こちら、次の話になっております。
自分でも遅いと思うけど、仕方ないね♂
何だかボリューミーなのに内容がガバガバかつ飛躍してしまった……。毎回こんな感じですみませんm(_ _)m
それでは、ご覧下さい。
2023年、5月15日、夜10時30分。
24層主街区の片隅に建つ非戦闘職のプレイヤーが営むこぢんまりとしたバーに1人の男がカウンター席に座っていた。店の客は疎ら。しかし、それ故彼の放つ異彩さがよく目立っていた。格好もこれまた珍しく、首には十字架。纏うはカソック。その様はまるで神父のよう。
「葡萄酒を頼む」
淡々と告げられた男の注文に応え、店主はワイングラスとワインをストレージから取り出し、注ぎ、男の前に差し出す。慣れているのか、1連の動作に滞りはない。
「いいのかい?神父が酒飲んだりしても」
「何を言う。寧ろ、飲酒に対しては肯定的だとも。聖書にも書いてある。だが、酒に溺れてはいけない。『酒は飲んでも飲まれるな』、と言うやつだ」
男──言峰綺礼の言った通り、クリスチャンが飲酒をしてはいけないことはない。イエスは水をワインに変えたとか、最後の晩餐ではパンを自分の肉、葡萄酒は血だと言ったとか、そういう逸話があるくらいだ。アル中にならない程度のものならオッケー、ということなのかもしれない。
「へぇー、そいつは初耳だ」
「……それはそうと、この、新聞に載っている赤毛の少年は?」
「ああ、最前線の攻略組のトッププレイヤーさ。ギルドにも所属してないのにすげぇモンだよ。ま、ビーターだから有り得なくもないけど。名前は、確か──」
後に続く言葉を聞いて、然しもの彼も驚いたようだ。
「どうした、鳩が豆鉄砲食らったようなカオして」
「……いや、なんでもない。此方の事情だ、気にするな」
「ふぅむ、それなら余計な詮索はしないけれども」
再び、言峰は黙り込む。考え事のためだ。先の店主の発言に、聞き捨てならない事柄があったからだ。
(まさか、あの少年が、ここに?だとしたら、ヤツは聖杯への願いによって並行世界へ転移したというのか……?ならば──)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
5月17日、昼。今日も今日とてキリトは黒猫団の皆と一緒にいるようだ。いや別に悪いわけではないのだが、最近多すぎやしないかと思っていたところだ。まぁでも、どうやら夜に宿をこっそり抜け出しては攻略組らしくレベル上げに勤しんでいるようだ。
「でも、こっちとの時間も空けて欲しいモンだよ……」
と、うわ言のように言葉が漏れる。今日は特にやることもないので、だいぶ前に取った武器鍛冶スキルを上げたり、今のようにベンチに座って新聞(といってもただの身近な情報を寄せ集めて紙に載せたものだが)を読んだりしているだけだ。現時点での進み具合は、29層をクリアし、30層攻略の真っ最中である。俺たち攻略組は日々迷宮区に篭っているが、さすがに毎日やるのは御免だし、こうしてオフの日を設けている。しかし、その日に限って他にやることが無くなるってのもいいことではない。何せ、暇で暇で仕方ないのだ。かと言ってキリトを強引に呼び出すのも気が引ける。とりあえず、新聞を全部読んでから宿に戻って寝ようかと思った矢先、紙面の1部に目がいった。
「30層で超高難易度クエ発生……?」
書かれた記事によると、この層の端っこにある小さな村で「近くの洞窟に幽霊がいる」という情報を得ることが出来、それを頼りにその洞窟に行くと、中にいる例の幽霊がクエストを依頼する。内容は、近隣の森に生息する巨大な猪の討伐。見事倒せば、お次は依頼主たる幽霊自身と戦う、といったもの。勝った暁にはソイツが持つ一対の双剣を報酬として貰える、とのことだ。だが、どうやら難易度がアホみたいに高いらしく、まず受注条件が2人だけのパーティーでないと受けれず、ボス自体の強さも明らかにペアで太刀打ち出来るものではなく、このクエが発見されてから何人ものプレイヤーが全て返り討ちにあったのだという。猪の強さはそうでも無いらしいが。だが幸い、猪も幽霊も挑戦者を殺さないように設定されているため、致死となる攻撃を食らってもHPが1だけ残って強制的にクエスト失敗、という良心設計になっているそうな。
