ただでさえもうひとつの小説の投稿頻度が遅いって言うのに……困りましたねぇ。(ONDISK)
因みに、話の中で出てきた両儀識という少年は、作者が書いているもうひとつの小説の主人公だゾ。
6騎のサーヴァントを倒した衛宮士郎は、その足で、かつて龍が住まうとされていた円蔵山の大空洞へとたどり着いた。
その大空洞の中央にある、光を湛えた台座のような岩。あそこに、恐らく、いや絶対に、美遊がいる。
士郎は止まることなく歩みを進め、台座を登る。
その頂点には、静かに眠る美遊と、美遊を中心に展開された魔法陣があった。意を決して、1歩を踏み出す。
やっと、美遊と再会出来た。そう思うと自然と笑みが浮ぶ。
「お兄……ちゃん……」
士郎が来たことに気づいた美遊が、消え入りそうな声で呼び掛ける。
だがその言葉には、歓喜の感情は篭っていなかった。
「随分と、待たせちまって……ごめんな」
「どうして、来たの?」
その顔に喜びはなかった。あるのは、悲しみか、絶望か。或いは、両方か。
「あの時、お兄ちゃん言ったじゃない。お兄ちゃんと切嗣さんが私を拾ったのは、私の力を使う為だって……私は、ただの道具……なんでしょ?」
美遊の瞳から涙が零れる。
確かに、俺は真実を言った。嘘偽りなく、全部話した。
「なのに……今更……」
美遊の瞳から、さらに涙が溢れてくる。
衛宮家で家族のように過ごした日々。それが全て嘘偽りだったのかと、美遊はそう思っているのだろうか。だけど、それは違う。
「続きを──まだお前に1番言いたかったことを伝えられていなかったからさ」
朔月家にて、真実を話した後、ジュリアンの介入によって言いそびれた話の続き。伝えるのは、今しかない。
「──単純な事だよ」
懐から7枚のクラスカードを取り出し、宙に浮かべながら、士郎は口を開く。美遊の目には、7枚のクラスカードが、それぞれ7色の光を湛えているように見えた。
「俺はお兄ちゃんだからな。妹を守るのは当たり前だろ」
彼は、真実を告げた上で、本当の家族になろうと、本当を始めようと、そう言いたかった。そして、それを今、ここで告げる。
「──うん」
目に涙を溜めながら、美遊は小さく頷く。
「間違い続けてきた俺だから、この選択も、もしかしたら間違ってるかもしれない」
そう言いながら、士郎は横たわる美遊に近づき、その場にしゃがむ。
「だけど……この願いだけは本当だから」
美遊の手をそっと手に取り、両の手でしっかりと握る士郎。
そして、願いを告げようとする。だが、ここで士郎は迷ってしまう。
本当に、これでいいのかと。美遊は俺がいないとどう思うのだろうと、そう思った。きっと、悲しむだろう。美遊の幸せは、俺と過ごした日々だと言うのなら、俺は──
「──我、聖杯に願う」
「どの世界でも良い。俺と美遊を、転生させて欲しい。本当を、始める為に。そして、美遊が、その世界で幸せを掴めますように」
だから、俺は聖杯への願いを、少しだけ変えた。
「お兄ちゃん……!」
俺はの願いを聞いて、美遊は嬉しそうな顔を浮かべる。
美遊自身も、士郎と一緒にいたいと思っていた。だから、士郎の願いは、美遊にとっての願いでもあったのだ。
士郎が願いを告げた途端、魔法陣が光り、四方から光の柱が樹木のように広がっていった。そして、空中にさらに大きな魔法陣が展開された。
美遊の身体が魔法陣ごと宙に浮かび、士郎は握っていた美遊の手をそっと離す。
──来たか。
そう感じた士郎は、岩の台座を降りていく。
「美遊。もう少しだけ、待っていてくれ」
降りた先にいたのは、黄金の鎧に身を包んだ、一人の女性だった。
「悪いな。妹がさ、今頑張ってるんだ。もう少しだけ、待ってやってくれないか」
その後、英雄王と死闘を繰り広げた士郎だったが、やはり最強のサーヴァントには負けてしまった。だが、これでいい。何せ、時間を稼げばそれで良かったのだ。
(転生したら、今度こそ、海に連れて行ってあげないとな)
消え入りそうな意識の中で、士郎は心の中で、そう呟いた。
「はっ!?」
目が覚めると、そこは一面を白に覆われた空間だった。空から降っているのは、雪か、花びらか。いや、その両方だ。
「──お兄ちゃん?」
士郎の横から、妹の声が聞こえた。
「美遊!?」
「うん!」
士郎の声を聞いた美遊が、強く頷く。
「んん?珍しいな。こんなところに人がくるなんて」
「っ!?誰だ!」
空間に響く誰かの声に反応した士郎は、美遊を庇い、身構える。
「そうピリピリするな。オレはこの空間に時々来てしまう来訪者のようなヤツだ」
そう言って、姿を表したのは、眼鏡をかけ、黒いロングコートに身を包んだ少年だった。
「来訪者?」
美遊が疑問を口にする。
「ああ。ここは現実と「」の境界みたいな所らしい。ここに来るのは死者とかの類のヤツだけ何だが……って言うか、アンタ士郎さんに似てるな」
死者?ああ、今俺たちは、聖杯によって転生する前だから、死人扱いになっているのか……って!
