を頂いておりまして。それが一応今日までなんですね。

折角思い付いた二次創作なので、時間があるうちに出来る限り進めておきたかったのですが、ここまでが限界でした。申し訳ありません。

もちろん、育児放棄はせずに遅々の歩みではありますが続けていこうと思っていますので、何卒末永いお付き合いの程、よろしくお願い致します。
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