「……今度行ってみるかな」
勿論、レインも誘って、だ。
ともあれ、新聞を丸め、寄り道せずに宿へと戻り、そのまま部屋で眠りについた。
その夜。
俺は指定した時刻に《強制起床アラーム》──所謂時計のタイマー機能のようなものだ──によって目を覚まし、準備を整え、部屋を出る。そして、それと同時に隣の部屋から出てきたレインと共にある場所へと向かう。
「よし、行くか」
「うん」
軽く言葉を交わし、宿を出て転移門へ行き、28層に転移する。主街区から歩いてしばらくした所に、俺たちの目的地があった。
狼ヶ原。最前線である30層から2つ下の階層にある、現時点で最も効率の良い狩場で、キリトのヤツもここに足繁く通っているとのウワサだ。
この狼ヶ原は、その名の通り狼系のモンスターしか現れないエリアで、岩と平原によって構成されている。主にここを縄張りとしている狼型モンスター、《ブラッドウルフ・リーダー》とその手下《ブラッドウルフ》はすばしっこく、中々の強さを誇るが、他の奴らと比べても経験値が豊富で、それ故、コイツらの住処たるこの場所が、今まさにホットな経験値稼ぎスポットなのだ。
だから昼間に行くと人が多く、効率が下がるため、こうして人の少ない夜に行く方が吉、というわけである。さて、今日もいつも通りに狩りを始めようとしたのだが──
「……あれ?」
どうやら、先客がいたようだ。人数は5、6人。装備の意匠がほぼ同じであることから、何らかのギルドだと予測する。よく目を凝らすと、プレイヤー、モンスター、NPCなどを視界に入れたときに現れるカーソルが表示された。色は勿論緑。当然と言っちゃ当然だが。
プレイヤーには、カーソルの色が2種類ある。1つ目は緑。これは最初からこうなっている、デフォルトカラーだ。普通にやっていればこの色から変化することはまずない。2つ目はオレンジ。これは、ハラスメント行為や直接PKを行った者たちに付けられるカラーだ。オレンジカーソルのままだと、主に街や村に入れない、というデメリットがある。その他にも、オレンジの状態で他のプレイヤーとすれ違おうものなら、犯罪行為をしたと思われ蔑視される、などということも有り得る。何にせよ、犯罪を犯して得することは何もないのはこの世界でも同じ、ということだ。色を緑に戻すには、《カルマ回復クエスト》をクリアしなければならない。どういった内容なのかは知らないが。更に、そのオレンジプレイヤーの中には、好んで殺人をする連中である《レッドプレイヤー》と呼称される奴らの存在がまことしやかに囁かれているらしいが、全貌は未だ分かっていない。
話を戻そう。俺の視線の先にいる集団をじっと見つめていると、リーダーと思しき男と目が合う。一瞬、ビクッとするが、額に巻いた悪趣味なバンダナと顎に蓄えた無精髭を視認すると、心の内の僅かな警戒心がスッと消える。
「クライン!クラインじゃないか!」
「ん……?おお、エミヤじゃねぇか!おい、雑魚は任せたぞ!」
クラインが他の仲間に指示を飛ばし、こちらの元へ小走りで向かってくる。
「久っしぶりだなぁ!昨日はキリトで今日はおめぇと来たか!」
「キリト?アイツ、来てたのか」
「ああ、夜にな。今の時間帯によく来るみてぇだぞ」
「あー……」
きっと、ギルドのメンバーに内緒で来ているのだろう。全く、本当に困ったヤツだ。
「って、おお!レインさんもいるじゃねぇか。どうも、ご無沙汰しております」
「お、お久しぶりです~……」
急に態度を変えたクラインに、若干引き気味になりながらも挨拶だけはしっかりとするレイン。やれやれ、そうやって女性に対して積極的過ぎるからモテないんじゃないか。彼は少し消極的になった方がいいと思う。ヒゲ剃って、バンダナ取ればいい感じになりそうなのに。
「おっ、そうだ。オレたちも今始めたところなんだよ。良かったら、一緒にやんねぇか?」
「でも、お前のパーティーに俺たちが加わったら、明らかに人数オーバーだぞ」
「ん……?おわっ、そうだった!そういや6人までだったっけか」
うっかりしてた、と言わんばかりにバツの悪そうな顔を浮かべるクライン。
「ま、俺たち以外に誰もいないっぽいし、別々でも邪魔にならない程度にやれば問題ないだろ」
「そうか。おめぇがそれでいいなら構わねぇけどよ。あっ、なぁエミヤよ」