「なっ!?どうして、俺の名前を!?」
少年の口から、自分の名前が出てきたことに驚く。こちらはまだ名前を名乗っていないというのに。
「やっぱりか。オレは冬木でアンタと同じ見た目と名前の男に出会ったことがあってね。……そのなりだと、もしや平行世界ってヤツの士郎さんか?」
「平行世界?何だか分からないけど、多分そうだと思う」
「ははぁ、平行世界って、本当にあったんだな。オレも驚きだ。橙子さんが言ってた通りだ」
どうやら、驚いていたのは俺たちだけじゃないようだ。
「ってか、どうしてここに来たんだ?」
「──それは……」
「待て、美遊。それは俺が話す。まぁ、長くなるけど、かくかくしかじか……」
「なるほどねぇ。オレの世界の士郎さんとは大違いだな。世界が異なると、同一人物でもこうも違いが出るものなのか……。覚えておこう」
少年は、士郎たちのこれまでの話に納得したようだ。
「話はわかった。それで、転生までにはまだ時間がかかるんだろ?」
「あ、ああ。恐らく、まだかかると思う」
「そうか。じゃあ──」
彼は、腰の刀に手を添える。
「オレと戦え」
「……は?」
「……え?」
俺と美遊は、思わず同時に変な声を出してしまう。
「なんで、そうなるんだ?」
「そうです。今ここで戦う必要なんてないはずです」
そうだ。今ここで戦う必要などないのだ。なのに、何故彼は俺に戦いを挑んで来たのか。
「単純なことだ。オレの世界の士郎さんと比べたいからだよ」
「君の世界の俺と?」
「ああ。まあ、どうせ暇だろ?オレも夢が覚めるまで暇だからな」
「まあ、確かに暇だけど……」
「だったら、ボーッとしてるより、剣を交えてモヤモヤを少しでも晴らした方がいいんじゃないか?」
──一理ある、と思った。確かに、ボーッとするより幾ばくか有意義だろう。だが、彼は人間だ。いきなり戦って、傷を負わせたりでもしたら……
「大丈夫だ。オレはそう簡単には傷つかないさ」
「……アンタエスパー?」
どうやら、俺の心は完全に読まれていたようだ。
「──はぁ、分かったよ。そこまで言うなら戦うさ」
「よっしゃ!そうと決まれば──」
少年が、勢いよく刀を抜刀する。その後に、眼鏡に手を掛け、眼鏡を外してコートの胸ポケットに入れる。
開かれた少年の目は、さっきの死んだ目ではなく、青く光る目をしていた。
「なにっ!?」
「魔眼だ。魔術世界ではよく知られている」
「なるほどな……
投影するのは、英霊エミヤが愛用していた、一対の夫婦剣、『干将・莫耶』だ。
「お兄ちゃん、頑張って!」
後ろから美遊が声援を送る。美遊の応援があれば百人力だ。
「へえ、
少年が驚きの声をあげる。違いがあっても、同じところはあるらしい。
「じゃあ、行くぞ!──ええと……」
……そういや、名前を聞いていなかったな。
「……両儀識だ。ほんの少しの間だが、よろしく頼む」
「知ってるだろうけど、衛宮士郎だ。こちらこそ、よろしく頼むよ」
人が名乗ったら、こちらも名乗るのが礼儀というヤツだ。向こうが名前を知っていたと言って名乗らないのは、礼儀に反する。
「そんじゃあ、今度こそ、行くぞ!」
その言葉とともに、士郎は足を強く蹴り、識に向かって突進する。
微動だにしない識に、右手の莫耶を振り下ろす。
「ハァッ!」
「フンッ!」
しかし、振り下ろした莫耶は、識が無造作に振るった刀によって粉々に砕かれた。
「なっ!?」
「隙あり!」
識が左に振るった刀を右に振るう。
それを紙一重で避け、左手の干将を叩きつける。
しかし、それもただの一振りで砕かれる。
あれは明らかに全力で振るってはいない。加えて投影した夫婦剣の強度はかなりのものだ。なのに、何故──
もしや、あの魔眼とやらが何か関係しているのだろうか。だが、それがわかった所でどうこう出来るというわけでもない。
「今度は、こちらから行かせて貰う」
識が目にも留まらぬ速さで刀を振るう。速すぎて残像が見える程だ。
「
咄嗟に夫婦剣を投影し、クロスしてガードする。今度は一撃では壊れなかった。それでも、強い衝撃が腕を伝わってくる。何とか耐えたが、気を抜いていたら腕が麻痺していただろう。
「ハァッ!」
裂帛の気合いと共に、ガードしていた識の刀を弾き返す。
「ッ!」
識の体勢が崩れ、隙が生じる。そこを逃さず、莫耶を叩きつけ──
(ッ!?──何か、くる!)
