みほとまほ 山を歩く   作:極限環境微生物

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この日常の延長みたいなお話が、みなさまの話題の手助けになれば幸いです。

※追記 脱字を修正しました。


第7話

 太陽が昇り始める。山の八合目まで登っただろうか。ここまで来ると木々の背丈が極端に低くなる。

 山頂を見れば森林限界になっていることが分かる。この山は風衝地になっていることや高い標高による気温等の条件だからだろう。

 しかし私たちは、訓練のための山籠りをしているため登山が目的ではない。

 それでも頂上まで行きたかったな……。

 名残惜しいが頂を背にするように私たちは森へ向かった。

 

 

 それは置いておいて、お姉ちゃんの後ろをついて歩くと多くのことに気付かされる。知識や技術の多さにも驚くけど、およそ人のものとは一線を画す能力。それは論理的思考に基づく判断力だ。

 

 まず気付かされたのは、山を歩いているのに、お姉ちゃんが下見もせずに選んだ道は人が歩きやすく傾斜が緩やか。

 また無理をせずともポイント毎の到着時間に秒単位の狂いしかない。

 それよりも記憶に残った事があった。

 ここからが西住まほという人物の真髄である。

 

 私が歩いてる最中に草木の少ない岩肌に辿り着いて、日陰だったこともあり寄りかかって休もうとしたんだ。

 そうしたらすぐに「みほ、ここは危険だ。すぐに移動しよう(1)」とお姉ちゃんが言ったの。

 次に続く言葉は、「だから自分勝手な人は好きになれなんだ(2)」だってさ。私の事かと思ってびっくりしたら、ああ、みほのことじゃないよとフォローも入れられた。

 

 最初は全く意味が分からなかったから、お姉ちゃんにさっきの場所から何で離れたがったか聞く。

 帰ってきた言葉は「あそこは良い岩陰だな。涼しいし虫も来ない(3)」

 

 

 

 混乱のあまりしばらく考え込んだけど、私にはやっぱり分からなかった。

 急かす姉に着いて歩き、その場を離れた5分後だろうか。何か音がして後ろを振り向くと、私たちのいた場所には切り出したような大きな岩が落ちていた。

 

 私はお姉ちゃんに、最初から説明を求めた。なんだか不思議そうな顔をして私に話してくれた。

 

 まず、先ほどの岩肌を観てすぐに、チョーク(炭酸マグネシウム)が付いていることに気付いた。つまりクライミングをするには良いスポットだと仮説した。(3)

 そして頂上付近を見上げると岩肌に紛れて赤茶色の古い楔(ハーケン)がたくさん残されており、それは風によって微差だが揺れて見えたと。

 クライマーなら登りたくなるところを綺麗に、壊れないようにしておきたいから、ハーケンを回収出来ないなんてのは″自分勝手″らしい。(2)

 更にはハーケンには、自分の全体重を預けるもの。それがぐらつくということは風による風化しか考えられず、ハーケン周りから細かい砂つぶが落ちて舞っているのを見た瞬間、そう遠くない時間に落石が起きてもおかしくはない。(1)

 そう判断したんだって。

 

 

 つまり、お姉ちゃんはあの場所に着いた途端に得た情報を整理して(1)の言葉を言ったんだって分かった。

「お姉ちゃん。バケモノ染みてきてるよ」

「たまたま読みが当たっただけだ」

 

 ……私は恐ろしささえ感じた。それほどの知識量と思考の深さ。

 彼女が私の敬愛する人で良かった。あの圧倒的な才覚に比べられたとしても、全く悔しくはない。むしろ嬉しくもある。

 しかし、裏を返せばつまり、彼女の周りにいる人達は……。そこでもう、考えるのはやめておいた。

 

 

 他にも挙げればきりがないが、全ては西住まほという指揮官による采配によって、山籠りをしながら登山道を歩かないで山を越えるという無謀な行動を合理化させている。

 全ては、観て聴いて感じ得た情報を頭の中で体系化し、論理的思考力でもってその状況の最適解を導く。まさに鬼才。

 

 ……戦車道に関しては、そんなお姉ちゃんの考えることと同じことを実行したり、すぐに理解出来る私も結構すごいと思うけど。

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 山を越える時に気になった事がある。

 珍しく標高が高いところの木にも、所々にシカの食害痕が見て取れたこと。そしてその傷は深いということ。

 

 樹木という植物は、幹にある皮を一周するように食べられると死ぬ。

 どの木も例外じゃあなくて、植物が光合成で作り出した養分を運ぶには師管を通して送っている。

 表皮の下にある形成層、その下には師管があり、それを一周するように剥がされれば、首と胴体を切り離されたと同じになってしまう。

 

 シカはしばしば、樹木をそういう食べ方をするの。その条件としては、低い土地にも高い土地にも好きな草がなくなった時。

 どうして好きな草が無くなるか、それはシカの個体数増加によって、その地域が生産出来る植物を食べ尽くし、限界を超えるから。

 

 それほどシカは増えすぎている。近頃の北海道では、アーバンディアと言って山や森から市街地にまで下りてきて、農作物や林業のための木々を荒らすシカが問題化しているんだって。

 

 彼らはただ、山での個体数が増えすぎて食べ物がなくなったから、生き残るために移動しただけなのにね。

 

 このままでは森の生態系が壊れるから。

 そう言う理由で猟師(ハンター)を増やして害獣(エゾシカ等)を駆除することで森林を守る。

 これが人の手で、環境を管理することなんだって。そうやって人類や森林の未来を作ることが目的。

 

「人にとって都合の良い自分勝手な話だな」

 お姉ちゃんはそう言ったけど、その人たちのおかげで人が豊かに暮らせているのも事実か。って納得してたみたいだった。

 

 

 

 これからまた、夏独特の湿気を含んだ森の中を突っ切って最終目的地である農村地帯の先、車でピックアップしてもらえるほどの国道を目指す。

 水の残量16L、お腹は二人ともペコペコ。そろそろ虫を食べることを視野に入れるとお姉ちゃんは神妙に言う。

 

 私たちはあと1日の間に、もっと強くなってしまうのだろうか。




北海道の制服女子の尊いシチュをご紹介します。

冬の雪道で、隣を歩く友達が滑って転んだ時、見て見ぬ振りをするのではなく一緒に転んであげる。
そして一人は立ち上がり、友達を起こすために手を差し伸べる。その手を引くと、支えきれずもう一度転んでしまう。
二人で驚き、少し間をあけてから大きな笑い声を出してその場に座り込む二つのつぼみ。彼女らを包むように、細やかな雪の華がキラキラと輝く。

はい。創作です。こんな子供を見たらきっと話しかけたくなっちゃうから存在してはいけない。

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