「なんだ?」
「ちょいとオレたち2人で話でもしねぇか?」
と、いきなり提案してくる。一体、なんの意図があるのか。
「なんだよ、急に。でもまあ、別にいいけど」
「へへっ、おめぇならそう言うと思ったぜ。じゃ、あっちに行こうぜ」
クラインがここから少し離れた場所を指す。
「お、おう。ってことなんだ。先にやっててくれ」
「う、うん。分かったよ」
俺がそう言うと、クラインに腕を掴まれ、ずるずると引きずられていった。
「……で、話ってなんだ」
「まー、アレだ。キリトのことなんだがよ」
彼にしては妙に真剣な表情をしている。1人の友人としては放っておけないのだろうか。
「ギルドに入ったこと、知ってたのか」
「まあな。HPバーの上にマークが表示されてたからな。一目で分かったぜ。しっかし、ほとんど1人だったアイツがなぁ」
感慨深げに顎を撫で、何とも言えない感情を吐き出すように声を漏らすクライン。
その気持ちは分からないでもない。いや、幼少期からずっとキリト、もとい桐ヶ谷和人という人間を見てきた俺には彼の言葉はよく理解出来る。あいつは、俺以外に友人と呼べる者たちはほとんどいなかった。だから、他人と接することなんてほぼなかった。故に、心配なのだ。慣れない環境で、一体どう過ごしていくかが。いずれ、本当のことを告白するのか、それとも、ずっと嘘をつき続けるのか。出来れば、ヤツには昔の俺のように身近な人たちを失って欲しくはない。同じ絶望を、味わわせたくない。そのためには、例え嫌われても真実を言った方がいいのだ。
「弱きを助け、強きを挫く」
「おん?」
俺の呟きに、刀使いは目を丸くし、キョトンとする。
「そんな行為に、キリトは快感ってヤツを感じたんだろうな。助けた側に頼られて、自分は彼らを守ったんだと思って。……でも同時に、あいつは恐れていたんだ。そいつらの感謝の裏の嘲りを。それで、レベルを偽るような真似をしてしまった。俺はそれが、取り返しのつかないことに発展するんじゃないかと」
「ンなことがあったのかよ……。なんだって、そんな嘘なんかつくんだよ……」
「そこに何かを隠したい、偽りたいという明確な意志がそこにあるから……だと思う」
そう言えば、ジュリアンも同じことを言っていた。嘘には寛容で、形だけ真似た偽物は嫌悪するとも。つまり、俺のような人間を。
──いけない。あのときの出来事からは見切りをつけた筈なのに、まだソレを捨てきれない俺がいる。
「意志、意志か……」
んー、と少しの間首を傾げながら唸るクラインだが。
「あー、もうやめやめ!ンなしんみりとした話なんてやっぱオレにゃ向いてねぇ!」
自分から話題を振っておいて、急に話を打ち切ってしまう。思わずずっこけてしまうところだった。
「確かに、アイツのことは心配だけどよ、でも、案ずるだけじゃ事は進まねぇ。ああいうのは、直接本人にガツンと言ってやるのが1番なんだよ」
「……」
珍しく正論を言うクラインに俺は面食らってしまう。
「どうしたんだ?ラグってんのか?」
「……いや、お前にしてはいいこと言うなって思ってた」
「んだよ、オレをなんだと思ってやがんだ」
「軟派なヤツ」
正直言って、最初の印象もそんな感じだった。初対面なのに妙に馴れ馴れしいのに、女性のレインに対しては態度をガラリと変えるので、そういう輩なんだな、と半ば呆れていたような気がする。
「コイツめ」
そう吐き捨てるようにに言い、ダメージが入らない程度に俺の脇腹を小突く。
それに対し、ニヤリと笑ってやる。
「それよりよ、もう1つ聞きてぇことがあってだな」
「まだあるのか」
「おうよ。……で、正直なところ、どうなんだ」
「何がだよ」
言ってる事の意味が分からず、疑問に疑問で返してしまう。
疑問形には疑問形で返してはいけない(戒め)
「カーッ!察しの悪ぃヤツだなぁ!決まってんだろ。レインさんのことだよ」
「な、ななっ……!?」
そんなに鈍感ではないので、そこまで言われたら、さすがの俺でもヤツの言ったことは分かる。
つまり、レインのことを、1人の女性として好いているかどうかだ。
「お、おま、何言って──!」
「いいから、好きなのかどうか言ってみろよ!」
バシッ、と俺の肩に腕を乗せ、顔を寄せて追求してくる。