俺の直感が警鐘を鳴らす。今すぐ避けろ、とそう言っている。
俺は攻撃を中断し、後ろへ飛び退く。
その途端、俺のいた位置に雷が落ちた。
「今のを避けるとはな」
「生憎、戦い慣れているんでね……!」
あとコンマ数秒遅れていたら、上手に焼かれていただろう。
「なら──ッ!!!」
無音の気合い。それと同時に識から放たれる、想像を絶する程の殺気。それは波動となって、この空間全体に広がる。
「──あ」
思わず、武器を取り落としてしまう。俺が感じたのは、恐怖などと言うそんな生温いものでは無い。アレは、まさに死そのものだ。俺は一瞬、自分がもう一度死んだのかと思ってしまった。美遊に至っては、あまりの恐怖にへたり込み、震えてしまっている。
(今、のは……)
開いた口が塞がらない。声すら出すことも、身体を少しも動かすことも出来ない。あの殺気は、生きている内は感じない、明確な死というものを感じさせた。
「フッ!」
──いつの間にか、俺の眼前には脚を振り上げる少年の姿があった。
(あっ、避けられない)
そう思った瞬間、鳩尾に激しい衝撃を受け、思わず怯んでしまう。
「ぐっ……」
「お兄ちゃん!」
美遊の叫びも、今では囁きにしか聞こえない。
隙を晒した俺の顔を識が掴み、そのまま俺の身体ごと地面に叩きつける。
「う……ぐっ……!」
何とか起き上がろうとするが、識がいつの間にか懐から取り出したであろう4本の黒鍵を投げつけ、俺の四肢に正確にヒットさせる。だが、不思議と血は出なかった。
「くっ……!」
そして、地面に縫い付けられた俺は、識の突きを為す術もなく受けてしまった。その時は、あまり痛みを感じなかった。
「オレの勝ちだな」
「ああ、そして、俺の負けだ」
単純に強かった。実力では三騎士に並ぶだろう。
識が刀と黒鍵を抜く。痛みはない。何故か分からないが。
足に力を入れ、何とか立つことが出来た。まだ不快感は残るが。
「……なんで、最後の突きは痛みを感じなかったんだ?」
「オレがわざとそうしたからさ」
「わざと?」
「まぁ、百聞は一見に如かず、だ。腕、見てみ」
「腕……?あっ!」
左腕を見ると、置換の影響で褐色に染まっていた部分が消えていた。
「ほんとだ!髪も元に戻ってるよ、お兄ちゃん!」
「一体、何をしたんだ?」
「えーっと、なんだ。まぁ要するに、いいとこだけを残して、悪いところを殺したってとこだ。置換による記憶の侵食とか、肉体の変化とかのデメリットだけを殺したのさ。今アンタに残ってるのは、先取りしたその英霊の起源、魔術回路、技能だけだ」
「そんなデタラメなことが……って、今、殺したって言ったか?」
俺は彼の『殺した』という単語に疑問を抱いていた。殺した、では無く、消した、と言えばいいのに、と。
「ああ、まだ言ってなかったか。オレの魔眼は直死の魔眼って言って、生物、無機物問わずモノの死を線と点で見ることが出来る。そして、その死の線と点を断たれたり突かれたりしたモノは、なんであろうと死ぬ。それがたとえ、概念的なモノであってもだ」
「チートじゃないか……」
線と点を切ったり、突いたりするだけでモノを殺せるとか、絶対に半端ないヤツじゃないか。
「よく言われるよ。だが、モノの死そのものを見ている訳だから、全うな精神じゃまず耐えられない。オレのように達観してないと、見るだけでショック死しかねないかもな」
確かにそうかもしれない。モノの、特に生物の死なんて、見るに堪えないだろう。
「……ん?そろそろ時間のようだぞ」
「あっ、お兄ちゃん、身体が……透けて……」
「ほんとだ……って、そういう美遊も」
美遊を見ると、その身体は徐々に消えつつあった。
「新たな生を受けるときだな」
「そうみたいだ。まあ、その……ありがとな」
「えっと……ありがとうございます」
美遊がぺこりと頭を下げる。
「いいってことよ。オレも目が覚めるまで暇だったわけだし。──んじゃ、またな。幸運を祈るよ」
「ああ、じゃあな、識」
その言葉を最後に、オレと美遊の意識は途切れていった。
その直前に目に映ったのは、ふっと微笑む識の姿だった。
設定について
転生先はSAOとFateが混ざった世界。プリヤの世界に近いものとなっている。
プリヤ世界との違いについて
士郎と美遊が養子なのは変わらないが、元の家は魔術師の家系。他に、衛宮家がstay nigntの武家屋敷になっている、家があるのは冬木市ではなく、キリトが住んでいる所である埼玉県川越市などの違いがある。
至らない点が多々あると思いますが、よろしくお願いさしすせそ。