「いや、そんなこと言われても……」
そもそも、誰かを好きになったことなんてないのに、そんな話題に理解を示せるわけがない。
「ふぅむ、んじゃ言い方を変えるか。彼女のこと、どう思ってるんだ?」
今度は、質問の趣旨を変えてきた。が、どう、と言われても色々と困る。しかし、ここまで来たら言わなければならないっぽくなってしまった。というか、言うまで逃がしてくれないパターンだ。
「……そうだな。恋愛感情とか、そんなのは分からないけど、レインと一緒にいると楽しいって言うか、心が満たされると言うか……。それに最近、何でか彼女のことを意識してしまうことが時々……って、何言わせてんだ!お前のせいで余計なことまで言ってしまったじゃないか!もういい!この話は終いだ!さっさと狼たちを狩りに行くぞ!」
無意識に口にした自分の言葉に羞恥を覚え、思わず話を逸らしてしまう。多分、俺の顔は耳まで真っ赤になっているだろう。その場に居るのに耐えきれず、ずかずかとブーツの底を鳴らして狩場へと戻っていった。
「はっは~ん、こりゃ恐らく脈アリだな。アイツにも恋心ってのがあったか」
戻るまでに深呼吸して息を整え、ようやく平常心を保つことが出来た。まだ完全にとはいかないが。
「あっ、おかえり~。随分遅かったけど、何かあったの?」
レインが声を掛けてくるが、先程の会話を思い出すと、上手く言葉が出ない。だが何とか誤魔化してみる。
「……いや、なんでもない。なんでもなかった。うん」
「なーんか意味ありげな顔してたけど……ホントに何もなかった?」
言って、レインが俺の顔を覗き込んでくる。距離的にもそれなりに近いため、ドギマギしてしまう。
「あ、ああ、何も。本当にだ」
「んー……まぁ、いっか」
どうやら見逃してくれたようだ。それに対し、内心ではホッとした。いかん。やはりさっきから彼女をより意識し始めているのが分かる。
この、心の内がモヤモヤするような感覚は、一体何なのだろうか。今の俺は、その感情の名を知る由もなかった。
それから1ヶ月程度の時が経った、6月12日。
現在の最前線は33層。中々の速さで着実に踏破が進んでいる。やはり、強力なギルドが2つもいるとかなり頼りになるし、安定感も増す。中でも血盟騎士団団長のヒースクリフの存在感は他と比べても群を抜いている。
そういうわけで、いつも通りに迷宮区の攻略にでも行くつもりなのだが。
「さて、今日はキリトも誘ってみるか」
「予定、空いてるかな?」
「さあ、な。とりあえず、メッセ飛ばすかな」
慣れた手つきでパパッとフレンドメッセージを送る。すると、割と直ぐに返信が来たので、即座に確認する。
『すまん、今はギルドの皆と27層にいるから、無理そうだ』
「……は?」
おい、待て。今、27層って言ったか?
何やらものすごく嫌な予感がする。なので、1つ気になることを問うてみる。
『その層はまだ未踏破の部分が残ってるはずだ。それに罠のランクが1段階上がるんだぞ。ちゃんとその情報をギルメンに伝えたのか?』
少しして、返事が返ってくる。
『いや、それはまだ──』
そこだけ読んだ時点で、俺はウインドウを消し、キーボードを操作していた右手の拳を強く握り締めていた。
「あの馬鹿……!」
普通に考えると、トラップのことを言っていなければ、メンバーたちはその危険度も知らないし、どこにどんな種類の罠があるかも分からない、ということになるのだ。つまり、キリトがあのまま何も伝えていないと、恐らく、トラップに引っかかってしまう。
「レイン、予定変更だ。今から全速力で27層の迷宮区に向かう!」
「え、ええ?ここよりも下の層なのに、何で?」
「決まってるだろ。──アイツを、キリトの阿呆を説教しに行くんだよ」
絶対に、犠牲だけは無くす。その決意を胸に灯して、俺たちは全力ダッシュでダンジョンに向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「言ったろー、オレたちなら楽勝だって」
迷宮区に篭って、約1時間経った。彼らには危険だと思っていたが、予想以上に順調に目標金額までコルを稼いでいった。しかし、長居する訳にもいかないので、今は迷宮区から出るところだ。
(あいつ、返信してないけど、どうしたんだろう?)
確かにマップに表示されてなかった場所もちらほらあったが、罠に関しては1度もかかってないので、あの心配は杞憂というものだろう。
「もう少しで最前線に行けるかもな」
「あったぼーよ。──おっ」
その声に視線を向けると、ダッカーが隠し扉を開いていた。
(隠し扉……、こんなところに?)
いやこの層ならあって可笑しくはないのだが、既に発見されているものが多かったので、寧ろある方が不思議な位なのだ。
「トレジャーボックスだぁ!ひゃっほーい!」
「ま、待て!」
慌てて止めようところするが、間に合わず、宝箱が開いてしまった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「「はっ、はっ、はっ……!」」
転移してから鍛え上げた敏捷力にものを言わせてキリトのいる場所に向かっているが、一向に見つかる気配がない。もう迷宮区の中にいるが、一体何処にいるのか。
と思った矢先、近くから誰かの声が耳に届いた。
「ん……?」
声のした方へ行くと、キリトを含めた数人が扉の中に入っていくのが見えた。
「キリト……!」
更にステータスの限界を越えんばかりに速度を上げ、彼らに肉薄するが。
突如として、アラームの音がけたたましく響いた。
「なっ……!?」
「もしかして、アラームトラップ!?」
アラームトラップ。普通は宝箱か何かの形をとっていて、箱を開けるなど特定のアクションをすると警報が鳴り響き、モンスターが際限なく湧いてくるというトラップの中でも最悪に近いものだ。湧きを止めるには、罠自体を破壊しなければならない。
「くっ、間に……合えぇッ!」
決死の叫びと共に、もっと速く走る。直ぐにドアが閉まらなかったのが幸いし、何とか部屋の中に入ることに成功する。
飛び込むようにして侵入し、転がって受け身を取る。
「はぁ、はぁ、よかった、間にあった……!」
だが、油断してはいられない。同時に、モンスターたちが四方から出現してくる。
「え、エミヤ!?」
いきなりの俺の乱入に驚いたのか、キリトが素っ頓狂な声をあげる。
「話は後だ!早くクリスタルを!」
「それが、ここは
なんと。今までは罠は転移結晶で回避、という方法があったのだが、まさかそれが通用しないとは。やはり、ここからはトラップがより厄介になっていた、ということか。
「なんだって……?じゃあ、彼らを守れ!いいか、絶対に死なせるなよ!それと、お前たちはメイス使いを中心にトレジャーボックスの破壊に専念するんだ」
「り、了解!」
戸惑いながらも俺の指示を受けて箱を壊しにかかるメンバーを尻目にかけた後に視線と意識をモンスターたちに戻す。
「行くぞ、出し惜しみはするなよ!」
「うん!」
「お、おう!」
そして、俺たちは敵へと突貫する。全ては、彼らを守り通すために。
「お、終わった……」
宝箱が破壊されてからは、モンスターの湧きも止まったので一気に押し通すことが出来た。何とか犠牲は出さずに済んだ。
全部終わったことを確認すると、俺はスッ、と立ち上がり、キリトの前に立つ。
「エミヤ、何でお前がここに──」
「馬鹿野郎ッ!!!」
言葉を遮り、怒声と共に胸ぐらを掴む。ああ、そうだ。俺は今、すごく怒っていると思う。
ビクっと体を震わせるキリトに構わず、怒りをぶつける。
「あれほど言っただろ!取り返しのつかないことには発展させるなと!なのに何でお前は忠告を無視して嘘をつき続けた!」
「そ、それは……」
「言い訳無用だ!いいか、お前は我が身可愛さで仲間を……ギルドメンバーを死なせるところだったんだぞ!考えてみろ!自身の立場と、親しい者たちの命。どっちを優先すべきか分かるだろ!」
「……!」
キリトが何かに気づいたようにはっ、と表情を変える。
「お前には、誰かを失って欲しくはなかった。俺と同じ絶望を味わって欲しくなかった。……キリト。自分よりも劣っている者を守ることの快感はわからんでもない。けど、それが嘘をついていい理由にはならない。上辺だけ繕った『偽物』は決してヒーローにはなれないんだよ……!」
「エミヤ……」
彼の胸ぐらから手を外し、はっきりと伝える。
「なぁ、もう真実から目を背けるのはやめろ。ちゃんと本当のことを話すんだ。糾弾されたっていい。そこに救われた命があるなら、それで十分のはずだ」
人との交流に慣れず、そういう行動をとってしまうのは予想していた。だが、SAOに於いてはその選択が他者の命取りになる。だから俺はちゃんと忠告したのだ。でも、あいつはそうまでしても何も言わなかった。そのことに、俺は憤りを感じていた。
「な、なぁ。嘘とか、真実とか、一体どういうことなんだ?話が全然見えないんだけど……」
「そ、そうだよ。それに、この人は一体誰なんだ?」
黄色い外套を纏った、シーフっぽいプレイヤーとメイス使いがおずおずといった感じで尋ねてくる。
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺はエミヤ。キリトの親友だ。それと、詳しい話は黒猫団のホームタウンに戻ってからにしよう。そこで、全部話す。どの層に飛べばいい?」
「えっと……11層、だけど」
俺の問いに、槍使いが答える。
「タフトか、分かった。じゃあ、先ずは部屋から出て結晶を使おうか」
全員が首を縦に振る。それを確認し、いつの間にか開いていた扉を出て結晶で転移した。
眩暈にも似た感覚と青白い光が消え、目の前にタフトの街並みが広がる。訪れるのはこれで2度目だ。今の最前線の主街区程の豪勢さはなくとも、中層プレイヤーたちの拠点になりがちな街だ。ともあれ、リーダーの待つというホームに向かうとする。
「ここか?」
「ああ、そうだよ」
言いながら、メイサーのテツオがドアを開ける。皆が中に入っていくので、俺たちもそれに倣う。
「たっだいま~」
「お邪魔します」
入ると、鍵を持った1人の男がいた。彼がリーダーだろうか。
「おかえり。あれっ、その人たちは?」
「はじめまして。俺の名はエミヤ。キリトの友人だ。こっちはパートナーのレインだ」
「はじめまして」
初対面の相手に礼儀を示すのは当たり前なので、2人一緒に頭を下げる。
「ケイタです。月夜の黒猫団のリーダーをやってます」
「いきなりで悪いが、こいつについて話したいことがある」
そう言い、背後のキリトを指さす。
「キリトのこと、ですか?」
俺の言葉に、怪訝そうに首を傾げるケイタ。急に言われても分からないのは当然のことか。
「ああ。とりあえず、キリト。お前は出ていってくれ。彼らと、話がしたい」
「あ、ああ。分かった……」
いつも以上に元気のない声で応え、そのままキリトが外へ出て行く。
「さて、単刀直入に言おう。キリトは、嘘をついていた」
「えっ、嘘って、どういう……?」
やはり、1番驚いたのはリーダーのケイタだ。その他のメンバーも驚愕の声をあげる。
「具体的には、経歴とレベルを、だな」
「何で……じゃあ、キリトのレベルが僕たちとほぼ同じってのも……」
「ああ、嘘だ。実際のヤツのレベルは48。加えて最前線で活躍するビーターだ」
その発言により一層驚く黒猫団の団員たち。ただ1人、紅一点の槍使いを除けば。
「ビーター……?あいつが……」
「でも、勘違いしないで欲しい。キリトも、決して悪気があってやったわけじゃないんだ。そこは留意してもらいたい。あと、サチって言ったか。君は、本当のことを知っているな?」
サチの体がピクリと動く。反応がある、ということは知っていることになる。
「ど、どうして……」
「さっきの俺の言葉に、君はさほど驚かなかった。だから何か知ってるのかと、な」
「そうなのか?サチ」
もう1人の槍使いのササマルが疑問を投げかける。
「……うん。実はね、前にキリトのウインドウを、見ちゃったことがあって、それで、知ったの。簡単なステータスとか、レベルとか」
やはり、彼女だけが薄々気づいていたようだ。だが、もうそれはどうでもいい。あいつの行いを、許してもらえるようにしなければならない。
「そうだったのか。……じゃあ、キリトは何で僕たちに近づいたんですか?」
ケイタが疑いの表情と共に質問してくる。
「純粋に、あんたたちを助けたかったからさ。あの時、ヤツは武器の素材集めで低層にいた。ただ、それだけのことだ。けど、あいつは恐れた。礼を言うあんたたちの目に、ビーターと嘲る色が浮かぶのが。 ……助けただけではいさようなら、っていう選択肢もなくはなかった。でも、あいつは……あんたたちのギルドのアットホームな雰囲気に惹かれたのかもしれない。利己的なソロプレイヤーの自分には他人の温もりを求める資格なんてない、と思っていたんだろう。けれども、根底ではそういうものをこそ欲していたんだ」
それを聞いたメンバーたちの顔が綻ぶ。キリトに対する懐疑の念が失せたことに、心の内でホッとする。
「じゃあ、キリトは……ただ、僕らの手助けをしたかったから、誘いを受け入れたってこと……ですか?」
「端的に言えば、そうなるな。キリトは、他者の助けになったことなんてなかったから、自身の行いを止めることが出来なかったんだ。あいつには、俺以外に友達と呼べる奴らがいなかった。だから、人に頼られることも、誰かの支えになることもない。顔の知れた仲間に頼られたのは、俺を除けばあんたたちが初めてだった」
キリトは、俺ほど社交的ではなかった。いつも集団から距離を置き、他のクラスメイトたちとはグループ活動などで少し話す程度だった。
つまるところ、彼は所謂陰キャ、と呼ばれる者に近かったのだ。
それ故、人と接することがなかったし、ましてや自分から誰かに接触するなんてことはしない。特にSAOの中ではそれが顕著に現れていた。
俺のように他者の助けになったこともなかった。大抵の場合、見て見ぬふりをするだけであった。あの行為に悦を感じたのは、それがあまり味わったことのない感覚だったからだろう。
「他意なんてなかったんだ。あいつは不器用なだけなんだ。だから……無理にとは言わないけど、キリトを、許してやって欲しい!」
言って、彼らに向かって頭を下げる。それでも、許されるかは分からない。言ってしまえば、悪いのはキリトなのだから。嘘をつき、情報を提供しないまま、メンバーたちに無茶をさせ続けてしまった。傍から見てもその行いは宜しくないと見て取れる。
どうなるかは、全てケイタたち次第だ。
「ちょ、頭を上げて下さい!」
俺の謝罪にケイタが慌てふためく。他の団員も驚いたような声を漏らす。どんな顔をしているのかは知らないが。
「確かに、キリトのしたことはいけないことだけど、彼にも複雑な事情があってのことだって分かったし……キリトを蔑むような真似はしません」
「そ、そうか……。ありがとう、そして本当にすまなかった。あいつに代わって、もう一度謝らせてもらう」
まだ心残りはありそうだが、ひとまず許してもらえたことで、一気に肩の力が抜ける。仲間を失い、拒絶されることは人によっては一生残る心の傷となる。それを回避出来たことはよかったと言えるだろう。
「も、もういいですから……!じゃあ、謝罪の代わりにキリトと話しをさせてくれませんか?」
「ああ。俺もそうさせようとしてたところだ。それじゃあ、縁があればまた会おう」
「は、はいっ」
「あと、敬語は要らないからな。こうして知り合ったわけだし」
そう言い、彼らに目を向けた後、レインと共に建物の外へと出て行った。
外に出ると、近くで待っていたキリトが顔をこちらに向ける。
「終わった、のか?」
「ああ。俺はな。次はお前だ」
それを聞いて、キリトがピクンと体を震わせる。やがて、小さく頷き、ギルドホームの扉の前に立つ。
「……自分のしたことから目を背けるな。ちゃんと彼らの目を見て謝るんだぞ。帰ったら、お前が食いたいモンをなんでも作ってやるから」
「……分かった」
そう言って、中へと入っていった。
これ以上の余計な手出しは無粋というものだ。さっさと帰って、食材の確認をしなくては。足りなければNPCショップで買い足そうか。
「エミヤ君って、何だかお母さんみたいだねー」
「お母さん言うな!」
「あはは、ごめんごめん」
でも実際そう見えるよ、と付け足すレインから顔を逸らす。リアルでもブラウニーの他にオカン衛宮、と呼ばれることも多いので、非常に複雑な気分になる。
「キリト君、大丈夫かなぁ」
と、心配そうに尋ねてきた。彼女も、あいつのことを気にかけているのだろう。
「心配ないさ。あいつなら、上手くやれる。さて、そろそろ戻るか」
「そうだね。もう日も暮れちゃってるし」
とは言っても、多少は気がかりではある。でも、今はキリトを信じて待つしかない。
そうして俺たちは、最前線の主街区に戻っていくのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
中に入ると、ケイタを始めとした黒猫団のメンバーが出迎えた。
その顔に、非難の色はなかった。
「……キリト」
「ケイタ……。謝って済むことじゃないのは分かってる。でも、謝らせて欲しい!ごめん、本当にごめん!」
「もういいよ、キリト!」
「……ケイタ」
顔を上げると、みんなが悲しげな表情を浮かべていた。その後に放たれる言葉が何であれ、俺は受け入れなければならない。それが団員たちを騙したビーターの責務だ。
「事情は全部聞いたよ。君は……エミヤさん以外に縋ることの出来る人がいなかったんだね。それは、辛いことだろうに……。僕たちは、それに気づいてやれなかった。気づかないまま、キリトを拒絶してしまうところだった。けど、分かったんだ。君は、本当に僕らの助けになりたくて、そして仲間というものを求めていたんだってことを。だから、僕が……ううん、月夜の黒猫団が、君のもう1つの居場所になる。そうだろ、みんな!」
「「「「ああ!(うん!)」」」」
予想とは真逆の言葉に、思わず唖然としてしまう。みんなは、俺を許してくれると言うのか。こんな、他者を顧みず、自己を優先するようなビーターを。
「みんな……ありがとう……」
自分の目から、涙が流れるのが分かる。許された、という事実に思いっきり安堵した証拠だ。そのまま、嗚咽を漏らし、蹲ってしまう。涙が止まらない。拭いても拭いても、とめどなく溢れてくる。
「おいおい、泣くなよー」
シーフ役のダッカーが揶揄うように言う。それに続いて、他のメンバーもあはは、と笑う。
「泣かなくていいんだよ、キリト。君は、もう私たちの仲間なんだから」
「サチ……」
サチがしゃがみ込んで俺の顔を覗きながら言う。その微笑みに、自分という存在が救われたのだと感じた。
「……やっぱり、俺は
「キリト……辞めちゃうの?」
「……ごめん」
やはり、俺はここにいてはいけない。それだけは許せないのだ。彼らに甘んじてはいけないと、他ならぬ俺自身がそう思っていた。そんな資格など、とうに無くなっていた。
立ち上がり、ドアノブに手を掛ける。
「……そっか。でも、キリトは僕らの友達だ。会いたくなったら、いつでも来てくれないか」
「ああ、そうさせてもらうよ」
名残惜しいが、ウインドウを開いてギルドのページを表示。そして脱退のボタンを押し、少し躊躇うがYesを選択する。同時に、リーダーであるケイタの前に、メンバーの脱退を示すウインドウが出現する。
「……じゃあな」
「うん、また会おう!」
手を振るみんなに軽く反応を返して、ホームを出る。
この出来事は、これから先、ずっと俺の戒めとなるだろう。それが道理だ。
もう同じことは繰り返さない。取り返しのつかないことは起こさない。これは課題や目標といった生温いものではない。これは、愚かで無様な自分に向けた、
──精一杯の誓いだ。
タイガー「あ、またDEBANだヤッター!さっすが士郎、いいことするわね~。お姉ちゃんは嬉しいっ。かくしてキリト君は無事救われたのであったー!イエーイパチパチパチー!おや、アソコに絶世の超絶イケメンが……って、尺がない?なら手短に済ませるとしましょうか!次回『双剣、来たる』。それじゃあみんなバイバーイ!Don't miss it!」
士郎が介入することによって、原作との違いが出てきます。それと、ゲームオリジナルキャラのレインが出ますが、この小説では1部例外がありますが、一応原作沿いで行きたいと思います。今更ですが、伝えておきます。
まだまだ先の話ですが、オーディナル・スケール編では生き生きとした士郎の姿を書きたいですね。